妻の親友から「旦那を貸してほしい」と泣きつかれた夜、断れなかった俺がどうなったか

三十一歳、都内のIT企業で社内SEやってます。

いきなりだけど、俺は自分のことをかなり普通の男だと思ってる。身長172、体重65キロ、顔面偏差値は妻いわく「50。ギリ及第点」。まあ佐藤健とか言われたことは人生で一度もないです。

結婚して四年目。妻の美咲とは大学のサークルで知り合って、二十七で結婚した。美咲は俺と同い年で、練馬区の総合病院でICUの看護師をやってる。夜勤明けにすっぴんで帰ってきても普通にかわいいタイプで、周りからは「よくあんな子と結婚できたな」って言われる。否定はしない。

で、話の中心にいるのが、美咲の看護学校時代からの親友・奈々子さんだ。

奈々子さんは三十三歳。美咲より二つ上で、同じ病院の外科病棟で師長補佐をやってる。見た目は――これ本人の前じゃ絶対言えないけど――石原さとみに雰囲気が似てる。身長160ちょい、たぶんEカップはあると思う。旦那さんがいて、結婚六年目。子どもはいない。

この「子どもはいない」ってのが、今回の話の全部の始まりだった。

去年の十二月、クリスマスイブの三日前だったと思う。美咲が夜勤で、俺は一人で練馬の自宅マンションでNetflix観てた。確か『地面師たち』の二周目。

インターホンが鳴った。夜の九時過ぎ。

モニターに映ってたのは、奈々子さんだった。目が赤い。泣いてたのは明らかだった。

(え、なんで奈々子さんが…?美咲いないのに…)

とりあえずドアを開けた。

「…ごめんね、突然。美咲ちゃんいないの知ってて来た」

「あ、はい…どうぞ。何かあったんですか」

「うん…ちょっと、話聞いてほしくて」

リビングに通して、とりあえずお茶を出した。奈々子さんは両手でマグカップを包み込むように持って、しばらく黙ってた。

「…あのね、誠司と別れるかもしれない」

誠司さんってのは奈々子さんの旦那さんだ。商社マンで、見た目もいい。正直、お似合いの夫婦だと思ってた。

「え、なんでですか。この前の忘年会ではめっちゃ仲良さそうだったじゃないですか」

「…子どもができないの。六年やって。不妊治療も三年やった」

「…」

「原因は誠司のほうなの。でも、誠司の家がね…跡取り欲しいって。それで誠司が『もう無理かもしれない』って」

奈々子さんが、マグカップの中を見つめながら涙を流した。俺はティッシュの箱を差し出すことしかできなかった。

「で、ね。これは美咲ちゃんにも言ってないことなんだけど…」

奈々子さんがこっちを見た。潤んだ目が、妙に真剣だった。

「誠司と相談して…その、第三者に…協力してもらえないかって話になって」

「協力って…」

「…精子提供、じゃなくて。自然な方法で」

一瞬、意味がわからなかった。いや、わかったけど、わかりたくなかったのかもしれない。

「え、ちょっと…それって…」

「ごめんなさい。こんなこと言って気持ち悪いよね。でも、知らない人は嫌で…誠司もそう言ってて…それで、美咲ちゃんの旦那さんなら信頼できるって…」

「…」

頭の中がグルグルした。(これ、本当に現実の会話か?ドッキリじゃないのか?)

「あの、奈々子さん。それ、美咲は知ってるんですか」

「…まだ言ってない。だから、まず祐介くんに聞きたかったの」

名前で呼ばれたのは初めてだった気がする。いつもは「美咲ちゃんの旦那さん」だったから。

「いや、俺に聞かれても…つか、普通に無理ですよそんなの。美咲がどう思うかとか…」

「…だよね。ごめんなさい、変なこと言って」

奈々子さんが立ち上がろうとした。その時、袖が少しまくれて、左の手首に小さな絆創膏が見えた。

「…奈々子さん、それ」

「あ…これは違うの。猫に引っ掻かれて」

嘘だってすぐわかった。奈々子さんち、猫飼ってないから。

(…やばいな、これ。放っておけないぞ…)

