三十路手前で地方支店に飛ばされた俺の教育係が、年下のシングルマザーだった件について

これは俺が29歳のときの話。

勤めてた都内の広告代理店で、まあちょっとしたやらかしをしまして。クライアントとの打ち合わせで上司の顔に泥を塗るようなことをしてしまった、とだけ言っておきます。詳しくは勘弁してください。

結果、仙台支店への異動。要するに左遷です。

4月の頭、仙台駅の西口に降り立ったとき、風がめちゃくちゃ冷たかったのを覚えてる。東京じゃもう桜が散りかけてたのに、こっちはまだコート着てる人がいて。(あ、俺ここでやり直すのか…)って、妙にリアルに感じた瞬間だった。

仙台支店は本社の十分の一くらいの規模で、社員は15人ぐらい。俺は東京で6年やってたけど、支店では完全に新人扱い。名刺の肩書きも「主任」から「担当」に降格してた。

初日、支店長の高橋さん(50代、髪が薄い、声だけはでかい)に紹介されたとき、こう言われた。

「東京からわざわざ来てくれたんだから、しっかり教育係つけるからな!」

で、その教育係として現れたのが――。

「はじめまして、営業二課の宮城です。よろしくお願いします」

宮城さん。26歳。身長は160cmぐらいで、髪は肩につくぐらいのボブ。顔は――これマジで思ったんだけど、今田美桜にちょっと似てた。目がくりっとしてて、笑うと頬にえくぼができるタイプ。Cカップぐらいかな、スーツの上からでもわかる感じの。

(え、この子が俺の教育係?年下だよな?)

正直、複雑だった。6年やってきたプライドもあるし、でも左遷された身で偉そうなこと言える立場でもないし。

「よろしくお願いします。東京では営業やってたんですけど、こっちのやり方はまだわからないので、色々教えてください」

「はい!こちらこそ。東京のやり方も教えてもらえたら嬉しいです」

笑顔が眩しかった。いや、これは下心とかじゃなくて、純粋に。左遷されて腐ってた俺には、あの笑顔はちょっと刺さった。

最初の一週間は、宮城さんについて回って取引先への挨拶回り。仙台の営業は東京と全然違って、とにかく距離が近い。取引先の社長と世間話を30分して、本題5分、みたいな。

「仙台の営業って、まず人間関係なんですよね。提案書の出来より、"あの人に頼みたい"って思ってもらえるかどうかで」

「東京だと真逆だな…数字と企画書が全てみたいなとこあったから」

「だから最初は焦らなくて大丈夫ですよ。私も入社したとき全然ダメだったんで」

(年下にフォローされてる俺…情けなさすぎる…)

でも宮城さんの言う通りだった。東京のノリでガツガツいくと、こっちでは逆に引かれる。俺は最初の1ヶ月、成果ゼロ。同期入社の村田(同い年、仙台出身、地元の大学からそのまま入社したやつ)は、すでに地元のコネで案件をバンバン取ってた。

ある日の昼休み、村田に廊下で言われた。

「大久保さん、東京から来たのに苦戦してんすね。まあ仙台は仙台のやり方があるんで」

悪気はなかったんだろうけど、グサッときた。

その日の夕方、宮城さんが俺のデスクにお茶を置いてくれた。

「大久保さん、今日ちょっと元気なかったですよね」

「…わかる?」

「顔に出るタイプですよね、大久保さんって」

「よく言われる…」

「あの、もしよかったら今度一緒に飲みに行きません?仙台の美味しいお店、案内しますよ」

断る理由がなかった。

金曜の夜、国分町の牛タン屋「利久」の奥の席で、宮城さんと差し向かいで飲んだ。

ビールを2杯ぐらい飲んだあたりで、宮城さんが少し打ち解けた感じになってきた。

「大久保さんって、なんで仙台に来たんですか?自分から希望したとか?」

「…いや、正直に言うと左遷。やらかしたんだよね、東京で」

「え、そうなんですか」

「だからまあ、ここでやり直すしかないっていうか」

「…私も似たようなもんですよ」

「え?」

「私も、やり直すためにここにいるんで」

それ以上は聞けなかった。宮城さんの目が、一瞬だけ暗くなったから。

5月に入って、でかい案件の社内コンペがあった。仙台の地場企業のリブランディング。支店長が「これ取れたら支店の評価が上がる」って力入れてた。

俺と村田がそれぞれ企画を出すことになった。

俺は東京時代のノウハウを活かして、かなり気合い入れた提案書を作った。宮城さんも手伝ってくれて、夜遅くまで一緒にデータ整理した日もあった。

結果、選ばれたのは村田の企画だった。

理由は「クライアントとの関係性を重視した」から。つまり、村田のほうがクライアントの社長と仲がよかった。企画の中身じゃない。

(先を越された、か…)

