深夜のラーメン屋で週3バイトしてた大学生が閉店作業中に店長の俺にだけ見せた顔

これ書いていいのかわかんないけど、まあ聞いてくれ。

俺、28歳。下北沢で親父が30年やってたラーメン屋を2年前に継いだ。味噌ラーメン一本の小さい店。カウンター12席、テーブル2つ。親父が腰やって引退したから、半ば強制的に店を任された。

見た目はまあ、よく言えば普通。170センチ、中肉中背。強いて言えば松山ケンイチに似てるって言われたことがある。ただしデスノートの時じゃなくてデカワンコの時のやつな。つまりぱっとしない。

彼女は3年いない。ていうか飲食やってると出会いがマジでない。朝仕込みして昼営業して夜営業して深夜に締めて帰って寝る。その繰り返し。友達にも「お前このまま味噌の匂い染み付いて死ぬぞ」って言われてた。

そんな俺の店に、去年の10月、バイトの応募が来た。

面接に来たのが、ゆず――いや、本名は伏せるけど、ここではそう呼ぶ。日本女子大の3年生、21歳。履歴書の写真見た時点で(いやこれ絶対すぐ辞めるタイプだろ…)って思った。飲食のバイトって見た目がいい子ほど続かないんだよ。経験上。

で、実際会ったらもっとびびった。橋本環奈をちょっと大人っぽくした感じ。身長は158センチくらいで、ゆるく巻いた茶髪のセミロング。目がでかくて、笑うと目尻が下がるタイプ。胸は――まあこの時点では制服の上からだからわかんなかったけど、後でEカップだと知ることになる。

(絶対1ヶ月で辞めるな…)

でも人手が足りなかったのは事実だし、週3で夜の部に入れるって言うから採用した。

で、予想に反してこの子がめちゃくちゃ真面目だった。

初日から声がでかい。「いらっしゃいませ!」の声が厨房まで響く。客あしらいもうまいし、テーブル拭くのも早い。なにより、まかないを毎回きれいに食べる。

うちのまかないは基本、味噌ラーメンの試作品だ。新しいスープの配合を試したり、トッピングの組み合わせ変えたり。正直うまくいかない日のほうが多い。でもゆずは毎回「店長、ごちそうさまでした」ってどんぶり持ってきて、スープまで全部飲み干してる。

「今日のやつ、昨日より生姜きいてて好きです」

「あー、ちょっと入れすぎたかなって思ったんだけど」

「え、いやこっちのほうがいいですよ。体あったまるし」

こういう感想をさらっと言ってくれるの、地味に嬉しかった。他のバイトは「普通っすね」とか「味わかんないっす」とかそんなんばっかだったから。

1ヶ月経っても辞めなかった。2ヶ月経っても。むしろどんどん仕事覚えて、常連のおっちゃんたちにも名前覚えられて、「ゆずちゃんいる日に来るわ」なんて言う客まで出てきた。

(やめてくれ、この子目当てで来られると俺のラーメンの立場がない…)

3ヶ月目くらいから、閉店作業を一緒にやるようになった。他のバイトは上がらせて、ゆずと俺の二人で店を閉める。別にそうしたくてそうしたんじゃない。ゆずが「私、閉めまでやりますよ」って自分から言い出したんだ。

閉店作業って地味にやること多い。フライヤーの油替え、排水溝の掃除、食材の在庫チェック、翌日の仕込みの下準備。二人でやると1時間で終わるけど、一人だと2時間かかる。