その夜、奈々子さんが帰ったあと、俺は眠れなかった。翌日、美咲が夜勤から帰ってきてすぐ話した。

「美咲、ちょっと話がある」

「ん?なに、深刻な顔して」

「昨日、奈々子さんが来て…」

全部話した。美咲はしばらく黙ってから、意外なことを言った。

「…実はね、奈々子から前にちょっとだけ聞いてた。不妊のこと」

「えっ、聞いてたの」

「うん。でも、まさかうちの旦那に頼みに来るとは思わなかった」

美咲は腕を組んで、窓の外を見てた。十二月の東京の空は曇りだった。

「…祐介はどう思った?」

「いや、どうって…普通に無理だろ」

「本当にそう思ってる?」

「…」

見透かされてた。正直に言うと、「無理」とは思いつつも、あの泣いてる奈々子さんの顔が頭から離れなかった。手首の絆創膏も。

「私ね、奈々子のこと姉みたいに思ってるの。看護学校の実習で、私が患者さんの前で泣いちゃった時、ずっと一緒にいてくれた人だから」

「…うん」

「だからって、旦那を差し出すのはどうかしてると思う。思うけど…奈々子が本当に追い詰められてるなら…」

美咲がこっちを向いた。目が赤かった。

「一回だけ、って約束で…いい、よ」

「…は?」

「でも条件がある。私が全部知ってること。隠し事はなし。あと、気持ちは入れないで」

俺は自分の耳を疑った。まじで言ってるのか、この人。

(いや、冷静に考えろ。これ、夫婦終わるやつじゃないのか?)

でも美咲の目は本気だった。

年明け。一月の三連休の中日。場所は奈々子さんが指定した新宿のビジネスホテル。グレイスリー新宿。歌舞伎町のゴジラが見える部屋だった。

なんでそんなディテール覚えてるかって?そりゃ、窓の外のゴジラを凝視してないとおかしくなりそうだったからだよ。

奈々子さんは薄いベージュのニットワンピを着てた。病院で見るスクラブ姿とは全然違って、普通に色っぽかった。

「…緊張するね」

「俺のほうが緊張してますよ」

お互い、ベッドの端に座って、なんとも言えない空気。

「ね、祐介くん。本当にいいの?美咲ちゃんのこと…」

「美咲がいいって言いました。俺は…美咲と奈々子さんの判断を信じます」

「…ありがとう」

奈々子さんが泣きそうな顔で笑った。こういう顔、ずるいと思った。

「…じゃあ、電気…消すね」

カーテンの隙間からネオンの光だけ入ってくる、薄暗い部屋。

奈々子さんが自分からニットの裾を持ち上げた。白い肌が見えて、黒いブラのレースが目に入った瞬間、俺の理性が一個ぐらいどっか行った。

(だめだ、これ仕事だろ。事務的にやれ。気持ちは入れるな。美咲との約束だぞ)

…無理だった。

奈々子さんの身体は、想像してた以上だった。病院の制服じゃわからなかったけど、くびれがすごくて、胸は予想通りかそれ以上に大きかった。

「…見ないで、恥ずかしい」

「すみません…」

目をそらそうとして、そらせなかった。奈々子さんもそれに気づいてたと思う。

「…ねぇ、キスしてもいい?その…じゃないと、気持ちが追いつかなくて」

「…はい」

唇が触れた瞬間、奈々子さんの唇がちょっと震えてるのがわかった。

(この人も怖いんだ…)

そう思ったら、なんか、守ってやりたいみたいな気持ちが出てきてしまった。美咲に「気持ちは入れるな」って言われたのに。

キスが深くなっていった。奈々子さんの舌がぎこちなく触れてきて、俺は自分から彼女の背中に手を回した。ブラのホックを外す時、指が震えた。

「んっ…」

胸に触れると、びくっと身体が跳ねた。

「大丈夫ですか」

「うん…久しぶりだから…誠司とはもう一年以上してなくて」

(一年以上…か)

乳首に舌を這わせると、小さく声が漏れた。奈々子さんは自分の口を手で押さえようとしてた。

「声、出していいですよ。隣の部屋聞こえないし」

「…うん」

それでも声を殺そうとするのが、この人の真面目さなんだろうなと思った。

下着を脱がすと、奈々子さんは反射的に脚を閉じた。

「ごめん…緊張して…」

「焦らなくていいですよ」

ゆっくりと脚を開いて、指で触れた。もう濡れてた。奈々子さんが顔を赤くして目をそらした。

「…やだ、こんなになってる…恥ずかしい」

クリトリスを指の腹でゆっくり円を描くように触ると、腰が小さく跳ねた。

「あっ…んん…」

声が少しずつ大きくなっていく。手で口を押さえるのをやめて、シーツを握ってた。

「気持ちいいですか」

「…うん…こんなの久しぶりで…やばい…」

指を中に入れると、きゅっと締まった。奈々子さんの目が潤んでこっちを見た。

「…祐介くん…お願い…もう…入れて…」

(これ、やばいぞ。完全に「仕事」って意識が飛んでる)

