転勤って、孤独だ。
いきなり何言ってんだって感じだけど、もうちょっとだけ聞いてほしい。
俺は27歳、メーカーの品質管理をやってる。去年の10月に本社のある大阪から埼玉の川口に飛ばされた。飛ばされた、って言い方は正確じゃないか。新しく稼働する工場の立ち上げ要員として選ばれた、が正しい。でも体感としては飛ばされた、のほうがしっくりくる。
川口って東京のすぐ隣だし、別に僻地でもなんでもないんだけど、知り合いがゼロの街で暮らすのは想像以上にきつかった。
職場は工場だから基本おっさんばっかりだし、同年代の社員は俺ともう一人しかいなくて、そいつは既婚で土日は家族サービスに消える。平日は仕事で疲れて、休日は一人でダラダラして、気づいたら日曜の夜になってる。そんな生活が2ヶ月くらい続いてた。
あ、ちなみに俺のスペックだけど、身長172、体重65、顔面偏差値は50あるかないか。大阪にいた頃の彼女とは遠距離がしんどくなって赴任1ヶ月で別れた。要するにごく普通の、どこにでもいる冴えないサラリーマンです。
で、唯一の救いが、アパートから歩いて3分のところにあるコインランドリーだった。
部屋に洗濯機がなかったんだよ。正確に言うと置くスペースはあったんだけど、いつ大阪に戻されるかわかんないのに買うのもなぁと思って、結局コインランドリー通いを選んだ。
毎週日曜の夜8時くらいに行くのがルーティンになってた。洗濯と乾燥で1時間ちょっと。その間はスマホいじったり、備え付けの古い週刊誌をパラパラめくったりして過ごす。
彼女に初めて会ったのは、赴任して3週目の日曜日だった。
いつものように洗濯物を抱えてコインランドリーに入ったら、奥の乾燥機の前で女の子がしゃがんで中を覗き込んでいた。
白いパーカーにデニムのショートパンツ。素足にサンダル。髪はダークブラウンのセミロングで、無造作にひとつにまとめてる。
顔を見たとき、(うわ、めちゃくちゃ可愛い)と思った。橋本環奈を少し大人っぽくして、目元をちょっとだけキツくした感じ。身長は160あるかないかくらいで、小柄なのに出るとこは出てる。パーカーの上からでもわかるくらいにはしっかりしてた。
でもまあ、そんな子に話しかける勇気なんて俺にはない。黙って端っこの洗濯機に衣類を放り込んで、ベンチに座ってスマホを触ってた。
すると向こうから話しかけてきた。
「あの、すみません。これって乾燥だけのとき、いくら入れればいいんですか?」
振り返ると、100円玉を数枚持ったまま、困ったような顔でこっちを見てる。
「あ、乾燥だけなら10分100円ですよ。あの大きいやつは200円で」
「10分100円……じゃあ30分回すなら300円ってことですか」
「そうですそうです」
「ありがとうございます。引っ越してきたばっかりで、全然わかんなくて」
にこっと笑って、乾燥機にコインを入れ始めた。
(引っ越してきたばっかり、か。俺と同じだな)
それだけの会話だった。でもその夜、部屋に帰ってからもあの子の顔がちらついて、なかなか寝付けなかった。いや、別に恋とかじゃなくて。知らない街で久しぶりに同年代の人間と喋った、ってだけの話だ。たぶん。
次の日曜も、その次の日曜も、彼女はいた。
どうやら俺と同じで日曜の夜にまとめて洗濯するタイプらしい。時間帯もほぼ一緒で、8時前後にはだいたい顔を合わせる。
3回目に会ったとき、名前がわかった。
「あ、洗濯先輩だ」
いきなりそう呼ばれた。
「洗濯先輩って……」
「だって名前知らないし、洗濯のこと教えてくれたから。先輩でいいですか?」
「いや、俺のほうこそ名前聞いてなかったわ。吉岡です」
「あ、わたし、佐倉です。近くの大学の3年で、今年からひとり暮らし始めたんです」
