河川敷でノックを受けてたショートヘアの少年がまさかの女子で、雨宿りの部室で俺の理性が終わった話

大学2年の夏の話です。

俺は都内の私大に通ってて、サークルは草野球。ガチ勢ってほどでもないけど、毎週日曜に多摩川の河川敷で練習してた。メンバーは10人ちょいで、半分ぐらいが幽霊部員だから、いつも人数ギリギリ。

で、その日は区の草野球大会が2週間後に迫ってて、さすがにちゃんと練習しようってことになったんだけど、集まったのが6人。

(少なすぎだろ……)

キャプテンの田中が「助っ人連れてくるから待ってて」ってLINEしてきたのが朝の9時半。

しばらくしたら、田中が一人連れてきた。

背は165くらい。短髪で、ちょっと色素薄い茶髪。日焼けした肌に、ナイキのドライフィットをだるっと着てて、アンダーアーマーのスラパンを履いてる。顔は――なんていうか、永瀬廉の中学時代みたいな。整ってるけどまだ幼さが残ってる感じ。

(イケメンだな……弟とか?)

田中が紹介してきた。

「こいつ、高校の後輩。野球うまいから」

「っす。よろしくお願いします」

声が高い。まあ、若いし、そういう男子もいるよなって思った。

名前は「ひなた」。田中が「ひなた」って呼んでたから、男の名前だと思った。漢字は聞かなかった。ここが全部の始まり。

で、練習始めたらこいつがまあ上手い。ショートの守備がやたらきれいで、送球も正確。バッティングもセンター返しが基本で、変に力まない。

「お前、高校どこ?」

「横浜の翠嵐です」

「翠嵐って……めちゃくちゃ頭いいとこじゃん。野球部あんの?」

「軟式ですけど、ありますよ。県大会ベスト8までいきました」

「マジか、すげえな」

休憩中にポカリ渡したら、「ありがとうございます」ってぺこっと頭下げてきた。礼儀正しいし、なんか……かわいいなって思った。いや、男に対してかわいいって変なんだけど、しょうがない。そういう顔してるんだもん。

午前中の練習が終わって、みんなで二子玉川のマックに行った。ひなたはてりやきマックバーガーのセットを頼んで、ポテトをちまちま食べてた。

「ひなた、もっと食えよ。細いな」

「いや、朝ごはん食べすぎちゃって……」

「何食ったの」

「フレンチトースト3枚……」

「朝からフレンチトースト3枚って、女子力高いな」

「……っ」

一瞬、ひなたの箸が……いや、ポテトを持つ手が止まった。でも俺は気づかなかった。

(今思えば、このへんで気づけよって話なんだけど)

その日から、ひなたは毎週練習に来るようになった。田中に聞いたら「うちのサークル入りたいって言ってる」って。大歓迎だった。人数足りないし、うまいし。

3週目ぐらいから、練習後に俺とひなたで自主練するようになった。俺がノック打って、ひなたが捕る。逆もやる。

「先輩、もうちょい三遊間寄りに打ってもらっていいすか」

「おっけ。……ナイスキャッチ」

「えへ」

「えへ」って。男が「えへ」って言うか普通。でも俺はスルーした。鈍感にもほどがある。

7月の最終日曜、練習中にいきなり空が暗くなって、ゲリラ豪雨が来た。河川敷だから逃げ場がない。全員ダッシュで近くの高校のグラウンド脇にある倉庫みたいなところに逃げ込んだ。