問題は、この閉店後の時間だった。

作業しながら、いろんな話をするようになった。ゆずの大学の話、就活の話、実家の話。ゆずは長野の松本出身で、3人きょうだいの末っ子。実家は蕎麦屋をやってるらしい。

「だから飲食のバイトがよかったんです。なんか落ち着くっていうか」

「蕎麦屋の娘がラーメン屋でバイトって、親父さん怒んない?」

「あはは、それ言ったら『裏切り者』って言われました」

「だろうな」

「でもうちの味噌ラーメン食べさせたら黙りましたよ。持って帰ったら『悔しいけどうまい』って」

「マジで? ……嬉しいな、それ」

こういう会話がさ、閉店後の静かな店内で二人きりで交わされるわけ。カウンターの蛍光灯は半分落としてて、換気扇だけがブーンって回ってて。ゆずはバイトの制服――うちの店のロゴ入りの紺色のTシャツにエプロン――のまま、カウンターに肘ついて笑ってる。

(やばいな、これ)

意識し始めたのがいつかって聞かれたら、たぶんこの時期だ。でも認めたくなかった。店長がバイトの女の子に手出すとか、最悪じゃん。しかも7つも年下。それに、ゆずは誰にでも愛想がいい。俺にだけ特別ってわけじゃないだろって。

年が明けて1月。成人式の振袖の写真をゆずがLINEで送ってきた。去年撮ったやつらしい。深い赤の振袖に白い帯で、髪をアップにしてた。

「似合うじゃん」

「ほんとですか? 店長にそう言ってもらえると嬉しい」

「俺に言われてもな」

「店長に言ってほしかったんです」

……え? 今なんて?

その一言がずっと頭に残った。でも深読みするなって自分に言い聞かせた。たぶん社交辞令だろ。ノリだろ。若い子はそういうこと軽く言うんだよ。

(いや、でも「店長に言ってほしかった」って何?)

2月に入って、事件が起きた。

ゆずがシフト表を出しに来た時、目が真っ赤だった。

「おい、どうした」

「……なんでもないです」

「なんでもないって顔じゃないだろ」

「……彼氏に、振られました」

彼氏。

いた。彼氏。

その瞬間、胸の奥がぎゅってなった自分がほんと気持ち悪かった。なんでお前が落ち込んでんだよって話。

「そうか。……まかない食うか」

我ながらなんて気の利かない返しだ。でもそれしか出てこなかった。ゆずは少し黙ってから、小さく笑った。

「……食べます」

その日、閉店後にゆずにまかないを出した。いつもの味噌ラーメンじゃなくて、ちょっと手間かけたやつ。背脂多めにして、ネギは白髪ネギに変えて、味玉も半熟に仕上げた。親父が「気合い入れたい時はこれ作れ」って教えてくれた特別バージョン。

ゆずは一口食べて、止まった。

「…………これ、いつものと違いません?」

「ん? まあ、ちょっとな」

「めちゃくちゃ美味しい……」

そのままスープまで全部飲んで、最後にどんぶりを置いた時、ゆずは泣いてた。

「ごめんなさい、なんか……美味しすぎて……」

「泣くほどか」

「泣くほどです」

なんだよそれ。困るだろ。

その日から、ゆずの雰囲気がちょっと変わった。いや、仕事ぶりは変わらない。相変わらず声でかいし、客あしらいもうまい。でも閉店後の二人の時間で、距離が近くなった気がした。具体的に言うと、物理的に近い。カウンターで話す時、隣の席に座るようになった。前は2席空けてたのに。

