こんにちは。34歳、都内でメーカーの品質管理をやってる者です。
まあ聞いてくれよ、って感じの話なんですけど。去年の1月、名古屋の取引先でうちの製品に不具合が出て、僕が謝罪に行くことになったんです。品管の担当が頭下げに行くっていう、まあ一番テンション下がるやつ。朝イチの新幹線で名古屋に入って、午前中いっぱい先方に詰められて、午後は改善報告書の打ち合わせ。精神的にボロボロですよ。
やっと解放されたのが18時過ぎ。名古屋駅の新幹線ホームに立ったとき、電光掲示板にちらっと「遅れ」の文字が見えたんですけど、まあ10分20分だろうと思ってました。甘かった。
19時08分発ののぞみに乗り込んで、席についてやっと一息ついた。指定席のE席、窓側。缶ビールでも買えばよかったなと思いながらスマホをいじってたら、隣のD席に誰か座った。
ふわっと、シャンプーなのか香水なのか、いい匂いがした。
横を見たら、見覚えのある顔だった。
(え、嘘だろ……)
うちの会社に半年前から来てる派遣社員の宮本さんだった。経理のフロアにいる人で、僕のいる品管とはフロアが違うんだけど、エレベーターホールとか社食で何度かすれ違ったことがある。
宮本さんも僕に気づいた。
「あれ……品管の……えっと」
「中尾です。4階の」
「あ、中尾さん!すみません、名前が出てこなくて……」
「いやいや、全然。僕もフロア違いますし」
正直ね、名前は知ってたんですよ。というか、社内でちょっと話題の人だった。永野芽郁をもう少し大人っぽくした感じっていうか、目がくりっとしてるのに口元がきゅっとしまってて、笑うとそのギャップで一気にかわいくなる。身長は160あるかないかぐらいで、いつもブラウスにカーディガンっていう地味めの格好なんだけど、それでも隠しきれないスタイルの良さがあった。たぶんDぐらい。いや、見てないですよ。見てないけどわかるものはわかる。
で、宮本さんが名古屋にいた理由を聞いたら、経理の締め処理の関係で名古屋支社に日帰り出張だったらしい。
「中尾さんは?」
「取引先に謝りに……」
「あー……お疲れさまです……」
その「あー……」の間と、ちょっと眉を下げた表情が妙にリアルで、なんか救われた気持ちになった。今日一日誰にも労ってもらえなかったから。
新幹線が動き出して、しばらくは二人とも黙ってスマホを見てた。豊橋あたりで車内アナウンスが入った。
「関ヶ原付近の大雪の影響により、この列車は速度を落として運転しております。到着が大幅に遅れる見込みです」
(まあ、1月の関ヶ原だしな……)
東海道新幹線の関ヶ原は雪で有名だ。冬場はしょっちゅう遅れる。でもこの日は「大幅に」って言い方が嫌な予感しかしなかった。
案の定、岐阜羽島の手前で完全に止まった。
窓の外は真っ白。吹雪いてる。時刻は20時を過ぎていた。
「……止まりましたね」
「止まりましたね……」
車内アナウンスが「運転再開の見通しが立っておりません」と言った瞬間、車両全体からため息が聞こえた。僕もため息をついた。
「宮本さん、ご家族とか大丈夫ですか」
「あ、大丈夫です。一人暮らしなんで」
(あれ?)
