誰も近づけない水泳部のエースに練習後のプールで二人きりになった夜の話

大学2年の夏の話をします。

俺のスペックから言うと、身長172、体重63、顔面偏差値は自分で言うのもあれだけど48くらい。坂口健太郎をものすごく地味にして、目を一回り小さくした感じ。要するにフツメンの下のほう。彼女いない歴イコール年齢で、高校時代は男子校だったから女子との接し方がそもそもわからない。そんな俺が、なぜか大学で水泳部に入ってしまったのが全ての始まりだった。

水泳は小学校のスイミングスクールでやってたぐらいで、大学の部活についていけるレベルじゃなかった。でも新歓の時に「初心者歓迎」って書いてあったし、体育会系の部活に入ったら少しは自分変われるかなと思って。まあ、甘かったよね。

で、うちの水泳部には「氷点下」ってあだ名の先輩がいた。

3年の柊(ひいらぎ)先輩。本名は柊真帆。インカレの100mバタフライで決勝に残るぐらいの実力者で、身長164cm、たぶんEカップはある。顔は…今田美桜に似てるって周りは言ってたけど、今田美桜からニコッて笑う機能を取り除いた感じ。とにかく表情が動かない。練習中も黙々と泳いで、後輩に指導する時も必要最低限のことしか言わない。

男子部員が話しかけても「はい」「そうですか」「特にないです」の三語で会話が終わる。女子部員からも「柊先輩ってちょっと怖い」って言われてた。1年の夏合宿の時に、4年の先輩が柊先輩に告白して、「練習に集中したいので」って3秒で断ったって話が部内で伝説になってた。

そんな柊先輩と俺の接点は、ほぼゼロだった。というか、俺みたいな補欠以下の部員が話しかける理由がない。

転機は大学2年の7月。千駄ヶ谷の東京体育館で地区予選があった日のことだった。

俺は選手じゃないからタイム計測の補助係で、柊先輩のレーンを担当することになった。先輩が飛び込み台に立った時、ゴーグルのバンドが切れた。

「……」

先輩は無表情のまま、切れたゴーグルを見つめてた。予備を持ってきてないらしい。次の組まであと4分。

俺はなぜか自分のバッグまで全力で走って、予備のゴーグルを持ってきた。同じSWANSの同じモデルを使ってたのを知ってたから。

「これ、同じやつです。度は入ってないですけど」

先輩が俺を見た。初めてまともに目が合った気がした。

「……ありがとう」

たったそれだけ。でも、先輩の目がほんの一瞬だけ柔らかくなった気がした。(気のせいかもしれないけど)

その日、先輩は100mバタフライで自己ベストを更新して、大会記録にあと0.3秒まで迫った。

で、翌週の月曜。部活の練習前にプールサイドで準備体操してたら、柊先輩が俺の前に立った。

「これ」

手にはSWANSのゴーグルが入った箱。新品。

「え、いいですよ。あれ予備だったんで」

「借りたものは返す主義なので」

「あ、はい…ありがとうございます」

そこで会話が終わると思ったら、先輩が付け加えた。

「あと、泳ぎ。左手の入水が外に流れてる。もったいない」

(え?俺の泳ぎ見てたの?)

驚いて顔を上げたら、先輩はもう背を向けて歩いていた。

その日から、練習後にたまに先輩が俺のフォームについて一言だけ言うようになった。「キックのタイミング」「呼吸で首が上がりすぎ」「プルが浅い」。全部短い。でも的確だった。

2週間ぐらい経った頃、同期の松田に言われた。

「柊先輩が誰かに個別で声かけてるの、俺は初めて見たんだけど」

(え、そうなの?)

自分では全然気づいてなかった。周りから見たら異常事態だったらしい。まあでも、先輩は練習のアドバイスをしてくれてるだけだし、俺ごときに興味があるわけないだろうと普通に思ってた。

8月に入って、夏休みの練習が始まった。東京の大学のプールは人数制限があって、朝と夕方の2部制になってた。俺は夕方の部。

ある日の練習後、更衣室で着替えてたらスマホに通知が来た。部のグループLINEで「採暖室の鍵、閉め忘れ注意」って主将からメッセージが入ってた。

(あ、やべ。今日俺が最後だったかも)

