去年の1月の話。誰かに聞いてほしくて書きます。
俺は当時26歳、都内のIT企業で法人営業をやってた。まあ見た目は…身長172で体重65、髪型だけは気を使ってるけど顔面偏差値は48くらい。合コン行っても「いい人だよね」で終わるタイプ。要するにモテない。
その年の正月休み、最終日が1月4日だったんだけど、予定が何もなかった。元カノと別れてから半年、マッチングアプリも全然うまくいかなくて、このまま部屋にいたら病むなと思って、ひとりで草津温泉に日帰りドライブすることにした。
関越道を飛ばして3時間。草津に着いたのが昼過ぎで、湯畑を見て、西の河原公園を歩いて、まだ時間があった。ふらふら歩いてたら「天狗山スケートリンク」の看板が目に入った。
スケートなんて中学の遠足以来だけど、なんとなく入ってみた。1月4日の平日だからか、リンクはガラガラで3、4人しかいなかった。
貸靴を履いてリンクに出た瞬間、まあ見事に転んだ。
(あ、これ無理なやつだ…)
壁につかまりながらなんとか進むんだけど、3歩ごとに膝がガクッとなる。完全にバンビ。26歳のバンビ。情けなさすぎて笑えてきた。
そしたら、リンクの反対側でも誰かが盛大に転んだ。
ダウンジャケットにニット帽の女の子が、氷の上に四つん這いになってて、立ち上がろうとしてまた滑って、もう一回転んだ。
(あ、仲間がいた)
なんか嬉しくなって、壁伝いにそっちへ向かった。近づくと、その子もこっちを見てた。
「あの…もしかして、同じくらい滑れない感じですか…?」
「いや、たぶん俺のほうがひどい。さっき入って30秒で転んだから」
「私は靴履いた瞬間に転びました」
「それは勝てないわ」
二人で笑った。ニット帽の下の顔を見て、ちょっとドキッとした。今田美桜をもう少し丸顔にした感じ。目がくりっとしてて、笑うと八重歯がちょっと見える。身長は158くらいかな。
「壁から手離すと3秒で転ぶんですよね…」
「わかる。氷ってこんな滑るんだっけって毎回思う」
「あ、あのカップル見てください。めっちゃ上手くないですか?」
リンクの真ん中で、手を繋いでスイスイ滑ってるカップルがいた。
「あれ絶対フィギュアスケート経験者だろ…」
「私たちと同じ人間とは思えない…」
「進化の度合いが違う」
なんかこの子、テンポがいい。
壁につかまりながら二人で並んで滑り始めた。ていうか、滑ってるというより壁に沿って歩いてるだけだったけど。
「あっ」
また転びそうになったその子の腕を、とっさに掴んだ。
「すみません…ありがとうございます」
「いや俺も今ギリギリだったから…」
手を離すタイミングがわからなくて、なんかそのまま腕を掴んだ状態で壁沿いを進んだ。
(え、これ腕組んでるみたいになってない…?)
心臓がバクバクしたけど、相手は全然気にしてない感じで普通に話し続けてた。いや、ちょっと頬が赤い気もしたけど、寒さのせいかもしれない。
30分くらい一緒に滑って(歩いて)、休憩スペースのベンチに座った。
「一人で来たの?」
「はい。友達と温泉に来る予定だったんですけど、インフルになっちゃって。でもホテルもう予約してたし、一人で来ました」
「俺も一人。暇すぎて衝動的に来た」
「衝動的に草津って、フットワーク軽いですね」
「軽いんじゃなくて、正月に予定がなさすぎただけ…」
「あ、私もです。実家が近いんで帰省したけどやることなくて」
「実家どこ?」
「高崎です」
「えっ、俺高崎生まれ。今は東京だけど」
「えー!どこですか?」
「飯塚町」
「近い!私、中居町です」
まさかの地元トーク。出身中学を聞いたら違ったけど、よく行ってたイオン高崎が同じだった。
「あそこの3階のゲーセン、よく行きました」
「うわ、俺も。太鼓の達人ばっかやってた」
「えっ、私もです!」
(なにこの偶然…)
話が止まらなくなって、気づいたらリンクの営業終了のアナウンスが流れてた。
「あ、もう4時半か」
「えっ、もうそんな時間…」
靴を返して外に出ると、もう薄暗くなりかけてた。湯畑のほうからライトアップの光が見える。
「あの…よかったら、湯畑のライトアップ見に行きません?一人で見るのも寂しいし」
(えっ、誘ってくれるの…?)
