会社の忘年会ビンゴで当たったペアリフト券のせいで、部署で一番話しかけづらい同期と日帰りスキーに行くことになった話

これは俺が26のときの話。

社会人4年目にもなると、仕事にも会社にも慣れて、毎日がルーティンになってくる。朝起きて、京浜東北線の蕨駅から電車に乗って、新橋のオフィスに着いて、エクセルを叩いて、昼にすき家で牛丼食って、またエクセル叩いて、帰る。たまに飲みに行って愚痴言って寝る。そんな生活。

で、12月。会社の忘年会がお台場の貸切スペースであった。

ビンゴ大会があって、俺はだいたいこういうの当たらないタイプなんだけど、その年に限ってリーチからの一発ツモ。景品は群馬・水上の「ノルン水上スキー場」のペアリフト一日券だった。

(いや、ペアって…誰と行くんだよ)

周りの同期に冷やかされながら「よかったじゃん!彼女と行けよ!」って言われたけど、彼女なんかいない。3年いない。正確に言うと大学の時に一瞬だけ付き合った子以来ずっといない。

リフト券の有効期限は2月末。使わなきゃもったいないけど、男友達とペアリフト券で行くのもなんか違う。かといって女の子の知り合いなんてほぼいない。

そのまま年が明けて1月も半ばを過ぎた頃、俺はまだリフト券を財布に入れたまま持て余していた。

俺の部署には同期が4人いて、そのうち1人が三島彩乃っていう女の子だった。

彩乃は、顔がまじで今田美桜に似てて、身長は158cmくらい。目がでかくて、笑うと目が三日月になるタイプ。髪はいつもゆるく巻いてて、オフィスでもほんのり甘い匂いがする。ていうかこの子が近くを通るたびに男性陣の目線が一斉に動くのが見えるレベル。

でも彩乃はめちゃくちゃ人見知りで、飲み会でもあまり喋らないし、昼も一人でお弁当食べてることが多かった。仕事はできるし、聞けば丁寧に教えてくれるんだけど、自分からは絶対話しかけてこない。

だから4年同じ部署にいても、まともに私語を交わしたことがほぼなかった。

あの日、きっかけは本当にしょうもない偶然だった。

1月の終わり、金曜の夕方。俺がデスクでリフト券を出して「期限あと1ヶ月か…」って独り言を言った。声に出してたつもりはなかったんだけど、隣の島の彩乃に聞こえてたらしい。

「…それ、ノルンのリフト券?」

びっくりした。彩乃が自分から話しかけてきたのなんて、業務連絡以外では初めてだった。

「え、あ、うん。忘年会のビンゴで当たったやつ」

「…ペア券だよね」

「そう。でも行く相手がいなくて…」

彩乃がちょっと黙った。で、小声で言った。

「…私、スキー好きなんだけど。一緒に行く人がいなくて、今シーズンまだ一回も行けてない」

(…え?)

マジで?あの三島彩乃がスキー好き?ていうか今、暗に「一緒に行こう」って言ってる…よな?

「え、じゃあ…一緒に行く?」

「…いいの?」

「全然。むしろ助かる。期限切れそうだったし」

彩乃が少しだけ笑った。あの三日月の目になるやつ。

(やばい、かわいい)

俺はその場で平静を装ったけど、内心は忘年会のビンゴが当たった時の100倍ぐらい心拍数が上がっていた。

翌週の土曜、朝4時に起きて実家のフィットを借りて彩乃のマンションまで迎えに行った。彩乃は川口に住んでいて、俺の蕨からは車で10分くらい。

マンションの前で待ってると、ダウンジャケットにニット帽をかぶった彩乃が出てきた。

(…これは反則だろ)

普段のオフィスカジュアルとは違う、完全なオフモードの彩乃。化粧も薄めで、なんていうか、こう…守りたくなる感じ。ニット帽から覗く耳が赤いのは寒さのせいなのか照れてるのかわからなかった。

