こんにちは。30歳で大手SIerを辞めて従業員40人のWeb制作会社に転職した、元・それなりのポジションの男です。
なんで辞めたかっていうと、まぁよくある話で。上が詰まってて、このまま10年いても課長補佐がせいぜいだなって見えちゃったんですよね。それと、受託開発ばっかりで自社プロダクトやりたかったってのもある。
で、意気揚々と転職したわけですけど、現実ってのは甘くないんですよ。
前職では一応チームリーダーだったのに、新しい職場じゃ完全に一番下。しかも技術スタックが全然違うから、マジで何もできない。ReactとかTypeScriptとか、名前は知ってたけど実務でガッツリ触るのは初めてで、新卒の子にすら「あ、そこはそうじゃなくて……」って言われる始末。
(30歳でこの扱い、まじでキツい……)
で、俺の指導係になったのが、高瀬さんっていう27歳の主任だった。
初日に挨拶したとき、正直ちょっと固まった。なんていうか、新木優子をちょっとだけキツめにした感じ。身長163cmくらいで、髪は肩につくくらいの長さ。化粧は薄いんだけど、まつ毛がやたら長くて、目力がすごい。スーツじゃなくて黒のワイドパンツにグレーのニット、っていう私服勤務なんだけど、そのニットの下がどう見てもEカップはある。
(いや、何見てんだ俺。指導係だぞ)
「宮野さんですよね。高瀬です。フロントエンドチームの主任やってます。わからないことあったら何でも聞いてください。ただ、同じこと3回聞いたら怒ります」
「よろしくお願いします」
笑顔なしで言われた。こわ。
最初の一週間は地獄だった。開発環境の構築でつまずき、gitのブランチ運用で怒られ、プルリクのレビューで赤ペン先生みたいに真っ赤にされて返される日々。前職のJavaの書き方が抜けなくて、「これJavaじゃないんで」って言われたときは泣きそうだった。
でもさ、高瀬さん、厳しいけど放置はしないんだよね。
俺がわかんなくて黙ってると、向こうから来て「どこで詰まってます?」って聞いてくれる。説明もめちゃくちゃわかりやすい。ホワイトボードに図を描きながら、「ここの状態管理はこう流れるんですけど」って。それで俺が「あー、なるほど」って言うと、ほんの一瞬だけ口角が上がるんだよ。ほんの一瞬だけ。
(あれ、今ちょっと笑った……?)
二週間目の金曜、定時過ぎに俺はまだ残ってた。翌週のスプリントレビューで見せるデモ画面のCSSがどうしても崩れて、もう2時間格闘してた。
「まだいたんですか」
振り返ると高瀬さんがいた。私服にトートバッグっていう帰り支度の姿で、コンビニの袋を持ってる。
「すみません、デモ画面がどうしても……」
「見せてください」
高瀬さんは俺の隣に椅子を引いてきて座った。シャンプーなのか柔軟剤なのかわかんないけど、なんかいい匂いがした。
画面を見て5秒。
「ここ、flexじゃなくてgrid使った方がいいです。あとこのmargin-top、remで指定してください。pxだとレスポンシブ崩れます」
3分で直った。
「……俺の2時間って何だったんですかね」
「まあ、最初はそんなもんです。はい、これ」
コンビニの袋からおにぎりとお茶を出された。
「え、俺にですか?」
「残業してるの見えたので。夕飯食べてないでしょ」
「あ……ありがとうございます」
「お礼はいいので、来週のレビューちゃんとやってください。私の指導力が疑われるんで」
そう言って帰っていった。
(……なんだよ、優しいとこあるじゃん)
鮭おにぎり、やたら美味かった。別にコンビニの鮭おにぎりなんてどこで食べても同じなのに。
三週目に入ると、少しずつ仕事が回るようになってきた。Reactのコンポーネント設計がわかってきて、プルリクのコメントも「ここいいですね」って書いてもらえるようになった。
そしたらさ、高瀬さんの態度もちょっと変わってきたんだよ。
