金曜の夜、俺は新幹線で三時間揺られた末に、北陸のとある地方都市に降り立った。 来週月曜のクライアントとの打ち合わせのために、金曜入りの出張。二十五歳、社会人三年目。こういう前乗り出張にもだいぶ慣れてきた。
駅前のビジネスホテルにチェックインして、荷物を部屋に放り込む。ビジネスバッグをベッドに投げ、スーツのジャケットを脱いだ。
「……さて」
時刻は二十一時過ぎ。金曜の夜に一人、知り合いもいない街。夕飯はまだだったけど、今さら外に出る気力もない。 ホテルの一階にバーがあったのを思い出した。軽くつまみながら飲むか。 ネクタイを緩めて、ワイシャツの第一ボタンを外す。財布とスマホだけポケットに突っ込み、エレベーターで一階へ降りた。
ホテルのバーは、こじんまりとした落ち着いた空間だった。間接照明が柔らかく照らすカウンター席が十席ほど。金曜の夜にしては空いている。 カウンターの端に座り、ハイボールとミックスナッツを注文した。
(一人で飲む出張先の夜って、なんかこう……寂しいんだよな)
スマホをいじりながらハイボールを待つ。同期のグループLINEでは渋谷で飲んでる連中が楽しそうに写真を上げていた。 琥珀色のハイボールが来て、一口。炭酸の刺激とウイスキーの香りが喉を通り抜ける。
(うまい。出張の夜のこれだけは悪くない)
二杯目を注文した頃だった。隣の席に、誰かが座った。 ふわり、と甘い香りが漂ってくる。
(……いい匂い)
視線をちらりと横にやると──黒いタイトスカートに白いブラウス。オフィスカジュアルな女性がバッグをカウンターに置いていた。鎖骨あたりまでのセミロング、ダークブラウン。横顔が綺麗で、まつげが長い。
(めちゃくちゃ美人じゃん……)
慌てて視線をグラスに戻した。
「すみません、ジントニックをお願いします」
彼女の声は少し低めの落ち着いたトーン。でもどこか柔らかくて耳に心地いい。 しばらくお互い黙って飲んでいた。俺はスマホをいじるふりをしながら、隣が気になって仕方ない。
カラン……。氷が鳴る音だけが響く。
すると──。
「あの、すみません」
声をかけられた。振り向くと、彼女がこちらを見ている。近くで見るとさらに美人だった。切れ長の目に通った鼻筋、薄く色づいた唇。
「そのミックスナッツ、美味しいですか? 私も頼もうか迷ってて」
少し困ったように笑う彼女に、俺はなんとか自然に答えた。
「普通に美味しいですよ。ちょうどいいつまみって感じで」
「じゃあ私も。すみません、同じものください」
バーテンダーに注文してから、彼女はまたこちらを向いた。
「一人で出張ですか?」
「え、わかります?」 「だって金曜の夜にホテルのバーで一人って、出張の人くらいじゃないですか」 「……確かに」
俺は苦笑した。
「実は私もなんですよ。月曜に取引先との商談があって、金曜入りで」
「俺もです。月曜打ち合わせで前乗り」 「あ、同じだ」
彼女がくすっと笑った。笑うと目元がくしゃっとなって少し幼く見える。
(かわいい……)
「お仕事は何されてるんですか?」
「IT系のメーカーで営業やってます。そちらは?」 「私は化粧品メーカーの企画部です」 「化粧品。なるほど、道理で……」 「道理で?」 「いや、綺麗だなって」
口が滑った。彼女は一瞬きょとんとして、それから笑った。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しい」
「お世辞じゃないですけど」 「ふふ。素直に受け取っておきますね」
それからは堰を切ったように会話が弾んだ。
「えー、同い年?」
「本当ですよ。二十五」 「私も! タメじゃん!」
お互い同い年だと分かった瞬間、距離が一気に縮まった。
彼女の名前は美咲。都内の化粧品メーカー勤務の三年目OL。出身は関西。
「出張って普段多いの?」
「月一くらい。でも一人だから夜が暇でさ」 「わかる。コンビニ弁当食べながらバラエティ見てる自分が虚しくなるの」 「完全に俺もそれ」
三杯目、四杯目と重ねるうちに敬語はとっくに消えていた。Netflix、音楽、仕事の愚痴──話が尽きない。いつの間にかカウンターの距離が近くなっていて、美咲の膝がときどき俺の脚に触れた。
