学校中が避けてるバスケ部のエースが、なぜか閉館後の図書室にだけ毎日来ていた

高2のとき、俺は千葉県の船橋にある県立高校に通ってました。

スペックを先に言っておくと、身長171cm、顔面偏差値たぶん48くらい。部活は入ってなくて、唯一やってたのが図書委員。要するに放課後に図書室のカウンターに座って、本の貸し出し処理をするだけの、学校で最も存在感のない係です。

友達はそこそこいたけど、女子との接点はほぼゼロ。彼女いない歴イコール年齢。まあ、よくいるタイプの陰キャ寄りの高校生だと思ってください。

で、同じ学年に「氷点下の女」って呼ばれてる女子がいた。

バスケ部のエースで、名前は伏せるけど、2年3組。俺は2年5組だったから直接の接点はなかった。ただ、学校中が知ってた。男子が話しかけても目も合わせない。女子ともほとんどつるまない。昼休みはいつも一人でイヤホンして、誰も座ってない廊下の窓際にいる。

顔は――これ、俺の主観じゃなくてわりとみんな言ってたんだけど――今田美桜に似てた。ちょっと目がキツめで、鼻筋が通ってて、唇が薄い。身長は165cmくらいで、バスケやってるだけあって脚が長い。体育の授業で半袖になってるの遠目に見たことあるけど、腕も引き締まってて、でも胸はしっかりあって、たぶんDかEくらい。

(いや、そこまで見てたのかよって話だけど、男子高校生なんてそんなもんです)

ただ、誰も近づかない。告白した男子が3人いたらしいけど、全員「興味ない」の一言で切られたって話が回ってた。それ以来、「あいつに話しかけるやつはバカ」みたいな空気になってた。

俺も当然、関わるつもりなんてなかった。

それが変わったのは、6月の半ば。梅雨に入ったばっかりの時期だった。

うちの図書室は放課後4時半から6時まで開いてて、俺は週3で当番をやってた。正直、誰も来ない日のほうが多い。カウンターに座って自分の好きな本を読んでるだけ。たまに受験勉強してる3年生が来るくらいで、基本ガラガラ。

その日も誰もいなくて、俺は伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」を読んでた。5時を過ぎて、あと1時間で閉めるかーって思ってたら、ドアが開いた。

入ってきたのが、彼女だった。

(え、なんで…?)

氷点下の女が図書室に来るなんて聞いたことない。俺は咄嗟に本から顔を上げて、目が合った。

一瞬、彼女の表情が固まった。明らかに「人がいると思ってなかった」って顔。

「あ、どうぞ。閲覧でも貸し出しでも」

我ながらめちゃくちゃ事務的な声が出た。

彼女は何も言わず、奥の棚に向かった。俺はそれ以上見ないようにして本に戻った。心臓がちょっとだけ速くなってたのは認める。

5分くらいして、チラッと見たら、一番奥の窓際の席に座って本を読んでた。背筋がピンと伸びてて、ページをめくる指が長くて、なんか絵みたいだった。

(いやいや、集中しろ俺)

6時になって、閉館のアナウンスを館内放送で流した。彼女はすっと立ち上がって、本を棚に戻して、何も言わずに出ていった。

借りなかったのか。

気になって、彼女が読んでた場所の棚を見に行った。少しだけ隙間ができてる場所があって、タイトルを確認したら、小川洋子の「博士の愛した数式」だった。

(あの氷点下の女が小川洋子…?)

なんか、意外すぎて逆にリアルだった。

次の日も彼女は来た。その次の日も。

毎回同じ。5時過ぎに来て、奥の窓際に座って、6時に無言で帰る。俺には一切話しかけない。俺も話しかけない。でも、彼女が来るたびに図書室の空気がちょっとだけ変わるのは感じてた。

1週間くらい経ったある日、俺はカウンターで居眠りしてた。その日は体育で1500m走らされて、マジで疲れてた。

気づいたら6時15分。

(やべ、閉館過ぎてる)

