午前四時。
俺、早乙女亘(さおとめ わたる)は、まだ星の残る空の下で送迎バスを待っていた。
二十八歳。商社で営業をやっている。半年続いた案件がようやく片付いて、上司が半ば強引に押し込んでくれたリフレッシュ休暇。その消化先に選んだのが、屋久島だった。
(体力には自信あるし、縄文杉くらい一回見ておくか)
そんな軽いノリでツアーを予約した。往復十時間のトレッキングだと案内に書いてあったけど、毎週ジムに通っている身だ。なんとかなるだろうと思っていた。
五月の屋久島。本州はもう初夏でも、ここの早朝はひんやりして、長袖一枚だと少し肌寒い。ヘッドライトを首に巻いて、リュックを背負い直す。
やがて白いマイクロバスが宿の前に滑り込んできた。乗り込むと、もう半分くらい席が埋まっている。みんな眠そうな顔だ。俺は後ろから三列目の窓際に腰を下ろした。エンジンの振動が体に伝わってくる。次の宿で数人乗せるらしく、バスはまた走り出した。
数分後。
通路を挟んだ向こうではなく、俺の真隣の席に、ひとりの女性が座った。
(……あ)
寝起きなのか、目をこすりながら小さくあくびをしている。
ショートボブの黒髪。化粧っ気はほとんどないのに、肌が白くて、横顔の輪郭がきれいだ。鼻筋がすっと通っていて、まつげが長い。グレーのトレッキングウェアの上からでも、ほっそりした体つきがわかる。
目が合った。彼女が小さく会釈する。
「……おはようございます」
「おはようございます。眠いですね、こんな時間」
「ですね。四時起きとか久しぶりすぎて」
くすっと笑って、彼女はまた窓の外に視線を戻した。それきり二人とも黙る。
バスは真っ暗な山道を登っていく。ヘッドライトの光だけが、深い森の輪郭を切り取っている。
(隣、めちゃくちゃ綺麗な人だな……)
そう思いながら、俺も窓に頭を預けて目を閉じた。
登山口の駐車場に着いたのは、空がうっすら白み始めた頃だった。バスを降りると、ひんやりした空気と土の匂いが体を包む。参加者は十五人ほど。みんなで準備運動をして、ガイドの説明を聞く。日に焼けた中年のガイドが、にこやかに口を開いた。
「えー、今日は長丁場です。安全のために、二人一組のバディを組んでもらいます。お互いの体調を気にかけ合ってください」
ガイドが参加者を見回して、ぱっぱとペアを指名していく。そして、俺のところで足を止めた。
「お兄さんと……はい、そこのお姉さん。お二人ペアね」
指さされたのは──さっきバスで隣だった、あの女性だった。
「あ」
「……また一緒ですね」
二人で顔を見合わせて、思わず笑った。
「早乙女です。よろしくお願いします」
「篠崎仁奈です。こちらこそ。……足、引っ張らないように頑張ります」
「いやいや、こっちこそ」
仁奈さん、と頭の中で繰り返した。トロッコ道へ足を踏み入れる。かつて材木を運んでいたという線路の跡が、森の奥までまっすぐ続いている。枕木の間隔が微妙に歩幅と合わなくて、地味に歩きにくい。でも、それがかえって会話のきっかけになった。
「この枕木、間隔おかしくないですか」
「おかしいです。設計した人、人間の歩幅を測ってないと思います」 「真顔で言うじゃないですか」 「すみません、職業病で。データがないと落ち着かなくて」
聞けば、仁奈さんは製薬会社の研究員だという。年は二十六。有給を消化するための一人旅で、屋久島を選んだらしい。
「研究員さんが屋久島って、なんか意外ですね」
「樹齢何千年っていう生き物を、一度この目で見ておきたかったんです。私が扱ってるのは、せいぜい数日で代謝される分子なので」 「スケールでかすぎでしょ」 「ふふ。でしょう」
理屈っぽいけど、笑うと一気に幼くなる。そのギャップがずるい。
トロッコ道はひたすら平坦で、長い。森の中をどこまでも歩く。屋久杉の巨木、苔むした倒木、澄んだ沢の水。空気がしっとりと濃い。
「仁奈さん、ペース大丈夫ですか」
「大丈夫です。早乙女さんこそ、さっきから後ろ気にしすぎじゃないですか」 「バディなんで。気にかけ合うんでしょ」 「……律儀ですね」
少しだけ、仁奈さんの口元が緩んだ気がした。
二時間ほど歩いて、トロッコ道が終わり、本格的な山道に入る。そこから少し登ったところに、それはあった。
