大学3年の夏の話です。
俺は都内の私大に通ってて、専攻は経営学部。まあ偏差値的には中の上くらいの、よくある大学生だった。顔面は……うーん、星野源の全盛期をものすごく劣化させた感じ、って言えば伝わるだろうか。身長172、体重は聞かないでほしい。彼女いない歴イコール年齢ではないけど、高校のとき3ヶ月だけ付き合った子がいるだけで、実質童貞みたいなもんだった。
で、同じゼミに宮瀬さんっていう女がいた。
宮瀬さんは、一言で言うと「おもしろいやつ」だった。ゼミの飲み会では必ずツッコミ担当で、教授のモノマネとか平気でやるし、男子とも普通にゲームの話するし、なんていうか、女として見る対象に入ってなかった。完全にノーマークだった。
それが変わったのが、7月の頭だった。
ゼミの打ち上げが荻窪の居酒屋であった日の帰り、たまたま駅まで一緒になった。
「宮瀬さん、そっち方面だったんだ」
「そう、阿佐ヶ谷。近いでしょ」
「俺、高円寺だから一駅違い」
「えっ、マジで?もっと早く言ってよ。帰り一緒じゃん」
それがきっかけで、ゼミの帰りに一緒に電車に乗るようになった。
宮瀬さんは電車の中でも容赦なくおもしろかった。教授が出した課題の理不尽さについて延々と文句を言い、駅の広告の変な日本語にツッコミを入れ、俺が全然興味のない韓国ドラマの話を一方的にしてきた。
正直、めちゃくちゃ楽しかった。
ただ、このときの俺はまだ宮瀬さんのことを完全に「おもしろい同期」としか認識していなかった。顔をまともに見たこともなかったかもしれない。いつも横並びで歩いてたし、電車でも隣に立ってたから。
7月の半ば、ゼミのグループLINEで花火大会の話が出た。
板橋の花火大会。毎年8月にやるやつで、ゼミのメンバー7、8人で行こうって話になった。
ところが当日が近づくにつれ、バイトだの帰省だので一人ずつ脱落していって、最終的に行けるのが俺と宮瀬さんの二人だけになった。
(いや、二人で花火大会って……それデートじゃん)
正直ちょっと気まずかった。でも今さら「やっぱ行かない」とも言えないし、宮瀬さんは宮瀬さんで全然気にしてない感じだったので、そのまま行くことにした。
「ねえねえ、せっかくだから浴衣着ていい?」
LINEでそう聞かれたとき、ちょっとだけドキッとした自分がいた。でもすぐに(いや宮瀬さんだし)と打ち消した。
当日。
集合は板橋駅の改札前、17時。俺は少し早めに着いて、改札の柱にもたれてスマホを見てた。
「おまたせー」
振り向いた瞬間、脳がフリーズした。
紺地に白い朝顔の浴衣。髪はいつものポニーテールじゃなくて、ゆるく巻いてアップにしてある。うなじが見えてる。耳に小さなピアス。薄くリップを塗ってるのが分かった。
(……誰?)
いやマジで、一瞬、人違いかと思った。
宮瀬さんの顔を正面からちゃんと見たのは、たぶんこれが初めてだった。目がでかい。橋本環奈と今田美桜の中間くらいの顔で、鼻筋がすっと通ってて、肌が白い。身長は160くらいだけど、浴衣のせいかスタイルがよく見える。
(いや待て。こんなにかわいかったか、この人?)
