俺、藤井涼、28歳。出版社の校正・校閲を請け負う、フリーランスの校閲者だ。 住んでいるのは、郊外の古い二階建てを改装したシェアハウス。元は書道教室だったらしく、一階に十二畳の和室がそのまま残っている。男女合わせて四人で暮らしている。
仕事柄、俺は一日中、文字とにらめっこしている。 ゲラに赤を入れて、誤字脱字や事実の食い違いを潰していく。締め切り前は深夜まで作業が続くこともしょっちゅうだ。
そんな俺が、同じ家でいつも夜中に顔を合わせる住人がいた。
高瀬すみれさん、27歳。 公募展に毎年出品している、書道家。
すみれさんは、夜になると一階の和室にこもる。 墨をすって、半紙や条幅紙に向き合う。その時間が、ちょうど俺がゲラを抱えてキッチンへコーヒーを淹れにいく時間と重なっていた。
つまり俺たちは、一日のうちで深夜のほんの数分だけ、廊下や和室の前ですれ違う。 彼女は筆を持つ夜の人、俺は赤ペンを持つ夜の人。扱う道具は違っても、二人とも、文字に取り憑かれた夜型だった。
「こんばんは、藤井さん。今日もお仕事?」
「ええ。校了前なんで。すみれさんも、まだ書いてるんですね」
「うん。夜のほうが、墨の匂いがよく立つ気がして」
和室の襖を半分開けて、すみれさんは筆を置いて振り返る。 墨で汚れた指先と、ひとつにまとめた長い黒髪。化粧っ気はないのに、目元がすっと涼しげで、見ているとなぜか背筋が伸びた。
夜中の家の中で、墨の匂いだけが静かに漂っている。 それを纏っているすみれさんは、夜のいちばん奥にいる人みたいだった。
その距離が変わり始めたのは、十二月も半ばを過ぎた、雪のちらつく夜だった。
その日、俺は厄介な校正に手こずって、いつもより遅くまで机に張りついていた。 頭を冷やそうと一階に降りると、和室の灯りがついていた。襖の隙間から、すみれさんの背中が見える。
「……はぁ」
「すみれさん?どうかしました」
「あ、藤井さん。ごめんなさい、変な声出して」
畳の上には、書き損じの半紙が何枚も散らばっていた。 墨を含んだ筆を持ったまま、すみれさんは肩を落としている。
「うまく書けないんですか」
「年明けの公募展に出す作品なの。何十枚書いても、納得いくのが一枚もなくて」
すみれさんが、書いたばかりの一枚をこちらに向けた。 「初心」と書かれた、堂々とした二文字。素人目には、十分すぎるほど見事だった。
「……すごく綺麗だと思いますけど」
「ありがとう。でも、これじゃ駄目なの。整いすぎてて、心が動かない」
「心が、動かない」
「上手な字と、いい字って、違うんです。私のは、上手なだけ」
しょんぼりとうつむくすみれさん。 いつも夜の奥で凛としている人の、初めて見る顔だった。
俺は、散らばった半紙の一枚を手に取った。 仕事柄、文字を見るのだけは得意だ。
「俺、ずっと文字を直す仕事してるんですけど」
「うん」
「正しい字より、この一枚みたいに、ちょっと払いが暴れてるやつのほうが、目が止まりますよ。俺は好きです、これ」
すみれさんが、はっと顔を上げた。 俺が指したのは、彼女が「失敗」と言って脇に避けていた一枚だった。
「……それ、手が滑ったやつなのに」
「手が滑った瞬間に、心が動いたんじゃないですか」
「……藤井さん、変なこと言う」
そう言いながら、すみれさんの口元が、ほんの少しゆるんだ。 さっきまでのため息が、嘘みたいに。
「文字を見る人に、そう言ってもらえると……ちょっと、救われる」
「校閲者なんで。見るのだけは得意です」
「ふふ。じゃあ、また見てもらおうかな。私の字」