ウィルソン株。
中が空洞になった、巨大な切り株だ。中に入って見上げると、ぽっかり開いた穴の縁が──ハートの形に見える。
「うわ、ほんとにハート型に見える」
「角度があるみたいですよ。ガイドさんが、ここから撮るとって」
ガイドに教わった立ち位置にしゃがんで、空を見上げる。確かに、切り株の縁が綺麗なハートを描いていた。
「撮りましょう。仁奈さん、ハートの中、入って」
「え、私が?」 「せっかくだし」
少し照れたように、仁奈さんがハートの真下に立つ。俺はしゃがんでスマホを構えた。ハートの空を背負った仁奈さんが、ぎこちなく微笑む。
「いいですね。撮れた」
「じゃあ次、早乙女さん。交換です」 「俺も?」 「バディなんで。フェアにいきましょう」
さっきの台詞を返されて、苦笑した。今度は俺がハートの下に立ち、仁奈さんがスマホを構える。
「……はい、撮れました。送りますね」
その場で連絡先を交換した。お互いのスマホに、ハートを背負った相手の写真が一枚ずつ。
(なんか、いいな。これ)
口には出さなかったけど、そう思った。そこからさらに登る。木の階段、急な岩場、何度も渡る橋。ふくらはぎが張ってくる。仁奈さんは口数こそ減ったけど、弱音は一切吐かなかった。
そして──歩き始めて五時間近く。ついに、それが現れた。
縄文杉。
樹齢数千年といわれる、屋久島の主。
展望デッキから見上げたその幹は、想像していたどんな写真よりも太く、ごつごつと、生きていた。瘤だらけの幹に苔がびっしりと生し、無数の枝が天に向かって伸びている。
「……でかい」
語彙が、それしか出てこなかった。何千年。俺が生まれるずっと前、文字が生まれる前から、こいつはここに立っていた。そう思った瞬間、足の疲れも、息の上がりも、全部どうでもよくなった。ただ、圧倒された。
しばらく言葉もなく見上げていた。ふと、隣を見る。
仁奈さんが、泣いていた。声も立てず、ただ縄文杉を見上げて、頬を一筋、涙が伝っている。
「……仁奈さん」
「……あ。やだ、ごめんなさい」
慌てて目元を拭う。
「変ですよね。木を見て泣くなんて、データにもならないのに」
「変じゃないですよ。俺も、ちょっと来てます」
「……ふふ。早乙女さんも?」
「正直、何千年って言われた瞬間に、自分のちっぽけさがバグった」
仁奈さんが、涙のにじんだ目で笑った。
「……それ、すごくわかります」
二人で並んで、ただ縄文杉を見上げた。その沈黙が、不思議と心地よかった。
弁当を広げて昼食を取り、デッキでしばらく休んで、いよいよ下山が始まった。そして、それは下り始めてすぐに来た。
ぽつ、ぽつ。
「あ、降ってきた」
「ですね。……来ると思ってました」 「え、わかってたんですか」 「屋久島は月に三十五日雨が降る、って言うんですよ。データ的には雨です。覚悟してください」
そう言い終わるか終わらないかのうちに──ざあっ、と一気に来た。土砂降りだった。
慌ててレインウェアを引っ張り出して着込む。それでも横殴りの雨が容赦なく叩きつけてくる。木の階段はみるみる滑りやすくなって、岩場は小さな滝みたいになった。
「仁奈さん、こっち滑るんで、こっち踏んで!」
「はいっ」
「手、貸します」
濡れた岩場で、俺は手を差し出した。仁奈さんが、迷わずその手を掴んだ。冷たくて、でもしっかりした手だった。
「……ありがとう」
敬語が、少し崩れた。ぬかるんだ斜面を、二人で支え合って下りる。一度、仁奈さんが足を滑らせかけたのを、腰に手を回して受け止めた。
「うわっ……ご、ごめん」
「いえ。これもバディなんで」
「……もう、そればっかり」
雨の中で、仁奈さんがくすっと笑った。レインフードの下、濡れた前髪が頬に貼りついていて、それがやけに色っぽかった。
文句ひとつ言わなかった。研究員らしい理屈はどこかへ消えて、ただ前を向いて、一歩一歩、確実に下りていく。その芯の強さに、俺は完全にやられていた。
「仁奈さん、強いですね」
「強くないよ。早乙女さんがいるから、平気なだけ」
雨音にまぎれて、その言葉は、危うく聞き逃すところだった。トロッコ道まで下りる頃には、雨は小降りになっていた。長い長い線路の跡を、二人でとぼとぼ歩く。