悔しかった。でもそれ以上に、宮城さんに申し訳なかった。あれだけ手伝ってくれたのに。

「宮城さん、ごめん。せっかく手伝ってくれたのに」

「何言ってるんですか。大久保さんの企画、私はすごくいいと思いましたよ」

「でも結果は…」

「結果がすべてじゃないですよ。…って、営業の人に言うセリフじゃないですけど」

少し笑ってくれた。その笑顔に、また救われた。

6月のある土曜日。休日出勤で事務処理してたら、宮城さんも出社してきた。

「お、奇遇だね」

「溜まってた書類片付けようと思って…あ、大久保さん、お昼まだですか?」

「まだ」

「じゃあ一緒に食べません?近くにいいパン屋さんがあるんですよ」

支店から歩いて5分ぐらいの「パン工房ささき」っていう小さなパン屋で、二人でサンドイッチとコーヒーを買って、近くの勾当台公園のベンチで食べた。

6月の仙台は気持ちよくて、ケヤキ並木の木漏れ日がいい感じだった。

「大久保さん、最近だいぶ仙台に慣れましたよね」

「そうかな。まだ全然だめだけど」

「いや、変わりましたよ。最初はずっとピリピリしてたけど、最近は取引先の人とも自然に話せるようになってるし」

「それは宮城さんのおかげだよ。マジで」

「…えへへ」

えくぼが出た。(やばい、かわいい…)

「宮城さんはさ、なんでこの会社入ったの?」

「うーん…実は私、大学中退なんですよ」

「え、そうなの?」

「ちょっと…事情があって。20歳のときに」

少し間があった。宮城さんがサンドイッチの袋をくしゃくしゃにしながら、小さい声で言った。

「私、子どもがいるんです。5歳の男の子」

…は?

「…え」

「驚きますよね。会社の人にはほとんど言ってないんですけど」

頭が真っ白になった。いや、別にシングルマザーが悪いとかそういうことじゃない。ただ、純粋に驚いた。あと、自分がここ2ヶ月ぐらいで宮城さんのことをかなり意識し始めてたことに、このとき初めて気づいた。

(俺、この子のこと好きになりかけてたのか…)

遅い。遅すぎる自覚だった。

「引きました?」

「いや、全然。ただびっくりしただけ」

「よかった…。大久保さんには隠したくなかったんで」

「隠したくなかった」。その言葉の意味を考えて、心臓がどくんと鳴った。

「元カレとは大学のとき別れて、実家の母に手伝ってもらいながらやってきて。だから"やり直すためにここにいる"って言ったのは、そういうことです」

「…そっか。すごいな、宮城さん」

「全然すごくないですよ。毎日必死なだけです」

その横顔が、今田美桜じゃなくて、ちゃんと「宮城さん」に見えた瞬間だった。

それから、俺と宮城さんの距離は少しずつ変わっていった。

ふたりで昼飯を食べることが増えた。仕事の相談だけじゃなくて、子どもの話もしてくれるようになった。息子のユウくんは電車が好きで、仙台市地下鉄の東西線の駅名を全部言えるらしい。

「この前ね、荒井駅から八木山動物公園駅まで全部言ったあと、"ママはどこの駅が好き?"って聞いてきたんですよ」

「かわいいな。で、なんて答えたの?」

「"ママは青葉通一番町が好き"って。パン屋さんがあるから」

「あの店な(笑)」

こういう何気ない会話が、たまらなく好きだった。でも、一歩踏み込む勇気がなかった。子どもがいるってことは、俺が関わるってことは、そういう責任も含めてってことだから。

7月に入って、支店の飲み会があった。仙台七夕まつりの前夜祭みたいなノリで、国分町の居酒屋で全員参加。

2次会でカラオケに流れたとき、村田が酔った勢いで宮城さんに絡んでた。

「宮城さんってさー、彼氏いないの?俺けっこう前から気になってたんだけど」

(おい村田、それマジで言ってんのか)

宮城さんは困った顔で笑ってた。俺は見てることしかできなかった。

「村田さん、酔ってますよ~(笑)」

「いやいやマジマジ。今度ごはん行こうよ、ふたりで」

宮城さんがちらっと俺の方を見た。一瞬だったけど、確かに目が合った。

(…あ、これ、俺に助けを求めてる?)

