俺、矢島涼介、28歳。中途で今の会社に入って、まだ一年目だ。 配属は営業部。前職の人間関係に疲れて転職した俺にとって、新しい職場はとにかく「無難にやり過ごす」場所だった。
入社して困ったのが、住むところだった。 転職を機に引っ越してきたばかりで、土地勘もない。そんな俺に、総務がぽんと提示してきたのが、会社の借り上げ社宅だった。
郊外の、古い二階建ての一軒家。 昔は独身寮として何人も住んでいたらしいが、今は希望者が減って、ほとんど使われていないという。
「一軒家を、一人で?」
「いや、もう一人いる。先に住んでる人がいるから、実質ルームシェアみたいなもんだな」
そう説明してくれたのは、人事の田所さんだった。 個室はそれぞれ。リビング、キッチン、風呂、洗面は共用。家賃は破格の安さ。営業一年目の俺の財布には、断る理由がなかった。
「先に住んでるのって、どんな人ですか」
「……ああ、それな。会ってのお楽しみ、ってことで」
田所さんが、なぜか妙に言葉を濁したのを、俺はそのとき深く考えなかった。
引っ越しの当日。 段ボールを抱えて玄関を開けると、廊下の奥から、その人が出てきた。
すらりと背の高い、黒髪の女性。 きっちりとしたブラウスに、シワひとつないスラックス。休日だというのに、隙のない格好だった。
「……新しい同居人ね。話は聞いてるわ」
「あ、はい。今日からお世話になります、矢島です」
「桐生冴子。企画部。ルールは紙にまとめてあるから、あとで目を通しておいて」
ぴしゃり、とそれだけ言って、彼女はリビングのテーブルに一枚の紙を置いた。 ゴミ出しの曜日、風呂の使用時間、共用部の掃除当番。箇条書きで、定規で引いたみたいにまっすぐな字だった。
そして、俺はその名前と顔に、思い当たることがあった。
桐生冴子。 企画部のエースで、社内では知らない者がいない人だ。 完璧主義で、会議では誰よりも鋭い指摘を飛ばし、上司にも一切媚びない。笑った顔を見たことがない、と誰もが言う。
——通称、「氷の女王」。
(うわ。よりによって、この人と同居かよ)
それが、桐生冴子という人に対する、俺の最初の感想だった。
同居生活は、想像どおり、いや想像以上に静かだった。
冴子さんは、家でも会社モードを一切崩さなかった。 朝は俺より早く起きて、きっちり身支度を整えて出社する。帰ってきても、必要最低限の挨拶だけ。
「おはよう」
「おはようございます」
「……ゴミ、今日は燃えるゴミの日」
「あ、出しときました」
「そう。ありがとう」
会話はいつも、これくらい。 同じ屋根の下に住んでいるのに、まるでホテルのフロントと客みたいだった。
正直、気は楽だった。 前職で人間関係に疲れた俺にとって、踏み込んでこない同居人は、むしろありがたい。 そう思っていた。最初のうちは。
でも、一緒に暮らしていると、嫌でも気づくことがある。 冴子さんの帰りは、いつも遅い。 日付が変わる頃に玄関の鍵が回る音がして、リビングの電気がつく。物音を立てないように、そっと。
そして、テーブルには、よく書類が広がったままになっていた。 家でも、仕事をしているのだ。会社のあの完璧な仕事ぶりは、こういう時間の上に成り立っているらしい。
(氷の女王も、大変なんだな)
ちらっとそう思ったけれど、俺はあえて、何も声をかけなかった。 踏み込まないのが、この家のルールだと思っていたから。
その距離が変わったのは、初夏の、ある金曜の夜だった。
その日、俺は営業先の接待で帰りが遅くなり、終電で社宅に戻った。 玄関を開けると、リビングの電気は消えている。冴子さんはもう寝たのかと思った。
ところが、廊下の奥――庭に面した縁側のほうから、かすかに物音がした。 そっと覗くと、そこに冴子さんがいた。
会社で見る、あのきっちりした姿じゃなかった。 ゆるいスウェットに、無造作に下ろした髪。縁側に腰かけて、片手に缶ビールを持っている。 夜風に当たりながら、ぼんやりと暗い庭を眺めていた。
