26歳、メーカー勤務の営業です。
まあ聞いてほしい。俺にはいわゆる「許嫁」がいた。許嫁っていっても、親同士が酔った勢いで「この子たち将来結婚させようぜ」って握手した、それだけの話なんだけど。
俺が5歳、相手のかすみが3歳の頃だったらしい。両家は長野県の塩尻市で隣同士だった。ばあちゃんの葬式で「かすみちゃんにも会えるかもねぇ」と母親にニヤニヤされるたび、俺は正直うんざりしていた。
そのかすみの記憶ってのが、とにかく泣き虫だったことしかない。かくれんぼで見つからないと泣く。転ぶと泣く。アイスが落ちても泣く。鼻水を俺のTシャツで拭くのだけはやめてほしかった。
小3の夏に俺の家が東京に引っ越して、それっきり。
それから17年。ばあちゃんの七回忌で塩尻に帰ることになった。
法事自体は午前中に終わって、午後は親戚の家で宴会。座敷に座ってビールを飲んでたら、襖がスッと開いた。
「お久しぶりです、直哉くん」
…は?
立っていたのは、身長163くらい、黒髪のストレートロング、橋本環奈を少しシャープにしたような顔立ちの女だった。白いブラウスにネイビーのタイトスカート。鎖骨のラインがきれいで、控えめに見てもDカップはある。
(誰だよこの人)
「あの…すみません、どちら様ですか」
「かすみだよ。覚えてない?」
(…え?あの鼻水のかすみ???)
脳がバグった。いや、完全にフリーズした。17年でここまで変わるものなのか。隣のおばさんが「かすみちゃん、東京の大学出て今は松本で薬剤師やってるのよ」と教えてくれた。
「なに固まってるの。ほら、座って」
その声だけが、ほんの少しだけ昔のかすみだった。
宴会が進むにつれて、かすみとは自然と隣に座る形になった。親戚のおじさんが「おお、許嫁同士じゃねえか!」とか言い出して、俺は死にたくなった。
「許嫁って…あの酔っぱらいの口約束でしょ」
「ほんとそれ。迷惑な話だよな」
「迷惑って。ひどいなあ」
かすみが笑った。笑うと目尻が下がって、そこだけが昔のまんまだった。
(やめろやめろ。意識するな俺)
宴会の途中、俺はトイレに立った。廊下に出ると、窓から見える塩尻の山並みがやけに懐かしかった。
戻ろうとしたら、かすみが廊下に立っていた。
「ねえ、直哉くん。ちょっと外出ない?ここ暑いし、おじさんたちうるさいし」
「あー…まあ、いいけど」
正直、二人きりになるのは少し緊張した。でも断る理由もなかった。
夕方の塩尻は涼しかった。7月なのに風が気持ちいい。かすみと並んで歩きながら、昔よく遊んだ用水路沿いの道を歩いた。
「ここ、まだあったんだ。ザリガニ釣りしたよね」
「お前が泣いたやつな。ザリガニに挟まれて」
「あれは痛かったんだから!今でも覚えてるよ、直哉くんが指ごとザリガニ掴んで取ってくれたの」
「そうだっけ。覚えてないわ」
覚えてた。めちゃくちゃ覚えてた。あのとき俺も痛くて泣きそうだったけど、年上だから我慢した。
「…ねえ、直哉くん。彼女いるの?」
急にそんなこと聞いてくるから、缶ビール持ってた手がぴくっとなった。
「いない。3ヶ月前に振られた」
「あ、そうなんだ…ごめん」
「別にいいよ。かすみは?」
「いないよ。ずっと」
「ずっと」の言い方が妙に引っかかった。でも深くは聞けなかった。
日が暮れてきて、二人でコンビニに寄った。塩尻のファミマ、駐車場がやたら広い。かすみがアイスを買って、ベンチに座って食べ始めた。
「あ、落ちる…!」
ガリガリ君の上半分がぽとりと地面に落ちた。
「…昔から変わんねえな」
「うるさい」
かすみが頬を膨らませた。あ、この顔。知ってる。17年前と同じ顔だ。
(…かわいいな)
と思ってしまった瞬間、もう駄目だった。