3月。ゆずの就活が本格化した。

「店長、来週の水曜と金曜、面接入っちゃって……シフト出られないかもしれないです」

「いいよ。就活優先しろ」

「ありがとうございます……でもなんか、面接より店にいたいなって思っちゃうんですよね」

「馬鹿言うな。就職決めろ」

「……はーい」

そう言いながらも、ゆずは水曜の面接が終わった後、夜の営業に間に合うように店に来た。金曜もそう。面接終わりにスーツのまま裏口から入ってきて、着替えてホールに出る。

「お前、疲れてんだろ。今日は上がっていいぞ」

「大丈夫です。ここにいたいんです」

その言い方がさ。「働きたい」じゃなくて「いたい」なんだよ。

4月の頭。桜が咲き始めた頃。この日は珍しく雨で客が少なくて、早めに店を閉めた。

閉店作業を終えて、俺がいつものようにカウンターで翌日の仕込みメモを書いてたら、ゆずが隣に座った。いつもより近い。肩が触れそうなくらい。

「店長」

「ん?」

「私、就活やめようかなって思ってるんです」

「は? なんで」

「ここで正社員として働きたいです」

「…………」

正直、頭が真っ白になった。嬉しいのか困るのかわからなかった。いや、嬉しかった。でも。

「ダメだ」

「え……」

「うちは小さい店だ。正社員雇う余裕はないし、なによりお前の将来を潰すわけにいかない」

嘘だ。余裕がないのは本当だけど、本当の理由は別にある。ゆずが毎日この店にいたら、俺は絶対に気持ちを抑えられなくなる。それがわかってたから断った。

「……そうですか」

ゆずは静かに立ち上がって、「お疲れさまでした」って言って帰っていった。

次の日からゆずの態度がよそよそしくなった。仕事はちゃんとやる。でも閉店後に残らなくなった。「今日は先に上がりますね」って。

1週間それが続いた。

俺はモヤモヤしたまま仕込みをミスったり、スープの味がブレたり、常連に「今日のちょっと塩辛いぞ」って言われたり。明らかに調子が狂ってた。

木曜の夜。雨。客がまばらで、早めに閉めた。ゆずに「上がっていいぞ」って言ったら、珍しく動かなかった。

「店長、話があるんですけど」

「……なんだ」

「来月でバイト辞めます」

「……」

「就活もちゃんとやります。ご迷惑おかけしました」

「迷惑なんてかけてないだろ」

「じゃあなんで、避けるんですか」

「避けてない」

「避けてます。私が正社員の話した日から、店長のほうが距離取ってるじゃないですか」

図星だった。

「私バカだから、最初は自分が嫌われたんだと思いました。でもそうじゃないかもって……」

「ゆず」

「私のこと、どう思ってますか」

雨の音と換気扇の音だけがする店内で、ゆずがまっすぐ俺を見てた。橋本環奈に似てるとか、そういうのは関係なくて、この子の目にはなんていうか、嘘がない。半年以上見てきたからわかる。

「……お前に言ったらダメだろ、それ」

「なんでですか」

「店長とバイトだし、7つも離れてるし」

「そんなの関係ないです」

「関係あるだろ。世間的に」

「世間の話してません。店長と私の話してるんです」

……勝てない。この子には勝てない。

「好きだよ。いつからかわかんないけど。たぶん、まかないのスープ全部飲み干してるの見た時から、ずっと」

言っちまった。

ゆずが目を見開いて、それから――くしゃって顔を歪めて泣き出した。

「ずるい……先に言おうと思ってたのに……」

「先って、お前」

「私のほうが先に好きになったのに……正社員の話だって、ほんとは店長の近くにいたかっただけなのに……」

「知ってた」

「知ってて断ったの最悪じゃないですか!」

「……ごめん」

ゆずがエプロンで目を拭いて、鼻をすすって、それでもまだ泣きながら言った。

「じゃあ、付き合ってくれますか」

「……うん」

ゆずが飛びついてきた。エプロン越しに体温が伝わってくる。味噌と玉ねぎの匂いがする。いつもの匂い。この匂いがこんなに愛しいと思ったことはなかった。

「てか泣くなよ、エプロン汚れるだろ」

「洗えばいいでしょ……」

「……まあな」

抱きしめたまま、ちょっと顔を離した。至近距離でゆずの目が潤んでるのが見えた。

(キスしていいのかな。いいんだよな。彼女なんだから。いやさっき付き合ったばっかだけど)

