親友の彼女が終電逃すたびに俺の部屋に転がり込んでくるようになった件について

これ書いていいのかちょっと迷ったんだけど、もう時効だと思うから書く。

社会人2年目、24歳のときの話。俺は中野のワンルームに住んでた。家賃7万2千円、駅から徒歩8分、築28年。まぁ普通の独り暮らし。顔面偏差値は自分で言うのもあれだけど48ぐらい。身長172、体重は当時63キロ。服はユニクロとGUで済ませる系。要するに、何の変哲もない量産型サラリーマンです。

大学からの親友で、タクヤってやつがいる。こいつは俺と違って顔がいい。竹内涼真を少しだけ薄味にした感じで、身長180あって、営業成績もいつも上位。なんでこいつと俺が親友なのか未だによくわからん。たぶん大学1年のオリエンテーションで隣の席だったからとしか言いようがない。

で、タクヤには彼女がいた。

名前は伏せるけど、ここではユキとする。タクヤの1個下で当時22歳。IT企業でデザイナーやってて、新卒1年目。顔は……今田美桜に雰囲気が似てる。目がくりっとしてて、笑うと目尻がくしゃっとなるタイプ。身長158ぐらい、細いんだけど胸はちゃんとある感じで、たぶんCかD。髪は鎖骨ぐらいのセミロングで、いつもゆるく巻いてた。

正直に言う。初めて紹介されたとき、(こいつまたとんでもないの連れてきたな…)って思った。

タクヤとユキは付き合って8ヶ月ぐらいで、よく3人で飲みに行ってた。中野の駅前の「鳥貴族」とか、高円寺の「大将」とか。ユキは酒が強くて、生ビール5杯ぐらい平気で飲む。で、酔うとめちゃくちゃ絡んでくる。タクヤにべったりなのを横で見てる俺は、まぁ、いつも空気だった。

(俺なんでここにいるんだろう…)って毎回思ってたけど、タクヤに「お前がいると場が和むからさ」とか言われて断れなかった。お人好しの極みである。

事件は、12月のある金曜日に起きた。

いつもの3人飲み。場所は中野のもつ焼き屋。タクヤが22時ごろに仕事の電話で離席して、そのまま「ごめん、トラブル対応で会社戻る」とLINEが来た。残されたのは俺とユキ。

「えー、タクヤ最悪。また仕事じゃん」

「まぁ営業はそういうこともあるだろ」

「最近ずっとこうなんだよね。約束してもドタキャンだし、LINEも既読つかないし」

ユキが不満そうにレモンサワーをぐいっと飲んだ。俺はなんて返していいかわからなくて、とりあえず枝豆を食べた。

「ねぇ、もうちょっと飲まない?」

「いいけど、終電大丈夫?ユキ、たしか練馬だろ?」

「うーん…まぁなんとかなるっしょ」

なんとかならなかった。

気づいたら0時を回ってて、ユキは結構酔ってた。練馬までの終電はとっくに行ってしまっている。タクシーで帰れよと言ったら「お金ないもん」と言う。Paypay残高347円を見せてきた(なんで覚えてるかって?ありえない数字だったからだよ)。

「ねぇ、泊めてくんない?」

「は?」

「タクヤの家よりこっちのが近いじゃん。タクヤもう会社だし」

「いや、タクヤの彼女を俺の家に泊めるのはさすがに…」

「大丈夫大丈夫、タクヤに言っとくから」

大丈夫じゃねえだろ。

でも、12月の深夜に酔った女の子を路上に放置するわけにもいかず、結局俺の部屋に連れて帰った。ユキには布団を渡して、俺は寝袋で寝た。リビングと言えるスペースもないワンルームで、仕切りはカーテンレールに無理やりかけたタオルケット1枚。

翌朝、ユキは「ありがとー!タクヤには私から言っとくねー」と明るく帰っていった。タクヤからは「マジごめん、サンキュー」とだけLINEが来た。

(まぁ、これで終わりだろ)

終わらなかった。

次の金曜日も3人で飲んで、またタクヤが途中で抜けて、またユキが終電を逃して、また俺の部屋に来た。3週目も同じパターン。4週目に至っては、タクヤが最初から来なかった。

