経理の地味な後輩が俺の好みに寄せてきてることに半年も気づかなかったおっさんの末路

これは俺が36のときの話です。

36歳、バツイチ、子なし、品川区の1Kで一人暮らし。趣味は競馬と缶ビール。身長は171で、顔面偏差値はたぶん48ぐらい。よく言えば「普通」、悪く言えば「いてもいなくても変わらないおっさん」。それが俺です。

勤め先は五反田にある中堅の建材メーカーで、俺は経理課の課長をやってました。課長って言っても部下は4人しかいないし、やることは月次決算と予算管理と、たまに営業の経費精算にケチつけるぐらいのもんで、まあ地味な仕事です。

で、その4人の部下のうちの一人が、入社2年目の宮野さん(仮名)でした。

宮野さんは、一言で言うと「真面目」。もう少し言うと「真面目すぎて逆に心配になる」タイプの子。黒髪をいつもひとつに結んで、メガネかけて、スーツは入社式のときに買ったやつをずっと着回してるような感じ。化粧もほぼしてないから、正直言って最初は顔もよく覚えてなかった。

ただ、仕事は本当にできる子だったんですよ。

入社1年目から仕訳の精度がやたら高くて、消費税の端数処理で他の人が間違えるようなところも絶対に間違えない。俺が3回チェックして見つけられなかった営業部の二重計上を、宮野さんが1発で見つけたこともあった。

(この子、俺より経理の才能あるんじゃないか…)

そう思ったのが、たぶん最初に宮野さんを「個人」として認識した瞬間だった気がする。

で、ここからが本題なんですけど。

入社2年目の6月ぐらいから、宮野さんがちょっとずつ変わり始めたんですよ。

最初に気づいたのは、メガネ。ずっと銀縁の四角いやつだったのが、いつの間にか丸みのある茶色のフレームに変わってた。でもまあ、メガネ変えるくらい誰でもあるじゃないですか。気にもしなかった。

次に変わったのは、髪。ひとつ結びだったのが、ハーフアップになった。後ろの髪が下りてると、なんか雰囲気違うなぁとは思ったけど、それだけ。

夏が過ぎて秋になると、スーツがちょっと違うのに気づいた。前はグレーの無地ばっかりだったのが、ネイビーとか、薄いストライプとか。ブラウスの色も白一辺倒から、たまにベージュとかくすんだピンクとか。

でもね、俺は気づかなかったんですよ。

いや、「変わったな」とは思ってたんだけど、それが俺に関係あることだとは1ミリも思わなかった。36歳のバツイチのおっさんに、24歳の後輩が好意を寄せるなんて、発想自体がなかったから。

これに気づいたのは、同期の営業部の田中(仮名)に飲みの席で言われたからです。

あれは10月の金曜日、五反田の「鳥貴族」で。仕事終わりに二人で飲んでたとき。

「いや最近さ、宮野さんが仕事できすぎて逆に俺の存在意義がわかんなくなってきた」

田中がニヤニヤしながら聞いてきた。

いや違う、これは田中の台詞か。田中は俺と同い年で、顔はまあ向井理の劣化版みたいな感じで、離婚歴はないけど彼女もいない。

「お前さ、宮野さんの変化に気づいてないの?」

「変化?メガネ変えたとか?」

「それもだけど、もっと根本的なとこ。あの子、お前の好みに寄せてきてんだよ」

「は?」

「お前さ、前に飲み会で『芸能人で誰がタイプ?』って聞かれたとき、なんて答えた?」

「えーと…たしか新垣結衣…?」

「そう。で、『どういうとこが?』って聞かれて、お前なんて言った?」

「覚えてない…」

「『丸メガネが似合いそうなとこ。あと黒髪のハーフアップが最強。服はネイビーが好き』って、めちゃくちゃ具体的に語ってたんだよ」

「…」

「で、宮野さん、今どんな感じ?」

「……丸メガネで…ハーフアップで…ネイビーのスーツ…」

「な?」

鳥貴族のメガハイボールを持つ手が、ちょっと震えた。

(いやいやいや。偶然だろ。たまたまだろ。そもそも俺なんかのために外見変えるわけないだろ)

