これ書いていいのかずっと迷ってたんですけど、もう時効かなと思って書きます。
社会人3年目、25歳の時の話です。
俺は都内のIT企業でインフラエンジニアをやってて、中野坂上の2LDKに住んでいました。家賃11万。正直キツい。でも前の職場が西新宿だったから通勤が楽で、惰性で住み続けてた。
で、大学時代からの親友の康太が海外赴任することになったんですよ。ジャカルタ。3年は帰ってこないって言ってた。
康太はそのとき彼女と別れたばかりで、正確に言うと、赴任が決まってから別れた。2年半付き合った彼女を。
(いやお前それ、ひどくないか…)
とは思ったけど、康太は昔からそういう奴だった。決めたら早い。ドライに見えるけど、本人なりに考えた結果なんだろうなってのは分かってた。
その彼女ってのが、白石さんっていう同い年の女で、俺も何回か飯の場で会ってた。顔は今田美桜に似てると思う。身長は158cmくらいで、Eカップ。いや、スペック覚えすぎだろって話なんだけど、康太が酔うたびに「うちの彼女マジでスタイルいい」って自慢してくるから、嫌でも覚えた。
白石さんは新宿三丁目のアパレルで働いてて、一人暮らしの部屋が立川だったんだけど、通勤がしんどいってずっと言ってたらしい。
で、康太が俺に言ってきたのが、
「お前んちの空き部屋、彩乃に貸してやってくれない?」
彩乃っていうのが白石さんの下の名前。
「は?」
「いや何言ってんの?お前の元カノだろ?」
康太は平然としてた。
「もう別れてるし、彩乃も部屋探してるし、お前も家賃キツいって言ってたじゃん。win-winだろ」
いや、win-winって。お前の元カノと同居って、どう考えても地雷でしょ。
でも康太は
「お前なら変なことしないって分かってるから頼めるんだよ」
って言ってきて、その信頼が逆にプレッシャーだった。
結論から言うと、家賃折半の誘惑に負けました。月5万5千円。東京のど真ん中で5万5千円。最強すぎる。
白石さん――彩乃が越してきたのは、康太がジャカルタに飛んだ翌週だった。
引っ越し当日、段ボール8箱を運び入れて、リビングに腰を下ろした彩乃は、
「改めてよろしくね。なんか変な感じだけど」
って笑った。
「変な感じだよな」
「康太くんには感謝してるよ。紹介してくれたの」
「あいつはお人好しなのかドライなのかよくわかんねぇ」
「うん…私にもよくわかんなかった。最後まで」
その時の彩乃の横顔が少し寂しそうで、俺はそれ以上聞けなかった。
最初の1ヶ月は、正直うまくいってた。
生活リズムが違ったのがデカい。俺は9時出社で彩乃は11時出勤のアパレル。帰りも俺が先で、彩乃は21時過ぎ。風呂もメシも被らない。
ルールも決めた。冷蔵庫は上段が俺、下段が彩乃。洗濯は各自。リビングのテレビは先に座った方が優先。
完璧だった。異性の同居人というより、たまに廊下ですれ違う隣人みたいな距離感。
それが崩れ始めたのは、2ヶ月目くらいからだと思う。
きっかけは些細なことで、彩乃がある日、風呂上がりにリビングに出てきた。タオルを頭に巻いて、キャミソールに短パン。まあ夏だし、それ自体は普通なんだけど、
「ねえ、ドライヤー壊れたんだけど、使わせてもらっていい?」
って俺の部屋のドライヤーを借りにきた。
で、リビングのソファに座って、俺の目の前で髪を乾かし始めたんですよ。
シャンプーの匂いがふわっときて、うなじに水滴が光ってて、キャミの肩紐がずれかけてて、
(いや、これキツくないか…?)
