こういうことってあるんだな、って今でも思う。
俺は都内の私大に通う大学2年で、まあ見た目的には菅田将暉の劣化版みたいな感じ。身長172で、顔はそこそこだけど雰囲気がどうにも地味。高校時代は彼女がいたこともあったけど、大学に入ってからはサークルにも入らず、バイトと講義の往復みたいな生活を送ってた。
話の発端は、親父の再婚だった。
俺が高1のときに母さんが病気で亡くなって、親父と二人暮らしがずっと続いてた。寂しくなかったって言ったら嘘になるけど、まあそれなりにやってた。で、去年の秋ぐらいから親父が「実は付き合ってる人がいる」って言い出して。相手は同じ会社の人で、高校生の娘がいるって。
(まあ、親父も50手前だし、幸せになってくれればいいかな)
最初はそう思ってた。問題はその「高校生の娘」だった。
名前は聞いてなかったんだけど、顔合わせの日に新宿の伊勢丹の近くのイタリアンに行ったら、席に座ってたのが見覚えのある顔だったわけ。
(え、嘘だろ…)
中学のときの同級生だった。名前は伏せるけど、仮にユキとする。中3のとき同じクラスで、席が近かったから何回か話したことはあった。橋本環奈をもう少しクールにした感じの顔立ちで、色白で、目がすごく大きい。身長は160ぐらいで、制服の上からでもわかるぐらいスタイルが良かった。男子の間では「高嶺の花」みたいな扱いだったけど、本人はいつもどこかつまらなそうな顔をしてて、あんまり人と群れないタイプだった。
向こうも俺に気づいて、一瞬だけ目が見開かれた。でもすぐに視線を逸らして、スマホをいじり始めた。
(気まずい。これは気まずいぞ…)
親父と相手のお母さんは楽しそうに話してるのに、俺とユキの間には北極みたいな空気が流れてた。
「…別に、知り合いだからって何も変わらないから」
唯一ユキが発した言葉がそれだった。声は小さかったけど、なんかトゲがあった。
結局、今年の3月に親父たちは入籍して、4月から板橋区の3LDKで4人暮らしが始まった。ユキは高2になったばかりで、俺は大学2年。
同居が始まってからのユキの態度は、まあ控えめに言って最悪だった。
朝、洗面所で一緒になると舌打ちされる。リビングでテレビ見てると、俺が座ってるソファの反対端にわざわざ座って、チャンネルを無言で変える。話しかけても「別に」「知らない」「うるさい」の三語しか返ってこない。
「おはよう」
「…」
「今日暑いな」
「だから何」
こんな調子。親が見てるときはもう少しマシだったけど、二人きりになると氷点下だった。
(反抗期なのかな。まあ、いきなり知らない男と住めって言われたら嫌だよな)
俺はそう解釈して、なるべく距離を取るようにしてた。自分の部屋にこもって、共有スペースはユキがいないときに使うようにして。
でも、ひとつだけ引っかかってることがあった。
5月の連休中、俺が夜中にキッチンに水を飲みに行ったとき、リビングのソファでユキが丸まって寝てたことがあった。テレビはつけっぱなしで、ブランケットもかけてない。
(風邪ひくだろ、これ…)
自分の部屋からブランケットを持ってきてかけてやったんだけど、翌朝そのブランケットが俺の部屋のドアの前にきれいに畳んで置いてあった。何も言わずに。
それと、もうひとつ。
バイト先のコンビニから帰るのが遅くなった日、最寄りの東武東上線の大山駅から家まで歩いてたら、前方にユキの後ろ姿が見えた。時刻は23時過ぎ。こんな時間に何してるんだと思って声をかけようとしたら、ユキが振り返った。
「…ついてこないでくれる?」
「いや、俺も家に帰るんだけど」
「わかってるけど。…もういい」
早歩きで先に行かれた。でも、あのとき一瞬だけ、ユキの目が赤かったような気がした。泣いてた、のか?
