これ書くかどうかマジで迷ったんですけど、もう時効かなと思って投稿します。
俺は都内の中堅IT企業に勤めてる28歳です。入社二年目のときの話。当時は26で、配属先の開発二課で毎日ひいひい言いながらコード書いてました。
で、うちの課長。柴崎さん(仮名)。34歳、女性。
社内では「鬼柴崎」って呼ばれてて、レビューが厳しいことで有名だった。プルリクエスト出すたびに赤字だらけで返ってくるし、ミーティングでは容赦なく詰めてくる。正直、最初の半年は毎朝会社行くのが憂鬱だった。
見た目は――これ言うと怒られそうだけど――新垣結衣をちょっとシャープにした感じ。身長165くらいで、いつもパンツスーツ着てて、髪は肩につかないくらいのボブ。胸はスーツの上からだとわからないけど、たまにニットの日があって、そのときは(あ、意外とあるな…)って。たぶんDくらい。
まぁそんなの関係なく、怖い上司。それが俺にとっての柴崎さんだった。
転機は10月。四半期末の納品ラッシュで、課全体が殺気立ってた。金曜の夜、気づいたら23時を回ってて、オフィスには俺と柴崎さんの二人だけ。
(やっべ…中央線の終電何時だっけ)
スマホで調べたら、もう間に合わない。最寄りの高円寺までの終電、23時14分の総武線。今23時22分。完全にアウト。
「あの、柴崎さん、俺終電逃したんで、ネカフェ行ってきます」
「は?ネカフェ?」
「はい、近くに快活あるんで…」
柴崎さんはモニターから顔を上げて、メガネの奥からこっちを見た。仕事中だけかけてる黒縁のメガネ。
「私も上がるから、送ってく」
「え、いや、大丈夫です」
「私の車、駐車場にあるから。高円寺でしょ、通り道だし」
断れる雰囲気じゃなかった。つーか課長に「大丈夫です」を二回言える度胸は俺にはない。
地下駐車場に降りると、柴崎さんの車は白のアクアだった。綺麗に洗車されてて、車内は柑橘系の芳香剤の匂い。助手席に座ると、仕事のデスクより近い距離に柴崎さんがいて、なんか変な感じがした。
「シートベルト」
「あ、はい」
車が動き出して、しばらく無言。新宿の夜の道は空いてて、信号待ちのたびに街灯が車内を照らす。
「…今日のリファクタリング、よかった」
「え?」
「あの共通処理の切り出し方。ちゃんと考えてたなって思った」
俺、マジでびっくりした。柴崎さんが俺のコードを褒めるなんて入社してから一度もなかった。
「あ、ありがとうございます…」
「レビューであんまり言わないけど、ここ半年で伸びてると思う。最初はほんとにひどかったけど」
最後の一言は余計だろ。でもなんか、嬉しかった。
「ごめんね、いつも厳しくて」
信号で止まったとき、柴崎さんがこっちを見た。メガネは外してて、仕事モードじゃない顔。(こんな顔するんだ…)って思った。
「いえ、おかげで成長できてると思います」
「社交辞令はいいから」
「本気です」
柴崎さんが少し笑った。仕事中は絶対に見せない笑い方。目がちょっと細くなって、口元だけ緩む感じ。
(うわ、かわいい…)
いや待て。課長だぞ。鬼柴崎だぞ。何考えてんだ俺。
高円寺に着いて、マンションの前で降ろしてもらった。「ありがとうございました」って言ったら、柴崎さんは小さく手を振って走り去った。
その夜、ベッドに入っても柴崎さんの横顔がちらついて全然寝れなかった。(疲れてるからだ…うん、疲れてるだけ)
それから、終電を逃す夜が増えた。
言い訳させてほしいんだけど、わざとじゃない。繁忙期が本当にやばくて、気づいたら終電過ぎてるパターンが週に二回はあった。そのたびに柴崎さんが「送ってく」って言ってくれた。
三回目くらいから、車内で普通に雑談するようになった。
「あんた、休日何してんの」
「ゲームっすね、基本」
「何のゲーム」
「最近はスプラトゥーンを…」
「ランク何」
「え、やるんすか」
「S+50」
「は?」
鬼柴崎がスプラのガチ勢だった。会社では絶対にそんな話しないのに。俺より全然うまい。なんだよそれ。
「今度やろうよ、リグマ」
「あ、これ業務命令じゃないから。断っていいよ」
「やります」
即答した自分にちょっと引いた。
週末、フレンド登録してリグマやった。柴崎さんのプレイヤーネームが「しばちゃ」だったのは一生忘れない。ボイチャで「右来てる!」って叫んでる柴崎さんは完全に別人で、たまに「くそっ」とか言うし、勝ったら「よっしゃあ」って声裏返るし。
(この人、こんな人だったんだ)
金曜の夜、また終電を逃した。いつものように柴崎さんの車に乗る。
「ねぇ、お腹空いてない?」
「めちゃくちゃ空いてます」
「環七沿いにいい中華あるんだけど、寄ってく?」
深夜0時過ぎの中華料理屋。カウンターだけの小さい店で、柴崎さんはビールを頼んだ。俺もつられて頼んだ。
「会社じゃ絶対こういうの見せないでね」
