誰にも笑顔を見せない剣道部の女キャプテンが、俺の前でだけ泣いた放課後の武道場

これは俺が高2の秋に起きた話。

まず俺のスペックから。身長171、体重60キロのヒョロガリ。顔面偏差値は48がいいところ。写真部に所属しているけど、撮るのは風景ばっかりで、人を撮るのは苦手。東京都立の共学で、最寄り駅は京王線の仙川。偏差値もまあ中の中で、要するにどこを切っても普通の男だ。

で、この話の主役はもう一人いる。

剣道部キャプテンの三年、篠原先輩。

校内では「鬼姫」って呼ばれてた。理由は簡単で、部活では鬼のように厳しく、告白してきた男子は全員無表情で断る。笑ったところを見たことがない、って噂されるくらいクールな人。

見た目は――橋本環奈を大人っぽくして背を5センチ伸ばした感じ、って言えば伝わるかな。身長163、髪は腰まであるストレートの黒髪で、普段は一本にまとめてる。スタイルもかなりよくて、制服の上からでもわかるくらい胸がある。たぶんEカップはある。剣道やってるから姿勢がめちゃくちゃ綺麗で、廊下を歩いてるだけで目立つ。

まあ、そんな人と俺が接点を持つなんて普通ありえない。

きっかけは10月の文化祭準備だった。

俺は写真部として校内の記録写真を撮る係で、各部活の準備風景を回ってた。武道場に行ったのは、剣道部が文化祭で演武をやるって聞いたから。

放課後の武道場。もう他の部員は帰ったらしく、誰もいないはずだった。

ドアを開けたら、篠原先輩が一人で正座してた。

で、泣いてた。

(えっ……)

声を出さずに、静かに涙を流してた。あの鬼姫が。

俺は完全にフリーズした。見てはいけないものを見てしまった感覚。そっと引き返そうとしたら、床がギシッと鳴った。

先輩がこっちを見た。

目が合った瞬間、先輩の表情が一気に変わった。涙の跡が残ったまま、いつものクールな顔に戻ろうとしてる。でも、目が赤いから全然隠せてない。

「……何か用?」

「あ、いや、文化祭の記録写真を……すみません、出直します」

「待って」

振り返ると、先輩は立ち上がってた。

「……見たこと、誰にも言わないで」

「はい。言いません」

「……ありがとう」

それだけだった。でも、その「ありがとう」の声が少し震えてたのが、ずっと頭から離れなかった。

次の日から、俺は妙に先輩のことが気になり始めた。

廊下ですれ違うたびに目で追ってしまう。前は「怖い人」としか思ってなかったのに、あの泣き顔を知ってしまったせいで、先輩を見る目が完全に変わってた。

(いや、別に好きとかじゃないから。ただ気になるだけ。うん)

自分に言い聞かせてたけど、今思うとバレバレだったと思う。

文化祭の一週間前、また武道場に撮影に行った。今度はちゃんとノックした。

「失礼します。写真部です、演武の練習風景を撮らせてもらえますか」

部員が何人かいて、先輩が指示を出してた。俺に気づくと、一瞬だけ目が動いた。ほんの一瞬。他の誰も気づかないくらいの反応。

「……ご自由に」

素っ気ない。まあそうだよな。

俺はファインダー越しに先輩を撮った。面をつけて竹刀を振る姿は本当にかっこよくて、シャッターを切る指が止まらなかった。

練習が終わって部員がバラバラと帰っていく中、先輩だけが残って床を雑巾がけしてた。キャプテンが一人で掃除してるのか、と思ったら声をかけずにはいられなかった。

「手伝います」

「……別にいい」

「もう写真も撮り終わったんで。暇なんです」

先輩は少し黙ってから、雑巾をもう一枚投げてよこした。

二人で無言で床を拭いた。10分くらい経って、先輩がぽつりと言った。

「あの日のこと……本当に誰にも言ってないの?」

「言ってないですよ。約束したんで」

「……そう」

また沈黙。でも、さっきまでとは空気が違った。

「あのね、泣いてた理由……聞きたい?」

正直めちゃくちゃ聞きたかった。でも。

「先輩が話したいなら聞きます。聞きたくないなら聞きません」

「……変なやつ」

先輩が少しだけ、本当に少しだけ口角を上げた。笑った、とは言えないくらいの変化。でも俺はそれを見逃さなかった。

(あ、この人笑うんだ)