「足、もう棒みたい」
「俺も。ジム通ってる自信、完全に粉砕された」 「ふふ。ざまあみろ」 「言うようになりましたね」
登山口に着いて、迎えのバスに乗り込んだ頃には、もう日が傾いていた。十時間。本当に、丸一日かけて歩き切った。泥だらけで、くたくたで、でも──不思議と満ち足りていた。
バスに揺られながら、仁奈さんの頭が、こてんと俺の肩に乗った。眠っている。
(……起こさないでおくか)
濡れた髪から、雨と森の匂いがした。俺はそのまま、窓の外を流れる夕暮れの島を眺めていた。バスは集落へ下りて、宿の前に順番に停まっていく。俺の宿で停まったとき、ガイドが声をかけた。
「早乙女さん、ここですよ」
肩の仁奈さんを起こす。
「ん……あ、ごめん。寝てた」
「俺、ここなんで。お疲れさまでした」
そう言って降りようとしたら──仁奈さんも、立ち上がった。
「……え。私も、ここ」
「……は?」
宿の名前を確認し合う。同じ、民宿だった。
「うそでしょ。同じ宿……」
「バディ、どこまで続くんですか」
二人で顔を見合わせて、声を上げて笑った。
古い木造の、こぢんまりした民宿だった。トビウオが名物だという。泥だらけのウェアを洗って、それぞれシャワーを浴びて、汗を流す。さっぱりして広間に下りると、夕食の支度ができていた。
「あの、よかったら、ご一緒にどうですか」
女将さんに頼んで、仁奈さんと同じ卓にしてもらった。トビウオの姿揚げ、首折れ鯖の刺身、地の野菜の煮物。どれも素朴で、染みるほど旨かった。一日歩き切った体に、食事がぐんぐん吸い込まれていく。
「……生き返る」
「ですね。十時間ぶりにまともなもの食べた気がする」
部屋着姿の仁奈さんは、昼間の凛とした雰囲気とは別人みたいに、やわらかく見えた。
食後、女将さんが言った。
「縁側で飲まれます? うちの島焼酎、よく冷えてますよ」
二人で顔を見合わせて、頷いた。縁側に出ると、すっかり夜だった。民宿の裏は段々畑で、その向こうに山の稜線が黒く沈んでいる。そして頭上には──息を呑むほどの、満天の星。
「……うわ、すごい星」
「……ほんとだ。こんなの、東京じゃ絶対見えない」
縁側に並んで腰を下ろす。女将さんが置いていってくれたのは、三岳という芋焼酎だった。グラスに氷を入れて、ロックで注ぐ。
「……お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
こつん、とグラスを合わせた。
一口飲む。芋の香りと、まろやかな甘み。一日歩き切った疲れた体に、じわりと熱が広がっていく。
「うまい。これは染みる」
「……危険なお酒ですね、これ。疲れてるときに飲むと、効きそう」
その予感は当たった。
二杯、三杯と重ねるうちに、仁奈さんの頬がほんのり染まっていく。そして、研究員らしい理屈が、少しずつ剥がれていった。
「私ね、いつも……何にでも理由を探しちゃうんです」
「理由?」
「これはこういうメカニズムで、こういうデータがあって、だからこうなる、って。そうしないと、不安で」
「真面目なんですね」
「……でも、今日。縄文杉の前で、初めて、何も説明できなかった。ただ、泣いてた。それが、すごく……怖くて、でも、気持ちよかった」
星空を見上げる仁奈さんの横顔を、星明かりが薄く照らしている。睫毛の影が、頬に落ちている。
「……仁奈さん」
「ん?」
俺は、グラスを縁側に置いた。
「俺も、今日、説明できないことだらけです。バスで隣になったのも、ペアになったのも、宿が同じだったのも──全部、偶然なんだけど」
「……うん」
「偶然なのに、なんか、運命みたいだって思ってる自分がいて」
仁奈さんが、ゆっくりこちらを向いた。星を映した瞳が、潤んでいる。
「……それ、データには、ないですよ」
「ない」 「再現性も、ない」 「ない。一回きりだ」
仁奈さんが、小さく息を吐いた。それから、ふっと笑って、まっすぐ俺を見た。
「……データにない夜が、あってもいいと思うんです。今日だけは」
その一言が、合図だった。
俺はそっと、仁奈さんの頬に手を添えた。火照った肌は、思ったよりずっと熱い。仁奈さんが、目を閉じる。
