これを書いてる今も、正直まだ整理がついてない。
俺は42歳、都内の中堅メーカーで経理をやってる。身長170、体重は聞かないでほしい。顔は…まあ、職場の後輩に「課長って宮川大輔に似てますよね」って言われて、本人は褒めてるつもりだったらしいけど、俺は微妙な気持ちになった。そのレベルの男です。
離婚して4年。子供はいない。練馬の1LDKに一人暮らしで、休日はサウナか、録り溜めたドラマを消化するだけ。37歳で結婚して、39で離婚。理由は省略するけど、まあ、俺が悪かった部分もある。相手が悪かった部分もある。どっちもどっち。
で、41のときにマッチングアプリを始めた。別にもう結婚したいわけじゃなくて、ただ単純に寂しかった。土曜の夜に一人でセブンの冷凍パスタ食ってると、このまま死ぬのかなって思う瞬間があるじゃないですか。ないですか。俺はあった。
アプリは「Pairs」を使ってた。プロフィールには正直に42歳・バツイチ・年収600万台って書いた。写真は後輩に撮ってもらった、多摩川沿いのやつ。いいねは月に3、4件。まあそんなもんだろうと思ってた。
ある日、22歳の子からいいねが来た。
名前はプロフィール上では「ゆう」。写真は後ろ姿と、マスクで半分隠れた顔だけ。自己紹介欄には「都内住み。いろいろあって生活が厳しいです。支えてくれる方を探しています」とだけ書いてあった。
(いやいや、これ絶対業者だろ…)
普通ならスルーする。42歳のおっさんに22歳がいいねしてくる時点で何かがおかしい。でもその日、俺は会社で上司に理不尽なことを言われて、帰りに新宿の「テルマー湯」でサウナに入って、ストロングゼロを2本空けた状態だった。判断力がゼロだった。
いいねを返した。
マッチングしてすぐ、向こうからメッセージが来た。
「はじめまして。いいねありがとうございます。年上の方のほうが安心できるので…よかったらお話しませんか?」
「こちらこそ。22歳の子にいいねもらえると思ってなかったので驚いてます笑」
「あはは、年齢で選んでないので!」
「ちなみに、プロフィールに書いてた"いろいろ"って?」
「…ちょっと長くなるんですけど、会ってお話しても大丈夫ですか?」
2日後、仕事終わりに池袋のルノアールで会った。
待ち合わせ場所に立ってた彼女を見て、最初に思ったのは「ちっちゃ」だった。155センチくらい。髪は暗めの茶色でセミロング、顔は…橋本環奈を3割くらい薄くした感じ、って言ったら怒られるかな。でもマジでそんな感じ。丸顔で目が大きくて、でも化粧は薄い。というか、ほぼすっぴんに見えた。服はユニクロのスウェットにコンバース。申し訳ないけど、22歳の女の子のデート服ではなかった。
「あの…vk…じゃなくて、けいさんですか?」
「うん、合ってます。ゆうさん?」
「はい。すみません、こんな格好で…」
席について、俺はブレンドコーヒー、彼女はココアを頼んだ。ココアが来たとき、彼女がちょっと嬉しそうな顔をしたのを覚えてる。
(…まあ、業者ではないっぽいな)
事情を聞いた。実家は栃木の宇都宮で、高校卒業後に上京して美容師の専門学校に通ってた。でも2年目で学費が払えなくなって中退。実家には頼れない。父親はいない、母親は再婚して新しい家庭がある。バイトを掛け持ちしてたけど、住んでたアパートの更新料が払えなくて、今はネットカフェを転々としてるらしい。
「…重いですよね。すみません、初対面でこんな話」
「いや、大丈夫。それで、アプリに書いてた"支えてくれる方"ってのは…」
「…はい。正直に言います。住む場所と、少しの生活費を出してくれる人を探してます。その代わり、家事とか…あと、そういうことも…します」
「そういうこと」のところで、彼女は顔を真っ赤にして下を向いた。
(いや、「そういうこと」って…)
正直に言う。頭の中では「これはやめとけ」と思ってた。20歳も年下の、事情を抱えた女の子を家に入れるなんて、どう考えてもまともじゃない。知り合いに話したら全員止めるだろう。
でも同時に、この子がネカフェで一人で寝てる姿を想像して、胸がざわざわした。
