終電を逃した夜、誰もいないはずのオフィスで後輩が泣いていた理由を俺だけが知ってしまった話

これは去年の秋の話。当時27歳、東京の五反田にあるIT系の中小企業で、インフラエンジニアとして働いてた。

俺のスペックは身長172、体重63、顔面偏差値は中の下ってとこ。高校時代から自分のことを「量産型」だと思ってる。別にそれが嫌とかじゃなくて、もう受け入れてる。彼女いない歴は1年半。前の彼女には「一緒にいても刺激がない」って言われて振られた。まあ、わかる。俺も俺に刺激を感じない。

で、その日は金曜日だったんだけど、取引先との飲み会があって神田で23時過ぎまで付き合わされた。JRで五反田まで戻って、そのまま帰ろうとしたんだけど、ふとカバンの中を見て青ざめた。

会社の鍵束がない。

正確に言うと、サーバールームのセキュリティキーと自宅の鍵が同じキーホルダーについてて、それごとデスクの引き出しに突っ込んだまま飲み会に行ったことを思い出した。月曜まで待てばいいじゃんって話なんだけど、自宅の鍵もセットなのが問題で。スペアキーは実家の川口にあるし、終電で取りに行くのも微妙な時間だった。

しょうがなく、セキュリティカードでオフィスに入ることにした。

エレベーターで5階に上がる。廊下は非常灯だけで薄暗い。金曜の23時半、当然誰もいないはず――だったんだけど。

ドアを開けた瞬間、声が聞こえた。

「……っく……」

(え?)

泣いてる。誰か泣いてる。薄暗いフロアの奥の方から、明らかに嗚咽が聞こえてくる。

俺はそのまま立ち止まった。泥棒とかじゃない。でも夜中のオフィスで泣き声って、正直ちょっと怖い。

ゆっくり近づくと、窓際の席――総務のエリアのあたりに、デスクに突っ伏してる人影が見えた。

「……誰?」

人影がびくっと跳ね上がった。

「ひっ……!」

非常灯の薄い光で顔が見えた。うちの部署の後輩、水瀬ちゃんだった。

水瀬千尋、24歳。去年の4月に入社してきた子で、うちの課のムードメーカーだった。TBSの若林有子アナに似た丸顔で、目がくりっとしてて、笑うと頬にえくぼができる。身長は157くらいで、スタイルは正直かなりいい。推定Eカップ。いつもオーバーサイズのニット着てるから隠れてるけど、夏にTシャツの日があって、あの日フロア中の男の目が泳いでたのを俺は覚えてる。

でもそんな明るいキャラの水瀬ちゃんが、真っ暗なオフィスで泣いてた。目は真っ赤で、鼻も赤くて、完全に泣き崩れたあとの顔だった。

「み、水瀬ちゃん…?」

「あ……佐伯さん……なんで……」

「いや、鍵忘れて……それより、どうしたの?」

「な、なんでもないです……すみません、もう帰ります……」

立ち上がろうとして、よろけた。見ると足元にストロング缶が2本転がってる。

「……飲んでた?」

「……ちょっとだけ……」

ちょっとじゃないだろ、500mlのストロング2本って。しかもこの体格の女の子が。

「大丈夫?歩ける?」

「大丈夫です……すみません……っ」

また涙がぼろぼろ出てきた。

(えっ、ちょっと待って、どうすんのこれ)

俺は正直パニックだった。泣いてる女の子をどうしたらいいかなんて、27年生きてきてまともに経験したことがない。

とりあえず自販機でお茶を買ってきて、水瀬ちゃんの隣の椅子に座った。

「はい、これ」

「……ありがとうございます」

「帰るなら送ってくし、話したいなら聞くし。どっちでもいいよ」

我ながらいいこと言ったな、と思った。(……いや、これドラマで見たセリフだわ)