「……桐生さん?」
「うわっ」
声をかけると、彼女がびくっと肩を跳ねさせて振り返った。 その顔が、会社で見るどんな表情とも違っていて、俺は思わず固まった。
少し赤らんだ頬。とろんとした目元。 氷の女王、なんて呼ばれている人とは、とても思えない、無防備な顔だった。
「……矢島くん。帰ってたの。びっくりした」
「すいません、驚かせて。えっと……飲んでるんですね」
「……金曜の夜だけ。ここで一本だけって、決めてるの」
ふらりと、缶を持ち上げてみせる冴子さん。 呂律が、ほんの少しだけ怪しかった。
「矢島くんも、座れば。立ってられると、落ち着かない」
「……お邪魔します」
俺は缶ビールを一本取ってきて、彼女の隣に、少し距離を空けて腰かけた。 夜の庭は、草の匂いがして、どこかで虫が鳴いている。 初夏の、生ぬるい夜風が気持ちよかった。
「驚いたでしょ。私が、こんな格好で飲んでて」
「……正直、ちょっと。会社の桐生さんと、別人みたいで」
「ふふ。でしょうね」
冴子さんが、自嘲気味に笑った。 会社では絶対に見せない、力の抜けた笑い方だった。
「会社じゃ、隙を見せられないの。一回でも弱いとこ見せたら、なめられる。女で、若くて、上に行こうとしてると、特にね」
「……そういうの、あるんですね」
「あるある。だから、ずっと気を張ってる。氷の女王、なんて呼ばれてるの、知ってるわよ」
「えっ、知って……」
「そりゃ知ってる。陰で何言われてるかなんて、全部聞こえてくるもの」
ぐびっと、缶をあおる冴子さん。 その横顔には、会社では見えない疲れと、ほんの少しの寂しさがにじんでいた。
「でもね、家でまで女王様やってたら、息が詰まって死んじゃう。だから、金曜の夜のここだけは、ぜんぶ脱ぐの。鎧を」
「……鎧」
「変かな」
「いや。なんか、安心しました。桐生さんも、ちゃんと人間なんだなって」
俺が言うと、冴子さんがぷっと吹き出した。 今度は、自嘲じゃない。心からおかしそうな、子供みたいな笑い方だった。
「ひどい言い方。私を何だと思ってたの」
「氷でできた人かと」
「あはは。最低。……でも、ちょっと嬉しいかも。そんなふうに笑われたの、久しぶり」
夜風に、彼女の下ろした髪が揺れた。 会社で見る凛とした彼女も綺麗だったけれど、こうして笑う横顔は、もっと――綺麗だと思った。
その夜から、俺たちの金曜の夜は、少しずつ変わっていった。
冴子さんは、金曜になると縁側で缶ビールを開ける。 そして、いつからか、そこに俺がいるのが当たり前になった。
「矢島くん、今日は飲まないの?」
「飲みます。冷えてるの、持ってきますね」
「ん。私のも一本、ついでに」
会社のことは、一切話さない。 それが、二人の暗黙のルールだった。
代わりに、くだらない話をした。 冴子さんが昔ハマったバンドのこと。俺が前職で失敗した、笑い話みたいなミスのこと。好きな食べ物。苦手な虫。
「矢島くんって、見た目わりとちゃんとしてるのに、中身ぐだぐだよね」
「ひどい言い草だな……否定できないですけど」
「ふふ。でも、そういうの、嫌いじゃない。一緒にいて、気を張らなくていいから」
ふいに、そんなことを言われて、俺は缶を口に運ぶふりをして、顔を隠した。 気を張らなくていい――それは、たぶん俺も、彼女に対して感じていたことだった。
会社で恐れられる冴子さんと、縁側でだらしなく笑う冴子さん。 そのギャップを知っているのは、この家で、俺だけだ。 そう思うと、なんだか胸の奥が、じわっと熱くなった。
(まずいな。俺、この人のこと――)
休みの日にも、二人で過ごす時間が増えた。
ある土曜の朝、俺がキッチンで適当に飯を作っていると、珍しく早く起きてきた冴子さんが、ひょいと鍋を覗き込んだ。
「何作ってるの」
「あ、起きたんですね。ただの野菜炒めです。よかったら、食べます?」
「……いいの?」
