メンズエステで担当になったのが、会社の経理部で一番話しかけづらいあの先輩だった

これ、マジで誰にも言えない話なんですけど、書かせてください。

俺、都内のIT企業で働いてる29歳です。まあ顔面偏差値は48くらい。よく言えば「普通」、正直に言えば「印象に残らない男」ってやつです。身長172で体重68、大学時代の友達には「お前って存在がベージュだよな」って言われたことがある。うるせえ。

で、事の発端は去年の11月。金曜の夜、新橋で同期と軽く飲んだ帰りのことでした。

同期の田村ってやつが酔った勢いで「お前メンエス行ったことある?」って聞いてきたんですよ。メンズエステ。俺は当然ない。そもそもそういう店の存在は知ってたけど、なんか敷居高くないですか。一人で予約して、知らない女の人と密室で二人きりとか、コミュ障の俺には荷が重すぎる。

でも田村が「いやマジでいいから。疲れ取れるし。俺が行ってるとこ教えてやるよ」って、勝手にLINEで店のURL送ってきた。

その夜、自宅のベッドでなんとなくそのサイトを開いたんです。五反田にある「Relaxia」って店。セラピスト一覧を見たら、顔の下半分だけ写った写真がずらっと並んでて。まあ、どの子がいいとかわかるわけもなく、「新人」って書いてあった「ゆき」さんを適当に予約しました。翌週の水曜、仕事帰りの20時。

(後で思えば、ここでやめておけばよかった)

水曜日。仕事を定時で切り上げて五反田に向かいました。JRの東口を出て、繁華街をちょっと外れたビルの3階。エレベーターを降りると、想像より全然きれいな受付があった。アロマの匂いがして、BGMはピアノのジャズ。

受付のお姉さんに名前を告げると、個室に案内されました。8畳くらいの部屋にマッサージベッドとシャワールーム。ソファに座って待ってると、ドアがノックされた。

(来た…緊張する…)

ドアが開いて、入ってきた女性を見た瞬間、俺の脳みそが一回フリーズしました。

黒髪のセミロング。切れ長の目。鼻筋が通った、北川景子を少し大人しくしたみたいな顔。身長は163くらい。白いポロシャツにタイトスカートっていうセラピストの制服姿だったけど、胸元はそこそこ存在感があって、たぶんCかD。

それよりも。

(え、嘘だろ…?)

俺がフリーズした理由は、容姿のレベルが高いからじゃない。いや高いんだけど、そうじゃなくて。

この人、うちの会社の経理部の、篠崎さんだ。

篠崎さん。32歳。経理部の主任。社内では「氷の篠崎」って呼ばれてるくらいクールな人。廊下ですれ違っても目も合わせないし、経費精算でミスがあると淡々と差し戻しのメールを送ってくる。絵文字なし、「よろしくお願いいたします。」のピリオドが怖い。

その篠崎さんが、メンズエステのセラピストとして、俺の目の前に立っている。

「こんばんは。本日担当させていただきます、ゆきです。よろしくお願いします」

声。間違いない。あの低めの、でもよく通る声。会議室で「この伝票の日付が違います」って言うときと同じトーン。

「あ、は、はい。よ、よろしくお願いします…」

噛んだ。完全に噛んだ。

でも篠崎さん――ゆきさんは、特に気にした様子もなく、ソファの横に座ってカウンセリングシートの説明を始めた。

「お体で気になるところはございますか?肩とか腰とか」

「あ、肩…ですかね。デスクワークなので」

俺は必死に平静を装ってたけど、頭の中はパニックでした。向こうは俺に気づいてるのか?いや、気づいてない感じだ。そりゃそうだ、俺みたいな存在感ベージュの人間なんて、経理部から見たら月に一回経費精算のメールを送ってくるだけのモブキャラだもん。名前すら覚えてないと思う。

問題は、俺がこの状況にどう対処するか。今すぐ「すみません、用事思い出しました」って逃げるべきか?でもそれはそれで怪しいし、キャンセル料もかかる。

(…もう来ちゃったし、バレなきゃ大丈夫だろ。うん)

