こんにちは。28歳、メーカー勤務の営業です。
今から話すのは去年の秋、俺が人事異動で東京本社から地方の支店に飛ばされた時の話。いわゆる左遷ってやつ。上司との相性が最悪で、まぁ自分にも非がなかったとは言えないんだけど、結果として「しばらく地方で頭冷やしてこい」的な空気で、群馬の高崎支店に配属されることになりました。
身長172、体重は聞かないでほしい。顔は友達に「雰囲気イケメン」って言われたことがあるけど、それって要するに顔面は普通ってことだよな。大学時代に2回告白して2回フラれてる実績持ち。
高崎支店は本社と比べたら規模は10分の1もない。営業部は6人しかいなくて、最年少の俺はもちろん一番下っ端。支店長の柴田さんは50代のおじさんで、電話の初日に「まぁ気楽にやれよ」と言ってくれたのが唯一の救いだった。
10月1日、異動初日。高崎駅から徒歩7分のビルの3階。エレベーターが開いた瞬間、妙に緊張してたのを覚えてる。本社と違ってフロア全体が見渡せるくらい狭い。窓からは高崎の街と、遠くに赤城山が見えた。
(まぁ…ここで心機一転やるしかないか)
朝礼で柴田支店長に紹介してもらい、一人ずつ挨拶を交わしていく。営業部のメンバーは40代が2人、30代が3人。みんな人が良さそうで、本社の殺伐とした空気と比べたら天国かもしれないと思った。
「で、君の教育係なんだけど」
柴田さんがそう言って、ちょうどコピー機の前にいた人を手招きした。
「七瀬、こっち来て。新しく来た桐山くんの教育係、頼むよ」
振り返ったその人の顔を見て、俺の脳が一瞬フリーズした。
(は?)
セミロングの黒髪。切れ長の目。すっと通った鼻筋。石原さとみをもうちょっとクールにしたような顔立ち。身長は163くらいで、紺のブラウスの上からでもわかるくらい胸がある。たぶんE以上。
七瀬彩音。30歳。俺が大学3年の時に告白してフラれた、2つ上のゼミの先輩だった。
「え」
「え」
お互い固まった。
「あ、あの…桐山です。よろしくお願いします」
とりあえず名刺交換のフリをして場を取り繕ったけど、手が震えてた。七瀬先輩も一瞬だけ目を見開いたあと、すぐにいつもの涼しい顔に戻った。さすがだった。
「七瀬です。よろしく」
周りの人たちは俺たちの動揺に気づいてない。いや、気づいてたかもしれないけど、少なくとも何も言わなかった。
(いやいやいや。なんでここにいるの?東京の商社に就職したって聞いたけど?)
午前中はフロアの案内とか、取引先リストの説明とか、事務的な引き継ぎ。七瀬先輩は完全に「先輩社員モード」で、丁寧だけど事務的。大学時代のことには一切触れてこない。俺も触れない。
でも、説明してくれる時の距離が近い。パソコンの画面を覗き込む時に髪が俺の肩に触れたり、資料を渡す時に指が触れたりするたびに心臓がうるさくて仕方なかった。
(いや落ち着け。5年も前の話だろ。もう時効だ時効)
昼休み。支店のメンバーで近くの定食屋に行くことになった。全員で一つのテーブルを囲む。当然のように七瀬先輩が隣に座った。教育係だから当然なんだけど。
「桐山くん、高崎は初めて?」
「あ、はい。来たことなかったです」
「パスタの街だから、イタリアンは外れないよ。あと上州牛ね」
「へぇ、パスタなんですね」
こんな普通の会話がこんなに緊張するとは思わなかった。
40代の宮本さんが「七瀬は面倒見いいから安心しろよ」と笑って、その場の空気が和んだ。七瀬先輩はちょっとだけ困ったように笑ってた。その横顔を見て、(ああ、やっぱりこの人きれいだな)と思ってしまった自分を殴りたかった。
2週目に入って、七瀬先輩と一緒に取引先を回るようになった。支店の営業車で高崎市内や前橋、伊勢崎あたりを走る。
車内で二人きりになると、少しずつ会話が柔らかくなってきた。
「桐山くんってさ、本社ではどの部署だったの?」
「第二営業です。電子部品の」
「あー、あそこ激務で有名だよね。大変だったでしょ」
「まぁ…上司と合わなくて、それで飛ばされたんですけどね」
「正直だね」
「隠してもしょうがないですし」
「…私もね、東京の会社辞めてこっちに来たの。3年前」
「え、そうなんですか」
「色々あって。まぁ逃げてきたようなもんだけど」
それ以上は聞けなかった。赤信号で止まった時、七瀬先輩がハンドルを握る手をちらっと見たら、左手の薬指には何もなかった。
(…関係ないだろ、そういうの確認するの)
3週目の金曜日。支店の飲み会があった。高崎駅西口の居酒屋。「新人歓迎会」という名目だけど、まぁ支店の6人だけだから気楽なもんで。
ビールが進むにつれて、宮本さんが余計なことを言い始めた。
「そういえば七瀬、婚約の話どうなったの?」
空気が一瞬凍った。七瀬先輩はグラスのハイボールをくるっと回して、
「去年ダメになりました」
(…婚約?)
