八月上旬の土曜日、俺は富士スバルラインを登るバスの窓に額を押し付けていた。
俺、篠田竜也。二十五歳。会社の先輩に「富士山登ろうぜ」と誘われて、休みを合わせて、装備も一式そろえた。なのに。ポケットの中でスマホが震える。先輩からのLINEだった。
「……は?」
『ごめん竜也、嫁が熱出した。今回パスで! また今度な🙏』
五合目に着く三十分前の、完璧なタイミングのドタキャン。
(また今度って、富士山だぞ)
開いた口が塞がらない。だけど装備はもう背中にある。新品のトレッキングシューズも、ザックも、ヘッドライトも、防寒着も、全部この日のために買った。引き返す選択肢を、なんとなく選べなかった。
バスが五合目のロータリーに滑り込む。標高二三〇〇メートルの空気はひんやりして、雲が眼下にあった。
「……一人で、登るか」
ヤケクソ半分、意地半分。スマホで登山アプリのコースを確認して、吉田ルートの登山口に立った。鳥居をくぐって、最初の一歩を踏み出す。
(装備だけは一人前なんだよなあ、俺)
そう、装備だけは。登山自体は、正真正銘の初心者だった。六合目までは、正直余裕だった。緩やかな砂利道を、軽快に飛ばす。
「楽勝じゃん、富士山」
抜いていくおじさんグループを横目に、調子に乗ってペースを上げた。それが、間違いだった。七合目に差し掛かる頃。岩場のつづら折りを登り始めたあたりで、足が急に重くなった。頭の奥が、ずきずき痛む。
(あれ……息、苦しい)
吸っても吸っても、肺に空気が入ってこない感覚。地面がぐらりと傾く。俺は岩場の脇に、へなへなとへたり込んだ。
「うっ……気持ち悪い……」
これが高山病ってやつか。ガイドブックで読んだ知識が、今さら脳裏をよぎる。ペースを上げすぎた。完全に。
ザックからペットボトルを出そうとして、手が震えていることに気づいた。頭上を、登山客が次々追い越していく。誰も足を止めない。当たり前だ。みんな自分の山に必死なんだから。
(やば……これ、登れるのか、俺)
視界の端がちかちかする。岩に背中を預けて、目を閉じた。そのときだった。
「あー、それ完全に高山病なりかけだね」
声がした。少し高めの、よく通る声。目を開けると、登山客が一人、俺の前にしゃがんでいた。日に焼けたウェアに、軽量のザック。ポニーテールに結んだ髪が、つばの広いハットからこぼれている。切れ長の目に、すっと通った鼻筋。汗で頬に張り付いた後れ毛が、なぜかやけに目に焼き付いた。
(……綺麗な人だ)
ぼんやりそう思った直後、彼女は俺のザックを勝手にがさごそ探り始めた。
「水ある? ちょっとずつでいいから飲んで。あと、これ」
手のひらに、小さな飴を一粒、ぽんと載せられた。透明な包み。
「これ……?」
「ブドウ糖。糖分入れると少しマシになるから。はい、口開けて」
「い、いや、自分で……」
「いいから。手、震えてるでしょ」
有無を言わさぬ口調で、飴を口に放り込まれた。じわっと、舌の上で甘さが溶けていく。
「で、ペース上げすぎたでしょ。六合目あたりからガンガン飛ばしてたの、後ろから見えてた」
「……見られてたんですか」
「うん。あー、これは七合目でバテるなって思ってたら、案の定」
くすっと笑って、彼女は俺の隣の岩にどっかり腰を下ろした。
「十分休も。深呼吸して。富士山はね、ゆっくり登るのが一番速いの」
言われるがまま、ゆっくり息を吸って、吐く。不思議と、彼女が隣にいるだけで、ちょっとだけ呼吸が楽になった気がした。
「……助かりました。一人だったんで」
「ソロ? 初めて?」
「ばればれですか」
「初心者がソロでこのペースだもん。心配になるよ」
ふっと笑って、彼女は山頂の方を見上げた。
「私、高梨千尋。二十五。登山歴五年で、富士山はこれで三回目」
「篠田竜也です。二十五……同い年だ」
「あ、タメか。じゃあ敬語やめよ。山の上で敬語使ってると疲れるから」
そう言って、彼女――千尋は、にっと白い歯を見せた。日焼け止めの匂いが、ふわっと風に乗って届いた。十五分ほど休むと、頭痛がだいぶ引いてきた。
「立てる? ゆっくりね。私の後ろついてきて。歩幅、合わせるから」
千尋が先に立って、俺の前を歩き出す。その歩き方が、本当に綺麗だった。一歩が小さくて、リズムが一定で、無駄がない。