慌てて起きたら、彼女がまだ席にいた。本を閉じて、じっとこっちを見てた。

「す、すみません!寝てました…閉館のアナウンス流し忘れて…」

「……別に」

初めて声を聞いた。思ってたより低くて、落ち着いた声だった。

「起こそうかと思ったけど、気持ちよさそうだったから」

「え、あ、ありがとうございます…?」

彼女が小さく息を吐いた。笑った、のかもしれない。わからない。表情がほとんど動かないから。

「あの、毎日来てくれてますけど、貸し出しカード作ります?借りて帰れますよ」

「……ここで読むほうがいい」

「あ、そうですか」

「家だと読めないから」

それだけ言って、彼女は鞄を持って出ていった。

家だと読めない。その一言が妙に引っかかった。

それからも彼女は毎日来た。少しずつ、ほんの少しずつだけど、言葉を交わすようになった。

「……その本、面白い?」

ある日、カウンターの前を通りがかったときに聞かれた。俺が読んでたのは米澤穂信の「氷菓」。

「あ、はい。日常の謎系のミステリーで……読みます?」

「……借りていい?」

「もちろん。カード作りましょうか」

「……やっぱりここで読む」

結局カードは作らなかった。でも、その日から彼女は奥の席じゃなくて、カウンターに近い席に座るようになった。

7月に入って、期末テストが近づいてきた頃。

その日は朝から土砂降りで、部活は全部中止になってた。図書室には俺と彼女だけ。もう慣れたもんで、静かに本を読む時間が流れてた。

5時半くらいに、彼女が突然立ち上がった。

「……あの」

「はい?」

「お腹空いた」

(え…?)

あの氷点下の女が「お腹空いた」って言ってる。しかもちょっと恥ずかしそうに目をそらしてる。

「あ、えっと……カロリーメイトならありますけど」

鞄からチョコレート味のカロリーメイトを出したら、彼女の目がほんの一瞬だけ大きくなった。

「……もらっていい?」

「どうぞ」

彼女はカロリーメイトを受け取って、小さく「ありがとう」と言った。それから隣の席に座って、一口ずつゆっくり食べ始めた。

(なんだこの状況)

氷点下の女とカロリーメイトを分け合って食べてる。誰かに言っても絶対信じてもらえない。

「ねえ」

「はい」

「なんで私に普通に接するの」

「え?普通に……って?」

「みんな避けるでしょ。怖いとか、冷たいとか」

「ああ……まあ、最初はちょっとビビりましたけど。でも毎日来てくれてたら、慣れるっていうか」

「……慣れた?」

「はい。あと、小川洋子読む人が怖いわけないだろって思って」

彼女が、笑った。

今度ははっきりわかった。口の端がちょっとだけ上がって、目が細くなった。ほんの2秒くらいだったけど、その顔を見た瞬間、心臓を鷲掴みにされた感覚があった。

(やばい、かわいい)

今田美桜が照れ笑いしたらこんな感じなんだろうなって、本気で思った。

「……私、人と話すのが得意じゃないだけ。嫌いなわけじゃない」

「知ってます」

「……なんで」

「本の選び方でわかります。人が嫌いな人は、あんなに人間を丁寧に書いてる本は選ばない」

彼女がまた黙った。でも、さっきまでの「壁を作る沈黙」とは違う感じがした。

「……中学のとき、ストーカーされたことがある」

突然だった。

「告白を断った男子に、半年くらいつきまとわれた。待ち伏せとか、SNSの監視とか。親に言って学校に対処してもらったけど……それから男の人と話すのが怖くなった」

「…………」

「バスケに集中してたら、いつの間にか誰とも話さなくなってた。そしたら氷点下の女とか言われて……まあ、別にいいんだけど」

別によくないだろ、と思った。でも言わなかった。

「……図書室は、居心地いいですか」

「……うん。ここは静かだし……あんたがいるから」

最後の部分、めちゃくちゃ小さい声だった。聞き間違いかと思ったけど、彼女の耳が赤くなってたから、聞き間違いじゃなかった。

(俺がいるから、って……それはどういう意味で……)

考えるな。期待するな。勘違い野郎になるぞ。

でも、心臓はもう言うこと聞いてくれなかった。

その日から、明らかに空気が変わった。

彼女は名前で呼んでいいかと聞いてきた。俺は苗字しか知らなかったから、下の名前を教えてもらった。ここでは仮に「あかり」としておく。

「……あんたも名前で呼んでいい」

「え、俺の名前知ってるんですか」

「図書委員の名札に書いてある」

(そりゃそうだ)

あかりは相変わらず他の人には話しかけなかったけど、図書室では少しずつ表情が柔らかくなっていった。たまに俺が読んでる本について感想を言ってくれたり、バスケの試合の話をしてくれたり。