……んだけど、俺とひなただけ逆方向に走ってしまって、二人でたどり着いたのが、河川敷沿いの古い少年野球チームの部室。鍵がかかってなかったからそこに入った。

4畳半ぐらいの狭い部室。パイプ椅子と折りたたみテーブルと、壁に貼られた少年野球の写真。窓の外は滝みたいな雨。

二人ともびしょ濡れだった。

「やっべ、ずぶ濡れ……タオルとかないかな」

棚を漁ったら、使い古しのタオルが2枚出てきた。

「ほら」

振り返ってタオルを渡そうとして、固まった。

ひなたが濡れたシャツを絞ってて、布が体に張り付いてた。

胸が、ある。

いや、明らかにある。Bカップ……いや、Cはあるかもしれない。スポーツブラ越しにはっきり膨らみが見えてた。

「…………え?」

「……あ」

ひなたが俺の視線に気づいて、慌ててシャツを体に押し当てた。

「あの……見ました?」

「……見た」

「…………」

沈黙。雨の音だけがやたらでかい。

「ひなた……お前、女?」

「……はい」

「はい、じゃねえよ!なんで言わなかったの!?」

「だって……言ったら、一緒に野球できないかもって思って……」

「いや、できるだろ普通に」

「でも、前のチームでは女だってわかった途端に『怪我されたら困る』って外されたんです。中学のときも。だから……」

ひなたの声が震えてた。泣きそうっていうか、もう目が赤かった。

(あー……そういうことか)

なんか、怒る気が完全に失せた。

「……名前、漢字でなんて書くの」

「陽、向日葵の葵で……陽葵です」

「ひなた……ひまりじゃなくて?」

「ひなたです。お父さんが男の名前みたいでかっこいいだろって……」

(お父さんのネーミングセンスが全ての元凶じゃん……)

ちょっと笑ってしまった。ひなたも釣られて笑った。

「他のメンバーには俺から言っとくよ。つーか田中は知ってんの?」

「田中先輩は知ってます……黙っててくれって頼んだんです」

「あいつ……」

田中、お前いい奴なのか悪い奴なのかわかんねえよ。

雨が全然やまなかった。スマホの天気予報見たら、あと1時間は降り続けるらしい。

エアコンなんてない部室で、びしょ濡れのまま二人きり。

「先輩……寒くないですか」

正直、寒かった。7月とはいえ、濡れた体に風が当たると冷える。ひなたも唇がちょっと紫っぽくなってた。

「お前のほうが寒そうだろ」

タオルをひなたの頭にかけて、がしがし拭いてやった。

「わ……っ」

「髪短いからすぐ乾くだろ」

「……ありがとうございます」

拭き終わって、タオルを取ったら、ひなたがすごい顔で俺を見てた。

なんていうか、橋本環奈が泣いた後みたいな……潤んだ目で、頬が赤くて、唇が半開きで。

(待って。こいつ、こんな顔だったっけ)

男だと思って見てたときは「かわいい系のイケメン」だった。でも女だと知った瞬間、全部のパーツの意味が変わった。細い首も、小さい手も、睫毛の長さも。

(やばい。やばいやばいやばい)

心臓がうるさかった。

「先輩……私のこと、気持ち悪いって思いました?」

「は?なんで」

「男のフリしてたから……騙してたみたいで……」

「思うわけないだろ」

思わず強く言ってしまった。ひなたがびくっとした。

「……ごめん。でも本当に思ってない。お前が野球うまいのは男でも女でも変わんないし」

「…………」

ひなたが俺のシャツの裾をきゅっと掴んだ。

「先輩は……ほんとにそういう人ですよね」

「どういう人だよ」

「ノックのとき、私が捕れなくても怒らないし、捕れたら『ナイス』って言ってくれるし……他のチームは女だって気づいたら急によそよそしくなったのに」

「それ普通だろ」

「普通じゃないですよ……」

ひなたがぽろっと泣いた。声は出さなかった。ただ涙がぽたぽた落ちた。

(泣くなよ……俺、泣いてる女の子にどうしていいかわかんないんだって)

とりあえず肩に手を置いた。そしたらひなたが俺の胸にぽすっと顔を埋めてきた。

濡れたシャツ越しに、ひなたの体温が伝わってくる。さっきまで寒かったのに、急に暑くなった。

「……ひなた」

「……なんですか」

「お前さ、俺のこと……」

言いかけてやめた。自意識過剰すぎる。泣いてる子に何聞いてんだよ。

でもひなたが顔を上げて、まっすぐ俺を見た。

「好きです」

「……え」

「先輩のこと、好きです。最初の練習のとき、ポカリくれたときから」

「ポカリて……安い男だな俺」

「ちがっ……ポカリじゃなくて、渡すときに『お疲れ、うまかったぞ』って言ってくれたのが……」

「……」

覚えてなかった。たぶん本当に何気なく言っただけだと思う。でもひなたにとっては違ったらしい。

(俺、こいつのこと好きなのか?)