でも、もう止められなかった。

ゆっくり入れた。奈々子さんが息を止めて、俺の背中に爪を立てた。

「っ…あ…」

「痛いですか」

「ううん…気持ちいい…全然違う…」

「全然違う」が何と比べてなのか、聞かないほうがいいと思った。

奥まで入った瞬間、奈々子さんがぎゅっと俺を抱きしめてきた。耳元で息が荒くなってるのが聞こえた。

動き始めると、奈々子さんの声が変わった。さっきまで我慢してたのが嘘みたいに、甘くて切ない声が漏れた。

「あっ…あん…祐介くん…っ」

名前を呼ばれるたびに、胸の奥がぎゅっとした。(だめだ、気持ち入ってる。完全に入ってる)

「奈々子さん…」

「…奈々子でいい…さん要らない…」

脚を絡めてきた。腰を自分から動かし始めた。病院では師長補佐として堂々としてる人が、こんな顔するのかと思った。

「ん…もっと奥…お願い…」

腰を持ち上げて、角度を変えた。奥に当たったのか、奈々子の目がぎゅっと閉じた。

「そこっ…あっ…だめ…すごい…」

ペースを上げた。奈々子の身体がびくびく震え始めた。

「あっ…いく…いっちゃう…祐介くんっ…」

「…俺も…」

「中に…出して…お願い…っ」

奈々子が俺をきつく抱きしめた。身体の奥がぎゅっと締まって、その感覚に引きずられるように俺も限界がきた。

奥で出した。奈々子が小さく声を上げて、しばらくそのまま動かなかった。

「…」

「…大丈夫ですか」

「…ありがとう」

奈々子が泣いてた。さっきの涙とは違う涙だった。

抜いた後、しばらく並んで天井を見てた。窓の外のゴジラが無言でこっちを見てる気がした。

「…ねぇ、祐介くん」

「はい」

「本当に一回だけでいい…?排卵日的に…今日だけじゃ難しいかもしれなくて」

(…来た。わかってた。一回で成功する確率なんて高くないって)

「…それは、美咲と相談します」

「うん。ごめんね。ほんとに」

帰り道、中央線に揺られながら考えた。俺は今、何をしたんだろう。妻の親友と寝た。妻公認で。でも「気持ちは入れるな」って約束は、もう破ってしまった。

家に着くと、美咲がリビングで待ってた。テレビもつけず、暗い部屋でソファに座ってた。

「…おかえり」

「ただいま」

「…どうだった」

「…一応、した」

沈黙。時計の秒針の音だけが聞こえた。美咲が立ち上がって、台所でコップに水を入れた。

「…気持ち、入った?」

俺は嘘をつけなかった。

「…正直に言うと、完全に事務的には無理だった」

美咲がコップを流しに置いた。ガチャン、って少し大きい音がした。

「…そう」

「美咲…」

「わかってた。わかってて送り出したの。私がバカだった」

泣いてた。当たり前だ。自分の親友と自分の旦那がセックスして、しかも旦那がそっちに気持ちが動いたって言ってるんだから。

「美咲、俺は…」

「もういい。今日は一人で寝る」

美咲が寝室に行って、ドアが閉まった。鍵をかける音がした。

俺はリビングのソファで、朝まで眠れなかった。

翌日から三日間、美咲はほとんど口を利かなかった。必要最低限の業務連絡みたいなLINEだけ。「牛乳買ってきて」「ゴミ出しよろしく」。

四日目の夜、美咲が突然リビングで話しかけてきた。

「…奈々子と話した」

「え」

「妊娠はしてなかった。やっぱり一回じゃ無理だって」

「…そうか」

「奈々子が泣きながら言ってた。『祐介くんは優しかった。でも美咲ちゃんを傷つけたことが申し訳なくて死にたい』って」

胃が痛くなった。

「…もう一回、する?」

「は?」

「奈々子のために。でも、今度は条件を変える」

「条件って…」

美咲が真っすぐこっちを見た。

「私も一緒にいる」

「…え?」

「見届ける。目の前で。そうじゃないと私の気持ちが壊れるから」

(…この人、まじで何言ってるんだ…?)

