大学2年の夏の話をします。
俺は都内の私大に通ってて、中央線沿いの武蔵小金井に一人暮らしをしていた。サークルにも入らず、バイトと講義とゲームの繰り返しで、まぁ典型的な非リアだったと思う。身長172、体重62、顔面偏差値は自己採点で48ぐらい。友達に「お前って街歩いてても誰の記憶にも残らないタイプだよな」って言われたことがある。否定できなかった。
そんな俺にも、高校からの親友がいる。柊真(しゅうま)ってやつで、こいつがまぁ、モテる。竹内涼真をちょっとだけ崩した感じの顔で、身長180、バスケサークルのエース。性格も裏表がなくて、男からも好かれるタイプ。なんで俺と仲いいのか未だによくわかんないけど、高校の時に隣の席で、ずっとくだらない話をしてたらそのまま大学でも続いた、みたいな感じだ。
で、その柊真に彼女ができたのが2年の春。
名前は瑞希(みずき)。同じ大学の文学部で、柊真とは英語の選択授業で知り合ったらしい。
初めて紹介された時のことは覚えてる。吉祥寺のハーモニカ横丁の焼き鳥屋で、3人で飲んだ。
「こいつが俺の親友の翔太な。まぁ見た目はアレだけど、いいやつだから」
「見た目はアレってなんだよ」
「あはは、柊真くんいつもそんな紹介の仕方なの?ひどくない?」
その笑い方で、あ、やべぇな、と思った。
橋本環奈に似てるとかそういうわかりやすい話じゃない。強いて言えば、今田美桜をもう少し柔らかくした感じ。身長は158くらいで、髪はセミロングの茶色。目がちょっとたれ目で、笑うと目が三日月みたいになる。Eカップあるって後から知ったけど、この時はゆるめのブラウスを着てて、なんかふわっとした印象だった。
(いや、こいつの彼女なんだから意識するなよ)
と自分に言い聞かせたのを覚えてる。
問題は、瑞希が俺にやたら懐いたことだった。
柊真が「翔太は面白いから」って吹き込んだせいなのか、瑞希は俺のことを柊真の延長線上みたいに扱い始めた。3人で遊ぶことが増えて、柊真がバイトで来れない時も「翔太くん暇?」って普通に連絡が来るようになった。
「翔太くんって映画詳しいよね?今度おすすめ教えて」
「柊真と観に行けよ」
「柊真くんすぐ寝るんだもん。アクション以外興味ないし」
「あー、まぁそうだな…」
柊真も「翔太となら安心だわ」とか言ってて、まったく警戒してなかった。
(いやお前、もうちょい彼女の行動把握しとけよ…)
と内心思ってたけど、柊真の信頼が重くて何も言えなかった。
事態が変わったのは、6月の終わり頃だった。
その日は柊真と瑞希と3人で、国分寺のラウンドワンでボウリングをした帰りだった。柊真が急にバイト先から呼び出しの電話をもらって、
「まじかよ…ごめん、ちょっと行かなきゃ。翔太、瑞希のこと頼むわ」
「おう」
「えー、しゅーくん行っちゃうの?」
「ごめんな、また今度埋め合わせするから」
柊真が小走りで去っていって、俺と瑞希が残された。
「ねぇ翔太くん、このまま帰るのもったいなくない?」
「まぁ、まだ16時だしな」
「翔太くんち近いんでしょ?なんか観よ、映画」
「え、うちで?」
「ダメ?」
ダメに決まってるだろ、と思ったけど、瑞希の「ダメ?」の言い方がずるかった。ちょっと首を傾けて、たれ目をさらにたれさせて。悪気がないのはわかってる。わかってるから余計にタチが悪い。
「いいけど、散らかってるぞ」
「大丈夫大丈夫!」
武蔵小金井の駅から徒歩8分の1Kに、親友の彼女を連れ込んでしまった。
リビングに入ると、瑞希は「おじゃましまーす」と言いながら靴を脱いで、迷いなく上がり込んだ。
「え、めっちゃ片付いてるじゃん。男子の部屋ってもっと汚いかと思った」
「柊真の部屋で基準作るなよ…」