自分を無理やり納得させて、シャワーを浴びに行きました。

シャワールームで頭から水をかぶりながら考えた。そもそも篠崎さんがなんでメンエスで働いてるとか、俺が詮索する立場じゃない。お互い大人だし、仕事は仕事、プライベートはプライベート。

紙パンツに着替えてベッドにうつ伏せになると、篠崎さんがオイルを手に温め始めた。

「それでは始めますね。力加減は遠慮なくおっしゃってください」

背中にオイルが塗られて、篠崎さんの手が肩甲骨の周りを押し始めた瞬間、声が出そうになった。

めちゃくちゃ上手い。

いや本当に。田村が勧めてきた理由がわかった。ただのマッサージのはずなのに、ツボを的確に捉えてくる。肩から首にかけてガチガチに固まってた筋肉がほぐれていく感じが気持ちよすぎて、変な話、ちょっと意識飛びかけた。

「すごく凝ってますね。お仕事、デスクワーク中心ですか?」

「あ、はい。ほぼ一日パソコンの前で…」

「IT系のお仕事とかですか?」

(やめろ。職業の話に踏み込むな)

「まあ…そんな感じです」

「そうなんですね。この辺りの凝り方、エンジニアさんとかに多いんですよ」

会話が普通に続いていく。篠崎さんの声は会社で聞くときよりも少し柔らかくて、(あれ、この人こんな話し方できるんだ…)って思った。氷の篠崎が、ちゃんと接客トークをしている。なんか不思議だった。

背中が終わって、脚に移った。太ももの裏側を親指で押されたとき、さすがにビクッとした。

「あ、痛かったですか?」

「いや、大丈夫です。ちょっとくすぐったくて」

嘘です。くすぐったいんじゃなくて、篠崎さんの手が太ももに触れてるっていう事実に脳がバグってるんです。

施術は進んで、仰向けになるよう言われた。ここからが問題だ。仰向けってことは、顔を見られる。うつ伏せのときは目を合わせなくて済んだけど。

仰向けになって目を開けると、篠崎さんの顔が近い。30センチくらいの距離で、真剣な顔で俺の首筋に手を当てている。

(近い近い近い近い)

目を閉じた。閉じるしかなかった。

デコルテのあたりをほぐされながら、なんとか平静を保っていた。そのとき。

「あの…お客様」

「は、はい」

「もしかして……田中さん、ですか?」

心臓が止まった。

目を開けると、篠崎さんが俺の顔を覗き込んでいた。さっきまでの柔らかい表情が消えて、会社で経費精算を差し戻すときの、あの冷静な目になっている。

「…え」

「営業企画部の、田中さん…ですよね」

バレた。

なんで。どこで。存在感ベージュの俺をなんで覚えてるんだよ。

「あ、の…はい。すみません…」

とりあえず謝った。何に謝ってるのか自分でもわからないけど。

篠崎さんはしばらく黙ったあと、深いため息をついた。マッサージの手は止まっている。

「……まさか、会社の人が来るとは思わなかった」

「俺もです。こんなの初めてで…今日が初めてなんです、本当に」

「…私も、ここで働き始めてまだ3週間なんです」

沈黙が重い。BGMのジャズピアノだけが聞こえる。

「あの、俺、誰にも言いませんから。本当に」

「……」

「篠崎さんがここで働いてるとか、そういうこと一切。だから安心してください」

篠崎さんは俺の顔をじっと見た。品定めするみたいな目で。数秒。

「……田中さん、今日の施術、残り30分あるんですけど」

「え?あ、いや、もう出ます。気まずいでしょうし…」

「お金、払ってるんでしょう?もったいないですよ」

「いやでも…」

「プロですから。最後までやらせてください」

その言い方が完全に経理部の篠崎さんで、つまり有無を言わさない感じで、俺は「…お願いします」と答えるしかなかった。

施術が再開された。

でも、明らかにさっきまでと空気が違った。篠崎さんの手が、なんというか…丁寧というか、優しくなった気がする。気のせいかもしれない。でも、力加減が変わった。

「…田中さんって、いつもあんな遅くまで残ってるんですか」

「え?」

「経費精算、いつも夜中に送ってくるでしょう。タイムスタンプ見ると23時とか0時とか」

「あー…まあ、忙しい時期は…」

「体、壊しますよ」

(え、なに、心配してくれてるの…?)

