彼女のバレー部の臨時マネージャーを一日だけ頼まれた日、試合中の体育倉庫で初めて泣き顔を見た

大学2年の秋の話をする。

俺はごく普通の文学部生で、特にこれといった取り柄もない。身長170、体重60キロ、顔面偏差値は自分で言うのもあれだけど48ぐらい。髪型でなんとか誤魔化してるタイプ。サークルは映画研究会に所属していて、運動とは縁遠い生活を送っていた。

そんな俺に彼女がいるのは、正直自分でも未だに信じられない。

名前は伏せるけど、体育学部の2年で、大学のバレーボール部のレギュラーセッター。身長172センチ、Eカップ。顔は中条あやみをもう少しだけキツくした感じって言えば伝わるかな。切れ長の目に通った鼻筋、笑わないと「怖い」って言われるタイプの顔立ち。実際バレー部の後輩からは「氷点下の司令塔」とか呼ばれてるらしい。本人はそれ気に入ってないんだけど。

付き合い始めたのは1年の冬で、きっかけは学食。俺が一人でカツ丼食ってたら、隣に座ってきて「それ美味しい?」って聞かれた。それだけ。あとから聞いたら、俺が毎日同じ席で同じメニュー食ってるのが気になってたらしい。(そんな理由で話しかけてくる?)

まあ、そこから何度か学食で会ううちに連絡先交換して、映画に誘って、告白して。意外にもOKで。「面白い人だと思ったから」って理由だった。俺のどこが面白いのか未だにわからん。

で、本題。

その日は土曜日で、彼女のバレー部の秋季リーグ戦が駒沢体育館であった。俺は観客として応援に行くつもりだったんだけど、前日の夜に電話がかかってきた。

「明日のリーグ戦なんだけど、マネージャーの子が一人インフルで倒れて、人手が足りないの」

「うん」

「一日だけでいいから、臨時で手伝ってくれない?」

「いや、俺バレーのルールすらあやしいんだけど」

「大丈夫、雑用だから。水とタオル配って、スコアシートの記入手伝って、荷物の管理して。それだけ」

「それだけって言うけどさ……」

「お願い」

普段絶対に「お願い」なんて言わない人間が言うもんだから、断れるわけがなかった。

朝7時に駒沢公園の駐車場で集合。秋の朝は寒くて、吐く息が白かった。体育館の裏口から入ると、もう他の部員たちがアップを始めていた。

正規のマネージャーは3人いるうちの2人が来ていて、そのうちの一人、2年の小柄な子が俺に仕事を教えてくれた。

「よろしくね」

彼女はジャージ姿で俺の横を通り過ぎるとき、小さくそう言っただけだった。ここではあくまで選手とマネージャー。それはわかってる。わかってるけど、もうちょっとこう、あるだろ。(いや、ないか…彼女だしな…)

最初の試合は10時から。相手は日体大で、関東リーグの中でも上位のチーム。うちの大学は中堅ぐらいの実力で、正直厳しい相手だった。

試合が始まると、俺はベンチの端でスコアシートの補助をしながら、合間に水やタオルを配る係。やってみると意外と忙しい。タイムアウトのたびにドリンクボトルを6本持って走るし、セット間にはタオルを回収して新しいのを渡す。汗でびしょびしょのタオルを受け取るたびに、(これが女子バレー部の裏側か…)と妙な感慨があった。

で、問題が起きた。

第1セットの途中、リベロの子がレシーブで床に突っ込んで膝を擦りむいた。俺が救急箱を持って駆け寄って、消毒して絆創膏を貼った。その子は3年の先輩で、結構かわいい人だった。っていうか、バレー部は全体的にレベルが高い。長身でスタイルいい子ばっかりだから当然か。

「大丈夫ですか?」

「ありがとー!やさしー!ねえ、あんた来年もマネージャーやってよ」

「いや、今日だけなんで……」

「えー、もったいない。イケメンだし」

お世辞だとわかっていても、言われ慣れてないから顔が熱くなる。

そのやり取りを、コートの中からじっと見ている視線があった。彼女だ。

目が合った瞬間、すっと視線を逸らされた。表情は変わらない。いつもの無表情。でも、付き合って10ヶ月も経てば、あの眉間のわずかな力の入り方が何を意味するかぐらいわかる。