「…ちょっと考えさせて。連絡先交換していい?」
LINEを交換して別れた。帰りの西武池袋線で、ずっと考えてた。
3日間悩んだ。悩んでる間も、彼女からは毎日「おつかれさまです」とだけLINEが来た。それだけ。催促もしない、甘えてもこない。なんかそれが逆に刺さった。
結局、俺は彼女に「うちに来ていいよ」と送った。
彼女が俺の練馬のマンションに来たのは、出会って1週間後の日曜日だった。荷物はリュック1つとトートバッグ1つだけ。
「…お邪魔します」
「散らかってるけど、まあ入って」
「あの、改めて…ありがとうございます。ちゃんとお料理とか、掃除とか、します」
「うん。あと、無理はしなくていいから。"そういうこと"も、別に義務じゃないから」
「…はい」
最初の1週間は、正直ぎこちなかった。彼女は朝早く起きて朝食を作り、俺が仕事に行ってる間に掃除と洗濯をして、夜は夕飯を用意して待ってる。完璧だった。完璧すぎて怖かった。
「なあ、ゆうちゃん」
「はい?」
「別にそんな気合い入れなくていいんだよ。昼間はバイト探すなり、好きにしていいから」
「…でも、私、何もお返しできてないから」
その言い方がなんか引っかかった。「お返し」って何だよ。俺は別に投資してるわけじゃない。いや、してるのか? 自分でもよくわからなかった。
2週間目くらいから、彼女が少しずつ素を出すようになった。テレビを見て「やば」って笑ったり、スーパーで「これ安い!」って興奮したり、夜に俺の隣でスマホのゲームをしながら「あ~死んだ」って呟いたり。
(…かわいいな、この子)
(いやいや待て、俺。22歳だぞ。娘でもおかしくない歳だぞ)
自分にブレーキをかけてた。かけてたつもりだった。
ある金曜日の夜、俺が残業で遅くなって帰ったら、彼女が泣いてた。
「どうした?」
「…なんでもない」
「嘘つけ。目ぇ赤いじゃん」
「…お母さんから、LINE来て」
「なんて?」
「"もう連絡しないで"って…」
彼女の母親は、再婚相手との間に子供が生まれてから、彼女との関係が希薄になってたらしい。それでも彼女はたまに連絡してたんだけど、ついにそう言われたと。
「私って、誰にも必要とされてないんだなって…」
その言葉を聞いた瞬間、体が勝手に動いた。彼女の頭を引き寄せて、胸に抱いた。
「そんなことない」
「…っ」
「少なくとも、お前が作る味噌汁がないと俺は生きていけない」
(何言ってんだ俺…。味噌汁て…)
でも彼女は、俺のシャツを握りしめて、声を殺して泣いた。
その夜、彼女のほうから「一緒に寝ていいですか」と言ってきた。
今まで彼女はリビングのソファベッドで寝てたんだけど、その夜は俺のベッドに入ってきた。パジャマ越しに、彼女の体温が伝わってきた。小さくて、あったかくて、すこし震えてた。
「…けいさん」
「ん?」
「私…お返しとかじゃなくて…」
「…」
「けいさんに、触れてほしい…です」
正直、理性が飛びそうだった。でも踏みとどまった。いや、踏みとどまらなきゃいけないと思った。この子は弱ってる。依存してるだけかもしれない。俺に好意があるんじゃなくて、居場所を失いたくないだけかもしれない。
「…今日はだめだ」
「え…」
「お前が泣いてる夜にそういうことはしたくない。ちゃんと笑ってる日にしよう」
「…けいさん…」
彼女がまた泣いた。さっきとは違う泣き方だった気がする。
その日から、何かが変わった。
彼女が「けいさん」じゃなくて「けいくん」って呼ぶようになった。俺も「ゆうちゃん」から「ゆう」になった。夕飯のとき向かい合って座ってたのが、隣に座るようになった。テレビ見てるとき、自然に肩にもたれてくるようになった。
でも俺は手を出さなかった。出せなかった。
近所のライフで買い物してるとき、レジの列で後ろにいた主婦に「娘さんと仲良しですね」って言われた。彼女は何も言わなかったけど、帰り道にちょっとむくれてた。
「怒ってる?」
「怒ってない」
「めっちゃ怒ってるじゃん」
「…娘に見えるの? 私たち」
「まあ…年齢的にはそう見えるだろうな」
「じゃあ、けいくんは私のこと、娘だと思ってるの?」
「…」