「二人分作ったほうが、楽なんで」
本当は、最初から二人分を見越して作っていた。 でも、それは言わなかった。
向かい合って食べる朝ごはんは、思っていたよりずっと、自然だった。 冴子さんは、料理がからきしダメらしい。
「私、卵焼きすら焦がすのよ。だから、これ、地味に感動してる」
「野菜炒めで感動されても」
「いいじゃない。人に作ってもらうごはんって、それだけで美味しいの」
そのあと、二人でスーパーに買い出しに行った。 カートを押す冴子さんは、休日仕様のTシャツにデニムにスニーカー。会社の人が見たら、絶対に同一人物だと気づかないだろう。
「ねえ、矢島くん。これ、どっちが美味しそう?」
「……俺に聞きます?料理ぐだぐだのくせに偉そうに選んでる人が」
「うるさいわね。今度、教えてくれるんでしょ、料理」
「言ってないですけど、まあ……いいですよ。教えます」
並んで歩く帰り道、夕暮れの匂いがした。 レジ袋を半分こして持って、くだらないことで笑って。 これじゃまるで、と思いかけて、俺は慌てて打ち消した。
でも、隣を歩く冴子さんが、ふっと俺を見上げて言った。
「こういうの、いいね。なんか……ずっと忘れてた感じ」
その一言が、夕暮れの色と一緒に、胸に焼きついて離れなかった。
梅雨に入って、雨の続くある木曜の夜だった。
その日、冴子さんの帰りは、いつにも増して遅かった。 日付が変わった頃、玄関の鍵が回る音がして、俺はリビングで起きていた。
入ってきた冴子さんの顔を見て、俺はぎょっとした。 いつも凛としている人が、ひどく青ざめて、唇を噛んでいた。
「桐生さん、どうしたんですか。顔色、すごい悪いですけど」
「……なんでもない。お風呂、入って寝るから」
「いや、なんでもないって顔じゃないですよ」
俺が引き止めると、冴子さんは一瞬黙って、それから、ふらっとソファに崩れるように座った。
「……来週、大きいプレゼンがあるの。私が、企画の責任者。半年がかりの案件」
「半年……それは、相当な」
「今日、役員に途中経過を見せたら、ぼろぼろに言われた。詰めが甘い、これじゃ通らないって。……半年、やってきたのに」
膝の上で、彼女の手がぎゅっと握られていた。 いつも完璧な人の、初めて見る、追い詰められた顔だった。
「怖いの。本当は、ずっと。失敗したら、女だから、若いから、って言われる。だから絶対に、ミスできない。完璧じゃなきゃいけない。……でも、もう、何が正解かわかんなくなってきた」
ぽつり、ぽつりと、彼女の本音がこぼれていく。 氷の女王の鎧の下に、こんなに脆いものが隠れていたなんて。
俺は、隣に座った。 そして、迷ったけれど、握りしめられた彼女の手に、そっと自分の手を重ねた。
「桐生さんは、十分すぎるくらい頑張ってますよ。家でまで書類広げて、毎晩遅くまで。俺、ずっと見てましたから」
「……矢島くん」
「役員が何て言ったか知らないですけど、半年本気でやった人の企画が、ぼろぼろなわけないでしょう。詰めが甘いって言われたなら、詰めればいい。手伝いますよ、できることなら」
冴子さんが、ゆっくりと顔を上げた。 その目に、みるみる涙が盛り上がっていく。
「……ずるい」
「え」
「そういうこと、さらっと言うの。ずるいよ、矢島くん」
ぽろっと、一粒、彼女の頬を涙が伝った。 氷の女王と呼ばれる人が、雨の夜に、俺の隣で、子供みたいに泣いていた。
俺は思わず、彼女の頬を伝う涙を指で拭った。 触れた瞬間、冴子さんがびくっとして、でも、逃げなかった。
至近距離で、見つめ合う。 雨音だけが、しんと静かなリビングに響いている。 彼女の濡れた瞳が、揺れていた。
「……矢島くん」
「はい」
「私、金曜の夜のあの時間が……いつの間にか、一週間で一番、楽しみになってたの」
「……俺もです。会社の桐生さんも綺麗ですけど、縁側で笑う桐生さんのほうが、ずっと好きで」