わからなかった。ただ、目の前でこの顔されて、「好き」って言われて、何も感じないわけがなかった。

「……俺、まだよくわかんない。でも」

「でも?」

「お前が女だって知って、正直めちゃくちゃドキドキしてる」

「……っ」

ひなたの耳が真っ赤になった。ショートヘアだから耳が丸見えで、ごまかしようがない。

「かわいいな、お前」

「っ……それ、ずるいですよ……」

ひなたが俺の首に腕を回してきた。つま先立ちで。身長差があるから。

で、キスした。

最初はほんとに唇が触れただけ。でも離れられなくて、もう一回。今度はちゃんと。ひなたの唇は冷たかったけど、すぐあったかくなった。

「ん……」

雨の音と、二人の呼吸だけ。

舌が触れたとき、ひなたがびくって震えた。

「大丈夫か?」

「……初めてで……キス」

「え、マジ?」

「男のフリしてたら恋愛とか無理に決まってるじゃないですか……」

それはそうだ。

(俺がこの子の初めてのキスなのか)

その事実が、なんかすごく重くて、同時にすごく嬉しかった。

もう一回キスした。今度は俺から。ひなたの後頭部に手を添えて、深く。

「んっ……ん……」

ひなたが俺のシャツをぎゅっと握ってきた。濡れた布がきしむ音がした。

「……寒いだろ。シャツ、脱いだほうがいいんじゃないか」

我ながら最低な言い訳だと思った。でも本当に寒かったのも事実で。

「……先輩も脱いでください。じゃないと不公平です」

俺が先にシャツを脱いだ。ひなたが俺の腹筋をじっと見て、ぱっと目を逸らした。

「……筋トレしてるんですか」

「まあ、ちょっと」

「……かっこいい」

ぼそっと言われた。照れた。

ひなたがシャツを脱いだ。スポーツブラ一枚になった。日焼けの境目がくっきりあって、腕と首から上は小麦色で、それ以外は白かった。

(やっば……)