でも、俺に何ができる?教育係と教育される側。しかも俺は左遷組。村田は仙台のエースだ。立場が違いすぎる。

結局その場は、支店長が「村田ー!次俺とデュエットだ!」って割って入って収まった。高橋支店長、空気読めるじゃん…。

帰り道、仙台駅の方に向かって歩いてたら、後ろから宮城さんが走ってきた。

「大久保さん!」

「お、宮城さん。方向一緒だっけ?」

「違うんですけど…ちょっとだけ、一緒に歩いてもいいですか」

青葉通りのケヤキ並木の下を、並んで歩いた。七夕飾りの準備が始まってて、アーケードの骨組みが街灯に照らされてた。

「さっきの村田さんの話…」

「ああ、うん」

「私、ああいうの困るんですよね。断ると空気悪くなるし、でもOKする気もないし」

「だよな…」

「大久保さんは…」

「ん?」

「…ううん、なんでもない」

(いや、何か言いかけただろ…)

でも聞けなかった。聞いたら、もう戻れない気がして。

それから数日後。金曜の夜、退勤して支店のビルを出たら、入口のところに宮城さんが立ってた。隣に、小さい男の子。

「あ、大久保さん。今日、母が急に用事できちゃって、お迎え行ってきたんです」

「おー、これがユウくん?」

男の子はちょっと恥ずかしそうに宮城さんの後ろに隠れた。

「ほら、ユウ。ママの会社の大久保さんだよ」

「…こんにちは」

小さい声で挨拶されて、なんか胸がぎゅっとなった。

「こんにちは。電車好きなんだって?」

「うん!はやぶさがいちばんすき!」

急にテンション上がるやん。

「俺もはやぶさ好きだよ。E5系のグリーンがかっこいいよな」

「おじさんもしってるの!?」

おじさん呼びは地味にくるものがあったけど、ユウくんの目がキラキラしてて、そんなの吹っ飛んだ。

宮城さんが横で、なんとも言えない表情で俺たちを見てた。

「…ユウがこんなにすぐ懐くの、珍しいんですよ」

「そうなの?」

「男の人、基本苦手なんです。この子」

その言葉が、なんだかすごく重く響いた。

翌週の水曜、残業で二人きりになった夜。

資料を印刷しに行った宮城さんが、戻ってきたとき目が赤かった。

「宮城さん?どうした?」

「あ、すみません。なんでもないです」

「嘘。泣いてたでしょ」

「…母から電話があって。ユウが保育園で"パパはいつくるの"って言ったらしくて」

「…」

「周りの子はお父さんが迎えに来るのに、うちはいつもおばあちゃんで。ユウなりに気づいてるんですよね」

涙を拭きながら笑おうとしてる宮城さんを見て、俺は自分でも驚くぐらい自然に、言葉が出てた。

「宮城さん。俺でよければ、ユウくんと遊びに行ってもいい?」

「え…」

「いや、変な意味じゃなくて。電車好きなんだったら、仙台駅の新幹線ホームとか一緒に見に行けるし」

自分で言っておいてなんだけど、心臓バクバクだった。これ、完全に踏み込んでるよな。

「…大久保さんって、ほんとにずるいですよね」

「え?」

「そうやって優しくされたら…好きになっちゃうじゃないですか」

(…え、今なんて?)

「あ、いや、今のなし!忘れてください!」

顔を真っ赤にして両手で顔を覆ってる宮城さん。えくぼ見えてるけど。

「忘れない」

「…え?」

「忘れないよ。俺も…宮城さんのこと好きだから」

言っちゃった。

蛍光灯がジーって鳴ってるオフィスで、二人で突っ立ったまま見つめ合ってた。ドラマみたいな展開だけど、現実はもっと地味で、コピー機がガーガー言ってるし、向かいのビルの明かりが窓に反射してるし。

