地方営業所に飛ばされた俺の教育係が、誰にも敬語を使わない年上の副所長だった

これ、書いていいのかちょっと迷ったんですけど、もう時効かなと思って投稿します。

俺は当時25歳、都内の中堅メーカーで営業をやってた。入社3年目で、まあ可もなく不可もなくというか、正直パッとしない成績だったと思う。身長172、体重は当時62くらい。顔はよく「雰囲気イケメン」と言われるけど、要するにフツメンってことです。髪型でごまかしてるタイプ。大学時代に1回だけ付き合った彼女とは半年で別れて、それ以来ずっと彼女なし。

で、ある月曜の朝、課長に呼ばれて言われたのが「来月から新潟の長岡営業所に行ってくれ」だった。

(は?新潟?)

マジで耳を疑った。長岡営業所って、社員が3人しかいない小さい拠点で、要するに左遷コースだと社内では噂されてた場所だ。俺なんかやらかしたか?と思ったけど、課長は「向こうの人手が足りないから」としか言わない。

引っ越しやら何やらバタバタして、4月の頭に長岡に着いた。駅前のビジネスホテルに1週間だけ泊まって、その間に会社が用意してくれたワンルームに引っ越す段取り。

初出勤の日、営業所に着くと、所長の村上さんっていう50代のおじさんが出迎えてくれた。

「佐々木です、今日からお世話になります」

「あ、来たんだ」

奥のデスクから顔を上げたのが、副所長の三浦さんだった。

正直、最初見たとき(うわ)って思った。社内で「氷の女」って呼ばれてるのは聞いてたけど、実物は想像と全然違ってた。新木優子を少しだけ大人っぽくした感じ。身長は163くらいで、黒髪のセミロングを一つに束ねてる。肌が白くて、目がちょっとつり上がってて、パンツスーツがやたら似合う。29歳で副所長って相当キレる人なんだろうなってのは、立ち姿だけでわかった。

「三浦。あんたの教育係やるから。よろしく」

敬語がない。先輩とか後輩とかじゃなくて、もう完全にタメ口。所長の村上さんにすら「村上さん、これ違うよ」とか普通に言ってる。それなのに村上さんは笑ってる。なんなんだこの営業所。

最初の1週間はマジでキツかった。三浦さんの指導はとにかく厳しくて、俺が作った見積書を3回突き返されたときは、トイレで(辞めてぇ…)ってなった。

でも、三浦さんは厳しいだけじゃなかった。

俺が取引先との電話でしどろもどろになったとき、横からメモを差し入れてきた。「納期は来週末で調整可能と言え」って書いてある。そのメモの端っこに小さく「落ち着け」って書いてあったのが、なんか刺さった。