俺が迷ってる間に、ゆずのほうから唇を寄せてきた。

柔らかかった。ラーメン屋のカウンターで、換気扇の音聞きながらするキスってどうなんだよって自分で思ったけど、頭の中が真っ白になってそんなことどうでもよくなった。

「ん……」

10秒くらいで唇を離したら、ゆずが耳まで真っ赤になってた。

「……もう一回」

二度目は俺から。今度は舌を入れた。ゆずが少し驚いたみたいに体を強張らせたけど、すぐに力を抜いて、舌を絡めてきた。

1分くらいだったと思う。唇を離した時、お互い息が上がってた。

「……場所変えないか」

「……うん」

店から歩いて5分の俺のアパート。1Kの狭い部屋。玄関入った瞬間から、また、キスが止まらなくなった。

靴を脱ぐのももどかしくて、ゆずを壁に押しつけるようにキスした。ゆずは俺のTシャツの裾を掴んで、引き寄せるようにしがみついてきた。

「シャワーとか……」

「あとで……今は離れたくない」

そのまま狭い部屋のベッドに倒れ込んだ。ゆずはまだバイトの制服のままで、紺色のTシャツの上からでも胸の膨らみがはっきりわかった。

(いいのか、本当に。この子、ついさっきまでバイトだった子だぞ)

でもゆずの手が俺の背中に回って、ぎゅっと抱きしめてきた時、そんな理屈は全部吹き飛んだ。

Tシャツの裾から手を入れた。ゆずの腹が少しひくっと動いた。

「くすぐったい……」

「ごめん」

「謝らなくていいです……触って」

手を上に滑らせると、ブラ越しに柔らかいものに当たった。想像以上にでかい。うちのTシャツの下にこれが隠れてたのか。

ゆずの背中に手を回してホックを外した。Tシャツごとブラを持ち上げると、白い胸がこぼれ出た。形が綺麗で、乳首は薄いピンク。

「……Eくらいある?」

「……当たりです。よくわかりましたね」

「制服じゃ全然わかんなかった」

「わざとスポブラにしてたんですよ……目立たないように」

そういう気遣いをしてたことにちょっと胸が痛くなった。

胸を触ると、ゆずが目を閉じて小さく声を漏らした。乳首を親指の腹で転がすと、腰がびくっと跳ねた。

「あ……店長……」

「店長って呼ぶの、今はやめてくれ」

「じゃあ……なんて……」

「名前でいい」

「……かい、さん」

下の名前で呼ばれたの、たぶん初めてだった。それだけで頭がどうにかなりそうだった。

乳首を口に含むと、ゆずの手が俺の頭に回って、髪を掴まれた。

「んっ……そこ、弱い……」

左右交互に舐めながら、手をゆずのジーンズの上に滑らせた。太ももの内側を撫でると、ゆずが自分から少し脚を開いた。

(マジか。本当にいいのか)