冗談半分のつもりだった。 でも、その一言が、俺たちの深夜を変えていくことになる。
その日から、すみれさんは時々、書いたばかりの半紙を俺に見せるようになった。 俺が校正に詰まって一階に降りる、ちょうどその時間に合わせて。
「藤井さん、今日のはどう?さっきのより、暴れてる?」
「お、こっちのほうが断然いいですね。この『心』の最後の点、ぐっときます」
「でしょ?自分でも、今日はちょっと掴めた気がしてた」
雪の降る深夜の和室で、墨の乾いていない半紙を二人で覗き込む。 畳に正座して、彼女の隣で文字を見る時間が、不思議と落ち着いた。
「でも、なんで毎晩こんな遅くに書くんですか」
「昼は教室で子どもたちに教えてるの。自分の作品に向き合えるのは、結局この時間だけで」
俺は俺で、いつの間にか、この数分のために校正を頑張るようになっていた。 赤字が片付かなくても、和室にすみれさんがいると思うと、不思議と粘れた。
和室の隅には、彼女が持ち込んだ小さな炬燵があった。 墨をする合間、二人でそこに足を入れて、白湯を飲む。 彼女の夜の真ん中と、俺の夜の終わりが、その数分だけ重なる。
「藤井さんって、ずっと文字を直してて、嫌にならないの?」
「ならないですね。間違いが消えて、文章が綺麗になる瞬間が好きで」
「……似てるね、私たち。私も、墨が紙に染みていく瞬間がいちばん好き」
語るすみれさんの横顔は、本当に楽しそうだった。 俺はその横顔を、もっと見ていたいと思い始めていた。
ある日曜の夜。 その日は教室が休みで、すみれさんは昼から書いていたらしい。 俺が和室を覗くと、彼女はいつもより少しめかしこんで、髪も下ろしていた。
「あれ、今日はなんか、雰囲気違いますね」
「えっ。……わ、わかる?ちょっと、出かけてきたから」
「どこか行ってたんですか」
「美術館。書展、観に行ってきたの。……ほんとは、藤井さんも誘おうか迷ったんだけど」
すみれさんが、慌てて口を押さえた。耳が、ほんのり赤い。 その反応が可愛くて、俺は思わず笑ってしまった。
「誘ってくれてよかったのに。俺、書のことは素人ですけど、見るのは好きですよ」
「……じゃあ、今度の土曜。市民ギャラリーで小さな書展があるの。一緒に、行く?」
「行きます。ちょうど校了明けなんで」
すみれさんが、ぱっと顔を明るくした。 それから、照れたように髪を耳にかける。
「よかった。一人で観るの、ちょっと寂しかったから」
その土曜、雪が薄く積もった街を、俺たちは並んで歩いた。 市民ギャラリーには、彼女の知り合いの作品も並んでいるらしい。
「見て、あの線。墨の濃淡で、こんなに奥行きが出るの」
「すみれさん、書の話をしてるとき、いちばん生き生きしてますね」
「あ……ごめん、つまらないよね、こういう話」
「全然。むしろ、もっと聞きたいです」
帰り道、雪のちらつく中、すみれさんが少しだけ声のトーンを落とした。
「私ね、いつか個展、開きたいんです」
「個展?」
「うん。誰かの賞をもらうためじゃなくて、自分の言葉を、自分の字で並べる場所」
遠くを見るすみれさんの目には、迷いと、希望が混じっていた。
「でも、怖くて。公募展でも結果が出ないのに、私の字なんて、観たい人いるのかなって」
「いますよ。少なくとも俺は、毎晩あなたの字を観るために一階に降りてます」
「……藤井さん」
「あなたの字、俺は好きです。整ってないやつほど」
すみれさんが、こちらをまっすぐ見た。 それから、照れたように笑って、雪の積もる道に目を伏せた。
「……ずるいな、藤井さん。そういうこと、さらっと言うの」