ある日、船橋駅の南口のマクドナルドでばったり会った。

「……なんでいるの」

「俺の台詞なんだけど。バイト帰りで」

「……練習帰り」

「一人?」

「……うん」

気づいたら一緒にマック食べてた。あかりはてりやきバーガーのセットを頼んで、ポテトをLにしてた。

「ポテトL食べるんだ」

「練習の後はお腹空くから。……何」

「いや、なんか普通の女子高生だなって」

「当たり前でしょ。何だと思ってたの」

「いや、氷点下の女だから、食事もクールに済ませるのかなって」

「……バカ」

笑ってた。マックの蛍光灯の下で、てりやきバーガー持ちながら笑ってるあかりは、学校にいるときとは完全に別人だった。

「ねえ、今度の日曜……暇?」

「え、まあバイトないけど」

「練習試合があるの。船橋アリーナで。……来る?」

「見に行っていいの?」

「……別に。誰でも見れるし」

でもあかりは俺の目を見て言ってた。これで鈍い俺でもさすがにわかった。来てほしいんだ、と。

日曜日、船橋アリーナに行った。あかりのバスケを初めて見た。

やばかった。マジでうまい。パスの精度が異常で、コート全体が見えてるみたいだった。試合中の顔は確かに「氷点下」で、感情を一切出さない。でも、プレー自体はめちゃくちゃ熱かった。

試合が終わって、出口で待ってたら、あかりが私服に着替えて出てきた。白いTシャツにデニムのショートパンツ。脚が長くて、肌が少し日焼けしてて、髪を下ろしてて。

(この人と同じ学校なの、嘘だろ…)

「……来てくれたんだ」

「めちゃくちゃかっこよかった。あのノールックパス何?」

「……ふふ」

あかりが嬉しそうに笑った。この笑顔を見るためだけに来た価値があった。

「お礼にご飯おごる」

「いや、俺が誘われた側だし」

「いいから」

船橋駅前のサイゼリヤに入った。あかりはミラノ風ドリアとペペロンチーノを頼んで、俺はハンバーグステーキを頼んだ。

「二つ頼むんだ」

「試合の後だから。……食べすぎって思った?」

「全然。かっこいいなって」

「…………」

耳が赤くなってた。もうこのパターンは覚えた。あかりは照れると耳から赤くなる。

食べながら話してるうちに、あかりの家が俺の家から自転車で5分くらいの場所だってことがわかった。マンションで、母親と二人暮らし。母親は看護師で夜勤が多いらしい。

「だから夜は一人のことが多い。……家だと本読めないっていうのは、静かすぎて怖いから」

前に図書室で言ってた「家だと読めない」の意味がやっとわかった。

「……じゃあ、図書室が閉まった後は?」

「我慢してる」

その言い方があまりにも淡々としてて、逆にきつかった。

「……うち来る?」

言ってから、(何言ってんだ俺)って思った。

「…………え?」

「あ、いや、本読むだけなら。うち親が共働きで妹は塾だから、夕方は誰もいないし。図書室の延長みたいな感じで……」

必死で言い訳してる自分が情けなかった。でもあかりは俺の顔をじっと見て、

「……行く」

え、マジで?

こうして、あかりが俺の部屋に来るようになった。

最初は本当に本を読むだけだった。俺はベッドに座って、あかりは床のクッションに座って、それぞれ本を読んでた。でも、学校と違って距離が近い。あかりのシャンプーの匂いがする。たまにページをめくる音がする。それだけなのに、意識しすぎて全然本の内容が頭に入らない。

3回目くらいに来たとき、あかりが突然本を閉じた。

「ねえ」

「ん?」

「私のこと、女として見てる?」

(ストレートすぎるだろ)