「あーごめんごめん、聞くべきじゃなかったな」
「いいですよ、もう全然引きずってないんで。相手が浮気してたって話なので、むしろスッキリしてます」
笑ってたけど、目は笑ってなかった。俺はその時、変な正義感みたいなものが湧き上がってきて、自分でも困った。(お前がどうこうする話じゃないだろ)
飲み会の帰り道。みんなとは駅前で別れて、俺と七瀬先輩だけが同じ方向だった。支店から徒歩圏内のアパートに住んでるのがお互い近所だったらしい。
10月の夜風が冷たくて、七瀬先輩が「さむ」と言って腕を組んだ。
「ねぇ、桐山くん」
「はい」
「大学の時のこと、覚えてる?」
来た。ずっと触れなかったやつ。
「…覚えてます」
「ごめんね、あの時」
「いや、あれは俺が身の程知らずだっただけなんで」
「そんなことない。ちゃんと嬉しかったよ。でも当時は就活中で余裕なくて、後輩と付き合うとか考えられなかった」
「…そうだったんですね」
「5年も経ってこんな再会するなんて思わないじゃん。しかも私が教育係って。笑えるよね」
全然笑えなかった。隣を歩く七瀬先輩の横顔が街灯に照らされて、大学の時よりずっと大人っぽくなってて、でも笑った時の目元の感じは変わってなくて、俺は5年前に戻りそうになるのを必死で押さえてた。
「じゃあ、ここで。おやすみ」
先輩のアパートの前で別れた。俺の部屋はそこから3分くらい先。一人で歩きながら、(まずい。これはまずい)と思った。
それから2週間くらい、仕事を覚えるのに必死だった。七瀬先輩は相変わらず有能で、取引先からの信頼も厚くて、見ていて惚れ惚れした。仕事に、だ。仕事に。
でも、たまに見せる隙が俺の心をかき乱した。
クライアントとの電話が長引いて疲れた顔をしてる時。自販機のコーヒーを「あっつ」って言いながら飲む時。俺が作った資料を「ここ良いね」って褒めてくれた時の、ちょっと誇らしそうな顔。
(教育係としての顔だろ。勘違いするな)
11月の半ば、大口の取引先への提案書の締め切り前日。支店のみんなは定時で帰って、残ったのは俺と七瀬先輩だけだった。
「ここの数字、もう一回確認した方がいいかも」
七瀬先輩が俺の横に椅子を持ってきて座った。肩が触れるくらいの距離。シャンプーの匂いがした。フローラル系の、甘すぎないやつ。
「あ、ほんとだ。前期の数字拾い直します」
「うん。あと、3ページ目のグラフ、色変えた方が見やすいかも」
「了解です」
黙々と作業する。時計は21時を回っていた。
「…ねぇ」
「はい」
「桐山くんってさ、彼女いるの?」
唐突すぎて手が止まった。
「…いないです。もう1年くらい」
「そっか」
「七瀬先輩は?…あ、すみません、この前の話聞いたばっかなのに」
「いいよ。いないよ。婚約ダメになってからは誰とも」
沈黙。パソコンのファンの音だけが聞こえる。
「ねぇ、もう先輩って呼ぶのやめない?同じ会社の先輩後輩でしょ今は」
「え、じゃあなんて呼べば」
「七瀬でいいよ。私も隼也って呼んでいい?」
下の名前。大学時代は「桐山くん」としか呼ばれたことなかったのに。
「…はい。いいです」
「じゃあ隼也、コーヒー淹れてくるね。ブラックでいい?」
「あ、ありがとうございます」
七瀬さんが給湯室に行ってる間、俺はパソコンの画面をぼんやり見つめてた。胸の奥がざわざわする。5年前に蓋をした感情が、じわじわ滲み出してくるような感覚。
(やめろ。同じ職場だぞ。教育係だぞ。また同じこと繰り返すのか)
コーヒーを持って戻ってきた七瀬さんが、俺の隣に座り直した。さっきより少し近い。
