夏休みの補習で学校のプールに二人きりになった無口な同級生が、俺の前でだけ泣いた理由

高1の夏休みの話。

たぶんこれ読んでる人には信じてもらえないかもしれないけど、全部マジの話です。場所は埼玉の志木市、東武東上線の志木駅から歩いて15分くらいのところにある公立高校。特定されたくないから校名は伏せる。

俺のスペックから言うと、身長170で体重は当時58キロ。顔面偏差値は自分で言うのもアレだけど48くらい。つまりフツメンのちょい下。髪型だけはなんとかしてたけど、夏休みに入ってからは寝癖のまま学校に来てた。彼女いない歴=年齢の、まあよくいるタイプの高校生だった。

で、夏休みの補習。

俺は数学が壊滅的にダメで、1学期の期末で赤点を取ったせいで夏休みの前半は毎日補習に通わされていた。朝9時から12時まで。地獄。しかも教室にはクーラーがあるはずなのに、なぜか補習の教室だけ故障中で、扇風機2台でしのいでた。2024年の夏だぞ。死ぬかと思った。

その日は補習の最終日で、テストに受かればようやく自由の身になれる日だった。

テストは午前中に終わって、結果は午後に掲示される。つまり昼の12時から14時まで、2時間の空き時間がある。

家に帰るのもめんどくさい。かといって教室にいても暑いだけ。

(…プール、入れねえかな)

ふとそう思った。

夏休み中のプールは水泳部が使ってるけど、水泳部の練習は午前中で終わるはず。つまり午後は誰もいない。

更衣室の鍵は…まあ、体育教官室の前の鍵ボックスの暗証番号を知ってる奴は知ってる。俺は去年の体育祭の準備で覚えてしまっていた。1964。東京オリンピックの年。体育教師のセンスよ。

着替えは持ってないけど、トランクスで入ればいいだろ。誰もいないし。

そう思って、俺は校舎裏のプールに向かった。

更衣室の鍵を開けて、プールサイドに出た瞬間。

バシャッ…!

水の音がした。

(…え、誰かいる?)

プールの浅いほう、水深1メートルくらいのエリアで、誰かが水面に顔をつけてバタバタしていた。

最初、ふざけてるのかと思った。

でも違った。

明らかにパニックになってる。手が滅茶苦茶に水を叩いて、顔が上がっては沈み、また上がっては沈み。

「おい!」

俺は考えるより先に走ってた。

プールサイドの端から飛び込んで、そいつのところまで泳いだ。3秒もかからなかった。

後ろから脇の下に手を入れて、引き上げる。

「ゲホッ…ゲホッ…!」

めちゃくちゃ咳き込んでる。

俺はそいつをプールの縁まで引きずって、プールサイドに上げた。

で、顔を見て驚いた。

同じクラスの、水上(みなかみ)だった。

水上は…なんて言えばいいんだろう。橋本環奈の目をもうちょっと切れ長にして、輪郭を面長にした感じ。身長は162くらいで、体型は普通よりちょっと細い。でも出るとこはちゃんと出てて、体育の授業のとき体操服の上からでもわかるくらいだった。たぶんCかD。

ただ、水上はクラスで一番喋らない女だった。

授業中に当てられても「…はい」「…いいえ」しか言わない。休み時間もずっと本を読んでる。グループワークでも基本無言で、隣の席の女子が気を遣って話しかけても、うなずくだけ。

正直、俺は水上のことをほとんど知らなかった。同じクラスなのに、4月から7月まで一度も会話したことがない。そういう関係だった。

「おい、大丈夫か…?水上だよな?」

「…ゲホッ……」

水上は咳き込みながら、プールサイドに座り込んでいた。

スクール水着を着てる。紺色の、学校指定のやつ。髪の毛が顔に張り付いて、目が真っ赤になってた。

「なんでこんなとこに一人で…てか、泳げないのか?」

「………」

返事がない。いつもの水上だ。

でも、よく見ると震えてた。唇が紫っぽくなってる。

「とりあえず上がろう。タオルとかあるか?」

水上は小さくかぶりを振った。

(タオルもなしで泳ぎの練習してたのかよ…)