薬指を見た。指輪はしてない。でも、社内の噂では既婚って聞いてた気がする。まあ派遣さんだし、プライベートの情報なんて正確に伝わらないか。
「じゃあ猫とか犬とか……」
「いないです(笑)なんですか、心配してくれてるんですか?」
「いや、まあ、一応」
(なんだよ「一応」って。もうちょっとマシな返しできないのか、俺)
21時を回っても動く気配はなかった。車販のワゴンが来たので、僕はビールを2本と柿の種を買った。宮本さんがそれを見て目を輝かせた。
「あ、私も買えばよかった……」
「どうぞ、1本余ってますよ」
「いいんですか?ありがとうございます!」
缶ビールで乾杯した。「お疲れさまでした」って宮本さんが言ってくれて、それだけでこの出張の全部が報われた気がした。大袈裟じゃなく。
ビールが入ると、宮本さんはよく喋る人だった。
「経理ってほんと地味なんですよ。数字しか見てないし、誰とも喋らないし」
「品管も似たようなもんですよ。不具合の報告書ばっか書いてる」
「でも中尾さん、出張とかあるじゃないですか。羨ましい」
「今日みたいな謝罪出張でも?」
「……それは、ちょっと……(笑)」
くだらない話で笑い合えるのが嬉しかった。社内では挨拶ぐらいしかしたことなかったのに、新幹線が止まっただけでこんなに距離が縮まるもんなのかと。
22時を過ぎた頃、車内の照明が少し落とされた。寝る人は寝てくださいってことだろう。通路を挟んだ向こうの席のサラリーマンはもう爆睡してた。
で、ここでちょっと困ったことが起きた。車内の暖房が弱くなったのか、じわじわ寒くなってきたんですよ。1月の深夜、雪の中で止まってる新幹線。そりゃ冷えるよな。
宮本さんがカーディガンの前を合わせてる。薄手のやつだから寒いだろうな、と思った。
「寒くないですか」
「……ちょっと寒いかも」
僕はコートを脱いで宮本さんに掛けた。反射的にやった。かっこつけたわけじゃない。つもり。
「え、中尾さんは?」
「僕はスーツだし、まあ」
「でも……」
宮本さんがコートを半分こっちに戻そうとして、結局、二人の膝の上にコートがかかる形になった。
(近い)
肘が触れてた。宮本さんの体温が伝わってくる。さっきまでのビールのせいか、心臓がちょっとうるさかった。
「……あの、中尾さん」
「はい」
「私、バツイチなんです」
唐突だった。
「え?」
「さっき家族のこと聞いてくれたから、ちゃんと言っとこうと思って。去年離婚して、それで派遣で今の会社に入ったんです」
「そうだったんですか……」
「結婚してたの3年だけなんですけどね。子どもはいなくて。……なんか重い話してすみません」
「いや、全然。話してくれてありがとうございます」
社内で「既婚」って噂されてたのは、たぶんバツイチの情報が歪んで伝わったんだろう。
しばらく沈黙があった。窓の外は相変わらず真っ白で、時間の感覚がなくなってくる。
「元旦那、浮気してたんですよね」
「……」
「職場の後輩と。ベタでしょ?(笑)……ごめんなさい、なんで初めてまともに喋る人にこんな話してるんだろ私」
「新幹線のせいですよ。閉じ込められると人は饒舌になるって、なんかの本で読んだ気がする」
「……(笑)それ本当にあるんですか」
「嘘かも。今適当に言った」
「ひど(笑)」
でも笑ってくれた。よかった。
23時半。車販はもう来ない。僕の膀胱が限界を迎えてトイレに行った。戻ってきたら、宮本さんが僕のコートを抱きしめるようにして目を閉じてた。寝たのかと思ったけど、僕が座ると目を開けた。
「……寝てないです」
「寝てていいですよ」
「なんか……眠れなくて」
宮本さんが、僕の腕にもたれかかってきた。ゆっくり、確認するみたいに。
「……いいですか」
「……どうぞ」
心臓がうるさい。でも動いたらたぶんこの空気が壊れる。
宮本さんの髪が僕の肩にかかってる。さっき車内で感じたシャンプーの匂いが、もっと近くなった。ちょっと甘い、柑橘系の。
「……中尾さん」
「はい」
「心臓、すごくないですか」
バレてた。
「……そうですか?」
「肩から伝わってきます」
(終わった。完全に終わった)
でも宮本さんは離れなかった。むしろ少し笑って、もう少し体重を預けてきた。
「……私も、同じぐらい」
その一言で、頭の中が真っ白になった。
0時を過ぎた。車内はほとんどの人が寝てる。照明は最低限まで落ちてて、窓の外の白い雪が反射してぼんやり明るい。
コートの下で、宮本さんの手が僕の手に触れた。指先がすごく冷たかった。
「冷たっ……」
「末端冷え性なんです……」