「篠崎さんこそ、副業でこれやってたら休む暇ないじゃないですか」

「……余計なお世話です」

そう言いながらも、ちょっとだけ笑った。篠崎さんが笑うの、初めて見た。

施術が終わって着替えたあと、ソファでお茶を出してくれた。

「あの…本当に言わないでくださいね」

「言いません。絶対に」

「……経理の給料だけだと、ちょっと厳しくて。奨学金の返済もあるし」

急にそんな個人的なこと言われて、俺は面食らった。氷の篠崎が、こんなに普通の事情で副業してるなんて。

「大変ですね…」

「大変って言わないでください。自分で選んでやってることですから」

「すみません」

「……謝らなくていいです。田中さん、さっきから謝りすぎ」

「すみませ…あ」

篠崎さんがまた少し笑った。(この人、笑うと全然印象が違うな…)

帰り際、エレベーターの前で篠崎さんが言った。

「月曜日、会社で会っても、今日のことは忘れてください。私もそうしますから」

「わかりました」

「……あと、経費精算はもう少し早い時間に送ってください。確認するの大変なので」

「善処します」

「善処じゃなくて、やってください」

「…はい」

そのまま別れた。帰りの山手線の中で、俺は自分の手のひらを見てた。篠崎さんがオイルを塗ってくれた感触が、まだ残ってるような気がした。

(…やばいな、これ)

忘れろって言われたのに、全然忘れられそうにない。

月曜日。会社で篠崎さんと廊下ですれ違った。いつも通りの無表情。目も合わせない。まるで水曜日のことなんかなかったみたいに。

俺もそのつもりだったのに、つい目で追ってしまった。篠崎さんの後ろ姿。タイトスカートに白いブラウス。あの手が俺の肩を揉んでたと思うと、仕事に集中できない。

(いやいやいや、何考えてんだ俺は)

頭を振って、パソコンに向き直った。デスクの上に、経費精算の差し戻しメールが来ていた。篠崎さんからだ。

「添付領収書の日付と申請日が一致しておりません。修正のうえ再提出をお願いいたします。」

いつも通り。完璧にいつも通り。

…なのに、最後の一行に目が釘付けになった。

「体調にはお気をつけください。」

今までこんな一文、篠崎さんのメールで見たことがない。

(気のせいか…?いや、気のせいじゃない。だって今まで一度もなかった)

その一行のせいで、俺は結局またあの店を予約してしまいました。

次の水曜日。同じ時間、同じ店、同じ指名。「ゆき」さん。

ドアが開いて、篠崎さんが入ってきた。俺を見て、一瞬だけ目を見開いた。でもすぐにいつもの無表情に戻った。

「……また来たんですか」

「マッサージが上手だったので」

「……そうですか」

嘘じゃない。上手だったのは本当だ。でも理由はそれだけじゃないことを、たぶん篠崎さんも俺も、わかっていた。

2回目の施術は、1回目よりもっと距離が近かった。

うつ伏せで背中をほぐされながら、俺たちは小さい声で話した。

「篠崎さんって、会社の飲み会いつも断ってますよね」

「水曜と金曜はここがあるので」

「それで断ってたのか…みんな嫌われてるって思ってますよ」

「……別に嫌ってませんよ。ただ行く余裕がないだけです」

「氷の篠崎って呼ばれてるの知ってます?」

「……知ってます。前に後輩が電話で言ってるの聞こえました」

「えっ、すみません…」

「また謝ってる。別にいいですよ。事実ですし」

間があった。篠崎さんの手が背中の真ん中あたりで止まった。

「……でも、本当はもう少し普通に話せるようになりたいとは思ってます」

(え…)