俺は更衣室に走って、ロッカーの上に置きっぱなしになってた誰かのバスタオルを持ってきた。

「ほら、これ使え」

水上はタオルを受け取って、肩にかけた。まだ震えてる。

「…一人で泳ぎの練習してたの?」

「……はい」

おお、喋った。

「なんで一人で?水泳部の顧問とか、誰かに頼めばよかったじゃん」

「………」

また無言。

俺はプールサイドに座って、水上の隣に腰を下ろした。

8月の日差しがジリジリと肌を焼いてくる。さっきまでプールの水が冷たく感じたのに、もう暑い。

「別に俺、誰にも言わないからさ。なんで一人でこんなことしてんのか教えてよ」

「…2学期」

「2学期?」

「…2学期の体育…水泳の授業がある…から」

あ、なるほど。

1年の2学期に水泳の授業がある。泳げないと、当然みんなの前で恥をかく。

「それで夏休み中に練習しようとしてたのか」

「……はい」

「でもさ、泳げない奴が一人でプール入るのは普通に危ないって。今日だって溺れかけてたじゃん」

「………」

水上がタオルの端をぎゅっと握った。

「…誰にも…頼めなかった…から」

その声が、ちょっと掠れてた。

(…あー、そういうことか)

水上はクラスに友達がいない。正確に言えば、話しかけてくれる子はいるけど、水上のほうから話しかけることが一度もない。だから深い関係の友達がいない。

泳げないことを誰かに相談できない。スイミングスクールに通うにしても、高校生が今さら初心者コースに行くのも恥ずかしい。だから一人で、誰もいない時間を狙って、こっそり練習してた。

…なんか、ちょっと胸がキュッとなった。

「俺、一応泳げるからさ。教えようか」

自分でも驚くくらい自然にそう言ってた。

「…え」

水上が初めて、ちゃんと俺の顔を見た。

目がでかい。こんなに大きかったっけ。睫毛が長くて、水滴がまだ残ってて、なんかキラキラしてた。

「いや別に深い意味はないっていうか…俺も暇だし。補習の結果待ちで2時間やることないんだよ」

「…ほんとに…いいんですか」

「いいよ。てか敬語やめろよ、同級生だろ」

「……うん」

その「うん」が、教室で聞くどの返事よりも柔らかかった。

まず水に慣れるところから始めた。

水上は水深1メートルの浅いエリアでも足がつくのに、顔を水につけるのが怖いらしい。

「とりあえず口まで沈めてブクブクしてみ」

「…ブクブク」

「お、できるじゃん。次は鼻まで」

「……ブク…ゲホッ」

「鼻から吸うなよ…口で吐いて」

「…む、むずかしい…」

こいつ、めちゃくちゃ不器用だった。

でも不思議と、教えてるうちに会話が増えていった。さっきまで単語しか返さなかった水上が、少しずつ文で喋るようになってる。

「…小学校のとき、見学ばっかりしてたから…ちゃんと習ったことなくて」

「見学?体弱かったの?」

「…ううん。水着になるのが…いやだった」

「あー…まあわかる気もする」

(いや、その体型なら別にいいだろ…)

とは言えない。言えるわけがない。

次にバタ足の練習をした。

プールの縁につかまらせて、脚を動かす。水上は力が入りすぎて、膝から下しか動いてなかった。

「もっと股関節から動かして。こう、脚全体をムチみたいにしならせる感じ」

「…わかんない」

「ちょっと触るぞ」

水上の太ももの横に手を添えて、動かし方を教えた。

ピクッ、と水上の体が跳ねた。

「…っ」

「あ、ごめん。嫌だった?」

「…ううん…大丈夫…」

耳が赤い。いや、耳だけじゃなくて首まで赤い。

(…これは触らないほうがいいやつだったか)

でも水上は自分から練習を続けた。俺が手を離しても、さっき教えた通りに脚を動かしてる。

30分くらいで、なんとなくバタ足の形にはなった。

「よし、じゃあ次はビート板なしで浮いてみるか」

「…え、もう?」

「大丈夫、俺が支えるから。絶対沈ませない」

水上は不安そうな顔をしてたけど、小さくうなずいた。

俺は水上の腹の下に手を入れて、体を水平に支えた。

…柔らかい。

いや、当たり前なんだけど。水着越しでも、腹の下に手を入れてるわけで。指先にはっきりと、水上の体の弾力が伝わってくる。

(やめろやめろ、今そういうこと考えんな)

「じゃあ手を伸ばして…そう、前に。で、バタ足」

「…こ、こう…?」

バシャバシャバシャッ!