ランチのとき、「宮野さんも一緒にどうですか」って誘ってくれるようになった。神保町のカレー屋とか、御茶ノ水の定食屋とか。会社は千代田区のオフィスビルの6階にあるんだけど、界隈のランチ事情にやたら詳しい。
「ここのカツカレー、ルーの量が選べるんですよ。私はいつも多めにしてます」
「高瀬さん、結構食べるんですね」
「食べますよ。なんですか、女は少食じゃないとダメですか?」
「いやいや、全然。むしろ好感しかない」
「……そういうの、誰にでも言うタイプですか?」
「え?いや、思ったことを……」
「ふーん」
それ以上何も言わず、カツカレーをもりもり食べてた。
(いま、ちょっと耳赤くなかった……?気のせいか……)
転機は一ヶ月目の終わり、金曜の歓送迎会だった。俺の歓迎会を兼ねて、部署異動する先輩の送別会もやるっていう。場所は神田の居酒屋。
高瀬さんは最初、幹事の後輩と仕事の話ばっかりしてて、俺は別のテーブルで新卒の子たちと飲んでた。ビール3杯目くらいで、トイレから戻ったら、俺の席に高瀬さんが座ってた。
「あ、ここ空いてたんで」
「俺の席ですけど」
「知ってます」
顔がほんのり赤い。ハイボールのグラスが3つ空いてた。
「宮野さんって、前の会社でどのくらいの立場だったんですか」
「チームリーダーですけど、別に大したもんじゃないですよ」
「大手のリーダーが、うちみたいな小さい会社に来るの、普通じゃないですよ」
「まぁ、やりたいことがあったので」
「やりたいこと……ですか」
「自社プロダクト作りたかったんですよ。前の会社じゃ一生無理だったから」
「……そういうの聞くと、ちょっと見直します」
「ちょっとなんですか(笑)」
「だって、最初マジで使えなかったじゃないですか。flexboxの書き方も知らないおじさんが来たと思いましたよ」
「おじさん……俺まだ30ですけど」
「私から見たら十分おじさんです」
ケラケラ笑ってる。酔ってる高瀬さん、初めて見た。笑うとえくぼができるんだな、この人。
二次会にはほとんど人が残らなくて、結局俺と高瀬さんと、もう一人の先輩の3人でカラオケに行くことになった。でもその先輩が30分で寝落ちして、実質二人きり。
「宮野さん歌わないんですか」
「音痴なんですよ、マジで」
「うそ。歌ってくださいよ」
「いや本当に。中学のとき合唱コンクールで口パクしてたレベルです」
「(笑)じゃあ私歌いますね」
高瀬さんがaiko入れて歌い始めたんだけど、これがまた上手くてさ。「カブトムシ」を歌ってるときの横顔がやけに綺麗で、俺はドリンクバーのウーロン茶を飲みながらずっと見てた。
曲が終わって、高瀬さんがこっち振り向いた。
「……なに見てるんですか」
「いや、上手いなと思って」
「目、そういう目してなかったですけど」
(バレてる……)
気まずい沈黙。ソファに寝てる先輩のいびきだけが聞こえる。
「……宮野さんって、彼女いるんですか」
「いないです。前の会社辞めるときに別れました」
「そうなんだ」
「高瀬さんは?」
「……いないです。2年くらい」
「え、嘘でしょ」
「なんで嘘つくんですか。仕事ばっかしてたら気づいたら2年経ってたんです」
「もったいないなぁ」
「……それも、誰にでも言うタイプ?」
前にも同じこと聞かれた。今度は目を逸らさなかった。
「高瀬さんにだけ言ってます」
高瀬さんの目が一瞬大きくなって、すぐに逸らされた。
「……酔ってますね、宮野さん」
「ウーロン茶しか飲んでないですけど」
「じゃあタチ悪い」
そう言って立ち上がって、「先輩起こしますね、もう終電ギリギリなんで」って。
結局そのまま3人で店を出て、御茶ノ水駅で解散した。先輩は中央線、高瀬さんは丸ノ内線。俺は総武線。
改札の前で高瀬さんが振り返った。
「月曜から、また普通に接しますから」
「……はい」
「今日のことは、なかったことにしてください」