「何がですか」
「私が部下とこんなとこで飲んでるってこと」
「言いませんよ」
「あと、敬語やめていいよ。ここでは」
「え、無理です」
「上司命令」
「それ上司命令っておかしくないですか…」
柴崎さんがビール飲みながら笑って、ふっとため息ついた。
「…私さ、会社で友達いないんだよね」
「え」
「厳しくしすぎたかな。女の課長ってだけで距離置かれるのに、さらに鬼とか言われてるし」
「あ、あれ知ってるんですか」
「鬼柴崎でしょ。わかるよそのくらい」
ちょっと寂しそうに笑った。俺はビールの泡を見つめながら、なんか胸がぎゅっとなった。
「…俺、柴崎さんのレビューで何回も泣きそうになりましたけど」
「…ごめん」
「でも、今の俺がまともにコード書けてるのは柴崎さんのおかげです。それは本気で思ってます」
柴崎さんが俺を見た。さっきまでの寂しそうな顔じゃなくて、なんか泣きそうな顔。
「…ありがと」
その声が小さくて、かすれてて、俺の心臓がドクンって鳴った。
(あ、やばい。これ、好きになってる)
気づいたのはその瞬間だった。いつからかはわからない。車の中で横顔を見てたときか、スプラで「しばちゃ」の名前を見たときか、「ごめんね」って言われたときか。でもたぶん、全部だった。
問題は、俺が26で柴崎さんが34だってこと。そして、直属の上司だってこと。
11月に入って、状況が変わった。
会社の飲み会で、営業部の高木っていう同期が酔って俺に絡んできた。
「高木うるせぇな…」
「あんた最近毎週金曜に柴崎課長の車乗ってるだろ。何あれ」
周りに聞こえる声で言いやがった。
「終電逃して送ってもらってるだけだよ」
「へぇー、毎週?課長に取り入ってんじゃねぇの」
何人かがこっちを見た。柴崎さんは離れた席にいたけど、聞こえてたかもしれない。
翌週の金曜、いつもより早く仕事を切り上げた柴崎さんが、俺に声をかけずに帰った。終電には間に合ったけど、なんか違った。LINEを送ろうとして、やめた。(何送るんだよ、「今日送ってくれないんですか」って?気持ち悪すぎるだろ)
その週末、スプラにも柴崎さんは現れなかった。
月曜、オフィスで顔を合わせた。
「おはようございます」
完全に仕事モード。メガネの奥の目は俺を素通りした。いつもの鬼柴崎に戻ってた。
一週間、業務連絡以外の会話ゼロ。車の話も、スプラの話も、何もなかったみたいに。
(やっぱ、あの噂でまずいと思ったんだろうな…)
俺は柴崎さんの立場を考えた。女性管理職で、部下の男と変な噂が立つのは致命的だ。わかってる。わかってるけど。
金曜の夜、残業で23時を過ぎた。今回は本当にわざとじゃない。オフィスには俺だけ――と思ったら、柴崎さんが戻ってきた。忘れ物を取りに来たらしい。
目が合った。
「…まだいたの」
「はい」
「終電は」
「さっき行きました」
沈黙。柴崎さんがデスクからノートPCのアダプタを拾い上げて、鞄に入れた。
「柴崎さん」
「…何」
「高木が言ったことは気にしないでください。俺からちゃんと否定しときます」
「…いい。気にしてない」
「嘘つかないでください。一週間、俺のこと避けてたでしょ」
柴崎さんが動きを止めた。
「…あんたのためだよ」
「は?」
「課長にゴマすってるって思われたら、あんたの評価に関わるでしょ。せっかく実力で認められてきてるのに」
「俺のため…」
「だから距離を――」
「俺はそんなこと頼んでないです」
声が大きくなってた。自分でもびっくりした。
「…」
「送ってもらわなくていいし、噂されてもいい。でも、また普通に話したいです。金曜の中華も、スプラも。それがなくなるのは嫌です」
柴崎さんが俺を見た。メガネをしてない顔。さっき取りに来たアダプタじゃなくて、こっちが本題だったんじゃないかって、後から思った。
「…送ってく。乗りなさい」
車に乗った。いつもの柑橘系の匂い。でも空気は全然違った。
環七に出たあたりで、柴崎さんが口を開いた。
「ごめん。あの一週間、私もきつかった」
「…」
「部下と仲良くなりすぎるのはまずいってわかってるの。でも、あんたと話してるの楽しかったから、やめるのしんどくて」
「柴崎さん」
「8つ下の男の子に何言ってんだろうね私…」
自嘲っぽく笑って、ハンドルを握る手に力が入ってるのが見えた。
「男の子じゃないです」
「え?」
「26ですし。男です」
「…何が言いたいの」
「わかんないですか」
信号が赤になった。車が止まる。
柴崎さんがこっちを向いた。街灯の光で、目が潤んでるのがわかった。
「好きです。上司とか年齢とか関係なく。柴崎さんが好きです」
長い沈黙。信号が青に変わっても、柴崎さんは動かなかった。後ろに車がいなくてよかった。
「…私の家、高円寺の手前なの」
「え?」
「通り道って言ったけど、実は遠回りしてた」
(…は?)