そんなことを考えてるうちに、7月になった。
転機は台風だった。7月の第2週、関東に直撃した台風12号。テレビでは「不要不急の外出は控えてください」って連呼してて、親父と義母さんは出張で大阪に行ってて、家には俺とユキの二人だけだった。
(これは気まずいやつだ…)
夕方からどんどん風が強くなってきて、窓がガタガタ鳴ってた。俺はリビングでスマホいじりながら台風情報を見てて、ユキは自分の部屋にこもってた。
19時ぐらいに突然、バチンと音がして家中が真っ暗になった。停電だ。
「うわ、マジか…」
スマホのライトをつけて、ブレーカーを確認したけど、地域一帯の停電っぽい。東京電力のサイトを見たら、板橋区の一部で停電発生、復旧見込み未定、って書いてあった。
とりあえずユキに声をかけようと思って廊下に出たら、ユキの部屋のドアが少しだけ開いてて、中からスマホの明かりが漏れてた。
「ユキ、停電してるけど大丈夫か?」
「…見ればわかる」
「キッチンに懐中電灯あったと思うから、取ってくるわ」
「…勝手にすれば」
懐中電灯を見つけてリビングに戻ると、少ししてユキも出てきた。スマホを両手で握りしめてて、顔が青白い。
「どうした?顔色悪いぞ」
「別に。…ちょっとここにいていい?」
(珍しいな。いつもなら「うるさい」って言うのに)
ソファの端と端に座って、懐中電灯の明かりだけのリビング。外は暴風雨で、ときどきすごい音で何かが飛ばされてる。
しばらく無言が続いた。気まずさに耐えかねて、俺は冷蔵庫からペットボトルのお茶を出してきた。停電中だから冷蔵庫もそのうちぬるくなる。
「お茶、飲む?」
「…ありがと」
ありがとう、って言われたの初めてかもしれない。なんか新鮮すぎて変な気分だった。
そのとき、特大の雷が落ちた。家が揺れるぐらいの轟音。
「っ…!」
ユキが小さく悲鳴を上げて、反射的に俺の腕を掴んだ。すぐに手を離したけど、指先が震えてた。
「…もしかして、雷ダメ?」
「うるさい。ダメじゃない。ちょっとびっくりしただけ」
「いや、震えてるじゃん」
「震えてない」
震えてた。明らかに震えてた。
また雷が鳴った。今度はさっきより近い。ユキが膝を抱えて顔を埋めた。
(こういうとき、どうすればいいんだ…。触ったら怒られるし、放っておいても気になるし…)
「あー…その、ブランケットでも持ってこようか」
「…いい。ここにいて」
(え?)
「ここにいて」って、ユキが俺に?
意味がわからなかったけど、とりあえず動かないでいた。暗闇の中で、ユキの呼吸だけが聞こえる。少し早い。怖がってるのが伝わってきた。
5分ぐらい経ったとき、ユキがぽつりと言った。
「小さいとき、雷が鳴ると父さんが隣にいてくれた」
「…ユキの、本当の父さん?」
「うん。私が5歳のときに離婚して、それからは会ってない」
知らなかった。義母さんがバツイチなのは知ってたけど、ユキの口からそういう話を聞いたのは初めてだった。
「だから雷が怖いとかじゃなくて…思い出すの。暗くて、大きい音がすると。一人だったときのこと」
声が震えてた。いつもの刺々しさが全部剥がれて、16歳の女の子がそこにいた。
「…俺もさ、母さん亡くなってから、しばらく夜が怖かった」
なんでそんなこと言ったのか、自分でもわからない。誰にも言ったことなかったのに。暗闇のせいかもしれない。相手の顔が見えないと、不思議と本音が出る。
「…知ってる。中学のとき、保健室でたまに寝てたでしょ。目の下にクマ作って」
「え、見てたの?」
「…同じクラスだったんだから、普通に目に入るでしょ」
また雷。ユキがびくっとして、今度は逃げなかった。俺の肩に額を押し付けるようにして、小さく丸まった。
(心臓がやばい。これは…どういう状況だ…)
ユキの髪からシャンプーの匂いがした。ラベンダーっぽいやつ。近すぎて頭がおかしくなりそうだった。
「…ごめん」
「何が?」
「ずっと…ひどいこと言ってたこと。あんたのこと嫌いなんじゃないの」
「…え?」
「中学のとき、あんたのこと好きだった」