白い息と、舞い落ちる雪。 その横顔を見て、俺はこの人のことを、もうとっくに好きになっているんだと、はっきり自覚した。
それからの深夜は、ただ文字を見せ合う時間じゃなくなっていた。 墨をする彼女の隣で、俺は仕事の話をして、彼女は書の話をした。 意識し始めると、距離はどんどん近くなる。
年の瀬も押し迫った、雪の激しい夜。 その日は朝から大雪で、教室も早じまいになったらしい。 深夜、俺が一階に降りると、和室の灯りの下で、すみれさんが筆を置いて、ぼんやり座っていた。
「すみれさん?今日は、書かないんですか」
「……書けなくて。さっき、公募展の結果が出たの」
「結果」
「落選。今年も、入選すらしなかった」
窓の外で、雪が音もなく降り積もっている。 他の住人はみんな寝静まっていて、家の中は、しんと静まり返っていた。
すみれさんが、握りしめていた半紙を、そっと畳に広げた。 俺が「好きだ」と言った、あの払いの暴れた一枚だった。
「これ、出すか最後まで迷って、結局、整ったほうを出したの。……間違ってたのかな」
「……」
「ねえ、藤井さん。私の字、ほんとうに、いいと思う?慰めじゃなくて」
その瞬間、すみれさんの目に、みるみる涙が盛り上がった。
「最近、ずっと不安で。私なんかが書道家を名乗っていいのかなって。でも、藤井さんが好きって言ってくれると……すごく、安心しちゃう」
ぽろっと、一粒こぼれた。 いつも夜の奥で凛としている人が、雪の夜に、子どもみたいに泣いていた。
俺は思わず、彼女の頬を伝う涙を指で拭った。 触れた瞬間、すみれさんがびくっとして、でも逃げなかった。
至近距離で、見つめ合う。 深夜の和室。墨の匂いと、雪の静けさだけが、二人を包んでいる。 彼女の濡れた瞳が、揺れていた。
「……藤井さん」
「はい」
「私、毎晩のあの数分が……ずっと、楽しみだったんです」
「……俺もです。あなたの字を観るために、夜更かししてたようなもんで」
すみれさんが、息を呑んだ。 俺は彼女の頬に手を添えて、ゆっくり顔を近づけた。 すみれさんは、目を閉じた。
唇が、触れた。
ちゅ……
柔らかくて、あたたかい。かすかに、墨の匂いがした。 触れるだけのキスで、一度離れる。 すみれさんが、薄目を開けて俺を見上げた。頬が、真っ赤に染まっている。
「……夜更かしの、せいにしていい?」
「……いいですよ」
今度は、彼女のほうから唇を寄せてきた。 ちゅっ……んっ…… さっきより深く。俺はすみれさんの後頭部に手を回して、もっと深く重ねる。
舌で唇をなぞると、彼女の口がそっと開いた。 れろ……ちゅるっ……
「ん……っ♡」
おずおずと、すみれさんの舌が絡んでくる。 いつも凛としている人が、俺の腕の中で、小さく震えていた。
「すみれさん、好きです。ずっと前から」
「……私も。藤井さんのこと、ずっと」
ちゅるるっ……ちゅぷっ……
雪の降る深夜の和室で、何度も唇を重ねた。 墨の匂いと、炬燵のぬくもりと、彼女の匂い。
「……ここじゃ、誰か起きてきちゃうかも」
「……」
「私の部屋、来ますか……?」
俺は黙って頷いた。 すみれさんが俺の手を取って、二階の自室へと歩き出す。 その手が、少しだけ震えていた。
すみれさんの部屋に入るのは、初めてだった。 本棚に書道の手本がぎっしり並んで、壁には自作の小さな掛け軸。墨と和紙の匂いがする、彼女らしい静かな部屋だった。
襖を閉めた瞬間、俺はすみれさんを抱き寄せた。
「あっ……♡」
もう一度キスをして、ゆっくりベッドに座らせる。 間接照明に照らされたすみれさんは、いつもより無防備で、色っぽかった。
