ミニバスで泣かされた鬼コーチの娘が、社会人リーグの敵チームにいた件について

社会人3年目、24歳の冬の話です。

俺は大学を出てから地元の横浜に戻って、みなとみらいの小さいIT企業でSEをやってました。毎日モニター3枚に囲まれて、退勤したらコンビニ弁当食って寝るだけ。友達もほとんど県外に散ってて、休日はNetflixかYouTubeか、たまにジムで走るくらい。彼女? いません。3年いません。最後に女の子とサシで飯食ったのいつだっけ、ってレベル。

そんな俺がなんで社会人バスケリーグに参加することになったかというと、会社の先輩に「人数足りないから来い」って半ば強制的に連れていかれたからです。

俺は小3から中3までミニバス~部活でバスケやってた。高校では帰宅部になったけど、まぁ素人よりはマシだろうと。週末の朝9時に保土ケ谷の市民体育館に集合って言われて、眠い目こすりながら行きました。

到着したら、もう2チーム分くらい人がいて、アップしてた。20代から40代まで幅広い。みんな適当なバッシュ履いて、Tシャツ短パンで和気あいあいとしてる。俺もストレッチ始めて、コートを見回したとき。

向こうのゴール下で、左手のレイアップを繰り返してる女がいた。

背が高い。たぶん168くらいある。黒のハーフパンツにグレーのタンクトップ。髪はポニーテールで、汗で首筋に後れ毛が張り付いてた。フォームがきれい。明らかに経験者で、ボールの持ち方とか、ステップの入れ方が違う。

(……あれ、見たことある動きだな)

レイアップの踏み切りが独特なんですよ。普通より半歩手前で跳ぶやつ。ミニバス時代、俺にあの跳び方を死ぬほど練習させた人がいた。

「嘘だろ……」

振り向いたその顔を見て、確信した。

柊(ひいらぎ)さんだ。

柊さんは俺のミニバスチームの鬼コーチ――柊監督の一人娘で、4つ上。俺が小3で入ったとき、彼女は小6のキャプテンだった。当時から背が高くて、小学生離れしたプレーをしてて、俺たち下級生はビビりながらも憧れてた。中学のときも同じ地区の大会で何回か顔を合わせてたけど、彼女が高校に上がってからは完全に音信不通。

芸能人で言うと、新木優子に似てる。目元がキリッとしてて、でも笑うと急にくしゃっとなるタイプ。身長168cm、28歳。タンクトップから覗く鎖骨のラインがえげつなくて、腕も適度に筋肉がついてて、バスケやってた女特有の健康的な色気がある。

(やばい。めちゃくちゃきれいになってる)

小学生のときは「柊キャプテン怖い」としか思ってなかったのに。人間って変わるもんですね。いや、変わったのは俺の方か。

試合が始まった。俺と柊さんは別チームで、しかもマッチアップが俺のポジションと被ってた。ポイントガード同士。

最初のプレーで柊さんがドリブルで切り込んできて、俺がヘルプに入ったら、目が合った。

「……え、まーちゃん?」

まーちゃん。小学生のとき俺はそう呼ばれてた。本名が「真人(まさと)」だから。

「あ、柊さん。お久しぶりです」

「うそ、マジで? でっか! 背伸びたね!」

「まぁ小3のときに比べたら……」

「ちょっと待って今試合中だった。あとで話そ!」

そう言って柊さんはにやっと笑って、俺のディフェンスを軽くかわしてレイアップを決めた。あの独特の踏み切りで。

(……うわ、かっこいい)

試合中ずっと柊さんのことが気になって集中できなかった。自分のチームの先輩に「お前ボーッとしすぎ」って怒られたけど、知らん。だって目の前に初恋の人がいるんだもん。

あ、そう。初恋なんですよ、柊さん。

中1の地区大会のとき、柊さんが中3で。試合前に俺がガチガチに緊張してたら、柊さんがわざわざ敵チームの俺のところに来て「まーちゃん、楽しんでおいで」って頭ぽんぽんしてくれたんです。あれで完全に堕ちた。中学生男子なんてチョロいもんですよ。