「おはよう…ございます」

「おはよう。荷物、後ろ乗せて」

車に乗り込んだ彩乃は、最初めちゃくちゃ緊張してた。そりゃそうだ、俺だって緊張してる。ほぼ初めてまともに会話する同期といきなり車で2時間のドライブだぞ。

関越に乗ってからしばらく沈黙が続いた。ラジオのJ-WAVEだけが流れてる。気まずい。

で、俺は話題を探して必死に頭を回転させてた。

「あの…三島さんってスキー歴長いの?」

「…うん。お父さんが好きで、小学生の頃からずっと。でも東京出てきてからなかなか行けなくなって」

「へー、じゃあ俺よりだいぶ上手いんだろうな。俺、大学のサークルでちょっとやってただけだから」

「…でも鈴木くん、運動できそう」

(今、名前で呼ばれた。苗字だけど。でも業務以外で初めてだ)

そこからぽつぽつと会話が生まれ始めた。彩乃の実家は長野の松本で、冬になると毎週のように白馬に連れて行ってもらってたこと。大学は東京に出てきたけど、スキーだけはずっとやりたかったこと。でも周りにスキー好きがいなくて、一人で行く勇気もなくて、ここ2年くらいブランクがあること。

意外だった。あんなに無口な子が、スキーの話になると目がきらきらする。

「…ごめん、私ばっかり喋って」

「いや、全然。面白い。てか三島さんってこんな喋る人だったんだ」

「…普段は喋れないの。人見知りだから」

「今めっちゃ喋ってるけど」

「…スキーの話だから」

そう言って彩乃はちょっと恥ずかしそうに窓の外を見た。

関越トンネルを抜けたあたりから雪景色になった。彩乃が「わあ」って小さく声を上げたのが聞こえて、なんかこっちまで嬉しくなった。

ノルンに着いたのは7時過ぎ。駐車場から見えるゲレンデは朝日に照らされて真っ白で、空気がキンとしてた。

着替えて出てきた彩乃を見て、俺は固まった。

白いウェアに黒のパンツ、ゴーグルを額に上げて。オフィスの彩乃とは完全に別人で、なんていうか、「ゲレンデマジック」ってこういうことかと初めて理解した。

「…どうかした?」

「いや、なんでもない。行こうか」

最初のリフトで上まで行って、彩乃が先に滑り出した。

…上手い。めちゃくちゃ上手い。パラレルターンが綺麗で、俺のなんちゃってスキーとはレベルが違う。

俺はよせばいいのに見栄を張って、彩乃について行こうとしてコケた。盛大に。雪まみれ。

彩乃が滑り降りてきて、ゴーグルを上げて俺を見下ろした。

「…大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。ちょっと調子に乗った」

「…ぷっ」

彩乃が吹き出した。あの人見知りの三島彩乃が、声を出して笑ってる。

「ごめん、笑っちゃいけないんだけど…」

「いや、笑えよ。俺もダサいと思ってるから」

そこから彩乃が俺にフォームを教えてくれることになった。立場が完全に逆転してる。会社では俺が仕事教えることもあったのに、ここでは完全に彩乃が先生だった。

「膝をもっと曲げて。体重を前に。…そう、そんな感じ」

教え方が丁寧で、オフィスで黙々と仕事してる時と同じ真剣な目で俺の滑りを見てくれた。

(なんか…かっこいいな、この子)

昼前になって、ゲレンデ脇のレストハウスでカレーを食べた。窓際の席で、ゲレンデを眺めながら。

「…こんなに楽しいの久しぶり」

「俺も。つーか三島さん、会社の時と全然違うね」

「…会社の私、どんな感じ?」

「正直に言っていい?」

「…うん」

「めちゃくちゃ話しかけづらい」

彩乃が一瞬傷ついた顔をして、すぐに苦笑した。

「…だよね。わかってる。自分でもなんとかしたいんだけど…最初のタイミング逃すと、もうどうしていいかわからなくなって」

「4年経ってるもんな」

「…うん。だから今日、リフト券の話が聞こえた時、これ逃したら多分一生このままだと思って…勇気出した」

(…え、今なんて?)