「篠崎さんって…今こうやって話してる感じ、全然氷じゃないですけど」

「……ここでは別人ですから」

「別人じゃないでしょ。こっちが本当なんじゃないですか」

篠崎さんの手が、また少し止まった。

「……田中さんって、意外と踏み込んできますね」

「すみません」

「だから謝らないでって言ってるでしょう」

それから毎週水曜日、俺は「ゆき」さんを指名し続けた。3回目、4回目、5回目。

回を重ねるたびに、篠崎さんは少しずつ崩れていった。「崩れる」っていうのは悪い意味じゃなくて、壁が薄くなっていくっていうか。5回目にはもう敬語じゃなくなってた。

「田中、今週も経費精算遅かったでしょ」

「あれは案件が立て込んでて…」

「言い訳しない。20時までに出して」

「はい…」

「……私がここにいること、まだ誰にも言ってないんだよね」

「当たり前ですよ。約束したじゃないですか」

「……ありがと」

小さい声だった。施術中に手を止めて、俺の肩に額をつけるみたいにして、ぽつっと。

あのとき俺、自分の心臓の音が聞こえた。篠崎さんにも聞こえたと思う。

6回目だった。12月の最終水曜日。仕事納めの翌日。

いつも通り施術を受けて、終わった後のお茶タイム。篠崎さんがいつもよりぼんやりしてた。

「どうしたんですか?」

「……今日で最後なんだ」

「え?」

「ここ、年内で辞めることにした。奨学金の繰り上げ返済できるくらいは貯まったし」

頭が真っ白になった。毎週水曜日にここに来ることが、いつの間にか俺の生活の一部になっていたのに。

「そうなんですか…」

「なに、その顔」

「いや、別に…」

「嘘。すごいわかりやすい顔してる」

「……会えなくなるのが、ちょっと」

言ってしまった。言ってから(あ、やっちまった)と思った。

篠崎さんは俺をじっと見た。あの経費精算を差し戻すときの冷静な目…じゃなかった。もっと柔らかくて、でも迷ってるような目。

「……田中」

「はい」

「この店じゃなくても、会えるでしょ。同じ会社なんだから」

「でも会社じゃこうやって話せないじゃないですか。篠崎さん、会社だと壁すごいし」

「……」

「俺は、こっちの篠崎さんが好きなんです」

あ、言った。「好き」って言っちゃった。いやそういう意味じゃなくて。いやそういう意味か。もうわかんない。

篠崎さんが立ち上がった。(あ、怒らせた)と思った。帰れって言われるかと思った。

でも篠崎さんは、施術室のドアの鍵をかけた。

「……今日の予約、私が最後だから。この後、誰も来ないよ」

「え…」

「田中さ、毎回うつ伏せのとき、ずっと我慢してたでしょ」

(えっ、バレてたの…?)