で、試合が終わった。

片付けしながら柊さんが近づいてきた。

「まーちゃんさ、このあと時間ある? みんなでご飯行くんだけど」

「あ、行きます行きます」

即答。断る理由がない。

保土ケ谷駅の近くの居酒屋に8人くらいで入った。柊さんは偶然――いや、絶対狙ってただろ――俺の隣に座った。

「まーちゃん今なにしてんの?」

「SEです。みなとみらいの会社で」

「へー、頭よかったもんね。お父さん元気? うちのお父さんがたまに『まーちゃんは筋がよかった』って言ってるよ」

「柊監督が? 嘘でしょ。俺めちゃくちゃ怒られてた記憶しかないんですけど」

「あはは、お父さん褒めるの下手だからね」

柊さんはハイボールを飲みながら、俺の知らない12年間のことを話してくれた。高校でバスケ推薦で強豪に行ったこと、大学では怪我でプレーを半分諦めたこと、今は横浜市内の中学校で体育の教師をしてること。

「先生やってるんですか。すげえ」

「まぁね。バスケ部の顧問もやってるよ。お父さんの血だね」

「鬼コーチの血筋……生徒泣かせてない?」

「泣かせてるよ、たまに。でもまーちゃんほど泣かせてないと思う」

「俺あの頃どんだけ泣いたか知ってます?」

「知ってるよ。毎回練習終わりに体育館の隅でべそかいてた」

「見てたんですか」

「見てた。で、翌週もちゃんと来るなぁこの子って思ってた」

その言い方がなんか、ずるかった。

酒が進んで、他のメンバーが二次会のカラオケに行くって話になった。俺も行こうとしたら、柊さんが俺の袖を引っ張った。

「私カラオケ苦手なんだよね。まーちゃん、もうちょっとだけ付き合ってくれない?」

(え?)

先輩にLINEで「先帰ります」と送って、柊さんと二人で居酒屋に残った。

二人きりになった途端、柊さんの雰囲気が変わった。さっきまでみんなの前では「先輩」って感じだったのに、急にぽつぽつ話し始めた。

「……実はさ、去年まで付き合ってた人がいたんだけど」

「はい」

「同じ学校の先生で。3年付き合って、結婚の話も出てたんだけど……ダメになっちゃって」

「……それは、すみません」

「なんで謝るの。まーちゃん関係ないじゃん」

柊さんは笑ったけど、目が笑ってなかった。

「向こうが別の先生と……まぁ、よくある話だよ」

グラスの氷をからからと回しながら、柊さんは天井を見上げた。

「それからさ、なんか人を信用するのしんどくなっちゃって。職場では普通にしてるけど、プライベートで誰かと会うのが億劫になってた」

「……でも今日、俺と残ってくれてるじゃないですか」

「うん。まーちゃんだからかな」

その一言で、心臓の音が急にうるさくなった。

(落ち着け。社交辞令だろ。年下の知り合いだから気楽なだけだろ)

「ねぇ、今度の土曜もバスケ来る?」

「行きます」

それから毎週土曜、俺は保土ケ谷に通った。

バスケ自体も久しぶりで楽しかったけど、正直に言えば柊さんに会いたくて行ってた。試合で柊さんとマッチアップするとき、至近距離で目が合うのが嬉しくて、でもそれを悟られたくなくて、めちゃくちゃ真面目にディフェンスした。

3週目のとき、柊さんがシュート練習の合間に俺に言った。

「まーちゃん、左手のレイアップ下手になってない?」

「10年ブランクありますからね」

「ダメダメ。ほら、踏み切りもっと手前」

柊さんが俺の腰に手を添えて、フォームを矯正してきた。小学生のときと同じように。でも俺はもう小学生じゃないから、腰に触れた手の温度が全然違う意味を持ってしまう。

「……はい」

「声ちっちゃ。ミニバスのときはもっと元気よかったのに」

いや、ミニバスのときはあなたの手が腰にあっても何も感じなかったからですよ。

4週目の帰り、柊さんから「来週の土曜、練習試合のあと空いてる? 中華街行かない?」ってLINEが来た。

(これ……デートか? デートじゃないのか? 先輩が後輩を飯に誘ってるだけなのか?)

