大学2年の夏の話。たぶん一生忘れないと思うから書いておく。
俺はどこにでもいるような大学生で、身長172、顔面偏差値はたぶん48くらい。高校からサッカーを続けてて、大学でもサークルじゃなくて体育会のサッカー部に入った。関東2部リーグの下の方をうろうろしてるようなチームで、推薦組に混じってギリギリベンチに入れるかどうかっていうレベル。まあ要するに、部内でも目立たない存在だった。
で、うちの部にはマネージャーが4人いて、その中に「さくら」っていう同学年の子がいた。
さくらは――正直に言うと、橋本環奈の高校時代をもうちょっとだけ大人っぽくした感じ。身長155くらいで、目がくりっとしてて、笑うと目尻がちょっと下がるのがやばい。Cカップくらいだと思うんだけど、華奢な体に対してちょうどいいバランスで、ユニフォームのポロシャツがいい感じにぴったりしてた。
当然、部内の男子は全員さくらのこと意識してた。でも部長の山田がさくらに猛アプローチしてるのはみんな知ってたし、俺みたいなのが入り込む余地なんかないと思ってた。
8月の中旬、長野県の菅平高原で4泊5日の夏合宿があった。
毎年恒例の地獄合宿で、朝6時から走って午前練して午後練して、夜はミーティングで怒られて、寝て起きたらまた走るっていうやつ。宿は民宿を丸ごと借り切りで、男子が2階、マネージャーと監督が1階っていう配置だった。
3日目の午後練で、俺は右足首をやった。
味方とボールを競り合った拍子に変な角度で着地して、グキッといった。捻挫だった。歩けないほどじゃないけど、テーピングぐるぐるで翌日の練習は無理、と監督から言い渡された。
合宿4日目。チームは近くの大学との練習試合で朝から出払った。
俺は宿に残されて、1階の大広間でアイシングしながらスマホいじってた。民宿のおばちゃんが「お昼はそうめん置いとくからね」って言ってくれたのがありがたかった。
(暇だな…)
ごろごろしてたら、玄関の方でバタバタ音がした。
「あ、やっぱいた。足、大丈夫?」
さくらだった。
「え、なんでいんの?試合は?」
「私は今日サポート要員だから、向こうに行くのは3年生のマネだけでいいって言われて。で、怪我人の面倒見てきなさいって監督に言われたの」
「面倒って…俺一人なんだけど」
「うん、知ってる」
さくらは何でもないみたいに笑って、俺の隣に座った。
(いや待って。二人きり?この宿で?今日一日?)
心臓がうるさかった。でも顔に出さないように、足のテーピングを見つめてた。
「氷替えようか?もう溶けてない?」
「あ、うん…もうぬるくなってた」
さくらが台所から氷を持ってきて、アイシング用の袋に詰め替えてくれた。慣れた手つきで、足首にそっと当ててくれる。
「腫れ、昨日よりマシになってるね」
「そうなの?」
「うん。でも今日はおとなしくしてなよ。明日の最終日は軽めのメニューだから、見学くらいなら出られるかも」
近い。さくらの髪からシャンプーの匂いがした。
昼にそうめんを一緒に食べた。合宿中って基本大人数でガチャガチャしてるから、二人で静かにご飯食べるのが新鮮だった。
「ね、聞いていい?なんでサッカー部入ったの?推薦じゃないのにきつくない?」
「いや、まあきついけど…高校の時に関東大会で負けたのが悔しくて。大学でもちゃんとやりたかった」
「へえ…ちゃんとしてるんだね」
「ちゃんとはしてない。ベンチ外の方が多いし」
「でもさ、練習いっつも最後まで残ってるじゃん。それちゃんとしてるって言うんだよ」
(え、見てたの…?)