「すみれさん、めちゃくちゃ綺麗です」
「……からかわないでください」
「本気ですよ」
「……もう♡」
部屋着のボタンに手をかける。 一つ、二つと外していくと、白い肌と、淡い色の下着が覗いた。
「あんまり……見ないで♡ 恥ずかしい」
「無理です。綺麗すぎて」
部屋着を脱がせると、彼女の身体が露わになった。 柔らかそうな胸、くびれた腰。 いつも作務衣の下に隠れていた身体が、こんなに女性らしいなんて。
ブラのホックを外す。ぷつん。 形のいい胸がこぼれ落ちた。先端が、すでにつんと尖っている。
「やっ……見つめないでってば♡」
「綺麗だから無理です」
「もう……♡」
そっと両手で胸を包む。 ふにっ……
「んっ……♡」
手のひらに、柔らかい弾力が伝わる。 ゆっくり揉みながら、先端を指でつまんだ。 こりっ……こりこりっ……
「ひゃっ……♡♡ そこっ……♡」
びくんと、すみれさんの身体が跳ねた。 左の乳首を指で転がしながら、右に口を寄せる。 ちゅっ……れろ……ちゅぱっ……
「んあっ♡♡ だめっ……♡ 声、出ちゃう……♡♡」
すみれさんが手の甲で口を押さえた。 いつも静かな声が、甘く裏返っていく。
左右交互に吸いながら、空いた手でもう片方を揉みしだく。 じゅるっ……ちゅぱっ……
「はぁっ♡ あっ♡ 藤井さんっ……♡♡」
「涼、でいいです」
「……涼さん♡」
名前を呼ばれただけで、全身に電気が走った。 俺の手が、彼女のショーツの腰のラインに触れる。
「下も、いいですか」
「……うん♡」
ショーツに指をかけて、ゆっくり引き下ろす。 内ももが、すでにじっとりと濡れていた。
「もう濡れてますね」
「言わないで……♡ 恥ずかしいんだから……♡」
膝をそっと開かせる。 薄い茂みの下で、花弁が蜜にてらてらと光っていた。
「あんまり……見ないで♡」
「綺麗ですよ、すごく」
花弁にそっと指を這わせる。くちゅ……
「ひあっ♡♡」
すじに沿って上下になぞると、蜜があふれてくる。 くちゅ……くちゅ……
「あっ♡ んっ♡ そこ……♡♡」
小さな突起を探り当てて、指先で転がした。 くりっ……くりくりっ……
「んんっ♡♡♡ それっ……♡♡ だめっ……♡」
腰がびくびくと跳ねる。 クリを刺激しながら、中指をゆっくり沈めていく。 ずぷっ……
「んああっ♡♡♡」
中は熱くて、ぬるぬるで、きゅうっと指を締め付けてきた。 ぐちゅ……ぐちゅぐちゅ……
「あっ♡ 指っ♡ 入ってる……♡♡」
指を曲げて、上の壁のざらついた場所をこする。 ぐりぐりっ……
「ひぃっ♡♡♡ そこっ♡♡ すごいっ……♡♡♡」
Gスポットをこすりながら、親指でクリも同時に弄る。
「あっ♡♡ 両方はっ♡♡♡ おかしくなるっ……♡♡」
すみれさんの身体が、がくがくと震え始めた。 お腹がぴくぴくと痙攣する。
「いくっ♡♡♡ 涼さんっ♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡」
びくんっ♡♡♡♡
きゅうぅぅっと指を締め付け、蜜がじゅわっと溢れて俺の手を濡らした。 すみれさんが、力が抜けたようにベッドに沈み込む。
「はぁ……♡ はぁ……♡♡」
「気持ちよかったですか」
「……うん♡♡ すごかった……♡」
息を整えたすみれさんが、ゆっくり身体を起こした。 そして、潤んだ瞳で俺を見上げる。
「涼さんも……気持ちよくなって♡」
彼女の細い指が、俺のベルトに伸びた。 パンツを下ろすと、限界まで張り詰めたものが飛び出した。
