こんにちは。56歳のおっさんです。
こんなところに投稿するのは初めてだし、正直、恥ずかしい。でも誰かに聞いてほしくて書いてます。
俺は東京の板橋区にある従業員80人くらいの建材メーカーで営業部長をやってる。まあ、部長っていっても中小企業の部長なんて、自分で車運転して得意先回って、見積もり作って、たまに現場にも顔出すっていう、要するに何でも屋だ。
5年前に妻を膵臓がんで亡くした。発覚から8ヶ月だった。あっという間すぎて、悲しむ暇もなかった、なんてことはなくて、めちゃくちゃ悲しかった。今でも日曜の朝、誰もいないリビングでコーヒー淹れてる時に、ふと「あ、もう横にいないんだよな」って思う。
息子は去年結婚して川崎に住んでる。たまに嫁さんと一緒にうちに来てくれるけど、基本的には一人暮らしだ。56歳、板橋の2LDK、一人暮らし。書くとなかなか切ない。
で、去年の12月の話。会社の忘年会があった。
場所は巣鴨の居酒屋。社長が「今年は全社でやるぞ」って言い出して、製造も営業も総務も経理も全員集合になった。普段は部署ごとに飲むから、正直、顔と名前が一致しない人もいる。
(あー、めんどくせえな。適当に飲んで早めに帰ろ)
そう思いながら会場に入ったら、幹事の若い奴に「部長、こちらの席です」って案内された。8人がけのテーブルの奥から2番目。隣には経理部の女性が座っていた。
名前は知ってた。村瀬さん。42歳。経理部に異動してきたのが2年前で、それまでは別の会社にいたらしい。すれ違えば会釈するくらいの関係。顔は、なんて言えばいいんだろう、石田ゆり子を少し庶民的にした感じ。身長は160くらいで、痩せすぎず太すぎず、いつもきちんとした格好をしている人だった。
「あ、営業部の方ですよね。お隣、失礼します」
「はい。営業の矢島です。よろしくお願いします」
「村瀬です。経理の。いつもお世話になってます」
社交辞令。まあ忘年会の最初なんてこんなもんだ。乾杯して、刺身つついて、最初の30分くらいは向かいに座った製造の連中と仕事の話をしてた。
ただ、途中から気づいた。村瀬さん、あんまり飲んでない。周りがビールだの日本酒だの言ってる中、ウーロン茶をちびちびやってる。
「村瀬さん、お酒飲まないんですか?」
「あ、いえ、飲めるんですけど。忘年会って、ちょっと苦手で…」
「あー、わかります。俺も正直、早く帰りたいクチです」
「ふふ、部長がそんなこと言っていいんですか」
「いいんです。本音は本音ですから」
そこから少し打ち解けて、ぽつぽつ話すようになった。村瀬さんは前の会社が倒産して、40で転職してきたこと。実家は宇都宮で、東京には一人で住んでいること。趣味は散歩と、最近始めたらしい水彩画のこと。
「矢島さんは、ご家族は?」
「息子が一人。もう結婚して出てったんで、今は一人ですね」
「奥さまは…」
「5年前に。病気で」
「…すみません、立ち入ったこと聞いて」
「いや、大丈夫ですよ。もう5年だし。慣れたっていうか…まあ、慣れるもんじゃないんですけど」
村瀬さんが少し黙って、それからビールをひとくち飲んだ。ウーロン茶じゃなくて、ビール。
「私も、3年前に離婚してるんです」
「そうなんですか」
「はい。10年一緒にいて、子供ができなくて。向こうの親にいろいろ言われて、最後は夫もそっちについて。まあ、よくある話です」
よくある話、と言ったけど、その言い方がちょっと硬かった。よくある話だと自分に言い聞かせてるような。
「よくある話かどうかはわかんないですけど。辛かったでしょ、それは」
「…ありがとうございます」
村瀬さんがまたビールを飲んだ。今度は結構な量をぐいっと。
(なんだろう。この人、普段はこういう話しないタイプだな)
忘年会は2時間で終わって、二次会はカラオケだと若い連中が騒ぎ始めた。俺は当然パス。帰ろうとして店を出たら、村瀬さんも出てきた。
「私もカラオケは…ちょっと」