(なるほど、これが五年か)
俺は彼女の足元だけを見つめて、その歩幅をそっくり真似た。すると、不思議なくらい楽だった。さっきまであんなに苦しかったのに、息が乱れない。
「……すごい。全然違う」
「でしょ? 登山ってね、体力より、ペース配分が九割なの」
「先生みたいだ」
「ふふ。じゃあ生徒くん、ちゃんとついてきてね」
振り返って笑う千尋の頬が、夕日でオレンジに染まっていた。七合目から八合目まで、俺たちはぽつぽつ話しながら登った。千尋は都内のメーカーでOLをしていること。山が好きで、月に一度はどこかの山に登ること。富士山は「年に一度のご褒美」だということ。
「ご褒美?」
「うん。ご来光見ると、一年がんばれるから」
夕暮れの稜線を見つめる横顔が、少し遠くを見ているようだった。八合目の山小屋に着いたのは、十八時過ぎ。すでに陽は雲海の向こうに沈みかけていて、空が藍色に染まり始めていた。
「今夜はここで仮眠して、深夜に山頂アタックね。竜也、宿の予約は?」
「えっと……ここ、です。たぶん」
スマホの予約画面を見せると、千尋が目を丸くした。
「……え。私もここなんだけど」
「マジで?」
「マジで」
受付で対応してくれたのは、山小屋のスタッフだった。日に焼けた、人の好さそうな男性。名札には「管理人・大村」とある。
「おっ、若い二人組かい。俺はここで二十年、小屋番やってる大村。今年で四十八になるけど、まだまだ現役だよ」
「二十三番と、二十四番ね。はい、寝袋はそこのを使って。消灯は二十時、起床アタックは各自で。ご来光、楽しんでおいで」
そう言って、大村さんはくしゃっと笑った。案内されたのは、カイコ棚みたいに区切られた、二段の寝床。番号を確認した。
「俺、二十三番」
「……私、二十四番」
隣だった。
「……隣じゃん」
「隣だね」
千尋が、ぷっと吹き出した。
「すごい確率。今日、何回会うのよ私たち」
寝袋ひとつ分の幅しかない区画に、二人並んで荷物を広げた。肩が、ときどき触れる。夕食のカレーを食べて、歯を磨いて、消灯時刻が来た。山小屋の中が、ふっと暗くなる。あちこちから、疲れた登山客の寝息が聞こえ始めた。俺はなかなか寝付けなかった。隣で寝返りを打つ気配が、やけに気になって。
「……竜也、起きてる?」
千尋の声が、闇の中で囁くように届いた。
「起きてる」
「眠れない?」
「うん。なんか、興奮してて」
「わかる。私もいつも初日は寝れないんだよね」
ヘッドライトを最弱にして、二人で顔を寄せて、小声で話した。オレンジ色のわずかな光に、千尋の顔が照らされている。
「ねえ、なんで一人で富士山来たの? ソロ初心者なんて、無謀すぎ」
「先輩に誘われたんだけど、当日ドタキャンされてさ」
「えー、ひどい」
「装備だけ全部そろえちゃってたから、引くに引けなくて」
「ふふ、それで意地で登ってきたんだ」
「まあ……今は、来てよかったって思ってる」
言ってから、口が滑ったかと思った。闇の中で、千尋がちょっと黙る。
「……私も。飴あげた相手が、こんないい子で」
「いい子って」
「同い年なのに、生徒くんだもんね」
くすくす笑う声。寝床の板一枚向こうの、近すぎる距離。
「もう寝よ。一時半起きだから。私が起こしてあげる」
「ありがとう」
「おやすみ、竜也」
「おやすみ、千尋」
ヘッドライトが消えて、また闇が落ちた。千尋の寝息が聞こえ始めても、俺はしばらく、心臓の音だけを聞いていた。
――とんとん。
肩を叩かれて目が覚めた。
「竜也、起きて。一時半。アタックの時間」
ヘッドライトの光の中、すでに登山装備を整えた千尋がいた。
「うわ、もう?」
「もう、じゃないの。ご来光間に合わないよ。ほら、防寒しっかり」
外に出ると、空気が刺すように冷たかった。標高三〇〇〇メートル超。八月なのに、吐く息が白い。そして――頭上を仰いで、息が止まった。
「……星」
満天の星空だった。街では絶対に見られない、降ってくるような星の海。天の川が、くっきりと夜空を横切っている。
「きれいでしょ。これも富士山のご褒美」
千尋がヘッドライトを点けて、登山道を指した。もう登山客のヘッドライトの列でいっぱいで、山頂に向かって、光の蛇が連なっている。
「ついてきて。私のペースなら、ご来光までに登頂できるから」