でも、これで動揺してる俺がおかしいんだと思った。康太に「変なことしない」って言ったし。大人だし。社会人だし。
ドライヤーはそのまま彩乃に貸しっぱなしになった。新しいの買う買うと言いながら、1週間経ち、2週間経ち。毎晩リビングで俺の前で髪を乾かすのが日課になった。
(本人は何も考えてないんだろうな、たぶん)
3ヶ月目に入った頃、事件が起きた。
金曜の夜、俺は珍しく早く帰れて、20時頃にはもう風呂を済ませてリビングでNetflix観てた。彩乃はまだ帰ってない時間帯。
トイレに立ったとき、洗面所を通りかかって、洗濯機の蓋が半開きになってるのが見えた。
彩乃の洗濯物が入ったまま干し忘れてるな、と思って、
(一応回してやるか…いや、下着とかあるし触んのまずいか)
迷ったけど、放置して臭くなるのもアレだしな、と思って蓋を開けた。
中を見て、固まった。
洗濯物の上に、康太の名前が入ったサッカー部のジャージが入ってた。大学時代のやつ。背中に「KOTA」ってプリントされてる、あの水色のジャージ。
(お前…まだこれ着てんのか…)
別れてから3ヶ月。康太はもうジャカルタにいる。なのに、彩乃は康太のジャージをパジャマ代わりに着て寝てる。
なんだろう、別にショックとかじゃないんだけど、胸の奥がざわついた。
そんなもんだよな、2年半も付き合ってたんだから。そう思おうとしたけど、なんか引っかかった。
その夜、彩乃が帰ってきて、洗濯物が回されてるのに気づいた。
「あれ、洗濯回してくれたの?ごめんね、ありがとう」
「たまたま気づいたから」
「…中身、見た?」
一瞬、目が泳いだのが分かった。
「別に。回しただけ」
嘘ついた。見た。見てしまった。
「…そっか。ありがとね」
それだけ言って、彩乃は自分の部屋に入っていった。
次の日は土曜で、俺は昼過ぎまで寝てた。起きてリビングに行くと、彩乃がキッチンに立ってて、
「あ、カレー作りすぎちゃったんだけど、食べる?」
「マジ?食べる食べる」
二人でリビングのテーブルでカレー食べた。
「うま。これルーは何使ってんの」
「ジャワカレーの中辛と、こくまろの甘口を半々で。康太くんが好きだった配合」
そう言ってから、彩乃は「あ」って顔をした。
「ごめん、なんか変だよね」
「いや、普通にうまいから何でもいいよ」
「…うん」
彩乃がスプーンを止めて、しばらく黙った。
「ねえ、聞いていい?」
「ん?」
「康太くんからさ、ジャカルタで何してるか聞いてる?」
「いや、LINEはたまに来るけど、仕事の愚痴くらいだよ」
「そっか…」
「なんで?」
「ううん、なんでもない」
なんでもないわけないだろ、って思ったけど、突っ込まなかった。
その週末から、二人で飯を食う回数が増えた。彩乃が作りすぎたとか、俺が弁当余らせたとか、理由はいつも些細なもので。でも気づいたら毎週末、一緒にご飯食べるようになってた。
テレビ観ながら「この俳優かっこいい」「それはない」みたいなどうでもいい会話して、22時くらいに「おやすみ」って言って各自の部屋に戻る。
ある日、会社でシステム障害が起きて、俺は3時まで残業した。タクシーで帰って、音を立てないように玄関を開けたら、リビングの明かりがまだついてた。
彩乃がソファで毛布にくるまってうとうとしてた。テーブルの上にラップのかかった皿と、「おつかれさま。レンチン3分」って書かれた付箋。
(あ、これやばいな)
やばいっていうのは、嬉しいのがやばい。
起こさないようにレンチンして食べた。生姜焼き。普通にめちゃくちゃうまかった。
食べ終わって、食器洗ってたら、彩乃がもぞもぞ起きた。
「あ、おかえり…食べた?」
「食べた。ありがとう。待ってなくてよかったのに」
「待ってたわけじゃないよ。Netflix観てたら寝落ちしただけ」
「ラップと付箋は?」
「…それはまあ、ついでに」
彩乃は照れたように笑って、自分の部屋に戻っていった。
(線、引けてるのか、俺…?)