しばらく無言が続いたあと、水瀬ちゃんがぽつりと話し始めた。

「……彼氏に、浮気されてたんです」

「え」

「しかも、相手が……私の大学の時の友達で」

「それは……きっついな……」

「今日、共通の友達から聞いちゃって。もう3ヶ月も前から続いてたみたいで」

「3ヶ月……」

「で、電話したんです。彼に。そしたら『うん、そうだけど。もうお前とは無理だわ』って……」

「は? なんだそいつ」

「しかも、向こうはもう私の友達と付き合ってて……」

水瀬ちゃんはお茶を両手で持ったまま、ぐすぐす泣いた。

正直、俺の中で怒りが湧いた。水瀬ちゃんの彼氏には会ったことないけど、こんないい子を何ヶ月も裏で騙してたのかと思うと。

でも俺が怒ったところでどうにもならないので、黙って隣にいた。

20分くらい経ったかな。水瀬ちゃんがちょっと落ち着いてきて、鼻をかんだ。

「すみません……先輩にこんなの見せて……最悪ですよね」

「いや、全然。つーか、なんでオフィスで飲んでんの?」

「……家に帰りたくなくて。彼氏と一緒に選んだ家具とかあるし、もう見たくなくて」

「あー……」

「で、ネカフェ行こうと思ったんですけど、金曜の夜って全然空いてなくて。それで……なんとなく会社に来ちゃって」

「なるほどね」

「佐伯さんは、なんで鍵忘れたんですか?」

「いや、飲み会行く前に引き出しに入れて……俺のうっかりだよ」

「……ふふ」

おっ、ちょっと笑った。よかった。

「佐伯さんって、そういうとこありますよね」

「どういうとこ」

「抜けてるっていうか……でも、そこがいいんですよ」

「褒められてんのか貶されてんのか微妙だな」

「褒めてます」

そう言って、水瀬ちゃんはまたちょっと笑った。えくぼが見えた。

(……かわいいな)

いや、このタイミングでそれはダメだろ。彼氏に裏切られて泣いてる子に何考えてんだ俺。

鍵を回収して、どうしようかと思った。水瀬ちゃんをこのまま放置して帰るのは、さすがに無理だった。

「水瀬ちゃん、今日どうすんの?さすがにここで寝るわけにもいかないだろ」

「……タクシーで帰ります。大丈夫です」

「帰りたくないって言ってたじゃん」

「……」

「俺の家、ここから歩いて10分くらいだから。ソファで寝ていいよ。俺がソファで水瀬ちゃんがベッドでもいいし」

「え……いいんですか?」

(いや待って、俺は今何を言った?)

言ってから気づいた。酔った後輩の女の子を自宅に連れ込むとか、客観的に見たらどう考えてもアウトだ。でも言っちゃったもんはしょうがない。

「あ、いや、変な意味じゃなくて。マジでソファで寝るだけだから」

「……佐伯さんなら、大丈夫です」

その言い方が、なんかすごく信頼されてる感じがして、嬉しいような申し訳ないような。

オフィスを出て、五反田の大通りを歩いた。10月の夜はもう肌寒くて、水瀬ちゃんは薄手のカーディガン1枚だった。

「寒くない?」

「ちょっと……」

上着を渡した。映画みたいだなって思ったけど、実際やってみると結構恥ずかしい。水瀬ちゃんは「ありがとうございます」って小さく言って、袖に顔を埋めるようにして歩いた。

マンションに着いて、ドアを開ける。1Kの狭い部屋。独り暮らしの男の部屋にしてはまあまあ片付いてる方だと思う。先週末に掃除しといてよかった。

「散らかっててごめんね」

「全然……あっ、ネコ飼ってるんですか?」

キャットタワーを見て水瀬ちゃんが反応した。

「いや、前の彼女が置いてったやつ。猫は彼女が連れてった」

「……寂しくないですか?」

「最初は寂しかったけど、もう慣れた」

水瀬ちゃんがキャットタワーの柱をそっと触った。

「佐伯さんも、振られたんですか?」

「まあね。刺激がないって言われた」

「えー……私、佐伯さんのそういう穏やかなとこ好きですけど」

(え、今「好き」って言った?)

いや、「そういうとこ好き」と「好き」は全然違う。落ち着け俺。

風呂を沸かして、水瀬ちゃんに先に入ってもらった。着替えは俺のTシャツとスウェットを貸した。風呂から出てきた水瀬ちゃんは、だぼだぼの俺の服を着て、髪が濡れてて、化粧も落ちてて。

(これは……やばい)

すっぴんの水瀬ちゃんがめちゃくちゃかわいかった。化粧してる時より幼く見えて、若林有子っぽさがさらに増してる。濡れた髪から首筋に水滴が落ちてて、その1滴を俺は目で追ってしまった。

