異動初日に隣の席になった無口な経理の後輩が、残業中にだけ俺にお菓子をくれる理由がわからなかった

こんにちは。28歳、都内の中堅メーカーで働いてる会社員です。

身長172cm、体重はちょい太めの73kg。顔は……まあ、合コンで「雰囲気は悪くないよ」って言われる程度のやつです。つまり顔面では勝負できないってことですね、はい。

これは去年の秋、10月の頭に経理部に異動になってからの話。

俺はもともと営業にいたんだけど、上からの辞令で突然の経理異動。正直、数字とにらめっこする毎日なんて地獄だと思ってた。新宿の本社ビル7階、経理部のフロアに初めて足を踏み入れたとき、営業フロアとの空気の違いにびびった。静かすぎる。キーボードを叩く音しかしない。

で、俺の隣の席に座ってたのが、彼女だった。

名前は伏せるけど、ここでは「S」とだけ。24歳、俺より4つ下の後輩。第一印象は……地味。本当に地味。黒髪のボブを耳にかけてて、いつも同じ紺色のカーディガン。化粧も薄くて、唇にうっすらリップ塗ってるくらい。身長は160cmないくらいで、華奢で、声も小さい。

正直に言うと、最初は「隣の席の子」以上の認識がなかった。

(営業のときは隣の席の奴とずっと喋ってたのに、この静けさはキツいな……)

異動初日、挨拶したときのSの反応がこれ。

「今日からお隣になります。よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

目も合わせず、ぺこりと頭を下げただけ。声がほとんど聞こえない。

(え、俺なんかした?)って思ったけど、あとで他の先輩に聞いたら「あの子、誰に対してもあんな感じだから気にしないで」とのこと。

なるほど、人見知りか。まあいるよな、そういう子。

で、最初の一週間はほぼ会話なし。俺が話しかけても「はい」「いえ」の二択で返される毎日。昼休みも一人でお弁当食べて、食べ終わったらイヤホンして本読んでる。

(すげえ壁だな……)

ただ、ひとつだけ気になることがあった。

異動3日目の夜、初めて残業したときのこと。20時を回って、フロアにはもう俺とSしかいなかった。集中してExcelと格闘してたら、視界の端にすっと何かが置かれた。

チロルチョコだった。

顔を上げると、Sはもう自分の画面に向き直ってた。

「え、これ……くれるの?」

「……糖分、切れてると思ったので」

それだけ。それだけ言って、またカタカタとキーボードを叩き始めた。

(いや、めちゃくちゃいい子じゃん……)

翌日、昼間のSはいつも通り無口で、話しかけても最小限の返事。でもその夜、また残業で二人きりになったら、今度はブラックサンダーが置かれてた。

「……今日は、長くなりそうだったので」

俺はなんだか嬉しくなって、翌日コンビニでアルフォートを買って、Sの机にそっと置いた。

Sはそれを見て、ほんの一瞬だけ目を見開いた。そしてすぐにいつもの無表情に戻って、小さく「ありがとうございます」と言った。

でも、その「ありがとうございます」は、今までの事務的な返事とは明らかに違ってた。

そこから、残業中だけのお菓子交換が始まった。

昼間は相変わらず業務連絡以外ほぼ喋らない。でも夜、フロアに二人きりになると、Sが先にお菓子を置いてくれる。俺もお返しを置く。で、たまに二言三言、会話する。

「S、このキットカット限定味だろ。どこで買ったの?」

「……池袋のファミマです。駅の改札出てすぐの」

「まじで?俺も池袋方面なんだけど。てか、S最寄りどこ?」

「…………東長崎です」

「うそ、俺椎名町。隣じゃん」

Sの目が、ほんの少しだけ大きくなった。

「……知ってました」

「え?」

「前に、営業部の人たちと話してるの聞こえたので……椎名町って」

(待って、営業時代の俺の雑談覚えてるの?)