「一生このまま」って、つまり俺と話すきっかけを探してたってこと?いや、スキーに行きたかっただけかもしれない。でも、「リフト券の話が聞こえた」って、それ結構聞き耳立ててないと聞こえない距離だったぞ。

俺は混乱したけど、そのことには触れずに流した。

午後もガンガン滑った。彩乃のおかげで俺のフォームもだいぶマシになって、中級コースもなんとか転ばずに降りれるようになった。

16時を過ぎてリフトが終了になり、さすがに疲れて二人ともぐったりしていた。

帰りの車に乗り込んで関越に入ったあたりで、問題が起きた。

渋滞。大渋滞。事故渋滞で赤城のあたりから全然動かない。ナビの到着予想時刻がどんどん遅くなって、最終的に「22時30分」と出た。

「まじかよ…」

「…疲れてるのにごめんね」

「いや、三島さんのせいじゃないし」

渋滞の車内で、また沈黙。でも朝の気まずい沈黙とは違って、なんか心地いい沈黙だった。

彩乃がスマホをいじりながら、ぽつりと言った。

「…鈴木くんって、彼女いるの?」

(来た。この質問が来た)

「いない。3年くらいいない」

「…そうなんだ」

「三島さんは?」

「…いない。ていうか、付き合ったことない」

「え、マジで?」

これは本気で驚いた。あれだけかわいくて、絶対モテるだろうに。

「…人見知りだから。好きになっても、何もできないまま終わる」

「もったいないな」

「…もったいないかな」

「だって三島さん、めちゃくちゃかわいいし」

言ってから(やべ、言っちゃった)と思ったけど、もう遅い。

車内が一瞬シーンとなった。

「…ありがとう」

小さい声だった。でもバックミラー越しに、彩乃の耳が真っ赤になってるのが見えた。

渋滞はなかなか解消されなくて、途中で赤城高原SAに寄ってトイレ休憩をした。戻ってきた彩乃が自販機で買ったホットココアを俺にも1つ渡してくれた。

「…運転お疲れさま」

「ありがとう。ていうか三島さん、眠くない?後部座席で寝てもいいよ」

「…ここがいい」

助手席を指さして、彩乃はそう言った。

渋滞の中ノロノロ進みながら、ぽつぽつ会話した。好きな食べ物の話。休日何してるかの話。会社の人の話。高校の時の話。

4年間ほぼ喋らなかったのが嘘みたいに、話が途切れなかった。

彩乃が小学生の時に出た松本市のスキー大会で3位になった話をしてる途中で、ふと気づいた。

彩乃が泣いてた。

「え、どうした?大丈夫?」

「…ごめん、なんでもない」

「いや、泣いてるじゃん」

「…嬉しくて。こうやって誰かとスキーの話するの、お父さん以来だなって…。お父さん、2年前に亡くなったから」

俺は何も言えなかった。渋滞で止まったまま、ハンドルを握ったまま黙ってた。

「…だから今日、本当に楽しかった。ありがとう」

「…また行こう」

気づいたら言ってた。

「ペアリフト券は今日で使ったけど、普通にリフト券買えばいいし。また一緒に行こう」

彩乃が涙を拭いて、あの三日月の目で笑った。

「…うん」

結局、川口の彩乃のマンションに着いたのは23時近かった。

「着いたよ。お疲れ」

「ありがとう…あの、鈴木くん」

「ん?」

「…よかったら、コーヒーだけ飲んで帰らない?疲れてるでしょ」

(これは…あれか?いや、いやいや。コーヒーはコーヒーだろ。深読みするな俺)

「あ、うん。じゃあお言葉に甘えて」

彩乃の部屋は1Kで、こぢんまりしてたけど綺麗に片付いてた。白を基調にしたシンプルな部屋で、本棚にスキーの雑誌がぎっしり並んでるのが彩乃らしかった。

彩乃がコーヒーを淹れてくれて、小さなテーブルで向かい合って座った。

「…狭くてごめんね」

「いや、いい部屋じゃん。つーか三島さん、スキー雑誌めっちゃあるな」

「…読むだけで満足してた。行けなかったから」

コーヒーを飲みながら、またスキーの話をした。来シーズンは蔵王に行きたいとか、彩乃が子供の頃に行った志賀高原の話とか。

で、ふと会話が途切れた。

彩乃が俺をじっと見てた。あの真剣な目。ゲレンデで俺のフォームを見てた時と同じ目。

「…鈴木くん」

「うん」

「さっき車で、私のこと…かわいいって言ってくれたじゃん」

「…言った」

「…あれ、本気?」

「本気」

即答した。変に取り繕う余裕がなかった。

彩乃がコーヒーのマグカップを両手で包んだまま、下を向いた。

「…私、4年間ずっと鈴木くんのこと見てた」

(…は?)