「どした?なんか変?」
「……いや。なんか、雰囲気違うなって」
「あ、浴衣?浴衣補正ってやつだよ。3割増しに見えるらしいよ」
「3割どころじゃないだろ……」
「は?なにそれ、褒めてんの?」
「……まあ」
「んふふ、ありがとー」
宮瀬さんはいつも通りのテンションだった。でも俺の心臓はもうおかしかった。横を歩いてるだけで、浴衣の袖がちょっと触れるだけで、心拍数が異常値を叩き出していた。
(落ち着け俺。こいつは教授のモノマネをする女だ。先週「うんこ漏れそう」って叫んでた女だ)
自分にそう言い聞かせたけど、全然効果がなかった。
花火大会の会場に着くと、案の定すごい人だった。荒川の河川敷は人で埋まっていて、場所取りなんてとっくに手遅れだった。
「うわー、やばくない?全然入れないじゃん」
「だよな……ちょっと離れたとこ行くか」
俺たちは人混みを避けて、会場からかなり離れた方向に歩いた。住宅街の裏手を抜けて、小さな公園の脇を通って、結局たどり着いたのは、河川敷の少し上流の、誰もいない堤防の上だった。
「あ、ここいいじゃん。花火も見えそうだし」
たしかに、少し遠いけど花火は見える位置だった。堤防の斜面に座ると、川面が夕焼けでオレンジに光っていた。
「屋台のビール買ってくりゃよかった」
「あ、私持ってきた」
宮瀬さんがバッグからストロング系のチューハイを2本出した。
「用意いいな」
「こういうとこだけはね」
乾杯して、花火が始まるのを待った。
風が気持ちよかった。7月末の、湿気はあるけど日が落ちてきて少しだけ涼しくなった風。宮瀬さんの浴衣の裾が風でひらひらしていて、足首が見えていた。
(足首に目がいく俺、キモすぎるだろ……)
花火が始まった。
遠いから音は少し遅れてくるけど、色はきれいに見えた。赤、青、金色。大きな花火が開くたびに、宮瀬さんの顔が一瞬だけ明るく照らされた。
「きれー……」
花火を見上げる宮瀬さんの横顔を、俺はずっと見ていた。もう花火なんかどうでもよかった。
(俺、こいつのこと好きなのかもしれない)
その考えが浮かんだ瞬間、全身に電気が走った感じがした。
いやいやいや。待て。ゼミの同期だぞ。おもしろいやつだぞ。来週もゼミで顔合わせるんだぞ。ここで変なこと考えたら全部終わるだろ。
「ねえ、聞いてる?」
「え?あ、ごめん。なに?」
「だから、あの金色のやつ何ていう花火なんだろうって」
「さあ……冠菊?たぶん」
「詳しいじゃん」
「いや適当に言った」
「ぶはっ、なにそれ」
宮瀬さんが笑った。いつもの、ガハハ系の笑い方じゃなくて、くしゃっと顔を崩す感じの笑い方。かわいすぎて、チューハイを持つ手が震えた。
花火が終盤に差しかかったころ、急に風向きが変わって、ぽつぽつと雨が降り始めた。
「えっ、嘘。雨?」
「やばい、天気予報見てなかった」
あっという間に本降りになった。7月末のゲリラ豪雨ってやつだ。
堤防の上には屋根なんかないし、近くにコンビニもない。俺たちは慌てて走り出した。宮瀬さんは浴衣で走りにくそうにしていて、下駄がカラカラ鳴ってた。
「ちょっと待って、下駄がっ」
「大丈夫か?」
振り返ると、宮瀬さんが片方の下駄の鼻緒を切ってしまって、片足で立っていた。もうびしょ濡れだった。髪もぺたんこになって、浴衣が体に張り付いていた。
(あ、やばい。浴衣、透けてる……)
白い肌がうっすら見えて、下着の線が分かった。目をそらさなきゃいけないのに、一瞬見てしまった自分が死ぬほど嫌だった。
「とりあえずあそこの東屋に行こう」
さっき通った公園に、小さな屋根付きのベンチがあったのを思い出した。宮瀬さんの手を引いて、走った。手が冷たくて、でも柔らかかった。
東屋に着いて、ようやく雨をしのげた。二人ともびしょ濡れで、息が上がっていた。
「最悪……浴衣ぐちゃぐちゃ」
「ごめん。俺がもっと早く移動提案してれば」
「いいよ別に、誰のせいでもないし」
宮瀬さんはそう言いながら、浴衣の襟元を直そうとしていた。でも濡れた布がくっついて、直すたびに鎖骨のあたりが見えた。
(見るな。見るな俺)
でも東屋は狭くて、距離が近すぎた。ベンチに並んで座ると、肩が触れ合う距離だった。
しばらく無言だった。雨の音だけが聞こえていた。
「……ねえ」
「ん?」
「さっきから、見てたでしょ」
心臓が止まるかと思った。
「……何を」
「花火のとき。私のこと、ずっと見てた」
バレてた。完全にバレてた。
「……ごめん」
「なんで謝んの」
宮瀬さんの声が、いつもと違った。低くて、静かで、少しだけ震えていた。
「私だって……気づいてなかったわけじゃないから」
「え?」
「帰り一緒になるようになってから、ちょっとずつ意識してた。でも、私のこと絶対そういう目で見てないなって思ってたから……おもしろいやつ枠から出られないんだろうなって」
(え、ちょっと待って。何の話?)