完全に引けてない自覚が出たのは、その翌週のことだった。
仕事帰りに新宿駅で、彩乃が男と歩いてるのを見た。知らない男。背が高くて、髪をセンターパートにした、いかにもアパレルっぽい男。笑いながら何か話してて、彩乃も楽しそうだった。
(職場の人だろ。普通に。同僚と飯くらい行くだろ)
分かってる。分かってるんだけど、家に帰ってからずっとモヤモヤしてた。
Netflix開いても全然頭に入ってこない。
23時過ぎに彩乃が帰ってきて、いつも通り
「ただいまー」
って言ったのに対して、俺は
「おかえり」
としか返せなかった。
「…なんか元気ない?」
「いや、普通」
「嘘。顔に出てるよ」
「…」
「なに、仕事?」
「…今日、新宿で見かけた」
言ってから、しまったと思った。これじゃ完全にストーカーじゃん。
「え?」
「いや、たまたま。男の人と歩いてたなって。それだけ」
彩乃がしばらく黙って、それから少し困ったように笑った。
「あぁ…あれ店長だよ。新店舗の下見に付き合わされたの」
「あ、そう」
「…もしかして、気にしてた?」
「別に。ただ言っただけ」
「ふーん」
彩乃がソファに座って、じっと俺を見た。
「ねえ」
「なに」
「私たちさ、なんなんだろうね」
「は?」
「ルームメイトとしては距離近すぎるし、でも友達って感じでもないし」
「…」
「私ね、ずっと気づいてたよ。洗濯回してくれた日、中身見たでしょ」
「…見た」
「康太くんのジャージ。まだ捨てられなくて」
「そんなの別にいいだろ。2年半も付き合ってたんだから」
「でもね、先週捨てた」
「え?」
「もういいかなって。思ったから」
彩乃が立ち上がって、キッチンに向かった。冷蔵庫からビールを2本出してきて、1本を俺に差し出した。
「飲も」
「…おう」
ソファに並んで座って、ビール飲んだ。しばらく無言で。
テレビはつけてなくて、外の車の音だけが聞こえてた。中野坂上の交差点は夜中でも意外とうるさい。
「康太くんとは連絡とってないの?」
「先月、誕生日におめでとうって送ったくらい」
「ちゃんとしてるんだね」
「まあ、あいつとはサークルからの付き合いだし」
「康太くんのこと、裏切るって思う?今こうしてるの」
「こうしてるって、ビール飲んでるだけだろ」
「…そうだね」
彩乃が缶を両手で持って、ちょっと笑った。目が潤んでるように見えたけど、酔ってるだけかもしれない。
俺はビールを飲み干して、もう1本取りに立った。冷蔵庫を開けたら、彩乃のゾーンである下段にプリンが2個あって、1個に付箋が貼ってあった。「たべていいよ」って。
(これ、いつからあったんだ…)
棚に戻ってビールを開けて、しばらく考えた。
康太。お前が俺を信頼して彩乃を預けたのは分かってる。お前なら変なことしないって。でも俺、たぶんもう、その信頼に応えられない。
「彩乃」
下の名前で呼んだのは初めてだった。
彩乃がびくっとした。
「…今、名前で呼んだ?」
「うん」
「なんで急に…」
「白石さんって呼ぶの、もういいかなと思って」
「…」
彩乃がゆっくりこっちを向いた。目が合った。
「俺さ、たぶんお前のこと好きになってる」
言った瞬間、(あ、言っちまった)って思った。取り消せない。
彩乃は目を見開いて、それからゆっくり俯いた。
「…いつから?」
「わかんない。たぶん、生姜焼きのあたり」
「生姜焼き…?」
「3時に帰ってきた日。ラップかけて、付箋貼って、待ってたくせに待ってないって言ったあの日」
彩乃が手で顔を覆った。
「なにそれ…生姜焼きで落ちたの…?」
「正確にはラップと付箋で落ちた」
「…ばか」
彩乃が笑った。泣き笑いみたいな顔だった。
「私もね」
「え?」
「私も、あんたのこと好きだよ。たぶん」
「たぶんて何だよ」
「だって怖いじゃん。康太くんの親友で、元カノで、ルームメイトで。こんなぐちゃぐちゃな関係で好きとか言って、全部壊れたらどうすんの」