水上のバタ足はまだぎこちなかったけど、一応前に進んだ。

「お、いい感じ!そのまま…俺手離すぞ」

「え、ちょ、まっ…!」

手を離した瞬間、水上の体がぐらっと傾いて、沈みかけた。

俺はすぐに水上の体を抱き上げた。

自然と、正面から抱きかかえる形になった。

水上の顔が、俺の顔のすぐ前にあった。

10センチもない。

水滴がついた睫毛。少し開いた唇。驚いて見開かれた目。

「………」

「………」

3秒くらい、固まった。

水上の体は驚くほど軽かった。腕の中で、心臓がドクドクいってるのが伝わってくる。俺のか、水上のか、たぶん両方。

「…わ、悪い」

俺は慌てて手を離した。

「…ううん」

水上は水の中に立って、自分の胸のあたりを手で押さえてた。

なんか、さっきまでと空気が変わった気がした。

「…そろそろ上がるか。だいぶ長く入ってたし」

「…うん」

プールから上がって、二人でプールサイドに座った。

8月の太陽がバカみたいに照りつけてて、体はすぐに乾いていった。

「水上ってさ、なんでそんなに喋らないの」

「………」

「あ、ごめん。別に責めてるわけじゃなくて」

「…中学のとき」

「うん」

「…仲良かった子に…裏で悪口言われてて…それから…人と話すのが…こわくなった」

「………」

「…何言っても…嫌われるかもって思っちゃうから…だったら…何も言わないほうがいいかなって」

水上はプールの水面をじっと見てた。

「…それ、めちゃくちゃしんどくない?」

「…慣れた」

「慣れたって言ってるやつが、一人でプールに来て溺れかけてるの、全然慣れてないだろ」

「………」

水上が、ちょっと笑った。

初めて見た。水上が笑ってるの。

口の端がちょっと上がるだけの、ほんとに小さい笑い方だったけど、不覚にもかわいいと思ってしまった。

「…あなたは…変な人だね」

「は?なんで?」

「…こんなに…私と喋ってくれる人…いなかったから」

(いや、それはお前が喋らないからだろ…)

とはツッコまなかった。

「…俺、明日も補習あるんだけど…嘘だけど。明日も来る?ここ」

なんで嘘ついたんだろう。補習は今日で最後なのに。

「…来る」

「じゃあまた教えるよ。一人で練習すんなよ、マジで危ないから」

「…うん。ありがとう」

水上はそう言って、更衣室に向かっていった。

濡れたスクール水着が体に張り付いて、背中のラインがはっきり見えた。

腰のくびれと、そこから広がるお尻の丸み。

(…いやいやいや)

