こんにちは。42歳、都内で営業の仕事をしてる男です。
いきなりなんですけど、俺は3年前に離婚してます。理由はまあ、よくある話で、仕事ばっかりで家庭を顧みなかったとか、すれ違いが積もったとか、そういうやつです。子供はいません。元嫁は大阪に戻って、今はもう連絡も取ってない。
離婚してからは荻窪のワンルームに引っ越して、仕事と家の往復。たまに後輩と飲むくらいで、42歳の独身男なんてこんなもんだろうと思ってました。顔面偏差値は中の下。身長172センチ。髪はまだあるけど、こめかみのあたりが白くなってきた。鏡を見るたびに(おっさんだな…)と思う日々。
で、去年の11月の話です。
会社の後輩の田中が結婚するってことで、二次会に呼ばれました。場所は恵比寿のダイニングバー。土曜の夜。正直めんどくさかったんですけど、田中には仕事で世話になってたし、断る理由もなかった。
恵比寿駅から歩いて5分くらいの店に着いて、受付で名前を言って、席を探してたんです。知ってる顔がちらほらいて、営業部の連中と固まって座ろうとしたとき。
(え…?)
見覚えのある横顔が、カウンター席の端に座ってたんです。
黒のワンピースに、鎖骨のあたりで揺れるシルバーのネックレス。髪は肩より少し下のセミロングで、ゆるく巻いてある。横顔の輪郭が、記憶の中の誰かとぴったり重なった。
宮前さゆり。元嫁の大学時代からの親友で、俺たちの結婚式にも来てくれた人。
最後に会ったのは、離婚する1年くらい前だから、もう4年は経ってる。元嫁と3人で代官山のイタリアンに行ったのが最後だったと思う。あのとき確か38歳だったから、今は42か43か。
宮前さんは新婦側の友人として呼ばれたらしい。田中の奥さんが宮前さんの後輩だったとかで、世間って狭いなと思った。
目が合った。
「え、嘘。中村さん…?」
「あ、宮前さん。久しぶり…」
「久しぶりって…何年ぶり?4年?」
「たぶん、そのくらい」
気まずかった。元嫁の親友だから。離婚のこととか、どこまで聞いてるのかわかんないし。宮前さんの方も、どんな顔をしていいかわかんない感じで、グラスのワインを両手で包むようにして持ってた。
「…あ、あの、香織のこととかは…」
「あー、うん。もう3年前に。知ってるよね、たぶん」
「うん…聞いた。ごめんね、なんか」
「いや、宮前さんが謝ることじゃないでしょ」
微妙な空気が流れたけど、ちょうどそのとき二次会の余興が始まって、新郎新婦がケーキ入刀やらなんやらで盛り上がり始めた。俺は営業部のテーブルに戻って、宮前さんはカウンターに残った。
ビンゴ大会とか、新郎新婦のなれそめクイズとか、そういうのをぼんやり眺めながら生ビールを3杯飲んだ。隣の後輩が「中村さん、彼女できないんすか」とか言ってきたので「うるせえ」と返した。
2時間くらい経って、二次会がお開きになった。外に出ると11月の恵比寿は普通に寒くて、コートの前を閉めながら駅に向かおうとしたら。
「あ、中村さん」
店の前で宮前さんが立ってた。スマホの画面を見ながら、ちょっと困った顔をしてる。
「どうしたんすか」
「やっちゃった…終電、なくなってた。今日実家の用事で横浜から来てて」
時計を見たら23時40分。横浜方面はもう厳しい時間だった。
「タクシーで帰ります?恵比寿から横浜だと結構かかるけど」
「うーん…1万超えるよね、たぶん。ちょっとキツいな…」
(まあ、そうだよな。普通に高い)
「俺、荻窪なんで。そっちならまだ電車あると思うんですけど、よかったらうちのソファで寝ていきます?いや、変な意味じゃなくて」
自分で言っておいて(何言ってんだ俺)と思った。元嫁の親友を自分の部屋に泊める?頭おかしいだろ。
でも宮前さんは少し考えてから。
「…いいの?本当にソファでいいなら」
「もちろん。布団も予備のがあるんで」
こうして、42歳独身男のワンルームに、元嫁の親友が泊まることになった。