「……頼む」
千尋の背中を追って、暗闇の岩場を登り始めた。ご来光渋滞、というやつだった。山頂直下の岩場で、列がぴたりと止まる。一歩進んでは、止まる。寒さが、じわじわ体を蝕んでくる。標高が上がるほど、空気が薄くなる。また頭が痛み始めた。
「……ちょっと、きつい」
「あとちょっと。ほら、深呼吸。私の手、握ってていいから」
差し出された手を、思わず握った。手袋越しでも、温かい。
「一歩ずつでいいよ。焦らない。富士山は逃げないから」
「……うん」
止まっては進み、進んでは止まり。寒さで歯が鳴る。けど、握った手の温かさだけが、現実をつなぎとめてくれた。
東の空が、ほんの少しずつ、藍色から紫に変わっていく。
「見て、空。もうすぐだよ」
最後の鳥居をくぐったとき――俺たちは、山頂に立っていた。標高三七七六メートル。日本で一番高い場所。眼下には、地平線まで続く雲海。その境界線が、ゆっくりと、燃えるようなオレンジ色に染まり始めていた。
「……すげえ」
言葉にならなかった。ただ、すげえ、としか出てこなかった。周りの登山客たちも、みんな黙って東を見つめている。雲海の縁が、白く、まばゆく光り出す。
「……来る」
千尋が、ぽつりと呟いた。その瞬間――雲海の向こうから、太陽の一点が、ぷつりと顔を出した。世界が、金色に変わった。雲海が朝焼けに染まり、俺たちの顔が、富士山の影が、すべてが光に包まれる。
胸の奥が、熱くなった。理由なんて、わからなかった。ただ、隣にいる千尋の横顔を見たら――目に涙を浮かべて、子供みたいに口を開けて、ご来光を見つめていた。山ではあんなにテキパキしていた人が。
「……毎回さ、ここで泣いちゃうんだよね」
照れたように笑う千尋の頬を、朝日が照らす。そのとき、気づいた。俺たちは、いつの間にか手を繋いでいた。どちらからともなく。手袋を外した、素手のまま。
「……千尋」
「ん?」
「……ご来光、めちゃくちゃ綺麗だ。けど」
「けど?」
「……今、それより千尋の顔ばっか見てる」
千尋の頬が、朝焼け以上に赤くなった。
「……なにそれ。ずるい。山の上でそういうこと言うの、反則」
そう言いながら、繋いだ手に、ぎゅっと力がこもった。下山は、登りより数倍きつかった。砂走りの斜面で何度も転びそうになって、そのたびに千尋が腕を掴んでくれた。五合目に降り立ったのは、昼過ぎ。膝が笑って、二人ともへとへとだった。
「……生きて帰ってこられた」
「ふふ、生徒くん、卒業だね」
バスを待つベンチに並んで座る。陽射しが温かい。千尋が、ぽつりと言った。
「ねえ、竜也」
「ん?」
「……このまま解散するの、なんか、もったいなくない?」
横顔が、ちょっと緊張しているように見えた。
「……打ち上げ、しません? 河口湖、温泉あるし」
「……行く。即答で」
「ふふ、即答だ」
「断る理由がない」
「……うん。私も」
バスで河口湖まで下りて、湖畔の日帰り温泉に入った。別々の湯から出てきた千尋は、髪を下ろしていた。ポニーテールをほどいた姿が、別人みたいに大人っぽくて、思わず目を奪われた。
「……髪、下ろすと雰囲気違うんだな」
「な、なに、急に。やめてよ、照れる」
頬を染めてそっぽを向く仕草が、山の上のテキパキした彼女とは別人だった。
夕食は、湖畔のほうとう屋に入った。熱々の鉄鍋に、味噌仕立てのほうとう。登山で消耗した体に、染み渡るような旨さだった。
「うますぎる。生き返る」
「でしょ。下山後のほうとうは、世界一おいしいの」
ビールで乾杯して、登山の話で盛り上がった。千尋が今まで登った山。北アルプス、八ヶ岳、屋久島。語る目が、きらきら輝いている。
「千尋、ほんとに山が好きなんだな」
「うん。山にいると、自分が一番素直になれる気がするの」
ちょっと照れたように、ビールを呷る。話は尽きなかった。気づけば、店の外はすっかり暗くなっていた。スマホを見て、俺は固まった。
「……終バス、二十分前に出てた」
「えっ」
二人で顔を見合わせる。
「……どうしよ」
「タクシーで五合目戻っても、今日の下りはもう……」
「……だよね」
千尋が、湖の方を見た。湖畔には、いくつかのホテルの灯りが灯っている。そして、ゆっくり俺を見て、小さく言った。
「……泊まる? ここで。二人で」
心臓が、跳ねた。