俺は慌てて目をそらした。

次の日。

俺は補習がないのに朝9時に学校に来た。我ながらアホだと思う。

プールの鍵を開けて待ってたら、9時半くらいに水上が来た。

昨日と同じスクール水着。でも今日はちゃんとタオルを持ってきてた。あと、小さいビニールバッグに水とか入れて。

「…おはよう」

「おう」

この日は面かぶりクロールの練習をした。

水上は相変わらず不器用だったけど、昨日よりは確実に上達してた。

「息継ぎは横向きに。上を向くんじゃなくて、横」

「よ、横…ぷはっ…む、むり…」

「いや今の良かったぞ。もう一回」

こんな感じで、俺と水上は毎日プールで会うようになった。

3日目。4日目。5日目。

日を追うごとに、水上の言葉が増えていった。

好きな本のこと。飼ってる猫のこと。お父さんが単身赴任で家にはお母さんと二人きりなこと。中学のときの話をもっと詳しく聞いたのは4日目だった。

「…仲良くしてた子がね、急に無視してきて。LINEのグループからも外されて。理由もわかんなくて」

「それキツいな…」

「…あとで知ったんだけど、その子が好きだった男子が…私に告白してきたのが原因だったみたい」

「お前のせいじゃないじゃん」

「…でも…私がもっと気づいてあげてたら…」

「いや、それは相手が悪いだろ。逆恨みじゃん」

水上は黙って、水の中で自分の腕を抱いた。

「…ありがとう。そう言ってくれる人…初めて」

6日目の金曜日。

この日は朝から雲行きが怪しかった。

プールに入って30分くらいしたところで、遠くからゴロゴロと雷の音がした。

「やべ、雷か。プールはまずい。上がろう」

急いでプールから出て、更衣室に逃げ込んだ。

男子更衣室に入ろうとしたら、水上がすごい勢いで俺の腕を掴んだ。

「…っ」

「え、どうした?」

「…雷…こわい…」

水上は前髪から水滴を垂らしながら、俺の腕にしがみついてた。

さすがにこのまま男子更衣室に連れていくわけにもいかないし、女子更衣室に俺が入るわけにもいかない。

「じゃあ…体育倉庫のほう行くか。あそこなら窓もないし」

プールサイドの奥にある体育倉庫。跳び箱とかマットとかが置いてある、あの薄暗い部屋だ。

鍵は…開いてた。誰かが閉め忘れたらしい。

中に入ると、蒸し暑い空気と、ゴムとほこりの匂いがした。

窓がないから薄暗い。入口のドアの隙間から入る光だけが頼り。

ゴロゴロゴロ…

「…っ」

水上が俺の腕をさらに強く握った。

「大丈夫、ここなら外の音もだいぶ小さいだろ」

「…うん…」

俺はマットの上に座った。体操用の分厚いマットで、座り心地は悪くない。

水上も隣に座った。…というか、ほぼくっついてた。腕はまだ掴んだまま。

二人とも水着のまま。タオルはプールサイドに置いてきてしまった。

水上の肌に水滴が残ってて、薄暗い中でもうっすら光ってた。

ゴロゴロ…ドンッ!

「…っ!」

水上が俺の腕に顔を埋めた。

「お、おい…」

「…ごめん…もうちょっと…このまま…」

水上の体が震えてる。

(…こいつ、本当に雷苦手なんだな)

俺は空いてるほうの手で、水上の頭をぽんぽんと叩いた。自分でも何やってんだって感じだったけど、他にやりようがなかった。

「………」

水上がゆっくり顔を上げた。

目が潤んでた。泣いてたのかもしれない。

「…ねえ」

「ん?」

「…なんで…こんなに優しくしてくれるの」

「え?いや…別に普通だろ」

「普通じゃないよ…私みたいなのに…毎日来てくれて」

「お前みたいなのって…別に変じゃないだろ。喋んないだけで」

「…それが…一番ダメなんだよ…喋れないから…友達もできない…好きな人にも…気持ちを言えない…」

ドクンッ、と心臓が鳴った。

「…好きな人?」

「………」

水上は俺から目をそらした。

暗い倉庫の中で、沈黙が重たかった。外の雷は少し遠ざかったみたいで、ゴロゴロという音が小さくなっていた。

「…水上」

「…なに」

「その好きな人って…」

「…言わない」

「…そっか」

(…ですよね)

期待した俺がバカだった。水上に好きな人がいるって話を聞いて、まさか自分かもとか一瞬でも思った自分が恥ずかしかった。

あ、待って。

俺、いつから水上のことそんなふうに意識してた?