「佐伯さん、お風呂ありがとうございました。……なんか、落ち着きました」

「そう? よかった」

「あの……」

「ん?」

「佐伯さんって、彼女いないんですよね?」

「うん、1年半いない」

「……私もう、いないです。今日から」

「……だな」

「なんで佐伯さんみたいな人が彼女いないんですか」

「いや、刺激がないから……」

「嘘ですよそんなの。佐伯さんが鈍いだけですよ」

「え?」

水瀬ちゃんがソファに座って、膝を抱えた。俺のスウェットがでかすぎて、手の先がちょっとしか見えない。

「私、入社した時から佐伯さんのこと……ちょっと気になってたんです」

「……え、マジで?」

「はい。でも彼氏いたし、佐伯さん仕事中は全然私のこと見てくれないし」

「いや、見てたけど……」

言ってから、しまったと思った。

「え、見てたんですか?」

「いや、ほら、その、業務上の確認とかで」

「ふふ、業務上」

「……夏にTシャツだった日とか、ちょっと目のやり場に困ったのは事実だけど」

言ってしまった。ストロング2本飲んだのは水瀬ちゃんのはずなのに、なんで俺が酔っ払いみたいなこと言ってるんだ。

水瀬ちゃんの頬がぱっと赤くなった。さっきまで泣いてた赤さとは違う赤さだった。

「……やっぱり、目立ちますか」

「いや……ごめん、忘れて」

「忘れません」

水瀬ちゃんが膝を抱えたまま、こっちを見上げてきた。上目遣いで、目がまだ少し潤んでて。

「佐伯さん」

「なに」

「……抱きしめて、もらえませんか」

頭が真っ白になった。

「……今の水瀬ちゃんに手を出すのは、ダメだと思う」

「手を出してって言ってないです。抱きしめてほしいだけです」

「……」

「……ダメですか?」

ダメなわけがなかった。

ソファに座ってる水瀬ちゃんの隣に腰を下ろして、ぎこちなく肩に手を回した。水瀬ちゃんが俺の胸に顔を押しつけてきて、ぎゅっとしがみついてきた。シャンプーの匂い――俺のシャンプーなのに、全然違う匂いがした。

「……あったかい」

小さい声で言われて、胸の真ん中あたりがぎゅっとなった。

(ダメだって。これ以上は。この子は今つらくて、弱ってて、寂しいだけなんだ)

頭ではそう思ってた。思ってたのに、水瀬ちゃんの体が柔らかくて、あったかくて、俺の理性はだんだんぐらぐらしてきた。

「佐伯さん……心臓、すごいですね」

「……ごめん」

「謝らないでください」

水瀬ちゃんが顔を上げた。距離、近い。10センチもない。

「……寂しいからとか、そういうのじゃないです」

「え?」

「ずっと思ってました。彼氏がいる時も。……最低ですよね、私」

「……」

「彼氏に浮気されたのも、バチが当たったのかなって」

「そんなわけない」

俺の声が思ったより大きくなった。

「心の中で思ってたのと、実際に裏切るのは全然違う。水瀬ちゃんは何も悪くない」

水瀬ちゃんの目からまた涙がこぼれた。でも今度は、さっきと違う泣き方だった。

「……佐伯さん」

「ん」

「キスしても、いいですか」

もう、止められなかった。

唇が触れた瞬間、頭の中のブレーカーが全部落ちた。柔らかくて、少し震えてて、お茶の味がした。水瀬ちゃんの手が俺の首の後ろに回って、引き寄せられた。

「ん……」

「……っ」

唇を離して、お互い息が荒くなってた。

「……もっと……してほしい」

「……ほんとに、いいのか」

「いいです。佐伯さんがいいです」

その言葉で、最後の理性が溶けた。

もう一度キスをした。今度は深く、舌を絡めた。水瀬ちゃんの舌がおずおずと触れてきて、ぎこちなさがたまらなかった。

「ん……んぅ……」

抱きしめる力が強くなる。水瀬ちゃんの体が俺のTシャツ越しに押しつけられて、胸の感触が伝わってくる。想像以上だった。

「……ベッド、行こう」

「……はい」

手を引いてベッドまで連れていった。水瀬ちゃんを座らせて、俺は目の前にしゃがんだ。

「……怖くない?」

「怖くないです。……佐伯さん、優しすぎます」

「優しくなんかない。正直めちゃくちゃ我慢してた」

「……知ってます。さっきからずっと」

水瀬ちゃんの視線が、一瞬だけ俺の下半身にいった。(バレてた。そりゃそうだ)

俺のTシャツの裾を持って、ゆっくり上に引き上げた。水瀬ちゃんが両手を上げてくれて、脱がせた。下着は持ってきてないから、ブラもなくて。

「……」

言葉が出なかった。非常灯の薄い光しかなかったオフィスと違って、部屋の間接照明に照らされた水瀬ちゃんの体は、反則だった。白くて、柔らかそうで、Eカップは推定じゃなくて事実だった。