「行こう。俺もちょうど見たかったし」
湯畑まで歩きながら、歳を聞いた。
「22です。今年の春から社会人です」
「俺26。4つ上か」
「全然見えない。同い年くらいかと思ってました」
「それ老けてるってこと?」
「違います!若く見えるってことです!」
「ほんとかよ…」
「ほんとですって!あ、もしかして彼女とかいます?」
「いないよ。半年前に別れてから寂しくこの世を生きてる」
「大げさ…笑」
「そっちは?彼氏」
「いないです。大学で一回付き合ったけど、半年で終わっちゃって」
湯畑はライトアップされてて、湯気の中に青い光が幻想的に…いや、正直そんなの見てなかった。隣を歩いてるこの子の横顔ばっかり見てた。
(やばい、めっちゃタイプだ)
湯畑の周りのベンチに座って、温泉まんじゅうを食べた。
「もう帰るんですか?東京まで遠いですよね」
「うん、3時間はかかるかな」
「気をつけてくださいね」
「あのさ…LINE交換しない?」
ちょっと間があった。
「…聞かれなかったら私から聞こうと思ってました」
その笑顔に、完全にやられた。
LINE交換して、「着いたら連絡しますね」って言って別れた。車に戻って、エンジンかけて、ステアリング握ったまま5秒くらいぼーっとした。
(いや、ちょっと待て。名前聞いてないし名乗ってもない)
すぐにLINEした。
「そういえば名前言ってなかった。俺、隆太郎です」
「あ!本当だ笑 私、ミオって言います。今日はありがとうございました!」
「スケート仲間ができて嬉しかった。また転びに行こう」
「ぜひ!笑」
帰りの関越道、ずっとニヤニヤしてたと思う。
その日からLINEが始まった。毎日。朝の「おはよう」から夜の「おやすみ」まで。
ミオちゃんは4月から都内のWeb制作会社に就職するらしい。大学は群馬県立女子大で、デザインを勉強してたって。卒論が忙しいって言いながらも、毎晩1時間は通話してくれた。
「隆太郎さんって営業なんですよね?忙しくないですか?」
「忙しいけど、ミオちゃんと話してるとなんか回復する」
「やだ、そういうの言うんだ…」
「事実だから仕方ない」
「…私もです。隆太郎さんと話すの、すごく楽しい」
1月の3週目、ミオちゃんが卒論の追い込みで東京の図書館に来るっていうから、終わった後にご飯に誘った。
新宿の居酒屋で会った。スケートリンクではダウンジャケットで分からなかったけど、白いニットの下、たぶんCかDくらいある。
(見るな見るな見るな)
「どうしました?」
「いや、スケートリンクの時と雰囲気違うなって」
「帽子かぶってましたからね。髪の毛ぺちゃんこだったし…」
今日は髪を下ろしてて、ゆるく巻いてあった。マジで今田美桜。
ビールを2杯飲んだあたりで、ミオちゃんの頬がピンクになってきた。
「あのね、隆太郎さん。一個聞いていいですか」
「なに?」
「私のこと…女として見てますか?」
(えっ、直球すぎない…?)
「…見てるよ。スケートリンクで転んでるの見た瞬間からたぶん」
「転んでるので好きになったんですか…」
「違う、そうじゃなくて…いや、あの瞬間は面白かったけど」
「もう…笑」
「ミオちゃんは…俺のこと」
「好きです。スケートリンクで腕掴んでくれた時から、ずっと」
あのとき掴んだの、完全にとっさだったんだけど。
「…付き合ってほしい」
「はい」
一瞬で答えが返ってきて、嬉しいのと同時に(え、こんなあっさり?俺なんかでいいの?)っていう困惑もあった。
店を出て、新宿駅まで歩く途中で手を繋いだ。ミオちゃんの手が小さくて冷たかった。
「隆太郎さん、手あったかい…」
「冷たいな。もっと早く繋げばよかった」
「…今日、帰りたくないな」
(いやいやいやいや)
「え、いやでもミオちゃん高崎に帰るんでしょ?終電」
「明日予定ないし…友達の家に泊まるって言えば大丈夫」
(マジで言ってんの…?)