「宮瀬さん、それって……」
「だから今日、浴衣着てきたの。……ちょっとは女として見てくれるかなって」
俺の頭は完全にパンクしていた。処理が追いつかない。
宮瀬さんが、俺を意識していた?あの、教授のモノマネをする宮瀬さんが?「うんこ漏れそう」の宮瀬さんが?
「あー、やば。こんなこと言うつもりなかったのに。雨のせいだ。テンションおかしくなってる」
宮瀬さんが笑おうとしたけど、うまく笑えてなかった。声が上ずっていた。
俺は何か言わなきゃいけなかった。でも言葉が出てこない。頭の中で「好きだ」と「でもゼミが」と「いやでも好きだ」がぐるぐる回ってた。
気づいたら、俺は宮瀬さんの顔を両手で挟んでいた。
「えっ」
「おもしろいやつ枠なんかじゃない。今日、改札で振り向いたとき、マジで心臓止まるかと思った」
「……」
「ずっと花火じゃなくてお前のこと見てた。雨降ってきたとき、正直ちょっとだけ嬉しかった。二人きりの時間が延びるって思った俺は最低だけど」
「……最低じゃないよ、ばか」
宮瀬さんの目が潤んでいた。花火の残り香と雨の匂いが混ざった、不思議な夜だった。
俺は宮瀬さんにキスをした。
冷たい唇だった。雨で冷えたんだと思う。でもすぐにあったかくなった。
「ん……」
短いキスだった。離れたとき、宮瀬さんが目を開けて、泣き笑いみたいな顔をしていた。
「……もう一回」
今度は俺から。少しだけ長く、唇を重ねた。宮瀬さんの手が俺のシャツの胸元をぎゅっと掴んでいた。
「宮瀬さん」
「……莉子でいい。みんなにはそう呼ばれてるから」
「じゃあ、莉子」
「……うん」
名前を呼んだだけで、莉子の耳が赤くなった。いつもあれだけ堂々としてる人が、こんなに照れるんだって思ったら、胸がぎゅっとなった。
雨は弱くなってきたけど、まだ止む気配はなかった。莉子の浴衣はびしょ濡れのままで、寒そうに体を縮めていた。
「寒い?」
「……ちょっと」
俺は着ていたTシャツを脱いで、莉子の肩にかけた。下はタンクトップだったから、まあなんとか。
「ありがと……でもこれ、びしょびしょじゃん」
「ないよりマシだろ」
「……それより、体温の方がいい」
莉子が俺の腕を取って、自分の体に引き寄せた。
横にぴったりくっつく形になった。濡れた浴衣越しに、莉子の体温が伝わってくる。柔らかい。肩、腕、太もも。全部が近い。
(やばい。これはやばい)
俺の理性は花火と一緒に散ってしまったんじゃないかと思った。
莉子が俺の肩に頭をもたせかけてきた。いつもの強気な態度がどこにもない。小さな子どもみたいに甘えてくる。
「……ねえ。私のこと、ちゃんと好き?」
「好き。たぶん、花火見てたときに確信した」
「たぶんって何」
「いや、確実に」
「ん。よろしい」
莉子が顔を上げて、俺の唇に自分の唇を押し当ててきた。
さっきより深いキスだった。舌が触れて、俺は反射的に体が硬直した。
「……力抜いて」
囁くようにそう言われて、余計に力が入った。でも莉子の舌が柔らかく俺の口の中を探ってきて、気づいたら俺も莉子の腰に手を回していた。
浴衣の帯の上から腰を抱いている。指先に帯の結び目が当たる。莉子の体が少し震えたのが分かった。
「んっ……」
キスしながら、莉子の背中に手を滑らせた。濡れた浴衣が肌に張り付いていて、背骨のラインがそのまま指に伝わってくる。
(こんなに華奢だったのか、この人)
いつも堂々としてるから気づかなかった。肩幅は狭いし、背中も小さい。俺の片手で背中の半分くらい覆えてしまう。
「……ちょっと待って」
莉子が唇を離した。息が荒い。
「ごめん、嫌だった?」
「違う。……嫌じゃないから困ってるの」
莉子が俺の目をまっすぐ見た。暗がりの中でも、目が潤んでいるのが分かった。
「ここ、外だよ?」
「……分かってる」
「分かってるのにやめないでしょ」
「……やめたくない」
莉子が小さく笑った。あきれたような、でも嬉しそうな笑い方だった。
「……うちに来る?」
「え」