縁側で、唇を重ねた。
ちゅ……。
焼酎の甘い香りが、移ってくる。柔らかくて、少し冷たくなった唇。軽く触れて、離れて、もう一度。
「……ん♡」
「……部屋、行こう」
「……うん♡」
手を取って、仁奈さんの部屋へ。畳に布団が一組、敷いてあった。障子越しに、星明かりがうっすら差し込んでいる。
布団の上に並んで座る。膝が触れ合う距離。もう一度、唇を重ねた。
今度は、深く。
ちゅぷ……んむ……れろ……♡
舌先で唇をなぞると、仁奈さんが小さく口を開いた。絡んだ舌が、ぬるりと熱い。焼酎の味がする。
「ん……ふ……♡ ちゅ……♡」
腰に手を回して、引き寄せる。部屋着越しに、体温が伝わってきた。
ぷはっ、と離れると、唾液が細い糸を引いて切れた。仁奈さんの瞳が、とろんと潤んでいる。
「……研究員なのに♡ 頭、真っ白……♡」
「それでいいんじゃないですか。今日だけは」
「……うん♡」
部屋着のボタンに手をかける。一つずつ外していくと、白い肌が現れた。淡いベージュのブラジャー。ほっそりした鎖骨。
「あんまり、見ないで……♡」
「それは、無理です」
「……理屈っぽい人、嫌いって言ったのに♡」
首筋に唇を落とす。鎖骨をなぞって、肩へ。背中に手を回して、ホックを外した。かちっ。ブラを取り去ると、形のいい胸がこぼれ出た。色白の肌に、薄いピンクの先端。緊張で、もう少し硬くなっている。
そっと、左の胸を手のひらで包んだ。
ふにゅ……♡
「あ……♡」
指を沈めると、柔らかくはみ出してくる。もう片方の手で、右も。両手いっぱいの、しっとりした弾力。
親指で、先端をくりっと転がす。びくん、と肩が跳ねた。
「ひゃっ……♡♡」
唇を寄せて、ちゅっと吸う。
「やっ……!♡ 声、出ちゃう……♡♡」
「出していいですよ。誰も聞いてない」
舌先で、硬くなった先端をころころ転がす。ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
「あっ……あっ♡♡ そんな、ずっと……♡♡」
交互に舌を這わせながら、もう片方を指で揉みしだく。仁奈さんの肌が、うっすら汗ばんできた。理屈っぽい言葉が、もう全部、喘ぎに変わっている。
「……下も、いいですか」
「……うん♡」
部屋着の下を、ゆっくり脱がせる。淡い色のショーツ。その中央が、もう、しっとりと色を変えていた。
布の上から、そっと指で触れる。
くちゅ……♡
「ひっ……♡♡」
びくん。
「……もう、こんなに」
「だって……♡ キスのとき、から……ずっと……♡♡」
ショーツに指をかけて、ずり下ろす。くちゅ、と蜜が糸を引いた。整えられた茂みの下に、濡れそぼった花びら。透明な蜜が、とろりとあふれている。仁奈さんの膝を、そっと押し開いた。
「やっ……明るくないのに、恥ずかしい……♡」
太ももの内側に、唇を落としながら、中心へ近づく。舌先で、花弁にそっと触れた。ちろ……♡
「んあっ……!♡♡」
腰が、びくんと跳ねる。ちゅる……れろ……ちゅっ……♡♡
「あぁっ……♡♡ やっ、それ……♡♡」
仁奈さんの手が、俺の髪をくしゃっと掴んだ。小さな突起を探り当てて、舌先を集中させる。こりこり……ちゅっ……♡♡
「そこっ……♡♡♡ あっ、あっ、あっ……♡♡」
太ももを押さえて開かせながら、突起を唇で挟んで、ちゅうっと吸い上げた。
「──っ♡♡♡! だめ、それ、来ちゃう……♡♡♡」
舌の動きを速めながら、指を一本、入り口に沈める。ずぷ……♡
「ひぅっ……♡♡♡ 入って……きてる……♡♡」
熱い。きつい。中が、きゅうきゅうと指を締め付けてくる。曲げて、上の壁をぐっと押すと、仁奈さんの腰がびくびく震え始めた。
「やっ……そこ、やばい……♡♡♡ 来る、来ちゃうっ……♡♡♡♡」
指でかき回しながら、突起を舌で転がす。ぐちゅっ、ぐちゅっ、こりこり……♡♡♡
「──イっ……♡♡♡ イっちゃ……んんんっ……♡♡♡♡」
背中が、弓なりに反った。中がぎゅうっと指を締め付けて、全身がびくびくと痙攣する。
しばらくして、力が抜けたように、布団に沈み込んだ。
「はぁ……はぁ……♡♡ ……指だけで、こんなの……初めて♡」