「そんな見ないでください……恥ずかしい……」

「ごめん……綺麗すぎて」

「……ふふ、佐伯さんが言うと本気っぽくて余計恥ずかしい」

胸に手を伸ばした。触れた瞬間、水瀬ちゃんの息が止まった。

「あ……」

柔らかい。信じられないくらい柔らかい。指が沈み込んで、形が変わって、手を離すとゆっくり戻る。なんだこれ。

「大きいな……Eカップ?」

「……はい。Eの65です……」

「すげえ……」

「すげえって……もうちょっと言い方……」

「ごめん。いや、すげえ綺麗」

「フォローになってないです……あっ」

乳首に親指が触れた。ぴくっと体が跳ねた。

「……感じる?」

「……ちょっと……」

ちょっとじゃないだろ、っていうくらい反応してた。軽く転がすだけで、水瀬ちゃんの吐息が変わる。

口に含んだ。

「ひゃっ……!やっ……」

「嫌?」

「嫌じゃ……ない……です……」

舌で転がしながら、もう片方の胸を揉んだ。水瀬ちゃんが俺の頭を抱えるようにして、シーツを掴んでた。

「佐伯、さん……あの……私も、触りたい……」

俺のシャツを掴んで引っ張ってきた。脱いだ。水瀬ちゃんの手が俺の腹筋をなぞった。

「……意外と、鍛えてるんですね」

「週2でジム行ってるからね」

「知らなかった……」

「知る機会ないだろ普通」

「……これからは知れますか?」

その言い方は反則だった。

スウェットに手をかけた。水瀬ちゃんが自分で腰を浮かせてくれて、下ろした。下着だけになった水瀬ちゃんが、自分の膝を閉じようとする。

「……見ないで……」

「目つぶってる」

「嘘ですよ、目開いてるじゃないですか」

「ごめん、無理」

下着の上から触れた。湿ってた。

「……っ」

「もう濡れてるじゃん……」

「言わないでください……」

指をゆっくり動かすと、水瀬ちゃんが声を殺した。

「あっ……んっ……」

「脱がすよ」

「……はい」

下着を下ろした。きれいに処理されてた。

「……直接、触るね」

「あっ……!そこっ……」

クリに指が触れた瞬間、水瀬ちゃんの腰が跳ねた。感度がすごい。

「気持ちいい?」

「気持ちいい……です……佐伯さんの指、あったかい……」

ゆっくり指を入れた。中はきつくて、でも濡れてるからすんなり入った。

「んんっ……!」

「大丈夫?」

「大丈夫……もっと……奥……」

指をかき回すように動かすと、水瀬ちゃんの声が大きくなった。内壁がきゅっと締まる。

「やば……気持ちいい……っ」

「こんな声出すんだ、水瀬ちゃん」

「だって……前の彼氏……こんなに丁寧にしてくれなかった……から……」

その言葉を聞いて、なんかすごく腹が立った。前の彼氏に。こんないい子をちゃんと大事にしなかったのかよ、と。

指の動きを速めた。親指でクリを刺激しながら、中を掻き上げるように動かす。

「あっ、あっ、佐伯さっ……待っ……なんか……」

「いきそう?」

「わかんない……でもなんか……やばい……っ」

水瀬ちゃんが俺の腕を掴んだ。爪が食い込むくらい強く。

「あっ……んんんっ……!」

びくびくって震えて、中がぎゅっと締まった。水瀬ちゃんの口が半開きになって、目が潤んで、ぼうっとした顔をしてた。

「……すご……何今の……」

「いったの?」

「……たぶん……前の人の時は、こんなの……なかったです……」

(マジで何してたんだよ前の彼氏)

「佐伯さん……入れてほしい……」

「……ゴム、ある。待ってて」

引き出しからコンドームを取り出した。使用期限を確認した。(セーフ、まだ半年ある……)

つけようとしたら、水瀬ちゃんが手を伸ばしてきた。

「……私がつけていいですか」

「え、いいけど」

水瀬ちゃんが慣れない手つきで転がした。ちょっと裏表間違えて、やり直してた。

「……ごめんなさい、下手で」

「いや、大丈夫」

やっと装着できて、水瀬ちゃんが仰向けになった。脚を開く。間接照明に照らされた水瀬ちゃんの体が信じられないくらいきれいで、俺は一瞬「これは夢じゃないのか」と本気で思った。