冴子さんが、息を呑んだ。 俺は彼女の頬に手を添えて、ゆっくり顔を近づけた。 冴子さんは、目を閉じた。
唇が、触れた。
ちゅ……
柔らかくて、あたたかい。ほのかに、ビールの苦い味がした。 触れるだけのキスで、一度離れる。 冴子さんが、薄く目を開けて俺を見上げた。頬が、真っ赤に染まっている。
「……これも、お酒のせいにしていい?」
「今日、飲んでないでしょう」
「……ばれた」
ふっと、彼女が泣き笑いした。 今度は、彼女のほうから唇を寄せてきた。
ちゅっ……んっ……
さっきより深く。俺は冴子さんの後頭部に手を回して、もっと深く重ねる。 舌で唇をなぞると、彼女の口がそっと開いた。
れろ……ちゅるっ……
「ん……っ♡」
おずおずと、冴子さんの舌が絡んでくる。 会社であれだけ凛としている人が、俺の腕の中で、小さく震えていた。
「桐生さん、好きです。たぶん、最初の縁側の夜から」
「……冴子で、いい。会社の名字で呼ばれると、女王に戻っちゃう」
「……冴子さん」
「ん♡ ……私も。矢島くんのこと、ずっと」
ちゅるるっ……ちゅぷっ……
雨の降る夜のリビングで、何度も唇を重ねた。 やがて、冴子さんが、息を弾ませながら、小さく囁いた。
「……ここじゃ、嫌。私の部屋、来て?」
俺は黙って頷いた。 冴子さんが俺の手を取って、二階の自室へと歩き出す。 その手が、少しだけ震えていた。
冴子さんの部屋に入るのは、初めてだった。 本棚にはビジネス書がきっちり背の順に並んで、デスクには付箋の貼られた書類の山。 それでも、ベッドの脇には小さなぬいぐるみが置いてあって、彼女の意外な一面が覗いていた。
ドアを閉めた瞬間、俺は冴子さんを抱き寄せた。
「あっ……♡」
もう一度キスをして、ゆっくりベッドに座らせる。 間接照明に照らされた冴子さんは、会社のどんな表情よりも無防備で、色っぽかった。
「冴子さん、めちゃくちゃ綺麗です」
「……からかわないで」
「本気ですよ。氷の女王が、こんな顔するなんて」
「……もう♡ その呼び方、禁止」
スウェットの裾に手をかける。 ゆっくりとめくり上げていくと、白い肌と、上品なベージュの下着が覗いた。
「あんまり……見ないで♡ 恥ずかしい」
「無理です。綺麗すぎて」
スウェットを脱がせると、彼女の身体が露わになった。 すらりとした肢体に、思っていたよりずっと豊かな胸。 会社のかっちりしたスーツの下に、こんな身体が隠れていたなんて。
ブラのホックを外す。ぷつん。 形のいい胸がこぼれ落ちた。先端が、すでにつんと尖っている。
「やっ……見つめないで♡」
「綺麗だから無理です」
「もう……♡」
そっと両手で胸を包む。 ふにっ……
「んっ……♡」
手のひらに、柔らかい弾力が伝わる。 ゆっくり揉みながら、先端を指でつまんだ。 こりっ……こりこりっ……
「ひゃっ……♡♡ そこっ……♡」
びくんと、冴子さんの身体が跳ねた。 左の乳首を指で転がしながら、右に口を寄せる。 ちゅっ……れろ……ちゅぱっ……
「んあっ♡♡ だめっ……♡ 声、出ちゃう……♡♡」
冴子さんが手の甲で口を押さえた。 いつも凛とした声が、甘く裏返っていく。
左右交互に吸いながら、空いた手でもう片方を揉みしだく。 じゅるっ……ちゅぱっ……
「はぁっ♡ あっ♡ 涼介っ……♡♡」
「呼び捨て、いいですね」
「……涼介♡」
名前を呼ばれただけで、全身に電気が走った。 俺の手が、彼女のショーツの腰のラインに触れる。
「下も、いいですか」
「……うん♡」
ショーツに指をかけて、ゆっくり引き下ろす。 内ももが、すでにじっとりと濡れていた。
「もう濡れてますね」
「言わないで……♡ 恥ずかしいんだから……♡」
膝をそっと開かせる。 薄い茂みの下で、花弁が蜜にてらてらと光っていた。
「あんまり……見ないで♡」
「綺麗ですよ、すごく」
花弁にそっと指を這わせる。くちゅ……
「ひあっ♡♡」
すじに沿って上下になぞると、蜜があふれてくる。 くちゅ……くちゅ……