「ですよね。巣鴨の駅まで一緒に行きますか」
12月の夜の巣鴨。地蔵通り商店街はもう店が閉まってて、人通りも少ない。吐く息が白い。
「矢島さんって、板橋でしたっけ」
「そうです。三田線で4駅。村瀬さんは?」
「赤羽です。JRで」
「あ、じゃあ近いですね、お互い」
駅に着いて、改札の前で別れるところだった。ところが、村瀬さんのスマホが鳴った。
「あ、すみません。…はい。はい。え、今日ですか?…わかりました。はい」
電話を切った村瀬さんの顔が曇ってた。
「どうかしました?」
「マンションの上の階で水漏れがあったらしくて、今、業者さんが来てるって管理会社から。今日は部屋に入れないかもって…」
「え、この時間から?」
「復旧に数時間かかるって言われて。どうしよう、ネットカフェとか…」
12月の夜11時。巣鴨駅の改札前で困ってる42歳の女性。
(余計なお世話かもしれないけど)
「もしよかったら、うち来ます?泊まるっていうか、部屋は余ってるんで。ソファーで俺が寝ますから」
言ってから、(やべえ、何言ってんだ俺)って思った。年齢的にも立場的にも、会社の女性を自宅に誘うとか完全にアウトだろ。
「…いいんですか?」
断られると思ってた。というか断ってほしかった部分もある。でも村瀬さんは少し考えてから、小さく頷いた。
三田線で板橋本町まで4駅。電車の中ではほとんど喋らなかった。村瀬さんは窓の外を見てて、俺はつり革を握りながら(これは一体何の展開だ)と自分にツッコんでいた。
マンションに着いて、玄関を開ける。一人暮らしの56歳の部屋。まあ、汚くはないと思う。妻がいた頃の習慣で、週に一度は掃除してるし。
「散らかってますけど、適当に座ってください。お茶淹れます」
「すみません。お言葉に甘えて…」
リビングのソファーに座った村瀬さんに、ほうじ茶を出した。息子の部屋だった6畳が空いてるから、そこに布団を敷こうと思って押し入れを開けたら、客用の布団がカビ臭い。5年も使ってないんだから当たり前だ。
「すみません、布団がちょっとアレで…。俺がソファーで寝るんで、ベッド使ってください」
「そんな、申し訳ないです」
「いいんですよ。おっさんはどこでも寝れますから」
結局、村瀬さんが寝室のベッドを使うことになった。シーツだけ替えて、タオルと、妻のものだけど未使用のパジャマを出した。
「これ、奥さまの…」
「あ、いや、新品です。買ったまま使ってなかったやつで」
「…ありがとうございます」
村瀬さんが寝室に入って、俺はリビングのソファーに横になった。毛布を被って目を閉じる。
寝れるわけがない。
同じ屋根の下に、妻以外の女性がいる。5年ぶりのことだ。いや、正確には息子の嫁が泊まりに来たことはあるけど、それとはまったく違う。何が違うのか、自分でもよくわかんないけど。
(落ち着け。お前は56だぞ。何をそわそわしてんだ)
1時間くらい経った頃だと思う。キッチンから水の音がした。起き上がって見ると、村瀬さんがコップに水を入れてた。俺のパジャマ、妻のパジャマを着てる姿が、ちょっとどきっとした。
「あ、すみません。起こしちゃいましたか」
「いや、起きてました。寝れなくて」
「私も…です」
リビングの電気を薄暗くつけて、二人でソファーに座った。隣同士。さっきの居酒屋と同じ並びだけど、距離が全然違う。
「矢島さん」
「はい」
「奥さまのこと、まだ好きですか」
「…好きですよ。そりゃ」
「ですよね」
「でも、なんて言うんだろ。好きっていうのと、もう一回誰かと一緒にいたいっていうのは、別の話なのかなって。最近思うようになった」
自分で言って驚いた。そんなこと、息子にも言ったことない。
「…私、元夫のことは好きじゃなかったと思います。最初から」
「え?」
「親同士が決めた結婚で。断れなくて。10年間、好きになろうって努力はしたけど、結局わからなかった。子供ができなかったのは私のせいだけど、離婚の時、正直ほっとした自分がいて。それが一番つらかった」