動揺を隠すためにそうめんをすすった。むせた。最悪だ。
「大丈夫?笑」
「…つゆが変なとこ入った」
午後はさくらが持ってきたトランプで大富豪をやった。二人で大富豪やってもあんまり面白くないんだけど、なぜかめちゃくちゃ盛り上がった。さくらは負けるとすぐ「もう一回!」って言うタイプで、気づいたら3時間くらい経ってた。
「あーもう6時だ。夜ご飯どうする?おばちゃんがカレー作っといてくれるって言ってたけど」
「カレーいいじゃん。今日何食べてもうまいわ」
「何それ笑」
夕飯を食べ終わって、外が暗くなった。民宿の周りは本当に何もなくて、虫の声しか聞こえない。みんなが帰ってくるのは21時過ぎだと連絡が来てた。
「ね、お風呂先入っていい?」
「どうぞ」
さくらが風呂場に向かった。この民宿の風呂は家庭用よりちょっと広いくらいの、脱衣所と浴室が一つずつしかないタイプ。普段は男女で時間を分けて使ってた。
スマホをいじりながら待ってたら、風呂場の方からガタンッて音がした。
「っ…!」
「さくら?大丈夫?」
返事がない。
「おい、さくら?」
「…ごめん、ちょっと…滑って…」
声が小さい。やばいかもしれない。
「入るぞ」
脱衣所のドアを開けた。浴室の曇りガラス越しに、さくらが床に座り込んでるのが見えた。
「来ないで!大丈夫だから…たぶん」
「たぶんって何だよ。立てんの?」
「…腰打った。ちょっと待って…」
立とうとしてまた滑りかけてる音がした。
(いやこれ放置できないだろ)
「目つぶってるから。手だけ出して」
浴室のドアを少し開けて、目をつぶったまま手を差し出した。さくらの濡れた手が俺の手を掴んだ。
引っ張り上げようとしたら、さくらがバランス崩して、俺にもたれかかってきた。
濡れた体が俺のTシャツに密着して、一瞬で全部わかった。柔らかい感触が胸に押し付けられてる。
「ご、ごめんっ…!」
「いや俺が目つぶってるから大丈夫。タオル、どこ」
「右の…棚…」
手探りでタオルを取って、さくらに渡した。さくらが体に巻いたのを確認してから目を開けた。
さくらは真っ赤な顔でタオルを胸の前で握りしめてた。髪から水滴が落ちてて、鎖骨のあたりが光ってて、目を合わせられなかった。
「…腰、マジで大丈夫?」
「うん…打っただけだと思う。ありがとう…」
「おう。じゃあ俺、出てるから」
脱衣所を出て、廊下に座り込んだ。心臓がばくばくしてた。Tシャツはびしょ濡れで、さくらの体温がまだ残ってる気がした。
(落ち着け。今のは事故だ。何でもない)
でも全然落ち着かなかった。
20分くらいして、さくらが髪を乾かして出てきた。部屋着のTシャツに短パンっていう格好で、普段の練習着とは違う感じがなんか妙にドキドキした。
「…さっきはごめんね。びっくりしたでしょ」
「いや、何も見てないから。マジで」
「…ほんとに?」
「ほんとに」
嘘だけど。いや、目はつぶってたけど。触感は嘘つけない。
「…ねえ」
「ん?」
「お風呂、まだ入ってないでしょ。足痛いなら、私が…洗うの手伝おうか」
(は?)
「いや、いいよ。一人で入れるし」
「でも床滑るよ?私さっき滑ったじゃん。足悪いならもっと危ないよ」
理屈は通ってる。通ってるけど。
「いや…でも…」
「さっき私のこと助けてくれたでしょ。おあいこってことで」
さくらの目がまっすぐこっちを見てた。冗談っぽい口調だったけど、目は笑ってなかった。
(これ、断ったら逆に気まずくなるやつだ)
…って自分に言い訳した。本当は断りたくなかっただけだ。
「…じゃあ、背中だけ」
「うん」
浴室に二人で入った。さくらはさっきの部屋着のまま、俺は一応タオルを腰に巻いた。さくらが椅子を持ってきてくれて、座った状態で背中を流してくれた。
「背中おっきいね」
「そう?」
「うん。練習で見てるけど、こうやって近くで見ると全然違う」
さくらの手がスポンジ越しに背中を滑る。力加減が優しくて、マッサージみたいだった。
「…さくらさ」
「ん?」
「山田先輩と付き合ってんの?」
聞いてから後悔した。なんでこのタイミングで聞くんだよ俺は。
「…付き合ってないよ」
「でもあの人めっちゃアプローチしてるじゃん」
「うん、知ってる。でも私、山田さんは先輩としか見れないから。断った」
「え、断ったの?」
「3ヶ月前に。…なんでそんなこと聞くの?」
「いや…別に」
「ふーん」
背中を流す手が止まった。
「…ねえ、こっち向いて」
振り返ると、さくらのTシャツがお湯で濡れて体のラインが全部出てた。さっきの事故の比じゃない。透けた下着の色まで見えて、視線のやり場がなかった。
「…見てるじゃん」
「いや、だって…濡れてるし…」
「わざとだよ」
(え?)
さくらが一歩近づいてきた。
「私ね、ずっとあんたのこと見てたの。練習でいつも最後まで残ってるのも、試合に出れなくても腐らないのも。山田さん断ったのもあんたのせいだよ」
頭の中が真っ白になった。
「…俺のせい?」
「うん。好きだから」
言われた瞬間、膝から力が抜けそうになった。こっちは足首捻挫してるのに、別の理由で立てなくなりそうだった。
「…マジで言ってる?」
「マジで言ってる。嘘だったら合宿の日に二人きりで残ったりしない」
(待って。ってことは、監督に言われたからじゃなくて、自分で志願した…?)