(なかったことって、何を?俺が「高瀬さんにだけ」って言ったこと?それとも――)
月曜日、高瀬さんはマジで普通だった。むしろいつもより普通。必要最低限の会話しかしてこない。ランチの誘いもない。俺が話しかけても「はい」「そうですね」「了解です」の三語で終わる。
(あー、やっちまったかな……)
その週はずっとそんな感じで、正直めちゃくちゃ凹んだ。仕事に集中できなくて、木曜のプルリクでは久しぶりにボコボコにされた。レビューコメントが事務的で、前みたいに「ここいいですね」が一切ない。
金曜の夕方、俺はまた残業してた。今度は自分のミスの修正で、完全に自業自得。
オフィスには俺しかいなくなった。19時を過ぎたころ、エレベーターの音がして、足音が近づいてきた。
「忘れ物取りに来ただけなんで、気にしないでください」
高瀬さんだった。デスクからUSBメモリを取って、すぐに帰ろうとした。
「高瀬さん」
足が止まった。
「先週のこと、すみませんでした。職場の人間関係壊すようなこと言って」
「……」
「でも、撤回はしないです」
高瀬さんが振り返った。表情が読めない。
「……ずるいんですよ、宮野さんは」
「え?」
「私、指導係なんですよ。立場があるの、わかりますよね。部下に好意持ったらダメなんですよ」
「……部下に、好意?」
「……あ」
高瀬さんの顔が見る見るうちに赤くなった。
「今の、なし。忘れてください」
「忘れないです」
「忘れてって言ってるんです」
「無理です」
立ち上がって高瀬さんの方に歩いた。高瀬さんは後ずさりして、背中が壁にぶつかった。
「俺、高瀬さんのこと好きです。指導係とか関係なく」
「……バカじゃないですか。まだ一ヶ月しか経ってないのに」
「一ヶ月あれば十分わかりましたよ。厳しいけど見捨てない人だって。おにぎり買ってきてくれる人だって。カツカレー大盛りで食べる人だって」
「最後のいらない情報でしょ……」
目が潤んでた。
「……ほんとに、ずるい」
高瀬さんの手が俺のシャツの裾を掴んだ。力は弱いけど、離す気がないのはわかった。
「キスしていいですか」
「……聞くな、バカ」
目を閉じた高瀬さんの唇に、そっと自分の唇を重ねた。ぎこちなくて、震えてて、でも離れようとしない。5秒くらいで唇を離すと、高瀬さんが俺の胸に額を押し付けてきた。
「……どうするんですか、これから」
「付き合ってほしいです」
「職場にバレたらどうするんですか」
「バレないように頑張ります」
「……頑張るって、何を」
「とりあえず仕事で怒られる回数を減らします」
「……ふっ」
笑った。さっきまで泣きそうだったのに、笑った。
「……じゃあ、今日だけ。今日だけ、高瀬じゃなくて、名前で呼んでもいいです」
「名前……真帆さん」
「……っ」
ぎゅっと掴まれてたシャツの裾が、さらにきつくなった。
「ずるい……」
もう一度キスした。今度は高瀬さん――真帆さんの方から舌を入れてきた。あんなに冷静な人が、すごい勢いで。歯がぶつかって、でもお互い止めなくて。オフィスの蛍光灯がジジジって音を立ててた。
「場所変えませんか」って言ったのは俺で、「……うち、ここから近いです」って答えたのは真帆さんだった。
丸ノ内線で本郷三丁目、そこから歩いて5分のワンルーム。真帆さんが先に入って、靴を揃えて、「散らかってますけど」って言った。全然散らかってなかった。むしろ何もない。技術書と観葉植物とMacBookしかない部屋。
「飲み物出します。座っててください」
「真帆さん」
「……なに」
後ろから抱きしめた。真帆さんの体が一瞬固まって、それからゆっくり力が抜けた。
「めちゃくちゃ緊張してる」
「当たり前でしょ……2年ぶりなんだから」
「俺も8ヶ月ぶりです」
「……私の方が長い」
「勝ち負けじゃないでしょ(笑)」
後ろから抱いたまま、首筋にキスした。真帆さんが小さく声を漏らした。
「っ……あ、そこ……弱い……」