心臓がうるさすぎて、自分の声がよく聞こえなかった。
「…俺の家、中野なんだけど」
「行きたいです」
中野のワンルーム。6畳。散らかってないのは奇跡だった(前日に掃除してた。デートの予感があったわけじゃなく、年始の大掃除の続きだったけど)。
「狭くてごめん」
「全然。一人暮らし感あって好きです」
缶ビールを2本出して、床に座って飲んだ。テレビをつけたけど全然見てなかった。
「隆太郎さん」
「ん?」
ミオちゃんが俺の肩に頭を乗せてきた。シャンプーの匂いがした。
「…キスしていい?」
「…うん」
唇が触れた瞬間、頭の中が真っ白になった。柔らかくて、ビールの味が少しした。
ミオちゃんのほうから舌を出してきて、俺も応えた。30秒、1分…時間の感覚がなくなった。
「…ん…はぁ」
唇を離すと、ミオちゃんの目がとろんとしてた。
「ミオちゃん…」
「触って…いいよ」
ニットの上から胸に手を置いた。思ったより柔らかくて大きかった。
「…直接触りたい」
ミオちゃんが自分でニットを脱いだ。薄いグレーのブラ。華奢な鎖骨と、ブラからはみ出そうなくらいの胸。
「カップ聞いていい…?」
「…Dです。見た目そんなにないでしょ?」
「いや、ある。めっちゃある」
ブラのホックを外すと、形の綺麗な胸が出てきた。乳首が薄いピンクで、もう少し立ってた。
指で触れると、ミオちゃんがびくっとした。
「あっ…敏感なんです、そこ…」
「ごめん、痛い?」
「痛くない…気持ちいい…」
乳首を指で転がしながらキスを続ける。ミオちゃんの息が荒くなってきて、俺のシャツを掴んでる手に力が入ってた。
ジーンズのボタンに手をかけると、ミオちゃんが自分で腰を浮かせてくれた。脱がすと、ブラとお揃いのグレーのショーツ。太ももが白くてすべすべで、ショーツの真ん中がちょっと濡れてた。
「触るよ…」
ショーツの上からゆっくり触ると、ミオちゃんが太ももを閉じた。
「恥ずかしい…」
「嫌だったらやめる」
「嫌じゃない…恥ずかしいだけ…」
指をショーツの横から入れると、すごく濡れてた。クリに触れるとミオちゃんの腰がびくってなった。
「んっ…あ…」
ゆっくりクリを撫でながら、乳首を舐める。ミオちゃんが俺の頭を抱えるようにして、小さい声で喘いでた。
「隆太郎さん…やば…」
「いい?」
「いい…もっと…」
中指を入れると、きゅって締まった。ゆっくり出し入れしながらクリを親指で刺激する。
「あっ…んんっ…だめ…なんか来る…」
「いっていいよ」
「あっ…あっ…!」
ミオちゃんが俺の腕を掴んで、体を震わせた。太ももが閉じて、俺の手を挟む。
「はぁ…はぁ…すごい…」
しばらく荒い息のまま、ミオちゃんが目を開けた。
「隆太郎さんも…脱いで」
俺が服を脱ぐ間に、ミオちゃんがショーツを脱いだ。ベッドに移動して、ミオちゃんが俺の下に来た。
「ゴムつけるね」
「…うん」
コンビニで買ってあったやつ(本当にたまたまカバンに入ってた。嘘じゃない。いや嘘かも。いや本当に)を装着した。
(信じられない。2週間前にスケートリンクで転びまくってた子と今こうなってるなんて)
先端を当てると、ミオちゃんが息を止めた。
「力抜いて…ゆっくり入れるから」
「うん…」