22時過ぎ、やっと提案書が完成した。
「お疲れ。いいの出来たんじゃない?」
「七瀬さんのおかげです」
「さん付けかぁ」
「え、呼び捨ては…さすがに」
七瀬さんがくすっと笑った。大学の時には見たことない、ちょっと甘えたような笑い方で、心臓がどくんと跳ねた。
「帰ろっか。遅くなっちゃったし」
支店のビルを出ると、11月の高崎はもう冬みたいに寒かった。風がビル風になって吹き抜ける。
「うわ、寒い…」
七瀬さんが肩をすくめた。俺は考えるより先に自分のマフラーを外して七瀬さんの首に巻いていた。
「え…」
「あ、すみません。つい」
「…ありがと」
マフラーに顔を半分埋めた七瀬さんが、小さく「あったかい」と言った。
その声を聞いた瞬間、もうダメだった。5年間ずっと、好きだったんだと思った。蓋をしてただけで、消えてなんかなかった。
七瀬さんのアパートの前まで来た。いつもならここで「おやすみ」と言って別れる。でもその日、七瀬さんが立ち止まったまま動かなかった。
「ねぇ、隼也」
「…はい」
「コーヒー、もう一杯飲んでいかない?」
(それは…どういう意味で言ってるんだ?)
七瀬さんの目を見た。いつもの涼しげな目じゃなくて、少し揺れてるような、不安げな目。
「…いいんですか」
「いいから聞いてるの」
七瀬さんの部屋は1Kで、きれいに片付いてた。小さなキッチンと、ベッドとデスクとソファ。一人暮らしの女性の部屋に上がるのなんていつぶりだろう。
ソファに座って、出してもらったコーヒーを飲む。七瀬さんは隣に座った。膝が触れるくらいの距離。
しばらく無言でコーヒーを飲んでた。テレビもつけてない。時計の秒針の音だけが聞こえる。
「私ね」
七瀬さんがカップをテーブルに置いた。
「大学の時、桐山…隼也に告白された時、本当は嬉しかった」
「…」
「でも就活のこととか、先輩としてのプライドとか、色々考えちゃって。年下に甘えるの怖かったし」
「そんな…俺なんかに甘えるとかそういう話じゃ」
「あの後ずっと後悔してた。断らなきゃよかったって。でも卒業しちゃったし、連絡する勇気もなくて」
七瀬さんの声が少し震えてた。
「それで婚約した相手に浮気されて、東京も嫌になって逃げてきて。そしたら5年後にまた隼也が目の前に現れて…もう何これって。人生ってこういうことあるんだなって」
「七瀬さん…」
「教育係として接するの、ほんとにしんどかった。隣にいるのに触れちゃいけないって思って。でも名前で呼んでもらいたくて、わがまま言って」
涙が一筋、七瀬さんの頬を伝った。あの涼しげな顔で泣かれると、胸が締め付けられるっていうか、もう見ていられなかった。
気がついたら、七瀬さんの頬に手を伸ばしてた。涙を親指で拭う。
「俺…まだ好きです。5年前からずっと。蓋してただけで」
「…ほんとに?」
「はい。異動初日にあなたの顔見た瞬間、終わったなって思いました」
「なにそれ…」
小さく笑った七瀬さんの唇に、俺は自分の唇を重ねた。
…正直、自分でも信じられなかった。5年前にフラれた相手にキスしてる。頭の中がぐちゃぐちゃで、でも唇の感触だけはやけにはっきり覚えてる。柔らかくて、コーヒーの味が少しした。
七瀬さんの手が俺のシャツの胸元を掴んだ。引き寄せるように。
一度離れて、お互いの顔を見た。七瀬さんの目が潤んでて、頬が赤くて、普段のクールな感じが全部剥がれ落ちてた。
「もう一回…」
今度は七瀬さんの方からキスしてきた。舌が触れて、俺は無意識に七瀬さんの腰に手を回してた。
「ん…」