「あんた、電話のとき声が上ずるクセあるね。深呼吸してから出な」

「すみません…」

「謝んなくていいから。直せばいいだけ」

この人、怒ってるんじゃなくて、ただ事実を言ってるだけなんだ、って気づいたのは2週目くらいだった。

3週目に入った頃、初めて三浦さんと二人で取引先を回ることになった。長岡から車で1時間くらいの柏崎方面。俺が運転して、三浦さんは助手席でずっと書類を見てる。

「三浦さんって、東京出身でしたっけ」

「うん。世田谷」

「なんでわざわざ長岡に?」

「…色々あったんだよ」

それ以上は聞けなかった。でも助手席で書類から目を上げた三浦さんの横顔が、一瞬だけ寂しそうに見えた。(いや気のせいか)と思い直したけど。

帰り道、三浦さんが珍しく「腹減った」と言い出して、国道沿いのラーメン屋に寄った。「杭州飯店」っていう、燕三条系の背脂ラーメンの店。三浦さんは大盛りを頼んでいた。

「あんた、少食だね」

「いや普通ですよ。三浦さんが食べすぎなだけでは」

「失礼なこと言うね」

初めて三浦さんが笑った。口角がちょっと上がるだけの、控えめな笑い方。それ見て(あ、この人ちゃんと笑うんだ)って、なんか安心した自分がいた。

5月に入って、俺もだいぶ仕事に慣れてきた。三浦さんとの距離も少しずつ縮まってきた、と思う。仕事の話以外にも、たまにどうでもいい雑談をするようになった。

「佐々木、好きな芸能人いる?」

「え、急ですね。うーん…新垣結衣とか」

「ベタだね」

「三浦さんは?」

「いない」

「寂しい人ですね」

「うるさいな」

こういうやり取りができるようになったのが嬉しかった。ただ、俺は三浦さんのことを「いい上司」としか見てなかった。少なくとも、そう思い込んでた。

転機は5月の末だった。富山の取引先まで泊まりの出張になった。所長の村上さんは別件で東京に行ってて、三浦さんと俺の二人で行くことに。

取引先との商談は三浦さんが主導してくれて、俺はほぼ横で勉強させてもらってる感じだった。三浦さんの交渉術はマジですごくて、相手の懐に入るのがうまい。さっきまでタメ口だったのに、取引先の前では完璧な敬語を使いこなしてた。

(この人、敬語使えないんじゃなくて、使わないだけなんだ)

商談が終わって、富山駅前のビジネスホテルにチェックイン。もちろん部屋は別々。

「飯、行くよ。19時にロビー」

駅前の居酒屋に入った。三浦さんは最初からハイボールを頼んで、刺身の盛り合わせと白エビの天ぷらを注文した。

「あんた、酒は?」

「まあ、人並みには」

「じゃあ飲みな。明日は午前中フリーだから」

ビールを3杯飲んだあたりで、三浦さんの頬がほんのり赤くなってきた。普段の鉄壁な表情が少し緩んでいる。

「ねえ佐々木。あんた、彼女いないの?」

「いないですよ。大学のとき以来」

「ふーん。なんで?」

「いや、なんでって言われても…モテないんですよ、普通に」

「嘘でしょ。あんた、顔はまあまあだし、仕事も真面目だし」

「まあまあって…」

「褒めてるんだけど」

(いや、まあまあは褒め言葉じゃないだろ…)

「三浦さんこそ、彼氏は」

三浦さんがハイボールのグラスをくるくる回した。

「いないよ。もう2年くらい」

「え、意外。モテそうなのに」

「モテるモテないの問題じゃないんだよ」

そう言って、三浦さんは5杯目のハイボールを一気に飲み干した。明らかにペースが速い。

「…本社にいたとき、上の人と付き合ってたの」

「上の人?」

「営業部長。既婚。最悪でしょ」

俺は何も言えなかった。三浦さんが自分からこういう話をするのは初めてだった。

「離婚するって言ってたのに、しなかった。当たり前だよね。で、バレそうになって、私が飛ばされた。向こうはのうのうと本社にいるのにさ」

グラスを置く音が、やけに大きく聞こえた。

「だから男はもういいかなって思ってた。…ごめん、酔って変なこと言った。忘れて」

「忘れないですよ」

自分でもなんでそう言ったのかわからない。ただ、三浦さんの話を「酔った勢い」で片付けたくなかった。

三浦さんが一瞬だけ目を見開いて、すぐにそらした。

「…変なやつ」

店を出たのは22時過ぎだった。三浦さんはかなり酔っていて、歩くのがちょっと危なっかしい。富山駅前の歩道で、三浦さんが電柱にぶつかりそうになったのを腕を掴んで止めた。

「あ…ごめん」

「大丈夫ですか?ちゃんと歩けます?」

「歩ける。…手、離さないで」

小さい声だった。聞き間違いかと思ったけど、三浦さんの指が俺の手首を掴んでたから、聞き間違いじゃなかった。

ホテルに着いて、三浦さんの部屋の前まで送った。

「じゃあ、おやすみなさい」

「…ちょっと待って」

三浦さんがカードキーをドアに当てて、部屋のドアを開けた。

「入んな」

「え?」

「水、取ってほしいだけ。冷蔵庫の」

入ったら、普通のシングルルームだった。冷蔵庫からミネラルウォーターを取って渡す。三浦さんはベッドの端に座って、水をごくごく飲んだ。

「ありがと。…ねえ、さっきの話、本当に忘れないの?」

「忘れないですよ。三浦さんが辛い思いしたんだなって、そう思っただけです」

「同情?」

「違いますよ。…うまく言えないですけど」

三浦さんが俺の手を引いた。力は弱いけど、はっきりとした意思が伝わってきた。

(待て待て待て。これ、そういうことか?いや、酔ってるだけだろ。ここで手を出したら最低だろ、俺)