荻窪に着いて、駅前のコンビニでお茶とビールを買って、マンションまで歩いた。歩きながら、当たり障りのない話をした。仕事のこととか、最近のこととか。
宮前さんは杉並区の阿佐ヶ谷にある出版社で編集の仕事をしてるらしい。独身。
「阿佐ヶ谷なんだ。荻窪の隣じゃん」
「そうなの。知らなかった、中村さんが荻窪に住んでるって」
「離婚してからこっちに越してきたからね」
部屋に入って、電気をつけた。散らかってはいないけど、生活感がすごい。食器棚の横にウイスキーの瓶が3本並んでるのとか、壁にかかってる競馬新聞のスクラップとか。
「…意外と片付いてるね」
「物がないだけです」
宮前さんはソファに座って、買ってきたお茶を飲んだ。俺はビールを開けた。
改めて見ると、宮前さんはやっぱり綺麗だった。石原さとみをもう少しだけ大人っぽくした感じっていうのかな。目がくりっとしてて、でも笑うと目尻にうっすら皺ができる。それが42、3歳の色気というか、嫌味じゃない色気になってた。身長は160くらい。体型はほっそりしてるけど、ワンピースの上からでも胸のラインがわかるくらいはある。
(いや、何見てんだ俺。元嫁の友達だぞ)
「ねえ、中村さん」
「ん?」
「香織とさ、最後に連絡取ったのいつ?」
「離婚の手続きが終わったときだから…3年前の春かな。それ以降は一切」
「そっか…」
「宮前さんは?まだ連絡取ってんの?」
少し間があった。宮前さんがお茶のペットボトルのキャップをくるくる回しながら。
「…実はね、私も去年から連絡取ってないの」
「え?親友なのに?」
「うん。ちょっと…色々あって」
聞いていいのかわからなかったけど、宮前さんの方から話し始めた。
元嫁の香織が大阪で再婚したこと。相手が宮前さんの元カレだったこと。大学時代のサークルの先輩で、宮前さんが3年付き合って別れた人で、その後に香織と繋がったらしい。
「別に恨んでないよ。もう何年も前に別れた人だし。でもね、香織から報告のLINEが来たとき、おめでとうって返したんだけど…そのあとスマホ握ったまま1時間くらい動けなかった」
「…そりゃ、きついわ」
「きつかった。自分でもびっくりするくらい」
宮前さんの目が赤くなってきて、鼻をすすった。泣くのかなと思ったけど、堪えてた。
(俺は元嫁に捨てられて、宮前さんは元嫁に元カレを取られた。なんだこの組み合わせ)
「ビール、飲みます?」
「…うん。もらう」
缶ビールを渡して、乾杯した。乾杯の音が寂しくワンルームに響いた。
それからしばらく、二人で飲みながら話した。仕事の愚痴とか、最近ハマってるドラマとか、荻窪のラーメン屋のこととか。くだらない話が多かったけど、なんか居心地がよかった。元嫁のことを知ってる人だからこそ、変に取り繕わなくていいっていうか。
「中村さんって、料理するの?」
「しないね。コンビニ弁当か、吉野家」
「やっぱり。冷蔵庫にビールしか入ってなさそう」
「正解。あとマヨネーズ」
「ふふ、最悪」
宮前さんが笑った。さっきまでの暗い顔が嘘みたいに、くしゃっとした笑顔で。その顔を見た瞬間、胸のあたりがぎゅっとなった。
(…やばいな、これ)
ビールを2本ずつ飲んで、時計を見たら1時を過ぎてた。
「そろそろ寝ましょうか。布団出しますね」
クローゼットから予備の毛布と枕を出して、ソファの上にセットした。
「ありがとう。あの、シャワー借りてもいい?」
「どうぞ。タオルそこの棚のやつ使ってください」
宮前さんがシャワーを浴びてる間、俺はベッドに座って天井を見てた。(何やってんだろうな、俺は)って考えてた。元嫁の親友を家に泊めて、しかもちょっとドキドキしてる自分がいて。42歳にもなって何やってんだと。
シャワーから出てきた宮前さんは、俺が渡したTシャツとスウェットを着てた。化粧を落とした素顔は、さっきより少しだけ幼く見えた。
「ごめんね、借りちゃって」
「全然。サイズでかいでしょ」
「うん、ぶかぶか」