大学3年ってことは21か22か。俺より5つか6つ下。
「俺は会社員。10月にこっちに転勤してきた」
「じゃあ先輩もこの辺まだ慣れてない感じですか?」
「全然。休みの日はほぼ引きこもってる」
「わたしもですー。友達みんな実家から通ってるんで、休みの日に遊ぶ人いなくて」
似たような境遇だったらしい。そこからちょっと打ち解けた。
毎週日曜、コインランドリーで1時間くらい喋る。それが俺たちの習慣になった。
佐倉は法学部で、ゼミの教授が厳しいとか、バイト先の居酒屋の店長がうざいとか、そういう他愛もない話を毎週してくれた。俺は俺で、工場の話とか、川口のラーメン屋を開拓してる話とかをした。
ある日曜日、佐倉がタオルを取り出しながらぼやいた。
「先輩、柔軟剤って使ってます?」
「使ってるよ。レノアの青いやつ」
「わたし、入れすぎちゃったみたいで、タオルが全然水吸わなくなっちゃったんですよ」
「あー、それ柔軟剤あるあるだわ。入れすぎると逆にコーティングされちゃうんだよ」
「マジですか……もう1回洗い直したほうがいいですか?」
「柔軟剤なしで回せば戻ると思う」
「先輩って生活力高いですね」
「一人暮らし歴が長いだけだよ」
佐倉がくすっと笑って、またタオルを洗濯機に入れた。その横顔が妙に可愛くて、(いかんいかん)と自分にツッコミを入れた。
相手は大学生だぞ。5つも下だぞ。洗濯仲間以上のことを考えるな、俺。
でも、回を重ねるごとに佐倉との距離は少しずつ近くなっていった。
最初はベンチの端と端に座ってたのが、いつの間にか隣同士で座るようになってた。彼女のシャンプーの匂いがふわっと香ることがあって、そのたびに心拍数が上がった。
ある日曜、いつもより遅い時間にコインランドリーに行ったら、佐倉がいなかった。
(今日は来ないのか)
別に約束してるわけでもないのに、妙にがっかりしてる自分がいた。
洗濯を始めて10分くらい経ったとき、ガラス扉がガラッと開いた。
「あ、よかった。先輩いた」
息を切らした佐倉が、洗濯物の入ったカゴを抱えて立っていた。
「走ってきたの?」
「レポート書いてたら時間忘れちゃって。先輩もう帰っちゃったかなと思って」
(俺に会うために急いできた、ってこと?)
いや、違うだろ。日曜の洗濯が遅くなっただけだ。俺がいるかどうかは関係ない。そう自分に言い聞かせた。
でもその日、佐倉はいつもより近い距離に座って、いつもより長く喋ってくれた。
転機は12月の第3日曜日だった。
その日は朝から冷たい雨が降っていて、夜になっても止む気配がなかった。傘をさしてコインランドリーに行くと、佐倉はもう来ていた。
「先輩、今日寒くないですか?」
「めちゃくちゃ寒い。12月の雨って体感温度えぐいよな」
「ですよねー。あ、先輩、ココア飲みます?自販機で買ったんですけど、2本買っちゃったんで」
「え、いいの?ありがとう」
温かい缶ココアを受け取った。佐倉の指先が触れたとき、冷たかった。
「手、冷えてない?」
「あ、ちょっと。末端冷え性なんですよ、わたし」
言いながら、自分の缶ココアに両手を当てて暖を取ってる。その仕草が小動物みたいで、思わず見つめてしまった。
「……なんですか?」
「いや、なんでもない」
佐倉が小首を傾げたけど、それ以上追及はしてこなかった。
洗濯が終わって、乾燥機に移し替える。佐倉も同じタイミングで乾燥に入った。
あと40分。いつもならスマホを触りながらだらだら喋るんだけど、その日の佐倉はどこかそわそわしてた。
「先輩って、彼女いるんですか?」
突然そんなことを聞かれた。
「いない。こっち来てすぐ別れた」
「あ、そうなんですか……」
「佐倉は?彼氏とか」