「タクヤ今日も残業だって。2人で飲もうよ」

「いや、それもう俺が飲む意味なくない?」

「あるよ。私がさみしいもん」

(この子、天然なのか計算なのかわからん…)

1月に入ると、ユキは金曜の夜に当然のように俺の部屋に来るようになった。しかも、いつの間にか自分用の歯ブラシを置いていった。次の週にはコンタクトの保存液。その次の週にはパジャマ代わりのTシャツ。

「お前さ、なんで俺の部屋に荷物増やしてんの」

「だって毎回持ってくるの面倒じゃん」

「いやそういう問題じゃなくて」

「タクヤも別にいいって言ってるし」

本当にいいのか、タクヤ。お前の彼女が毎週金曜に別の男の家に泊まってることに対して、本当に何も思ってないのか。

……思ってなかったらしい。タクヤに直接聞いたら「お前なら安心だし、ユキもさみしがりだからさ。助かるわ」だと。

(俺ってそんなに男として見られてないのか…?)

地味にショックだったのは内緒だ。

2月になって、ちょっとした事件があった。

その日もユキが泊まりに来てて、俺は寝袋で寝てた。深夜2時ぐらいに、ユキのすすり泣く声が聞こえた。

「……ユキ?どうした?」

「…ごめん、起こしちゃった?」

暗がりの中で見ると、ユキが布団の中で丸くなって泣いてた。

「なんかあったのか」

「…タクヤにさ、今日、『もう少し距離置こう』って言われた」

「え、マジで」

「仕事が忙しいからって。でもさ、インスタ見たら合コンの写真上がってたの。知らない女の子と肩組んでるやつ」

「……」

「私のこと、もう好きじゃないのかな」

何て言えばいいんだこれ。親友の肩を持つべきなのか、泣いてる女の子を慰めるべきなのか。

結局、俺は寝袋から出て、布団の横に座った。

「タクヤはさ、不器用なんだよ。仕事にのめり込むとそれしか見えなくなるタイプで」

「…知ってるよ、そんなの。でもさ、だからって合コンは違くない?」

「……それはそう」

ユキがぐしぐし鼻をすすりながら、俺の袖を掴んできた。

「ねぇ、ちょっとだけ…隣にいて」

「…わかった」

布団の横に座ったまま、ユキが寝るまで背中をさすった。それだけ。本当にそれだけだった。

でも、あの夜から何かが変わった気がする。

ユキが俺の部屋に来る頻度が増えた。金曜だけだったのが、水曜も来るようになった。で、来るたびに手料理を作ってくれる。

「冷蔵庫なんもないじゃん。ちゃんと食べてんの?」

「コンビニとか松屋とか…」

「最悪。はい、肉じゃが作ったから食べて」

「え、うま…なにこれ」

「ふふ、でしょ?」

得意げな顔で笑うユキを見て、胸がぎゅっとなった。

(だめだろ、これは)

親友の彼女だぞ。わかってる。わかってるんだけど、ワンルームで一緒にテレビ見て、一緒にご飯食べて、「おやすみ」って言い合う生活が、あまりにも心地よかった。

3月のある夜。その日は雨が降ってて、ユキは少し酔ってた。いつものように飯を食って、テレビを見て、そろそろ寝るかって時間になった。

「ねぇ」

「ん?」

「タクヤと別れた」

「…え?」

「昨日、話し合って。もうお互い気持ちがないねって」

「そっか…大丈夫か?」

「うん。なんかね、もうずっと前から終わってたのかも」

ユキは笑ってたけど、目が赤かった。

俺は何も言えなかった。「よかったじゃん」とも「残念だな」とも言えない。だって、心のどこかで――いや、心のかなり広い範囲で、ほっとしてる自分がいたから。

(最低だな、俺)

「あのさ」

「うん」

「私がここに来てたの、終電逃したからじゃないよ」

「……え?」

「終電、本当は間に合う日もあった。でも、わざと逃してた」

心臓が止まるかと思った。

「最初はただタクヤのことで愚痴聞いてもらいたかっただけ。でも、いつの間にか…この部屋に来るのが楽しみになってた」

「ユキ…」

「ずるいよね、私。タクヤと付き合いながら、ずっとあんたの隣が居心地いいって思ってた」

雨の音がやけにうるさかった。6畳のワンルームに2人。距離は、たぶん50センチもなかった。

「俺もさ」

「…うん」

「タクヤに"お前なら安心"って言われたとき、めちゃくちゃ悔しかった。男として見られてないのかって。でもそれ、ユキに男として見てほしかったからだって、途中で気づいた」