「あはは、たしかに」
Netflixで適当にホラー映画を選んで、床に座って観始めた。俺はベッドに背中を預けて、瑞希は少し離れた位置にクッションを抱えて座ってた。
問題はここからだった。
映画が始まって30分くらい経った頃、瑞希が突然立ち上がった。
「ねぇ翔太くん、今日めっちゃ暑くない?ボウリングで汗かいたし、ちょっと着替えたいんだけど」
「着替え持ってんの?」
「うん、一応バッグに入ってる」
「風呂場使えよ」
「えー、そこまでしなくても。翔太くんちょっとだけ向こう向いてて」
いやいやいや。
向こう向いてて、じゃねぇんだわ。ここ1Kだぞ。壁一枚の向こうは玄関だぞ。
でも瑞希はもう背中を向けてTシャツの裾に手をかけてた。
(見るな見るな見るな見るな)
必死にスマホの画面を見つめてたけど、画面が暗転した瞬間に、反射で背中が映った。
白い背中に、薄いピンクのブラのホック。
心臓が跳ねた。
ガサガサという衣擦れの音。布が落ちる音。新しい布を被る音。
「はい、もういいよー」
振り返ると、瑞希はキャミソールにショートパンツという格好になってた。さっきまでのブラウスとデニムとは露出が段違いで、鎖骨から胸の谷間のラインがはっきり見えてた。
「…その格好で男の部屋にいるの、普通にまずくない?」
「え?翔太くんだから別にいいじゃん」
翔太くん「だから」。
その一言が、嬉しいのか悲しいのか、よくわからなかった。
(俺は男として見られてないってことだよな)
映画の続きを観てたけど、正直まったく頭に入ってこなかった。瑞希がホラーのシーンで「きゃっ」とか言って腕にしがみついてくるたびに、キャミソールの隙間から見える胸の膨らみが視界の端に入ってきて、俺は必死にスクリーンの方を見てた。
(こいつは柊真の彼女だ。こいつは柊真の彼女だ。こいつは柊真の彼女だ)
映画が終わった後、瑞希は「楽しかったー!」と伸びをした。その拍子にキャミソールがめくれて、腹が見えた。くびれがあって、うっすらと筋が入ってて。
(見てねぇからな、俺は)
完全に見てた。
それから、瑞希が俺の部屋に来るのが当たり前になった。
週に2回は来てた。柊真がバイトの日を狙って、とかじゃなくて、本当にたまたま柊真がいない時に「暇だから行っていい?」って来る感じ。
で、毎回着替える。
もう着替えは常備してて、俺の部屋に置きっぱなしのトートバッグの中に、キャミソールとかタンクトップとかショートパンツとかが入ってた。
「翔太くんちにいる時の方がリラックスできるんだよね」
「柊真の部屋じゃだめなの?」
「しゅーくんの部屋って男くさいし、すぐいちゃいちゃしようとしてくるから、なんか疲れちゃう時あるんだよね」
「いちゃいちゃって…彼氏だろ?」
「そうなんだけど…翔太くんといる方が楽なんだもん」
楽、か。
その言葉が引っかかった。俺といると「楽」。つまり、恋愛対象として見てないから楽。そりゃそうだ。わかってる。わかってるけど。
7月に入って、東京は連日35度を超える猛暑が続いた。
俺のアパートのエアコンは型落ちの安いやつで、冷房をつけても部屋がなかなか冷えなかった。
その日も瑞希が来てて、2人でアイスを食べながらYouTubeを見てた。
「暑い…翔太くん、エアコンもっと下げられない?」
「これが限界。18度設定でこれだから」
「まじか…汗やばい」
瑞希はキャミソールの裾で顔の汗を拭いた。その拍子に腹から胸の下あたりまで見えて、ブラが汗で少し透けてた。
(やめろ、頼むから)
「ねぇ、シャワー借りていい?」
「…どうぞ」
瑞希がシャワーに入ってる間、俺はベッドに仰向けになって天井を見てた。
水音がする。シャワーの音の向こうで、瑞希が「あー気持ちいいー」とか言ってる声が聞こえる。