「阿佐ヶ谷だから、すぐだし。……着替えもあるし」
心臓がうるさすぎて、自分の返事が自分に聞こえなかった。でも気づいたら頷いていた。
雨の中を二人で歩いた。莉子は片方の下駄をなくしたまま、裸足で歩いていた。俺が「おぶろうか」って言ったら「いいよ別に」って断られたけど、3分後に「やっぱ足痛い」って言ってきたので、結局背中に乗せた。
莉子は軽かった。48キロくらいだと思う。背中に胸が当たっていて、頭がおかしくなりそうだった。
(Eくらいあるんじゃないか……?いや考えるなバカ)
阿佐ヶ谷の駅から徒歩5分くらいのワンルームマンション。築年数はそこそこいってるけど、きれいに片付いた部屋だった。
「散らかってるけど……先にシャワー使って。タオルとTシャツ出すから」
「いや、莉子が先に入れよ。濡れてるし」
「私は浴衣脱ぐのに時間かかるから、先に入って」
それもそうかと思って、シャワーを借りた。小さなユニットバスに莉子のシャンプーの匂いが充満していて、変な気持ちになった。甘い、花みたいな匂い。この匂いをいつも纏ってたのに、気づかなかった自分がアホすぎる。
シャワーを出ると、莉子が用意してくれたTシャツとハーフパンツに着替えた。男物だった。
「これ、誰の?」
「兄の。たまに泊まりに来るから置いてあるの」
「あ、そう……」
(元カレのじゃなくてよかった……いや、俺にそんなこと気にする権利ないけど)
莉子がシャワーに入っている間、俺はベッドの端に座って、状況の整理を試みた。
ゼミの同期の部屋にいる。さっきキスした。しかも何回も。相手は俺のことが好きだと言ってくれた。俺も好きだ。たぶん。いや、確実に。
……で、この後どうなるんだ?
シャワーの音が止まって、ドライヤーの音がして、5分くらいしてから莉子が出てきた。
オーバーサイズのTシャツにショートパンツ。髪を下ろしている。ストレートの黒髪が肩にかかっていて、さっきの浴衣姿とはまた違う雰囲気だった。化粧が落ちて、すっぴんなのに、かわいい。いやむしろすっぴんの方がかわいい。
「何か飲む?麦茶しかないけど」
「あ、うん。ありがとう」
莉子が冷蔵庫から麦茶を出して、コップに注いでくれた。指が細い。こんな細部に目がいくようになってしまった自分が怖い。
莉子が俺の隣に座った。ベッドが狭いから、太ももが触れた。
沈黙。
テレビもつけてないし、音楽も流れてない。エアコンの低い唸り声だけ。
「……なんか、急に緊張してきた」
「俺もだよ」
「ゼミのときは全然こんなんじゃないのに」
「だよな。あのテンションどこいったんだよ」
「無理だよ。好きな人の前でモノマネとかできないでしょ普通」
好きな人。そう言われて、また心臓が跳ねた。
「莉子」
「ん」
「俺、ちゃんと言っとく。付き合ってほしい」
「……遅いよ。もうキスしたのに」
「順番おかしいのは分かってる」
「ふふ……うん。よろしくお願いします」
莉子が俺の肩にもたれかかった。心臓の音が聞こえてないか不安だった。
「……ねえ」
「うん」
「さっきの続き……していい?」
莉子が顔を上げて、俺を見た。耳が真っ赤だった。
キスをした。今度は遠慮なく。舌を絡めて、莉子の腰を抱き寄せた。莉子のTシャツの裾から手が入って、素肌に触れた。さっきシャワーを浴びたばかりの肌は、すべすべしてあたたかかった。
「あっ……」
腰骨のあたりを指でなぞると、莉子がびくっとした。
「くすぐったい?」
「……くすぐったいんじゃなくて、どきどきする」
俺は莉子をゆっくりベッドに押し倒した。莉子は抵抗しなかった。でも、目を合わせようとしなかった。
「嫌だったら言って」
「嫌じゃないって言ってるでしょ……恥ずかしいだけ」
Tシャツの上から胸に触れた。やっぱりでかい。手に収まりきらない。
「……でかくない?」
「ちょっ、デリカシー!……E65だけど」
(やっぱEだったんだ)
Tシャツをめくり上げると、ブラはつけていなかった。シャワー後だから当たり前なのかもしれないけど、直で見える白い胸に脳の処理能力が限界を迎えた。形がきれいで、先端は薄いピンク色だった。