(あ、これ怒ってる……)

案の定、第1セットの後半から彼女のトスが微妙にずれ始めた。スパイカーが打ちにくそうにしている。解説できるほどバレーに詳しくない俺でも、明らかにいつもと違うのがわかった。

第1セットを21-25で落とした。

セット間の休憩で、俺がドリンクを渡そうとしたら、彼女は俺の手からボトルを奪うように取って、一言も喋らずに飲んだ。

「タオル」

「はい」

それだけ。目も合わせない。

(いや、俺なんかした?……したな、うん。あのリベロの先輩の膝に絆創膏貼っただけで、これか)

隣にいたマネージャーの子が小声で教えてくれた。

「たぶん、さっきの。先輩のケガの手当て見てたと思う」

「あれ仕事じゃん……」

「うん、でも。普段あんな顔しないよ、あの人」

まじか。普段クールで感情見せない人が、こんなことで動揺するのか。(いや、嬉しいけど。嬉しいけどさ、試合中にやめてくれよ……)

第2セットは少し持ち直したものの、23-25でまた落とした。ストレート負け。彼女は試合後のミーティングでキャプテンに何か言われて、黙って頷いていた。顔は無表情だったけど、唇を噛んでいるのが見えた。

次の試合まで2時間の空きがあった。

部員たちは体育館の2階の観客席で休憩したり、外に買い出しに行ったりしていた。俺は使い終わったドリンクボトルを洗って補充する作業をしていた。体育館の裏手にある水道で黙々とボトルを洗っていると、監督の女性コーチが声をかけてきた。

「君、あの子の彼氏だよね」

隠してるつもりだったけど、バレてた。

「あの子、今日おかしいの。いつもはもっと冷静にトスを組み立てるんだけど、感情が入ってる。原因はたぶん君だと思うけど」

「すみません……」

「謝らなくていいの。あの子がああなるってことは、それだけ君のことが大事ってことだから。でもね、このままだと次の試合もダメよ。何とかしてあげて」

「何とかって……何をすれば」

「さあ?それはあなたの方がわかるでしょ」

コーチは笑って去っていった。何もわからんのだが。

体育館の中をうろうろしていると、倉庫の方から物音がした。体育館の端にある用具室で、マットやネットの支柱、ボールかごなんかが雑然と置いてある場所。扉が少し開いていて、中を覗くと、彼女が一人で座っていた。

跳び箱の上に腰掛けて、膝を抱えている。ジャージの袖で目元を拭いているのが見えた。

(嘘だろ……泣いてんのか……)

付き合ってから一度も見たことがなかった。俺の前では絶対に泣かない人だと思っていた。いや、泣くような弱さがないんだと思い込んでいた。

俺は倉庫に入って、扉を後ろ手に閉めた。薄暗い中で、彼女が顔を上げた。目が赤い。

「……見ないで」

「見る」

「は?」

「泣いてるとこ見たの初めてだから、ちゃんと見る」

「……バカじゃないの」

彼女は顔を背けたけど、立ち上がって出ていこうとはしなかった。

「さっきの試合、俺のせいだろ」

「……」

「リベロの先輩にケガの手当てしただけで嫉妬したんでしょ」

「嫉妬なんかしてない」

「嘘つけ。トスがずれてたの、素人の俺でもわかったぞ」

「……うるさい」

「でも、嬉しかったよ。お前がそんなふうに嫉妬してくれるなんて思わなかったから」

彼女の肩がぴくっと動いた。

「……ずるい」

「何が?」

「そういうこと言うの、ずるい。私が怒ってるのに、嬉しいとか言われたら怒れなくなる」

近づいて、頭を撫でた。いつもは身長差で俺が見上げる側なんだけど、跳び箱に座ってる彼女と俺はちょうど同じ目線だった。赤い目で睨んでくるのに、唇が震えてるのがたまらなく可愛くて。

「俺が好きなのはお前だけだから」

「……わかってるよ、そんなの。わかってるのに、あの子に優しくしてるの見たら頭おかしくなった。自分でもびっくりした」

「でもさ、それって俺にだけ見せてくれてるんでしょ、その顔」

彼女は何も言わなかった。ただ、俺のジャージの裾をきゅっと掴んだ。

あの子がこんなことをするのは初めてだった。普段は自分から甘えることなんて絶対にしない。いつも俺が一方的にくっついて、彼女が呆れた顔で受け入れる、そういう関係だった。