先端を当てた。

「……いくよ」

「……はい」

ゆっくり入れた。きつい。あったかい。水瀬ちゃんが目をぎゅっとつぶった。

「っっ……!」

「痛い?」

「痛く……ない……。久しぶりだから……ちょっと……」

奥まで入ったとき、水瀬ちゃんが深く息を吐いた。俺も吐いた。

「……動くね」

「……はい」

ゆっくり腰を引いて、戻す。水瀬ちゃんの声が漏れた。

「あ……っ……ん……」

気持ちよかった。ただ気持ちいいだけじゃなくて、水瀬ちゃんの表情が変わっていくのが見えて、それが興奮した。眉が寄って、唇が開いて、目がとろんとしていく。

「佐伯さん……もっと……速く……」

ペースを上げた。水瀬ちゃんが声を抑えきれなくなってきた。

「あっ、あっ、んっ……気持ちいい……っ」

「水瀬ちゃんも……やばい……中きつい……」

「だめ……そんな言われたら……余計締まっちゃう……っ」

手を繋いだ。水瀬ちゃんが強く握り返してきた。

「佐伯さん……佐伯さん……っ」

名前を呼ばれるたびに、奥の方がきゅっと締まる。やばい、もう限界が近い。

「俺もう……そろそろ……」

「いい……一緒に……」

腰を密着させて、奥まで押し込んだ。

「あっ……んんんっ……!」

水瀬ちゃんの体が弓なりになって、中が何度も痙攣した。俺もその締めつけに耐えきれずに、ゴムの中に出した。

「……っ……はぁ……」

しばらくそのまま動けなかった。水瀬ちゃんが目を開けて、俺を見上げた。

「……佐伯さん」

「ん」

「……泣いてよかった」

笑いながら泣いてた。えくぼが見えた。

抜いて、ゴムを処理した。水瀬ちゃんがタオルケットを被って、こっちを見てた。

「隣、来てください」

「……いいの?」

「今さらですよ」

それもそうだ。隣に滑り込むと、水瀬ちゃんがくっついてきた。背中を向けて、俺の腕の中に収まった。

「……ね、佐伯さん」

「ん」

「これ、一回だけのやつですか」

心臓がどくんと鳴った。

「……水瀬ちゃんは、どっちがいい?」

「私の気持ちは、さっき言いました」

そうだった。ずっと思ってた、って言ってた。

(でも本当にいいのか。今日つらいことがあって、その反動じゃないのか)

「……月曜、ちゃんと話そう」

「え、月曜まで待つんですか」

「お互い冷静な時に。酔ってないし泣いてない時に。それでも同じ気持ちだったら……ちゃんと付き合いたい」

水瀬ちゃんがくるっと振り向いた。

「……佐伯さん、やっぱり優しすぎます」

「だからそれ、刺激がないのと紙一重で」

「違いますよ」

水瀬ちゃんが俺の顔を両手で挟んで、軽くキスした。

「……月曜日、私から言いますから。覚悟しててくださいね」

「……おう」

窓の外がうっすら白んできてた。時計を見たら5時前だった。

もう朝じゃん、と思いながら、水瀬ちゃんの寝息が聞こえてきて。俺はしばらく天井を見てた。

正直に言う。この時点で、俺はもう完全に落ちてた。月曜まで待つとか言ったけど、もう結論は出てた。

で、月曜日。

出社したら水瀬ちゃんが先にいて、俺を見た瞬間にぱっと笑った。いつものムードメーカーの顔だった。でも俺にだけ見えるように、小さく手を振ってきた。

昼休み、屋上で待ち合わせた。10月の空は高くて、五反田のビル群がよく見えた。

「佐伯さん、金曜の夜のこと覚えてますか」

「忘れるわけないだろ」

「私、泣いてたのと……その後のこと」

「うん」

「冷静に考えました。土日ずっと考えました」

「……俺も」

「結論、変わりません。佐伯さんが好きです。付き合ってください」

秋の風が吹いてた。水瀬ちゃんの髪が揺れてた。

「……俺でいいの? 刺激ないよ?」

「刺激ならもう十分もらいました。金曜の夜に」

(それは刺激っていうか……いや、まあ、そうか)

「わかった。よろしく」

「はい。よろしくお願いします」

水瀬ちゃんが笑って、えくぼが出て、俺はまた落ちた。何回落ちるんだよ。

あれから8ヶ月経った。水瀬ちゃんは今、俺の部屋で一緒に暮らしてる。キャットタワーはまだある。今度一緒に猫を飼おうって話してる。

あの夜、鍵を忘れてなかったら。あの夜、水瀬ちゃんがオフィスで泣いてなかったら。偶然が重ならなかったら、俺はたぶん今も1Kの部屋で一人でYouTube見てた。

だから俺は、うっかりな自分に感謝してる。生まれて初めて。


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