「…」
「でもね、ずるいって分かってるけど、あんたが新宿の件で嫉妬してくれたの、ちょっと嬉しかった」
「嫉妬じゃない」
「嫉妬でしょ」
「…まあ、嫉妬」
彩乃が噴き出すように笑って、俺も笑った。
気づいたらソファの距離が近くなってて、彩乃の膝が俺の太ももに触れてた。シャンプーの匂いがした。いつものやつ。毎晩ドライヤーのときに嗅いでた、あの匂い。
「キスしていい?」
「…うん」
彩乃の唇に触れた。ビールの味がした。
最初は軽く。ほんとに触れるだけ。でもすぐに彩乃が目を閉じて、唇を押し返してきた。
俺の手が彩乃の腰に回って、彩乃の手が俺の胸元のTシャツを掴んだ。
キスが深くなって、舌が触れて、彩乃が小さく声を漏らした。
「ん…」
「…ごめん」
「なんで謝るの」
「いや、なんか…」
「謝んないで」
もう一回キスした。今度はもっと深く。彩乃の舌が絡んできて、頭がぼんやりした。
ソファの上で抱き合うような体勢になって、彩乃が俺の上に覆いかぶさるような形になった。キャミソールの隙間から鎖骨が見えて、その下の谷間も見えて。
「…部屋、行く?」
「…うん」
俺の部屋に入った。ベッドに座って、また顔を見合わせた。
「ねえ、ひとつだけ聞いていい?」
「うん」
「後悔しない?」
「しない」
「康太くんに悪いとか思わない?」
「思ってる。めちゃくちゃ思ってる。でも、それでもお前がいい」
彩乃が泣きそうな顔をして、でも泣かなかった。
「…来て」
キャミソールの裾を自分で掴んで、脱いだ。ブラは薄いベージュのレースで、今田美桜に似た整った顔の下に、Eカップの胸が揺れた。
「…すげぇ綺麗」
「やめて恥ずかしい…」
「康太があんだけ自慢してた意味わかったわ」
「今その名前出さないでよ…」
「…ごめん」
ブラを外して、直接触れた。柔らかくて、手に収まりきらないくらいのボリュームがあった。
「ん…」
乳首に触れたら、彩乃が身体をびくっとさせた。
「感じる?」
「…うん。そこ弱い」
俺は彩乃をベッドに横たえて、上から覗き込んだ。部屋の電気はデスクライトだけで、彩乃の肌がオレンジ色に照らされてた。
胸にキスして、乳首を舌で転がした。彩乃が髪を掻き上げて、小さく喘いだ。
「あ…っ」
ショートパンツを脱がせて、下着に手を伸ばした。薄いグレーのコットンのパンツ。飾り気のない普段着の下着。それがかえってリアルで、生々しかった。
「脱がすよ」
「…うん」
パンツを下ろすと、彩乃が恥ずかしそうに太ももを閉じた。
「見せて」
「…やだ、恥ずかしい」
「お願い」
彩乃がゆっくり脚を開いた。もう濡れてた。
指で触れると、びくっとして腰が浮いた。
「あっ…そこ…」
クリに触れると反応がすごくて、ぬるぬるの指が滑った。
「すごい濡れてる」
「言わないで…っ」
指を中に入れると、彩乃が声を押し殺した。内壁がきゅっと締まって、指を吸い込んでくるような感覚があった。
「んっ…あっ…」
「気持ちいい?」
「うん…もっと…」
指を動かしながら、もう片方の手で胸を揉んだ。彩乃が背中を反らせて、シーツを掴んだ。
「やば…っ…もう…っ」
「いきそう?」
「うん…いっちゃう…っ」
彩乃が震えて、俺の手首を掴んだ。中がぎゅうっと締まって、びくびくと痙攣した。
「あっ…!」
俺のTシャツをぐいっと引っ張って、キスしてきた。まだ余韻で震えてる唇が柔らかかった。
「…入れて」
「ゴム、ある」
ベッドサイドの引き出しからゴムを出して、つけた。手が震えてうまくいかなくて、彩乃が手伝ってくれた。
「緊張してるの?」
「そりゃするだろ」
「…私も」
正常位で、ゆっくり入れた。
彩乃が息を吸い込んで、俺の背中に手を回した。爪が食い込むくらいの力で。
「痛い?」
「ううん…大丈夫。ゆっくりで」
奥まで入った瞬間、彩乃が「あ…」って声を出して、俺の首に腕を絡めてきた。額をくっつけて、目を合わせた。