「あっ♡ んっ♡ そこ……♡♡」
小さな突起を探り当てて、指先で転がした。 くりっ……くりくりっ……
「んんっ♡♡♡ それっ……♡♡ だめっ……♡」
腰がびくびくと跳ねる。 クリを刺激しながら、中指をゆっくり沈めていく。 ずぷっ……
「んああっ♡♡♡」
中は熱くて、ぬるぬるで、きゅうっと指を締め付けてきた。 ぐちゅ……ぐちゅぐちゅ……
「あっ♡ 指っ♡ 入ってる……♡♡」
指を曲げて、上の壁のざらついた場所をこする。 ぐりぐりっ……
「ひぃっ♡♡♡ そこっ♡♡ すごいっ……♡♡♡」
Gスポットをこすりながら、親指でクリも同時に弄る。
「あっ♡♡ 両方はっ♡♡♡ おかしくなるっ……♡♡」
冴子さんの身体が、がくがくと震え始めた。 お腹がぴくぴくと痙攣する。
「いくっ♡♡♡ 涼介っ♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡」
びくんっ♡♡♡♡
きゅうぅぅっと指を締め付け、蜜がじゅわっと溢れて俺の手を濡らした。 冴子さんが、力が抜けたようにベッドに沈み込む。
「はぁ……♡ はぁ……♡♡」
「気持ちよかったですか」
「……うん♡♡ すごかった……♡」
息を整えた冴子さんが、ゆっくり身体を起こした。 そして、潤んだ瞳で俺を見上げる。
「涼介も……気持ちよくして、あげる♡」
彼女の細い指が、俺のベルトに伸びた。 パンツを下ろすと、限界まで張り詰めたものが飛び出した。
「わっ……♡♡ 大きい……♡」
細い指が、根元からそっと握る。きゅっ。
「すごく硬い……♡」
「冴子さんがエロすぎるんで」
「もう……♡」
ゆっくり上下に手を動かす。しゅっ……しゅっ…… 冴子さんが顔を近づけて、先端にちゅっとキスを落とした。
「ぴくって動いた♡ 可愛い」
舌を出して、ぺろぺろと舐め始める。 れろ……ちゅるっ…… カリの部分を重点的に、裏筋を下から上へ。
「……やばい、気持ちいいです」
口を大きく開けて、ぱくっと咥え込んだ。 ずぷっ……ちゅぱっ……じゅるっ……
「んっ♡ んむっ♡ んぷっ……♡」
頭をゆっくり上下に動かす。 会社であれだけ冷静な人が、俺のものを夢中で咥えている。 その光景だけで、頭が焼き切れそうだった。
「冴子さん、待って。このままだと出ちゃう」
口を離した冴子さんが、唾液の糸を引いて、上目遣いで見上げる。
「……涼介が欲しい♡」
「俺もです」
冴子さんをベッドに横たえて、脚の間に身を置いた。 先端が、入り口にぬるりと触れる。 たっぷりの蜜で、もうぬるぬるだった。
「ゴム、持ってきます?」
「……今日は、大丈夫な日だから♡ このまま、来て♡」
(こんなに誰かに、ぜんぶ委ねたくなるなんて)
俺はゆっくり、腰を進めた。
ずぷっ……
「ぁあああっ♡♡♡♡」
熱い。 きゅうぅっと、彼女の中が締め付けてくる。
「冴子さん、中、すごい……」
「おっきい……♡♡ 奥まで来てる……♡♡♡」
ずず……ずずずっ…… ゆっくり、最奥まで押し込んでいく。
「んんっ♡♡♡ いっぱい……♡♡♡ 届いてる……♡♡」
隙間なく、彼女に包み込まれた。 しばらくそのまま、二人で呼吸を整える。
「動きますね」
「うん……♡ ゆっくり……♡」
ずちゅっ♡ ずちゅっ♡♡
「あっ♡♡ あっ♡♡ んっ♡♡♡」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんぱんっ♡♡ リズムを作って、腰を打ちつける。
「涼介っ♡♡ 気持ちいいっ……♡♡♡」
「冴子さんの中も、めちゃくちゃ気持ちいいです」
ぱんぱんぱんっ♡♡♡ だんだん速くなっていく。 ぐちゅっ♡ ぬちゅっ♡ ぱんっ♡♡
「あんっ♡♡ 奥っ♡♡ 奥に当たるっ……♡♡♡」
会社で誰よりも凛としている冴子さんが、俺の下でどんどん乱れていく。 眉を寄せて、口を半開きにして、俺にしがみついてくる。