慌ててプールに戻った。8月の東京、外はまだ薄明るいけど、部員はもう全員帰ったはず。プールサイドの照明は半分だけついてて、水面がゆらゆら光ってた。

採暖室の方に歩いていったら、中にまだ誰かいた。

柊先輩だった。

一人で、膝を抱えて座ってた。水着のまま。

「あ、先輩。まだいたんですか」

「……うん」

声が小さかった。いつもの「はい」じゃなくて「うん」。

よく見たら、先輩の右足首にテーピングが巻いてあった。練習中は気づかなかった。

「足、大丈夫ですか?」

「……捻っただけ」

「歩けます?」

先輩が立ち上がろうとして、少しよろめいた。俺は反射的に肩を貸した。

先輩の体が近かった。水着越しに感じる体温と、塩素の匂いと、その下にあるシャンプーみたいな甘い匂い。(やばい。意識するな)

「……ごめん」

「いえ。てか、なんで一人で残ってたんですか?みんなに言えば…」

「言えない」

「え?」

「インカレ前に怪我したなんて言ったら、出場停止にされる」

先輩は俺の肩に手を置いたまま、少し俯いた。

「……あなたには、言ってもいいかなって思った」

(なんで俺?)って思ったけど、聞けなかった。先輩の横顔が、いつもと全然違ったから。氷点下って呼ばれてる人の顔じゃなかった。不安そうで、少し寂しそうで、年相応の女の子の顔だった。

採暖室のベンチに先輩を座らせて、俺はトレーナー室から氷嚢を持ってきた。足首に当てると、先輩が小さく息を吸った。

「冷たいですよね、すみません」

「……慣れてる」

「よく怪我するんですか?」

「中学からずっと。故障の多い選手だから」

先輩は天井を見ながら言った。

「体が弱いのに水泳やってるって、よく言われる。なんで続けてるのかって」

「……なんでですか?」

「水の中にいる時だけ、余計なこと考えなくていいから」

沈黙が流れた。採暖室のぬるい空気と、遠くのプールのフィルターが回る音だけが聞こえた。

「ね、知ってる?私、友達いないんだよ」

「え?」

「部活でもゼミでも、みんな私のこと怖がるから。勝手に氷点下とか言われて、勝手に距離を置かれて」

先輩が膝を抱え直した。

「別に怒ってるわけじゃないのに。ただ、何を話していいかわからないだけなのに」

(……そうだったのか)

俺は、先輩が冷たい人なんだとずっと思ってた。でも違った。ただ、不器用なだけだった。

「俺も、友達少ないっすよ。男子校出身で女子の扱いわかんないし、こうやって先輩と二人で話してるだけで心臓バクバクだし」

言ってから(なんで言ったんだ)と後悔した。

でも先輩が、ほんの少しだけ口角を上げた。笑った、のか?

「……変な人」

「いや変ではないと思うんですけど」

「褒めてる」

その一言で、採暖室の空気が変わった気がした。

先輩の足首を冷やしながら、そのまま1時間ぐらい話した。先輩の地元が愛媛の今治で、じゃこ天が好きなこと。高校時代に一回だけ水泳を辞めようとして、母親に泣かれたこと。今田美桜に似てるって言われるのが実は嫌で、「私はもっと目が小さい」って思ってること。

俺も自分の話をした。男子校時代の文化祭で女装させられたこと。水泳部に入ったのは自分を変えたかったから。先輩のバタフライを初めて見た時に、水しぶきが光って綺麗だと思ったこと。

最後のは言うつもりなかったのに口が滑った。

「……そんなこと言われたの、初めて」

先輩は膝に顔をうずめた。耳が赤かった。(この人、照れてるのか…?)

帰り道、先輩を駅まで送った。田端の駅前で別れる時、先輩が振り返った。

「LINE、教えて」

「え、あ、はい」

QRコードを交換した。先輩のアイコンは、水中から見上げた空の写真だった。

「怪我のこと、誰にも言わないで」

「はい。言いません」

「……ありがとう」

先輩が改札に消えた後、俺は自分の心臓がまだうるさいことに気づいた。(いや、これは…まずい。好きになってないか?いやいや、先輩だぞ?氷点下の?)