体の向きを変えて、正面から抱きしめて、またキスした。真帆さんのニットの上から背中に手を回すと、ブラのホックの位置がわかった。
「脱がせていい?」
「……電気、消してからにして」
「やだ。見たい」
「っ……ばか」
ニットの裾に手をかけると、真帆さんが自分で腕を上げてくれた。白いブラ。シンプルなやつ。その下の胸が、服の上から想像してた以上にでかい。
ブラを外した。
「……すげぇ綺麗」
「見すぎ……っ」
両手で胸を隠そうとするのを、そっとどけた。形が綺麗で、先端が薄いピンク色で、触ったら指が沈み込む柔らかさだった。
「あっ……ん……」
乳首を親指で撫でると、真帆さんの呼吸が変わった。背筋がぴくっとして、俺の肩を掴んでくる。
「感じやすい?」
「……うるさい」
そのまま胸に口をつけた。舌先で乳首を転がすと、真帆さんが「あ、やっ……」って声を上げた。会社で聞くしっかりした声と全然違う、甘くて、震えてる声。
(この人がこんな声出すんだ……)
ベッドに移動して、お互い下も脱いだ。真帆さんがシーツを引っ張って体を隠そうとするから、「さっき電気消さなかったの、後悔してる?」って聞いたら、「……してない」って小さく言った。
真帆さんの太ももの間に手を入れると、もう濡れてた。
「あ……そこ……っ」
指でゆっくり触れると、真帆さんが腰を浮かせた。クリを指の腹で撫でると、体がびくって跳ねる。
「ここ?」
「ん……っ、うん……そこ……」
指を中に入れた。きゅっと締まって、すぐに力が抜けて、ぬるっと奥まで入った。
「あっ……あ……んん……っ」
真帆さんが俺の腕を両手で掴んで、目をつぶってる。眉間にちょっとしわが寄ってて、それが会社でコードレビューしてるときの顔と似てて、不謹慎だけどめちゃくちゃ興奮した。
「真帆さん、もう入れたい」
「……ゴム、引き出しの中にある」
「2年ぶりなのにあるんだ」
「期限切れてなければ……の話だけど」
確認したら大丈夫だった。つけて、真帆さんの脚の間に入った。
先端を当てると、真帆さんが息を吸い込んだ。
「いくよ」
「……うん」
ゆっくり入れた。きつい。真帆さんが息を止めて、俺の背中に爪を立てた。
「っ……あ……ちょっと、待って……」
「痛い?」
「痛くは……ない。久しぶりすぎて……っ、体が追いつかない……」
じっとしてた。真帆さんの呼吸が落ち着くのを待って、少しだけ動いた。
「あ……ん……っ」
ゆっくり出し入れすると、真帆さんの表情が変わった。苦しそうだったのが、だんだんとろけてきて、目が潤んで、口が半開きになる。
「あっ……あ、んんっ……宮野さ……っ」
「名前で」
「っ……悠、介……さん……」
(やばい。この呼び方やばい)
腰を掴んで、少しペースを上げた。真帆さんの中が俺の形に馴染んできて、すごい吸い付く。
「あっ、あっ、んんっ……きもちい……っ」
会社では絶対見せない顔。あの冷静な高瀬主任が、髪を乱して、シーツを握りしめて、甘い声出してる。その現実がまだ信じられなくて、俺はなんか夢の中にいるみたいだった。
(これ現実だよな……?月曜になったら普通の上司に戻るんじゃないだろうな……)
体を密着させて、顔を寄せた。真帆さんが自分から唇を合わせてきた。キスしながら腰を動かすと、中がきゅっと締まった。
「んっ……ん、あ……もうだめ……っ、イきそ……」
「いっていいよ」
「あ、あっ……んんんっ……!」
真帆さんの体がびくびく震えて、中が波打つみたいに締まった。俺の背中に回された腕に力が入って、爪が食い込む。その痛みで俺も限界が来た。
「っ……俺もいく……っ」
最後に深く入れて、中で出した。ゴム越しだけど、すごい量出た気がする。体の力が抜けて、真帆さんの上に崩れ落ちそうになったけど、なんとか腕で支えた。
「……はぁ……はぁ……」
「……大丈夫?」
「……重い……」
「あ、ごめん」