ちょっとドキッとした。いや、たぶん偶然耳に入っただけだろ。うん。

この頃、Sの見た目の印象が少しずつ変わってきた。最初は本当に「地味な子」としか思ってなかったけど、よく見ると肌がめちゃくちゃ綺麗で、まつげが長い。笑わないからわからなかったけど、顔立ちは整ってる。なんていうか、今田美桜の化粧を全部落としたらこんな感じかもしれない、って思った。たぶん本人は隠してるんだけど、胸もカーディガンの上からでもわかるくらいあった。

でも、そういう感情は意識的に封印してた。職場だし、後輩だし、何より向こうにその気がないのは明白……だと思ってた。

10月の末、月次決算で地獄みたいな残業が続いた週の金曜日。

22時過ぎ、さすがに疲れて、俺はデスクに突っ伏した。

「もう無理……数字が目の裏にチラついて気持ち悪い……」

「……大丈夫ですか」

顔を上げると、Sがこっちを見てた。いつもと違って、少し心配そうな顔。

「大丈夫じゃない(笑)。Sは平気なの?」

「……慣れてます」

「強いな……」

「あの……よかったら」

Sが引き出しからジップロックを取り出した。中に入ってたのは、手作りっぽいクッキー。

「昨日、焼いたんです。……余ったので」

「え、手作り?マジで?」

一口食べて、普通にうまくてびっくりした。バターの香りがして、甘さ控えめで、サクサク。

「うま。めっちゃうまい。Sお菓子作り得意なの?」

「……趣味です」

Sがほんの少し口角を上げたのを、俺は見逃さなかった。

こいつ、笑うとかわいいじゃん。

(いやいやいや、待て待て。職場だぞ)

でも、その晩から何かが変わった。

11月に入って、Sは少しずつ俺に対して言葉が増えてきた。相変わらず他の人にはほぼ喋らないのに、俺にだけ昼間でもぽつぽつと話しかけてくるようになった。

「……あの、この仕訳なんですけど」

「ん?」

「営業部のときの案件で、計上タイミングがわからなくて……」

「ああ、これは俺が担当してた取引先だ。ちょっと見せて」

自然と距離が近くなって、Sの髪からシャンプーの匂いがした。無香料系の、石鹸みたいなやつ。

(……いい匂い)

ある日の残業中、珍しくSの方から雑談を振ってきた。

「先輩は……休みの日、何してるんですか」

「えー、大したことしてないよ。Netflix見てダラダラして、夕方になったら近所のジム行って、帰りにまいばすけっとで半額弁当買って帰る」

「……ジム、行ってるんですね」

「一応ね。最近サボりがちだけど。Sは?」

「……お菓子作りと、あと……本」

「どんな本読むの?」

「……ミステリーが多いです。東野圭吾とか」

「あー、俺も白夜行は好きだったな」

「……!白夜行、私も一番好きです」

初めて、Sの声のトーンが上がった。目がきらっと光った瞬間だった。

(やっぱこいつ、ちゃんと感情あるじゃん……)

なんか、壁の向こう側にいた人間の手に初めて触れたような、そんな感覚だった。

11月の第二金曜日。会社の歓送迎会が品川のチェーン居酒屋であった。

Sも参加してたけど、端っこの席でウーロン茶飲みながらほとんど喋ってなかった。周りの先輩たちもSには慣れてるのか、特に絡まない。

(あの中にいるの、つらいだろうな)

二次会はカラオケになったけど、Sは「お先に失礼します」と帰ろうとしてた。

酔った勢いもあって、俺も一緒に店を出た。

「俺も帰る。一緒に駅まで行こ」

「……え。二次会、行かないんですか」

「いいよ、疲れたし。てかSと同じ路線だし」

品川駅から山手線に乗って、池袋で西武線に乗り換え。金曜の23時過ぎ、電車はそこそこ混んでた。

「飲み会、楽しかった?」

「……正直に言うと、苦手です」

「だよね(笑)」

「でも……先輩が声かけてくれたのは、嬉しかったです」

小さい声だったけど、確かにそう言った。

椎名町で俺が降りようとしたとき、Sが俺の袖をつかんだ。

「あの……」

「ん?」

「……なんでもないです。おやすみなさい」

手を離して、また俯いた。

(いや、気になるだろそれ……)

ホームに降りてから、電車が出ていくのを見送った。Sの姿は窓の向こうで見えなかった。

翌週の月曜、出社したらSの態度が明らかにおかしかった。

朝の挨拶は普通にしてくれたけど、目が合うとすぐ逸らす。いつものお菓子も置いてくれない。残業で二人きりになっても、ずっと画面を見つめたまま。

(え、何?俺なんかやらかした?)