自問自答しながら帰って、風呂入って、布団に入ったらLINEが来た。

「今日はありがとう。足首だいぶ楽になった」

返信を30分ぐらい考えて、「よかったです。無理しないでくださいね」って送った。

既読がついて、スタンプが返ってきた。猫が「おやすみ」って言ってるやつ。(先輩、こういうスタンプ使うんだ…)

そこから、毎日LINEするようになった。最初は怪我の経過報告だったのが、だんだん「今日の晩ごはん」とか「ゼミの教授がうざい」とかどうでもいい話になっていった。先輩のLINEは短文だけど、たまに絵文字が入るようになった。

練習中の先輩は相変わらず無表情で、他の部員には「はい」「そうですか」だった。でも俺にだけ、練習後にちょっとだけ長く話すようになった。

(俺にだけ…ってことは、ない。考えすぎ。先輩は単に、怪我の秘密を共有してるから話しやすいだけ)

こう自分に言い聞かせてた。本当に鈍かったと思う。

8月の終わり、インカレの2週間前。先輩の足首はだいぶ良くなってて、タイムも戻ってきてた。

練習後、いつもみたいに採暖室で二人で話してたら、先輩が急に言った。

「ね、明後日の日曜、空いてる?」

「え?はい、空いてますけど」

「映画、観に行かない?」

(は?)

「え、俺と…ですか?」

「他に誰がいるの」

「いや、あの、なんの映画ですか」

「なんでもいい。一緒に観たいだけ」

先輩は真っ直ぐこっちを見てた。表情はいつもと変わらないのに、目だけが必死だった。(これって…デートじゃないの…?いや、先輩にとっては友達がいないから、ただ誰かと出かけたいだけで…)

「行きましょう。俺も映画好きなんで」

「……ほんと?」

先輩が、ほっとした顔をした。氷点下がほっとした顔をしてるのを見るのは、多分俺だけだった。

日曜日。新宿ピカデリーで待ち合わせた。

先輩は白いブラウスにベージュのロングスカートを履いて立ってた。髪を下ろしてた。練習中のまとめ髪しか見たことなかったから、一瞬誰だかわからなかった。

(いや…え…めちゃくちゃ綺麗じゃん)

鎖骨のラインがブラウスから覗いてて、そこに小さなネックレスが光ってて、なんかもうダメだった。心臓がうるさすぎる。

「お待たせしました」

「……5分前に来たのに、私の方が早かった」

「すみません…」

「怒ってない。ちょっと嬉しかっただけ」

(嬉しい?なにが?)

映画は先輩が選んだ邦画のラブストーリーだった。正直、内容はあまり覚えてない。隣に先輩がいて、暗い映画館の中で先輩の横顔がスクリーンの光に照らされてて、それしか見えなかった。

途中で先輩がポップコーンに手を伸ばした時、俺の手と重なった。

「あ」

「あ、すみません」

手を引っ込めようとしたら、先輩が指先で俺の手を押さえた。そのまま、軽く握った。

暗くてよく見えなかったけど、先輩の耳がまた赤くなってるのはわかった。

そのまま映画が終わるまで、手を繋いでた。先輩の手は思ったより小さくて、でもバタフライで水を掴む手なんだと思ったら変な気持ちになった。

映画の後、新宿御苑の近くのカフェに入った。先輩はアイスのカフェラテを頼んで、ストローで一口飲んでから、こっちを見た。

「私のこと、どう思ってる?」

(直球すぎない?)

「え、どう…って」

「ごまかさないで」

「……先輩のこと、好きです」

言った。言っちまった。カフェの店員がこっち見てた気がする。

先輩はしばらく黙って、カフェラテのストローをくるくる回してた。

「……私も」

「え?」

「ゴーグル持ってきてくれた時から、ずっと気になってた。あの時、走って取りに行ったでしょ。あんなことする人、初めてだった」

「いや、あれはたまたま同じモデル使ってただけで…」

「そういうところ」

「え?」

「そういう、自分のしたことを大したことないって思えるところが好き」

(なんだよそれ…反則だろ)

先輩の目が潤んでた。氷点下の目じゃなかった。俺を見てるのは、普通の女の子の目だった。

カフェを出た後、先輩が言った。

「今日、帰りたくない」

「え」

「うち、一人暮らしだから。帰っても誰もいないし」

新大久保の先輩のアパートまで歩いた。1Kの小さな部屋で、水泳の賞状とメダルが壁にかかってて、テーブルの上にプロテインの容器が3つ並んでた。生活感があるのに、どこか寂しい部屋だった。