「お前さ、鈍感通り越して罪だぞ。あの子、半年かけてじわじわ変えてきてんだから。気づかれてないの、たぶんめちゃくちゃ凹んでると思うぞ」

その夜、帰りの京急線の中で、ずっと考えてた。

宮野さんの顔を思い浮かべようとしたんだけど、不思議なことに、メガネを変える前の顔が出てこない。いつの間にか、今の宮野さんの顔しか浮かばなくなってた。

丸メガネの奥の、ちょっとタレ目がちな目。仕訳の数字を追ってるときだけ、微妙に眉間にシワが寄る癖。俺が「ここ合ってるよ」って言うと、ほんの少しだけ口角が上がる、あの控えめな笑い方。

(…やばい)

36のおっさんが電車の中で一人で赤面してるの、客観的に見たらだいぶキモいと思う。

翌週の月曜日。

俺は朝から宮野さんのことが気になって仕方なかった。意識した途端にこれだから、男ってほんと単純。

朝、宮野さんが「おはようございます」って席について、パソコン立ち上げて、いつも通りExcelを開いて。その横顔をチラチラ見てる自分がいて。

(気持ち悪いな俺…上司がこれは普通にアウトだろ…)

でも気になるもんは気になるんですよ。

昼休み、宮野さんが自席で弁当を食べてるのを見て、初めて気づいたことがあった。

宮野さん、いつも弁当を自分で作ってきてるんだけど、その弁当箱が新しくなってた。前は普通のプラスチックのやつだったのが、木の曲げわっぱになってる。

で、中身。鮭の塩焼き、卵焼き、ほうれん草の胡麻和え、ミニトマト。

…これ、前に課の飲み会で「好きなおかずは?」って話題になったとき、俺が挙げたやつじゃないか?

(偶然…だよな…?)

いや、鮭と卵焼きなんて誰でも入れるか。考えすぎだ。

でもその週、水曜日の弁当が「唐揚げとナポリタンと浅漬け」で、金曜日が「肉じゃがとだし巻き卵」で。

全部、俺があの飲み会で言ったやつだった。

(これは…偶然じゃない…よな…?)

心臓がうるさかった。でも、直接聞けるわけがない。「もしかして俺の好みに合わせてます?」なんて言って、違ったら終わりだし、合ってたとしても上司が部下にそれ聞くのは色々まずい。

そんなことを考えながら仕事してたら、ミスをした。月次の減価償却費の計上を間違えるなんて、新人でもやらないレベルのやつ。

「あの、課長。この数字、前月の償却率のままになってます」

「あ…ほんとだ。ごめん、ありがとう」

「いえ。…課長、最近ちょっとお疲れですか?」

「え?いや、大丈夫」

「あの…無理しないでくださいね」

宮野さんがそう言って、小さく微笑んだ。

丸メガネの奥の目が、ちょっとだけ潤んでるように見えた。

(…好きだ)

唐突に、そう思った。もう認めるしかなかった。36歳のバツイチのおっさんが、12歳下の部下に完全に落ちた。

でも、だからこそ動けない。

俺は上司で、向こうは部下。12歳の年の差。バツイチ。しかも宮野さんが俺の好みに寄せてるっていうのも、田中の推測でしかない。万が一勘違いだったら、宮野さんの居場所を奪うことになる。

11月に入って、決算の準備で残業が増えた。

宮野さんは相変わらず正確な仕事をしてくれてたけど、ある日、21時過ぎまで残ってたとき。オフィスには俺と宮野さんの二人だけになった。

「課長、コーヒー飲みますか?」

「あ、ありがとう。もらうわ」

宮野さんが給湯室でコーヒーを淹れてきてくれた。ブラック。

「…あれ、ミルクと砂糖は?」

「課長、ブラック派ですよね?」

「よく知ってるね」

「それぐらいは…」

宮野さんがちょっと俯いた。耳が赤くなってるのが見えた。

沈黙。キーボードを叩く音だけが響く。

「宮野さんさ」

「はい」

「最近、なんか雰囲気変わったよね」

言ってから、しまったと思った。でももう遅い。

「…気づいて、ました?」

その声が、少し震えていた。

「遅くなって、ごめん」

自分でも何を謝ってるのかよくわからなかった。でも、半年も気づかなかったことが、申し訳なかった。

「…遅いです。ほんとに遅いです」

宮野さんがメガネを外して、目を擦った。泣いてた。

「半年ですよ。半年かけて、少しずつ変えたんです。一気に変えたらバレるから、少しずつ。でも課長、全然気づいてくれなくて」

「…」

「メガネも、髪型も、服も、お弁当も。全部、課長が好きって言ってたものにしたのに」

「弁当も…やっぱりそうだったのか」

「当たり前です。曲げわっぱだって、課長が『弁当箱は木がいいよな』って言ってたから…」

(そんなことまで覚えてたのか…)