「入社した時から、同じ部署で、ずっと。でも話しかけられなくて。鈴木くんが他の女の子と普通に喋ってるの見るたびにへこんで。忘年会でリフト券当たった時も、ああ彼女と行くんだろうなって勝手に落ち込んで…」

頭が真っ白になった。

4年?4年ずっと?あの、俺のことなんか眼中にないと思ってた三島彩乃が?

「…なんで言ってくれなかったんだよ」

「…言えるわけないじゃん。人見知りなのに」

そりゃそうだ。業務連絡すらギリギリの子が告白なんてできるわけない。

てことは、あの金曜の夕方、俺のリフト券の独り言に反応したのは…

(彩乃にとって、4年越しの勇気だったのか)

気づいたら俺は立ち上がってた。テーブルを回り込んで、彩乃の前にしゃがんだ。

彩乃が上を向いた。目が潤んでた。

「俺さ、今日一日で、三島さんのことめちゃくちゃ好きになった。4年分は追いつけないけど」

「…っ」

彩乃の目から涙がこぼれた。二回目。でも今度は笑ってた。

「…追いつかなくていい。隣にいてくれるだけで」

キスした。

コーヒーの味がした。彩乃の唇はちょっと荒れてて、たぶんゲレンデの乾燥のせいだと思った。でもそんなことどうでもよかった。

「ん…」

離れようとしたら、彩乃が俺のダウンジャケットの裾を掴んで離さなかった。

「…もう少し」

もう一回キスした。今度は長かった。彩乃の手が俺の首の後ろに回って、ゆっくり引き寄せられた。

唇が離れた時、彩乃の顔は真っ赤で、でもまっすぐ俺を見てた。

「…泊まって」

「…いいの?」

「…4年待ったんだよ。いいに決まってる」

彩乃が立ち上がって、俺の手を引いてベッドの方に歩いた。1Kだからベッドまで3歩くらいしかなかったけど、その3歩がやたら長く感じた。

ベッドの端に座った彩乃が、自分でニットを脱ぎ始めた。中は白いタンクトップで、思ってたよりも鎖骨がくっきりしてて、胸もしっかりあった。(普段のオフィスカジュアルだと全然わからなかった)

「…三島さん」

「…彩乃でいい」

「…彩乃」

名前を呼んだら、彩乃が「ん」って小さく頷いて、目を閉じた。

タンクトップの上から胸に触れたら、彩乃の体がびくってなった。

「…ごめん、慣れてなくて」

「俺もだよ」

嘘じゃなかった。3年ぶりだし、こんなにかわいい子に触れるのは正直怖かった。壊しそうで。

タンクトップを脱がすと、薄いベージュのブラが出てきた。おしゃれとかじゃなくて、本当に普段使いのやつ。なんかそれが逆にリアルで、(あ、これ本当に起きてるんだ)って実感が湧いた。

ブラを外した時、彩乃が腕で胸を隠そうとした。

「…隠さなくていいよ」

「…恥ずかしい」

「綺麗だよ」

Cカップくらいだと思う。大きくはないけど形が綺麗で、肌が白くて、なんていうか、見惚れた。

胸に触れると彩乃が小さく息を漏らした。乳首を指の腹で撫でると、みるみる硬くなっていくのがわかった。

「あ…っ」

「感じる?」

「…自分で触るのと全然違う…」

その言葉に、(この子も一人で触ったりしてたんだ)って思って、なんか妙にドキッとした。

俺はゆっくり彩乃を横たえて、ジーンズのボタンに手をかけた。

「…っ」

「脱がすよ」

彩乃が小さく頷いた。ジーンズを脱がすと、ブラとお揃いのベージュのショーツ。太ももにスキー焼けの跡がうっすら残ってて、それがなんか生々しくてたまらなかった。

(いや待て、焼けてるってことはスキー行ってないって言ってたのは…いや、去年以前の跡か)

ショーツの上から触ると、もう濡れてるのがわかった。

「…やだ、触らないで。恥ずかしい」

「…もうこんなになってるのに?」

「…だって、車の中からずっと…鈴木くんの隣にいたら…」

(車の中から?あの渋滞の3時間ずっと?)