時間が止まった。いや、本当に。脳みそが処理を拒否した。
「…は?」
「席近かったとき、隣で寝てるふりしながらずっと見てた。あんたが消しゴム拾ってくれたとき、わざと落としたの」
「いやいやいや、ちょっと待って…」
「告白しようと思ってたの。卒業式の日に。でもその前にお母さんから再婚の話聞いて、相手の息子の写真見せられて…あんたの顔が映ってた」
「…」
「好きな人と家族になるって、喜べると思う?ずっとそばにいるのに、絶対に手が届かないって、わかる?」
ユキの声が上ずってた。泣いてるのか、笑ってるのか、暗くてわからなかった。
「だから冷たくした。嫌いなふりしたら、諦められると思った。でも同じ家に住んで、朝起きたらあんたがいて、ご飯食べて、たまにすれ違って…全然、諦められなかった」
「ユキ…」
「ブランケットかけてくれたでしょ。あの夜。起きてたの、全部。あんたの足音が近づいてきて、ブランケットの匂いがして…泣きそうになった」
俺の中で何かが崩れた。
ユキがずっと俺を嫌ってると思ってた。反抗期だと思ってた。でも違った。全部逆だった。俺のことが好きで、でも家族になってしまったから、好きでいることが許されなくて、だから嫌いなふりをしてた。
(俺は、なんて鈍いんだ…)
大山駅で泣いてたのも、たぶん俺のバイト帰りを待ってたんだ。待ってたくせに、会ったら「ついてくるな」って言う。そういうやつだったんだ、ユキは。
「…俺、ユキのこと、妹だと思ったことない」
自分で言って驚いた。でも本当だった。妹として見れなかった。同居してから、洗面所ですれ違うたびに意識してた。リビングでチャンネルを変えられるたびに、横顔を見てた。嫌われてるのに目で追ってた。
「…どういう意味」
「俺もたぶん、ユキのことが好きだった。いつからかわかんないけど。嫌われてると思ってたから、蓋してただけで」
暗闘の中で、ユキが顔を上げた気配がした。懐中電灯の薄い光が、潤んだ目を照らしてた。
「…嘘ついたら殺す」
「嘘じゃない」
「証拠は」
「証拠って…心臓の音聞けばわかるだろ、こんなの」
ユキの手が俺の胸に触れた。Tシャツ越しに、心臓がばくばく鳴ってるのが伝わったと思う。
「…ほんとだ。すごい速い」
「だから言ってるだろ」
「…私も」
ユキが俺の手を取って、自分の胸に当てた。薄い部屋着越しに、同じぐらい速い鼓動が伝わってきた。そして、その下の柔らかさも。
(これは…まずい)
「…触ってるの、わかってるから」
「ごめ…」
「いい。…いいから」
雷が遠くなってた。雨音だけが部屋を包んでて、暗闇の中で俺たちは向かい合ってた。
ユキからキスしてきた。唇が触れた瞬間、頭の中が真っ白になった。柔らかくて、少し震えてて、お茶の味がした。
離れようとしたら、ユキが俺のTシャツの裾を掴んだ。
「…離れないで」
もう一回キスした。今度は俺から。ユキの頬に手を添えて、少しだけ深く。ユキが小さく息を漏らして、舌が触れた。ぎこちなくて、でもそれがたまらなかった。
キスしながら、ユキが俺の膝の上に乗ってきた。部屋着のショートパンツから伸びた太ももが、俺の腰の両側に来る。暗闇の中でユキの体温だけがやたらとはっきり伝わってきて、頭がどうにかなりそうだった。
「ユキ、これ…まずいって…」
「何が」
「家族だろ、俺たち…」
「血は繋がってない。戸籍上だけ」
「それは、そうだけど…」
「3年我慢した。もう無理」
ユキが自分の部屋着を脱いだ。暗くてほとんど見えなかったけど、懐中電灯の光が白い肌を薄く照らしてた。ブラは薄いピンクで、外すときに少しだけ手が震えてた。
(やばい、やばい、やばい…)
目が慣れてくると、ユキの体が見えてきた。陸上やってたって前に義母さんが言ってた通り、無駄な肉がなくて、でも出るところは出てる。たぶんCカップぐらい。色白の肌が暗闘でも光って見えた。
「…見ないでよ」
「いや、見えてないけど…嘘、見えてる」
「最低」
そう言いながらユキは逃げなかった。むしろ俺の手を取って、自分の胸に導いた。