三日くらい続いて、さすがに気になって、残業中に声をかけた。

「S、最近なんか元気なくない?俺、何か気に障ること言った?」

「……言ってないです」

「じゃあなんで……」

「……金曜日」

「金曜日?飲み会の?」

「帰りの電車で……袖、掴んじゃったじゃないですか」

「うん」

「あれ……すごく恥ずかしくて。なんであんなことしたんだろうって、土日ずっと考えてて……」

Sが小さく下を向いて、耳が赤くなってた。

「……すみません。気持ち悪かったですよね」

「いや全然。むしろ嬉しかったけど」

口が先に動いてた。

Sが顔を上げた。目が潤んでて、こっちの心臓が跳ねた。

「あの……S」

「はい」

「今度の土曜、もし暇だったら……飯でも行かない?二人で」

「……」

5秒くらい沈黙があった。体感1分くらいだった。

「……行きたいです」

声は小さかったけど、はっきり聞こえた。

土曜日。池袋の東口、ビックカメラの前で待ち合わせた。

Sが来たとき、一瞬誰かわからなかった。

いつもの紺カーディガンじゃなくて、白いニットにベージュのロングスカート。髪もちょっと巻いてて、薄くだけどアイシャドウ塗ってる。

(え……めちゃくちゃかわいいんだけど……)

いつもの三割増しどころじゃない。今田美桜の化粧落とした版、なんて言ったけど、ちゃんと化粧すると完全に今田美桜だった。胸もニットの上からわかるくらいで、たぶんDはある。

「S、なんか雰囲気違うね。かわいい」

「……ありがとうございます。その……頑張りました」

(「頑張りました」って何だよ……かわいすぎるだろ……)

池袋のイタリアンに入って、パスタ食べながら話した。Sは最初こそ緊張してたけど、東野圭吾の話になると急に饒舌になって、「容疑者Xの献身の石神って実は……」って語り出した。

(めっちゃ喋るじゃん……)

好きなことには止まらないタイプだったらしい。そのギャップがたまらなかった。

食後、「どうする?もう少し歩く?」って聞いたら、Sが珍しく即答した。

「歩きたいです」

南池袋公園をぶらぶら歩いた。11月の夜は寒くて、Sが小さくくしゃみをした。

「寒い?上着貸そうか」

「……大丈夫です」

「大丈夫じゃないだろ、鳥肌立ってんぞ」

自分のコートを脱いでSの肩にかけた。Sの耳がまた赤くなってた。

「先輩」

「ん?」

「……お菓子、あげてた理由。聞きたいですか」

「え、理由あったの?」

「……先輩が営業部にいたとき、一回だけ経理に書類持ってきたことがあったんです。覚えてないと思うんですけど」

「……ごめん、覚えてない」

「ですよね。でも、そのとき……私が書類の不備を指摘したら、先輩だけ怒らなかったんです。『助かった、ありがとう』って言ってくれて」

「……」

「経理って、不備を指摘すると嫌な顔されるのが普通なので……。それが、すごく嬉しかったんです」

「先輩が異動してくるって聞いたとき……正直、めちゃくちゃ嬉しかったです」

Sの目がうっすら光ってた。街灯のせいかと思ったけど、違った。泣きそうになってた。

「S……」

「私、人と話すのが本当に苦手で……。でも先輩とだけは、話したいって思ったんです。お菓子は……話しかける勇気がなかったから、せめて……」

(こいつ、ずっと一人で頑張ってたのか)