「いないですよ。高校のとき付き合ってた人がいたけど、大学入ってすぐ別れました」
「そうなんだ」
「モテないんですよ、わたし」
「いや、それは嘘だろ」
「嘘じゃないですよ。地味だし」
(地味?あの顔で?)と思ったけど口には出さなかった。出したらたぶんキモいやつになる。
乾燥が終わって、それぞれ洗濯物を畳む。いつもの流れだ。
外に出ると、雨はさらに強くなっていた。12月の冷たい雨が、街灯に照らされて白く光ってる。
俺は傘を持ってたけど、佐倉は持ってなかった。
「やば、傘持ってくるの忘れた……」
「マジか。走って帰る?」
「洗い立ての洗濯物が濡れる……」
確かに。せっかく洗ったのに雨で濡れたら意味がない。
「じゃあ俺の傘使いなよ。部屋すぐそこだから走って帰るわ」
「え、でもそしたら先輩が濡れちゃうじゃないですか」
「男が濡れるのと女の子が濡れるのだったら、男が濡れたほうがマシだろ」
「……先輩」
佐倉がじっとこっちを見た。なんか言いたそうな顔をして、でも言葉が出てこないみたいで、唇をもごもごさせてた。
「一緒に入っていいですか」
小さい声だった。雨の音に紛れそうなくらい。
「え?」
「傘。一緒に、入りたいです」
俺の心臓がドクンと跳ねた。
相合傘。大学生の女の子と。27歳の俺が。
(いいのか、これ)
でも断る理由もなくて、というか断りたくなくて、「じゃあ、佐倉の家のほうが先だから、先に送るよ」と言った。
佐倉が俺の左腕にそっと手を添えた。洗濯カゴを右手に持ってるから、傘を持つ左手側に寄り添う形になる。
肩がぴったりくっついてた。佐倉の体温がコートを通して伝わってくる。
「先輩、あったかい」
「……そう?」
会話はそれだけだった。雨の音と、二人分の足音だけが聞こえてた。
佐倉のアパートは、俺の部屋から歩いて5分くらいの場所にあった。築年数はそこそこいってそうな、2階建ての小さなアパート。
「着いたよ」
「先輩」
佐倉が立ち止まった。傘の下で、真っ直ぐ俺を見上げてる。雨に濡れた街灯の光で、佐倉の目がやけにきれいに見えた。
「あの……上がっていきませんか。コーヒーくらい出せるんで」
「え、いや、こんな時間に……」
時計を見たら9時半だった。
「先輩が嫌じゃなければ、ですけど」
嫌なわけがない。でもこの状況で女の子の部屋に上がるって、それはつまり——
(いや、考えすぎだろ。コーヒーを飲むだけだ)
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
佐倉の部屋は1Kのワンルームで、俺の部屋と間取りがほぼ同じだった。違うのは、彼女の部屋のほうが圧倒的にきれいで、かわいいクッションとか間接照明があるってこと。あと、めちゃくちゃいい匂いがした。
「散らかっててすみません。座ってください」
全然散らかってない。むしろ俺の部屋のほうが1000倍汚い。
小さなテーブルの前に座ると、佐倉がインスタントコーヒーを淹れてくれた。
「先輩、砂糖とミルクは?」
「ブラックでいいよ」
「かっこいい。わたしミルクと砂糖たっぷりじゃないと飲めないんですよ」
コーヒーを飲みながら、いつもみたいにだらだら喋った。でも、いつもと違うのは、ここが佐倉の部屋だってこと。二人きりだってこと。
距離が、近い。テーブルを挟んで向かい合ってるだけなのに、コインランドリーのベンチよりずっと近く感じた。
「先輩、ちょっと聞いていいですか」
「ん?」
「わたしのこと、どう思ってます?」
コーヒーを吹きそうになった。
「ど、どうって……」
「ただの洗濯仲間ですか?」
佐倉の声は落ち着いてたけど、目が泳いでた。緊張してるのが伝わってくる。
「……正直に言っていい?」
「はい」
「ただの洗濯仲間だとは、もう思えてない」