村瀬さんの声が少し震えてた。酒の力もあったのかもしれない。忘年会でビール3杯くらい飲んでたし。
「…村瀬さん」
「すみません。こんな話、誰にもしたことなくて。酔ってるのかな、私」
「酔ってるんでしょうね。でもいいじゃないですか。俺も今日、村瀬さんにいろいろ喋りすぎた」
沈黙があって、村瀬さんが俺の方を向いた。目が少し赤い。泣いてたのか、酔いのせいか。
「矢島さんは、優しいですね」
「そんなことないですよ。部下にはよく怒鳴ってます」
「ふふ。経理からも聞こえてきますよ、たまに」
「うわ、恥ずかしいな」
笑い合って、また沈黙。村瀬さんの肩が、ほんの少しだけ俺の腕に触れてた。
(これは。どうすりゃいいんだ)
56歳。妻を亡くして5年。枯れたと思ってた。実際、ここ数年、女性に対してそういう感情が湧いたことがない。風俗に行こうとも思わなかったし、マッチングアプリなんて論外だと思ってた。
でも今、この人の肩が触れてるだけで、心臓がどくどくいってる。これは何だ。
「村瀬さん」
「はい」
「…手、握っていいですか」
我ながらダサい。高校生か。56歳が「手握っていいですか」って。でも他に何て言えばいいのかわかんなかった。
村瀬さんが何も言わずに、左手を差し出してきた。
握った。小さくて、少し冷たくて、でもすぐに温かくなった。
「…矢島さんの手、大きいですね」
「おっさんの手ですけどね」
「おっさんの手でいいです」
そう言って村瀬さんが笑った。その笑顔を見て、ああ、もうダメだ、と思った。
俺から顔を近づけた。村瀬さんが目を閉じた。唇が触れた。
柔らかかった。ビールとほうじ茶の匂いが混ざってて、おかしな組み合わせなのに、悪くなかった。
離れて、お互いの顔を見た。
「…私、42ですよ」
「俺、56ですけど」
「ふふ、そうでした」
もう一度キスした。今度は少し長く。村瀬さんの手が俺の腕を掴んで、俺の手が村瀬さんの腰にまわった。
パジャマ越しに、腰のくびれが柔らかくて、そこで「あ、これ以上いくと戻れないぞ」って頭の隅で思った。
「…いいの?」
「…いいです」
小さな声だった。でもはっきり聞こえた。
立ち上がって、寝室に向かった。手を繋いだまま。妻と暮らしてた部屋に、別の女性を連れていく。罪悪感がなかったって言ったら嘘になる。でも、それ以上に「この人に触れたい」っていう気持ちが止められなかった。
ベッドに腰掛けた村瀬さんのパジャマのボタンを、ひとつずつ外していった。手が震えてた。42歳の体は、思ってたよりもずっときれいだった。白くて、肌の質感が若い子とは違う、もっと柔らかい。鎖骨が少し浮いてて、そこがやたら色っぽかった。
「恥ずかしい…電気、消してもらえますか」
「いや、見たいです」
自分でもびっくりするくらい素直に言えた。村瀬さんが両手で顔を覆った。
「ごめん、消すよ」
間接照明だけにした。オレンジ色の薄暗い光の中で、ブラを外した。Cカップくらいだろうか。形がきれいだった。
「きれいだよ」
「お世辞でも嬉しいです…」
「お世辞じゃない」
胸に触れた。柔らかくて、指が少し沈む感触。乳首に触れると、村瀬さんが小さく声を漏らした。
「ん…っ」
その声で、5年間眠ってたはずのものが、一気に目を覚ました。比喩じゃなくて物理的に。56歳でもちゃんと反応するもんなんだな、と自分で感心した。(いやそういう場合じゃない)
村瀬さんの首筋にキスして、鎖骨を舐めて、胸に口をつけた。
「あ…矢島さん…」
名字で呼ばれるのが、なんか妙にぐっときた。敬語混じりの、大人の距離感が残ったままなのに、体は密着してて。そのちぐはぐさが逆にリアルで。
村瀬さんのスカートに手をかけた。タイツを脱がせるのに少し手間取った。
「自分で脱ぎます」
「あ、すまん」