「そんなに見ないで……」
「ごめん、きれいすぎて」
「きれいは反則……」
莉子が腕で顔を隠した。その仕草がいつものガハハ笑いの莉子とあまりにも違いすぎて、頭がクラクラした。
胸に触れた。柔らかい。押すと指が沈んで、離すとゆっくり戻る。乳首に親指の腹をそっと当てると、莉子の呼吸が変わった。
「んっ……」
もう片方の手で反対側の乳首を指先で転がすと、莉子の体が小さく震えた。
「感じやすいんだな」
「うるさい……自分で触るのとは全然違うの……」
(自分で触ってるのか……)って思ったけど口には出さなかった。いや出したかったけど我慢した。
口で乳首を含んだ。莉子の手が俺の髪を掴んだ。
「あっ……やば……」
舌先で転がしながら、もう片方を指で弄ると、莉子の腰が浮いた。
俺の手が自然にショートパンツの裾に向かった。太ももの内側に触れると、莉子が脚をぎゅっと閉じた。
「……だめ?」
「……だめじゃない。けど……私、経験少ないから……」
「俺もだよ。ほぼ初めてみたいなもん」
「……ほんとに?」
「ほんと」
莉子がゆっくり脚を開いた。ショートパンツの上から触れると、布越しに熱を感じた。すでに少し濡れていた。
パンツの横から指を入れると、莉子が声を漏らした。
「あ……っ」
(信じられない。ゼミの宮瀬さんとこういうことをしてる。あの教授のモノマネの宮瀬さんと。頭がバグってる。絶対バグってる)
でも指に伝わる感触はリアルだった。あたたかくて、ぬるっとしていて、莉子が確かにここにいるっていう証拠だった。
クリに触れると、莉子が声を抑えるように唇を噛んだ。
「声、出していいよ」
「む、無理……壁薄いから……」
それでも、指の動きに合わせて小さな声が漏れてくる。
「んっ……あ……そこ、いい……」
莉子の手が俺のタンクトップの裾を掴んでいる。指が白くなるくらい、強く。
中に指を入れると、きゅっと締まってきた。
「あっ……ちょっと、待っ……」
「痛い?」
「痛くない……けど……なんか、もう……」
莉子の目が潤んでいた。快感で泣きそうになっているのか、恥ずかしさなのか、たぶん両方だった。
俺は莉子のショートパンツとパンツを一緒に脱がせた。莉子は何も言わなかった。ただ、目をそらして、両手で顔を覆った。
「莉子」
「……なに」
「かわいい」
「ばか……」
指で中を触りながら、クリを親指で刺激した。莉子の腰が小刻みに動き始めた。
「あっ……あっ……だめ、それ……やば……」
莉子の脚が震え始めた。太ももが俺の手を挟むように閉じてきて、でもまたゆっくり開く。その繰り返し。
「あっ……もう無理……っ」
莉子の背中が弓なりに反って、俺の指をきゅうっと締めつけた。脚がぴんと伸びて、数秒間止まって、それからがくがくっと震えた。
「はぁ……はぁ……」
莉子が腕で目を覆ったまま、荒い呼吸を繰り返していた。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃない……こんなの初めて……人にされたの……」
莉子が腕をどけて、俺を見上げた。涙目だった。
「ずるい。私だけこんなの、ずるいよ」
莉子が起き上がって、俺のハーフパンツに手をかけた。もう完全にいきり立っていたのはバレてたと思う。
「……でか」
「いや普通だと思う」
「比較対象ないから分かんないけど」
莉子が両手で握って、ゆっくり動かし始めた。ぎこちない動きだったけど、それが逆にリアルで、快感が背中を走った。
「こう?これで気持ちいい?」
「うん……」
「ほんと?嘘じゃない?」
「嘘つく理由ないだろ……あっ」
先端を親指で撫でられたとき、声が出た。
「あ、ここいいんだ」
莉子がそこを重点的に刺激してきて、あっという間に限界が近づいた。
「やば……莉子、もう出る……」
「え、もう?」
「だって、お前が……あっ」
ティッシュを取る間もなかった。莉子の手の中に出してしまった。