「佐々木」

「はい」

「私のこと、どう思ってる?」

「尊敬してます。仕事もできるし、かっこいいし」

「そうじゃなくて。女として」

心臓がドクッと跳ねた。三浦さんの目が据わってる。酔ってるのは間違いないけど、目の奥は真剣だった。

「…正直、めちゃくちゃきれいだと思ってます。最初に会ったときから」

「遅い」

三浦さんが俺のネクタイを掴んで引き寄せた。唇が触れた。ビールとハイボールが混ざった味がした。柔らかくて、少しだけ震えてた。

(マジか…マジなのかこれ…)

頭が真っ白になった。三浦さんの唇が離れて、また近づいて、今度は俺のほうから押し返すようにキスした。舌が触れたとき、三浦さんが小さく「ん」って声を漏らして、それだけで全身が熱くなった。

「…続き、していい?」

「俺のセリフですよそれ」

三浦さんが鼻で笑った。いつものタメ口の三浦さんだった。

ジャケットを脱がせて、ブラウスのボタンを外していく。手が震えてるのが自分でわかって情けなかった。三浦さんは白いブラをしてて、外したら想像以上だった。Dカップはあると思う。普段スーツだから全然わかんなかった。

「…すごいですね」

「何が」

「いや、その…隠してたなって」

「別に隠してない。あんたが見てなかっただけでしょ」

(いやそれは無理があるだろ…パンツスーツであの胸は気づかないって…)

三浦さんの肌は本当に白くて、触るとひんやりしてるのに、奥の方からじわっと熱が伝わってくる感じだった。乳首に触れたら、三浦さんが息を詰めた。

「っ…そこ、弱いから…あんまり」

「あんまり、なに?」

「…意地悪」

普段あんなに強気な三浦さんが、耳まで赤くなってた。舌で乳首を転がしたら、三浦さんの手が俺の頭を掴んだ。押し離すのかと思ったら、逆に押し付けてきた。

「ん…っ、あ…」

スカートに手を入れると、三浦さんのショーツはもう濡れてた。指で触れた瞬間、腰がびくっと跳ねた。

「三浦さん…」

「…名前で呼んで」

「え?」

「今だけ。名前で」

「…沙織さん」

三浦さん――沙織さんが、目を閉じて小さく頷いた。

ショーツを脱がせて、指を入れた。中はとろとろに濡れてて、沙織さんは腕で顔を隠して声を殺してた。

「声、出していいですよ」

「…うるさい、余計なこと言わないで」

でも腕の隙間から見える顔は完全にとろけてて、普段の三浦副所長とは別人だった。(この顔、俺しか知らないんだ)って思った瞬間、ものすごい独占欲みたいなものが込み上げてきた。

「あっ…もう、いい。入れて…」

沙織さんが俺のベルトに手をかけた。ズボンを下ろされて、もう限界まで硬くなってるのを沙織さんが見た。

「…大きいね」

「お世辞はいいですよ」

「お世辞じゃない」

コンドームは持ってなかった。出張に持っていくわけがない。

「あの…ゴム、ないんですけど」

「…私、ピル飲んでる。大丈夫」

正常位で、ゆっくり入れた。沙織さんの中は熱くて、きつくて、全身の血が沸騰するみたいだった。

「あ…っ、ん…深い…」

「痛くないですか?」

「痛くない…動いて」

腰を動かし始めた。沙織さんが俺の背中に爪を立てた。ビジネスホテルのベッドが軋む音が、やたらはっきり聞こえた。

「あっ…ん、そこ…いい…っ」

「沙織さん…」

「もっと…もっと強くして」

普段タメ口しか使わない人が「して」って言うの、ずるいだろ。理性のタガが外れた。腰の動きが激しくなって、沙織さんの声も大きくなった。

「あっ、あっ…やば…気持ちいい…っ」

沙織さんが俺の首に腕を回してきた。密着した状態で、耳元で息遣いが聞こえる。

「俺も…やばい…」

「いいよ…中に出して…」

「本当にいいんですか…」

「いいから…早く…」

限界だった。奥まで押し込んで、そのまま出した。頭の中が真っ白になって、しばらく動けなかった。

「…はぁ…すごい、熱い…」

沙織さんが俺の髪を撫でた。その手つきが優しすぎて、泣きそうになった。(なんで俺、この人に泣かされそうになってんだ)