ジーンズのボタンを外して、ファスナーを下ろした。白い下着が見えた。シンプルなやつ。そこに手を当てると、もう濡れてるのがわかった。

「……恥ずかしい」

「脱がすぞ」

「……うん」

ジーンズと下着を一緒に脱がせた。ゆずが両手で顔を隠した。

「顔隠すなよ」

「だって……見られてると思ったら……」

「見るに決まってるだろ」

ゆずの太ももに顔を寄せて、内側にキスした。ゆずの体が震えた。そのまま少しずつ上に移動して、舐めた。

「あっ……かいさん……」

最初はゆっくり、クリの周りを舐めた。ゆずが敏感に反応するポイントを探りながら、少しずつ刺激を強くしていく。

「んんっ……そこ……そこやばい……」

ゆずの手が俺の頭を押さえつけるように掴んだ。太ももが閉じそうになるのを手で押さえて、舐め続けた。

「待って……ちょっと……もう……」

体がびくびく震え始めて、ゆずの声が途切れ途切れになった。

「あっ……だめ……いく……っ」

太ももで俺の頭を挟むようにして、ゆずが果てた。しばらく小刻みに体が震えてた。

顔を上げると、ゆずが涙目で俺を見てた。

「……すごい……こんなの初めて……」

「元カレにされなかったの?」

「あの人は自分のことしか考えてなかったから……」

その一言で、ゆずがなんで泣いてたのかわかった気がした。大事にされてこなかったんだ、この子は。

俺も服を脱いだ。ゆずが俺の下半身を見て、少し目を見開いた。

「……大きい」

「普通だと思うけど」

「普通じゃないです……」

ゆずが起き上がって、おずおずと手を伸ばしてきた。握られた瞬間、声が出そうになった。ゆずの手は小さくて、指が細くて、でもちゃんと力を入れて握ってくれた。

「……こう?」

「うん……いい」

ゆずがゆっくり上下に動かし始めた。目の前でゆずが真剣な顔して俺のを握ってるっていう状況が信じられなくて、(これ夢じゃないよな)って本気で思った。半年間カウンター越しに見てたこの子が、今こうして。

「舐めてもいい……ですか」

「いいけど……無理するな」

ゆずが口を寄せて、先端を舐めた。舌先がぴちゃっと当たる感覚で腰が浮きそうになった。

「ん……んっ……」

少しずつ深く咥えていく。うまくはない。歯が当たることもある。でもそれがリアルで、逆に興奮した。必死でやってくれてるのが伝わってくるから。

「もういい、ゆず」

「え……気持ちよくなかったですか?」

「逆。このままだと終わる」

ゆずを仰向けに寝かせた。脚の間に入って、顔を近づけた。

「ゴム、つけるから」

枕元の引き出しからコンドームを出した。つける時、手が少し震えた。情けない。28にもなって。

「……緊張してる?」

「してない」

「嘘。手震えてますよ」

「うるさい」

ゆずがくすっと笑った。その笑顔が店で見せるのと全然違って、もっと柔らかくて、もっと近くて、胸が苦しくなった。

先端を当てて、ゆっくり入れていった。ゆずが息を吸い込む音がした。

「ん……っ」

「痛いか?」

「大丈夫……ゆっくりなら……」

少しずつ奥に進めると、ゆずが俺の腕を掴んだ。爪が食い込むくらい強く。

奥まで入った時、二人とも動かなかった。

「……かいさん、中にいる……」

「うん」

「嬉しい……」

なんでこの子はこういう台詞をさらっと言えるんだよ。ずるいだろ。

ゆっくり腰を動かし始めた。ゆずの中はすごく温かくて、締め付けが強くて、自分のものじゃない感覚に頭がくらくらした。

「あ……ん……気持ちいい……」

ゆずの声が、店でのはきはきした声とは全く違う、甘くて柔らかい声になってた。閉店後に二人で話す時の声ともまた違う。この声は俺しか知らない。そう思ったら理性のタガが外れかけた。

腰の動きを少し速くした。ゆずが俺の背中に手を回して、爪を立てた。

「あっ……あっ……そこ……」

「ここか」

角度を少し変えて、同じところを突いた。ゆずが声にならない声を上げた。

「やば……っ……かいさん……すき……」

「俺も。ずっと好きだった」

キスしながら腰を動かした。ゆずの脚が俺の腰に絡みついてきた。密着する体温と、汗ばんだ肌と、時々漏れる甘い声と。こんなの3年間味噌の匂いまみれだった俺には刺激が強すぎる。