「いや、あれは生理現象で…」

「知ってる。だから何も言わなかった」

篠崎さんがソファに座り直した。さっきまでと距離が違う。膝が触れるくらい近い。

「私ね、田中のこと、最初から覚えてた」

「え?」

「経費精算のメール、毎回ちゃんと件名に案件名入れてくるの、あなたくらいなんだよ。他のみんな適当なのに」

「そんなことで…?」

「そんなことが大事なの、経理にとっては」

篠崎さんの手が俺の手に触れた。施術のときみたいにオイルまみれじゃない、素の手。少し冷たくて、細くて。

「だから、あなたがドアから入ってきたとき、すぐわかった。顔は正直ぼんやりしか覚えてなかったけど、名前聞いてピンときた」

「……先に気づいてて、なんで施術したんですか」

「……わかんない。なんか、帰してほしくなかった」

篠崎さんが俺の手を握った。力は弱いのに、絶対離さないって意思を感じる握り方だった。

「篠崎さん…」

「ゆき、でいいよ。今日は」

「……ゆき、さん」

「さん、いらない」

「……ゆき」

名前を呼んだ瞬間、篠崎さんの耳が赤くなった。氷の篠崎の耳が赤い。それだけで俺の理性がだいぶ持っていかれた。

「……キス、していい?」

俺が答える前に、篠崎さんの唇が触れた。

柔らかかった。ほんの一瞬触れただけ。でも篠崎さんの目が開いて、ゼロ距離で見つめられた。

「…もう一回」

今度は俺からいった。手を篠崎さんの首の後ろに回して、しっかりと。さっきより深く、長く。篠崎さんの舌がおずおずと触れてきて、それだけで頭がくらくらした。

「ん……」

キスしながら、篠崎さんの体が傾いてソファに押し倒す形になった。篠崎さんのポロシャツの襟元から鎖骨が見えて、そこにもキスした。

「あ……そこ…」

「嫌…?」

「……嫌じゃない」

嫌じゃない、って言い方が篠崎さんらしかった。素直に「気持ちいい」って言えないところが。

ポロシャツのボタンを外していく。篠崎さんは抵抗しなかった。下着は薄いベージュのレースで、その下の肌は施術中に何度も見た腕や首と同じ、白くてきめ細かい肌だった。

「ゆき…」

名前を呼ぶたびに、篠崎さんの体が小さく震えた。

ブラのホックを外して、手で包んだ。Cカップ。手に収まるちょうどいいサイズで、指で乳首に触れたら、すでに固くなっていた。

「んっ……触んないで…嘘、触って…」

「どっちだよ」

「うるさい…」

こういうとき、普段クールな人が照れるのって、本当にずるい。

乳首を舌で転がすと、篠崎さんの声が少し漏れた。普段あんなに感情を見せない人が、目を閉じて眉をひそめて、唇を噛んで声を堪えてる。

「声、出していいよ」

「……無理。壁薄いから」

「最後の客だって言ったじゃん」

「受付のスタッフはいる…」

まあそうだ。俺たちが何やってるか、バレたらまずい。

篠崎さんのスカートに手を入れた。太ももの内側に触れたら、篠崎さんが息を呑んだ。施術中、俺の太ももに触れてたあの手の持ち主に、今俺が触れてる。立場が逆転してる。

下着の上から触ると、もう湿っていた。

「……ゆき」

「……言わないで」

「何を」

「濡れてるとか。そういうの」

「言ってないけど」

「顔に書いてある」

下着をずらして直接触れた。指が滑るくらい濡れてて、思わず息が荒くなった。クリトリスを指の腹で擦ると、篠崎さんが俺の背中に爪を立てた。

「んっ…あ……だめ…」

「だめ?やめる?」

「やめないで…」

指を中に入れた。篠崎さんの体がびくっと跳ねて、俺の肩に顔を埋めた。耳元で抑えた声が聞こえる。

「あ…ん……田中…」

「名前。下の名前で呼んで」

「……誠…」

俺の名前を呼ぶ篠崎さんの声が震えてて、それだけでどうにかなりそうだった。

指を動かすたびに篠崎さんの声が大きくなりそうになって、その度に自分の手で口を押さえてる。でも指の隙間から漏れる声が、余計にエロかった。

「あっ……も、もうだめ……」

体がこわばって、俺の指を中から締め付けるようにして、篠崎さんがイった。声は出さなかった。でも全身が小刻みに震えてて、それがしばらく止まらなかった。

「……はぁ……はぁ……」

「大丈夫…?」

「……大丈夫じゃない」

そう言って俺を見た目が、潤んでた。氷の篠崎の目が、こんなにとろけてるの、俺以外の誰にも見せたことないんだろうなと思った。

「……ゴム、ある?」

「え…持ってないです」

「…………」

「あ、いやほんとに、今日そういうつもりで来たわけじゃ…」

「……私のポーチに入ってる」

「え?」

「……なに。セラピストとして持ってるだけ。こういう仕事だから、万が一のために」

「……」

「……その目やめて。使ったことないから」

篠崎さんのポーチから取り出したコンドームを付けた。手が震えた。情けないけど、こんな状況で冷静でいられるわけがない。

ベッドに移動した。施術用のマッサージベッドだけど、二人で横になれるくらいの幅はある。

篠崎さんが仰向けになって、俺を見上げた。髪が広がって、頬が赤くて、唇が少し開いてて。普段の経理部の篠崎さんとは完全に別人だった。

「入れるよ…」

「……うん」

ゆっくり入れた。篠崎さんが息を詰めて、俺の腕を掴んだ。

「……っ」

「痛い?」

「平気…久しぶりだから……ちょっと待って」

しばらくそのまま動かずに、キスをした。篠崎さんの中があったかくて、きつくて、それだけで出そうになる自分がほんとに情けなかった。

(いや落ち着け。ここで一瞬で終わったら、経費精算の差し戻し以上に恥ずかしいことになる)