「最初からずっと。あんたを送るのが口実で、少しでも長く一緒にいたかったの」
俺の頭が真っ白になった。
「信号、青だから」
自分で言って自分で車を動かした。俺はしばらく何も言えなかった。
高円寺のマンション前に着いた。いつもならここで「ありがとうございました」って降りる。でも俺は降りなかった。
「柴崎さんの家、行っていいですか」
「…本気で言ってる?」
「本気です」
「後悔しない?上司だよ私」
「しません」
柴崎さんが前を向いたまま、小さく言った。
「…散らかってるけど」
車はマンション前を通り過ぎて、中野方面に向かった。柴崎さんのアパートは中野坂上の駅から5分くらいの場所にあった。
1LDKの部屋に入った。散らかってるって言ってたけど全然そんなことなくて、ただリビングのテーブルにSwitchのプロコンが出しっぱなしだっただけだった。(ここで「しばちゃ」やってんのか…)って思ったらなんか笑えた。
「何笑ってんの」
「いや、プロコン」
「うるさい」
柴崎さんがキッチンに行こうとした。「何か飲む?」って言いかけた、その手を俺はつかんだ。
「…」
「飲み物はいいです」
振り向いた柴崎さんの顔が近くて、部屋の間接照明に照らされた横顔がきれいで、俺はもう限界だった。
キスした。柴崎さんの唇は薄くて、リップクリームの味がした。
最初、柴崎さんは固まってた。3秒くらい。それからゆっくり目を閉じて、俺のシャツの前を掴んだ。
「ん…」
唇を離すと、柴崎さんの目が潤んでて、いつもの鋭さが全部なくなってた。
「…もっと、して」
その声が震えてて、俺の中の何かが完全に外れた。
もう一度キスして、今度は舌を入れた。柴崎さんの舌が遠慮がちに触れてきて、そのぎこちなさにどうしようもなく興奮した。会社では完璧な人が、こんなに不器用にキスしてる。
「柴崎さん…」
「名前…下の名前で呼んで」
「えっと…あかりさん」
「…ん」
名前を呼んだだけで顔が赤くなった。会社で赤面する柴崎さんなんて見たことない。
ソファに座って、キスしながら柴崎さんの――あかりさんのスーツのジャケットを脱がせた。中のブラウスのボタンに手をかけたとき、あかりさんが俺の手を止めた。
「待って」
「すみません、嫌でしたか」
「違う。…その、あんまり経験なくて」
「え?」
「最後にしたの4年前だし…体型とか、その…自信ないから」
34歳の課長が、下を向いて体型の自信がないって言ってる。(この人ほんとに鬼柴崎か?)