でもそのぜんぶが、やけにクリアに見えた。

「でも…私、子どもいますよ?」

「知ってる」

「めんどくさいですよ?デートとか自由にできないし」

「三人で出かければいいじゃん」

「…ほんとにずるい…」

宮城さんが泣きながら笑った。俺は黙ってそばにいた。

その週末、約束通りユウくんと三人で仙台駅に新幹線を見に行った。ユウくんはE5系はやぶさが来るたびに大興奮で、俺の手を引っ張って走り回った。

帰り道、宮城さんの家の近くまで送った。ユウくんは俺の肩の上で寝てた。

「重くないですか?」

「全然。軽いよ」

「…ありがとうございます。こんなに楽しそうなユウ、久しぶりに見ました」

玄関先でユウくんをそっと降ろして、宮城さんに渡した。

「大久保さん」

「ん?」

「今度…ユウが母のところにお泊まりする日があるんですけど…」

「…うん」

「ごはん、食べに来ませんか。私、料理するんで」

翌週の土曜日。ユウくんがおばあちゃん家にお泊まりする日。

宮城さんの部屋は、北仙台駅から歩いて8分ぐらいの1LDKのマンションだった。玄関にユウくんの小さい靴が並んでて、リビングには新幹線のおもちゃが転がってた。

宮城さんは白いカットソーにデニムっていうラフな格好で、会社で見るのとは全然違う雰囲気だった。

「あ、いらっしゃい。どうぞ上がってください」

「お邪魔します。…いい匂いするね」

「牛タンシチュー作ってるんです。仙台っぽいでしょ?」

キッチンで並んで料理を仕上げた。俺はサラダを切るぐらいしかできなかったけど、宮城さんは「それでじゅうぶんですよ」と笑ってくれた。

テーブルに料理を並べて、ビールで乾杯。

「あ、そういえば村田さん、この前私に告白してきたんですよ」

「え、マジで?」

先を越された、と一瞬思った。けど――。

「断りました。"好きな人がいるので"って」

「…」

宮城さんがビールのグラスの向こうから、上目遣いで俺を見てた。

「…気づいてますよね?誰のことか」

心臓がうるさかった。ビールの泡が静かに消えていくのを見ながら、俺は立ち上がって、宮城さんの隣に座った。

「気づいてる」

「…ん」

自然にキスしてた。ビールの味がした。宮城さんの唇は柔らかくて、少し震えてた。

「緊張してる?」

「…めっちゃしてます。久しぶりすぎて」

「俺も」

「嘘。大久保さん慣れてるでしょ」

「いや、好きな人とするのは全然違うから」

「…もう、そういうこと言うからずるいって言ってるのに」

リビングのソファで抱き合ったまま、何度もキスした。宮城さんの髪からシャンプーの匂いがして、首筋に顔を埋めると小さい声で「くすぐったい…」って言った。

「…部屋、行ってもいい?」

「…うん」

宮城さんの寝室は六畳ぐらいで、セミダブルのベッドとユウくんの絵が飾ってあった。クレヨンで描かれた3人の絵。ママと、ユウくんと、もう一人の人。

(あれ、3人目…背が高い男の人?)

考える間もなく、宮城さんが俺のシャツの裾を掴んだ。

「ねぇ…電気、暗くしていい?」

「いいよ」

間接照明だけの薄暗い部屋で、ゆっくり服を脱がせていった。白いカットソーの下は、薄いピンクのブラだった。

「…見ないでよ、恥ずかしい」

「見るに決まってんだろ」

ブラを外すと、思ってたよりしっかりしたCカップが現れた。出産を経験してるからなのか、柔らかさが独特というか、手に吸い付くような感触だった。

「あっ…そこ、敏感で…」

胸に顔を埋めて、舌先で乳首を転がすと、宮城さんの背中がびくっと反った。

「んっ…だめ、そんなされたら…」

「だめ?」

「だめじゃないけど…声、出ちゃう…」

(出していいんだよ…)って思ったけど、口には出さなかった。代わりに、もう片方の胸も同じようにして、宮城さんの反応を確かめた。

下着を脱がせて、太ももの内側に手を滑らせると、すでに濡れてた。

「…恥ずかしい。こんなになってるの、バレてる…」

「嬉しいんだけど、俺としては」

指を一本入れると、中がぎゅっと締まった。

「あっ…ん…久しぶりだから…きつい、かも…」

「ゆっくりやるから。痛かったら言って」

指を動かしながら、クリを親指で撫でると、宮城さんが枕に顔を押し付けた。

「んんっ…そこ…やばい…っ」

脚がぴくぴく震えてるのが可愛くて、もっと触りたくなった。指を増やして、中をゆっくりかき回すと、宮城さんの息が荒くなってきた。

「待って…もうだめ…イっちゃ…っ」

「いいよ、イって」

「あっ…あぁっ…!」

ぎゅっと俺の腕を掴んで、体を震わせた。じわっと指が濡れる感覚があって、宮城さんがぐったりとベッドに沈んだ。

「はぁ…はぁ…」

「大丈夫?」

「…大丈夫。ていうか…指だけでイったの初めてかも…」

(それはたぶん俺の腕がいいとかじゃなくて、久しぶりだからだと思うけど)