自分でもびっくりするくらい素直な言葉が出た。
佐倉がカップをテーブルに置いた。ゆっくりと俺の隣に来て、横に座った。
「わたしも、です」
「……佐倉」
「ちひろ、でいいです。下の名前で呼んでほしい」
「ちひろ」
名前を呼んだら、ちひろが俺の肩にこてんと頭を預けてきた。
心臓がうるさい。たぶんちひろにも聞こえてるんじゃないかってくらい。
「先輩、心臓すごい」
やっぱり聞こえてた。
「……うるさかったらごめん」
「ううん。嬉しい」
ちひろが顔を上げた。距離にして10センチもない。吐息が頬に触れる。
(キスしていいのか、これ)
(でも俺27で、この子は21とかで、さすがに)
迷ってるうちに、ちひろのほうから唇が触れてきた。
ほんの一瞬、唇が重なっただけ。それだけで全身に電流が走ったみたいになった。
「……ごめんなさい、わたしから」
「謝んないでよ」
「だって先輩、全然してくれないから……」
(本人だけ気づいてなかったパターンじゃん、これ)
ちひろはずっと俺にサインを出してたんだろう。走ってコインランドリーに来たのも、彼氏がいるか聞いてきたのも、相合傘を自分から言い出したのも。全部。
俺が鈍すぎただけだ。
もう一度、今度は俺からキスした。ちひろの頬に手を添えて、ゆっくり。
「んっ……」
唇が離れたとき、ちひろの目が潤んでた。
「ちひろ」
「はい……」
「俺、お前のこと好きだわ。いつからか自分でもわかんないけど」
「……わたしは、わかりますよ」
「え?」
「わたしが好きになったの、2回目に会ったときです。洗濯物の分け方教えてくれたとき、先輩すごい丁寧で。あ、この人優しいなって」
「洗濯物の分け方で?」
「はい。色物と白物は分けたほうがいいですよって、わざわざ自分の洗濯物で見せてくれたじゃないですか。あれ、すごい嬉しかったんです」
(そんなことで好きになるか普通……)
でも嬉しかった。理由がしょうもないほど、なんか嬉しかった。
3回目のキスは長くて、途中から舌が触れ合った。ちひろの舌が控えめに入ってきて、俺の舌に絡みつく。コーヒーとミルクの味がした。
「んん……っ」
抱き寄せると、ちひろの体は思ってたより華奢だった。でも胸がしっかりと俺の体に押し付けられてて、パーカーの上からでもその柔らかさが伝わってくる。
「ちひろ、俺……」
「いいよ」
言葉を遮るみたいに、ちひろがパーカーのファスナーに手をかけた。中はキャミソール1枚で、鎖骨のラインがきれいに見えた。
「待って。本当にいいの?俺、社会人だし、年も離れてるし……」
「先輩、それ、ずっと気にしてたでしょ」
図星だった。
「6個差でしょ?普通ですよ。それに、わたしがいいって言ってるんだから、いいんです」
ちひろが強引に俺のシャツを掴んで引き寄せた。小柄な体のどこにそんな力があるのか。
ベッドに倒れ込むような形になった。ちひろが俺の上に乗ってて、見下ろしてる。間接照明の薄暗い光の中で、ちひろの表情がやけに色っぽかった。
「先輩って意外とビビりですよね」
「うるさいな……」
「でもそういうとこが好きです」
キャミソールを脱いだちひろの体を見て、頭がぼうっとした。パーカーの下にこれが隠れてたのかよ、と。白い肌に薄いピンクのブラ。推定Eカップはありそうなボリュームが、ブラからこぼれそうになってる。
「……でかくない?」
「えっ……やだ、そんなストレートに言わないでください」
「ごめん。でもすごい」
ブラのホックを外すと、弾力のある胸がこぼれた。形がきれいで、つんと上を向いてる。
触れると、指が沈むような柔らかさ。ちひろが小さく声を漏らした。
「あっ……そこ、敏感なんです……」
乳首に触れると、ちひろの体がびくっと反応した。