気づいたら、Sの手を握ってた。小さくて冷たくて、少し震えてた。

「俺もさ……Sのお菓子、毎回めちゃくちゃ嬉しかったよ。てか、あれがなかったら経理やめてたかも」

「……うそ」

「うそじゃないよ。あとさ……正直に言うけど」

心臓がバクバクしてた。

「Sのこと、好きだと思う。たぶんじゃなくて、好き」

Sの手がぎゅっと握り返してきた。

「……私も。私も、先輩のことが好きです。ずっと」

寒い公園のベンチの前で、俺たちはキスした。Sの唇は冷たくて、でも柔らかくて、リップの味がした。

「……ん」

離れたあと、Sがコートの中に顔を埋めて黙った。しばらくして、くぐもった声が聞こえた。

「先輩……今日、帰りたくないです」

「……え?」

「……だめ、ですか」

(いやいやいや。え? まじで?)

頭がぐるぐるした。でも断る理由がなかった。断りたくなかった。

椎名町の俺のアパートまで歩いて10分。その間、ずっと手を繋いでた。Sは俯いたままで、でも手だけはしっかり握ってた。

部屋に入って、電気をつけて、二人で立ったまましばらく黙ってた。

「とりあえず……座る?飲み物出すよ」

「……先輩」

Sが俺のシャツの裾を掴んで、上目遣いで見てきた。

「飲み物は……あとで」

(この子、こんな顔するんだ……)

会社で見てた無表情のSとは完全に別人だった。目が潤んでて、頬が赤くて、唇が少し開いてて。

俺からキスした。さっきの公園より深く。Sの舌がおずおずと触れてきて、ぎこちないけど一生懸命で、それがたまらなかった。

「ん……んぅ……」

キスしながら、自然とベッドの方に移動してた。Sの背中がベッドの端に当たって、そのまま二人で倒れこんだ。

「……いいの?」

「……先輩としたいです」

白いニットの上から、Sの胸に触れた。予想以上に柔らかくて、思わず手が止まった。

「S……結構あるね」

「……E、です。会社ではわざと大きめの服着てるんです……目立ちたくなくて」

「Eカップ……?」

「……恥ずかしいので、あんまり見ないでください」

見ないのは無理だった。ニットを脱がせると、ベージュのブラからこぼれそうなくらい白い胸が出てきて、思考が飛んだ。

ブラを外すと、形が綺麗なまま、ぷるんと零れた。薄いピンクの先端が、もう固くなってた。

「綺麗だよ……」

「……っ」

先端を舌で触れたら、Sの体がびくっと跳ねた。

「あっ……そこ、弱いんです……」

「ここ?」

「んっ……はぁ……」

普段あんなに静かなSの口から、甘い声が漏れてくる。そのギャップで頭がおかしくなりそうだった。

スカートの中に手を入れると、下着がもう濡れてた。

「や……触らないで、そこ……」

「無理」

「ぁ……っ。……んんっ……」

(この子、感度やばいな……)

指を動かすたびに、Sの腰が小さく震える。目を閉じて、シーツを掴んで、必死に声を殺そうとしてる。

「声、我慢しなくていいよ」

「……む、無理です……恥ずかしい……」

「いいから」

下着をずらして、直接触った。Sの体がぐっと反って、こらえきれない声が漏れた。

「あっ……先輩っ……やばい、それ……」

指を中に入れると、きゅっと締まって、Sの手が俺の腕を掴んだ。

「あぁっ……もうっ……だめ……」

「だめって?」

「イっ……ちゃう……っ」

Sの体がびくびくと震えて、俺の指をぎゅっと締めつけた。

「はぁ……はぁ……っ」

息を整えてるSの顔を見た。目の端に涙が溜まってて、頬は真っ赤で、口が半開きで。

(会社では絶対に見せない顔だ)