(俺は何をしてるんだ)
親友の彼女が俺の家でシャワーを浴びてる。この状況を柊真が知ったらどう思うだろう。
でも柊真に言えなかった。言ったら「気にしすぎだろ」って笑われるのはわかってた。柊真はそういうやつだ。俺を信頼してるからこそ気にしない。その信頼が重すぎて、俺は身動きが取れなくなってた。
「翔太くーん」
風呂場からの声で我に返った。
「ごめん、タオル取ってくれない?バッグの中に入ってるはず」
「…わかった」
瑞希のトートバッグを漁ると、ピンクのタオルが出てきた。その下に、替えの下着が見えた。白いレースのブラと、おそろいのショーツ。
(見てない。俺は何も見てない)
風呂場のドアの前まで持っていくと、ドアが少しだけ開いて、濡れた手がにゅっと出てきた。
「ありがと!」
「…おう」
ドアの隙間から、湯気と一緒に、石鹸の匂いが漏れてきた。
瑞希がシャワーから出てきた時、俺はもうダメだと思った。
タオルで髪を拭きながら、タンクトップにショートパンツ。明らかにブラをつけてない。胸の形がそのままタンクトップに出てて、歩くたびに揺れてた。
「さっぱりしたー!翔太くんもシャワー浴びたら?汗くさいよ?」
「…余計なお世話だ」
「あはは」
瑞希が俺の隣に座った。いつもより近い。シャワー後で体温が上がってるのか、瑞希の肌からほんのり熱が伝わってきた。
「ねぇ翔太くん」
「ん」
「私ってさ、鈍いのかな」
「急にどうした」
「友達に言われたの。『瑞希って男の前で無防備すぎ』って。でも翔太くんの前だから別にいいじゃんって思うんだけど…」
「…いや、友達の言う通りだと思うぞ」
「え?」
「お前、ブラしてないだろ今」
「え…あ、うん。暑いから…」
瑞希が自分の胸元を見下ろして、少し赤くなった。
「…翔太くん、見てたの?」
「見てない。見えてるのと見てるのは違う」
「…なにそれ」
瑞希が小さく笑った。でもいつもの屈託のない笑い方じゃなくて、少し照れたような、困ったような笑い方だった。
「翔太くんってさ、そういうとこ真面目だよね」
「真面目っていうか…普通だろ」
「ううん。しゅーくんだったら絶対『見てたに決まってんだろ』って言う。翔太くんは見えてても見ないふりしてくれる。それがなんか…」
言葉が途切れた。
沈黙が落ちた。エアコンの低い唸り声だけが部屋に響いてた。
「…ごめん、変なこと言った。忘れて」
「おう」
忘れられるわけないだろ、と思った。
決定的だったのは、7月の3連休の中日だった。
柊真がサークルの合宿で2泊3日いなくなってて、瑞希は「暇すぎて死ぬ」と言って俺の部屋に来てた。
その日は夕方から急にゲリラ豪雨が来て、帰れなくなった。
「翔太くん…電車止まってるっぽい。中央線も総武線も」
「まじか」
「どうしよう…タクシーだと高いし…」
「…泊まってくか?」
言ってから後悔した。何を言ってるんだ俺は。
「いいの?」
「ベッド使えよ。俺は床で寝るから」
「ありがと…ごめんね」
夕飯は冷蔵庫にあったもので適当にパスタを作った。瑞希が「翔太くん料理できるんだ!」って目を丸くしてて、なんかくすぐったかった。
「しゅーくんは卵焼きすら作れないからさ。こういうの新鮮」
「あいつ生活力ゼロだからな」
「翔太くんの彼女になる人は幸せだね」
「いないけどな、彼女」
「え、ほんとに?もったいない」
もったいない、か。お前の彼氏の前で言ったら怒られるぞ、とは言えなかった。
飯を食った後、2人でビールを飲みながら(瑞希は案外酒が強かった)、だらだらとテレビを観てた。
22時を過ぎた頃、瑞希がシャワーを浴びてきた。
出てきた瑞希は、さっきと同じタンクトップにショートパンツ。ノーブラ。髪は濡れたまま。