「やばい……もう無理かも……」

「私も……もう一回いきそう……」

「一緒にいく」

最後にぐっと腰を押し込んで、そのまま出した。体中の力が抜けるような快感が走って、ゆずも同時にびくっと震えた。

「あ……っ……」

しばらくそのまま動けなかった。ゆずの胸の上に頭を乗せて、心臓の音を聞いてた。速い。俺のも速い。

「……ね、店長」

「店長って言うなって」

「あ……かいさん」

「なに」

「明日のまかない、何ですか」

「…………この状況でそれ聞く?」

「だって気になるんだもん」

笑った。体を起こして、ゆずの髪を額からどけてやった。

「リクエストあるなら聞くよ」

「じゃあ……あの、泣いた日に作ってくれたやつ。背脂多めのやつ」

「覚えてんのか」

「当たり前じゃないですか。あの日から、もう絶対この人だって思ったんですよ。こんなラーメン作れる人他にいないって」

「ラーメンで落ちたのかよ」

「ラーメンじゃなくて、あのラーメン作ってくれたかいさんに落ちたんです」

……降参。

ゴムを替えて、二回戦に入った。今度はゆずが上に乗りたいと言った。

またがったゆずの表情は、さっきの泣きそうな顔じゃなくて、なんか、いたずらっぽい笑みを浮かべてた。

「ね、かいさん」

「ん」

「私、店長のラーメンも好きだけど、店長のことはもっと好きだからね」

そう言って腰を下ろしてきた。さっきとは違う角度で繋がる感覚に、声が漏れた。

二回目は余裕が出た分、ゆずの体をちゃんと見ることができた。揺れる胸、汗で額に張り付く前髪、少し歪んだ唇。この子が俺を好きでいてくれるっていう事実が、快感とは別のところで胸に押し寄せてくる。

ゆずが前に倒れてきて、俺の耳元でささやいた。

「かいさんの匂い、好き……味噌の匂いがする……」

「それは褒めてんのか」

「褒めてます……世界で一番好きな匂い……」

それ聞いたらもう限界だった。ゆずの腰を掴んで下から突き上げて、二回目も果てた。

朝の5時過ぎ。カーテンの隙間から薄明かりが差してた。

ゆずは俺の腕の中で寝てた。すーすー寝息を立てて、時々むにゃむにゃ口を動かしてる。

俺は天井を見ながら考えてた。明日から――いや、今日から、この子との関係はどうなるんだろう。店ではどうする。他のバイトにバレたら。常連のおっちゃんたちに知れたら。

でも不思議と不安はなかった。ゆずの体温が隣にあると、なんかもう、大丈夫な気がしてくる。

ゆずが薄目を開けた。

「……おはようございます」

「おはよう。敬語」

「あ……おはよう、かいさん」

「今日、店休みだから。ゆっくりしてけ」

「……うん」

ゆずが俺の胸に顔をうずめて、ぎゅっとしがみついた。

「ねえ」

「ん」

「正社員の件、もう一回考えてくれません?」

「…………それは、ちゃんと話し合おう。焦んなくていい」

「焦ってません。ただ、かいさんの隣にいたいだけ」

あれから半年経った。ゆずは就活をちゃんとやって、食品メーカーの内定をもらった。バイトは卒業まで続けるらしい。

店では今まで通り、店長とバイト。他のスタッフにはバレてないつもりだけど、たぶんバレてる。だって閉店後にゆずと二人で残る時、副店長のタケが「お疲れ~す」ってめちゃくちゃにやにやしながら帰っていくから。

でもまあ、いいか。

今日も閉店後、ゆずがカウンターに座って待ってる。

「今日のまかない何ですか、店長」

「新作。辛味噌、試してみて」

「わあ、楽しみ」

ゆずがスープまで全部飲み干すのを見届けてから、二人で店を出る。

シャッターを下ろして、誰もいない路地で手を繋ぐ。

下北沢の深夜は静かで、どこかの店から流れてくるジャズが聞こえる。春の夜風はまだ少し冷たくて、でもゆずの手は温かい。

「かいさん」

「ん」

「今日も美味しかったです。ごちそうさまでした」

この「ごちそうさま」がさ、たぶん俺が一生かけて聞き続けたい言葉だなって、そう思った。


編集部プロフィール画像

編集部が運営。「あの夜」で読める恋の体験談を厳選して公開しています。