(あー……もう、ダメだ)

気がついたら唇を重ねていた。薄暗い倉庫の中で、マットの消毒液の匂いがして、遠くから他の試合の応援の声が聞こえて。こんな場所で何やってんだって頭の片隅で思ったけど、止められなかった。

「んっ……ここ、誰か来るかも……」

「来ないよ、みんな休憩行ってる」

「でも……」

「じゃあ鍵閉める」

倉庫の内側からロックを回した。カチッという音が、妙にはっきり聞こえた。

彼女を跳び箱に座らせたまま、キスを続けた。最初は軽いキスだったのが、すぐに深くなった。舌が触れた瞬間、彼女の体がびくっとして、俺の肩を掴む力が強くなった。

「ん……んん……」

ジャージの上から胸に触れた。スポーツブラの上からでも、大きさがはっきりわかる。普段ユニフォームで見てるときは動きやすさ重視で潰してるから、こうして触ると改めてデカいなって思う。

「ちょ……ここでそれは……」

「ダメ?」

「……ダメじゃないけど……」

ジャージのファスナーを下ろして、中のTシャツをめくる。スポーツブラを上にずらすと、白い胸がこぼれた。体育館の高窓から入る薄い光に照らされて、肌が白くて、普段から鍛えてるからか腹筋がうっすら割れてるのに胸だけ柔らかいっていうギャップにやられる。

「やっぱお前の体すごいな……」

「……今それ言う?」

触ると、指が沈み込む。先端が硬くなっているのがわかった。

「あっ……声、出ちゃう……」

「出していいよ。壁厚いし」

「よくないでしょ……体育館よ、ここ……」

そう言いながらも、体は正直で。乳首を指で転がすと、太ももがきゅっと閉じた。

ジャージのズボンの上から、脚の間に手を滑らせた。布越しでも熱いのがわかる。

「あ……やだ……」

「やだ?」

「やだって言ってない……やだけど……やめないで……」

こういうとこなんだよな。普段のクールな姿と、こうなったときの正直さのギャップが。(ずるいのはどっちだよ……)

ジャージを少しだけ下ろして、直接触れた。もうかなり濡れていた。

「んっ……あっ……」

「こんなになってんの?」

「うるさい……触ってるのそっちでしょ……」

クリを親指で撫でながら中に指を入れると、声を殺そうとして俺の肩に顔を埋めてきた。吐息が首元にかかって、こっちまで頭がぼうっとする。

「あっ……んんっ……もう、ダメ……」

胸を揉みながら、指を動かし続ける。彼女の腹筋が小刻みに震えているのが手のひらに伝わってくる。

「あっ……イっ……イっちゃ……っ」

体がびくんと跳ねて、俺の指をぎゅっと締めつけた。声を噛み殺しているせいで、くぐもった喘ぎが余計にエロい。

しばらく肩に顔を埋めたまま、荒い息をついていた。

「……最低。試合の合間にこんなこと……」

「始めたの俺だけど、拒否しなかったのはそっちだろ」

「……言い返せない」

顔を上げた彼女は、泣いた跡はもう消えていて、代わりに頬が真っ赤だった。目がとろんとしていて、こんな表情、コートの上では絶対に見せない。

「次の試合、勝ったらご褒美あげるよ」

「……何をくれるの」

「今のもっとすごいやつ」

「……バカ」

でも、口元が少しだけ上がっていた。

服を整えて倉庫を出た。幸い、廊下には誰もいなかった。

彼女は何事もなかったような顔でストレッチを始めた。さっきまで俺の肩に顔を埋めて喘いでいた人間と同一人物とは思えない。切り替えの速さが、ある意味怖い。

第2試合の相手は国士舘。うちと同ランクで、勝てない相手じゃない。

試合が始まって、俺はまたベンチの端でスコアシートの補助についた。

明らかに違った。彼女のトスが。

さっきまで微妙にずれていたトスが、ピンポイントでスパイカーの最高打点に合っている。表情はいつもの無表情に戻っているけど、目だけが違う。集中しているときの彼女の目。俺はあの目が好きだ。