「…バカ。気づくの遅い」

「お前もだろ」

ユキが泣き笑いみたいな顔をして、俺の胸に額をくっつけてきた。

シャンプーの匂いがした。いつもと同じやつ。ボタニストの緑色のやつ。この匂いを嗅ぐたびに、ずっと我慢してた。

ユキが顔を上げた。目が潤んでて、唇が少し開いてて。

「…キスしていい?」

「それ、俺が言うセリフだろ」

重ねた唇は、レモンサワーの味がした。ユキの手が俺のTシャツの裾を掴んでて、その指先が震えてるのがわかった。

(あぁ、もう戻れないな)

キスが深くなった。舌が触れた瞬間に、ユキが小さく声を漏らした。何ヶ月もこの距離にいて、ずっと我慢してたものが一気に決壊した感じだった。

ユキを布団に押し倒した。いつも俺が貸してたやつ。

「…ちょっと待って」

「ごめん、無理だった?」

「そうじゃなくて。電気、消して」

蛍光灯を消した。窓から差し込むマンションの廊下の明かりだけが残った。

ユキが自分からTシャツを脱いだ。薄暗い中で、白い肌が浮かび上がった。ブラは黒で、レースがついてて、想像よりずっとちゃんとした下着だった。(いやなんでそこ見てんだ俺…)

「…見ないで、恥ずかしい」

「見ないとか無理だって」

ブラを外すと、Dカップの胸がぷるんと揺れた。形が綺麗で、先っぽが薄いピンクで。3ヶ月以上同じ部屋で寝てたのに、こんなもの隠してたのかと思うと頭がおかしくなりそうだった。

キスしながら胸を揉んだ。柔らかくて、手のひらに吸い付くような弾力があって。指で先端を転がすと、ユキが「んっ…」って声を殺した。

「声、我慢しなくていいよ」

「だって壁薄いって言ってたじゃん…」

「今さらだろ。毎週泊まってる時点で隣の人たち察してるって」

「やめてよ恥ずかしい…あっ」

乳首を口に含んだら、ユキの背中がびくっと跳ねた。

舐めながら手を下に滑らせた。デニムのボタンを外して、中に手を入れた。下着の上からでもわかるぐらい濡れてて、指が触れた瞬間にユキが腰を浮かせた。

「…ずっと、こうなんだけど」

「え?」

「隣で寝てるとき、ずっと…こうなってた。気づかないでしょ、鈍いから」

(マジかよ…)

俺がユキの隣で寝袋に入って、煩悩と戦いながら天井見てた夜、ユキも布団の中で同じこと考えてたってこと?

下着をずらして直接触った。指を滑らせると、くちゅっと音がして、ユキが顔を両手で覆った。

「音…やだ…」

「雨の音でごまかせてるから大丈夫」

「ごまかせてないって…あ、そこ…」

クリに触れると反応がすごくて、腰がくねくね動いた。中に指を入れると、きゅっと締まって、ユキの口から切れ切れの息が漏れた。

「もう…いいから、早く…」

「ゴムどこやったっけ…」

「…私、持ってきてる」

「は?」

ユキがカバンからコンドームの箱を取り出した。開封済み。

「…3週間前から入れてた。何も起きなかったけど」

(こいつ……)