当日。練習試合で3ポイント2本決めて、ちょっといいとこ見せた(つもり)。

中華街に行く電車の中で、柊さんは私服だった。白いニットにデニムのスカート。いつものタンクトップ+短パンと全然違う。

「……なんか、雰囲気違いますね」

「え、変?」

「いや、変じゃないです。きれいです」

言ってから死ぬほど恥ずかしくなった。でも柊さんは「ありがと」って小さく笑っただけで、特に突っ込んでこなかった。大人だ。

中華街の関帝廟のそばにある四川料理屋に入った。麻婆豆腐が辛すぎて二人でヒーヒー言いながら食べた。

「まーちゃんってさ、彼女いるの?」

唐突に来た。

「いないです。3年くらい」

「3年!? もったいない」

「いや、別にモテないんで。普通に」

「嘘でしょ。背も高いし、顔もわるくないのに」

「170しかないですよ。柊さんと並んだらほぼ同じ」

「175あるでしょ。盛るなら逆に盛りなよ」

「……173です」

「ほらね」

柊さんはビールを飲みながら、ふっと遠い目をした。

「私さ、この前の別れてから思ったんだけど。同い年とか年上って、どうしてもお互い見栄張っちゃうんだよね」

「はぁ」

「年下の方が楽だなって最近思う」

(……それは俺に言ってるのか? 一般論か?)

この時点でもまだ分かってなかった。鈍感にもほどがあるって今なら思う。

店を出て、中華街をぶらぶら歩いた。2月の横浜は寒くて、柊さんが両手をコートのポケットに突っ込んで小さくなってた。

「寒い……」

「帰ります?」

「まだ帰りたくない」

「じゃあどっか入ります?」

「……まーちゃんの家、近い?」

心臓が止まるかと思った。

「え、あの、関内から2駅なんで……近いっちゃ近いですけど」

「散らかってる?」

「いや……まぁ、一応」

「じゃあいいじゃん。あったかいもの飲みたい」

俺のワンルームに柊さんを連れてくることになった。

電車の中で無言だった。俺は頭の中がぐるぐるしてて、柊さんは窓の外をぼーっと見てた。

部屋に着いた。8畳のワンルーム。一人暮らしにしてはまぁまぁ片付いてるほうだと思う。

「コーヒーでいいですか」

「うん」

柊さんはコートを脱いで、ベッドの端に座った。俺はキッチンでドリップコーヒーを淹れた。手が震えてて、粉をこぼした。

マグカップを二つ持って戻ると、柊さんが部屋を見回してた。

「まーちゃん、本多いね」

「技術書ばっかですけど」

「あ、スラムダンクあるじゃん」

「それは聖典なんで」

「わかる」

柊さんがコーヒーを一口飲んで、マグカップを両手で包んだ。

「ねぇ、まーちゃん」

「はい」

「私のこと、女として見てる?」

空気が変わった。

「……え」

「ごめん、変なこと聞いて。でもさ、毎週バスケ来るようになったのって、私に会いたかったからじゃないの?」

バレてた。完全にバレてた。

(そりゃそうだよな。毎回マッチアップしたがるし、練習後いつも隣に座ってたし)

「……見てます。女として」

「いつから?」

「中1のとき、大会の前に頭ぽんぽんしてくれたときから。ずっと」

柊さんが目を大きくした。

「……中1? 10年前じゃん」

「はい」

「なにそれ……」

柊さんの声が震えた。笑ってるのか泣いてるのか分からない顔だった。

「……私、28だよ? 4つも上だよ?」

「知ってます」

「前の彼氏に浮気されて、信用できなくなって、生徒の前では笑ってるけど家帰ったら泣いてるような面倒な女だよ?」

「……知ってます。それでも」

柊さんがマグカップをテーブルに置いた。俺の方を向いて、じっと見てきた。

「キス、していい?」

俺は頷いた。言葉が出なかった。

柊さんが俺の顔に手を添えて、唇を重ねてきた。コーヒーの味がした。柔らかくて、少し震えてた。

離れたとき、柊さんの目が潤んでた。

「……まーちゃん」

「はい」

「もっと、して」

もう一度キスした。今度は深く。舌が触れた瞬間、柊さんが小さく声を漏らした。俺は柊さんの背中に手を回した。ニット越しに伝わる体温が高くて、バスケのあとみたいに熱かった。

「ん……っ」

キスしながら、柊さんの腰を引き寄せた。柊さんが俺の肩を掴んで、しがみつくように体を預けてきた。

(本当にいいのか。これ、勢いじゃないのか)