第1セットを25-20で取った。

セット間に俺がドリンクを渡すと、今度はちゃんと受け取って、小さく「ありがと」と言った。

マネージャーの子が俺を見て、にやっと笑った。(バレてるじゃねーか……)

第2セットは競って、デュースまでもつれたけど、最終的に28-26で取り切った。ストレート勝ち。彼女が最後のセットポイントで上げたバックトスが完璧で、エースがそのまま叩き込んだ。体育館が湧いた。

試合後、部員たちが歓声を上げている中で、彼女が一瞬だけ俺を見た。無表情のまま。でも、右手の親指をちょっとだけ立てた。他の誰にも見えないぐらいの、小さなサムズアップ。

(あー……好きだわ、この人)

片付けを終えて、部員たちは打ち上げに行くらしかったけど、彼女は「先に帰る」とだけ言って抜けた。

駒沢公園の駐車場で合流した。もう日が傾いていて、イチョウの葉が黄色く色づいていた。10月の夕方の空気は冷たくて、彼女はジャージのファスナーを顎まで上げていた。

「……今日はありがとう」

「いいよ。楽しかったし」

「嘘でしょ。雑用ばっかりだったのに」

「お前が試合してるの近くで見れたから」

「……」

黙って歩き出した。俺も隣を歩く。

「ねえ」

「ん?」

「さっきの、ご褒美。今日もらえるの?」

横を向いたら、まっすぐ前を見たまま、耳だけ赤かった。

「うちに来る?」

「……打ち上げ断ったのなんでだと思ってるの」

マジか。つまりそういうことか。

俺のアパートは駒沢から電車で20分ぐらいの祐天寺にある。築30年の1K、6畳。お世辞にもきれいとは言えないけど、彼女は何度も来ているから気にしない。

部屋に着いてすぐ、「シャワー浴びてくる」と言って風呂場に消えた。俺も着替えて、一応ベッドのシーツだけ整えた。(何やってんだ俺……いや、そうなるだろ、この流れは……)

シャワーから上がった彼女は、俺のTシャツを勝手に着ていた。でかい。でも胸のとこだけ張って、太ももがTシャツの裾から見えている。この組み合わせは反則だと何度言ったかわからない。

「ご褒美、くれるんでしょ」

ベッドに座って、こっちを見ている。目がもう、あの倉庫のときと同じだった。

俺もシャワーをさっと浴びて戻ると、彼女はベッドの上で膝を抱えて待っていた。(この待ち方する人が「氷点下の司令塔」って呼ばれてんのか……ギャップえぐいな……)

隣に座って、頬を撫でた。彼女が目を閉じる。唇を重ねた。

昼間の倉庫でのキスとは違って、時間を気にしなくていい。ゆっくり、深く。舌を絡めると、彼女の手が俺の首の後ろに回された。

Tシャツの裾から手を入れて、素肌に触れた。腰のくびれから脇腹を撫で上げると、ぴくっと体が震える。

「くすぐった……」

「ここ弱いの知ってる」

「知ってて触らないでよ……」

Tシャツを脱がした。下着は着けていなかった。シャワー上がりだから当然かもしれないけど、それでもドキッとする。鍛えられた背中の筋肉と、それに不釣り合いなほど柔らかい胸。何度見てもこの体は本当にすごい。

「お前さ、なんでこんなエロい体してんの」

「自分で選んだわけじゃないし……」

胸を下から持ち上げるように触って、乳首を舌先で転がした。

「あっ……ん……」

体育館では声を殺していたけど、ここでは隠さなくていい。彼女の声が、少しずつ甘くなっていく。

片方を口で吸いながら、もう片方を手で揉む。指の間から柔らかい肉がはみ出る感触がたまらない。

「あんっ……そこ……弱いって言ってるのに……」

「弱いとこ攻めないでどうすんの」

「……ばか」

ゆっくりと体を倒して、仰向けにさせた。ショーツだけの姿になった彼女の体に、街灯の明かりがカーテン越しに差している。長い脚を少し閉じているのが、珍しく恥じらっているようで。