僕は反射的にその手を握った。温めようとして。でも握った瞬間に、これもう完全にそういう流れだよな、ってわかった。わかったけど、離せなかった。
宮本さんが顔を上げた。近い。唇まで、たぶん10センチもない。
「……新幹線の中で、こういうこと、していいのかな」
「たぶん、よくはない」
「……ですよね」
でも、どっちが先だったのかわからない。気がついたら唇が触れてた。
軽く、ほんの一瞬。でもその一瞬で全身に電気が走った。
離れて、お互い前を向いた。数秒。誰にも見られてないか確認するみたいに周りを見た。通路側の人は寝てる。前の座席も後ろも。
「……もう一回」
宮本さんがささやくように言った。
今度はちゃんとキスした。唇を重ねて、ゆっくり。宮本さんの舌が触れてきて、僕も応えた。ビールの味がかすかに残ってた。
コートの下で手を握ったまま、何度もキスした。新幹線の中で、大雪で止まったまま、周りが寝てる中で。背徳感と高揚感がごちゃ混ぜになって、頭がおかしくなりそうだった。
(俺は今、何をしてるんだ)
冷静な自分が遠くでそう言ってたけど、もう止まれなかった。
宮本さんの手が僕の太ももに置かれた。指先がスーツの布越しに内側をなぞる。
「宮本さん……ここ、新幹線……」
「わかってます……でも……」
宮本さんの目が潤んでた。暗い車内でもわかるぐらい。
「……ダメって言ってくれたら、やめます」
ダメって言えるわけないだろ。
僕は宮本さんの手を取って立ち上がった。デッキの方に向かって歩いた。トイレの前の狭いスペース。誰もいない。
ドアが閉まった瞬間、宮本さんが抱きついてきた。華奢な身体だと思ってたけど、抱きしめると胸の柔らかさがスーツ越しにわかって、頭がどうにかなりそうだった。
「中尾さん……」
「宮本さん、俺……正直、前からずっと気になってて……」
「……うそ」
「嘘じゃない。エレベーターで会うたびにドキドキしてた。情けないけど」
「……私も。すれ違うとき、いつも目で追ってました」
そんなの全然気づいてなかった。鈍すぎるだろ、俺。
トイレに入った。多目的トイレ。新幹線のやつ、わりと広いんですよ。知ってました? 僕は知ってたけど、こういう使い方をするとは思わなかった。
鍵をかけた瞬間、また唇が重なった。さっきの席でのキスとは違う。もっと深くて、切なくて、お互い必死だった。
宮本さんのカーディガンを脱がせた。ブラウスのボタンを外していく。手が震えた。
「……震えてる」
「緊張してるんだよ」
「……かわいい」
34歳の男に「かわいい」って言うかよ普通。でもその一言で少し落ち着いた。
白いブラが見えた。飾りのないシンプルなやつ。でもそこから覗いてる谷間は、想像してた以上だった。
「……すごい」
「やめてください、恥ずかしい……」
ブラを外すと、形のいいおっぱいがこぼれた。Eカップはあると思う。派遣の事務員っていう大人しいイメージとのギャップに頭がクラクラした。乳首は薄いピンクで、もう硬くなってた。
手のひらで包むと、宮本さんが小さく声を漏らした。
「ん……っ」
「しーっ」って言おうとしたけど、自分だって荒い呼吸してたから説得力ゼロだった。
宮本さんのスカートに手を入れた。太ももが少し汗ばんでた。指先がショーツに触れたとき、すでに濡れてた。
「……もう……」
「言わないで……自分でもびっくりしてるから……」
指で布越しになぞると、宮本さんが僕の肩に顔を埋めた。声を殺してるのが伝わってくる。
ショーツをずらして直接触れた。ぬるっとした感触が指に絡んだ。クリに触れると、宮本さんの腰がびくっと跳ねた。
「あっ……だめ、そこ弱い……」
弱いって言われたらそこを攻めるのが人情でしょう。ゆっくり円を描くように刺激すると、宮本さんの息がどんどん荒くなった。
「中尾さん……中尾さんっ……」
名前を呼ばれるだけでゾクゾクした。
宮本さんの手が僕のベルトに伸びた。慣れた手つきでバックルを外して、ジッパーを下ろす。ボクサーの上から握られた。
「……大きい」
お世辞でも嬉しかった。いや、お世辞じゃなかったかもしれない。自分で言うのもアレだけど、今までの人生で一番硬くなってた気がする。
直接出されて、宮本さんの細い指が包んだ。冷たかった指がもう温かくなってて、ゆっくり上下に動かし始めた。
「っ……」
「気持ちいい……?」
「……やばい」
先端から溢れてきたもので、宮本さんの手のひらがぬるっと滑った。
お互い手で触れ合いながら、何度もキスした。新幹線のトイレの中で、大雪で止まった真夜中に、素性もよく知らない社内の派遣さんと。状況がおかしすぎて、逆にリアリティが飛んでた。