宮前さんがソファに座って、毛布を膝にかけた。俺もシャワーを浴びて出てきて、電気を消そうとしたとき。
暗がりの中で、小さな声が聞こえた。
すすり泣きだった。
「…宮前さん?」
返事がなくて、近づいたら、宮前さんが毛布を顔に押し当てて泣いてた。肩が震えてた。
「大丈夫?」
「…ごめん…なんか、ダメだ…今日」
「二次会がきつかった?」
「うん…みんな幸せそうで…私、何やってんだろうって…42で独身で、友達の元カレに親友を取られて…」
声が途切れ途切れになって、それ以上は言葉にならなかった。
俺はソファの横にしゃがんで、どうしたらいいかわからなかった。肩に手を置くべきか、何か気の利いたことを言うべきか。でも何も浮かばなくて。
結局、黙って宮前さんの頭にぽんと手を置いた。
そしたら宮前さんが、俺の胸に顔を押し付けてきた。両手で俺のTシャツの裾をぎゅっと掴んで。
「…ちょっとだけ、このままでいさせて」
「…うん」
宮前さんの髪からシャンプーの匂いがした。俺のシャンプーなのに、こんなにいい匂いがするのはおかしい。
5分くらいそうしてた。たぶん5分。もっと長かったかもしれない。
宮前さんが顔を上げた。目が真っ赤で、鼻の先もピンクになってた。近い。息がかかるくらい近い。
「中村さん」
「うん」
「…寂しい」
その一言で、俺の中の何かが切れた。理性とか、常識とか、「元嫁の友達だぞ」って声とか、全部。
キスした。自分からした。宮前さんの濡れた頬に手を添えて、唇を重ねた。
宮前さんは一瞬だけ体を強張らせたけど、すぐに目を閉じた。
柔らかかった。唇が薄くて、でも吸い付くような感触があって。ビールの味が混ざった。
唇を離したとき、宮前さんが小さく息を吐いた。
「…だめだよ、こういうの」
「うん、わかってる」
「わかってるなら、なんで…」
「わかんない。ごめん」
「…もう1回、して」
宮前さんの方から唇を寄せてきた。今度はもっと深くて、舌が触れた。俺の首に腕を回してきて、体が密着した。Tシャツ越しに体温が伝わってきて、心臓がバカみたいにうるさかった。
「宮前さん…」
「さゆり、でいいよ。今日だけ」
(今日だけ、って何だよ。そんなの余計にダメだろ)
でも止まれなかった。さゆりさんの体を抱き上げて、ソファからベッドに移した。ぶかぶかのTシャツの裾から覗く鎖骨が白くて、そこにキスした。
「ん…」
首筋に唇を這わせると、さゆりさんの息が荒くなった。耳の後ろに舌を這わせたら、小さく体が震えた。
「そこ…弱い…」
「ここ?」
「ん…やだ、くすぐったい…っ」
Tシャツの中に手を入れた。ブラは外してたから、直接肌に触れた。思ったよりも柔らかくて、手のひらに収まるくらいの大きさ。Cカップくらいかなと思った。指先で先端をなぞると、すぐに硬くなった。
「あ…っ」
さゆりさんが目を閉じて、シーツを掴んだ。唇を噛んで声を堪えてる顔が、たまらなく色っぽかった。42歳の女の人がする顔じゃない、いや、42歳だからこその色気なのかもしれない。
Tシャツを脱がせた。暗い部屋の中で、さゆりさんの体が薄明かりに浮かんだ。華奢で、でも腰のラインはちゃんと女の人で。
「恥ずかしい…電気、消して…」
「もう消えてるよ。外の街灯の光だけ」
「…意地悪」
胸に唇をつけた。乳首を舌で転がすと、さゆりさんの腰がぴくっと動いた。
「ん…っ、あ…」
片方を口に含みながら、もう片方を指で摘まむ。さゆりさんの息がどんどん浅くなっていくのがわかった。
スウェットの上から太腿の内側を撫でると、さゆりさんが自分から腰を浮かせた。許可だと思って、スウェットとショーツを一緒に脱がせた。
(…すげえ綺麗だな)
声に出さなかったけど、本当にそう思った。手入れされてて、肌が白くて。触ると、もうかなり濡れてた。
「は…っ、久しぶりすぎて…恥ずかしい…」
「久しぶりって、どのくらい?」
「…5年くらい」
5年。元カレと別れてからずっとってことか。