「……見てないって言ったら嘘になる」

「……そう」

「でも、それであかりが嫌なら、距離置くから」

中学のストーカーの件があるから、そこは絶対に無理しちゃいけないと思ってた。

あかりが立ち上がって、俺の隣に座った。ベッドの上。太ももが触れるくらいの距離。

「嫌じゃない」

心臓がうるさすぎて、自分の声が聞こえなかった。

「あんただから……平気」

あかりが俺の肩に頭を乗せてきた。さらさらの髪が首に当たって、良い匂いがして、頭がおかしくなりそうだった。

「あかり……」

「ん」

顔を上げたあかりの目が潤んでた。これまで見たどの表情とも違う。怖いくらいきれいだった。

キスした。自分から。唇が触れた瞬間、あかりの体がびくってなって、一瞬引いたほうがいいかと思ったけど、あかりが俺の服の裾をぎゅっと掴んで離さなかった。

「ん……」

離れたとき、あかりは目を閉じたまま、唇を少し開いてた。

「……もう一回、していい?」

「……うん」

今度はもう少し深くキスした。舌が触れた瞬間、あかりが小さく声を出して、その声が俺の理性をガリガリ削った。

どのくらいキスしてたかわからない。気づいたらあかりを押し倒す形になってて、あかりのTシャツの裾が少し上がって、引き締まった腹筋と白い肌が見えてた。

「……ごめん、俺……」

「謝らないで」

あかりが俺の頬に手を当てた。

「私も……したい」

その目が本気だってことは、さすがの俺にもわかった。でも怖かった。あかりの過去を知ってるから。

「本当にいいの。無理してない?」

「無理してたら、こんなこと言えない……」

あかりが自分のTシャツの裾に手をかけた。脱ごうとしてる。手が少し震えてた。

俺はあかりの手に自分の手を重ねた。

「俺がやる」

ゆっくりTシャツを脱がした。白いスポーツブラの下に、思ってたよりずっと大きな膨らみがあった。バスケのユニフォームだとわからなかったけど、たぶんEカップはある。

「……でかい」

「……デリカシーないね」

「ごめん、つい」

「……別にいいけど」

ブラを外すと、形のきれいな胸が現れた。バスケで鍛えてるから上半身が引き締まってて、その分胸の柔らかさが際立ってた。乳首はうっすらピンクで、もう少し固くなりかけてた。

触れると、あかりが息を飲んだ。

「あっ……」

「痛い?」

「……痛くない。ちょっと……びっくりしただけ」

指で乳首に触れると、みるみる固くなった。あかりが目をそらして、下唇を噛んでる。声を出すのを我慢してるのがわかった。

「我慢しなくていいよ」

「う……」

口に含むと、あかりの手が俺の頭を掴んだ。押し返すのかと思ったら、引き寄せてきた。

「んっ……あ……」

声が漏れ始めた。学校では絶対に聞けない、甘くて細い声。この声を俺だけが聞いてるっていう事実が、頭の中をぐちゃぐちゃにした。

あかりのショートパンツに手をかけると、腰が少し浮いた。脱がしてほしいってことだと解釈して、ゆっくり下ろした。黒のショーツだった。

(あの氷点下の女の下着を、俺が脱がしてる)

状況の異常さに頭がクラクラした。でも手は止まらなかった。

ショーツの上から触れると、もう湿ってた。

「やっ……そこ……」

「濡れてるね」

「……言わないで」

顔を手で覆って隠すあかりが、信じられないくらいかわいかった。氷点下なんて嘘だ。こんなに恥じらう女の子が、冷たいわけない。

ショーツを脱がして、直接触れた。あかりの腰がびくって跳ねた。

「あっ……ん……」

指を滑らせると、あかりの手が俺の腕を掴んだ。爪が食い込むくらい強く。

「痛かったら言って」

「痛くない……怖いだけ」

「怖い?」

「怖い……けど、やめないで」

その矛盾した言葉が、あかりの本音なんだと思った。怖いのに、それでも俺といたいって思ってくれてる。それがわかったとき、俺はこの子を絶対に大事にしなきゃいけないと思った。