「わっ……♡♡ 大きい……♡」
筆を握る細い指が、根元からそっと握る。きゅっ。
「すごく硬い……♡」
「すみれさんがエロすぎるんで」
「もう……♡」
ゆっくり上下に手を動かす。しゅっ……しゅっ…… すみれさんが顔を近づけて、先端にちゅっとキスを落とした。
「ぴくって動いた♡ 可愛い」
舌を出して、ぺろぺろと舐め始める。 れろ……ちゅるっ…… カリの部分を重点的に、裏筋を下から上へ。
「……やばい、気持ちいいです」
口を大きく開けて、ぱくっと咥え込んだ。 ずぷっ……ちゅぱっ……じゅるっ……
「んっ♡ んむっ♡ んぷっ……♡」
頭をゆっくり上下に動かす。 いつも筆を運ぶ手で俺のものを支えて、夢中で咥えている。 その光景だけで、頭が焼き切れそうだった。
「すみれさん、待って。このままだと出ちゃう」
口を離したすみれさんが、唾液の糸を引いて、上目遣いで見上げる。
「……涼さんが欲しい♡」
「俺もです」
すみれさんをベッドに横たえて、脚の間に身を置いた。 先端が、入り口にぬるりと触れる。 たっぷりの蜜で、もうぬるぬるだった。
「ゴム、持ってきます?」
「……今日は大丈夫な日だから♡ このまま……来て♡」
(こんなに誰かを求めるの、初めてだ)
俺はゆっくり、腰を進めた。
ずぷっ……
「ぁあああっ♡♡♡♡」
熱い。 きゅうぅっと、彼女の中が締め付けてくる。
「すみれさん、中、すごい……」
「おっきい……♡♡ 奥まで来てる……♡♡♡」
ずず……ずずずっ…… ゆっくり、最奥まで押し込んでいく。
「んんっ♡♡♡ いっぱい……♡♡♡ 届いてる……♡♡」
隙間なく、彼女に包み込まれた。 しばらくそのまま、二人で呼吸を整える。
「動きますね」
「うん……♡ ゆっくり……♡」
ずちゅっ♡ ずちゅっ♡♡
「あっ♡♡ あっ♡♡ んっ♡♡♡」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんぱんっ♡♡ リズムを作って、腰を打ちつける。
「涼さんっ♡♡ 気持ちいいっ……♡♡♡」
「すみれさんの中も、めちゃくちゃ気持ちいいです」
ぱんぱんぱんっ♡♡♡ だんだん速くなっていく。 ぐちゅっ♡ ぬちゅっ♡ ぱんっ♡♡
「あんっ♡♡ 奥っ♡♡ 奥に当たるっ……♡♡♡」
いつも凛と筆に向かうすみれさんが、俺の下でどんどん乱れていく。 眉を寄せて、口を半開きにして、俺にしがみついてくる。
「やだっ……♡♡ 私、こんな……♡♡♡」
「可愛いです、すみれさん」
「言わないでっ♡♡♡ 恥ずかしいのに止まんないっ……♡♡♡♡」
すみれさんの脚が、俺の腰に巻きついた。 もっと奥へ、と求めるように。
「もっとっ♡♡ もっと強くしてっ……♡♡♡」
ぱんっぱんっぱんっぱんっ♡♡♡♡ ベッドがぎしぎしと軋む。 深夜の部屋に、雪の静けさと、肌のぶつかる音と、彼女の甘い声が満ちていく。
「声っ♡♡♡ 出ちゃうっ……♡♡ みんなに聞こえちゃうっ……♡♡♡♡」
「壁、厚いから大丈夫ですよ」
「やだっ♡♡♡ でも止まらないっ……♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡
「いくっ♡♡♡♡ もうっ♡♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡♡」
「俺も……っ、すみれさん、中に出していいですか」
「出してっ♡♡♡♡ 中にっ♡♡♡♡ 全部っ……♡♡♡♡♡」
ずんっずんっずんっ♡♡♡
「イクッ♡♡♡♡♡」
「出ます……っ!」