「…俺、さっき車の中でスーツの上からずっと見てましたけど」
「えっ…見てたの?」
「めちゃくちゃきれいだと思いました」
「…お世辞」
「コードレビューと一緒です。俺は正直にしか言えないんで」
あかりさんがふっと笑った。「何それ」って言いながら、自分でボタンを外し始めた。
ブラウスの下は薄いベージュのブラだった。34歳の割に――って言ったら失礼だけど、肌がきれいで、鎖骨のラインが色っぽかった。ブラを外すと、Dカップのやわらかい胸が出てきた。スーツじゃわからなかったけど、形がきれいで、乳首はうっすらピンクだった。
「…やっぱきれいだ」
「もう…やめて…恥ずかしい…」
顔を手で覆ったあかりさんの手を外して、胸に触れた。やわらかくて、手のひらに収まりきらない。指で乳首をなぞると、あかりさんが小さく声を漏らした。
「…ん…っ」
舐めたら、体がびくってなった。
「あっ…そこ、敏感…」
乳首を舌先で転がすと、あかりさんが俺の頭をつかんだ。押し返すんじゃなくて、引き寄せるように。
「あかりさん、ベッド行こう」
「…うん」
ベッドルームはリビングの隣だった。ダブルベッドにグレーのシーツ。あかりさんっぽい、シンプルで落ち着いた部屋。
あかりさんを仰向けに寝かせて、スカートを脱がせた。黒のストッキングの下に、ブラとお揃いのベージュのショーツ。ストッキングをゆっくり脱がせると、白い脚が出てきた。
「脚きれいっすね…」
「敬語混ざってるよ…」
「あ、癖で…」
あかりさんが笑った。その笑顔がかわいくて、内ももにキスしたら「ひっ」って小さく声が出た。
ショーツの上から触ると、もう少し湿ってた。
「…濡れてる」
「言わないでっ…」
顔を背けるあかりさんの耳が真っ赤だった。ショーツをずらして指で触れると、ぬるっとした感触。
「あ…んっ…」
クリを親指で優しく撫でながら、中指をゆっくり入れた。あかりさんの中は熱くて、締まった。
「あっ…指…」
「気持ちいい?」
「…うん…久しぶりで…すごい」
4年ぶりって言ってたのを思い出した。その間、この人はずっと一人で、会社では鬼って呼ばれながら。
指を動かしながら、クリを舌で舐めた。
「あっ…だめっ…それ…」
太ももが震え始めた。両手でシーツをつかんでる。
「やっ…イきそ…っ」
「いっていいよ」
「あ、あ、あっ…」
腰がびくって跳ねて、あかりさんが息を止めた。中の指がきゅっと締まって、波打つように収縮した。
「はぁ…っ…はぁ…」
目を潤ませて、ぼうっとしてるあかりさんを見て、俺はもう限界だった。ズボンを脱ぐ手がもたついた。
「…大きい」
「普通だと思いますけど」
「私の元カレと比べ…あ、ごめん。言わないほうがよかった」
「いや、めちゃくちゃ気になるんですけど」
「忘れて」
なんかこのやり取りが可笑しくて、二人で笑った。ベッドの上で上司と笑い合うのって、冷静に考えるとおかしいけど、そのときは自然だった。
「ゴムとか…」
「…ポーチに入ってる。洗面台の上」
取ってきて装着した。あかりさんが脚を開いて、でも恥ずかしそうに片腕で目を覆った。
「顔見たいんだけど」
「…恥ずかしい」
「レビューのときの顔のほうがよっぽど怖いですよ」
「今それ言う…?」
腕をどけて、目が合った。入れた。
ゆっくり奥まで入れると、あかりさんが声を上げた。
「あっ…っ…んんっ…」
久しぶりだからか、きつかった。中が俺を飲み込むように締めてくる。
「痛くない?」
「大丈夫…動いて…」
ゆっくり動かし始めた。あかりさんが俺の背中に手を回した。爪が軽く食い込む。
「あ…ん…あんっ…」
普段、部下の前では絶対に見せない声。この声を俺だけが知ってるっていう事実が、たまらなかった。
少しペースを上げると、あかりさんの声が大きくなった。
「やっ…そこ…っ」
「ここ?」
「んんっ…そこっ…いいっ…」
角度を固定して突くと、あかりさんが俺にしがみついてきた。耳元で荒い呼吸が聞こえる。
「あかりさん…気持ちいい…」
「私も…っ…こんなの…初めて…っ」
正直、今まで付き合った相手とのセックスでこんなに興奮したことなかった。好きな人としてるからか、相手が上司だからか、その両方か。ていうか、俺なんかでいいのかって気持ちが消えなくて、それが逆に必死にさせた。
「あかりさ…っ…もうやばい…」
「もう少し…もう少しだけ…っ」
あかりさんの脚が俺の腰に絡んできた。中がどんどんきつくなる。
「あっ…あっあっ…イくっ…」
あかりさんが背中を反らせた。中が波打つように締まって、俺も限界だった。
「っ…」