Sが俺のズボンに手を伸ばしてきた。

「……先輩も、気持ちよくなってほしい」

ベルトを外して、下ろされて。Sの小さい手が直接触れた瞬間、俺もやばかった。

「……っ」

「……大きい」

ぎこちない手つきだったけど、それがかえってリアルで、余計に興奮した。

「S……入れていい?」

「……うん」

横になったSの脚の間に入って、先端を当てた。コンビニで買ったゴムをつけようとしたら、手が震えてうまくいかない。

「……ふふ」

「笑うな……緊張してんだよ」

「……私も、してます」

ゆっくり入れていった。Sの眉が寄って、下唇を噛んだ。

「痛い?」

「……少しだけ。でも大丈夫……動いてください」

ゆっくり動き始めた。Sの中は熱くて、びっくりするくらい絡みついてきて、頭の奥がぼやけた。

「んっ……あっ……先輩……」

「S……気持ちいい……」

「私も……気持ちいい……っ」

動くたびにSの声が大きくなっていく。さっきまで声を殺してたのが嘘みたいに、甘い声が部屋に響いた。

手を繋いだ。Sの指が俺の指に絡みついて、ぎゅっと握ってきた。

「先輩……好き……好きです……っ」

「俺も好きだよ……」

正直、あっという間だった。Sの中がきゅうっと締まって、俺は限界だった。

「やば……もう……っ」

「いいよ……出して……」

腰が勝手に動いて、奥で全部出した。頭が真っ白になって、しばらく動けなかった。

「はぁ……はぁ……」

「……すごい、熱い……」

そのまま抱き合って、しばらくぼんやりしてた。Sの心臓がバクバクしてるのが伝わってきた。

「S……大丈夫だった?」

「……大丈夫です。……もう一回、していいですか」

「え?」

「……さっき、よくわからないうちに終わっちゃったから……もっと、ちゃんと感じたい」

(こいつ、こういうこと普通に言うんだな……)

二回目は、Sの方から動いてきた。俺の上に跨って、ゆっくり腰を動かし始めた。

さっきより慣れたのか、Sの声が変わってた。遠慮がなくなって、素の声が出てきてる感じ。

「んぁ……っ。ここ、当たる……すごい……」

「S……顔、すごいことになってるよ」

「見ないで……っ。でも……止まれない……」

Eカップが目の前で揺れてて、下から見上げるSの表情は完全にとろけてた。会社の無表情はどこに行ったんだよ。

「S……イきそう……」

「私も……一緒に……っ」

二回目は、さっきより長く続いた。Sの中がぎゅうっと締まった瞬間、俺も同時にイった。

「あぁっ……!」

Sが俺の胸に崩れ落ちてきて、そのまましばらく動かなかった。

「……先輩」

「ん」

「……お腹すきました」

思わず笑った。

「何食べたい?」

「……先輩のまいばすけっとの半額弁当、食べてみたいです」

「趣味わるいな(笑)」

深夜1時のまいばすけっとに二人で行って、半額シール貼られたのり弁とサラダ巻きを買って、部屋に戻って食べた。

Sはのり弁を食べながら、さっきまでとは別人みたいにぽつぽつ喋った。

「……私、中学のとき不登校だったんです」

「そうなの?」

「人と話すのが怖くて。高校からなんとか通えるようになったけど、友達はほとんどいなくて。会社でも……先輩が来るまで、ずっと一人でした」

「……」

「だから、先輩がお菓子のお返しくれたとき……泣きそうでした。私のこと、見てくれてる人がいるんだって」

のり弁の上のちくわ天が、涙でぼやけて見えた。俺のじゃなくて、Sの涙で。

Sの頭を引き寄せて、おでこにキスした。

「これからは毎日見てるよ」

「……毎日は、恥ずかしいです」

「知らん。見る」

Sが、初めて声を出して笑った。

あれから半年以上経った。

会社では相変わらず、Sは無口な経理の後輩で、俺はそこそこ馴染んできた元営業。特に関係がバレてる様子もない。

でも残業中、たまに二人きりになると、Sが俺の机にチョコを置く。

俺がそれを食べて「うまい」って言うと、Sがほんの少しだけ口角を上げる。

それだけで、もう十分すぎるくらい幸せだ。

……まあ、週末は全然「それだけ」じゃないんだけど、そこは許してください。


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