「……いいの?」
「……うん。ていうか」
千尋が、俺のシャツの袖を、きゅっと掴んだ。
「……まだ、竜也と一緒にいたい」
湖畔のホテルに、二人でチェックインした。窓からは、月明かりに照らされた河口湖と、その向こうに黒々とそびえる富士山が見えている。
「……あそこ、登ったんだよな、俺たち」
「すごいよね。今朝はあの上にいたんだもん」
並んで窓辺に立つ。肩が触れる。千尋が、こっちを見上げた。月明かりに、瞳が潤んで光っている。
「千尋」
「ん……」
頬に手を添えると、千尋がそっと目を閉じた。俺は、ゆっくり唇を重ねた。
ちゅ……。
温泉あがりの、柔らかい唇。かすかに、ビールの味がした。
「ん……♡」
触れるだけのキスから、少しずつ深く。角度を変えて、もう一度。舌先で唇をなぞると、千尋の口がそっと開いた。
ちゅ……んちゅ……♡
「ふ……ぁ……♡」
腰に腕を回して、引き寄せる。千尋の体が、ぴたりと密着した。体温が、シャツ越しに伝わってくる。
「……竜也、心臓、すごい鳴ってる」
「千尋もだろ」
「……ばれた♡」
くすっと笑って、千尋が俺の首に腕を回した。今度はもっと深く。唇を食むようなキス。舌が絡み合う。
ちゅぷ……れろ……ちゅるっ……♡♡
「ん……んむ……♡♡」
ぷはっ、と離れると、唾液が細く糸を引いた。
「はぁ……♡ ……ベッド、行こ?」
千尋の手を引いて、ベッドに腰を下ろした。並んで座って、もう一度キスしながら、シャツのボタンに手をかける。
「脱がせていい?」
「……うん♡ でも、私も脱がす」
お互いの服に手を伸ばす。千尋のシャツを脱がせると、白いキャミソールと、その下の淡いブルーのブラジャーが現れた。日に焼けたうなじと、焼けていない白い肩のコントラストが、妙に色っぽい。
「……日焼けのあと、くっきりだ」
「やっ♡ 見ないでよ、恥ずかしい♡」
キャミソールを頭から抜くと、栗色の髪がふわっと肩に広がった。背中に手を回して、ホックを外す。カチッ。ブラがふっと緩んで、胸が露わになった。形のいい、張りのある乳房。先端は、ほんのり桜色。
「……綺麗だ。千尋」
「……そういうの、慣れてないから、心臓持たない♡」
腕で隠そうとする千尋の手を、そっとどけた。右手で、左の胸を包むように触れる。
ふにっ。
「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような、柔らかさ。指を沈めると、むにっと形を変える。もう片方の手で、右も包んだ。
「ん……っ♡ 両方、いっぺんに……♡♡」
親指で、先端をくりっと転がす。
「ひゃっ♡♡」
びくんと、千尋の肩が跳ねた。もう小さく硬くなった先端が、指先にコリコリ伝わる。
くりくり……くりくり……♡
「あっ♡ あん♡♡ 竜也っ……♡♡」
唇を、先端に落とした。ちゅっ。
「ひぅっ♡♡♡」
舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。
ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
「あっあっ♡♡ 吸っちゃ、だめ……♡♡ 声、出ちゃう……♡♡」
交互に舌を這わせて、たっぷりと味わう。千尋の肌が、うっすら汗ばんで、温泉の香りと混ざる。
「千尋、下も脱がすよ」
「……うん♡」
ジーンズのボタンを外して、ゆっくり脱がせていく。下着と一緒に、足先から抜き取った。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせる。
「……すごい。もう濡れてる」
「やっ♡ 言わないでよ……♡ キスの時から、ずっと……♡♡」
整えられた茂みの下、ピンク色の花弁が、透明な蜜でとろりと濡れていた。指先で、そっとなぞる。
くちゅ……。
「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」
びくん、と腰が跳ねる。小さな突起を見つけて、指の腹でくるくると円を描く。
くり……くり……♡
「あぁっ♡♡♡ そこっ……一番、だめぇっ♡♡♡」
「だめじゃないだろ。気持ちいいんだろ?」
「だってっ♡ 竜也の指、上手すぎっ♡♡」
蜜をかき回しながら、中指を入り口にあてがった。