ゴムの中に出しながら、あかりさんを抱きしめた。心臓の音がお互いに聞こえるくらい密着して、しばらく動けなかった。
「…はぁ…」
「…」
「…ねぇ」
「ん?」
「月曜から、どうしよう」
「…普通にしてればいいんじゃないですか」
「普通にできる自信ない」
「できますよ。あかりさん演技うまいし」
「演技…?」
「だって、俺のこと好きだったのに、ずっと鬼課長やってたでしょ」
あかりさんが枕に顔を埋めた。「ばか」って聞こえた。
しばらく二人で天井を見てた。あかりさんの部屋の天井には、蓄光シールの星が貼ってあった。消灯したら光るやつ。34歳の部屋に。
「…あの星」
「見ないで。引っ越してきたときにノリで貼ったやつ…」
「いや、いいなと思って」
「…ほんと?」
「うん。かわいい」
あかりさんが横を向いて、俺の胸に額をくっつけた。
「…もう一回、していい?」
二回目は、あかりさんが上に乗った。ゴムを替えて、あかりさんが自分で入れた。
さっきより余裕があるのか、あかりさんがゆっくり腰を動かしながら俺の顔を見下ろしてた。髪が揺れて、さっきの間接照明が輪郭を照らして、嘘みたいにきれいだった。
「ん…っ…」
「…めちゃくちゃ好きです」
「…急に言わないでよ…」
腰の動きが乱れた。感情が身体に出る人なんだなって思った。会社では完璧にコントロールしてるのに。
俺が下から胸を揉むと、あかりさんが小さく喘いだ。一回目より声を出すようになってて、だんだん「しばちゃ」のほうに近づいてる感じがした。素の柴崎あかり。
「ねぇ…気持ちいい…?」
「やばいくらい気持ちいい」
「よかった…っ…私も…」
あかりさんが前に倒れてきて、キスしながら腰を動かした。舌が絡む音と、下のぬちゅっていう音が混ざって、頭がぼうっとなった。
「あっ…またイきそ…」
「俺も…」
「一緒にイこ…?」
あかりさんの腰の動きが速くなって、俺も下から合わせた。ぱちゅっ、ぱちゅっ、って音がベッドルームに響く。
「あっ…あっあっ…イくっ…イく…っ」
あかりさんが俺の胸に顔を埋めて、体を震わせた。中がぎゅうって締まって、俺もそのまま果てた。
しばらく動けなくて、くっついたまま息を整えた。あかりさんの汗が俺の胸に落ちた。
「…重くない?」
「全然」
「嘘つき。私そこそこあるんだから」
「いいっすよ別に」
「また敬語」
二人で笑った。
シャワー浴びて、あかりさんの部屋着を借りた。Lサイズのスウェットがちょうどよかった。リビングに戻ると、時計は3時を回ってた。
「お腹空いてない?何もないけど…卵かけご飯くらいなら」
「食べたい」
深夜3時の卵かけご飯。対面に座って食べてるのがなんか新鮮で、あかりさんも同じことを思ったのか、ふふって笑った。
「ねぇ、一つだけ約束して」
「何ですか」
「会社では今まで通り。レビューも容赦しないし、態度も変えない」
「わかってます」
「それでも…いい?」
「あかりさんが鬼課長じゃなかったら、俺は好きになってないです」
あかりさんが箸を止めて、俺を見た。
「…泣きそうだからやめて」
「泣いていいですよ。俺しかいないし」
「泣かないよ…ばか」
目が赤かった。
食べ終わって、ベッドに戻った。並んで横になると、あかりさんが俺の手を探してきた。指を絡めて、そのまま目を閉じた。
「…おやすみ」
「おやすみ。あかりさん」
翌朝、スマホのアラームで目が覚めた。隣であかりさんが丸まって寝てた。髪がぐしゃぐしゃで、口がちょっと開いてて、いびきとまではいかないけど寝息が聞こえた。
(この人が、月曜にはまたメガネかけて鬼課長に戻るのか)
なんかそれが面白くて、愛おしくて、頭を撫でたら「ん…」って寝ぼけた声が出た。
月曜日。オフィスで柴崎さんと目が合った。
「おはようございます。金曜のプルリクエスト、コメント返してないでしょ。今日中にお願い」
いつもの鬼柴崎だった。俺は「はい」って返事して席に着いた。
昼休み、スマホにLINEが来た。「しばちゃ」のアイコン。
「今日の夜、リグマやらない?」
「やります」
「じゃ22時にオンラインで。…あと、金曜のプルリクちゃんとやってね。マジで」
俺はスマホの画面見ながら、こみ上げてくる笑いをこらえるのに必死だった。
あれからもう二年経つ。柴崎さんは今も俺の上司で、レビューは相変わらず赤字だらけ。会社の誰も、俺たちの関係を知らない。金曜の夜だけ、鬼課長は「あかりさん」に戻る。
たぶん、あの日終電を逃してなかったら、俺はずっと柴崎さんのことを「怖い上司」のままだと思ってた。
終電逃してよかったって、人生で初めて思いました。