「散らかっててごめん」

「いえ、全然」

先輩がお茶を淹れてくれた。二人でフローリングに座って飲んでたら、先輩が隣に座り直してきた。肩が触れた。

「ね」

「はい」

「キス、していい?」

心臓が止まるかと思った。

「……はい」

先輩が俺の方を向いて、目を閉じた。まつげが長かった。

俺から唇を合わせた。柔らかかった。先輩の唇はカフェラテの甘い味がした。

一回離して、また重ねた。今度は先輩の方から舌を入れてきた。ぎこちなかった。でもそれが逆に、先輩も慣れてないんだって思えて、なんか安心した。

「……ん」

キスしながら、先輩が俺のTシャツの裾を掴んだ。

「先輩…いいんですか」

「……もうさ、先輩って呼ぶのやめて」

「え、じゃあなんて」

「……真帆」

(真帆…)

「真帆さん」

先輩が…真帆さんが、目を逸らした。耳だけじゃなくて、首まで赤くなってた。

「……うん。それでいい」

そこからは、止まれなかった。

真帆さんのブラウスのボタンを一つずつ外していった。指が震えてた。3つ目のボタンで手が止まったら、真帆さんが自分で残りを外した。

白いブラの下に、水泳で鍛えた体があった。肩のラインがしっかりしてて、でもウエストから腰にかけてのカーブは柔らかくて、バランスがすごかった。

「……すごい綺麗」

「やめて。恥ずかしい」

「いや、ほんとに」

ブラのホックに手をかけたら、真帆さんが俺の手を掴んだ。

「……電気、消して」

小さなテーブルランプだけにした。薄暗い部屋で、真帆さんの肌がぼんやり光って見えた。

ブラを外すと、想像してたよりも大きかった。水着だと潰れてたんだな。形が綺麗で、手のひらに乗せると柔らかくて重さがあった。

「……ん」

乳首に触れたら、真帆さんが目をきつく閉じた。感じてるのを見られるのが嫌なのか、ずっと唇を噛んでた。

「我慢しなくていいよ」

「……してない」

してるじゃん、と思ったけど言わなかった。代わりに乳首を口に含んだ。

「っ……ぁ」

小さく声が漏れた。真帆さんが俺の頭を抱えるように手を置いた。

スカートの上から太ももに触れて、ゆっくり中に手を滑らせた。太ももの内側が、水泳選手特有のしなやかな筋肉で、触ると少し硬くて、でも肌は柔らかかった。

下着に触れた時、もう湿ってた。

「……触っていい?」

「……うん」

下着をずらして直接触れた。指を当てたら、真帆さんの腰がびくって跳ねた。

「あ……っ」

クリトリスを軽くこすると、真帆さんが俺の肩を掴んだ。爪が食い込むぐらいの力で。

「……っ、待って、そこ」

「痛い?」

「違う、気持ちいいの。……気持ちよすぎて、変な声出そう」

(変な声聞きたい、とか思った俺は最低だと思う)

中に指を入れた。きつかった。一本がやっとだった。

「もしかして…初めて?」

真帆さんが頷いた。恥ずかしそうに目を逸らしながら。

「……誰にも触らせたことない。あなたが初めて」

その言葉で、俺の中の何かが壊れた。(この人は、俺を選んだんだ。誰にも心を開かなかったこの人が、俺に)

ゆっくり指を動かした。真帆さんの中が、だんだん濡れて柔らかくなっていくのがわかった。

「ん……あ、やば……」

真帆さんが俺の首に腕を回して、顔を押し当てた。耳元で、押し殺した喘ぎ声が聞こえた。普段あんなにクールな先輩が、俺の腕の中で声を我慢してる。信じられなかった。これ夢なんじゃないかと本気で思った。

「もう……入れて」

「えっ、でも、ゴム…」

「洗面台の下の引き出し」

(あるんかい)

取りに行って戻ったら、真帆さんはスカートも下着も脱いで、シーツを胸まで引き上げて横になってた。

ゴムを着けて、真帆さんの上に乗った。足の間に体を入れると、真帆さんの太ももが俺の腰を挟んだ。水泳で鍛えた足は、力強くて、でも肌はすべすべだった。

先端を当てた。

「……入れるよ」

「……うん」

ゆっくり入れた。真帆さんがシーツを握りしめた。顔をしかめてる。

「痛い?止める?」

「……止めないで」

少しずつ、ゆっくり奥まで入れた。真帆さんの中は、さっき指を入れた時よりもきつくて、熱かった。

「……痛い、けど、嫌じゃない」

全部入った時、真帆さんが深く息を吐いた。目が少し潤んでた。

「大丈夫?」

真帆さんが頷いて、俺の首に手を回した。

「動いて」

ゆっくり腰を動かした。真帆さんが息を詰めるたびに止まって、また動いて。最初は痛そうだったのが、だんだん表情が変わっていった。

「あ……ん、ちょっと……気持ちいいかも」

その一言で、腰の動きが勝手に速くなった。(やばい、冷静になれ)