指でゆっくり撫でると、さゆりさんの太腿がぎゅっと閉じた。でも俺の手は挟まれたまま止めなかった。クリトリスの周りを円を描くように触ると、さゆりさんの声が変わった。
「あっ…そこ…っ、やば…っ」
腰が揺れ始めた。さゆりさんが俺の腕を両手で掴んで、爪が食い込むくらい強く握ってきた。
「中村さん…っ」
「さゆりさん。中、触っていい?」
小さく頷いたのを確認して、指を入れた。中はびっくりするくらい熱くて、指が入った瞬間にさゆりさんの背中が跳ねた。
「んっ…!あ、あぁ…っ」
ゆっくり動かしながら、親指でクリトリスを刺激する。さゆりさんの呼吸がめちゃくちゃになって、枕に顔を押し付けた。
「やば…っ、いく…いっちゃう…っ」
そのまま指を動かし続けたら、さゆりさんの体がびくんと大きく震えて、中がきゅっと締まった。
「あぁっ…!」
しばらく荒い息をしてから、さゆりさんが腕で顔を隠した。
「…こんなすぐいくの、恥ずかしい」
「5年ぶりならしょうがないでしょ」
「それ言わないで…」
さゆりさんが体を起こして、俺のズボンに手をかけた。
「私も…したい」
ズボンとパンツを下ろされて、すでに限界まで硬くなってたのを見て、さゆりさんが少し目を見開いた。
「…大きい」
「いや、普通だと思うけど」
「普通じゃないよ…」
さゆりさんが両手で包むように握って、ゆっくり動かし始めた。手が小さいから、全部は包みきれてなくて、それがまた気持ちよかった。
「っ…」
「気持ちいい…?」
「うん…やばい」
先端を親指でくるくる撫でられて、腰が浮きそうになった。さゆりさんの手つきは慣れてないけど丁寧で、こっちの反応を見ながら力加減を変えてくれるのがわかった。
「さゆりさん…もう我慢できない」
「…うん」
俺は財布からコンビニで買ったゴムを取り出した。さっき宮前さんがトイレに行ってる隙に、念のためって自分に言い訳しながら買ったやつ。(最低だな俺…)って思ったけど、結果的には正解だった。
ゴムを着けて、さゆりさんの脚の間に体を入れた。入口に先端を当てると、さゆりさんの体が緊張で強張ったのがわかった。
「力抜いて」
「うん…ごめん、緊張して…」
ゆっくり入れた。5年ぶりっていうのは本当みたいで、きつかった。でも濡れてたから、少しずつ奥まで入っていった。
「んぅ…っ、あ…」
全部入ったとき、さゆりさんが俺の背中に両手を回してきた。爪が肩甲骨のあたりに食い込んで、少し痛かった。
「大丈夫?」
「うん…動いて、いいよ…」
ゆっくり腰を動かし始めた。さゆりさんの中は熱くて、動くたびにぎゅっと締め付けてきた。
「あっ…ん…っ、あ…」
声を殺そうとしてるのか、唇を噛んでた。でも動きを少し速くしたら、我慢できなくなったみたいで。
「あぁっ…気持ちいい…っ」
その声を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりそうだった。さゆりさんの体を抱きしめて、もっと深く腰を打ちつけた。
「やっ…奥…っ、当たって…っ」
「さゆりさん…っ」
手を繋いだ。指を絡めて、シーツの上で握り合った。さゆりさんが目を開けて、潤んだ目で俺を見上げた。その目があまりにも綺麗で、キスした。舌を絡めながら腰を動かして、さゆりさんの喘ぎ声を口の中で受け止めた。
「んんっ…!中村さん…好き…っ」
(え?)
「ずっと…ずっと好きだった…」
動きが止まった。俺の方が。
「…え、それ、どういう」
「香織と中村さんが付き合い始めたときから…ずっと。だから…だから香織が再婚したって聞いたとき、泣いたのは元カレのことだけじゃなくて…もう中村さんと繋がる理由がなくなったって…思って…」
信じられなかった。4年前、3人で代官山のイタリアンに行ったとき、宮前さんがやたら俺に話を振ってきたのは気を使ってくれてるんだと思ってた。元嫁が「さゆりがいると中村くん楽しそうだよね」って言ってたのは、嫌味じゃなくて本当にそう見えてたってことか。
(俺だけが何も気づいてなかったのか…?)