ゆっくり入れていくと、狭くて熱くて、頭がおかしくなりそうだった。
「あっ…大きい…」
「痛い?」
「ちょっと…でも大丈夫…動いて」
ゆっくり腰を動かし始めると、ミオちゃんが目を閉じて声を漏らした。
「ん…あっ…気持ちいい…」
キスしながら腰を動かす。ミオちゃんが俺の背中に手を回して、爪を立てた。
「隆太郎さん…好き…」
「俺も…好きだよ」
言いながら(こんなに早く好きって言っていいのかな)って、どこかで冷静な自分がいた。でも体は止まらなかった。
ミオちゃんが足を絡めてきて、密着度が上がった。
「やば…そろそろ…」
「うん…いいよ…」
最後に深く入れて、全身の力が抜けるような感覚と一緒に出した。
「はぁ…」
「…気持ちよかった」
「ミオちゃんは?大丈夫だった?」
「大丈夫。すごく…よかった」
ミオちゃんが笑って、俺の胸に顔を埋めた。
しばらく抱き合ったまま、ぼーっとしてた。
「ね、もう一回…したい」
「え…もういけるの?」
「私は全然。隆太郎さんは?」
正直言うと、ミオちゃんの裸を見てたらもう回復してた。
2回目はミオちゃんが上になった。さっきより慣れたのか、腰の動かし方がエロくて頭がクラクラした。
「こう…?気持ちいい?」
「やばい…上手すぎ…」
「うそ。2回目なのに…あっ…ん…」
ミオちゃんが自分で腰を動かしながら、どんどん声が大きくなっていった。俺は下から胸を触りながら、ミオちゃんの腰に手を添えた。
「だめ…イきそう…」
「俺も…一緒にイこう」
「うん…あっ、あっ…!」
ミオちゃんが前に倒れ込んできて、そのまま二人で果てた。
2回目は1回目より全然気持ちよくて、なんていうか、もう離したくないって思った。
汗だくのまま、布団に潜り込んだ。
「隆太郎さん、私すごく幸せ…」
「俺も。正月に予定なくてよかった」
「スケートリンクで転んでよかった」
「それは怪我しなくてよかっただけだろ」
「ふふ…おやすみ」
「おやすみ」
そのまま眠った。朝起きたらミオちゃんが先に起きてて、俺のキッチンで卵焼きを作ってた。
「おはよう。調味料少なすぎて味付け醤油しかなかった」
「自炊しないのバレた…」
「知ってた。冷蔵庫にビールしか入ってなかったし」
醤油味の卵焼きが、今まで食べたどの卵焼きより美味かった。たぶん気のせいだけど。
ミオちゃんを高崎行きの新幹線に乗せて見送った。改札の前で、ちょっとだけキスした。
「4月になったら東京に引っ越すから。そしたらいっぱい会えるね」
「待ってる」
ここまでは完全にいい話だったんだ。
問題は2週間後に起きた。
その日、俺は新規の取引先に初訪問する予定だった。渋谷にあるWeb制作会社で、うちの会社のシステムを導入する案件。上司の田中課長と一緒に行った。
先方のオフィスに通されて、担当者が来るのを待ってた。
ドアが開いて、先方の社長が入ってきた。50代くらいの温厚そうなおじさん。名刺交換して、世間話をして、そしたら社長が言った。
「うちの娘が4月から入社するんですが、今日インターンで来てるので同席させてもいいですか?」
「もちろんです」
田中課長も「ぜひ」と言った。
ドアが開いた。
入ってきた子を見て、俺は固まった。
(……ミオちゃん?)