俺の中で何かが弾けた。ショーツをゆっくり下ろして、直接触れた。

「んっ…」

彩乃が俺の肩を掴んだ。爪が食い込むくらい強く。

クリトリスを指で優しく回すと、彩乃の体が跳ねた。

「あっ、そこ…」

「ここ?」

「…うん。でも、強くしないで…」

言われた通りにゆっくり、軽く触り続けた。彩乃の呼吸がだんだん荒くなって、腰が小さく動き始めた。

「あ…あ、やば…っ」

「いきそう?」

「…わかんない。こういうの初めてだから…でも、やばい…っ」

彩乃の体がぐっと反って、俺の手首を両手で掴んだ。

「っ…あ…ぁっ」

ぶるっと体が震えて、彩乃が俺の胸に顔を埋めた。

しばらく肩で息をしてた彩乃が、顔を上げて俺を見た。涙目だった。

「…びっくりした。こんなの初めて」

「…俺も。こんなにかわいい反応する子初めてだ」

「…嘘ばっかり」

「嘘じゃない」

彩乃が俺のベルトに手を伸ばしてきた。手が震えてた。

「…私も、触りたい」

ズボンとパンツを下ろされて、彩乃がおそるおそる手を伸ばしてきた。

「…大きい」

「普通だと思うけど」

「…比較対象がないからわかんない」

そう言いながら、彩乃がぎこちなく握った。力加減がわからないのか、ちょっと強すぎたり弱すぎたりして。

「…もうちょっと優しく」

「…こう?」

「うん…それでいい」

下手くそだった。正直に言えば全然上手くない。でもなぜか、めちゃくちゃ気持ちよかった。彩乃が真剣な顔で俺のを握ってる、その事実だけで頭がおかしくなりそうだった。

「…気持ちいい?」

「うん…やばい」

「…よかった」

彩乃がほっとしたように笑った。その顔がかわいすぎて、俺は彩乃の手を止めた。

「…彩乃、入れたい」

「…っ」

「ゴム…あるか。…ない、よな」

「…」

「…ごめん、やっぱ今日は――」

「ある」

「…え?」

彩乃がベッド脇の引き出しを開けて、コンドームの箱を出した。未開封。

「…先週、今日のために買った。使わないかもしれないけど…もしかしたらって思って」

(この子は…先週の時点でこうなることを想定してたのか)