さくらが俺の手を取った。小さくて温かい手だった。
「返事は…今じゃなくてもいいけど」
「いや」
「え」
「今がいい。俺も好き。ずっと…言えなかっただけで」
さくらの目がみるみる潤んでいった。
「…ばか。もっと早く言ってよ」
「山田先輩怖いし…」
「そういうとこだよ…」
泣き笑いみたいな顔で、さくらが俺の胸に頭を預けてきた。濡れたTシャツ越しに伝わる体温が熱かった。
そのまま、自然にキスした。
ぬるいお湯の匂いと、さくらの唇の柔らかさが混ざって、頭がぼんやりした。
「ん…」
短いキスだった。離れた時、さくらの目が潤んでて、でもちゃんとこっちを見てた。
「…もう一回、いい?」
「…うん」
今度はもう少し長く。唇を重ねたまま、さくらの腰に手を回した。濡れたTシャツの上から触れる体の線が、頭のどこかをおかしくしていった。
さくらの舌がおずおずと入ってきて、俺も応えた。
「…ん、は…」
唇が離れる度に、また求めてしまう。さくらも同じだったみたいで、自分から顔を近づけてきた。
「…場所変えない?」
「…うん」
浴室を出て、体を拭いて、1階の和室に移動した。布団はもう敷いてあった。おばちゃんが帰る前に準備してくれてたやつだ。
さくらが濡れたTシャツを脱いだ。下着だけの姿を見て、心臓が痛いくらいに跳ねた。白いブラから覗く胸の谷間と、くびれたウエスト、ちょっとだけぷにっとしたお腹。完璧だった。
「…そんな見ないでよ」
「ごめん…綺麗すぎて」
「…ばか」
布団の上に座って、また唇を重ねた。さくらの背中に手を回して、ブラのホックに指をかける。
「…いい?」
「…ん」
小さく頷いた。ホックを外すと、形の良い胸がこぼれた。Cカップって言ってたけど、間近で見るとそれ以上に見えた。薄いピンクの先端がちょっとだけ硬くなってて、もう我慢できなかった。
「触るよ…」
右手で包むように触れた。柔らかくて、でも張りがあって、手のひらに吸い付くみたいだった。
「あ…」
親指で先端をなぞると、さくらがびくっとした。
「…ん、そこ…敏感で…」
「ここ?」
「んっ…う、うん…」
口に含んだ。舌で転がすと、さくらの体が小さく震えた。
「やっ…だめ、変な声出ちゃう…」
「出していいよ。誰もいないし」
「…ばかっ…ん、あ…」
さくらが俺の頭を抱えるように手を回してきた。もっと、って言ってるみたいだった。
左手を下に滑らせて、ショーツの上から触れた。布越しでもわかるくらい、湿ってた。
「…っ、そこは…」
「濡れてる」
「言わないでよっ…恥ずかしいから…」
真っ赤な顔で俺の肩を叩いてきた。でも脚は閉じなかった。
ショーツの中に手を入れた。指が触れた瞬間、さくらが息を呑んだ。
「あっ…」
滑りがすごくて、指がすんなり入っていく。中はきゅっと締まってて、温かかった。
「…痛くない?」
「ん…大丈夫…もうちょっと奥…」
ゆっくり動かすと、さくらの息が荒くなっていった。腰が小さく動いてるのが、たまらなかった。
「はっ…ん、気持ちいい…」
「さくら…俺、もう限界なんだけど」
「…私も。ね…して」
「ゴム…ないけど」
「…え」
二人とも固まった。合宿にゴム持ってくるやつがいるか?いや、いるかもしれないけど俺は持ってきてない。
「…外に出してくれたら、いいよ」
「…ほんとに?」
「うん。…したい」
さくらがショーツを自分で脱いだ。布団の上に横になって、おずおずと脚を開いた。目を逸らしながら、でも逃げない。その顔を見たら、大事にしなきゃいけないって心の底から思った。
先端を当てた。さくらの手が俺の腕を掴んだ。
「ゆっくり入れるから」
「…うん」
少しずつ押し込んでいった。きつくて、熱くて、頭がどうにかなりそうだった。
「んっ…あ…ちょ、ちょっと待って…」
「痛い?止める?」
「痛くない…けど、すごい…いっぱい…」
少し待って、さくらが頷いたから、また動いた。ゆっくり、奥まで。
「あっ…あ…」
全部入った時、さくらが俺の首に腕を回してきた。耳元で荒い息が聞こえて、鳥肌が立った。
「動くよ」
「うん…」