「引退試合が近いの。でも……膝を壊してて」

先輩は右膝をさすった。

「半月板を痛めてるの。医者には手術を勧められてる。でも手術したら文化祭の演武にも引退試合にも出られない」

「それで……」

「痛み止めで誤魔化してるの。部員には言ってない。キャプテンが怪我してるなんて知ったら、みんな動揺するから」

(マジかよ……)

誰にも弱みを見せない鬼姫の正体は、一人で痛みを抱えて泣いてる女の子だった。

「……俺に言ってもいいんですか、そんな大事なこと」

「あなたは部外者だから。部内の人間には絶対言えない」

部外者、か。まあそうだよな。

「じゃあ部外者として、一個だけ言っていいですか」

「……何」

「無理しすぎないでください」

先輩はしばらく黙ってた。

「……ほんと、変なやつ」

それから、俺と先輩の間に不思議な関係ができた。

放課後、武道場の掃除を手伝いに行く。先輩は最初「来なくていい」って言ってたけど、三日目くらいから何も言わなくなった。五日目には、俺が来る前に雑巾を二枚用意してあった。

(これ、待っててくれたのかな……いや、深読みしすぎか)

掃除しながら、少しずつ話すようになった。

先輩は意外にもアニメが好きで、進撃の巨人を全巻持ってるとか、休みの日は一人でネトフリ漬けだとか。

「笑わないでよ……鬼姫がアニオタとか、みんなに知られたら終わりだから」

「いや、ギャップがすごいなとは思いますけど、笑わないですよ」

「……ギャップって何よ」

「褒めてます」

「褒めてない気がする」

こういう会話が、たまらなく楽しかった。先輩の素の部分を少しずつ知れることが、写真を現像するみたいに、ゆっくり像が浮かび上がってくる感じがして。

文化祭の前日、問題が起きた。

演武のリハーサル中に、先輩の膝が限界を迎えた。

俺は武道場の隅で撮影してたから、全部見てた。先輩が踏み込んだ瞬間、右膝がガクッと折れた。竹刀を落として、床に崩れた。

部員たちが駆け寄る。先輩は立ち上がろうとして、でも立てなくて。

「大丈夫、ちょっと躓いただけ」

嘘だってわかってた。俺だけが。

結局、先輩は保健室に行った。俺は撮影の片付けをして、少し迷ってから保健室に向かった。

保健室のドアの前で、中から声が聞こえた。先輩と保健の先生が話してる。

「無理よ。明日の演武は出ちゃダメ。悪化したら歩けなくなるわよ」

先輩の返事は聞こえなかった。

しばらくして先生が出ていって、俺は少し間を置いてからドアをノックした。

「……俺です」

「……入って」

カーテンで仕切られたベッドの上に先輩が座ってた。右膝にアイシングの袋を当ててる。目は赤くなかったけど、泣くのを必死にこらえてるのがわかった。

「聞こえてました。……先生の話」

「盗み聞き?」

「たまたまです」

「…………」

「先輩」

「わかってる。出ちゃダメなのはわかってる。でも、キャプテンとして最後の……」

声が詰まった。

「三年間、ずっと頑張ってきたの。みんなを引っ張って、厳しくして、嫌われてもいいって思って……最後くらい、みんなと一緒に……」

俺はベッドの横に座った。何を言えばいいかわからなかった。でも、黙って隣にいることはできた。

先輩が俺の制服の袖を掴んだ。

「……泣いてもいい?」

「どうぞ」

先輩は俺の肩に顔を埋めて、声を殺して泣いた。制服の肩がじわじわ濡れていく。先輩の髪からシャンプーの匂いがした。ちょっといい匂いだな、とか場違いなことを考えてる自分がいて、(俺、最低だな)と思った。