「……動いていいよ」

ゆっくり動き始めた。篠崎さんが目を閉じて、眉間にしわを寄せて、でも口元は力が抜けてて。

「ん……あ……」

声を殺してるのに、体は正直で、腰が小さく動いてる。俺が奥まで押し込むたびに、篠崎さんの指が俺の背中のシャツを掴む力が強くなる。

「ゆき…気持ちいい…」

「……私も」

その二文字がたまらなかった。あの篠崎さんが「私も」って。

ペースを上げた。マッサージベッドが軋む音がして、(やばい、受付に聞こえるかも)と思ったけど、もう止まれなかった。

「んっ…あっ…誠…」

「ゆき…っ」

篠崎さんの脚が俺の腰に回ってきた。引き寄せられるように深くなって、二人とも声が漏れた。

「あ…だめ…また…っ」

篠崎さんの中がぎゅっと締まって、体が震えた。二度目。俺もそれに引きずられそうになって、必死に堪えた。

「……出して…いいよ…」

「……っ」

腰を密着させたまま、中に出した。ゴム越しだけど、出す瞬間に篠崎さんが俺を抱きしめてくれたのが、たまらなくよかった。

しばらく動けなかった。二人で息を整えて、マッサージベッドの上で横になったまま、天井を見てた。

「……施術時間、とっくに過ぎてる」

「すみません、延長料金…」

「いらないよ。これは施術じゃないでしょ」

「……そうですね」

「敬語に戻さないで」

「……ごめん」

二人でシャワーを浴びて、着替えて、ソファに並んで座った。

「……ねえ、田中」

「誠でいいって」

「……誠」

「うん」

「来週から、ここにはもういないけど」

「うん」

「会社では、やっぱり今まで通りにする。急に態度変えたら怪しまれるから」

「……わかった」

「でも」

「でも?」

「……水曜日の夜は、空けといて」

「え?」

「副業がなくなるんだから、水曜の夜が空くでしょ。私の」

「……それって」

「それ以上聞かないで。答えるの恥ずかしいから」

篠崎さんの耳がまた赤くなってた。

店を出て、五反田の駅まで二人で歩いた。12月の夜風が冷たかったけど、隣を歩く篠崎さんの横顔が街灯に照らされて、ちょっと泣きそうだった。俺が。

改札の前で立ち止まった。

「じゃあ、月曜日に」

「月曜日、廊下ですれ違ったら無視するの?」

「……経費精算を期限内に出してくれたら、ちょっとだけ笑うかも」

「絶対出す」

「……ばか」

篠崎さんが小さく笑って、山手線の内回りに消えていった。

俺は外回りのホームに立って、スマホのカレンダーを開いた。来週の水曜日に「ゆき」って入力して、そのあと消して、「篠崎さん」って入れ直して、それも消して、結局「水曜」とだけ入れた。

あれから半年経ちました。

会社では相変わらず、篠崎さんは氷の篠崎です。経費精算の差し戻しメールも来ます。でも俺だけが知ってる。あのメールの最後に「体調にはお気をつけください。」がつくのは、俺宛のときだけだってこと。

水曜の夜は、五反田じゃなくて、中目黒の篠崎さんの部屋にいます。

篠崎さんの作る鍋がめちゃくちゃ美味いことも、寝るとき必ず俺の腕に頭を乗せてくることも、朝起きるとベッドの端っこでまるくなってることも、全部俺しか知らない。

職場恋愛って言えるのかわからない。メンエスで始まった関係って、人にはちょっと説明しづらい。でもまあ、そういうのどうでもいいかなって思ってます。

来月、篠崎さんの誕生日。何あげようか迷ってるんですけど、マッサージオイルはさすがにやめたほうがいいですよね。

…やっぱアリかな。


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