親戚の家に戻ると、宴会は終わりかけていた。泊まりの手配で、おばさんが「直哉くんは離れの部屋ね、かすみちゃんも離れでいいでしょ」と言った。
離れは二部屋あったんだけど、一部屋は物置になっていた。
「おばさん、もう一部屋は…」
「あらごめんね、荷物でいっぱいなのよ。布団二組敷けるから大丈夫でしょ?昔は一緒にお昼寝してたじゃない」
昔と今じゃ話が違うんですよおばさん。
かすみは「別にいいよ」と平然としていた。こっちは心臓バクバクなのに。
風呂を順番に済ませて、離れの部屋に戻った。6畳の和室に布団が二組、微妙な距離感で並んでいた。
かすみは髪を下ろしていて、パジャマ代わりのTシャツとハーフパンツ姿だった。Tシャツの下にブラをつけていないのが、シルエットでわかった。
(見るな。見るな俺)
「直哉くん、まだ起きてる?」
電気を消してから15分くらい経った頃だった。
「起きてる」
「…あのさ。許嫁の話、覚えてる?」
「まあ、一応」
「私ね、あの話…わりと本気にしてたんだ」
「…え?」
「直哉くんが東京に引っ越すとき、私すっごい泣いたの覚えてる?」
覚えてる。玄関の前でかすみが俺のTシャツ掴んで離さなかった。
「あのとき私、お嫁さんになるって決めてたから。直哉くんの」
暗い部屋で、かすみの声だけが聞こえた。少し震えていた。
「…17年間、ずっと?」
「ずっとじゃないよ。大学のときは忘れてた時期もあった。でも…就職して松本に戻ったのは、直哉くんの実家に近いからっていうのも、ちょっとあって」
(ちょっとって何だよ。それ全然ちょっとじゃないだろ)
心臓がうるさかった。暗闇の中で、かすみの布団がかさっと動く音がした。
「…ごめん。重いよね。忘れて」
「忘れられるわけないだろ、そんなの」
気づいたら体を起こしていた。
「俺さ、正直言うと…今日再会して、めちゃくちゃ動揺してた。あの泣き虫のかすみがこんなになってて、隣にいるだけで落ち着かなくて。許嫁とか関係なく、普通に…」
言葉が詰まった。暗くてかすみの表情は見えなかったけど、息を呑む音が聞こえた。
「…普通に、好きになりかけてる」
沈黙が3秒くらいあった。3秒が30分くらいに感じた。
「…なりかけてる、じゃなくて。好きって言って」
かすみの手が、暗闇の中で俺の手を探していた。指先が触れた瞬間、電気が走ったみたいに体がびくっとなった。
「好きだよ、かすみ」
「…やっと言ってくれた」
かすみの声が完全に泣いていた。あの泣き虫が、17年ぶりに俺の前で泣いていた。
手を引いて抱き寄せると、かすみはすんなり俺の胸に顔を埋めた。シャンプーの匂いがした。花王のメリットだと思う、たぶん。
「鼻水つくよ」
「…昔からな」
「ひどい…」
笑いながら泣いてるのが、たまらなかった。
顔を上げたかすみの唇が近かった。暗がりで輪郭だけがぼんやり見えて、吸い寄せられるようにキスした。
柔らかかった。唇が少し震えていた。
一回離して、もう一回。二回目は少し長くて、かすみの舌が恐る恐る触れてきた。
(…初めてじゃないよな?まさか…)
そのまさかだった。キスの仕方がぎこちなくて、歯が当たった。
「…もしかして、キス慣れてない?」
「…うるさい。初めてなの」
24歳でファーストキス。ずっと俺のことを待っていたのだと思うと、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
(こんな奴のために17年待ってたのかよ。俺なんかのために)
キスを重ねるうちに、かすみも段々慣れてきた。舌が絡んで、唾液の音が暗い部屋に響いた。
抱きしめている腕の中で、かすみの体温がどんどん上がっていくのがわかった。Tシャツ越しに胸が押し付けられて、柔らかい感触が直に伝わってくる。
「…触っていい?」
「…うん」
返事が消え入りそうなくらい小さかった。