そう思いつつも、素直に嬉しかった。

「ねぇ…入れて…ほしい」

「…いいの?」

「うん。ゴム、引き出しに入ってる」

(用意してあるのか…)って一瞬思ったけど、たぶん宮城さんなりの覚悟だったんだと思う。ゴムを装着して、宮城さんの脚の間に体を入れた。

「入れるよ」

「…うん」

ゆっくり先端を押し当てて、中に入っていく。きつかった。宮城さんが眉を寄せて、シーツを掴んだ。

「んっ…あっ…」

「痛い?」

「ちょっとだけ…でも大丈夫。動いて」

ゆっくり腰を動かし始めた。最初はぎこちなかったけど、だんだん宮城さんの体が馴染んできて、中が俺の形に合わせてくれるみたいな感覚になった。

「あっ…ん…気持ちいい…」

「俺も…やばい…」

宮城さんが両手を広げて、俺を抱きしめてきた。密着した状態で、耳元で息遣いが聞こえる距離。

「ねぇ…名前で呼んで…」

「え…」

「美咲…って呼んで…」

「…美咲」

「んっ…もう一回…」

「美咲…好きだよ」

「あっ…だめ、そういうの言われたら…泣いちゃう…」

マジで泣いてた。目尻から涙が流れてて、でも口元は笑ってて。(こんな顔するんだ、この子…)

ペースを上げていくと、宮城さんの声が大きくなっていった。

「あっ…あっ…もっと…」

「美咲…っ…」

「好き…大久保さん…好き…っ」

「俺も…っ…もう出そう…」

「うん…いいよ…出して…っ」

最後に深く突き入れて、そのまま果てた。ゴム越しでも、中が脈打つように締まるのがわかった。

「はぁ…はぁ…」

「…気持ちよかった…」

「…うん」

しばらく繋がったまま、抱き合ってた。宮城さんの心臓の音が聞こえた。どくどく言ってて、俺と同じぐらい速かった。

ゆっくり体を離して、横に並んで天井を見た。

「ね、大久保さん」

「ん?」

「さっき…ユウの絵、見ました?」

「あの壁に貼ってあったやつ?」

「うん。あれ、先週描いたんですよ。3人の絵」

「ああ…ママとユウくんと、もう一人いたよね」

「…あの3人目、"でんしゃのおじさん"って書いてあったんです」

俺の心臓がぎゅっとなった。

「それ…俺のこと?」

「たぶん。仙台駅で新幹線見に行った日のあと、ずっと"でんしゃのおじさんまた来る?"って聞いてきて」

「…」

「だから…あの子のことも含めて、私のこと好きでいてくれるなら…」

「当たり前だろ」

自分でも驚くぐらい、即答だった。

「…ほんとに?」

「ユウくんが描いてくれた"でんしゃのおじさん"、もうちょっとマシな呼び方にしてもらえるように頑張るよ」

宮城さんがぶわっと泣き出して、俺の胸に顔を押し付けてきた。

その夜、もう一回した。今度は宮城さんから求めてきて、「名前、呼んで」ってまた言われて、「美咲」って何回も呼んだ。2回目は1回目より力が抜けてて、お互いの体に馴染んでる感じがした。変に気合い入れなくても、自然と気持ちよくて、自然と声が出て。終わったあと、宮城さんが「こんな安心するの久しぶり」って言ったのが、たぶん今夜で一番嬉しかった言葉だった。

朝、スマホのアラームで目が覚めた。隣で宮城さんが寝てて、寝顔がほんとに今田美桜だった。(いや寝顔は本人のほうが可愛いな)

起き上がってリビングに行くと、テーブルの上にユウくんのクレヨンの絵が置いてあった。昨夜は暗くてちゃんと見えなかったけど、改めて見ると、3人目の棒人間の横に、たどたどしいひらがなで「でんしゃのおじさん」って書いてあった。

(…頑張るか、おじさん)

コーヒーを淹れながら、左遷されてよかったと初めて思った。東京にいたら、この二人には会えなかった。

俺は仙台で、やり直すことにした。仕事も、人生も。

宮城さんが寝ぼけ眼でリビングに出てきて、俺がコーヒー淹れてるのを見て、ちょっと泣きそうな顔で笑った。

「…おはようございます」

「おはよう。…もう敬語やめない?」

「…おはよう。…大久保くん」

「くん付けか。まあいいか」

「だって"さん"から急に呼び捨ては無理だって…」

二人でコーヒー飲みながら、ユウくんを迎えに行く時間を相談した。

なんてことない朝の風景だけど、これが始まりだった。


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