宮野さんがメガネをかけ直して、真っ赤な顔で俺を見た。

「私、課長のことが好きです。入社したときからずっと」

真正面から言われた。逃げ場がなかった。

「俺は…36だぞ。バツイチだし」

「知ってます」

「12も離れてる」

「数えられます」

「上司と部下だし、会社にバレたら」

「そういう話を聞いてるんじゃないです」

宮野さんの目が、仕訳の間違いを指摘するときと同じ、鋭い目になった。

「課長は、私のこと、どう思ってるんですか」

逃げられなかった。というか、逃げたくなかった。

「…好きだよ。田中に言われて気づいた時点で、もう手遅れなぐらい」

「田中さんに…?」

「先月、飲みの席で。『お前、宮野さんの変化に気づいてないのか』って」

「あの人…余計なこと…」

「いや、田中のおかげだよ。あいつに言われなかったら、俺たぶんまだ気づいてない」

「…それはそれでムカつきますけど」

宮野さんが笑った。泣きながら笑ってた。

「でもさ、本当にいいのか?俺で」

「課長以外にいないです」

「…」

この時、俺がどんな顔してたか自分ではわからないけど、たぶんだいぶ情けない顔だったと思う。36のおっさんが24の女の子に告白されて、嬉しくて泣きそうになってたから。

「帰ろうか」って言って、二人で会社を出た。

11月の五反田は、もう結構寒かった。宮野さんがコートの襟を立てて、隣を歩いてた。

「課長」

「ん?」

「今日、帰りたくないです」

立ち止まった。宮野さんが俺の袖を掴んでた。

「…俺の家、近いけど」

「知ってます。住所、緊急連絡先で見ました」

「それは個人情報の目的外使用では…」

「経理のくせに細かいこと言わないでください」

笑って、手を繋いだ。宮野さんの手は冷たかった。

品川区の俺の部屋は、1Kで、お世辞にも綺麗とは言えない。でも一応、最低限の片付けはしてあった。一人暮らしが長いと、散らかすほどの物もなくなる。

「お邪魔します」

「狭いけど…」

「一人暮らしなら普通ですよ」

宮野さんがコートを脱いだ。ネイビーのスーツの下に、くすんだピンクのブラウス。

改めて見ると、ほんとに綺麗になってた。入社したときの、メガネと黒スーツの地味な子じゃなくて、ちゃんと「女の子」になってた。身長は160ぐらいで、細いけど出るとこは出てる感じ。顔は…新垣結衣にちょっと似てるっていうか、丸メガネをかけた感じが似てる。いや、俺がそう寄せて見てるだけかもしれない。

「なんか飲む?ビールしかないけど」

「じゃあビールで」

缶ビールを2本出して、並んでベッドの縁に座った。他に座るとこがなかったから。

「課長の部屋、思ったより生活感ないですね」

「物欲がないんだよ、おっさんになると」

「おっさんって言わないでください。私が好きになった人ですよ」

「…慣れないな、そういうの」

「慣れてください」

ビールを飲みながら、ぽつぽつ話した。宮野さんの地元が千葉の船橋で、大学は日大の商学部で、簿記1級を在学中に取ったこと。俺の離婚の話も少しした。3年前に別れたこと、理由はお互いの仕事が忙しすぎてすれ違ったこと。

「前の奥さんのこと、まだ好きですか?」

「全然。もう何も思わない」

「よかった」

宮野さんがビールを置いて、俺の方を向いた。

「課長」

「うん」

「メガネ、外しますね」

宮野さんがゆっくりメガネを外した。メガネがないと、目が大きく見える。少しタレ目で、まつ毛が長い。

「…かわいいな」

「今さらですよ、ほんとに」

宮野さんが目を閉じた。

キスした。

ビールの味がした。冷たかった唇が、すぐに温かくなった。

最初は軽く触れるだけだったのが、宮野さんの方から舌を入れてきた。

(意外と積極的だな…)