潤んだ瞳で、俺を見上げてくる。それから、ゆっくり体を起こした。
「……今度は、私♡ 早乙女さんにも、気持ちよくなってほしい♡」
仁奈さんの手が、俺のズボンに伸びる。カチャ……ジー……。ベルトを外して、下ろす。布越しでも、限界まで張りつめているのがわかった。下着の上から、そっと手を添える仁奈さん。
「……すごい♡ 硬い……♡」
ウエストに指をかけて、引き下ろす。ぶるん、と勢いよく飛び出した。仁奈さんが、息を呑む。
「……おっきい♡♡ こんなの、入るのかな……♡」
細い指が幹に絡んで、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……♡
それから、顔を近づけて──ぺろ、と先端を舐めた。
「……ん♡ 早乙女さんの、味♡」
ちゅっ、と先端にキス。それから、ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……♡
温かくて、濡れた口の中。舌が裏筋を、ねっとりとなぞる。
「ん……じゅる……♡ んちゅ……れろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させながら、頬をすぼめて吸い上げる。上目遣いの、潤んだ瞳。星明かりに照らされたその顔が、艶っぽすぎて、頭がくらくらした。
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
「……仁奈さん、それ、やばい」
「ん♡ もっと……奥まで、する♡」
ずぷっ、と深く咥え込んで、喉の奥に触れる。全身に、電流みたいなものが走った。
「……ストップ。それ以上は、イく」
ぷはっ、と口を離す。唇が、唾液でてらてらに光っていた。
「ふふ♡ まだ、だめ♡」
いたずらっぽく笑う仁奈さんを、そっと布団に押し倒した。乱れた髪、紅潮した頬。
「……ゴム、持ってきてます」
「……用意いいんですね♡」 「一応、大人の嗜みで」 「ふふ……♡ つけて♡」
手早く装着して、脚の間に体を滑り込ませる。蜜で濡れた入り口に、先端をあてがった。
「……来て♡ 早乙女さんの、ほしい……♡」
ゆっくり、腰を進める。ずぷ……ずぷぷ……♡♡
「あぁっ……♡♡♡ 入って……くるぅ……♡♡♡」
きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。
「おっきい……♡♡ お腹の中、いっぱい……♡♡♡」
ずぷん、と根元まで収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
「……動きますよ」
「うん……♡ 来て♡」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。ぱん……ぱん……ぱん……♡♡
「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ちいい……♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅ……♡ 結合部から、卑猥な水音が響く。
腰を掴んで、少しずつペースを上げていく。ぱんぱんぱん……!♡♡♡
「あっあっあっ♡♡♡♡ 奥っ、当たって……♡♡♡」
角度を変えて、奥を突き上げると──
「そこっ……♡♡♡!! だめ、そこばっかり……♡♡♡」
仁奈さんの脚が、俺の腰に絡みついてくる。もっと奥を、と引き寄せるように。ぱんぱんぱんぱん……!!♡♡♡
「研究員なのにっ……♡♡♡ 頭、ばかになるっ……♡♡♡♡」
「……いいんですよ。今日は、ばかで」
ぐちゅぐちゅと、蜜が泡立つ音がする。仁奈さんの中が、リズミカルに締め付けてくる。
「来るっ……また、来ちゃうっ……♡♡♡♡」
「……俺も、そろそろ」
「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イきたい……♡♡♡♡」
仁奈さんが両腕を背中に回して、しがみついてくる。爪が、背中に食い込んだ。少し痛い。でも、それがまた、興奮を煽る。
最後、奥に押し付けるように──ずぷんっ!