ミオちゃんも俺を見て、完全にフリーズしてた。
「あ…」
社長(ミオちゃんのお父さん)が紹介する。「娘のミオです。春から入ります」
ミオちゃんが名刺の代わりに頭を下げた。顔が真っ赤だった。
(いや待て待て待て。ミオちゃんがWeb制作会社に就職するって聞いてた。でもお父さんの会社だったのかよ)
俺は平静を装って商談を進めたけど、頭の中はパニックだった。田中課長は気づいてない。ミオちゃんは議事録をとるフリをしながら、ずっと下を向いてた。
商談が終わって、エレベーターホールで見送られた。田中課長が先にエレベーターに乗って、俺が最後に入ろうとした瞬間、ミオちゃんが小声で言った。
「LINEする…」
エレベーターが閉まって、田中課長が言った。「社長のお嬢さん、すごい可愛かったな」
「…そうですね」
会社に戻って、すぐにLINEが来た。
「どうしよう…笑」
「笑い事じゃない…社長の娘って聞いてないんだけど」
「言ってなかった…ごめんなさい。パパの会社に入るの恥ずかしくて」
「いや、それはいいんだけど…俺、取引先の社長の娘と付き合ってることになるの?」
「なりますね…笑」
「笑ってる場合か」
「だって隆太郎さんの顔、面白すぎたんですもん。会議中ずっと笑いこらえてました」
「俺はずっと心臓止まりそうだったんだけど」
正直、かなり焦った。取引先の社長の娘と寝てるとか、バレたら仕事に影響する。しかもこれから何回もその会社に行かなきゃいけない。
「会うのやめたほうがいいですか…」
「…やめたくない」
「私もやめたくない」
「でもバレたら」
「パパは優しい人ですよ。怒らないと思う。っていうか…パパ、私に彼氏ができるの待ってるんです。笑」
「社長に認められるかどうかの話じゃなくて、取引関係に影響が」
「大丈夫。パパはそういうの分けて考える人だから」
ミオちゃんがそう言うから、少し安心した。でもまだモヤモヤは消えなかった。
結局、その後もミオちゃんとは週末に会い続けた。4月にミオちゃんが東京に来てからはほぼ毎日。バレないように気を使いながら。
取引先への訪問は月に1回くらいあって、そのたびにミオちゃんと顔を合わせるんだけど、二人とも完璧に他人のフリをした。ミオちゃんが「お茶をお持ちしました」って持ってくるときだけ、指が一瞬触れた。それだけで心臓がうるさかった。
(この状況、なんかドラマみたいだな…)
でも俺はドラマの主人公みたいなスペックじゃない。ただの法人営業の平社員だ。
6月。ミオちゃんのお父さんから食事に誘われた。取引の話かと思ったら、個人的な食事だと。
(これ、バレてるやつだ)
新橋の寿司屋。カウンター。社長と二人。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
社長はビールを注ぎながら言った。「隆太郎くん、うちのミオと付き合ってるんだって?」
(やっぱりバレてた)
「…はい。申し訳ありません」
社長は笑った。「なんで謝るの。娘が幸せそうだから嬉しいよ」
「え…」
「ミオが彼氏の話をする時の顔、見たことなかったんだよ。母親には話してたらしいけど、俺には隠してたから。でも分かるよね、父親だもん」
「すみません、取引先の関係もあるのに…」
「それとこれは別。仕事は仕事。でもさ…」社長がちょっと真面目な顔になった。「娘を泣かせたら、取引は切るからね」
「…肝に銘じます」
「冗談だよ。半分くらいは」
半分マジじゃないですか。
帰り道、ミオちゃんに電話した。
「お父さんに呼び出された」
「えっ!大丈夫だった?」
「認めてもらえたっぽい。泣かせたら取引切るって言われたけど」
「パパ…笑 ごめんね、でも嬉しい」
「俺も嬉しい。ミオちゃん、週末うち来ない?」
「行く。今度はちゃんとした料理作ってあげるから、調味料買っといてね」
「了解。何がいる?」
「全部」
「冷蔵庫にビールしかなかったもんな…」
スケートリンクで転びまくってた日から半年。まさかあの日が人生を変えるとは思ってなかった。
正月に予定がないのも、スケートが下手なのも、取引先の社長の娘と知らずに付き合ったのも、全部含めて結果オーライだった。
今もミオちゃんとは付き合ってます。来月、二人でまた草津に行く予定。もちろんスケートリンクに寄る。今度は転ばない…と思いたいけど、たぶん転ぶ。
読んでくれてありがとうございました。