というか、半年間ずっと片思いしてた相手にやっと気づいてもらえたんだから、そりゃそうか。

「ん…」

唇を離すと、宮野さんの目がとろんとしてた。

「もっと…してほしいです」

俺の手を取って、自分の胸に置いた。ブラウス越しに、柔らかい感触が伝わった。

「…本当にいいのか?」

「半年待ったんです。十分すぎるくらい待ちました」

ブラウスのボタンを、上から一つずつ外した。手が震えてたと思う。36にもなって、情けない話だけど。

ブラウスを脱がすと、薄いベージュのブラが出てきた。派手じゃない、でもちゃんと選んだんだなってわかるやつ。

「これも…俺の好みに合わせた?」

「…さすがに下着の好みまでは聞けなかったので、これは自分の趣味です」

「そっか。好きだよ、こういうの」

「…覚えておきます」

ブラを外すと、思ったより大きかった。スーツだとわからなかったけど、CかDぐらいはある。形が綺麗で、見てるだけでどうにかなりそうだった。

「綺麗だ…」

「そんなに見ないでください…恥ずかしい…」

宮野さんが腕で胸を隠そうとしたのを、やんわり止めた。

胸に触れると、宮野さんの体がびくっと震えた。

「あ…っ」

乳首に触れると、もう硬くなってた。

「感じやすいんだな」

「課長に…触られてるからです…」

宮野さんのスカートに手をかけると、宮野さんが自分からファスナーを下ろした。

スカートを脱がすと、ベージュのブラと揃いのショーツ。太ももが細くて白くて、触ると柔らかかった。

ショーツの上から触れると、もう濡れてた。

「あっ…そこ…」

「こんなになってるのか…」

「だって…半年ですよ…半年ずっと、こうなりたかったんです…」

ショーツをずらして、直接触れた。指がぬるっと滑った。

「んっ…あ…っ」

クリを軽く刺激すると、宮野さんの腰が浮いた。

「やっ…そこ、弱いです…っ」

「ここ?」

「んんっ…課長…もっと…」

指を中に入れると、きゅっと締まった。温かくて、ぬるぬるしてて。

「あああ…っ指…気持ちいい…っ」

宮野さんが俺のシャツを掴んで、引っ張った。

「課長も…脱いでください…不公平です…」

言われるままにシャツを脱いだ。36のおっさんの体なんて見せるもんじゃないと思ったけど、宮野さんは俺の胸に手を当てて、嬉しそうに笑った。

「あったかい…」

(なんでこの子は、こんなおっさんの体に触って嬉しそうなんだ…)

理解が追いつかない。でも、嬉しかった。

残りの服も全部脱いで、裸で向き合った。

宮野さんが俺のを見て、ちょっと固まった。

「…おっきい、ですね」

「普通だと思うけど…」

「私、あんまり経験ないので…1人しか…」

「ゆっくりでいいから」

コンドームを引き出しから出した。一応置いてあってよかった。使う予定なんてなかったけど。

ゴムを着けて、宮野さんの上に覆いかぶさった。

「入れるよ…」

「はい…お願いします…」

先端を当てて、ゆっくり入れた。

「あっ……んんっ…」

きつかった。宮野さんの中が、俺を締め付けてくる感覚。

「大丈夫?」

「大丈夫…です…もっと奥まで…」

根元まで入れると、宮野さんが大きく息を吐いた。

「あぁ…課長が…中にいる…」

「動くよ」

ゆっくり腰を動かし始めた。

「あっ…あっ…んっ…」

宮野さんの声が、オフィスで聞く声と全然違った。あの冷静で正確な経理の子が、こんな声出すのかって。

(俺は今、何をしてるんだ…部下と…こんなこと…)