頭のどこかで冷静な声がしてたけど、柊さんの唇が離れるたびに「もっと」って言うから、止められなかった。

ニットの裾に手を入れた。腹筋の薄いラインに触れた。

「……っ」

「脱がしていい?」

「……うん」

ニットを頭から抜いた。黒のスポーツブラ。バスケやってた名残みたいなチョイスに、なんかグッときた。背中のホックを外すと、柊さんが腕で胸を隠した。

「……見せてよ」

「恥ずかしい……暗くして」

部屋の電気を消して、デスクのモニターの光だけにした。薄暗い中で、柊さんがゆっくり腕を下ろした。

Cカップくらいだと思う。大きくはないけど、形がきれいで、運動してた体に合ってた。

「きれい」

「……お世辞でしょ」

「本気です」

胸に触れた。柊さんが息を詰めた。指で乳首に触れると、もう硬くなってた。

「あ……っ」

「感じてる?」

「……久しぶりだから」

久しぶり。その言葉で、柊さんが別れてからずっと一人だったことを想像して、胸が締めつけられた。

ベッドに横になってもらって、デニムスカートのボタンを外した。黒のショーツ。統一感あるな、と場違いなことを思った。

太ももに触れた。筋肉の上に薄く脂肪が乗ってて、しなやかだった。バスケやってた脚だ。

内腿をなぞると、柊さんが脚を閉じようとした。

「ちょっと……恥ずかしい……」

「柊さん」

「……なに」

「力抜いて。大丈夫だから」

柊さんがふっと笑った。

「まーちゃんにそれ言われるの、変な感じ」

「元コーチの娘をコーチングしてるみたいな?」

「やめて笑っちゃう」

少し空気が緩んだ。柊さんの脚の力が抜けた。

ショーツの上から触れた。もう濡れてた。

「……っん」

ショーツをずらして、直接触れた。指を滑らせると、柊さんが腰を浮かせた。

「ここ、気持ちいい?」

「……うん……そこ、いい……」

クリを指の腹で円を描くように触ると、柊さんの呼吸が早くなった。太ももがぴくぴく震えてるのが分かった。

「あっ……まーちゃん……やば……」

指を中に入れた。きつくて、熱くて、吸い付いてくる感覚があった。

「んんっ……深い……」

二本目を入れて、ゆっくり動かした。親指でクリを触りながら。柊さんが俺のTシャツを掴んで、顔を押し付けてきた。

「だめ……もう……っ」

柊さんの体がびくんと跳ねた。中がきゅっと締まって、指が動かせなくなった。

「はぁ……っ……はぁ……」

柊さんが荒い息のまま、俺の目を見てきた。

「……まーちゃんも脱いで」

俺はTシャツとジーンズを脱いだ。もうとっくに限界だった。

柊さんが俺の下を見て、少し目を逸らした。

「……大きくなったね、いろいろ」

「やめてください、そのコメント」

「ふふ……ゴム、ある?」

「あ、あります。たぶん」

引き出しを漁って、期限ギリギリのやつを見つけた。3年彼女いない男のリアルがこれです。

装着して、柊さんの上に覆いかぶさった。先端を当てると、柊さんが息を止めた。

「入れるよ」

「……うん」

ゆっくり腰を進めた。あったかくて、ぬるぬるしてて、でもきつかった。久しぶりだって言ってたのが分かる。

「あ……ぁ……」

「痛くない?」

「痛くない……でも……すごい……」

奥まで入った瞬間、柊さんが俺の背中に爪を立てた。

「っ……動いて……」

ゆっくり腰を引いて、また入れる。柊さんが声を殺してるのが分かった。唇を噛んで、目を閉じて。

「声、出していいよ」

「だって……恥ずかしい……」

「俺しかいないから」

その一言で、柊さんの何かが外れたみたいだった。

「あっ……あっ……まーちゃん……」

腰を動かすたびに、柊さんが小さく声を漏らす。俺の名前を呼ぶ声が、さっきまでの「先輩」じゃなくて、ただの女の声で。

(俺、今、柊さんと……)