どれくらいそうしてたかわからない。

先輩が顔を上げた。目が真っ赤で、鼻も赤くて、鬼姫の面影はゼロだった。

「……ごめん。肩、濡れちゃった」

「洗えば落ちます」

「そういう問題じゃなくて……」

「俺、明日の演武、ちゃんと写真に撮りますよ。先輩が出られなくても、後輩たちの演武を最高の写真にします。先輩が作ったチームの姿を」

先輩はしばらく俺の顔を見てた。

「……お願い」

文化祭当日。

先輩は演武に出なかった。袴姿で正座して、審判席の横から後輩たちを見守ってた。

俺は必死でシャッターを切った。後輩たちの真剣な表情、竹刀がぶつかる瞬間、面を外した後の汗だくの笑顔。全部撮った。

演武が終わった後、先輩が後輩たちに何か話してた。遠くて聞こえなかったけど、後輩たちが泣いてるのが見えた。先輩だけが泣いてなかった。いや、泣けなかったんだと思う。キャプテンだから。

打ち上げが終わって、文化祭の片付けも終わった夕方。

校舎はもうほとんど人がいなくて、西日が廊下をオレンジ色に染めてた。

武道場に行ったら、先輩が一人でいた。袴姿のまま、壁にもたれて座ってた。

「先輩」

「……来ると思った」

「写真、現像したらプリントして持ってきます」

「ねえ」

先輩が立ち上がって、俺の前に来た。距離が近い。シャンプーの匂いがまたした。

「あなたのこと、ずっと部外者って言ってたけど……もう部外者じゃないかもしれない」

「……どういう意味ですか」

「鈍いね」

「えっ」

先輩が俺の手を取った。手が冷たかった。

「私ね、今まで告白されても何も感じなかったの。顔がいいとか、スタイルがいいとか、そういうことしか言わない人ばかりで」

「はあ……」

「でもあなたは、泣いてる私を見ても、何も聞かなかった。ただ約束を守ってくれた。掃除を手伝ってくれた。膝のことも、余計なことを言わなかった」

(いや、それは単に何て言えばいいかわからなかっただけなんだけど……)

「写真を撮ってくれるって言った時……嬉しかった。私が出られなくても、私のチームを残してくれるって」

先輩の目が潤んでた。でも今度は泣かなかった。

「だから……好き。あなたのことが好き」

時間が止まった。いや止まってない。心臓がうるさすぎて、自分の鼓動しか聞こえなかった。

「……え、ちょっと待ってください」

「待たない。返事は今じゃなくていい。でも、言いたかったから」

「いや、あの、返事は今します」

先輩が目を見開いた。

「俺も、先輩のことが好きです。たぶん、武道場で泣いてるの見た時から。ずっと気になってて、放課後に会いに行くのが楽しみで、でもそれが好きって気持ちだって気づいたのは……正直、今です。今、先輩に言われて、やっとわかりました」

(なに言ってんだ俺。告白がリアルタイム気づきって、ダサすぎるだろ)

でも先輩は、笑った。

今まで見た中で一番の笑顔だった。目尻が下がって、口元がふにゃって崩れて、鬼姫が完全に消えた顔。

「……やっぱり変なやつ」

「すみません」

「褒めてるの」

先輩が一歩近づいて、俺の胸に額をくっつけた。背が俺より低いから、ちょうど顎の下に先輩の頭がくる。

「……心臓、すごい音」

「聞かないでください」

「ふふ……私も同じだよ」

先輩が顔を上げた。目が近い。息がかかるくらい近い。

「先輩……」

「……キス、していい?」

答える前に、唇が触れた。

柔らかくて、少し冷たくて、でもすぐに温かくなった。先輩の手が俺の制服の背中をぎゅっと掴んでて、その力の入り方が、この人もめちゃくちゃ緊張してるんだってわかって、なんか安心した。

唇が離れた時、二人とも顔が真っ赤だったと思う。武道場の窓から差し込む夕日のせいにしたかったけど、無理があった。

「……もう一回」

今度は俺からキスした。さっきより少し長く。先輩の腰に手を回したら、先輩がびくっとした。

「っ……」

「ごめん、嫌だった?」

「……嫌じゃない。びっくりしただけ」

三回目のキスは、舌が触れた。どっちが先だったかは覚えてない。先輩の口の中は甘かった。たぶんさっき打ち上げで食べてたチョコクレープの味。

息が荒くなって、唇を離した。

「はぁ……っ」

先輩の目がとろんとしてた。いつものキリッとした目じゃなくて、焦点が少しぼやけたような。

(やばい、この顔かわいすぎる……)