「…動いて」
ゆっくり動き始めた。中がめちゃくちゃ気持ちよくて、正直すぐにいきそうだった。
(まずい、全然もたない…)
でも彩乃の顔を見てたら、もっと感じさせたいと思って、なんとか耐えた。
「んっ…あ…気持ちいい…」
「俺も…やばい…」
彩乃が腰を合わせてきた。リズムが合って、ぱちゅぱちゅと音がした。
「もっと…速くして…」
速度を上げた。ベッドがギシギシ鳴って、彩乃の声がどんどん大きくなった。
「あっ…あっ…だめ…また…いく…っ」
彩乃が中で締めてきて、俺ももう限界だった。
「俺もいく…っ」
彩乃の中で、ゴム越しにどくどくと出した。全身の力が抜けるような感覚で、彩乃の上に崩れ落ちた。
「重い…」
「ごめん…」
横に転がって、天井を見た。彩乃も同じ方向を見てた。
しばらく無言で、二人で息を整えた。
「ねえ」
「ん」
「もう1回…していい?」
「…マジ?」
「だめ?」
だめなわけないだろ。
2回目は彩乃が上に乗った。
さっきとは違って、彩乃の方が積極的だった。腰をゆっくり前後に動かしながら、俺の腹筋に手をついて、上から見下ろしてきた。
デスクライトの逆光で表情は見えにくかったけど、彩乃が噛み締めるように唇を結んでるのは分かった。
「んっ…ここ…いい…」
自分で角度を調整して、気持ちいいポイントを探してる感じだった。
1回目はどこかぎこちなかったのに、2回目は全然違った。遠慮がなくなったというか、彩乃が自分の快感を追い始めてた。
俺は下から腰を突き上げながら、彩乃の腰を掴んだ。
「すげぇ気持ちいい…」
「私も…っ…なんかさっきよりやばい…」
彩乃が前に倒れ込んできて、胸が俺の胸板に押し付けられた。耳元で荒い息遣いが聞こえて、それだけでもう頭がおかしくなりそうだった。
「ねえ…好き…」
「…俺も」
「もっと言って…」
「好き。彩乃が好き」
「…もう…だめ…いく…っ」
彩乃が腰を小刻みに震わせて、俺の胸に顔を埋めてイった。
俺もそのまま出した。2回目はさっきより長く出し続けて、腰が勝手に跳ねた。
彩乃が俺の上で動かなくなって、汗ばんだ肌がくっついたまましばらくそうしてた。
「…このまま寝ていい?」
「重いけどいいよ」
「さっき重いって言ったくせに」
「お前は軽いから大丈夫」
「…ばか」
結局、シャワーは朝まで浴びなかった。
朝、目が覚めたら7時で、彩乃が隣で寝てた。康太のジャージじゃなくて、俺のTシャツを着て。いつの間に着替えたんだか。
キッチンに行ってコーヒーを入れた。2杯分。
彩乃が起きてきて、リビングに座った。
「…おはよう」
「おはよう。コーヒー」
「ありがとう」
一口飲んで、彩乃が言った。
「ねえ、これからどうする?」
「どうするって」
「私たち。ルームメイトのままってわけにはいかないでしょ」
「…付き合おう」
「康太くんには?」
「言う。ちゃんと」
「…怒るかな」
「たぶん怒る。でもあいつは分かってくれると思う。最終的には」
「根拠は?」
「ない。でも、あいつが俺を信じたように、俺もあいつを信じる」
彩乃がコーヒーカップを両手で持って、小さく笑った。
「…かっこつけてるけど、手ちょっと震えてるよ」
「うるせぇ」
そのあと、康太にはLINEじゃなくてビデオ通話で話した。
殴られないのが海越しの唯一の救いだった。最初は案の定キレたけど、最後には「お前ら、まじでお似合いだと思ってたよ」って言われた。
それが本心なのか、距離が生んだ余裕なのかは分からない。でも、俺はその言葉を信じることにした。
あれから1年以上経った今も、俺と彩乃は中野坂上の2LDKに住んでる。ベッドルームは1つになったけど。家賃は折半のまま。冷蔵庫の区分けはとっくに撤廃された。
たまに康太から「彩乃を泣かせたら殺す」ってLINEが来る。
泣かせるつもりはない。俺が泣かされてる方だし、最近は。