腰を引いて、押し込む。さくらの中がぎゅうっと締まって、声にならない声が漏れた。
「ん…はっ…気持ちいい…」
(うそだろ。今、さくらと…)
信じられなかった。朝、足首のアイシングしてた時には想像もしてなかった。この子が自分の下にいて、自分の名前を呼んでるなんて。
「さくら…」
「もっと…もっと来て…」
ペースを上げた。さくらの声が大きくなって、爪が背中に食い込んだ。
「あっ、あっ、だめ…奥、当たって…っ」
「痛い?」
「ち、違う…気持ちいいの…やばいっ…」
さくらの体がぶるっと震えて、中がきゅうっと締まった。俺ももう限界だった。
「やばい…出そう…」
「外に…ね…?」
「うん…っ」
ぎりぎりで抜いて、さくらのお腹の上に出した。自分でもびっくりするくらい出た。
「…いっぱい出たね」
「…ごめん」
「謝んないでよ。…私も、気持ちよかったから」
さくらが笑った。汗で髪が額に張り付いてて、頬が紅潮してて、今まで見た中で一番きれいだった。
ティッシュでさくらのお腹を拭いてあげた。さくらが「自分でやるよ」って言ったけど、やらせてもらった。なんかそうしたかった。
布団に並んで横になった。窓の外から虫の声が聞こえる。菅平の夜は東京と違って涼しくて、開けた窓から入ってくる風が汗ばんだ肌に気持ちよかった。
「ね…私のこと、いつから意識してた?」
「…1年の秋くらい。インカレ予選で負けた後、俺だけベンチでぼーっとしてたら、さくらがスポドリ持ってきてくれたじゃん。あの時」
「覚えてるんだ…」
「そりゃ覚えてるよ。みんな先に帰ったのに、一人だけ残ってくれて。あの時何て言ったか覚えてる?」
「覚えてないかも…」
「『試合は負けたけど、今日の後半の守備すごいよかったと思う。私ちゃんと見てたから』って」
「…そんなこと言ったっけ」
「言った。あの一言がなかったら、たぶん部活辞めてた」
「…っ」
さくらが布団の中で俺の方に体を寄せてきた。肩に頭を乗せて、小さい声で言った。
「…辞めなくてよかった」
「うん」
しばらく黙ってた。時計を見たら20時半だった。みんなが帰ってくるまであと1時間もない。
「…あのさ。合宿終わったら、ちゃんとデートしよう」
「何それ笑。順番逆だよ」
「今更だけど」
「…うん。行こう」
「あと、山田先輩にはちゃんと俺から言う」
「…大丈夫なの?」
「わかんない。殴られるかも」
「やめてよ怪我増えるじゃん」
「足首と顔面、同時に怪我してるやつ面白くない?」
「面白くないよ!」
さくらが笑いながら俺の胸を叩いた。
その後、みんなが帰ってくる前にさくらは1階の自分の部屋に戻った。俺は何食わぬ顔で2階の部屋で足を冷やしてた。同部屋の田中が「一日何してたの?」って聞いてきたから「寝てた」って答えた。
翌日の最終日、練習を見学してる時にさくらと目が合った。さくらがちょっとだけ笑って、すぐに目を逸らした。
(やべ、にやける)
帰りのバスで、たまたま隣の席になった。たまたまじゃなかったかもしれないけど。
さくらがイヤホンの片方を差し出してきて、二人で音楽を聴きながら練馬インターまでの3時間を過ごした。途中でさくらが寝落ちして、俺の肩にもたれてきた。
後ろの席の山田先輩の視線が痛かったけど、もうどうでもよかった。
合宿から帰った翌週、俺は山田先輩を練習後に呼び出して「さくらと付き合います」と報告した。先輩は5秒くらい黙ってから「お前、レギュラー取ってから言えよそういうのは」って言って、殴らなかった。代わりにその日からパス回しでめちゃくちゃ厳しくなったけど、それはまた別の話だ。
あの菅平の夜から3年経った。さくらとはまだ付き合ってる。
来年から俺は都内のメーカーに就職が決まってて、さくらはあと1年大学が残ってるけど、二人とも辞める気はない。たまに合宿の話になると、さくらは「あの日わざと滑ったって思ってるでしょ」って言う。
「ほんとに滑ったんだからね?」
毎回そう言うけど、真相は今でもわからない。
でもまあ、どっちでもいい。あの夏、菅平の民宿で過ごした一晩が、俺の人生を変えたのは間違いないから。