正直、頭がおかしくなりそうだった。でも美咲の目は冗談を言ってる目じゃなかった。追い詰められた人間の目だった。

二月の最初の土曜日。場所は、うちのマンション。

リビングに奈々子が来た。美咲が入れたコーヒーを三人で飲んだ。人生で一番まずいコーヒーだった。

「…美咲ちゃん、ほんとにいいの」

「いいよ。私がいることが条件だから」

「…うん」

寝室に三人で入った。こんなシチュエーション、AVでしか見たことねえよ、と内心で思った。でも現実はAVみたいにスムーズにいかない。三人ともガチガチだった。

美咲がベッドの端に座った。椅子を持ってくるかと思ったら、ベッドの上だった。

「…やって」

低い声で言った。

奈々子と向かい合って、唇を重ねた。美咲の視線が背中に突き刺さるのがわかった。

「ん…」

奈々子は前回より緊張してた。そりゃそうだ。親友に見られながらその旦那とするなんて、普通の精神状態じゃ無理だ。

でも、身体は正直だった。触れていくうちに、奈々子の呼吸が乱れていった。

(美咲が見てる。美咲が見てるのに、俺は…)

罪悪感と興奮が混ざった、気持ち悪い感情だった。でもそれが、今まで感じたことないぐらいの興奮に変わっていった自分が怖かった。

奈々子の中に入った時、後ろで美咲が小さく息を飲んだのが聞こえた。

「あ…っ…」

「…」

動き始めた。奈々子が声を殺そうとしてた。前回は「声出していい」と言えたけど、今回は言えなかった。美咲がいるから。

でも途中から、奈々子が我慢できなくなった。

「んっ…あ…だめ…声…出ちゃう…」

その瞬間、美咲が奈々子の手を握った。

「…いいよ、出して。我慢しなくていい」

奈々子が美咲を見て、涙を流した。

「…美咲ちゃん…ごめん…ごめんね…」

「いいから。ちゃんとしてもらいな」

美咲も泣いてた。奈々子の手を握ったまま。

(…この二人の関係は、俺にはわからない。でも、この瞬間だけは、嘘じゃないんだと思った)

奈々子が大きく身体を震わせた。同時に中がきゅっと締まって、俺も限界だった。

「…出すよ」

「うん…っ…お願い…」

奥で出した。奈々子がびくっと跳ねて、美咲の手を強く握った。美咲は目を閉じて、唇を噛んでた。

しばらく、誰も何も言わなかった。

俺が身体を離して横になると、奈々子が腰の下にクッションを入れて仰向けになった。看護師の知識で、少しでも確率を上げようとしてるんだろう。

美咲が立ち上がって、台所に行った。水を三人分持ってきて、奈々子に渡した。

「…はい」

「ありがとう…」

「お風呂、沸かすね。奈々子先に入りな」

まるで日常の会話みたいだった。異常な状況なのに、美咲は日常を取り戻そうとしてた。

奈々子がお風呂に入ってる間、美咲がリビングで俺の隣に座った。

「…ねぇ」

「うん」

「私、壊れてるのかな」

「…」

「見てたら…嫌だったのに…途中から、なんか…変な気持ちになった」

「変な気持ち?」

「…興奮した。自分の旦那が他の女としてるの見て」

美咲が自分の膝を抱えた。小さく見えた。

「美咲…」

「最低だよね、私。親友のためって言い訳して、実は…」

俺は美咲を抱きしめた。

「壊れてない。俺たちは壊れてない」

本当にそう思ってたのか、自分でもわからなかった。でも、そう言わないと、本当に壊れそうだった。

その夜、奈々子が帰った後、俺と美咲はした。久しぶりだった。

美咲はいつもより積極的で、いつもより激しくて、いつもより泣いてた。終わった後、「好き」って何回も言ってきた。俺も何回も言った。

三月。奈々子から連絡が来た。

「妊娠した」

美咲がそのLINEを見て、泣いた。嬉しいのか悲しいのか、たぶん両方だったんだと思う。

それから半年。奈々子のお腹は大きくなって、誠司さんの子どもとして届け出される予定になってる。俺たちの間のあの夜のことは、四人だけの秘密。

美咲との関係は、正直、前より良くなった。壊れかけて、壊れなかったものは、前より強くなるのかもしれない。あるいは、壊れてることに気づいてないだけかもしれない。

先週、奈々子から検診のエコー写真が送られてきた。美咲と二人で見た。

「…元気に育ってるって」

「…うん」

「…ねぇ、祐介」

「ん?」

「私たちも、そろそろ作らない?」

美咲が照れくさそうに笑った。

「…そうだな」

帰り道に練馬駅前のマツキヨに寄って、葉酸サプリを買った。1,280円。レジの店員に「お子さんですか?おめでとうございます」と言われた。

まだ何も始まってない。でも、何かが動き出した気がした。

あの夜のことを後悔してるかと聞かれたら、わからない。でも、あの夜がなかったら、俺たちは「子ども」っていう言葉を、こんなに真剣に口にできなかったと思う。

最後にひとつだけ。奈々子の赤ちゃんの予定日は九月十八日。俺の誕生日の三日後だ。偶然かもしれないし、偶然じゃないかもしれない。

それだけが、ちょっとだけ、怖い。


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