「感じやすいの?」
「……たぶん、先輩だからだと思います」
そんなこと言われたら理性なんか残るわけがない。
ちひろの体に覆いかぶさって、首筋にキスした。鎖骨をなぞるように唇を這わせると、ちひろが俺のTシャツの裾を掴んだ。
「先輩も、脱いで……」
Tシャツを脱いで、素肌と素肌が触れ合った瞬間、(ああ、これはもう戻れないな)と思った。
ちひろのショートパンツを脱がせると、下は白いコットンのショーツだった。すごくちひろらしい、シンプルで清潔感のある下着。
太ももの内側に手を滑らせると、ちひろが脚をきゅっと閉じた。
「あっ……ちょっと待って……恥ずかしい」
「大丈夫。ゆっくりでいいから」
「……うん」
少しずつ脚の力が抜けていく。ショーツの上から触れると、すでに濡れていた。
「ちひろ……」
「言わないでください……自分でもわかってるから……」
恥ずかしそうに腕で顔を覆うちひろが可愛くて、胸が締め付けられるような気持ちになった。
ショーツをずらして直接触れると、ぬるっとした感触。指を滑らせるたびに、ちひろの体が小さく跳ねる。
「んっ……あ、そこ……っ」
クリに触れると、ちひろの声が一段高くなった。
「ここ?」
「うんっ……そこ、気持ちいい……」
指を動かしながら、もう片方の手で胸を揉む。ちひろの喘ぎ声がだんだん大きくなっていく。
「先輩っ……やば……っ」
「いきそう?」
「わかんない……でも、なんか……すごい……っ」
ちひろの体が大きく震えた。太ももがぎゅっと閉じて、俺の手を挟み込む。
「あっ……!」
びくびくと体を震わせて、しばらく動けないでいた。
「……はぁ……はぁ……」
「大丈夫?」
「……先輩、ずるい。わたしだけなんて」
まだ息が整ってないのに、ちひろが俺のベルトに手を伸ばしてきた。
「ちひろ、無理しなくて」
「無理じゃないです。したいんです」
ちひろの細い指が俺のものに触れた瞬間、声が出そうになった。
「……大きい」
「普通だと思うけど」
「わたしの経験値が低いんで、比較対象ないですけど」
恥ずかしそうに笑いながら、ゆっくり動かし始める。
ぎこちない手つきだったけど、ちひろの手の温度と柔らかさが気持ちよくて、すぐに限界が近くなった。
「ちひろ……もういい。入れたい」
「……うん」
「ゴム、財布に入ってるから取ってくる」
立ち上がろうとしたら、ちひろが俺の腕を掴んだ。
「あの……わたし、ピル飲んでるんで……」
「え?」
「生理が重くて、去年から。だから、その……大丈夫です」
ちひろの顔が真っ赤だった。こんなこと言うの相当恥ずかしかっただろうな。
「……本当にいいの?」
「先輩なら、いい」
ちひろの脚の間に体を沈めた。先端を当てると、ちひろが小さく息を吸った。
「入れるよ」
「……うん」
ゆっくり押し込んでいく。中はびっくりするくらい熱くて、きつかった。
「んっ……あぁ……っ」
「痛い?」
「ちょっと……でも、大丈夫。もっと奥まで……」
根元まで入れると、ちひろが俺の背中に爪を立てた。
「あっ……すごい……先輩の、全部入ってる……」
「動いていい?」
「うん……ゆっくり……」
腰をゆっくり動かし始めると、ちひろの中が俺を締め付けてくる。ぬるぬると絡みつくような感覚。
「んんっ……あっ……気持ちいい……っ」
ちひろが俺の首に腕を回してきた。密着した状態で腰を動かすと、ちひろの胸が俺の胸板に押し付けられて潰れる。
「ちひろ……中、やばい……」
「先輩もっ……気持ちいい?」
「気持ちいいなんてもんじゃない……」
正直こんなの初めてだった。元カノとのセックスだって悪くなかったけど、こんなに全身の感覚が研ぎ澄まされるような感じは初めてだった。好きな子と繋がるって、こんなに違うのか。