びゅるっ♡♡ びゅるるっ♡♡♡ どくどくっ♡♡♡♡
「んんんっ♡♡♡♡♡♡」
彼女の最奥に、熱いものがどくどくと注ぎ込まれる。 すみれさんの身体がびくびくと痙攣して、きゅうぅぅっと締め付けてきた。
「はぁ……♡♡ あったかい……♡♡♡♡」
虚ろな目で、すみれさんが幸せそうに微笑む。 俺はそっと、その唇にキスを落とした。
ちゅっ♡
「すみれさん、最高でした」
「……私も♡♡ すごく、よかった……♡♡♡」
繋がったまま、しばらくキスを交わす。 だけど俺の熱は、まだ収まっていなかった。 彼女の中で、もう一度硬くなっていく。
「……え♡ まだ、元気なの?♡」
「すみれさんが可愛すぎるんで」
「……もう♡♡♡」
すみれさんが、いたずらっぽく笑った。 さっきまでの乱れた表情から、少しだけ余裕が戻ってくる。
「じゃあ……今度は私が動いてみる♡」
俺を押し返して、繋がったまま馬乗りになる。 ずるっ……ずぷっ♡♡
「んっ♡♡♡ この体勢……奥まで入る……♡♡♡♡」
背筋を伸ばして、すみれさんが俺を見下ろした。 下ろした長い黒髪が揺れて、間接照明にシルエットが浮かび上がる。
(綺麗すぎる……)
腰を、ゆっくり上下に動かし始める。 ずちゅっ♡♡ ずちゅっ♡♡
「あっ♡♡ 自分で動くと……♡♡ すごいっ……♡♡♡」
動きに合わせて、胸がたゆんたゆんと揺れた。 俺は手を伸ばして、揺れる胸を下から掴む。 もにゅっ♡♡
「ひゃっ♡♡♡ 揉みながらっ♡♡♡ ずるいっ……♡♡♡♡」
すみれさんの腰の動きが、だんだん激しくなる。 気持ちいいポイントを探すように、ぐりぐりと腰を回した。
「あっ♡♡♡ ここっ♡♡♡ ここ当たるっ……♡♡♡♡」
見つけたらしい。 そこを擦りつけるように、前後に腰を振る。 ずちゅっずちゅっずちゅっ♡♡♡♡
「気持ちいいっ♡♡♡♡ 涼さんのっ♡♡♡♡ 奥に届くのっ……♡♡♡♡♡」
俺の胸に両手をついて、激しく腰を打ちつける。 ぱんっぱんっぱんっぱんっ♡♡♡♡♡
「また来るっ♡♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡♡」
「俺ももう……っ」
「一緒にっ♡♡♡♡♡ 一緒にいこっ……♡♡♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡♡
「いくっ♡♡♡♡♡♡ いくいくいくっ……♡♡♡♡♡♡♡」
「すみれさん……っ、また中に出します……!」
俺は彼女の腰をがっしり掴んで、下から深く突き上げた。 ずんっ♡♡♡♡
びゅるるっ♡♡♡♡ どくどくどくっ♡♡♡♡♡♡
「んんんんっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
二回目を、さっきよりもっと奥に注ぎ込む。 すみれさんがぶるぶる震えて、がくんと俺の上に倒れ込んできた。
「はぁ……♡♡♡ すごかった……♡♡♡♡♡」
汗ばんだ肌が触れ合って、心臓の鼓動が伝わってくる。 すみれさんが、俺の胸に顔を埋めた。
「涼さん……♡」
「はい」
「……幸せ♡♡」
ぎゅっと抱きついてくるすみれさんを、俺も強く抱きしめ返した。 しばらく、二人とも動けなかった。
気がつくと、雪はいつの間にか降りやんでいた。 窓の外は、街灯に照らされた雪明かりで、ほんのり青白い。 深夜なのに、不思議と部屋の中まで明るかった。
「……外、積もったね」
「明日、教室は?」
「年末年始は、お休み。だから、もう少しだけ……こうしてたい」