キスしながら、七瀬さんの身体を引き寄せる。ブラウス越しに感じる胸の柔らかさが頭をおかしくさせる。
(落ち着け。落ち着け俺。これ以上は…)
でも七瀬さんの方が止まらなかった。キスを続けながら、俺のネクタイを緩めて、シャツのボタンを一つ外した。
「七瀬さん…いいの?」
「5年待ったの。もう待てない」
その一言で、俺の中の理性が全部吹っ飛んだ。
七瀬さんをソファに押し倒す形になった。ブラウスのボタンを上から外していく。紺色のブラが見えた。手が震えてるのが自分でもわかった。
「震えてる」
「…緊張してるんです」
「私も」
ブラの上から胸を触ると、想像以上に大きくて柔らかかった。
「…でかい」
「そういうこと面と向かって言う?」
「すみません。でもほんとに」
「…Fだよ。聞きたかったんでしょ」
Fて。大学の時は隠してたのか、全然気づかなかった。
ブラのホックを外すと、きれいな形の胸がこぼれた。色白の肌に薄いピンク色の乳首。見とれてたら七瀬さんに「そんなに見ないで」って腕で隠された。
「…きれいだなと思って」
「…ばか」
腕をそっとどかして、乳首に口をつけた。七瀬さんの身体がびくっと跳ねた。
「あっ…」
舌で転がすように舐めると、七瀬さんの手が俺の髪を掴んだ。力加減がわからないみたいで、ぎゅっと強く握ったり、緩めたり。
「そこ…弱いの…っ」
ベッドに移動した。七瀬さんのスカートを脱がせると、黒いレースのショーツだった。仕事の日にこんなの穿いてたのかと思うと変な気持ちになった。
(いや、別に俺のために穿いてたわけじゃないだろ)
ショーツの上から触れると、もう湿ってた。
「…濡れてる」
「言わなくていいから…っ」
ショーツをずらして直接触れる。七瀬さんが息を呑んだ。
「んっ…」
クリを指で擦ると、七瀬さんの腰が浮いた。
「あっ…そこ…」
指を一本入れると、中が締め付けてきた。温かくて、ぬるぬるしてて、指が吸い込まれるみたいだった。
「はぁっ…隼也…っ」
名前を呼ばれて、もう限界だった。ズボンを脱いで、七瀬さんの上に覆いかぶさる。
「入れていい…?」
「…ゴム」
「あ…持ってない」
当たり前だ。残業するつもりで来ただけなんだから。
「…引き出しの中」
七瀬さんがベッド脇のサイドテーブルを指差した。引き出しを開けるとコンドームの箱があった。
(なんで持ってるんだ…いや、大人の女性なんだから普通か)
ゴムを着けて、七瀬さんの脚の間に身体を入れた。先端を当てると、七瀬さんが俺のシャツを掴んだ。
「…優しくしてね」
「うん」
ゆっくり入れていく。中があったかくて、きつくて、頭が真っ白になりそうだった。
「あぁっ…」
「大丈夫…?」
「うん…久しぶりだから…ちょっと待って」
しばらくそのまま動かずにいた。七瀬さんの中に入ってるっていう事実だけで、信じられない気持ちだった。5年前にフラれた相手と今こうしてるなんて、夢じゃないかと本気で思った。
(これ本当に現実か?俺、会社の先輩と…教育係と…)
「…動いていいよ」
ゆっくり腰を動かし始めた。七瀬さんが目を閉じて、眉をきゅっと寄せた。
「んっ…あっ…」
少しずつペースを上げていく。七瀬さんの声が漏れるたびに、理性が削られていく感覚。
「七瀬さん…気持ちいい…」
「私も…っ…奥に当たって…」
七瀬さんが俺の首に腕を回してきた。密着すると、胸が押し付けられて、汗ばんだ肌同士が触れ合う。
「隼也…好き…っ」
「俺も…好きです…っ」
敬語が混ざるのが自分でもおかしかったけど、直せなかった。5年間ずっと「先輩」だった人だから。