素肌に直接触れた瞬間、指先から全身に電気が走った。柔らかくて、でも張りがあって、手のひらに収まるぐらいのサイズ。先端が少し硬くなってるのがわかって、それだけで頭がぼうっとした。
「んっ…」
ユキが息を詰めた。いつもの冷たい声とは全然違う、甘い、壊れそうな声。
「…大丈夫?」
「大丈夫じゃない…でも止めないで」
胸を撫でながらキスを繰り返した。ユキの呼吸がどんどん乱れていって、俺の首に腕を回してしがみついてきた。
「ユキ、俺…もう止まれないかもしれない」
「…止まらなくていい」
ユキをソファに横たえた。ショートパンツを下ろすとき、ユキが顔を背けた。恥ずかしいんだろうけど、腰を浮かせて脱がしやすくしてくれた。
下着は白だった。シンプルな白。それがなんかすごくユキらしくて、胸が痛くなった。
「…笑ったら殺す」
「笑わない」
下着の上から触れると、もう濡れてた。ユキが唇を噛んで声を堪えてる。
「あっ…そこ…」
下着をずらして直接触れた。熱い。指先がぬるっと滑って、ユキの太ももがぴくっと跳ねた。
「すごい濡れてるけど…」
「言うな…恥ずかしいから…」
ゆっくり指を動かすと、ユキが目を閉じて眉を寄せた。気持ちいいのか痛いのかわからなくて聞こうとしたら、ユキが先に言った。
「気持ちいい…もっとして…」
その声で理性の残りが全部吹っ飛んだ。
指を中に入れると、きゅっと締まった。ユキが短い悲鳴を上げて、俺の腕を掴んだ。
「んっ…あ…っ…」
「痛い?」
「痛くない…ちょっとだけ変な感じ…でも止めないで…」
ゆっくり出し入れしながら、もう片方の手で胸を触った。乳首を指で転がすと、ユキの声が変わった。いつもの低い声じゃなくて、高くて、掠れた声。
「あっ…やば…なにこれ…はぁ…」
ユキの腰が自分から動き始めた。俺の指に合わせるみたいに、小さく前後に。
「あっ…あっ…ん…っ」
突然ユキの中がぎゅっと指を締めて、体がびくびくっと震えた。腕で顔を覆って、押し殺したような声を漏らした。
「……っ」
「…イった?」
「…うるさい」
イってた。完全にイってた。でもそれを認めたくないらしくて、顔を真っ赤にして横を向いてた。
(このツンデレは…ここまでくると才能だな…)
しばらくユキの息が整うのを待ってたら、ユキが俺のズボンのゴムに手をかけた。
「…こっちも、すごいことになってるじゃん」
「まあ、そりゃあ…」
とっくにガチガチだった。ユキに触られた瞬間、腰が跳ねそうになった。
「…初めてだから、下手かもしれない」
「初めてなの?」
「当たり前でしょ。あんた以外に誰がいるの」
その言い方がずるかった。本当にずるい。
ユキの手が俺を包んで、ぎこちなく動き始めた。力加減がわからないのか、途中で止まったりした。
「あっ…もうちょっと、優しく…」
「こ、こう?」
「うん…それ…いい…」
慣れてくると、ユキの手がちょうどいいリズムになった。先端を親指でなぞられたとき、思わず声が出た。
「…変な声」
「お前のせいだろ…」
ユキが少しだけ笑った気がした。暗くてよく見えなかったけど、指先に力が入って、もっと丁寧に動かしてくれた。
「やば…ユキ、もう…」
「…出していいよ」
その声で限界だった。ユキの手の中に全部出してしまった。申し訳ないぐらいの量だった。
「…すごい量なんだけど」
「ごめん…」
「謝んなくていい。…ちょっとティッシュ取って」
ティッシュで手を拭くユキの横顔が、懐中電灯の光でちらっと見えた。耳まで真っ赤だった。
しばらく並んで座ってた。雨音だけが響いてて、さっきまでのことが夢みたいだった。
「…ねえ」
「ん?」
「最後まで、したい」
心臓が跳ねた。
「…いいのか?」
「よくない。全然よくない。でもしたい」
「ゴム、ないけど…」
「…私の部屋にある」
「え、なんで?」
「うるさい。いいから待ってて」
ユキが暗闇の中を自分の部屋に取りに行って、戻ってきた。小さい箱を押し付けるように渡された。
(用意してたのか…。いつから…?)