「先輩、ここ学校です」

「……わかってる」

わかってるのに、離れない。むしろ俺の制服のボタンに指をかけてる。

「先輩っ」

「……うち、来る?」

先輩は学校から歩いて15分のところに一人暮らしをしてた。通ってる大学が決まった姉が実家に残って、先輩が一人でこっちのアパートに住んでるらしい。

正直、行くべきじゃないと思った。付き合って0日。しかもさっき告白されたばかり。

でも先輩が俺の手をぎゅっと握って離さなくて、その手が震えてて。

「一人になりたくないの……今日だけ」

その声で、もう断れなかった。

先輩のアパートは調布市内の1Kで、思ったより生活感があった。小さいキッチンにフライパンが二つ。本棚には剣道の技術書とアニメのBlu-rayが混在してる。

「散らかっててごめん。人を呼ぶ前提じゃないから」

「いえ、全然」

先輩が冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してくれた。二人でローテーブルに向かい合って座る。

沈黙が少し流れた。

「……緊張してる?」

「めちゃくちゃしてます」

「私も」

先輩がお茶を一口飲んで、テーブルに置いた。

「ねえ、さっきの写真……見たい」

俺はカメラを取り出して、今日撮った写真を見せた。先輩の隣に座って、液晶画面を一緒に覗く。

「……みんな、いい顔してる」

「先輩が育てたチームですから」

先輩が俺の肩にもたれかかってきた。髪がさらりと俺の腕に触れた。

「ねえ……私の写真もある?」

「……めちゃくちゃあります」

正直に言ったら、先輩が目を丸くした。

「見せて」

スクロールすると、先輩の写真がかなりの枚数出てきた。練習中の横顔、竹刀を振り上げる瞬間、面を外した後の凛とした表情、今日の演武で正座して後輩を見守る姿。

「……こんなに撮ってたの?」

「すみません、気持ち悪いですよね」

「ううん」

先輩が顔を上げた。泣きそうな顔だった。

「嬉しい。誰かにこんなに見てもらえてたんだって思ったら……」

そこから先は覚悟もなにもなかった。

先輩が俺にキスして、俺が先輩を抱きしめて、気づいたらベッドの上にいた。

先輩の袴を脱がすのに手間取った。紐の結び方がわからなくて。

「……ちょっと。引っ張らないで、こうやって解くの」

先輩が自分で紐を解き始めた。俺の目の前で袴が落ちて、白い道着の下に黒いレースの下着が見えた。

(道着の下にこんなの着けてたの……?)