思ってない。全然思ってない。毎朝、寝起きの彼女のTシャツから鎖骨がのぞくたびに目をそらしてるし、風呂上がりにタオルで髪を拭いてる姿を見るたびに胸がざわつく。でもそれを言ったら終わりだと思ってた。
「思ってないよ」
「…じゃあ、なんで触ってくれないの」
立ち止まった。練馬駅の南口のロータリーで、夕方6時、スーパーの袋を両手に持ったまま。
「…帰ろう」
結局、何も答えられなかった。
その夜、風呂から上がったら、彼女がリビングのソファに座って待ってた。いつものパジャマじゃなくて、黒いキャミソールにショートパンツ。明らかに「いつもと違う」格好で。
「けいくん」
「…おう」
「私、ずっと考えてた。けいくんが手を出さないのは優しさだってわかってる。でもね…」
彼女が立ち上がって、俺の前に来た。見上げてくる目が、潤んでた。
「私はお返しがしたいんじゃないの。養ってもらってるから体を差し出すんじゃないの。…好きになっちゃったの。けいくんのこと」
(…マジかよ)
頭の中が真っ白になった。
「…俺、42だぞ」
「知ってるよ」
「バツイチだし」
「知ってる」
「宮川大輔に似てるって言われるし」
「…それは別にいい。てかちょっと似てない」
「似てないのかよ」
笑ってしまった。彼女も笑った。で、笑いながら、泣いてた。
「ねえ…今日は笑ってるよ、私。泣いてる夜じゃないよ。…だから、いいでしょ?」
あの夜の俺の言葉を覚えてた。
俺は彼女の顔を両手で包んで、キスをした。柔らかくて、ココアの匂いがした。彼女がそっと目を閉じて、俺のTシャツの裾を掴んだ。その仕草で、もう無理だった。
「…部屋、行こう」
ベッドに座った彼女のキャミソールをゆっくり下ろした。ブラはしてなかった。小ぶりだけど形のいい胸が出てきて、彼女が両腕で隠そうとした。
「…あんまり見ないで。小さいから…」
「いや、綺麗だよ」
「…嘘」
「嘘じゃない」
彼女を押し倒して、首筋にキスした。鎖骨のあたりを唇で辿ると、小さく「ん…」って声が漏れた。胸に触れると、すごく柔らかかった。先端を指で撫でると、彼女の背中がぴくっと反った。
「あっ…そこ、弱い…」
「ここ?」
「ん…っ、や…」
舌で転がすと、彼女が俺の頭を抱え込んできた。髪を掴まれる力が、だんだん強くなる。
下のショートパンツに手を入れたら、もうかなり濡れてた。
「…はずかしい」
「大丈夫」
指を沿わせるように動かすと、彼女の腰がびくっと跳ねた。声を我慢してるのか、唇を噛んでた。
「我慢しなくていいよ」
「…だって、壁薄いから…」
「隣、空き部屋だから大丈夫」
「…ほんとに?」
「うん」
嘘だけど。隣は佐藤さん家だけど。まあいいだろ。
指を中に入れると、きゅっと締まった。すごく狭くて、でもぬるぬるで、彼女が息を詰めた。
「ぁ…っ、んん…っ」
「痛くない?」
「痛くない…気持ちいい…」
ゆっくり出し入れしながら、親指でクリを触ると、彼女の声が変わった。甲高くて、さっきまでの「ゆう」じゃないみたいだった。
「あ、やば…っ、けいくん…っ、やば…」
「いきそう?」
「わかんない…でも、なんか…あ、あっ…っ」
体がぶるっと震えて、俺の指をぎゅっと締め付けた。太ももが閉じて、俺の手を挟み込んだまま、数秒間動かなかった。
「…はぁ…っ」
「いった?」
「…人にされたの、初めて…」
顔を真っ赤にして、腕で目を覆ってた。その仕草が22歳だった。当たり前だけど、42歳の俺とは違う時間を生きてきた子なんだと、妙にリアルに感じた。
(俺、何してんだろ…)
でも、彼女が俺のズボンに手を伸ばしてきた。
「…けいくんも」
ベルトを外されて、下ろされて。もうとっくに硬くなってた。彼女が恐る恐る触ってきた。握り方がぎこちなくて、でもその手が温かくて、頭がくらくらした。
「…おっきい」
「…いや、普通だと思うけど」
「私、比較対象ほぼないから…」
(ほぼ、ってことは…ゼロではないのか…)
細かいことは聞かなかった。彼女の手が上下に動くたびに、じわじわと快感が溜まっていく。先端を親指でくるっと撫でられたとき、思わず声が出た。
「…気持ちいい?」
「…うん」
「…ねえ、入れて」