「指、入れるよ」
「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」
ずぷ……♡
「あああっ♡♡♡」
ゆっくり、指が沈んでいく。熱い。きつい。きゅうきゅうと、締め付けてくる。
「なか……指、入ってるぅ♡♡」
中をゆっくりかき回しながら、もう一本。
ずぷっ♡
「ひぃっ♡♡♡ 二本、おっきい♡♡」
二本の指で出し入れしながら、親指で突起を同時に刺激する。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ すごいっ♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
指を曲げて、上側の壁をぐっと押す。
「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばいっ♡♡♡」
千尋の体が、びくびくと跳ね始める。
「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」
指の動きを速める。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡
「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
千尋の背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。しばらくして、力が抜けたようにベッドに沈み込む。
「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの……♡♡」
潤んだ瞳で見上げてくる千尋が、ゆっくり身を起こした。まだ余韻で震えているのに、真っ赤な顔で、いたずらっぽく笑う。
「……今度は、私が、竜也を気持ちよくする番♡」
ベッドの上で、俺のズボンに手を伸ばす千尋。ベルトを外して、ボクサーごと引き下ろすと――ばちんっ、と限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。千尋が、息を呑む。
「……おっきい♡♡ こんなの、入るのかな♡♡」
うつ伏せの体勢で、顔を近づけてくる。
ぺろ……。
先端を、舌先でちろっと舐めた。
「ん……♡ 竜也の、味♡♡」
ちゅっ、と先端にキス。それから、ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かく濡れた口の中。舌が、裏筋をなぞる。
「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させる千尋。下ろした髪が、ぱさりと俺の太ももをくすぐる。上目遣いの、潤んだ瞳。
「千尋……やばい、気持ちよすぎ」
「んふ♡ もっと、してあげる♡♡」
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に電流が走る。
ずぷっ……ずぷっ……♡♡
「待って、それ以上は……イっちゃう」
ぷはっ、と口を離す千尋。唇が、唾液でてらてらと光っていた。
「だーめ♡ まだイっちゃ、だめだよ♡」
いたずらっぽく笑う千尋を、ベッドに引き上げた。ザックに入れていた財布から、コンドームを取り出す。
「……用意、いいんだ?」
「いや、これは、その……一応」
「ふふ♡ いいよ、責めてない♡ つけて♡」
手早く装着して、千尋を仰向けにした。栗色の髪が、シーツに広がる。月明かりに照らされた裸体が、青白く輝いている。脚の間に体を滑り込ませて、先端を入り口にあてがった。
ぬちゅ……♡
「入れるよ、千尋」
「うん♡ 来て……竜也のが、ほしい♡♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡♡
「あぁっ♡♡♡ 入って、くるぅ♡♡♡」
きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。
「おっきい♡♡ おなかの中、広がってく♡♡♡」
ずぷん♡♡