「やだっ……♡♡ 私、こんな……♡♡♡」
「可愛いです、冴子さん」
「言わないでっ♡♡♡ 女王様が台無しっ……♡♡♡♡」
「ここでは、ただの冴子さんでいいです」
「……っ♡♡♡ うれしいっ……♡♡♡」
冴子さんの脚が、俺の腰に巻きついた。 もっと奥へ、と求めるように。
「もっとっ♡♡ もっと強くしてっ……♡♡♡」
ぱんっぱんっぱんっぱんっ♡♡♡♡ ベッドがぎしぎしと軋む。 雨音と、肌のぶつかる音と、彼女の甘い声が、部屋に満ちていく。
「声っ♡♡♡ 出ちゃうっ……♡♡♡♡」
「雨の音で大丈夫ですよ」
「やだっ♡♡♡ でも止まらないっ……♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡
「いくっ♡♡♡♡ もうっ♡♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡♡」
「俺も……っ、冴子さん、中に出していいですか」
「出してっ♡♡♡♡ 中にっ♡♡♡♡ 全部っ……♡♡♡♡♡」
ずんっずんっずんっ♡♡♡
「イクッ♡♡♡♡♡」
「出ます……っ!」
びゅるっ♡♡ びゅるるっ♡♡♡ どくどくっ♡♡♡♡
「んんんっ♡♡♡♡♡♡」
彼女の最奥に、熱いものがどくどくと注ぎ込まれる。 冴子さんの身体がびくびくと痙攣して、きゅうぅぅっと締め付けてきた。
「はぁ……♡♡ あったかい……♡♡♡♡」
虚ろな目で、冴子さんが幸せそうに微笑む。 俺はそっと、その唇にキスを落とした。
ちゅっ♡
「冴子さん、最高でした」
「……私も♡♡ すごく、よかった……♡♡♡」
繋がったまま、しばらくキスを交わす。 だけど俺の熱は、まだ収まっていなかった。 彼女の中で、もう一度硬くなっていく。
「……え♡ まだ、元気なの?♡」
「冴子さんが可愛すぎるんで」
「……もう♡♡♡」
冴子さんが、いたずらっぽく笑った。 さっきまで乱れていた人とは思えない、余裕のある笑みだった。
「じゃあ……今度は私が、上ね♡」
俺を押し倒して、繋がったまま馬乗りになる。 ずるっ……ずぷっ♡♡
「んっ♡♡♡ この体勢……奥まで入る……♡♡♡♡」
背筋を伸ばして、冴子さんが俺を見下ろした。 下ろした黒髪が揺れて、間接照明にシルエットが浮かび上がる。 それはまるで、会社で部下を従える女王様みたいで――でも、その顔はとろけきっていた。
(綺麗すぎる……)
腰を、ゆっくり上下に動かし始める。 ずちゅっ♡♡ ずちゅっ♡♡
「あっ♡♡ 自分で動くと……♡♡ すごいっ……♡♡♡」
動きに合わせて、胸がたゆんたゆんと揺れた。 俺は手を伸ばして、揺れる胸を下から掴む。 もにゅっ♡♡
「ひゃっ♡♡♡ 揉みながらっ♡♡♡ ずるいっ……♡♡♡♡」
冴子さんの腰の動きが、だんだん激しくなる。 気持ちいいポイントを探すように、ぐりぐりと腰を回した。
「あっ♡♡♡ ここっ♡♡♡ ここ当たるっ……♡♡♡♡」
見つけたらしい。 そこを擦りつけるように、前後に腰を振る。 ずちゅっずちゅっずちゅっ♡♡♡♡
「気持ちいいっ♡♡♡♡ 涼介のっ♡♡♡♡ 奥に届くのっ……♡♡♡♡♡」
俺の胸に両手をついて、激しく腰を打ちつける。 ぱんっぱんっぱんっぱんっ♡♡♡♡♡
「また来るっ♡♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡♡」
「俺ももう……っ」
「一緒にっ♡♡♡♡♡ 一緒にいこっ……♡♡♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡♡
「いくっ♡♡♡♡♡♡ いくいくいくっ……♡♡♡♡♡♡♡」
「冴子さん……っ、また中に出します……!」
俺は彼女の腰をがっしり掴んで、下から深く突き上げた。 ずんっ♡♡♡♡
びゅるるっ♡♡♡♡ どくどくどくっ♡♡♡♡♡♡
「んんんんっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
二回目を、さっきよりもっと奥に注ぎ込む。 冴子さんがぶるぶる震えて、がくんと俺の上に倒れ込んできた。
「はぁ……♡♡♡ すごかった……♡♡♡♡♡」
汗ばんだ肌が触れ合って、心臓の鼓動が伝わってくる。 冴子さんが、俺の胸に顔を埋めた。
「涼介……♡」
「はい」
「……鎧、ぜんぶ脱いじゃった♡」
ぎゅっと抱きついてくる冴子さんを、俺も強く抱きしめ返した。 しばらく、二人とも動けなかった。
気がつくと、雨はいつの間にか小降りになっていた。 窓の外が、うっすらと白み始めている。
「ねえ、涼介」
「はい」
「来週のプレゼン……やっぱり、もう一回詰め直す。怖いけど、逃げたくない」
「いいですね。手伝いますよ。営業目線で、ツッコミ入れます」
「ふふ。頼もしい。……でも、家で会社の話、するの初めてね」
「ルール、破っちゃいましたね」
「いいの。涼介になら、何見せても、平気だから」
毛布にくるまって、二人で寄り添う。 縁側で缶ビールを開けるだけだった俺たちが、初めて、朝まで同じ時間を過ごしていた。
それから、俺たちの社宅での生活は、少しずつ変わった。
夜は二人で晩酌をして、休みの日は俺が料理を教える。 プレゼンの前の一週間は、リビングのテーブルに二人で書類を広げて、夜遅くまで案を練った。
「ここ、営業の現場感覚だとどう?」
「正直、この数字は刺さらないです。もっと現場の声を一個、頭に持ってきたほうがいい」
「……なるほど。さすが」
会社の冴子さんと、家の冴子さんが、その一週間だけは、少しだけ重なっていた。 そして迎えた本番。 冴子さんのプレゼンは、見事に役員会を通った。半年がかりの企画が、正式にゴーサインをもらったのだ。
その夜、俺たちは縁側で、いつもより上等な缶ビールで乾杯した。
「通ったよ。涼介のおかげ」
「いや、詰め直したのも、本番でやり切ったのも、冴子さんですよ。俺はビールのお供です」
「ふふ。お供、か。……ねえ、その『お供』、ずっとやってくれる?」
「え」
「私の隣で、鎧脱いでていい場所、これからもくれる?ってこと」
夜風に、彼女の下ろした髪が揺れた。 俺は、缶を彼女の缶に、こつんと当てた。
「もちろん。ていうか、もう正式に付き合ってください。氷の女王じゃなくて、ただの冴子さんと」
「……っ。そういうこと、やっぱりさらっと言うんだから」
冴子さんが、ぷいと顔を背けた。 でも、その耳は、ほんのり赤かった。
「……よろしくお願いします。涼介」
翌週の月曜。 会社の廊下で、人事の田所さんとすれ違った。
「お、矢島。社宅、どうだ。あの桐生さんと一緒で、肩こらないか?氷の女王だろ、あの人」
「……いやあ。意外と、いい人ですよ」
「ほんとかよ。お前、よく無事だな。俺なら三日で逃げ出すぞ」
「逃げ出すどころか……まあ、いろいろ、お世話になってます」
田所さんは「変なやつ」と笑って去っていった。 そのとき、廊下の向こうから、ちょうど冴子さんが歩いてきた。
すれ違いざま、彼女は会社の顔――凛とした、隙のない「氷の女王」の表情で、軽く会釈をした。
「おつかれさま、矢島くん」
「おつかれさまです、桐生さん」
他人行儀な、いつもの挨拶。 でも、すれ違う一瞬、彼女が俺だけに見えるように、ほんの少し、唇の端を上げて笑った。
会社では、誰も知らない笑い方。 あの縁側の夜にだけ見せる、無防備な笑顔。 それを知っているのは、この会社で、俺だけだ。
社内で恐れられる「氷の女王」と、社宅の縁側で鎧を脱ぐ、ただの冴子さん。 真逆に見えたその二つは、夜風と缶ビールの匂いの中で、ちゃんと一人の人につながっている。
「ねえ、涼介。今夜も、縁側で一本だけ、いい?♡」
「了解です。冷えてるの、用意しときます」
すれ違うだけだった、社宅の二人。 その距離は、今では、一週間で一番幸せな時間になった。
― 終 ―