ゆっくり指を入れると、きつかった。あかりが息を止めて、俺の肩に顔を埋めた。

「ん……んん……」

「大丈夫?」

「……大丈夫。動かして」

少しずつ動かすと、最初は固かったあかりの体がだんだん力が抜けていった。声も少しずつ大きくなって、腰が自分から動き始めた。

「あ……そこ……いい……」

クリに親指を当てながら中を刺激すると、あかりの体が大きく震えた。

「やっ……だめ、なんか……来る……」

「いっていいよ」

「あ、あっ、あああっ……!」

あかりが俺にしがみついて、体をぴんと反らした。中がきゅうって締まって、指が抜けなくなった。

しばらく抱きしめてたら、あかりが顔を上げた。目が潤んでて、頬が赤くて、唇が半開きで。

「……初めて、人にされた」

「……そう」

「あんたも……脱いで」

言われるまま服を脱いだ。もう限界だったから、正直助かった。

あかりが俺のを見て、一瞬固まった。

「……大きい」

「いや、普通だと思う……」

「比較対象ないからわかんない……」

あかりが恐る恐る手を伸ばして触れた。指が長くて、握り方がぎこちなくて、でもそれがたまらなかった。

「あかり……コンドームあるけど」

「……うん」

引き出しからコンドームを取り出した。一応買ってあったやつ。使う日が来ると思ってなかった。

装着して、あかりの上に覆いかぶさった。脚の間に体を入れると、あかりが少し体を強張らせた。

「怖かったら止めるから」

「……怖くない。あんたなら怖くない」

先端を当てて、ゆっくり入れた。あかりの体が震えて、目から涙がこぼれた。

「痛い?止めようか」

「止めないで……っ。痛いけど……嬉しい、から……」

(いま泣きながら「嬉しい」って言ったぞこの人)

ゆっくり奥まで入れた。あかりが俺の背中に手を回して、爪を立てた。痛かったけど、それすら愛おしかった。

「動くよ」

「……ん」

最初はゆっくり。あかりの表情を見ながら、痛くなさそうなペースを探った。しばらくすると、あかりの眉間のシワがゆるんで、吐息が甘くなった。

「あ……ん……もうちょっと……」

「もうちょっと何」

「……速く」

言われた通りに少しペースを上げると、あかりの声が変わった。抑えてた声が、もう隠しきれなくなってる。

「あっ、あっ、んんっ……」

俺の名前を呼んでくれた。学校では苗字すら呼ばないくせに、下の名前で。

「あかり……俺も、やばい……」

「いいよ……出して……」

脚を俺の腰に絡めてきた。ぎゅって抱きしめて、額を合わせた。あかりの目と目が合った。あの氷みたいだった目が、今はとろけるように溶けてた。

「出る……っ」

「ん……っ!」

腰の奥が痺れるような感覚がして、全身の力が一瞬抜けた。あかりが俺をきつく抱きしめて、体を小刻みに震わせてた。

しばらくそのまま動けなかった。息を整えながら、あかりの髪を撫でた。

「……重い」

「あ、ごめん」

体をどかそうとしたら、脚で挟まれたまま離してもらえなかった。

「まだいい。……もうちょっとこのまま」

言ってることとやってることが矛盾してるのが、あかりらしくて笑ってしまった。

「……なんで笑うの」

「いや、かわいいなって」

「…………バカ」

耳が真っ赤だった。

しばらくして体を離して、隣に並んで天井を見てた。あかりが俺の手を握ってきた。

「ねえ」

「ん」

「また来ていい?」

「もちろん」

「あと……学校では、まだ話しかけないかもしれない。ごめん」

「いいよ。図書室で待ってるから」

あかりが寝転んだまま俺のほうを向いた。目が赤くて、髪が乱れてて、首筋にうっすら汗が光ってた。

「……好き」

「え」

「好き。言ったからね」

そう言って布団を頭まで被った。

俺は天井を見ながら、自分の心臓の音を聞いてた。まだ信じられなかった。あの氷点下の女が、俺のベッドで「好き」って言った。

嬉しいとか幸せとかじゃなくて、ただ「ああ、この子を守りたい」って思った。カッコつけてるわけじゃなくて、本気でそう思った。

次の日の図書室、いつもの時間にあかりが来た。いつも通り無言で本棚に向かって、いつも通り奥の席に――じゃなくて、カウンターの真横の席に座った。

で、一瞬だけ俺のほうを見て、口の端だけで笑った。

それだけで、全部伝わった。

夏の間中、俺たちはそんな感じだった。学校では図書室だけが俺たちの場所で、放課後はあかりが俺の部屋に来て、本を読んで、たまにそれ以上のことをして、あかりは日付が変わる前に自転車で帰った。

誰にも言えない関係だった。でも、不満はなかった。あかりが少しずつ笑うようになって、声が柔らかくなって、それだけで俺は十分だった。

9月の体育祭の日、リレーで俺が走ってたら、ゴール付近にあかりがいた。腕を組んで、あの無表情で立ってた。

でも俺がゴールしたとき、あかりの口が小さく「お疲れ」って動いた。

周りは誰も気づいてなかった。あの氷点下の女が、俺にだけ声をかけてたことを。

まあ、気づかなくていい。これは俺だけの話だから。


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