いや、想定じゃなくて、期待してたんだ。4年越しの。

俺はもう何も言えなくて、ゴムを受け取って装着した。

彩乃が仰向けになって、脚を開いた。顔を横に向けて、シーツを握ってた。

「…入れるよ」

「…うん」

先端を当てて、ゆっくり入れていった。

「っ…痛い…」

すぐに止まった。

「大丈夫?無理しなくていいよ」

「…大丈夫。続けて。4年待ったんだから…これくらい」

少しずつ、本当に少しずつ入れていった。彩乃が痛みに耐えてるのがわかった。眉間にしわが寄ってて、唇を噛んでた。

全部入った時、彩乃が深く息を吐いた。

「…入った?」

「うん。動いていい?」

「…ゆっくりなら」

ゆっくり腰を動かした。最初は彩乃の顔が痛みに歪んでたけど、少しずつ表情が変わっていった。

「あ…なんか…変な感じ…」

「痛い?」

「…痛いのと、気持ちいいのが混ざってる…」

彩乃が俺の背中に手を回してきた。スキーで一日中ストックを握ってた手だ。指先がまだちょっと冷たかった。

「彩乃…」

「…ん」

「好きだ」

「…っ。私も…好き。ずっと好きだった…」

キスしながら動いた。彩乃の中はきつくて、熱くて、ゴム越しでも伝わるくらい締め付けてきた。

「あ…っ、ん…っ」

小さい声だった。あの人見知りの彩乃が声を上げてること自体が信じられなくて、(今この瞬間、この子は俺にだけ見せてるんだ)って思ったら、もうダメだった。

「やば…もう出そう」

「…いいよ」

「あ…っ」

彩乃を抱きしめたまま果てた。体の芯から絞り出されるような感覚だった。

しばらく二人とも動けなかった。彩乃の心臓の音が聞こえるくらい密着してて、汗の匂いと、あの甘い匂いが混ざってた。

「…抜かないで。もうちょっとこのまま」

「…うん」

彩乃が俺の髪をゆっくり撫でた。

「…ビンゴ当たってくれてよかった」

「俺の人生で一番のラッキーだな」

「…ぷっ」

彩乃がまた笑った。ベッドの中で、裸で、汗だくで。でもその笑い方はゲレンデで俺のコケたのを見て吹き出した時と全く同じだった。

(ああ、この子は変わらないんだな)

ゴムを外して、ティッシュで処理して、二人でベッドに横になった。

「…ね、鈴木くん」

「名前で呼んでいいよ。春樹」

「…春樹」

「ん」

「…月曜から、会社でどうしよう」

「普通にすればいいんじゃない?」

「…普通にできる気がしない。顔見たら絶対赤くなる」

「それ見たい」

「…やめて」

布団の中で彩乃が俺の腕に顔を押しつけてきた。

「つーか、付き合おうよ。ちゃんと」

「…もう付き合ってるつもりだった」

「え、いつから?」

「…リフト券の話に声かけた時から」

(早すぎだろ)

でも4年待ってた人にとっては、あの瞬間が答え合わせだったのかもしれない。

2時を過ぎた頃、彩乃が俺の上に乗ってきた。

「…もう一回、したい」

今度は彩乃が主導だった。ゴムを自分で開けて、ぎこちない手つきで俺に着けた。

「…合ってる?」

「裏表逆」

「…えっ」

慌ててやり直す彩乃を見て笑いそうになったけど、堪えた。真剣にやってるのがわかったから。

彩乃が俺の上にまたがって、ゆっくり腰を落とした。

「ん…あ…」

さっきより痛くなさそうだった。彩乃が小さく動き始めた。

「…あ、これ…気持ちいい…」

2回目は1回目と全然違った。彩乃の体から力が抜けて、遠慮がなくなってた。

俺の手を取って自分の胸に当てた。

「…触って」

さっきは隠そうとしてたのに。このギャップに、もう脳がバグった。

彩乃の腰の動きが速くなって、甘い声が大きくなった。

「あ…っ、やば…」

「いきそう?」

「わかんない…でもすごい…」

俺も限界だった。彩乃の腰を掴んで、下から突き上げた。

「あ、ちょっ…っ、んっ!」

彩乃が俺の胸に倒れ込んできて、体をびくっと震わせた。同時に俺も果てた。

しばらく重なったまま動けなかった。

「…すごい。なにこれ」

「俺のセリフだよ」

「…もう動けない」

「俺も」

そのまま気づいたら二人とも寝てた。

目が覚めたら朝の9時で、カーテンの隙間から冬の弱い日差しが入ってた。

隣を見たら彩乃がまだ寝てた。寝顔がほんとに今田美桜で、(こんな子が4年も俺のこと好きだったとか、世界バグってんのかな)と思った。

彩乃が目を開けた。

「…おはよう」

「おはよう」

「…夢じゃなかった」

「夢じゃないよ」

「…よかった」

彩乃が俺の腕に頬を擦り付けて、また目を閉じた。

あの日から彩乃は変わった。会社では相変わらず無口だけど、俺にだけ小さく手を振ってくれるようになった。誰にも気づかれないくらいのジェスチャーで。昼休みに時々LINEが来る。「今日のお弁当、卵焼き焦がした」とか、ほんとにどうでもいい内容。でもそれが4年間ゼロだったことを考えると、全部がたまらなく嬉しかった。

翌月、二人で蔵王に行った。彩乃はやっぱりめちゃくちゃ上手くて、俺はまたコケた。彩乃はまた笑った。あの三日月の目で。

忘年会のビンゴなんて、当たらない方が普通だ。でもあの日、あのペアリフト券が俺のところに来て、あの金曜日に俺が独り言を言って、隣の島の彩乃に聞こえて。

全部ただの偶然なんだけど、俺はそれを奇跡って呼んでいいと思ってる。


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