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
どくっ、どくっ、どくっ……! ゴム越しでも、脈打ちながら全部を吐き出していくのがわかる。仁奈さんの全身が震え、中が痙攣するように搾り取ってくる。
「はぁっ……♡♡♡ すごい……♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を重ねた。ちゅ、と軽く唇を合わせる。
「……大丈夫ですか」
「……うん♡ 全然、大丈夫じゃない♡」
くすっと笑って、それから、潤んだ瞳で、いたずらっぽく囁いた。
「……ねえ♡ 今日だけ、なんだから……もう一回、いい?♡」
体が、すぐに反応した。
「……今度は、仁奈さんが上で」
「……研究員に、実験させる気♡?」
「データ、取りましょう」
「……もう♡ ばか♡」
新しいゴムをつけて、仰向けになる。仁奈さんが、ゆっくり俺の上にまたがった。
星明かりの中、見上げる仁奈さん。ぷるんと揺れる胸、引き締まったお腹、繋がろうとしている場所。仁奈さんが角度を合わせて、ゆっくり腰を落とす。ずぷん……♡♡
「あっ……♡♡♡ この体勢、奥まで……入る……♡♡♡」
ゆっくり、腰を上下させ始めた。ずぷ……ずちゅ……ずぷっ……♡♡
「ん……♡♡ 自分で、動くの……恥ずかしいのに……♡♡♡」
目の前で、胸がぷるんぷるん揺れる。両手を伸ばして、掴んだ。ふにゅっ♡♡
「ひゃんっ♡♡♡ 揉んだら……動けなく、なる……♡♡♡」
「いいから。続けて」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ 奥に……当たってるっ……♡♡♡」
仁奈さんが、腰を回すように動き始めた。中を、ぐりんとかき回される。
「……仁奈さん、それ、反則です」
「データ、取ってるだけ♡♡♡ ……どこが、一番、効くか……♡♡♡」
下から、ぐっと突き上げた。ずぷんっ♡♡♡
「ひぁっ♡♡♡♡ 下から……っ♡♡♡」
仁奈さんの動きと、俺の突き上げが、一番奥でぶつかる。ぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡ ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡♡
「だめっ……♡♡♡ また、来ちゃうっ……♡♡♡♡」
「……俺も、もう……っ」
「一緒に……♡♡♡ 今度も、一緒に……♡♡♡♡」
仁奈さんが、俺の上に倒れ込んでくる。汗で湿った肌が、ぴたりと重なる。最後、下から思いきり突き上げた。ずぷんっ♡♡♡♡
「イくぅっ……♡♡♡♡♡!!」
どくっ、どくっ、どくっ……! 二度目とは思えないほど、強く脈打つ。仁奈さんの中が、ぎゅうぅっと搾り取るように締め付けてきた。
「はぁっ……♡♡♡ はぁっ……♡♡ ……すごかった……♡♡」
汗だくの体を重ねたまま、しばらく動けなかった。障子の隙間から、星明かりが薄く差し込んでいる。外で、夜の虫が鳴いている。
「……ねえ、早乙女さん」
「ん」
「これ……データに、ない夜……でしたね♡」
「……ですね。再現性ゼロの、一回きり」
仁奈さんが、ふっと笑って、俺の胸に頬を寄せた。
「……でも、もう一回、取りたくなるくらい、いいデータでした♡」
「……それは、追試が必要ですね」
「ふふ♡ 理屈っぽい人、嫌いって言ったのに♡」
ゆっくり体を離して、後始末を済ませる。布団に並んで横になると、自然と体がくっついた。仁奈さんが、俺の腕の中に、すっと収まる。