思ってたより体のラインが女の子だった。ウエストが細くて、でも腰骨のあたりはちゃんと丸みがあって。

「……触っていい?」

「……はい」

ひなたのウエストに手を置いた。冷たい肌がぴくっと跳ねた。

「ひゃっ……手、あったかい……」

「お前が冷たすぎるんだよ」

引き寄せて、抱きしめた。肌と肌がくっつくと、さっきまでの寒さが嘘みたいだった。

ひなたの心臓がどくどく鳴ってるのが、胸越しに伝わってきた。俺のも同じくらいうるさかったと思う。

「先輩……怖い……」

「怖い?」

「怖いっていうか……嬉しすぎて……夢みたい……」

「夢じゃないよ」

スポーツブラの上から胸に触れた。Cカップくらい。スポブラで潰してたから気づかなかっただけで、ちゃんとある。

「あ……っ」

「……脱がしていい?」

「…………うん」

スポーツブラを脱がした。ひなたが腕で隠そうとしたけど、そっと手をどけた。

形のいい胸だった。日焼けしてない白い肌に、薄いピンク。スポーツやってるから体は引き締まってるのに、ここだけ柔らかい。

「めっちゃきれいじゃん……」

「やめてください恥ずかしい……」

ひなたが顔を真っ赤にして俯いた。さっきまでグラウンドでバシバシ打球捌いてた子と同一人物とは思えない。

胸に触れると、ひなたが小さく声を漏らした。

「あ……ん……」

乳首を親指で転がすと、ひなたの体がびくっと跳ねた。

「そこっ……だめ……敏感で……」

「いいじゃん、感じてるんだろ」

「……っ」

口で吸ったら、ひなたが俺の頭をぎゅっと抱えてきた。

「あっ……んんっ……先輩……っ」

反応がいちいちまっすぐで、こっちがおかしくなりそうだった。

ひなたのスラパンのウエストに指をかけた。ひなたが俺の手首を掴んだ。

「……待って」

「……ごめん、嫌だった?」

「嫌じゃない……けど……私、ほんとに何もわかんないんです。経験ないし……どうしたらいいか……」

「俺もそんな経験豊富じゃないよ」

「嘘……先輩モテるじゃないですか」

「モテない。全然モテない。高校のとき1人と付き合っただけ」

「……じゃあ、先輩にとって私は2人目ですか」

「まあ、そうなるな」

「……なら、いいです。脱がしてください」

ひなたが目を閉じて、俺に身を委ねた。

スラパンを下ろすと、黒い短めのボクサーパンツ。下着まで男っぽいのが逆に可愛かった。

「パンツも男物なの?」

「だって……野球のとき、着替えが……見られても大丈夫なように……」

「徹底してんな……」

ボクサーパンツを脱がした。ひなたが両手で顔を覆った。

指で触れると、ひなたがぎゅっと太ももを閉じた。でも拒絶じゃなかった。ただ恥ずかしかっただけだ。

「力抜いて」

「……無理です……」

「じゃあ、このまま触るぞ」

太ももの間に手を入れて、ゆっくり触った。……濡れてた。雨のせいじゃない。

「あ……っ」

「すごい濡れてんじゃん」

「言わないでっ……」

クリを指の腹で撫でると、ひなたの体がびくびくっと震えた。

「んあっ……だめっ……変になる……」

「変になっていいよ」

「先輩のばかっ……あっ……んんっ……」

ひなたが俺の肩に爪を立てた。痛いけど、やめる気にならなかった。

指を入れた。きつかった。ひなたが声を殺して、唇を噛んだ。

「痛い?」

「……ちょっと……でも、やめないで……」

ゆっくり動かした。ひなたの力が徐々に抜けてきて、声が漏れ始めた。

「あ……あぁ……先輩……なんか、お腹の奥がきゅってなる……」

「気持ちいい?」

「わかんない……でも止まらないで……あっ」

ひなたが急に俺の腕をぎゅっと掴んで、体をびくっと反らした。

「あっ……だめっ……なんか……来るっ……んんっ!」

太ももをぶるぶる震わせて、イった。ひなたの目から涙がぽろっとこぼれた。

「……泣いてんの?」

「泣いてない……っ……なんかよくわかんないけど涙出た……」

初めてイったんだと思う。ひなたが放心した顔で、俺の胸にもたれかかってきた。

(俺……もう限界なんだけど)

ズボンの中がとっくに大変なことになってた。

ひなたが俺のズボンの膨らみに気づいたのか、ちらっと下を見た。

「……先輩も……してほしいですか」

「いや、無理すんな」

「無理じゃないです。……見たい」

ひなたが俺のズボンを下ろした。出てきたものを見て、ひなたが固まった。

「……おっきい……」

「普通だよ」

「普通がわかんないんですけど……」

おそるおそる握ってきた。力加減がわかんないのか、ぎゅっとしたり緩めたり。

「……こう?」

「もうちょい……ゆっくりでいい」

「こうですか……」

ぎこちない手つきだったけど、ひなたの手が小さくて柔らかくて、それだけで充分だった。

「うっ……やば……」

「え、もうですか?早くないですか」

「うるせえ……お前が可愛すぎるのが悪い」

「……っ」

ひなたが嬉しそうな顔して、ちょっとペースを上げた。

「あ……っ、出る……」

ひなたの手の中に出した。ひなたが自分の手を見て、不思議そうな顔してた。

「……あったかい」

「……タオルで拭けよ」

「……先輩」

「ん?」

「……入れてほしい」

「……は?」

「だから……先輩のが、中に……ほしい……」

ひなたが真っ赤な顔で、でもまっすぐ俺を見て言った。

「いや、ゴムないし……」

「……今日、安全な日です」

「それ一番信用しちゃいけないやつだろ」

「アプリで管理してます。ちゃんと」

スマホを見せてきた。律儀に生理周期を記録してあった。

(この子、男のフリしてるのに生理周期アプリ入れてんのか……)