毎日プールに通ってたのは、泳ぎを教えるためだろ。善意だろ。それ以上の意味はないはず。

…ないはずなのに、今すげえ胸が痛い。

「…帰るか。雷、遠くなったみたいだし」

立ち上がろうとした瞬間。

水上が、俺のトランクスの裾を掴んだ。

「…まだ」

「え?」

「…もう少し…ここにいたい」

「…なんで」

「…帰ったら…また一人だから」

その声が震えてて、俺はまたマットに座り直した。

「…ずるいかな…こんなこと言うの」

「ずるくない」

「…私ね…初めて会ったときから…ずっと見てた」

「…え」

「…4月のクラス替えのとき…隣の席だったの…覚えてる?」

覚えてる。最初の1週間だけ隣だった。席替えですぐ離れたけど。

「…消しゴム落としたとき…拾ってくれたでしょ」

「…いや、そんなの普通…」

「…普通じゃないよ。私に話しかけてくれた人…あなたが最初だった」

水上が俺のほうを向いた。

暗がりの中で、目が光ってた。泣いてた。

「…好きな人…あなただよ」

頭が真っ白になった。

心臓がバクバクいってて、呼吸の仕方を一瞬忘れた。

「…マジで言ってる?」

「…マジ。ごめん…こんな暗いところで…こんな格好で…最悪だよね…」

水上は自分の水着姿を見下ろして、自嘲気味に笑った。

「最悪じゃない」

「…え」

「最悪じゃないよ。…俺も。たぶん俺も、お前のことが好きだ」

「たぶん」って何だよ。自分でも情けないと思った。でも今の俺にはそれが精一杯だった。好きって気持ちを自覚したのが今この瞬間で、確信を持つ余裕がなかった。

「…たぶん…って何」

「…いや、たぶんじゃない。好きだ。お前が好き」

言い直したら、水上が泣いた。

声を出さずに、ぼろぼろ涙を流しながら。

「…うれしい…」

水上が俺の胸に顔を埋めてきた。

濡れた髪が俺の肌に触れて、冷たかった。でも水上の体は温かかった。

自然と腕が水上の背中に回った。

水着越しに背骨の凹凸が指に伝わって、思ったより華奢な体だった。

「…泣くなよ」

「…泣いてない」

泣いてるだろ。

「…ねえ」

「ん」

「…キス…して」

心臓が止まるかと思った。

「…いいの?」

「…うん」

俺は水上の顎を指で少し持ち上げた。

涙で濡れた頬。少し開いた唇。

ゆっくり顔を近づけて、唇を触れ合わせた。

…柔らかかった。ほんのりプールの塩素の味がした。

「…ん…」

水上が目を閉じて、ちょっとだけ唇を押し返してきた。

数秒で離した。

「…もう一回…」

今度は水上のほうから唇を寄せてきた。さっきより深い。舌先が触れて、俺は思わず水上の後頭部に手を添えた。

「…ん…ちゅ…」

呼吸が荒くなってくる。二人とも。

キスしながら、水上の手が俺の胸のあたりをさわさわと触ってきた。指先が震えてる。

(…これ、大丈夫なのか。止めたほうがいいんじゃないか)