「宮本さん……その……入れたい」
言ってから、自分の語彙力のなさに愕然とした。もうちょっと言い方あるだろ。
でも宮本さんは笑わなかった。
「……ゴム、ある?」
ない。ない。当然ない。謝罪出張にコンドーム持ってくるやつがいるか。
「……ない」
「……」
一瞬、これで終わりかと思った。当たり前だよな。大人なんだから。
「……今日、安全日、なんだけど」
心臓が止まるかと思った。
「いいの……?」
「……中尾さんだから」
その理由になってるようでなってない言葉が、たまらなく嬉しかった。
宮本さんが洗面台の前に立って、スカートを自分でたくし上げた。ショーツを膝まで下ろして、振り返った。目が合った。
「……お願い、します」
敬語なのがまた妙にエロかった。
後ろから入れた。ゆっくり、先端を当てて、少しずつ。
宮本さんが「んっ」と小さく声を上げた瞬間、全部持っていかれた。中が熱くて、きゅっと締まってて、自分がどこにいるのかわからなくなるぐらい気持ちよかった。
「……っ、やば……」
「動いて……ゆっくりでいいから……」
腰を動かし始めた。新幹線の狭いトイレで、立ったまま。宮本さんが洗面台の縁を掴んでる指が白くなってた。
声を出せない状況が、余計に興奮を煽った。宮本さんが唇を噛んで声を我慢してるのが、鏡越しに見えた。
「んんっ……だめ……声出ちゃう……」
「我慢して……」
「無理……っ、気持ちよすぎ……」
宮本さんの中がぎゅっと締まった。反射的に僕も奥まで押し込んだ。
鏡の中の宮本さんと目が合った。髪が乱れて、頬が赤くて、目が潤んでて。ブラウスは半分はだけて、スカートはたくし上がったまま。普段のきちんとした派遣社員の面影がどこにもなかった。
(俺はこの人のこういう顔を、たぶん見ちゃいけなかったんだと思う)
でも、もう戻れない。
ペースを上げた。ぱん、ぱん、と肌がぶつかる音が狭い空間に響いた。
「中尾さっ……いく……いっちゃう……っ」
宮本さんの身体がぶるっと震えた。中がぎゅうぎゅうに締まって、僕も限界だった。
「俺も……出る……っ」
「うん……いいよ……中に……」
その言葉で全部崩れた。奥で出した。何度も脈打つように出して、宮本さんの背中に覆いかぶさるようにして止まった。
しばらく二人とも動けなかった。荒い呼吸だけが響いてた。
「……すごかった」
「……うん」
語彙力がもう完全に死んでた。
身体を離して、お互い服を整えた。宮本さんがショーツを直しながら「あ……出てきちゃう」と小声で言ったのがやけに生々しくて、またドキドキした。
トイレから出るとき、宮本さんが先に出て、30秒ぐらい空けて僕が出た。意外と冷静にそういう段取りはできるもんだな、と思った。
席に戻ると、車内は相変わらず暗くて静かだった。誰にも気づかれてないと思う。たぶん。
コートを二人の膝にかけ直して、宮本さんが僕の腕にもたれた。さっきと同じ体勢。でも全然違う距離感。
「……ねえ」
「ん?」
「これ、一回きりの話……ですか」
「……」
正直、わからなかった。明日会社で会ったらどんな顔すればいいんだ。でも。
「……一回きりにしたくない、って言ったら?」
「……嬉しい」
宮本さんが僕の手を握った。今度は冷たくなかった。
朝の5時過ぎに新幹線が動き始めた。窓の外がうっすら明るくなってきて、雪が朝日に光ってた。二人とも半分寝て半分起きてるような状態で、手だけずっと繋いでた。
東京駅に着いたのは7時過ぎ。約12時間の新幹線だった。
ホームに降りたとき、宮本さんがちょっと恥ずかしそうに笑った。
「中尾さん」
「はい」
「今度ご飯、行きませんか。新幹線じゃないところで」
「行きましょう」
LINE を交換した。会社じゃない連絡先を持ってるっていうだけで、特別な関係になった気がした。
その週末に二人で中目黒のイタリアンに行った。二軒目に行って、その日はタクシーでそれぞれ帰った。次の週末は僕の部屋に来た。今度はちゃんとゴムを用意して。でも3回目で「もういらない」って宮本さんが言った。
あれから半年経った今も、宮本さんとは一緒にいます。先月、宮本さんの派遣契約が切れたのをきっかけに、うちに引っ越してきた。
あの大雪の夜のことを、二人でたまに笑い話にする。
「あの新幹線のトイレ、もう一回行ってみたいな」
「もう二度とやらない」
「えー(笑)」
でもまあ、正直ちょっと思ってる。JR東海には申し訳ないけど、あの夜、雪で止まってくれてほんとによかった。