五杯目を飲み干す頃にはかなりいい気分。美咲も頬がほんのり赤くて、目がとろんとしている。
「ねぇ」美咲が少し体を近づけてきた。甘い香りがさっきよりずっと近い。
「なに?」 「こうやって出張先で誰かと飲むの、初めてかも」 「俺も」 「……楽しいね」 「うん。すごく」
視線が絡む。バーの照明に照らされた美咲の瞳が潤んで見えた。
「もう一杯飲む?」と美咲。
「ここで?」
少し迷う素振りを見せてから──。
「……私の部屋、来る? コンビニでお酒買ってさ、ゆっくり飲まない?」
心臓が跳ねた。まっすぐ俺を見る美咲の瞳に、照れと少しの期待が混じっている。
「行く」即答。
「即答じゃん」 「断る理由がない」 「……うん。私も」
バーの会計を済ませ、ロビーのコンビニで缶チューハイとつまみを買った。レジに並ぶ間、美咲が自然と俺の腕に体を寄せてきた。
エレベーターの中、二人きり。美咲が八階のボタンを押した。
「……緊張してる?」上目遣いの美咲。
「……してる」 「私も」
くすっと笑って、俺の手にそっと指を絡めてきた。少し冷たくて、でも柔らかい手。
チン。八階。手を繋いだまま部屋へ。 シングルルームのベッドに並んで座る。太ももが触れ合う距離。グラスにチューハイを注いで乾杯。カチン。
「バーよりリラックスできるね」
「なんか不思議。今日初めて会ったのに」 「嫌?」 「ううん。むしろ──こうしたかった」
美咲がグラスを置いた。とろんとした瞳が俺を見つめる。 俺もグラスを置き、美咲の頬に触れた。すべすべの肌、わずかに熱い。 美咲が目を閉じた。
──唇を、重ねた。
ちゅ……。柔らかい。甘い。チューハイの味がする。 軽く触れるだけのキスから深く。角度を変えてもう一度。舌先で唇をなぞると、美咲が小さく声を漏らして口を開いた。
ちゅる……んちゅ……。
「ん……はぁ……♡」
腰に手を回して引き寄せる。体温がシャツ越しに伝わってきた。
「……シャツ、脱がせていい?」美咲が俺のボタンに手をかける。
俺も美咲のブラウスに手を伸ばした。お互いに相手の服を脱がせていく。
白いレースのブラジャーが現れた。白い肌、鎖骨のライン、ブラから覗く谷間。
「あんまり見ないで」
「無理」 「ばか……♡」
首筋、鎖骨、肩にキスを落としながら背中に手を回して──カチッ。ブラが外れた。
腕で隠す美咲に「見せて」と言うと、ゆっくり腕をどけてくれた。形のいい胸、ほんのりピンクの先端が少し硬くなっている。
そっと包むように触れた。ふにっ。
「あっ……♡」
親指で先端を転がすと美咲が小さく跳ねる。唇を寄せてちゅっと吸うと──。
「やっ……!♡ んんっ……気持ちいい……♡」
舌先で硬くなった先端を転がす。
「あぁっ……♡♡」
美咲の手が俺の頭を抱えるように回された。
スカートを脱がせ、ストッキングを脱がせ、ショーツの上からそっと触れる。
すり……。「んっ……!♡」
──じわり。布越しでも熱と湿り気が伝わる。
「もう……脱がせて……♡」
ショーツを引き下ろす。ぷっくりとピンク色の秘所。透明な蜜が糸を引いていた。
美咲をベッドに横たえ、脚の間に体を滑り込ませた。太ももの内側にキスを落としながらゆっくり中心へ近づく。
舌先で花弁にそっと触れた。ちろ……。
「んあっ……!♡」
美咲の腰がびくんと跳ねる。
ちゅる……れろ……ちゅっ……。
「あぁっ……♡♡ やぁ……♡」
美咲の手が俺の髪をぐしゃぐしゃに掴んだ。小さな突起を見つけて舌先を集中させる。
こりこり……ちゅっ……。
「そこっ!♡♡ あっ、あっ、あっ……♡♡」
太ももを押さえて開かせながら舌を動かし続け、突起を唇で挟んでちゅうっと吸った。
「──っ♡♡♡!! イッ……♡♡♡ んんんっ……♡♡♡」
美咲の背中が弓なりに反り、全身がびくびくと震えた。 しばらくして力が抜けたようにベッドに沈む。
「はぁ……はぁ……♡♡ ……すごい……」
潤んだ瞳で見上げてくる美咲が起き上がって俺にキスし、囁いた。
「今度は私にさせて♡」
ベッドから降りて俺の前に膝をつく美咲。
カチャ……ジー……。ベルトを外し、スラックスを下ろす。