頭ではそう思ってるのに、体が全然言うことを聞かない。

唇が離れたとき、水上の目がとろんとしてた。

「…ねえ…触って…いい…?」

「…え」

水上の手が、俺のトランクスの上から、下腹部のあたりに触れた。

もうとっくに反応してた。隠しようがなかった。

「…水上」

「…硬い…」

「…当たり前だろ、こんな状況で…」

「…ごめん…でも…嬉しい…私のことで…こうなってくれるの…」

水上がトランクスの中に手を入れてきた。

冷たい指先が直接触れた瞬間、腰がびくってなった。

「っ…」

「…これ…こうすればいいの…?」

「…あ、もっと…ゆっくり…」

水上の手つきはぎこちなかった。明らかに初めてだってわかる。でもそのぎこちなさが逆にやばかった。慎重に、おそるおそる握って、上下に動かす感じ。

「…こう…?」

「…うん…そう…」

俺も水上の体に手を伸ばした。

水着の上から胸に触れた。

「…んっ…」

水上が小さく声を漏らした。

想像してたより柔らかい。水着のスベスベした素材越しに、胸の形がはっきりわかる。

「…でかいな…」

「…やだ…そんなこと言わないで…」

「褒めてんだよ」

「…褒められても…困る…」

困ると言いながら、水上の手は止まらなかった。むしろちょっとだけ速くなってた。

俺は水着の肩紐を指でずらした。

「…脱がしていい?」

「………うん」

水着を肩から下ろすと、白い胸がこぼれた。

暗がりでもわかるくらい白くて、形がきれいだった。乳首は薄いピンクで、ちょっと固くなってる。

「…きれいだな」

「…恥ずかしい…見ないで…」

見ないでって言いながら隠そうとしないのが、なんかたまらなかった。

俺は胸に顔を近づけて、乳首に唇をつけた。

「…あ…っ…」

水上の体がぴくんと跳ねた。

舌先で転がすように舐めると、水上の手が俺の頭を押さえつけるように触ってきた。

「…んん…そこ…感じる…」

声が震えてる。さっきまで単語しか喋れなかったやつが、ちゃんと文で感想を言ってるのがなんかおかしくて、でもめちゃくちゃ興奮した。

俺の手が水上の腰に降りていった。

水着の下に指を滑り込ませると、水上の太ももがぎゅっと閉じた。

「…あ…そこは…」

「…嫌?」

「…嫌じゃ…ない…けど…」

俺は水上の目を見た。暗がりの中で、水上は唇を噛んで俺を見返してた。

「…こわい…ちょっと」

「…じゃあやめる」

「…やめないで」

どっちだよ。

でも、なんとなくわかった。怖いけどやめてほしくない。そういうことだ。

指をゆっくり下に滑らせた。

水着の布地をずらして、直接触れた。

…ぬるっとしてた。プールの水じゃない。明らかに。

「…あっ…んっ…」

水上が俺の肩にしがみついた。

指を小さく動かすたびに、水上の体がビクビクと震える。

「…すごい濡れてる」

「…言わないでよ…わかってるから…」

俺は指をゆっくり中に入れていった。

「…んあっ…!」

水上の爪が俺の肩に食い込んだ。

きつい。指一本がやっとだった。

「…い…たい…」

「ごめん、出す」

「…大丈夫…慣れる…から…もうちょっと…」

水上は目をぎゅっとつむって、俺の肩に額を押し付けてた。

少しずつ、本当に少しずつ動かしていくと、水上の体から力が抜けていった。

「…あ…ん…なんか…変な感じ…」

「痛くない?」

「…痛いのと…気持ちいいのが…混ざってる…」

指を二本にすると、水上の声が変わった。

「…ぁ…あっ…だめ…そこ…なんか…」

「ここ?」

「…うん…そこ…やばい…」

水上の腰が勝手に動いてるのがわかった。自分でもコントロールできてないみたいで、戸惑った顔をしてる。

「…ねえ…なんか…おなかのあたりが…ぎゅーってなる…」

「…イきそうなんじゃない?」

「…わかんない…こんなの初めてで…あっ…!」

水上の体がぎゅっと固くなって、指を締め付けてきた。

「…ぁ…あ…あっ…!」

ビクビクと全身を震わせて、水上は俺にしがみついたまま動かなくなった。

しばらく肩で息をしてた。

「…なに…いまの…」

「…たぶんイったんだと思う」

「…これが…そうなんだ…」

水上は放心したみたいな顔で、俺の胸に体を預けてきた。

そのとき、水上の手が俺のトランクスの中にまだ入ったままだったことに気づいた。ずっと握ったまま。

「…ねえ…入れて…」

「…え」

「…入れてほしい…」

「…いいのかよ。俺、ゴムとか持ってないけど」

「…大丈夫…今日は安全な日だから…」

(いや、そういう問題じゃない…いやでも…)