計算じゃなくて、ずっと期待してたってことか。3週間、毎回カバンにこれ入れて俺の部屋に来てたのか。

ゴムをつけて、ユキの脚の間に入った。先端を当てると、ユキが俺の背中に手を回した。

「入れるよ」

「…うん」

ゆっくり押し込んでいくと、想像以上に中が熱くて、きつくて。ユキが爪を立てるように背中を掴んだ。

「っ……あ……」

「痛い?」

「痛くない…なんか…来た、って感じ」

奥まで入れた瞬間、2人とも動けなくなった。ユキが俺の首に腕を回して、額と額をくっつけてきた。

「…やっとだね」

その一言で、溜めてたものが全部溢れた。

ゆっくり動き始めた。ユキの中は濡れてて、動くたびにぬるっと絡みつく感触があった。

「ん…あ…そこ…いい…」

腰を掴んで角度を変えると、ユキの声が跳ね上がった。壁が薄いとか、もうどうでもよくなってた。

「ユキ…」

「もっと…もっと奥…あっ」

腰を深く打ち付けるたびに、ユキの体がびくびく震えた。俺の名前を呼ぶ声がだんだんかすれていって、それが堪らなく興奮した。

「やば…私、もう…っ」

「俺も…近い…」

「一緒に…いって…」

ユキが俺の腰に脚を絡めてきて、密着したまま最後の数回を突き上げた。ユキが声にならない声を上げて、体をぎゅっと硬直させた瞬間、俺も限界が来た。

ゴムの中に全部出しながら、ユキを抱きしめた。2人とも息が荒くて、しばらく動けなかった。

「…はぁ」

「…大丈夫?」

「大丈夫…ていうか…すごい、よかった」

「…うん」

「なに照れてんの。さっきあんなことしてたくせに」

「いや、なんか…実感がなくて」

ユキが俺の胸に頬をくっつけて、くすくす笑った。

「ねぇ、もっかいしない?」

「え、早くね?」

「3ヶ月我慢したんだから、1回で足りるわけないでしょ」

2回目は、ユキが上に乗った。

さっきより大胆になってて、自分から腰を動かしながら、俺の手を自分の胸に導いた。暗がりの中で、ユキの体が上下するシルエットが見えて、これが現実なのか本気で疑った。

「ねぇ…私のこと、ちゃんと見て」

「見てるよ」

「嘘。いつも目そらすじゃん。お風呂上がりとか、着替えのとき」

「そりゃ見たらやばいだろ…タクヤの彼女だったんだぞ」

「もう彼女じゃない。…ねぇ、私のこと…好き?」

「…好きだよ。たぶん、タクヤの彼女だった頃からずっと」

「たぶん、じゃなくて」

「好きだ。ずっと好きだった」

ユキが泣きながら笑って、俺にキスしてきた。涙の味がした。2回目はさっきより長くて、ユキが何度か小さくイって、最後は俺が下から突き上げて一緒にイった。

外した後、2人で布団に転がって天井を見た。雨はまだ降ってた。

「ねぇ、タクヤに言わなきゃね」

「…うん。俺から言う」

「怒るかな」

「怒るだろうな。でも、黙ってるほうがもっとダメだろ」

「…うん」

「俺さ、タクヤに"お前なら安心"って言われたとき、嬉しいフリして受け入れたけど、本当は全然安心させる気なかったのかもしれない」

「…それ、最低な告白だよ」

「わかってる」

ユキが俺の手を握ってきた。小さくて、まだ少し汗ばんでて。

翌週、タクヤをサシで呼び出した。中野の「鳥貴族」。ユキと最初に3人で飲んだ場所。

殴られるかと思った。けど、タクヤは黙って生ビールを飲んで、「知ってた」と言った。

「…は?」

タクヤ曰く、ユキの目が変わったのに気づいてたらしい。俺の話をするときだけ声が高くなるとか、俺の部屋から帰ってきた日は機嫌がいいとか。

「お前のこと信頼してたのは本当だよ。でも途中から、ユキはもう俺のとこには戻ってこないなって思ってた」

「…ごめん」

「謝んなよ。俺が先にユキのこと雑に扱ったんだから」

タクヤは最後に「ユキを泣かせたらぶっ飛ばす」と言って、会計を全部払って帰った。

あれから2年経つ。

ユキは相変わらず金曜日に俺の部屋に来る。ただし、今は合鍵を持ってて、冷蔵庫には常にユキの買った食材が入ってて、洗面台にはユキの化粧品が並んでる。

タクヤとは……正直、前みたいには戻れてない。でも、たまにLINEで「元気?」って来る。それに「元気」って返す。それだけだけど、それがなくなったら俺はたぶんもっとしんどい。

親友の彼女に手を出した。それは事実だし、言い訳するつもりはない。

でも、あのワンルームで、雨の音を聞きながらユキの手を握った夜のことを、俺は一生忘れないと思う。


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