彼女が仰向けになって、脚を開いた。コンドームをつけて、先端を当てた。ゆっくり入れていく。
「…ん…っ」
「大丈夫?」
「うん…ゆっくり…」
半分くらい入ったところで、彼女が俺の背中に手を回してきた。爪が食い込むくらい、しがみついてきた。
「痛かったら言って」
「痛くない…けいくんだから…大丈夫」
その言葉が、なんかすごくきた。
ゆっくり奥まで入れて、動き始めた。最初はぎこちなかったけど、彼女が少しずつ力を抜いて、腰を合わせてきた。
「あ…ん…っ」
「…気持ちいい」
「私も…っ。ねえ、キスして…」
キスしながら腰を動かす。彼女の中がぎゅっと締まるたびに、頭がぼーっとする。42年生きてきて、こんなに誰かと繋がってる感覚は初めてだった。元嫁とのときとも全然違う。なんだろう、この感覚。
「けいくん…好き…っ」
「…俺も」
言ってから、(あ、言っちゃった)と思った。でも本心だった。
彼女の腰が跳ねるペースが速くなって、声が高くなって、俺の背中の爪がさらに食い込んだ。
「あっ…やば…また来る…っ、けいくん…っ」
彼女がびくっと震えて、中がぎゅうっと締まった瞬間、俺も限界だった。
「っ…出る…」
ゴムの中に出した。たぶん30秒くらい、息が止まってた。全身の力が抜けて、彼女の上に崩れ落ちた。
「…重い」
「あ、ごめん」
「ふふ…ごめんって言いながら退かないじゃん」
「…もうちょいだけこのままでいさせて」
「…うん」
彼女が俺の髪を撫でてくれた。42歳のおっさんが22歳に頭を撫でられてる。客観的に見たら相当やばい絵面だと思う。でも、このときの俺は世界で一番幸せだった。
しばらくして体を起こして、処理をして、二人でベッドに横になった。
「ねえ、けいくん」
「ん?」
「私のこと…飼ってるつもりだった?」
「…は?」
「最初、"養う"つもりで家に入れたんでしょ。かわいそうだから。保護犬みたいに」
図星すぎて何も言えなかった。
「でもね…途中から気づいてた。けいくんのほうが、私がいなくなるのを怖がってるって」
「…」
「毎朝"いってきます"って言うとき、ちょっと振り返るでしょ。私がちゃんといるか確認するみたいに。帰ってきて"ただいま"って言うとき、私の声が返ってくるまで靴脱がないでしょ」
全部バレてた。
「飼ってるのはどっちかなって、たまに思ってたよ」
「…お前、22歳のくせに怖いこと言うな」
「えへへ」
その夜、もう一回した。今度は彼女が上になって、俺の手を握りながら、ゆっくり腰を動かした。さっきと違って、焦りがなかった。彼女の顔がよく見えた。気持ちよさそうに目を細めて、ときどき俺の名前を呼ぶ。それだけでもう十分だった。
終わった後、彼女が俺の胸に頭を乗せて言った。
「ねえ。私、バイト始めるね」
「え、急にどうした」
「ずっとけいくんに養ってもらうの、嫌だから。ちゃんと対等になりたい」
「…別にいいのに」
「よくない。だって…ずっと一緒にいたいから。けいくんに捨てられたとき、"金の切れ目"って思われたくないから」
「捨てないよ」
「…ほんと?」
「味噌汁作ってくれる限りは」
「…また味噌汁!」
笑いながら、彼女が俺の脇腹をつねった。
あれから3ヶ月が経った。彼女は駅前のカフェでバイトを始めて、少しずつ家賃の一部を入れてくれるようになった。俺がいらないって言っても「これは私のプライドの問題」って聞かない。
休みの日は石神井公園を散歩したり、光が丘のIMAXで映画を観たりする。普通のカップルだと思う。20歳差だけど。
先週、彼女が「美容師の勉強、また始めたい」って言った。通信制の学校を調べてるらしい。俺は「いいじゃん」って言った。学費の話は俺からはしなかった。彼女も言わなかった。でも二人とも、なんとなくわかってた。
養う側と養われる側。その境界線は、もうとっくにぼやけてる。
俺があの日、ストロングゼロを飲んでなかったら。判断力がまともだったら。たぶんいいねは返してなかった。そう思うと、酒の力って怖い。いや、ありがたい。いや、やっぱ怖い。
これを読んでる同年代のおっさんがいたら伝えたい。人生、何が起こるかわからんぞ。マジで。