でも真帆さんが腰を合わせてきた。水泳で鍛えた体幹で、下から突き上げるように。

「ん……っ、あ、そこ……」

「真帆さん……」

「呼んで。もっと呼んで」

「真帆さん……好きだ」

「あっ……ん、私も……っ」

真帆さんが俺を強く抱きしめた。背中に爪を立てられた。痛かったけど、それが逆に、この人が感じてくれてるんだって実感になった。

「やばい……もう出そう」

「……いいよ。出して」

腰を数回深く突いて、そのまま中で果てた。ゴム越しでも、出した瞬間の真帆さんの中の収縮がわかった。

「……あぁ」

「……はぁ」

しばらく動けなかった。真帆さんの胸の上に顔を押し当てたまま、心臓の音を聞いてた。速かった。この人も同じぐらいドキドキしてたんだって思ったら、なんか泣きそうになった。

抜いた後、真帆さんが俺の腕の中に収まった。背中を向けて、俺が後ろから抱きしめる形で。

「ね」

「ん?」

「……もう一回、したい」

「え、大丈夫なの?初めてだったのに」

「初めてだから。もっと知りたい」

2回目は、真帆さんが上に乗った。俺の腹筋に手を置いて、自分のペースで腰を動かした。さっきまで声を我慢してたのが嘘みたいに、真帆さんは声を出した。

「あっ、ん、ここ……すき」

腰を回すように動く真帆さんの体がランプの光に照らされて、汗で肌が光ってた。水泳選手の体って、水の中だけじゃなくてこういう時も綺麗なんだなって、場違いなことを思った。

「ね、気持ちいい……?」

「うん、やばい」

「よかった……私、下手じゃない?」

「全然。てか俺も初めてに近いから比較できない」

「……ふふ」

真帆さんが笑った。声を出して笑ったのを、俺は初めて聞いた。

「今、笑った」

「笑っちゃだめ?」

「だめじゃない。めちゃくちゃ好き」

真帆さんが動きを速めた。俺も下から腰を突き上げた。

「あっ、やば……なんか、来る」

「俺も……」

「一緒に……っ」

真帆さんの中がぎゅっと締まって、俺も同時にイった。真帆さんが体を震わせて、俺の胸の上に倒れ込んだ。

汗だくの体を重ねたまま、しばらく呼吸を整えた。

窓の外が白み始めてた。もう朝の5時を回ってた。

真帆さんが俺の胸に頬をつけたまま言った。

「ね、私のこと、氷点下って思ってた?」

「最初は」

「今は?」

「採暖室ぐらい」

「……なにそれ」

「あったかいってこと」

真帆さんが俺の胸を軽く叩いた。でも顔は見えなくても、笑ってるのはわかった。

「インカレ、見に来て」

「もちろん」

「……彼女として」

「え?」

真帆さんが顔を上げた。目が真っ赤だった。泣いてた。

「付き合いたい。私、あなたの彼女になりたい」

氷点下と呼ばれた先輩が、泣きながら告白してきた。

(……こんなの、断れるわけないだろ)

「俺の方から言いたかったのに」

「……え」

「こちらこそ、よろしくお願いします。真帆さん」

真帆さんが俺に抱きついた。泣きながら笑ってた。

9月のインカレで、真帆さんは100mバタフライで4位に入った。プールから上がった真帆さんが観客席の俺を見つけて、小さく手を振った。

周りの部員が「え、柊先輩が手振ってる?誰に?」ってざわついてたけど、俺はニヤけるのを我慢するので精一杯だった。

あの日から3年。真帆さんは今、母校の大学で水泳部のコーチをしてる。相変わらず部員には「氷点下」って呼ばれてるらしい。

でも俺の前では、よく笑う。本当によく笑う。

最近、真帆さんに「あなたに会うまで、私は水の中にしか居場所がなかった」って言われた。

採暖室のぬるい空気の中で、初めて先輩の本当の顔を見たあの夏の夜を、俺はたぶん一生忘れない。


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