ショーツに手をかけると、腰を浮かせて脱がせてくれた。

脚の間に顔を埋めた。舌先で割れ目をなぞると、もう濡れていた。

「あっ……やっ……舌……」

クリを吸いながら、中に指を入れる。昼間と同じことをしているのに、声の出方が全然違う。我慢しなくていい環境だと、こんなに声が出るのかって思うぐらい。

「あっ……あんっ……そこ……気持ちいい……」

腰が小刻みに動いている。太ももで頭を挟まれる。バレー部の太ももだから、わりと本気で痛い。でもそれがいい。

「もう……入れて……」

「いいの?」

「いいから……早く……」

ゴムを着けて、ゆっくり入れた。中が熱くて、ぎゅっと締まる感覚。何回しても慣れない。

「んっ……あっ……」

最初はゆっくり動いた。彼女の顔を見ながら。いつもは無表情の彼女が、目を潤ませて唇を噛んでいる。この顔は俺しか知らない。他のどの部員も、コーチも、後輩も知らない。

(俺だけのもんだ、この顔は)

そんなことを考えたら、急に独占欲みたいなものが込み上げてきて、腰の動きが速くなった。

「あっ……急に……速い……っ」

「ごめん……我慢できない」

「謝んなくていい……もっと……して……」

手を繋いだ。彼女が握り返してくる力が、徐々に強くなっていく。

「あっ……あんっ……好き……っ」

普段「好き」なんて言わない人が、こういう時だけ言うからずるい。理性が全部持っていかれる。

「俺も……好き……」

「もっと言って……」

「好き……お前だけだから……」

「んっ……あっ……イきそう……」

腰を深く押し込んで、額を合わせた。目を開けてる彼女と目が合って、二人同時に限界がきた。

「あっ……イく……っ」

体が大きく震えて、中がぎゅうっと絞まった。俺もそのまま果てた。

しばらく繋がったまま、お互い息を整えていた。

「……ね」

「ん?」

「もう一回……」

「まじ?」

「ご褒美、まだ足りない」

今度は彼女が上になった。長い脚で俺の腰を挟んで、ゆっくり腰を落としてくる。上から見下ろす彼女は、コートの上のセッターと同じ目をしていた。全部コントロールするって目。ただし対象がボールじゃなくて俺なだけで。

「んっ……あ……深い……」

自分で動きながら、自分で感じている。俺は下から胸を揉んだ。揺れるたびに手の中で形が変わる。

「お前がこうしてるの、すげー好き」

「見ないで……恥ずかしい……」

「見る」

「……さっきもそれ言った」

二回目は長く続いた。体位を変えながら、何度もキスした。彼女は途中から敬語みたいな口調が完全に崩れて、甘えた声を出していた。試合中のあの顔からは想像もつかない。

最後は横向きで、後ろから抱きしめながら。彼女の背中の筋肉が小さく痙攣するのを感じながら、二人でもう一度イった。

終わった後、彼女は俺の腕の中で丸くなって、ぽつりと言った。

「今日……ほんとにごめんね。嫉妬して試合に影響出すとか、最低だった」

「いいよ。二試合目勝ったし」

「あれは……まあ……あんたのおかげかも」

「倉庫でのやつが?」

「それもあるけど……なんか、スッキリしたから。いろいろ」

「それはそれで複雑だけどな」

「来週もリーグ戦あるんだけど」

「……またマネージャーやれって?」

「今度は観客席でいい。でも……他の子に優しくしたら許さないから」

「観客席で他の子に絡む機会ないと思うけど」

「……あんたは油断するとすぐ誰にでも優しくするから」

「それは人としてどうなの」

「私にだけ優しくして」

それだけ言って、彼女は目を閉じた。

普段は絶対にこんなこと言わない。明日になったらまた「氷点下の司令塔」に戻るんだろう。でも今夜だけは、俺の腕の中で甘えてくれている。

祐天寺の安アパートの6畳間で、秋の夜の冷気がカーテンの隙間から入ってきて、それが逆に二人の体温を際立たせていた。

彼女の寝息が聞こえ始めた頃、俺はぼんやり天井を見ながら思った。

来週もリーグ戦見に行こう。今度は観客席から、あのピンポイントのトスを見よう。試合中は無表情のまま、俺の方なんか一度も見ないだろう。でも試合が終わったら、きっとまたあの小さなサムズアップをくれる。

それだけで、十分だ。


編集部プロフィール画像

編集部が運営。「あの夜」で読める恋の体験談を厳選して公開しています。