七瀬さんの中がきゅっと締まってきて、声が高くなった。
「やば…っ…イきそう…」
「俺も…もう…」
「一緒に…っ」
七瀬さんの脚が俺の腰に絡みついて、深く繋がった状態で、お互い果てた。
「あああっ…」
「っ…」
七瀬さんの中が痙攣するみたいに締め付けてきて、俺もゴムの中にどくどくと出した。
しばらく動けなかった。七瀬さんの上に覆いかぶさったまま、荒い息をしてた。七瀬さんの手が俺の背中を撫でる。
「…重い」
「あ、すみません」
慌てて身体を起こすと、七瀬さんが笑ってた。泣いた後の目で、でもすごくきれいな笑顔だった。
ゴムを外して、ティッシュで処理して、隣に横になった。
「ねぇ」
「はい」
「もう一回…したい」
正直、一回で体力的にも精神的にもいっぱいいっぱいだったけど、七瀬さんのその顔を見たら断れなかった。
2回目はさっきより余裕があった。七瀬さんが上に乗って、ゆっくり腰を動かした。
上から見下ろす七瀬さんは、仕事中の「出来る先輩」とは全然違う顔をしてた。トロンとした目で、口が少し開いてて、乱れた髪が肩にかかって。
「ん…あっ…これ…すごい…」
「七瀬さん…きれいだ…」
「恥ずかしいこと言わないで…っ」
でも嬉しそうだった。七瀬さんの腰の動きが速くなって、俺は下から突き上げた。
「あっ…そこ…っ…だめ…」
1回目で七瀬さんが感じるポイントがなんとなくわかってたから、そこを狙って突き上げると、七瀬さんの声が一段高くなった。
「隼也…っ…もうだめ…イく…っ」
七瀬さんが俺の胸に倒れ込んできて、身体を震わせた。俺もほぼ同時に果てた。
七瀬さんがそのまま俺の胸の上で動かなくなった。髪の匂いがする。汗と、さっきのシャンプーの匂いが混ざった甘い匂い。
「…ねぇ」
「ん?」
「会社ではどうする?」
「…どうするって」
「教育係と新人が付き合ってるって、まずいでしょ」
確かにそうだ。しかもこんな小さい支店で隠し通せるわけがない。
「…教育期間が終わったら、ちゃんと報告しましょう」
「報告って…付き合ってるって?」
「はい。俺は隠したくないです」
七瀬さんが顔を上げて、俺の目を見た。
「…本気で言ってる?」
「5年越しですよ。本気じゃないわけないでしょ」
七瀬さんがまた泣きそうな顔になって、俺の胸に顔を埋めた。
「…ばか。なんで5年前にそう言ってくれなかったの」
「5年前は言ったけどフラれたんですよ俺」
「うるさい」
笑いながら、ぎゅっと抱きついてきた。
結局その夜は七瀬さんの部屋に泊まった。明け方まで話して、少し眠って、目が覚めたら七瀬さんがキッチンでトーストを焼いてた。
「あ、起きた。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーヒーで」
「了解」
土曜日の朝。七瀬さんの部屋の窓から、赤城山がきれいに見えた。
左遷されたと思ってた。でも今は、あの人事部の判断に感謝してる。こっちに来なかったら、七瀬さんにまた会えることはなかった。
教育期間が終わる12月末に、柴田支店長に報告した。支店長は「知ってた」って笑ってた。宮本さんには「おせーよ」って言われた。
全員知ってたらしい。
(俺が気づいてなかっただけかよ…)
今は七瀬さんと同じマンションの隣の部屋に住んでる。毎朝一緒に出勤して、会社では先輩と後輩の顔をして、帰りにスーパーで買い物して、どっちかの部屋でご飯を食べる。
結婚とかはまだ全然考えてないけど、七瀬さんと一緒にいると、高崎の冬もそんなに寒くない。
長くなりました。読んでくれてありがとうございます。