「……あったかい♡」
「仁奈さんも」
濡れていた髪は、もう乾きかけていて、ほのかにシャンプーの匂いがした。
「……おやすみなさい♡」
「おやすみ、仁奈さん」
星明かりの中、二人で目を閉じた。
朝。
障子越しの光で目が覚めた。隣を見ると、仁奈さんが、俺の腕の中で眠っていた。
すぅ……すぅ……。
穏やかな寝顔。化粧っ気のない素顔は、昨日よりもさらに幼く見えた。
(……夢じゃ、なかった)
そっと髪を撫でると、仁奈さんがむずがって、ゆっくり目を開けた。
「……ん♡ おはよう……ございます……」
「おはよう。よく眠れた?」
「……寝すぎました♡ 十時間歩いて、二回もして……そりゃ、寝ますよ♡」
「ふふ、言うようになった」
民宿のトビウオ出汁の味噌汁を二人で飲んで、女将さんに見送られて宿を出た。今日はもう、ツアーの予定はない。
「……仁奈さん、今日、どうします?」
「……白谷雲水峡、行ってみたいんです。苔の森が、すごいって」
「じゃあ、二人で行きましょう。バディ、もう一日延長で」
「……ふふ♡ しつこいですね、そのネタ♡」
レンタカーを借りて、二人で白谷雲水峡へ向かった。そこは、別世界だった。
見渡す限りの、緑。岩も、倒木も、地面も、何もかもが、深い苔に覆われている。木漏れ日が苔に降り注いで、森全体がやわらかな緑色に発光しているみたいだった。
「……すごい。映画みたい」
「ほんとだ。空気が、緑色」
昨日のツアーとは違って、誰に急かされることもなく、二人だけの時間。手を繋いで、ゆっくり、ゆっくり、苔の森を歩いた。
沢のせせらぎ。鳥の声。それ以外、何も聞こえない。
途中、苔むした岩の上で休んだ。仁奈さんが、ぽつりと言った。
「私、明日の便で帰るんです」
「……俺も、明日です」 「何時の?」 「夕方の鹿児島乗り継ぎ」
仁奈さんが、ぱっと顔を上げた。
「……私、午前の便なんです。……変えても、いいですか。早乙女さんと、同じ便に」
心臓が、跳ねた。
「……いいんですか。一人旅、だったのに」
「……一人旅は、もう、終わりにしたいです」
苔の森の真ん中で、俺は仁奈さんの手を、ぎゅっと握った。
「仁奈さん。東京に帰っても、会ってくれませんか」
仁奈さんが、潤んだ目で、まっすぐ俺を見た。それから、研究員らしい言い回しで、答えた。
「……一回きりじゃ、サンプルが足りません」
「……つまり?」 「東京でも、データ、取り続けましょう♡ ……長期の、追跡調査で♡」 「……それ、付き合ってくれるって、ことでいいんですよね」 「……ふふ♡ はい♡ ……お願いします、早乙女さん♡」
苔の森に、木漏れ日が降り注いでいた。
「亘でいいよ。もう、バディなんだし」
「……じゃあ、私も。仁奈、で♡」
その場で、スマホを取り出して、二人の帰りの便を、同じ時刻に揃えた。鹿児島で乗り継いで、羽田まで一緒に帰る。
「……東京でも、よろしくお願いします♡」
「こちらこそ。──長期の追跡調査、楽しみにしてる」
仁奈さんが、声を上げて笑った。
その笑顔は、縄文杉よりも、苔の森よりも、満天の星よりも──この旅で見た、どんな景色よりも、綺麗だった。
繋いだ手の温もりが、確かだった。
未明のバスで、たまたま隣になっただけ。ガイドの気まぐれで、ペアになっただけ。宿が、たまたま同じだっただけ。
データには、ない。再現性も、ない。それでも、これは──きっと、運命だ。
二人で見上げた苔の森の天井は、どこまでも、緑に輝いていた。
― 終 ―