Tシャツの裾から手を入れると、かすみが小さく息を呑んだ。おなかの肌がすべすべで、指先が上に進むにつれて、かすみの呼吸がどんどん浅くなった。
ブラは本当につけていなかった。手のひらに直接、柔らかい膨らみが収まった。Dカップ。形がよくて、手で包むとちょうどよかった。
「ん…っ」
親指で先端に触れると、小さな突起がすでに硬くなっていた。
「感じてるの?」
「…当たり前でしょ。好きな人に触られてるんだから」
その言い方がかすみらしくて、キスで黙らせた。
Tシャツを脱がせると、かすみが両腕で胸を隠そうとした。
「隠すなよ。きれいだから」
「…暗くてよかった」
暗くても月明かりで輪郭は見えた。白い肌に薄いピンクの乳首。きれいだった。
胸に顔を埋めて舌で乳首を転がすと、かすみの手が俺の髪を掴んだ。
「あっ…そこ、弱い…」
「弱いって、自分で触ったことあるの」
「……ちょっとだけ」
片方を舌で、もう片方を指で刺激すると、かすみが背中を反らせた。押し殺した声が漏れる。
隣の部屋は親戚が寝ている。声を出せない状況が、余計に背徳感を煽った。
ハーフパンツの上から太ももの内側を撫でると、かすみの脚がびくっと閉じた。
「…待って。心の準備が」
「いいよ。ゆっくりでいい」
しばらく胸だけを触りながらキスを繰り返していると、かすみの方から脚の力が抜けた。
ハーフパンツに手を入れると、下着の上からでもわかるくらい濡れていた。
「…すごい濡れてる」
「言わないでよ…恥ずかしい…」
下着をずらして直接触れると、指がぬるっと滑った。かすみが唇を噛んで声を殺している。
「んっ…ん…」
クリトリスに指を当てて、ゆっくり円を描くように動かした。かすみの体がぴくぴくと反応する。
「あ…だめ…声出ちゃう…」
「出していいよ」
「出せるわけないでしょ…隣に…んっ…」
布団を掴んで耐えてるかすみがかわいすぎて、意地悪したくなった。中指をゆっくり中に入れると、きつくて、熱くて、指が締め付けられた。
「ああっ…!」
思わず声が出て、かすみが自分で口を押さえた。目が潤んでいた。
(泣き虫は変わってないな)
ゆっくり指を動かしながら、親指でクリトリスを刺激し続けた。かすみの腰が無意識に動き始めて、内側がどんどんぬるぬるになっていった。
「直哉くん…なんか…やばい…」
「いきそう?」
「わかんない…こんなの初めてで…あっ…あ…」
かすみの体がぐっと強張って、内側が痙攣するように締まった。声にならない声を漏らしながら、かすみは俺のTシャツを掴んで体を丸めた。
しばらくそのままかすみを抱きしめていた。心臓の音が伝わってきて、どっちのかわからなかった。
「…ねえ」
「ん?」
「…私も、直哉くんのこと、触りたい」
恥ずかしそうに俺のズボンに手を伸ばしてきた。ゴムを下ろされて、硬くなったものを握られた瞬間、息が止まった。
「…おっきい…これが入るの…?」
「そこまでデカくないから安心しろ」
「でも…」
おそるおそる握って、上下にゆっくり動かしてくれた。力加減がわからないのか、ときどき強くなったり弱くなったりする。それが逆に気持ちよかった。
「もう少しゆっくりでいいよ…あ、そう、そのくらい」
「気持ちいい…?」
「うん…すげえ気持ちいい」
先走りが溢れてきて、かすみの手がぬるぬるになった。かすみが不思議そうにそれを見ていた。
「ねえ…入れて。私、直哉くんがいい」
「…いいの?ゴムないけど」
「いい。…直哉くんの子供なら、欲しいくらいだし」
冗談なのか本気なのかわからない言い方だった。でもかすみの目は真剣だった。
(許嫁だもんな。冗談じゃないのかもしれない)
かすみの上に覆いかぶさった。脚の間に腰を落として、先端を入り口に当てた。かすみの体がこわばった。
「痛かったら言えよ」