根元まで、収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ 奥まで、来てる……♡♡♡」
「動くよ」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずるっ……ずぷんっ♡♡
パンっ♡
「ああっ♡♡♡」
パンッ……パンッ……♡♡
リズミカルに、打ちつけ始める。
「あっあっあっ♡♡♡ 竜也っ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
千尋が、俺の背中にしがみついてくる。爪が、背中に食い込んだ。少し痛い。でも、それがまた、たまらなく興奮する。肌と肌がぶつかる音が、静かな部屋に響いた。
パンパンパンッ♡♡♡
「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」
千尋の脚が、俺の腰に絡みつく。もっと奥を求めて。
「やべ、千尋……登山で疲れてんのに、止まんねえ」
「ふふっ♡ 筋肉痛なのに……♡♡ 明日、絶対やばいよ、これ♡♡」
笑い合いながら、繋がったまま、また腰を打ちつける。達成感ごと、抱きしめるように。
「もっとっ♡ もっと、奥っ♡♡♡」
角度を変えて、突き上げる。
「そこぉっ♡♡♡♡」
千尋の腕が崩れ、お尻が浮く。さらに奥を突くと、結合部から、卑猥な水音が溢れた。
パンパンパンパンパンッ♡♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」
「俺も、もう……っ」
「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこっ……♡♡♡♡」
千尋が、背中に両腕を回してしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
「イく……っ!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」
千尋の全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。
「……まだ、抜かないで♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を聞いていた。しばらくして、千尋がくすっと笑った。
「……ねえ、竜也」
「ん?」
「……まだ、元気だよね♡♡」
繋がった場所で、また硬くなり始めているのが、千尋にもわかったらしい。
「千尋が、気持ちよすぎて」
「もう♡ 謝らないでよ♡ ……今度は、私が動く♡」
新しいゴムに替えて、千尋が俺の上にまたがった。騎乗位。栗色の髪が、肩から胸へと流れ落ちる。月明かりに照らされた千尋を、下から見上げる。揺れる胸、引き締まったお腹、そして繋がっている場所。角度を調整して――
ずぷん♡♡
「あっ♡♡♡ この体勢、奥まで……入るっ♡♡♡」
ゆっくり、腰を上下させ始める。
ずぷ……ずちゅ……ずぷっ♡♡
「ん♡♡ 自分で動くの、すごっ♡♡♡」
目の前で、胸がぷるんぷるん揺れる。両手を伸ばして、掴んだ。
むにゅっ♡♡
「ひゃんっ♡♡♡ 揉んだら、動けなくなるっ♡♡♡」
「いいから。動いて、千尋」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ 奥っ……いい場所に、当たってるっ♡♡♡♡」
千尋が、腰を回すように動き始めた。ぐりんぐりんと、中をかき回される。
「これ……山で鍛えた、腰だから♡♡♡」
「反則だろ、それ……っ」
ぐちゅるっ♡♡ ぐちゅるっ♡♡♡
下から、突き上げる。
ずぷんっ♡♡♡
「ひぁっ♡♡♡♡ 下から、だめっ♡♡♡」
千尋の動きと、俺の突き上げが、一番奥でぶつかる。
パンパンパンパンパンッ♡♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡♡
「だめっ♡♡♡ イくイくイくっ♡♡♡♡♡」
「俺も、もう出る……っ!」
「一緒にっ♡♡♡♡ また一緒にっ♡♡♡♡♡」
ずぷんっ♡♡♡♡
最後の一突きを、奥に叩き込む。
「イくぅぅっ♡♡♡♡♡♡」
どくんっ、どくっ、どくっ、どくっ……!