頭の片隅でそう思ったけど、宮野さんが俺の首に腕を回して引き寄せてきて、そんな考えは吹き飛んだ。

「課長…好き…好きです…っ」

「俺も…好きだよ…」

ペースを上げると、宮野さんの声が大きくなった。

「あああっ…そこ…そこ気持ちいい…っ」

「ここか…」

「はいっ…そこ当たって…あっ…もう…っ」

宮野さんの体が弓なりに反った。中がぎゅうっと締まって、俺も限界が近づいた。

「イきそう…課長…っ」

「俺も…もう…」

「一緒に…一緒にイきたい…っ」

最後に深く突いて、二人同時にイった。

「あああっ…っ」

宮野さんが俺を強く抱きしめて、体を震わせた。俺もゴムの中に全部出した。腰が勝手にびくびく動いて、しばらく止まらなかった。

「はぁ…はぁ…」

二人とも、しばらく動けなかった。

ゴムを外して、ティッシュで処理して。宮野さんが俺の胸に頭を乗せてきた。

「…気持ちよかったです」

「うん…俺も」

「課長」

「ん?」

「二人のときは、名前で呼んでほしいです」

「え…なんて呼べばいい?」

「美咲、です」

「…美咲」

「…もう一回言ってください」

「美咲」

「…ずるい。名前呼ばれただけなのに、また泣きそう」

美咲が俺の胸に顔を埋めた。

しばらくそうしてたら、美咲がもぞもぞ動き出した。

「…もう一回、したいです」

「え、もう?」

「半年分、取り返さないといけないので」

「いや、そういう計算の仕方ある?」

「経理ですから」

笑った。こいつ、こういうとこ面白いんだな。仕事中はまったく見せない顔。

2回目は美咲が上になった。

さっきより慣れたのか、自分から腰を動かし始めた。髪がばさっと下りて、さっきまでの「真面目な後輩」の面影がなくなった。

「んっ…あ…っこれ…自分で動くの…すごい…」

「無理しなくていいよ」

「無理じゃないです…気持ちいいから…動きたい…」

胸が揺れるのを見ながら、腰に手を添えた。美咲がペースを上げると、自分の体重で深く入る感覚があるのか、声が変わった。

「あっ…奥…当たる…これ…やばい…っ」

さっきとは違う、もっと切羽詰まった声。

俺は下から突き上げた。

「あああっ…っ課長…っじゃなくて…っ」

「ん?」

「名前で…呼んで…っ」

「美咲」

「もっとっ…」

「美咲、好きだよ」

「っ…もう…だめ…っイくっ…」

美咲が体を震わせて、俺の上に崩れ落ちた。中がぎゅうぎゅう締まって、俺も我慢できなかった。

「俺も…出る…っ」

2回目もゴムの中に出した。さっきより量は少なかったけど、気持ちよさは倍だった。名前を呼びながらイくって、こんなに違うのかって思った。

美咲が俺の上で、汗だくで笑ってた。

「課長…あ、ここでは…」

「うん、ここでは名前で」

「…圭介さん」

「おう」

「圭介さんの彼女に、私、なれますか」

「もうなってるだろ、それは」

「ちゃんと言ってください」

「…付き合ってください」

「はい」

美咲がにっこり笑って、俺にキスした。

シャワーを浴びて、俺のTシャツを貸した。美咲がだぼだぼのTシャツ一枚で俺のベッドに座ってるのは、なんか非現実的な光景だった。

缶ビールをもう1本ずつ開けて、並んで飲んだ。時計を見たら0時を回ってた。

「あ、明日土曜日ですよね」

「そうだな」

「じゃあ、朝まで一緒にいていいですか」

「もちろん」

「ふふ…圭介さん」

「ん?」

「明日の朝ごはん、鮭の塩焼きと卵焼きでいいですか?」

「…お前、俺のことどんだけ見てたの」

「半年間、毎日です」

「…」

この子に見合う男になれる気はしないけど、少なくとも、もう二度と「気づかないフリ」はしないでおこうと思った。

美咲がビールを飲み干して、俺にもたれかかってきた。

「来週から会社で、どうしましょう」

「普通にしてればいいだろ」

「無理ですよ、絶対ニヤけます」

「お前が仕事中にニヤけてたら、それはそれで怖いな」

「じゃあ課長が悪いってことで」

「理不尽だな…」

美咲が笑って、俺の肩に頭を乗せた。

翌朝、目が覚めたら隣で美咲が寝てた。髪がばらけて、Tシャツがずり上がって、なんかもう、ちょっと泣きそうになった。

36年生きてきて、こんなに「起きてほしくない朝」は初めてだった。

結局、あの後も俺たちの関係は続いてます。会社では「課長」と「宮野さん」のまま。でも二人きりのときは「圭介さん」と「美咲」。

田中にだけはバレてるっぽいけど、あいつは何も言わない。たまに俺を見てニヤニヤするだけ。

宮野さんは相変わらず仕事ができる。俺のミスを指摘するときの鋭い目と、二人きりで名前を呼ばれて赤くなる顔のギャップに、毎日やられてる。

あ、あとひとつだけ。

先週、宮野さんのデスクに新しいマグカップがあった。俺と色違いのやつ。

今度はちゃんと、初日に気づきました。


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