「…なんで今まで言わなかったんだよ」
「言えるわけないでしょ…親友の旦那さんだったんだよ…っ」
さゆりさんの目からまた涙が溢れた。繋いだ手をぎゅっと握ってきた。
俺は何も言えなくて、ただ、さゆりさんの涙をキスで拭った。頬の涙を、目尻の涙を、一つずつ。
「俺は…今のさゆりさんが好きだよ」
嘘じゃなかった。いつからかはわからない。たぶん、さっきソファで泣いてるのを見たときから。いや、もしかしたらもっと前から。代官山でくだらない話をして笑ってたときから、どこかで気づいてたのかもしれない。気づかないふりをしてただけで。
さゆりさんが泣きながら笑った。
「ずるい…そんなの…」
もう一度キスして、腰を動かし始めた。さっきまでとは違う。お互いの気持ちを確認したあとのセックスは、体だけじゃなくて、もっと奥の方が繋がってる感じがした。
「あぁ…っ、好き…もっと…」
「さゆりさん…っ」
腰の動きが速くなって、ベッドが軋んだ。さゆりさんの脚が俺の腰に絡みついてきて、もっと奥を求めるように引き寄せてきた。
「いく…っ、いっちゃう…中村さん…っ」
「俺も…もう…」
さゆりさんが俺の首にしがみついて、全身を震わせた。中がきゅうっと絞めつけてきて、俺も限界だった。
「っ…!」
腰を押し付けたまま、果てた。ゴムの中に全部出した。頭の中が真っ白になって、しばらく動けなかった。
二人とも荒い息のまま、抱き合ったまま動けなかった。さゆりさんの心臓の音がどくどく聞こえてた。
「…ねえ」
「ん」
「今日だけ、って言ったの…撤回していい?」
「…なに?」
「明日も…会いたい」
俺はさゆりさんの髪を撫でて、おでこにキスした。
「荻窪と阿佐ヶ谷、電車で2分だし」
「…ふふ、そうだね」
外が白み始めてた。11月の朝は早い。
さゆりさんが俺の腕の中でうとうとし始めて、そのまま眠った。俺は眠れなくて、天井を見ながらずっと考えてた。
元嫁のこと。宮前さんのこと。42歳で、離婚して、もう恋愛なんかしないだろうと思ってた自分のこと。
スマホを見たら、田中から「今日はありがとうございました!」ってLINEが来てた。結婚式の二次会に出てよかったと、生まれて初めて本気で思った。
翌朝、さゆりさんが先に起きて、俺の冷蔵庫のビールとマヨネーズだけ見て呆れた顔をしていた。
「…ここのスーパーって、何時から開いてる?」
「9時だけど」
「じゃあ買い物行こ。朝ごはん、作ってあげる」
俺のTシャツとスウェットのまま、二人で荻窪の西友に行った。休日の朝の西友で、元嫁の親友と卵とベーコンを選んでるのは、まあまあ異常な光景だったと思う。
さゆりさんが作ったスクランブルエッグは、塩加減がちょうどよくて、めちゃくちゃ美味かった。
「おいしい?」
「うん。毎朝食べたい」
「…それ、プロポーズ?」
「いや、まだ早いだろ」
「ふふ。"まだ"ってことは、いつかするの?」
「…知らん」
さゆりさんが笑った。くしゃっとした、あの笑顔で。
それから半年。今、さゆりさんとは普通に付き合ってます。阿佐ヶ谷の彼女の部屋にいることの方が多いけど、たまに荻窪の俺の部屋にも来る。冷蔵庫にはビールとマヨネーズ以外のものが入るようになった。
元嫁の香織には、何も言ってない。言う必要もないと思ってる。
ただ、たまに思う。人生って、終わったと思ったところから始まることもあるんだなって。42歳で、冴えないおっさんで、離婚歴ありで、それでも。
結婚式の二次会には、ちゃんと出た方がいいですよ。何が起こるかわからないから。