毛布にくるまって、二人で寄り添う。 いつも数分ですれ違っていた俺たちが、初めて、同じ夜をゆっくり過ごしていた。
「ねえ、涼さん。文字を直す人を好きになるなんて、思ってなかったな」
「迷惑でしたか」
「……まさか。すごく、嬉しい♡」
ちゅ、と軽く唇を重ねて、俺たちはもう一度笑い合った。
それからの数日で、年は明けた。
元日の夜。 すみれさんが、和室に俺を呼んだ。 畳の真ん中に、真新しい半紙と、すったばかりの墨が用意されている。
「書き初め、付き合ってくれる?」
「俺、字は下手ですよ」
「いいの。上手じゃなくて、心が動く字が見たいんだから」
俺たちは並んで正座して、筆を持った。 すみれさんが、ためらいなく一気に書き上げる。 墨が和紙に染みていく、あの瞬間。彼女がいちばん好きだと言った、あの瞬間。
書き上がった半紙には、力強い払いで「素直」と二文字。 公募展に落ちた、あの整った字とはまるで違う。暴れていて、まっすぐで、生きていた。
「……これ、すごくいいです。今までで、いちばん」
「でしょ?やっと、書けた気がする」
「何が変わったんですか」
「……素直になれたから。涼さんに、見てほしいって思いながら書いたら、勝手に手が動いたの」
すみれさんが、まっすぐ俺を見た。 あの雪の夜の、不安げな顔じゃない。 夢に向かって進む、強い目だった。
「ねえ、涼さん。いつか私が個展を開いたらさ」
「うん」
「いちばん最初に、観に来てくれる?」
「もちろん。誰よりも早く行きますよ。校了明けでも」
「ふふ。じゃあ、それまでに、もっといい字、いっぱい書かないと♡」
くすくす笑うすみれさんが、可愛くて仕方なかった。
数日後の深夜。 いつものように、俺が一階に降りると、和室に早起きの住人が顔を出していた。
「あれ、藤井くんと高瀬さん、最近やたら仲良くない?」
「えっ。べ、別に、いつも通りですけど」
「いやいや。最近、和室から二人分の笑い声、よく聞こえるよ」
「……っ」
すみれさんが、わかりやすく固まって、耳まで赤くなった。
「あ、図星だ」
「……まあ、隠すことでもないんで。俺たち、付き合ってます」
きっぱり言うと、すみれさんが「えっ」と俺を見上げた。 それから、観念したように、こくんと頷く。
「えーっ!まじで!?校閲者と書道家のカップルとか、家中が文字だらけになりそう」
「もうなってますよ。和室、半紙だらけなんで」
「……っ、涼さん、それ恥ずかしいから言わないで♡」
顔を覆うすみれさんを見て、住人が笑いながら去っていった。
冬の終わり。 すみれさんは、あの「素直」の字を別の公募展に出し、初めて入選した。 俺が元日の夜に、いちばん最初に観た、あの一枚だ。
「入選、決まったよ!涼さんが、いちばんいいって言ってくれたやつ!」
「おめでとうございます。ほら、言ったでしょ。絶対いけるって」
「全部、涼さんのおかげ。いちばんに観て、好きって言ってくれたから」
「書いたのはすみれさんですよ。俺はただ、観て好きだって言っただけです」
「ううん。涼さんがいなかったら、私、自信なくして筆を置いてたかもしれない」
すみれさんが、まっすぐ俺を見た。 墨で汚れた指先で、俺の手をそっと握る。
「ねえ、涼さん。今夜も、新しいの書くから」
「了解です。じゃあ、それまで仕事頑張ります」
「うん。……待ってるね、和室で」
すれ違うだけだった、深夜の数分。 その数分が、今では、一日でいちばん幸せな時間になった。
文字を直す俺と、文字を生む彼女。 扱う筆は違っても、二人の夜は、墨の匂いの中で、ちゃんと一つに重なっている。
― 終 ―