信じられなかった。ミニバスのときに憧れてた人の中にいる。こんなことがあっていいのかって、ずっと頭のどこかで思ってた。

「もっと……もっと奥……」

腰の角度を変えた。深く入ると、柊さんが声にならない声を上げた。

「そこ……っそこいい……っ」

柊さんが俺の首に両腕を回して、しがみついてきた。耳元で息遣いが聞こえて、時々名前を呼ばれる。それだけで頭がおかしくなりそうだった。

「柊さん……俺、そろそろ……」

「いいよ……いって……っ」

最後に深く腰を押し込んで、果てた。ゴム越しでも、ものすごい解放感だった。体中の力が抜けて、柊さんの上に崩れた。

「……重い」

「すみません」

横に転がった。二人で天井を見てた。俺のワンルームの安い蛍光灯のカバーに虫の影が見えた。

「……ねぇ、まーちゃん」

「はい」

「もう一回、したい」

柊さんが横向きになって、俺の胸に手を置いた。目が潤んでて、さっきイったときとは違う、切ない顔をしてた。

「久しぶりすぎて……全然、足りない」

二回目はゴムを新しく替えて、後ろから抱きしめるようにした。柊さんの背中が俺の胸に当たって、さっきより密着度が高かった。

「あ……この体勢……好き……」

「……俺も」

一回目よりゆっくり動いた。急がなくていいって思った。柊さんの首筋にキスしたら、鳥肌が立ったのが唇で分かった。

「まーちゃん……好き……」

「……え」

「好き。まーちゃんのこと……好きになっちゃった」

嘘だろ、って思った。でもたぶん嘘じゃない。柊さんは嘘がつけない人だから。小学生のときからそうだった。監督に「お前はポーカーフェイスができないからダメだ」って怒られてたの、俺は知ってる。

「……俺は10年前から好きですけど」

「ずるい……そんなの勝てないじゃん……」

柊さんが泣きながら笑って、俺の手をぎゅっと握った。

二回目は長かった。一回目の焦りが嘘みたいに、ゆっくり、柊さんの反応を確かめながら動いた。柊さんが俺の手を自分の胸に導いて、「触って」って言ったとき、この人は俺を信用してくれてるんだって思った。3年付き合った男に裏切られて、人を信じるのがしんどくなったって言ってたのに。

「あっ……いく……まーちゃんと一緒に……っ」

「俺も……もう……」

柊さんの中がぎゅっと締まって、同時に俺も限界が来た。二人で息を止めて、一緒に果てた。

しばらく、そのままの体勢で動けなかった。

「……まーちゃん」

「なに」

「明日の朝、パンケーキ焼いてあげる」

「うち、ホットケーキミックスしかないですよ」

「それでいいの」

柊さんが俺の腕の中でくるっと向きを変えて、顔をうずめてきた。

「帰りたくない」

「帰らなくていいですよ」

「……じゃあ、帰らない」

朝、目が覚めたら、キッチンからバターの匂いがした。柊さんが俺のTシャツだけ着て、フライパンの前に立ってた。

「あ、起きた。もうすぐできるよ」

「……なんかその格好、反則じゃないですか」

「知らない。早く顔洗っておいで」

食卓で向かい合って、ホットケーキを食べた。メープルシロップがなかったから蜂蜜で代用した。柊さんは「蜂蜜のほうが好きかも」って言った。

「ねぇ、まーちゃん」

「はい」

「付き合うって言ってなかったよね、私たち」

「……確かに」

「言って」

「え、俺から?」

「当たり前でしょ。年下が言うの」

「……付き合ってください」

「はい」

柊さんが蜂蜜のついた口でにっこり笑った。新木優子がくしゃっと笑うやつ。あの笑顔が好きだったんだよ、ずっと。

あれから半年経った。柊さんは相変わらずバスケが上手くて、俺はまだ左手のレイアップを矯正され続けてる。毎週土曜に体育館で会って、帰りに一緒にラーメン食って、月に2回くらい泊まりに来る。

先月、柊監督に会った。練習に顔を出しに来たらしい。

「お前、柊と付き合ってるんだって?」

心臓が止まるかと思った。

「……はい」

「そうか」

それだけだった。それだけだったけど、帰り際に「あいつを泣かせたら許さんからな」って小声で言われた。ミニバスのときと同じ低い声で。

泣かせません。もう十分泣いた人だから。

……という話でした。読んでくれてありがとう。


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