正直、理性なんてとっくになかった。

でも一応聞いた。

「…後悔しない?」

「…しない。あなたがいい」

水上は自分で水着を脱いだ。

暗がりの中で、真っ白な体が浮かび上がった。

マットの上に横になった水上の体に、俺は覆いかぶさった。

先端を当てた。

「…ん…」

「…ゆっくり入れるから」

少しずつ、少しずつ。

「…い…たい…っ」

「…やめる?」

「…やめないで…お願い…」

水上が俺の背中に手を回してきた。爪がまた食い込む。

半分くらい入ったところで、水上の目から涙がぽろっとこぼれた。

「…泣いてる」

「…泣いてない…痛いだけ…」

嘘つけ。

でも俺も余裕がなかった。中がきつくて、熱くて、頭の中が真っ白だった。

全部入ったとき、水上が長く息を吐いた。

「…ぁ…入った…」

「…大丈夫?」

「…うん…動いていいよ…」

ゆっくり腰を動かし始めた。

最初は水上が痛そうにしてたから、本当にゆっくり。引いて、押して。引いて、押して。

「…ん…あ…」

何往復かしたあたりで、水上の表情が変わった。眉間の皺がなくなって、目がとろんとしてきた。

「…あ…なんか…さっきと違う…」

「痛くない?」

「…ん…気持ちいい…かも…」

少しだけペースを上げた。

水上の口から、さっきまでと違う声が出始めた。

「…あっ…ん…あ…」

喋らない水上が、声を押し殺しきれなくて漏らしてる感じが、たまらなかった。

「…水上…」

「…名前…下の名前で呼んで…」

「…茜」

「…ん…もう一回…」

「茜…」

「…好き…好きだよ…あっ…」

俺は茜の手を握った。指を絡めて、繋いだ。

腰を動かしながら、茜の唇に自分の唇を重ねた。

「…んむ…ちゅ…あ…」

キスしながらだと声が出せなくて、鼻から甘い吐息が漏れてくる。

「…やば…俺そろそろ…」

「…中に出して…いいから…」

「…ほんとに…?」

「…うん…あなたのが…ほしい…」

茜が両脚を俺の腰に回してきた。

締め付けが強くなって、もう無理だった。

「…っ…出る…っ」

「…うん…出して…」

奥まで押し込んで、そのまま出した。

頭が痺れるような感覚が全身を駆け抜けた。

「…あ…熱い…中…熱いよ…」

茜が俺の背中をぎゅっと抱きしめてきた。

しばらく、そのまま動けなかった。

体育倉庫の中は相変わらず薄暗くて、蒸し暑くて、外では雷がまだ遠くでゴロゴロ言ってた。

俺は茜の髪の毛をそっと撫でた。

「…ねえ」

「ん」

「…これって…夢じゃない…よね」

「夢だったらこんなに汗かかないだろ」

「…ふふ」

茜が笑った。さっきプールサイドで見た小さな笑い方じゃなくて、声を出して笑ったのは初めてだった。

繋がったまま、茜がもう一度キスしてきた。

「…もう一回…したい」

「…マジ?」

「…だめ…?」

だめなわけがない。

二回目は茜が上に乗った。

自分で腰を動かすのが初めてで、最初はぎこちなかった。手を俺の胸について、おそるおそる腰を前後に揺らしてる。

「…こう…?合ってる…?」

「…うん…いい…」

さっきより中が滑らかになってて、茜が動くたびにぬるっとした感触がして、気が狂いそうだった。

一回目との違いは、茜の表情だった。

さっきは不安とか怖さが混じってたけど、今はもう違う。目を閉じて、小さく口を開けて、快感を受け入れてる顔をしてた。

「…あ…これ…気持ちいい…自分で動くと…ぜんぜん違う…」

「…俺も…やばい…」

茜の腰の動きが速くなってきた。

胸が揺れてて、俺はたまらず手を伸ばして掴んだ。

「…あっ…ん…胸…触られると…中も…ぎゅってなる…」

「…ほんとだ…締まった…」

「…ねえ…一緒にイこ…?」

「…うん…もう無理…」

茜が俺の上に倒れ込んできて、そのまま腰を打ちつけてきた。

パチュ…パチュ…

「…あ…イく…イっちゃう…!」

「…俺も…出る…っ」

茜の中が痙攣するみたいに締め付けてきて、俺も同時に果てた。

二回目は一回目より長く、強く、体の奥から搾り取られる感覚だった。

「…はぁ…はぁ…」

「…はぁ…」

茜は俺の胸の上で、ぐったりしてた。

汗と、さっきの水の匂いが混じって、なんか不思議な香りがした。

「…茜」

「…ん」

「…付き合おう」

「…今さら?もう付き合ってるでしょ」

「いや、ちゃんと言っとかないとダメだろ」

「…ふふ…うん。付き合う」

茜が俺の顔を覗き込んできた。

泣いた跡と、汗と、だらしなく幸せそうな顔。

「…ねえ、2学期からさ」

「うん」

「…学校で…話しかけてもいい?」

「当たり前だろ。彼女なんだから」

「…えへへ」

こいつがこんな顔するなんて、クラスの誰も知らないんだろうな。

外に出ると、雨はもう上がってた。

入道雲の切れ間から西日が差して、プールの水面がオレンジ色に光ってた。

茜は帰り道、ずっと俺の手を握ってた。

相変わらず言葉は少なかったけど、たまに俺の顔を見上げて、あの小さい笑い方をしてた。

志木駅の改札の前で別れるとき、茜が言った。

「…明日も、来る?」

「当たり前だろ」

「…じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

家に帰って布団に入ってから、あることに気づいた。

今日、茜は俺の前で泣いた。笑った。怒った。甘えた。怖がった。

たった一日で、こんなにいろんな顔を見せてくれた。

教室では何も喋らない、表情もあまり変わらない女の子が、俺の前でだけ全部さらけ出してくれた。

それがどれだけすごいことか、たぶん俺は一生忘れないと思う。

…2学期の水泳の授業で、茜は25メートルをなんとかクロールで泳ぎ切った。めっちゃ遅かったけど。

ゴールしたとき、プールサイドにいた俺に向かって、あの小さい笑い方をした。

クラスの誰も気づいてなかったけど、俺だけは知ってた。

あれが、茜の全力の笑顔だってこと。


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