考えないことにした。考えたら余計に興奮する。
ゴムをつけて、ユキの上に覆いかぶさった。懐中電灯の弱い光の中で、ユキが俺を見上げてた。いつもの刺々しい目じゃなくて、不安と期待が入り混じった、見たことのない表情だった。
「…痛かったら言うから」
「うん。ゆっくりいくから」
先端を当てると、ユキの体がこわばった。ゆっくり押し込んでいくと、きつくて、熱くて、頭がどうにかなりそうだった。
「っ…痛…」
「止める?」
「止めないで…もう少し…」
少しずつ進めて、奥まで入った。ユキが息を止めて、俺の背中に爪を立てた。
「大丈夫…?」
「…大丈夫。動いて、ゆっくり」
動き始めると、ユキが小さく声を漏らした。痛みと快感が混じってるみたいな、複雑な声だった。
「あっ…ん…はぁ…」
「ユキ…気持ちいい…」
正直に言った。こんなに気持ちいいと思わなかった。ユキの中が俺を包み込んで、動くたびに締め付けてくる。
「…私も…ちょっとだけ、気持ちいい…」
「ちょっとだけ」。ここでもツンデレなのかよ、って思ったけど、体は正直で、ユキの腰が俺に合わせて動いてた。
少しペースを上げた。ユキの声が大きくなってきて、自分の口を手で押さえてた。
「声、出していいよ。誰もいないし」
「むり…恥ずかしい…あっ…んんっ…」
手を外してやったら、我慢してた声が溢れた。
「あっ…あぁっ…やば…すごい…奥…あたってる…」
「ユキ…好きだ…」
衝動的に言ってしまった。でも本心だった。
「…っ…ばか…こんなときに…っ…」
「こんなときだから言ってるんだろ」
「…私も…好き…ずっと好きだった…あっ…んっ…」
ユキが泣いてた。気持ちよくて泣いてるのか、感情が溢れて泣いてるのか、たぶん両方だった。
「ユキ…もう出そう…」
「ん…いいよ…出して…」
腰を深く押し込んで、ユキを抱きしめたまま果てた。ゴム越しだったけど、全身の力が抜けるぐらいの感覚だった。
「…あっ…すごい…びくびくしてる…」
しばらくそのまま動けなかった。ユキの鼓動と、俺の鼓動が、重なって聞こえた。
抜いて、処理して、二人で横になった。いつの間にか雨音が静かになってた。台風の目に入ったのか、少しだけ風が弱まってた。
「…ねえ」
「ん」
「明日から、また冷たくするかもしれない。お母さんたちの前では」
「わかってる」
「でも、嫌いだからじゃないって…わかってて」
「もう騙されないよ」
ユキが初めて、ちゃんと笑った。暗闘の中で、懐中電灯の光に照らされた笑顔は、中学のとき教室で見たどのユキよりきれいだった。
「…もう一回、していい?」
「え、もう?」
「3年分、取り返す」
2回目はユキの方が積極的だった。俺の上に乗って、自分で腰を動かした。さっきの緊張が嘘みたいに、ユキの体が柔らかくなってて、中もさっきよりずっと気持ちよかった。
「あっ…ん…こうすると…すごい…」
声を我慢しなくなったユキは、想像してたのと全然違った。甘くて、切なくて、俺の名前を呼んでくれた。苗字じゃなくて、下の名前で。中学のとき一度も呼ばれなかった名前で。
「ユキ…すごいよ…」
「あっ…もう…だめ…イっちゃう…」
「俺も…一緒にイこう」
ユキの腰の動きが速くなって、俺の手を握りしめて、二人でほぼ同時に達した。ユキが声にならない声を上げて、俺の胸に倒れ込んだ。
停電が直ったのは深夜の2時過ぎだった。パッと電気がついて、二人とも「うわっ」って声を上げた。
明るくなったリビングで見るユキは、髪がめちゃくちゃで、目は腫れてて、耳は真っ赤で、でも今までで一番いい顔をしてた。
「…見んな」
「見るだろ、普通に」
「最低」
でも、そのあと小さく笑って、俺の肩に頭を預けた。
「明後日、お母さんたち帰ってくるね」
「うん」
「…元通りに戻るよ。表向きは」
「わかってる」
「でも…夜は、こうしてていい?」
「…いいよ」
今でも、ユキは俺に冷たい。朝は「うるさい」、昼は「別に」、夜に親がいれば「触らないで」。でも、深夜に廊下で足音がして、俺の部屋のドアが静かに開く。
「…起きてる?」
「起きてる」
「…寝れなくて」
毎回この言い訳。毎回同じ。でも俺はもう知ってる。ユキの不機嫌の正体も、あのブランケットの意味も、大山駅で泣いてた理由も。
全部、好きだったんだ。最初から、ずっと。