限界まで硬くなったものが形をはっきり主張していた。布越しにそっと手を添える美咲。
「脱がすね……♡」
ウエストに指をかけて引き下ろす。ぼるん。勢いよく飛び出した。
「わ……♡♡ おっきい……♡」
細い指が幹に触れ、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……。
「口でもしていい?♡」
上目遣いで聞いてくるその表情が艶っぽすぎて言葉にならない。
ちゅ……と先端にキス。ぺろ、と舐め──ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かい口の中に先端が包まれる。
「ん……じゅる……♡ んちゅる……♡」
ゆっくり頭を上下に動かし、頬をすぼめて吸い上げる。
ちゅぱっ……じゅるるっ……。
「美咲、やばい……気持ちよすぎ……」
「んふ♡ もっと奥まで……♡」
ずぷっ……ずぷっ……。深く咥えるたびに喉の奥に触れ、全身に電流が走る。
「止まって……イっちゃう……」
ぷはっ。ゆっくり口を離し、唾液が糸を引いた。
「ダメだよ、まだイっちゃ♡」
いたずらっぽく笑う美咲をベッドに引き上げ、財布からコンドームを取り出した。
「……用意いいじゃん」
「男の嗜みってやつで」 「ふふ……♡ つけて♡」
手早く装着。美咲が四つん這いになった。
「……後ろから、して……♡」
白い背中。腰のくびれから丸いお尻のライン。蜜で濡れた秘所に先端をあてがった。
「あ……♡」
ゆっくり押し入れていく。ずぷ……っ。
「んんっ……♡♡!」
温かい。きつい。中がぎゅっと締め付けてくる。
「入って……きてる……♡♡ おっきい……中いっぱい……♡♡」
根元まで収まった。ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
パン……パン……パン……。
「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ちいい……♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅ……。結合部から卑猥な水音が響く。
腰を掴んでペースを上げた。
パンパンパンパン……!
「あっあっあっ♡♡♡♡! そこ……当たって……♡♡♡」
角度を変えて突き上げると──「そこぉっ♡♡♡!!」
美咲の腕が崩れ、顔がシーツに埋まった。お尻だけ突き上がった体勢でさらに奥を突く。
パンパンパンパンパン……!!
「イっちゃ……♡♡♡ イっちゃうっ……♡♡♡♡」
「俺も、もう……っ」 「中に……♡♡ 中に出して……♡♡♡」
最後、深く突き入れて──ずぷんっ!
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
どくっ、どくっ、どくっ……。中で脈打ちながら全てを注ぎ込んだ。
「熱い……♡♡ 中、熱い……♡♡♡」
美咲の全身がびくびくと痙攣し、中がぎゅうぅっと搾り取るように締め付けてくる。
しばらく荒い息をついて──ゆっくり抜いた。
「んっ……♡♡」
美咲がベッドに崩れ落ち、横を向いてとろけた瞳で俺を見た。
「……もう一回、したい♡」
体がすぐに反応した。
「今度は正面がいい」
美咲が仰向けになって両腕を広げる。「……おいで♡」
新しいコンドームを着けて覆いかぶさった。乱れた髪、潤んだ瞳、紅潮した頬。
「きれい」
「何回言うの♡」 「何回でも」
キスしながら脚の間に体を滑り込ませ、先端をあてがう。
「入れるよ」
「うん……♡ 来て♡」
ずぷ……っ。
「んんっ……♡♡! やっぱり……すごい……♡♡」
正常位だと美咲の表情が全部見える。眉が寄って、口が開いて、瞳が潤む。
腰をすくい上げるように突くと──「そこっ♡♡♡!」
美咲の脚が俺の腰に絡みつき、爪が背中に食い込んだ。少し痛い。でもそれがまた興奮する。
パンパンパン……!
「あっ♡♡ あっ♡♡ ダメ……♡♡♡ そこばっかり……♡♡♡」
キスを重ねながら腰を動かし続ける。
「んっ……んぅっ……♡♡♡」
美咲の中がきゅうきゅうとリズミカルに締め付けてくる。ペースを上げた。
パンパンパンパン……!!