ちひろの喘ぎ声が耳元で聞こえる。息づかいが荒くなっていく。
「先輩っ……もうちょっと、速くして……っ」
言われるまま、ピッチを上げた。
パンッ、パンッと肌がぶつかる音が部屋に響く。
「あっ、あっ、あっ……そこっ……!」
奥に当たるたびに、ちひろの声が裏返る。
「やば……俺もう……」
「いいよっ……中に出してっ……先輩っ……」
「ちひろ……っ!」
腰を押し付けて、奥で射精した。ちひろの中にどくどくと放出してる感覚。ちひろも同時に体を震わせて、俺の背中をぎゅっと抱きしめてきた。
「あぁっ……あつい……中にいっぱい……」
「はぁ……はぁ……」
しばらくそのままの体勢で動けなかった。ちひろの心臓の鼓動が、俺の胸に直接伝わってくる。
「……先輩」
「ん?」
「抜かないで。もうちょっとこのまま」
「……わかった」
繋がったまま横向きになって、ちひろを抱きしめた。ちひろが俺の胸に顔を埋める。
「先輩の匂い、好き。コインランドリーで隣に座るたびに、いい匂いだなって思ってた」
「レノアの匂いだろ、それ」
「違います。先輩の匂いです」
そう言って、くすくす笑った。
しばらく抱き合っていたら、俺のほうがまた反応してしまった。まだ中に入ったままだったから、ちひろもすぐに気づいた。
「……先輩、また大きくなってる」
「ごめん……」
「謝んないでください。……嬉しいから」
ちひろが自分から腰を動かし始めた。さっきとは違う体勢で、横向きのまま。ゆっくりとした動きだったけど、1回目で敏感になってるぶん、お互い感じやすくなってた。
「んっ……さっきより……感じる……」
1回目の余韻が残ってるせいか、ちひろの中がさっきより熱い。
もう言葉はいらなかった。ちひろの手を握って、指を絡めて。ゆっくり、でも深く。
今度はさっきみたいに激しくなくて、じわじわと気持ちよさが広がっていく感じ。
「先輩……好き……」
「俺も」
「もっとちゃんと言って」
「好きだよ、ちひろ」
「……ん……っ」
ちひろの体がぎゅっと縮こまった。
「あ……いく……っ」
ちひろがいったのに合わせて、俺も限界だった。もう一度、奥で出した。
「っ……!」
ちひろが俺の手をぎゅっと握りしめた。そのまましばらく二人とも動けなくて、荒い息だけが部屋に響いてた。
外ではまだ雨が降ってた。窓ガラスを叩く雨粒の音が、妙に心地よかった。
ちひろが言った。
「先輩、今日泊まっていってください」
「……いいの?」
「明日は月曜だから早起きしなきゃだけど。でも、今日は一緒にいたい」
断る理由なんか、一個もなかった。
翌朝、ちひろのアパートの狭いベッドで目が覚めた。隣でちひろがまだ寝てた。寝顔がほんとに可愛くて、しばらく見つめてしまった。
(俺、こんな子に好きって言ってもらえたのか)
目覚ましが鳴って、ちひろが目を擦りながら起きた。
「……おはよ」
「おはよう。早起きだな」
「1限あるんです……」
ちひろが名残惜しそうに布団にくるまってる姿を見て、思わず笑った。
それから俺たちは付き合い始めた。
日曜のコインランドリーはもう二人で行くようになった。洗濯物を二人分まとめて回す。待ってる間にコンビニでアイス買って、ベンチで分け合う。
「洗濯先輩」から「吉岡さん」になって、「先輩」になって。ちひろが俺の下の名前で呼ぶようになったのは、付き合い始めて2ヶ月後のことだ。
川口への転勤を、今では心の底からラッキーだったと思ってる。
あのコインランドリーに行かなかったら、あの日曜の夜に乾燥機の使い方を聞かれなかったら、たぶん俺はまだ一人で休日を潰してた。
洗濯物を通じて人生が変わるなんて、誰が想像するんだろう。
……すみません、ちょっとキザでしたね。でもマジです。