「…うん」
ゆっくり押し込んだ。きつかった。途中でかすみが顔をしかめて、爪が俺の背中に食い込んだ。
「いたっ…ちょっと待って…」
「ごめん、動かないから。慣れるまで待つ」
しばらくそのまま、かすみの髪を撫でながらキスを繰り返した。
「…大丈夫。動いていいよ」
ゆっくり動き始めた。かすみが唇を噛んで、目をぎゅっとつむっていた。
少しずつ、かすみの表情が変わっていった。痛みから、別の何かに。
「ん…っ…あ…なんか…変な感じ…」
「痛い?」
「痛くない…痛くないけど…あ…気持ちいい…かも」
かすみの足が俺の腰に絡んできた。無意識なのか、ぎゅっと引き寄せてくる。
「かすみ…っ…きつい…」
中がぎゅうぎゅうに締め付けてきて、頭がぼうっとした。かすみの内側は熱くて、ぬるぬるで、動くたびに甘い圧迫感があった。
「直哉くん…好き…」
「俺も…好きだよ」
かすみの手が俺の頬に触れた。暗がりの中で目が合った。月明かりに照らされたかすみの顔が、泣きそうに笑っていた。
(ああ、この顔だ。17年前、俺が引っ越すときに見た顔と同じだ)
奥まで入れるとかすみが声を殺して仰け反った。手を繋いだ。指を絡めると、かすみが強く握り返してきた。
「もっと…奥…」
その一言で理性が飛びかけた。腰の動きが自然と速くなって、かすみの押し殺した声が断続的に漏れた。
「あっ…あ…直哉くん…やばい…またなんか来る…」
「一緒にいこう…俺も…もう限界…」
かすみの内側がぎゅっと締まって、体が震えた。同時に俺も限界が来て、奥に押し込んだまま出した。
頭が真っ白になった。脈打つたびにかすみの中に注ぎ込まれていく感覚が、信じられないくらい気持ちよかった。
「…あっ…出てる…熱い…」
かすみが俺の背中にしがみついて、体を震わせていた。
しばらく繋がったまま動けなかった。二人とも息が荒くて、汗だくで、布団がぐちゃぐちゃだった。
ゆっくり抜くと、かすみが小さく声を漏らした。
「…出てきちゃう」
「タオル取ってくる」
「…ありがと」
体を拭いてやると、かすみが恥ずかしそうに顔を背けた。さっきまであんなことしてたのに、今さら照れるのがおかしくて、笑ってしまった。
「笑わないでよ…」
「ごめんごめん」
布団を並べ直して横になると、かすみが俺の腕に頭を乗せてきた。
「…ねえ、これって付き合ってるってことでいいの?」
「いや…付き合うとかじゃなくて」
かすみが体をこわばらせたのがわかった。
「許嫁だろ、俺ら。最初から」
3秒くらい沈黙があって、かすみが俺の胸を叩いた。
「…最低。泣かせないでよ」
「泣き虫は変わんないな、ほんと」
「直哉くんのせいでしょ…ずっと」
かすみが俺のTシャツで涙を拭いた。17年前と同じように。
腕の中で眠ったかすみの寝顔を見ながら、俺は天井をぼんやり見ていた。
明日になったら東京に帰る。かすみは松本にいる。東京と松本は特急あずさで2時間半。遠いけど、17年に比べたら屁みたいなもんだ。
朝になって目が覚めたら、かすみがもう起きていて、俺の顔を覗き込んでいた。
「おはよう。寝顔、5歳のときと変わんないね」
「…それは褒めてないだろ」
かすみが笑って、おでこにキスしてきた。
朝ごはんの席で、母親が俺たちの顔を交互に見て、にやにやしていた。たぶん全部バレてる。
帰りの特急あずさの中で、かすみからLINEが来た。
「来週の土曜、松本来れる?おいしいそば屋見つけたの」
俺は3秒で返した。
「行く」
そういえば、親父とかすみの親父が酔っぱらいながら握手した居酒屋、塩尻駅前の「よしの」って店なんだけど、この前Googleマップで調べたらまだ営業してた。評価3.8。レビューに「つまみがうまい」って書いてあった。
今度かすみと二人で行こうと思ってる。報告も兼ねて。