「何その顔……」

「いや、ギャップが……」

「またギャップって言った。……一応、女の子なんだけど」

道着を脱いだ先輩の体は、想像以上だった。

剣道で鍛えられた腕と背中、でもウエストはくびれてて、胸は道着で隠れてた分めちゃくちゃ存在感があった。黒いレースのブラから溢れそうになってる。

「先輩、きれいだな……」

「っ……恥ずかしいから見ないで」

見ないでって言いながら、腕で隠さない。隠す気ないだろ、と思ったけど言わなかった。

俺もシャツを脱いだ。先輩が俺の体を見て、少し笑った。

「……細いね」

「すみません」

「謝んないでよ。……嫌いじゃない」

先輩を押し倒して、首筋にキスした。先輩が小さく声を漏らした。

「ん……っ」

ブラのホックを外すのにもたついた。背中で留めるタイプ。

「……下手だね」

「初めてなんで勘弁してください」

「……私も初めてだから、偉そうなこと言えないけど」

その言葉に、心臓が跳ねた。あの篠原先輩が初めて。鬼姫が。

ブラを外したら、形のいい胸が現れた。ピンク色の先端が少し硬くなってる。

「触っていい?」

先輩は顔を背けたまま、小さく頷いた。

手のひらで触れた。柔らかい、という月並みな感想しか出てこない。でも本当に柔らかかった。指が沈み込む感覚。先輩が息を詰めた。

「……っ、そこ……」

乳首を親指で撫でると、先輩の体がびくっと震えた。

「ん、あっ……やっ……」

普段の凛とした声が嘘みたいに甘い声が出た。先輩自身も驚いたみたいで、自分の口を手で押さえた。

「隠さなくていいですよ」

「だって……こんな声、自分で聞いたことない……」

俺は先輩の手をそっと外して、唇で胸に触れた。

「あ、ぁっ……ん……」

先輩の指が俺の髪を掴む。痛いくらいの力で。でも離さない。

下着に手を伸ばした。黒いレースの上から触れると、もう湿ってた。

「っ……触んないで、そこ……恥ずかしい……」

「もう濡れてるの、わかってるけど」

「……言わないでよバカ」

下着を下ろした。先輩が太ももを閉じようとするのを、膝の間に体を入れて止める。

「先輩、右膝大丈夫ですか」

「……今それ聞く?」

「大事なことなんで」

先輩がふっと笑った。

「……大丈夫。痛くない」

指で触れた。熱くて、滑らかで、先輩がぎゅっとシーツを掴んだ。

「あっ……ん、そこ……もう少し上……」

言われた通りに動かすと、先輩の体が弓なりになった。

「やっ……気持ちいい……っ」

先輩の反応を見ながら、指を動かした。どこが気持ちいいのか、先輩が教えてくれるから、それに従う。

腰が小刻みに震え始めた。

「あ、あっ、ダメ……変な感じ……来る、なんか……っ」

「そのまま」

「あぁっ……っ!」

先輩の体がぎゅっと固まって、数秒して、力が抜けた。

荒い呼吸の中で、先輩が腕で目を隠した。

「……イっちゃった……」

「顔見せてください」

「やだ……恥ずかしい……」

少し強引に腕を外した。真っ赤な顔と、潤んだ目。

(この顔を俺だけが知ってる。この人のこの表情は、俺しか見たことがない)