「あぁぁぁっ♡♡♡♡♡ すごっ……♡♡♡ いっぱい……♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡♡
千尋が、力を失って、俺の上に倒れ込んできた。汗だくの体を、ぎゅっと抱きとめる。
「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……最高、だった……♡♡♡♡」
「俺も。千尋」
ちゅ、と汗ばんだ額にキスをした。二人で、しばらく荒い息を繰り返す。窓の外には、月に照らされた富士山が、静かにそびえていた。
「……あの山、登ったんだよな、俺たち」
「ふふ♡ 今朝、あの上で、手を繋いでたんだよ♡」
千尋が、俺の胸に頬を寄せて、目を閉じた。
「……ねえ、竜也」
「ん?」
「明日、絶対、二人とも筋肉痛で動けないと思う♡」
「確実だな」
「ふふ♡ 一緒に、よちよち歩こうね♡」
くすくす笑いながら、千尋が俺の腕の中で、すうっと寝息を立て始めた。栗色の髪から、日焼け止めとシャンプーの混ざった、いい匂いがした。
(……すごい一日だったな)
俺も、千尋を抱きしめたまま、目を閉じた。
――朝。
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚めた。千尋は、まだ俺の腕の中で眠っている。下ろした髪が、頬にかかって、寝顔がとんでもなく無防備で可愛い。
すぅ……すぅ……。
(夢じゃ、なかった)
そっと窓の外を見て――息を呑んだ。朝日を浴びた河口湖。鏡みたいに静かな湖面に、富士山がくっきりと映り込んでいた。
逆さ富士。
「……うわ」
「ん……♡ 竜也……?」
千尋が目を覚ました。寝起きの、少しかすれた声。
「おはよ。千尋、見て。逆さ富士」
千尋が、窓に駆け寄って、息を呑んだ。
「わぁ……♡♡ きれい……♡♡」
朝の光を浴びた横顔が、昨日のご来光のときと同じように輝いている。
「……綺麗だ」
「逆さ富士でしょ?」
「……いや、千尋が」
千尋の頬が、ぽっと赤くなる。
「……だから、それ反則だってば♡」
そう言いながら、俺の腕に、そっと自分の腕を絡めてきた。並んで窓辺に立って、逆さ富士を眺める。しばらくして、千尋が、ぽつりと言った。
「ねえ、竜也」
「ん?」
「……次は、北アルプス、登ろうよ」
「北アルプス?」
「うん。富士山より、ずっと綺麗な稜線があるの。テント担いで、二人で」
千尋が、こっちを見上げて、にっこり笑った。
「次は……二人で、ね♡」
俺は、その意味を理解した。これは、ただの一晩じゃない。次の約束だ。次の山が、もう決まってる。
「……ああ。行こう。二人で」
「ふふ♡ じゃあ、生徒くん、もっと体力つけないとね♡」
「先生、お手柔らかに」
「やだ♡ 北アルプス、富士山の比じゃないから♡」
くすくす笑いながら、千尋がぎゅっと腕にしがみついてきた。
「……でも、ペースメーカーがいてくれるなら、どこでも登れる気がする」
「……うん♡ 私が、ずっと隣を歩くから♡」
俺は、絡んだ腕に、そっと手を重ねた。次の山も、その次の山も。ずっと隣に、この人がいてほしい。だったら、ちゃんと言葉にしないと。
「千尋。山の上で言うのは反則かもしれないけど」
「……うん?」
「俺と、付き合ってくれ。北アルプスも、その先も、恋人として一緒に登りたい」
千尋の目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、ぽろっと一粒こぼれた。
「……ずるい。また、泣かせる気?」
「泣くなって。返事は?」
「……うん。私も、竜也のことが好き♡ ……今日から、恋人ね♡」
そう言って、千尋が背伸びして、俺の唇に、ちゅっと軽くキスをした。
「これで、決まり♡ 逃がさないからね、生徒くん♡」
逆さ富士が、朝の風でゆらりと揺れた。
ドタキャンされて、ヤケクソで登り始めた富士山。七合目でへたり込んだ俺に、飴を一粒くれた人が――今、俺の隣にいる。
これは、たまたまの一晩なんかじゃない。きっと、何度でも一緒に山に登る、その始まりの日だ。
窓の外、青く澄んだ空に、富士山が、どこまでもまっすぐにそびえていた。
― 終 ―