横に倒れた。天井のシーリングライトが眩しい。隣で真帆さんが目を腕で覆ってた。
「真帆さん」
「……なに」
「月曜日、どうしよう」
「……考えないで」
「でも」
「今は考えないで。……もう少しだけ、こうしてて」
真帆さんが寝返りを打って、俺の胸に顔を押し付けてきた。
「……了解です、主任」
「今それ言うな……っ」
小さく笑った。
しばらくそうしてたら、真帆さんが顔を上げた。目がまだ潤んでる。
「……ね、もう一回、してもいい?」
「……え、真帆さんから?」
「2年分溜まってるんです。文句ありますか」
「ございません」
真帆さんが俺の上にまたがった。さっきまで恥ずかしがってシーツで体隠してた人と同一人物とは思えない。上から見下ろす目が、会社でコードレビューしてるときの目と同じで。
「こっちの方が、私のペースでできるので」
「仕事みたいに言わないでくれる?」
「ふふ。……入れるね」
新しいゴムをつけて、真帆さんがゆっくり腰を下ろした。さっきよりスムーズに入って、真帆さんが小さく息を漏らす。
「あ……ん……っ、さっきよりも……奥まで……」
上から見る真帆さんの体は反則だった。揺れる胸、くびれた腰、こっちを見下ろす潤んだ目。
真帆さんが腰を動かし始めた。最初はゆっくり、前後に。それからだんだん上下に。
「あっ……あ、んっ……きもちい……」
さっきは俺がリードしたけど、2回目は真帆さんが完全に主導権を握ってた。角度も深さも自分で調整して、気持ちいいところを自分で探してる。その姿が妙にエロくて、下から胸を掴んだ。
「んっ……あ、乳首……触んないで、イっちゃう……っ」
「イっていいって」
「まだ……っ、もうちょっと……」
体を前に倒してきて、俺の顔のすぐ近くに真帆さんの顔がある。息がかかるくらいの距離で、目が合った。
「悠介さん……好き……っ」
(……あー、もうダメだ)
真帆さんの腰を掴んで、下から突き上げた。
「ひっ……あ、あっ、やっ、急に……っ!」
「今の、ずるいのはそっちだろ」
「あっ、あっ、あっ、んんっ……!だめ、イく、イくっ……!」
真帆さんが俺の上で崩れ落ちた。中がぎゅうぎゅう締まって、俺も一緒にイった。真帆さんの汗ばんだ体がぴったり重なって、心臓の音が伝わってくる。どっちの心臓かわからないくらい、両方速かった。
しばらく、お互い何も言えなかった。
「……ねぇ」
「ん」
「月曜日。私、たぶん普通に接します」
「……うん」
「でも、仕事中に目が合ったとき、私が3秒以上見つめてたら……それは、その、そういうことだと思ってください」
「……了解です」
「あと、残業してたら、おにぎり買ってきます。ただし鮭限定」
「(笑)なんで鮭」
「宮野さんが最初に食べたのが鮭だったから。……覚えてたんですよ、一応」
(……この人、マジで好きだ)
結局その夜はもう1回して、朝の5時まで起きてた。真帆さんが先に寝落ちして、俺はしばらく寝顔を見てた。普段のキリッとした表情が嘘みたいに、無防備な顔で寝てる。前髪が目にかかってたから、そっとどけた。
月曜日。出社して、デスクに着くと、チャットツールに高瀬さんから業務連絡が来てた。「今日の15時からスプリントレビューです。デモの準備お願いします」。絵文字もスタンプもない、完全にいつも通りのメッセージ。
でも、10時の朝会のとき、高瀬さんと目が合った。
1秒、2秒、3秒、4秒――。
高瀬さんがすっと目を逸らして、何事もなかったようにバックログの説明を始めた。
俺は内心ガッツポーズした。
今は8ヶ月経って、いまだに社内には秘密のままです。でもこないだ、同期の田中に「お前最近なんかいいことあっただろ」って言われたから、たぶんバレかけてる。
高瀬主任は相変わらず仕事では厳しい。プルリク真っ赤にされるし、「ここのロジック意味わかんないです」とか普通に言われる。
でもたまに、残業してると鮭おにぎりが机に置いてある。
それだけで十分です。