正直、その事実だけでどうにかなりそうだった。

先輩が俺のズボンに手を伸ばしてきた。

「……私も、したい」

ベルトを外して、下着ごと下ろされた。もう限界まで硬くなってる自覚はあった。

先輩が俺のをじっと見て、少し固まった。

「……思ったより……大きい……」

「普通だと思いますけど」

「比較対象ないからわかんない」

先輩がおそるおそる手で握った。冷たい手が触れた瞬間、声が出た。

「っ……」

「痛い?」

「痛くない。気持ちいい……」

先輩がゆっくり上下に動かし始めた。握力が強い。剣道やってるからだろうけど、ちょっと力入りすぎ。

「先輩、もうちょい優しくていいです」

「ごめん……こう?」

力が抜けて、ちょうどいい圧になった。先輩の手はまだ冷たかったけど、動かしてるうちにだんだん温まってきた。

「うん……そう、それでいい……」

先輩が覗き込むように俺の顔を見てる。

「気持ちいい……顔してる」

「見ないでください……」

「やだ。見たい」

先端から液が出てきて、先輩の指に絡んだ。

「あ……出てきた」

「先輩……そろそろやばいです」

「入れて……ほしい」

先輩が仰向けになって、脚を開いた。右膝を気にしてか、左脚だけ大きく曲げてる。

「コンドーム……」

「……洗面台の引き出し」

行ってみたら、本当にあった。未開封のコンドームの箱。

「先輩、なんで持ってるんですか」

「姉が置いてった。……こういう時のために持っとけって」

お姉さん、ナイスです。

震える手で開封して、装着した。正直三回くらい手が滑った。

先輩の上に覆いかぶさった。入り口に先端を当てる。先輩が息を止めた。

「入れますよ……痛かったら言ってください」

「……うん」

ゆっくり押し進めた。先輩の中はきつくて、熱くて、自分のものが飲み込まれていく感覚。先輩が顔をしかめた。

「っ……痛……」

「止めますか」

「止めないで……もう少し……ゆっくり」

言われた通りに、少しずつ。先輩の手が俺の背中に回されて、爪が食い込むのを感じた。

奥まで入った時、二人とも動けなかった。

「……繋がった」

「……うん」

「動いて……いいよ」

最初はゆっくり動いた。先輩が痛そうにしてないか、表情をずっと見ながら。

少しずつ、先輩の表情が変わった。眉間のしわがほどけて、口が半開きになって。

「ん……あ……気持ちいい……かも……」

「本当ですか」

「疑わないでよ……ん、あっ……」

動きを少し速くした。先輩の甘い声が大きくなる。

「あっ、そこ……いい、そこがいい……っ」

中がきゅっと締まる感覚があって、こっちも限界が近づいてきた。

先輩がキスを求めるように唇を突き出してきたから、そのまま唇を重ねた。キスしながら腰を動かす。先輩の声がキスで塞がれて、小さな鼻声になる。

「先輩……っ、もう……」

「ん……いいよ、出して……」

腰を数回突いて、体の奥から込み上げるものと一緒に、力が全部抜けた。先輩にしがみつくように抱きしめて、動きが止まった。

「……はぁ……っ」

「……はぁ……」

しばらく二人とも動けなかった。先輩の心臓の音が、自分のと重なって聞こえた。

体を離して、並んで横になった。天井を見つめて、少しずつ息が整っていく。

先輩がこっちを向いた。

「ねえ」

「はい」

「……もう一回、したい」

(早くない?)

二回目は、先輩がもう少し慣れてた。

痛みがなくなったのか、自分から腰を動かし始めた。俺の上に跨がって、ゆっくり腰を揺らす先輩の姿は、武道場で竹刀を振ってた時とは全然違う顔で。

「ん……あ、自分で動くと……全然違う……っ」

汗で肌が光ってて、胸が揺れるたびに目が離せなかった。

先輩が俺の手を取って、自分の胸に当てた。

「触って……」

「先輩……っ」

一回目より余裕がある分、先輩の声とか表情とか、全部が鮮明に入ってきた。目をぎゅっと瞑って、唇を噛んで声を堪えようとして、でも堪えきれなくて漏れる声。

(この人のこの姿を、俺以外の誰も知らない)

その独占感みたいなものが、信じられないくらい強い快感と混ざって、頭がぼんやりしてきた。

「あっ……来る、またっ……」

先輩の中がぎゅうっと締まって、俺もほぼ同時に限界が来た。

二回目が終わった後、先輩が俺の胸に顔を埋めた。

「……もう動けない」

「俺もです」

「……泊まっていきなよ」

「明日学校です」

「文化祭の振替休日だよ」

あ、そうだった。

「……じゃあ、泊まります」

先輩がくすっと笑った。

「素直だね」

「先輩こそ」

「……もう先輩じゃないでしょ。彼女でしょ」

「……はい。彼女です」

先輩が――いや、彼女が満足そうに目を閉じた。

「明日の朝ごはん、作ってあげる。……期待しないでね」

「期待します」

「……バカ」

その夜、俺は彼女の隣で眠った。

翌朝、目を覚ましたら隣で寝息を立ててる彼女がいて、これは夢じゃないんだって実感した。武道場で鬼の形相で後輩を指導してた人と同一人物とは思えないくらい、寝顔が穏やかだった。

彼女が作ってくれた朝ごはんは、味噌汁と卵焼きとご飯。卵焼きがちょっとしょっぱかったけど、俺はそれを最後まで美味しいと言い続けた。

あれから三年経った。

先輩は膝の手術を受けて、引退試合には間に合わなかった。でも後輩たちが準優勝を取ってきて、先輩は泣いた。俺の前でだけ。

今、先輩は大学三年で、俺は大学一年。遠距離ではないけど、会えるのは週末だけ。それでも毎週末、先輩の家に行って、掃除を手伝って、ご飯を食べて、一緒にアニメを見て、一緒に寝る。

あの日、武道場の床がきしまなければ。俺が見て見ぬふりをしていたら。この関係は始まらなかった。

写真部に入っててよかった。仙川に住んでてよかった。普通の男でよかった。

先輩は今でもたまに泣く。嬉しい時も、悲しい時も。でも、もう一人で泣くことはなくなった。

それが俺にとって、一番誇らしいことかもしれない。


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