「あっあっあっ♡♡♡♡! 来る……来ちゃう……♡♡♡♡!」
「俺も……っ!」 「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこ……♡♡♡♡」
美咲が背中に両腕を回してしがみつき、脚もがっちり腰に絡む。
奥に押し付けるように──最後の一突き。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡♡!!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
美咲の全身が震え、中が痙攣するように搾り取っていく。
「はぁっ……♡♡♡」
「……すごかった……」
抱き合ったまま荒い呼吸を繰り返し、ちゅ、と軽くキスをした。
「もうちょっとこのまま……♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を聞いていた。
ゆっくり体を離して処理を済ませた。
「……シャワー、浴びよっか」美咲がベッドの上で膝を抱えて言った。
「一緒に?」 「……うん♡」
狭いユニットバスに二人で入った。シャワーのお湯が汗を洗い流していく。
「背中、流すね」
「ん、ありがと♡」
美咲の背中にシャワーをあてながら手で優しく流す。つるりとした白い背中、腰のくびれ。
「……くすぐったい♡」
「ごめんごめん」
美咲が振り返って、俺の胸にぴとっと頬をつけた。シャワーのお湯が二人の体を伝って流れていく。
「今日、あのバーに来てよかった」
「……俺も」 「隣に座ったのたまたまなんだけどね」 「最高のたまたまだよ」 「あはは♡ そうだね♡」
シャワーを出て、バスタオルで体を拭いた。備え付けのパジャマに袖を通す美咲が新鮮だった。
ドライヤーで髪を乾かす美咲を眺めながらベッドに横になる。さっきまでの余韻がまだ体の奥に残っている。
(……すごい夜だな)
ドライヤーが止まり、美咲がベッドに来た。
「隣、いい?」
「当たり前じゃん」
シングルベッドに二人で横になると自然と体がくっつく。美咲が俺の胸に顔を埋めた。
「……あったかい」
「美咲も」
さらさらの髪が顎に触れる。シャンプーのいい匂い。
「ねぇ、LINE交換しよ」
「え、まだしてなかったっけ」 「してないよ♡ お酒とそれ以外で忙しかったから♡」
スマホでIDを交換した。美咲のアイコンはカフェでラテを持っている写真。
「明日、お昼一緒にごはん行かない?♡」
「行く。即答」 「また即答だ♡」
くすくす笑ってぎゅっと抱きついてくる美咲。
「……おやすみ」
「おやすみ、美咲」
ランプを消すと、カーテンの隙間から街の灯りがわずかに差し込んでいた。
(……出張、悪くないかもな)
美咲の穏やかな寝息を聞きながら、俺も目を閉じた。
──ピピピピピ。
スマホのアラームが鳴った。目を開けると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。 そして隣に──美咲が、俺の腕の中で眠っていた。
すぅ……すぅ……。
穏やかな寝顔。化粧が落ちた素顔は夜よりも少し幼く見えた。まつげが長くて、頬が柔らかい。
(夢じゃなかった)
アラームを止めた振動で美咲が目を覚ました。
「……おはよ♡」寝起きの少しかすれた声。
「おはよう」 「まだ眠い……♡」
ぎゅっとしがみついてくる美咲の髪をそっと撫でた。朝の光の中の美咲は穏やかで眩しい。
しばらくそうしていると、美咲がむくりと起き上がった。
「おなかすいた♡」
「ホテルのバイキング食べよう」
洗面台に向かった美咲が叫ぶ。「やばい、すっぴんで朝ごはん行く勇気ない♡」 「すっぴんでも可愛いのに」 「やめてよ朝から♡」
美咲が手早くメイクする間に俺は自分の部屋でシャツを着替え、また八階に迎えに行った。
「おまたせ♡」
白いカットソーにデニムの美咲。昨日のオフィスカジュアルとは違うカジュアルな雰囲気。
「かわいい」
「だから朝からやめてって♡」
ホテルのレストランで二人並んで朝食バイキング。味噌汁を飲みながら不思議な気持ちだった。昨日の夜バーで初めて会った人と朝ごはんを食べている。
「なにニヤニヤしてるの♡」
「いや、なんかさ。いいなって」 「なにが?」 「こういうの」
美咲が少し恥ずかしそうに笑った。「……うん。私もいいなって思う♡」
「ねぇ、お昼はあの駅前の海鮮丼のお店行こうよ。口コミで見つけたの」
「いいね、行こう」 「せっかくだし観光もしない? お城があるらしいよ」 「もはやデートじゃん」 「デートだよ♡」
美咲がにっこり笑った。
「……東京帰ってからも、会えたりする?」
俺が聞くと、美咲がまっすぐな目で答えた。
「……会いたい♡ 出張マジックとかにしたくないかなって♡」
「俺も。同じこと思ってた」 「じゃあ約束ね♡」
美咲が小指を差し出した。指切りなんて何年ぶりだろう。小指を絡めて──。
「約束」
「ゆーびきーりげーんまーん♡」 「……子供かよ」 「うっさい♡」
朝の光が差し込むレストランで、二人で笑った。
LINEに届いた「今日はよろしくね♡」のメッセージを見て、俺は確信した。
これは、始まりだ。
最高の出張になった。
─── Fin. ───