なんかそのギャップが妙にリアルで、作り話じゃない感じがした。いや、作り話じゃないんだけど。

「……ほんとにいいのか」

「先輩がいいなら……」

ひなたがパイプ椅子に腰掛けて、脚を開いた。ボーイッシュな見た目からは想像できないぐらい、そこはちゃんと女の子だった。

先をあてがって、ゆっくり入れた。ひなたが歯を食いしばった。

「っ……痛……っ」

「やめる?」

「やめないで……もうちょい……」

少しずつ。ひなたが俺の両腕を掴んで、目をぎゅっと閉じてた。途中で少し血が出た。

「……入った?」

「うん……全部入ったよ」

「……よかった」

ひなたが笑った。涙目で笑った。なんかその顔見たら、俺まで泣きそうになった。

「動いていい?」

「……ゆっくり……お願いします」

ゆっくり動いた。ひなたの中は熱くて、きつくて、俺の頭がどんどんおかしくなっていった。

「あ……ん……っ」

痛みが引いてきたのか、ひなたの声が変わった。さっきまでの「痛い」じゃなくて、もっと甘い音。

「気持ちいい……?」

「……うん……なんか……すごい……」

ひなたが俺の首に腕を回してきた。額と額がくっつくくらいの距離。

「先輩……好き……」

「……俺も」

言ってしまった。嘘じゃなかった。この瞬間に確信した。好きだ。

「ほんと……?」

「ほんと」

「嬉しい……もっと動いて……」

ペースを上げた。パイプ椅子がギシギシ鳴って、壊れそうだった。でも気にしてる余裕がなかった。

「あっ……あぁっ……先輩……奥……当たって……」

「やば……締めんな……っ」

「無理……勝手になるの……あっ……」

ひなたが俺の背中に爪を立てた。確実に傷になってると思った。

「もう限界……出る……」

「うん……出して……中に……」

「ほんとにいいのか……っ」

「いいから……先輩のがほしい……」

ひなたの脚が俺の腰に回った。逃げられない体勢。

「あっ……出る……っ!」

奥に押し当てて、出した。頭が真っ白になった。

「あぁっ……んんっ……あつい……」

ひなたが俺にしがみついて、全身を震わせてた。

しばらく繋がったまま動けなかった。ひなたの息が荒くて、俺も同じで、お互いの心臓の音が混ざってた。

「……先輩」

「ん」

「私……ずっと男のフリしてて、女の子らしいこと何もしてこなかったから……こういうの……全然わかんなくて」

「……うん」

「でも……先輩とこうしてると、女の子でよかったって……初めて思いました」

その一言で、この日のこと全部が報われた気がした。

ゆっくり抜いた。ひなたの太ももを液体が伝った。タオルで拭いてやったら、「自分でやります」って奪い取られた。さっきまであんな顔してたのに、急に照れるのが面白かった。

窓の外を見たら、雨がやんでた。いつの間にか。空がオレンジ色になってて、夕方だった。

「……雨やんでる」

「……ほんとだ」

二人で濡れたシャツを着た。ひなたがまたスポブラで胸を潰して、ドライフィットを着た。見た目が完全に「少年」に戻った。

「……もうその格好、俺の前ではしなくていいぞ」

「……じゃあ、次のデートのときは……女の子の服、着てきます」

「デートって言ったな。今」

「言いました。なにか?」

ひなたがにやっと笑った。グラウンドでファインプレーした後の、あの得意げな顔。でも頬は赤かった。

帰り道、二子玉川の駅まで並んで歩いた。いつもの自主練の帰りと同じ道。でも全然違った。ひなたの小指が俺の小指に触れてきて、自然に手を繋いだ。

改札の前で、ひなたが言った。

「先輩。来週の日曜も練習ありますよね」

「あるよ」

「私、女だってバレても……レギュラー外さないでくださいね」

「お前より上手いやついないだろ、うちのチームに」

「……えへ」

また「えへ」って言った。今度はちゃんとかわいいって思った。男のフリとかじゃなく、ただのひなたとして。

翌週の日曜、練習に来たひなたは相変わらずショートヘアにドライフィットで、見た目は何も変わってなかった。でも俺には全部違って見えた。

田中が俺にこっそり聞いてきた。

「お前ら……なんかあった?」

「なんもないよ」

「嘘つけ、ひなたがお前のことチラチラ見てんだけど」

「知らね」

ひなたがショートに飛んできたゴロを華麗に捌いて、一塁に矢のような送球をした。

「ナイスプレー!」って俺が言ったら、振り返ってにかっと笑った。

あの笑顔に、もう一回やられた。

今、ひなたは俺の彼女です。デートのときはちゃんとワンピースとか着てきます。最初に私服で待ち合わせたとき、正直誰かわからなくて3回すれ違った。本人にそれ言ったらめちゃくちゃ怒られた。

でも俺は、グラウンドでスラパン履いてノック受けてるひなたが一番好きだったりする。それを言ったら「変態ですか」って返された。変態でいいよ、もう。


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