「わっ……すごい量……」
「ごめん……」
「なんで謝るの。……ちょっと嬉しいよ」
莉子がティッシュで手を拭きながら、恥ずかしそうに笑った。
息が落ち着いてきた頃、俺はまだ全然収まっていなかった。むしろ余計にどうにかなりそうだった。
「莉子、その……」
「……ゴム、ある?」
「……財布に一個だけ」
「一個って……」
「友達に無理やり持たされたやつ。まさか使う日が来るとは思ってなかった」
「ぷっ……その友達に感謝だね」
莉子が笑った。こんな状況でも笑えるのが、やっぱりこいつだなと思った。
ゴムをつけて、莉子の上に覆いかぶさった。莉子は枕に頭を置いて、俺を見上げていた。
「ほんとにいい?」
「……うん。優しくね」
先端を当てて、ゆっくり腰を進めた。
莉子の顔が歪んだ。
「っ……痛……」
「やめる?」
「やめないで……もうちょっとゆっくり……」
少しずつ、少しずつ奥に進めた。莉子の手が俺の二の腕を強く掴んでいた。爪が食い込んでいたけど、全然気にならなかった。
「はぁ……」
全部入ったとき、莉子が大きく息を吐いた。
「大丈夫?」
「うん……ちょっとだけ、このまま」
しばらくそのまま繋がっていた。莉子の体温が、中から直接伝わってくる。信じられないくらい密着している。
(これは夢か?3時間前まで、俺はこいつをただの面白い同期だと思っていたのに)
莉子が小さく頷いた。合図だと思って、ゆっくり動き始めた。
「ん……あ……」
最初は痛そうだったけど、少しずつ莉子の表情が変わっていった。眉間のしわがほどけて、口が薄く開く。
「あっ……ん……そこ……いい……」
腰の角度を変えると、莉子の声が変わった。抑えようとしてるのに漏れちゃう、みたいな声。それがたまらなかった。
「莉子……っ」
「ん……名前呼んで……もっと……」
「莉子、好きだ……」
「あっ……私も……好き……っ」
莉子が俺の首に腕を回して、しがみついてきた。密着度が上がって、胸が押し付けられる。
「あっ……あっ……やばっ……なにこれ……」
莉子の中がきゅっと締まった。
「俺も……もう……」
「いいよ……出して……っ」
ゴムの中に出した。頭が真っ白になった。
しばらく二人で抱き合ったまま、動けなかった。莉子の心臓の音が聞こえた。速い。俺のと同じくらい速い。
「……ねえ」
「ん」
「来週のゼミ、普通にできる気がしない」
「俺もだよ」
「教授のモノマネ、もうできないかも」
「いや、それはやってほしい」
莉子が「ぷっ」と吹き出して、そのまま声を上げて笑い出した。いつもの、ガハハ系の笑い。全裸なのにガハハ笑いしてるのがおかしすぎて、俺も笑った。
「最悪、こんなときまで笑わせないでよ」
「笑ったのそっちだろ」
莉子が俺の胸に顔をうずめた。
「……今日、帰んないでね」
「帰らないよ」
「約束ね」
「約束」
窓の外では、まだ微かに雨の音がしていた。
翌朝、阿佐ヶ谷の狭いベッドで目が覚めたとき、隣で莉子が寝ていた。寝顔はかわいかったけど、口は開いてた。ちょっとだけよだれの跡があった。
(こいつのことが好きで、こいつもやっぱり宮瀬さんだな)
起き上がったら莉子が目を覚ました。
「……おはよ。口の周り拭いてから話しかけて」
「それ、俺じゃなくてお前だろ」
「え?……やばっ」
慌ててシーツで口を拭く莉子を見て、あぁ、この人とずっと一緒にいるんだなと思った。ゼミが気まずくなるとか、周りにバレるとか、そういう不安は全部あったけど、それより「おもしろくてかわいい」が勝ってしまった。
ちなみにその後、莉子が作ってくれた朝ごはんは目玉焼きとトーストだったんだけど、目玉焼きの黄身が完全に固まってて、俺は半熟派なので文句を言ったら「じゃあ自分で作れ」って怒られた。付き合って半日でもう最初の喧嘩だった。
……今は同棲してます。花火大会の季節になると、あの夜のことを思い出す。阿佐ヶ谷のワンルームは引き払って、今は高円寺に二人で住んでる。目玉焼きは相変わらず固焼きで出てくる。俺はもう諦めた。