村瀬さんが自分でタイツとショーツを脱いだ。その仕草がなんか生々しくて。おしゃれとかセクシーとかじゃなくて、普通の動作なのに、ものすごくドキドキした。
俺も服を脱いだ。56歳の体なんて見せるもんじゃないけど、もう今さら隠してもしょうがない。
「矢島さん、体、がっちりしてますね」
「現場上がりなんで。腰は悪いけど」
「ふふ。大丈夫ですか?腰」
「今日は大丈夫です。たぶん」
笑い合いながらキスした。裸で抱き合ってキスしながら笑うって、若い頃にはなかった感覚だった。20代の頃はもっと必死で、余裕なんかなかったから。
村瀬さんの太ももに手を滑らせて、指を内側に進めた。すでに濡れてて、指が触れた瞬間、村瀬さんの体がびくっと跳ねた。
「ひっ…」
「大丈夫?」
「久しぶりすぎて…体がびっくりしてるだけ…」
指でゆっくり触れていく。クリトリスの周りを円を描くように。村瀬さんが息を荒くしていく。
「ん…あ…そこ…」
指を中に入れた。温かくて、きゅっと締まる感覚があった。
「あっ…」
声を抑えようとしてるのが伝わってきた。唇を噛んで、目をぎゅっと瞑ってる。
「声、出していいから。一人暮らしだし、壁厚いから」
「そういう問題じゃ…あっ…んっ…」
しばらく指で触れていると、村瀬さんの呼吸がどんどん浅くなっていった。
「待って…矢島さん…もう…」
「いっていいよ」
「あ…っ、んんっ…!」
村瀬さんの体が弓なりに反って、太ももが俺の手を挟み込むように閉じた。しばらくそのまま震えてて、やがて力が抜けた。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫?」
「…3年ぶりに、こういうの…」
「俺は5年ぶりだ。勝った」
「勝ち負けじゃないでしょ…ふふ」
笑いながら、村瀬さんが俺の体を見て、下に視線を落とした。
「矢島さん…すごいことになってますね」
「いや、これは、まあ…」
恥ずかしかった。56歳がガチガチに勃起してるのを見られるのは。でも村瀬さんが手を伸ばしてきて、握ってくれた。
「触っても…いいですか」
「…いいも何も」
細い指で握られて、ゆっくり動かされる。妻以来、誰にも触られてなかったから、その感触だけで頭がくらくらした。
「やばい…村瀬さん、それ…」
「気持ちいいですか?」
「気持ちいいっていうか…もう、やばい」
村瀬さんが少し強く握って、親指で先端をくるくる触ってきた。
「まって、このままだとすぐ出る…」
「…入れて、ほしいです」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
(いいのか。本当に。俺は56で、この人は42で、会社の同僚で、しかもコンドームなんて持ってない)
「ゴム…ないんだけど」
「…私、妊娠できない体だから。大丈夫です」
そう言った村瀬さんの声が、少しだけ寂しそうだった。さっき居酒屋で聞いた話が頭をよぎった。子供ができなくて離婚した、って。
俺は黙って村瀬さんにキスした。長く、深く。それから体を重ねた。
ゆっくり入れた。久しぶりすぎて、お互い、最初はぎこちなかった。
「ん…っ、あ…」
「痛くない?」
「大丈夫…ゆっくり…」
全部入って、しばらく動かずにいた。中がきゅうっと締まる感覚がある。5年ぶりのこの感覚は、もう忘れてたはずなのに、体が覚えてた。
ゆっくり動き始めた。腰を引いて、また押し込む。村瀬さんが俺の背中に手を回して、爪を立てた。
「あ…あっ…矢島さん…」
「気持ちいい…」
ダサいことしか言えない。でもそれが本音だった。文学的な台詞なんて、56歳のおっさんには出てこない。
テンポが上がっていく。ベッドが軋む音がして、(このベッド、妻と使ってたやつだよな)って一瞬思ったけど、すぐに村瀬さんの声でかき消された。
「あっ…んっ…もっと…」
「もっと?」
「もっと強く…して…」
言われるまま、腰に力を入れた。村瀬さんの脚が俺の腰に絡みついてきて、密着度が上がる。