しばらく抱き合ったまま息を整えてると、沙織さんが俺の胸に頬を押し付けてきた。

「…もう1回、したい」

「え、今ですか?」

「ダメ?」

ダメなわけがなかった。2回目は沙織さんが上に乗った。普段の仕事と同じで、自分でペースを作るのが好きなんだろうなと思った。腰を動かす沙織さんの顔を下から見上げてたら、さっきとは違う表情をしていた。甘えるような、すがるような顔。

「ん…あ…っ、佐々木…」

「名前で呼んでくださいよ。俺も名前で呼んでるんだから」

「…っ、拓海…」

名前を呼ばれた瞬間、腰が勝手に突き上がった。沙織さんが「あっ」って声を上げて、そのまま俺の胸に倒れ込んできた。

今度は抱きしめながら、ゆっくり動いた。さっきの激しさとは違う、じわじわと熱が溜まっていくようなセックスだった。

「拓海…好き…」

小さすぎて聞こえないくらいの声だった。でも確かに聞こえた。

「…俺も」

2回目は二人同時にイった。沙織さんが俺の手をぎゅっと握って、全身を震わせてた。

終わった後、沙織さんはすぐに横を向いた。背中が見えた。

「明日から、今まで通りにして」

「…は?」

「営業所では副所長と部下。今日のことは忘れて」

「忘れられるわけないでしょ」

「忘れなさい」

声が震えてた。沙織さんの肩も微かに震えてた。

「三浦さん…いや、沙織さん。あの営業部長と俺を一緒にしないでください」

沙織さんが振り返った。目が赤かった。

「一緒にしてない。…一緒にしてないから、怖いの。また同じことになるのが」

ああ、そうか。この人は前に同じように始まって、ボロボロにされたんだ。だから怖い。俺と同じことが起きるのが怖いんじゃなくて、俺を信じて裏切られるのが怖い。

「俺、既婚じゃないです。彼女もいない。逃げる理由がないんですよ」

われながらかっこ悪い口説き文句だと思ったけど、他に言葉が出てこなかった。

沙織さんが布団を引っ張って顔を隠した。

「…バカ」

「返事は?」

「…明日の朝まで待って」

その夜、結局もう1回してしまった。3回目は沙織さんのほうから抱きついてきて、耳元で「拓海」って何度も呼ばれた。嬉しいのと信じられないのがごちゃ混ぜで、夢の中にいるみたいだった。

翌朝、先に目が覚めた。隣で沙織さんがまだ寝てた。寝顔が無防備すぎて、起こすのが申し訳なかった。

俺がシャワーを浴びて出てきたら、沙織さんがベッドの上で正座してた。

「佐々木」

「…佐々木に戻ってる」

「営業所では今まで通り。仕事に私情は持ち込まない。これは絶対」

「はい」

「でも…仕事が終わったら…」

沙織さんが髪をかき上げた。耳が赤い。

「…名前で呼んでいい」

笑いそうになるのを堪えた。

「了解です、三浦副所長」

「…その呼び方、腹立つ」

帰りの車の中で、助手席の沙織さんはまた書類を読んでた。いつもの三浦副所長だった。でも、信号待ちで止まったとき、沙織さんの左手が助手席から伸びてきて、俺の右手に一瞬だけ重なった。

ミラー越しに見た沙織さんは、窓の外を見たまま、ほんの少しだけ口角が上がってた。

あれから半年経つ。営業所では相変わらず「佐々木、これ違う」「やり直し」の毎日だ。所長の村上さんは何も気づいてない。たぶん。

でも金曜の夜だけ、沙織さんのアパートに泊まる。沙織さんが作る肉じゃがは味が濃すぎるけど、ビールに合うからまあいい。

「ねえ拓海」

「ん?」

「来年、私が本社に戻ることになったら、あんたも異動願い出しなよ」

「え?本社戻るんですか?」

「まだわかんないけど。…一人は嫌だから」

沙織さんは肉じゃがをつつきながら、なんでもないことのように言った。

「俺の異動願い、通りますかね」

「通すように言うから。副所長の権限なめないで」

「それ、パワハラでは」

「うるさい。早く食べな、冷める」

三浦さん――沙織さんは相変わらず誰にも敬語を使わない。でも金曜の夜だけ、一回だけ「ありがとう」って敬語で言ってくれる。何に対してのありがとうかは聞いてない。聞かないほうがいいと思ってる。

長岡に飛ばされたときは人生終わったと思ったけど、今は長岡駅の改札を出るたびに、ちょっとだけ安心する自分がいる。


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