「やばい…もう限界…」
「いいよ…中に…出して…」
その言葉で理性が全部飛んだ。腰を押し込んで、そのまま中に出した。5年分とは言わないけど、自分でも驚くくらい長く射精が続いた。
「あっ…」
「ん…熱い…」
しばらくそのまま動けなかった。村瀬さんの上に覆いかぶさったまま、息を整える。汗が額から落ちて、村瀬さんの胸に落ちた。
「…重い?」
「重いです。でもこのままがいい」
離れがたかった。ようやく体を横にずらして、並んで仰向けに寝転がった。天井を見てる。暗い天井。
「矢島さん」
「ん」
「私、明日から会社でどんな顔したらいいんでしょう」
「…俺もそれ考えてた」
「ふふ」
「でもさ」
「はい」
「一回きりにしたくないな、俺は」
言ってしまった。56歳が、42歳の同僚に。セックスした直後のベッドの上で。こんなの最悪のタイミングだってわかってる。でも嘘はつきたくなかった。
村瀬さんが横を向いて、俺の顔を見た。
「…本気ですか」
「本気。少なくとも今は」
「"今は"って正直すぎません?」
「56年生きて嘘つくのに疲れたんですよ」
村瀬さんが笑って、俺の胸に頭を乗せてきた。
「矢島さん。心臓、すごい音してますよ」
「聞かないでくれ。恥ずかしいから」
「私も…ドキドキしてます」
そう言って、俺の手を取って自分の胸に当てた。確かにドクドク言ってた。42歳の心臓も、ちゃんと速く動いてた。
「もう一回…していい?」
「…56歳の体力で大丈夫ですか」
「わかんないけど。やってみる」
2回目は、さっきより少しだけ余裕があった。村瀬さんの体のどこを触ると反応するのか、少しわかってきた。左の乳首の方が感じやすいこと。耳の後ろにキスするとぞくぞくすること。奥を突くと声が大きくなること。
「あっ…そこ…だめ…いっちゃう…」
「いって」
「あっ…あああっ…!」
村瀬さんが俺の腕を強く掴んでイった。中がきゅっきゅっと脈打つように締まって、俺もそれに引きずられるように出した。
2回目が終わって、二人とも汗だくだった。12月なのに暑い。
「シャワー浴びる?」
「…一緒に?」
「えっと、まあ、もう今さら恥ずかしいもないだろうし」
狭いユニットバスに二人で入った。お互いの体を洗いながら、なんかおかしくなって笑ってしまった。
「なんで笑ってるんですか」
「いや、なんか。こんなこと、もう一生ないと思ってたから」
「私もです」
シャワーを浴びて、バスタオルで拭き合って、ベッドに戻った。シーツは替えなきゃいけないけど、もう面倒くさくてそのまま横になった。
「矢島さん」
「ん」
「来週の金曜、経理の忘年会なんですけど」
「うん」
「その帰り、また…」
「来なよ。うちに」
村瀬さんが小さく「はい」と言って、目を閉じた。
カーテンの隙間から、うっすら空が明るくなり始めてた。壁の時計を見たら午前5時17分。板橋の冬の朝。
隣で寝息を立て始めた村瀬さんの寝顔を見ながら、俺は思った。
枯れてなんかなかった。ただ、蓋をしてただけだった。
正月明けに息子に電話した。「付き合い始めた人がいる」と言ったら、5秒くらい沈黙があって、「マジで?何歳?」って聞かれた。「42」って答えたら、「14歳下じゃん。お父さんやるな」って笑われた。
それから半年。村瀬さんは月に2、3回うちに泊まりに来るようになった。会社ではこれまでと同じ距離感で接してる。バレてるかもしれないけど、誰も何も言わない。中小企業の良いところだ。
先月、二人で日光に行った。東武線の特急スペーシアXに乗って。村瀬さんが宇都宮の実家の近くだからって喜んでた。華厳の滝の展望台で、村瀬さんが「いつか両親に会ってほしい」と言った。
「いいの?56のおっさんで」
「56のおっさんがいいんです」
その夜、日光のホテルで3回した。腰は翌日やばかった。でも後悔はしてない。
56歳。まだ、こんなに誰かを好きになれるんだな。