もう何も言わなかった。言っても意味がないことは学んだ。
「翔太くん、髪乾かすの手伝ってくれない?ドライヤーの風が暑くて自分でやりたくない…」
「…それは甘えすぎだろ」
「お願い…」
(なんでこいつはこんなに無防備なんだ)
仕方なく瑞希の後ろに座って、ドライヤーを当てた。シャンプーの匂いが近い。瑞希のうなじに産毛が張り付いてて、それがやけに色っぽく見えた。
「んー…気持ちいい」
「…」
「翔太くん、美容師になれるよ」
「なれねぇよ」
髪を乾かし終わった時、瑞希が振り返った。距離が近すぎた。20センチもなかった。
瑞希の目が揺れてた。いつものたれ目が、少し潤んでるように見えた。
「翔太くん…」
「…何」
「…ずっと気になってたんだけど。翔太くんって、私のこと女として見てる?」
心臓が止まるかと思った。
「…見てない」
嘘だった。とんでもない嘘だった。
「…そっか」
瑞希が少し笑って、でもその目は笑ってなかった。
「じゃあさ、なんで私がブラしてない時、絶対に私の方見ないの?」
「…」
「女として見てないなら、気にしないはずじゃない?」
返す言葉がなかった。
瑞希が俺の手を取った。指が冷たかった。シャワー上がりなのに。
「私ね…しゅーくんのこと好きだよ。好きだけど…翔太くんといる時の方が、心臓がうるさいの。最近ずっとそう」
「やめろよ」
「やめたいよ。やめたいけど、止まんないの」
「瑞希、柊真は俺の親友だぞ」
「わかってるよ…わかってるから苦しいんじゃん…」
瑞希の声が震えてた。
俺は立ち上がろうとした。この場を離れなきゃいけない。今ここで踏み止まらなかったら、もう戻れなくなる。
でも瑞希が俺のTシャツの裾を掴んだ。
「行かないで」
「…」
「今日だけ…今日だけでいいから」
俺は、最低な人間になった。
振り返って、瑞希の顔を見た。涙が頬を伝ってた。たれ目の目尻から、一筋。
気づいたら、唇が重なってた。
どっちからキスしたのか覚えてない。たぶん、同時だったと思う。
瑞希の唇は、柔らかくて、少しだけビールの味がした。
「ん…」
「…柊真に殺される」
「殺されないよ…」
「殺されるだろ普通に」
「…翔太くんが気にしてるの、しゅーくんのこと?私のことじゃなくて?」
その言葉に、頭を殴られたような気がした。
俺は誰のことを考えてるんだ。柊真のことか。瑞希のことか。それとも、罪悪感から逃れたいだけの自分のことか。
「…全部だよ。お前のことも、柊真のことも、自分のことも、全部考えてて、全部わかんなくなってる」
「…翔太くんらしい」
瑞希が俺の首に腕を回した。シャンプーの匂いと、その下にある瑞希自身の匂いが混ざって、頭がぐらぐらした。
2回目のキスは長かった。舌が絡んで、唾液が混ざって、呼吸が荒くなって。瑞希の手が俺の背中に回って、爪が少し食い込んだ。
「翔太くん…触って」
タンクトップの上から胸に手を置いた。ノーブラの柔らかさがダイレクトに伝わってきて、指が沈み込んだ。
「…デカいな」
「そこ、最初に言うこと…?」
「いや、ごめん。なんて言えばいいかわからん」
「あはは…翔太くんっぽい」
笑いながら、瑞希が自分でタンクトップの裾を持ち上げた。目の前に、ブラなしの胸があった。今田美桜をもう少し柔らかくした顔の女の、Eカップの胸が。形がきれいで、乳首は薄いピンク色だった。
「…ちゃんと見てよ、今日は」
「…見てる」
「ん…」
乳首に触れると、瑞希が小さく声を漏らした。
「直接でいいよ…」
タンクトップを脱がせた。瑞希の上半身が裸になった。ずっと見ないふりをしてきたものが、全部目の前にあった。
(これは夢か?夢であってくれ)
でも、指の下にある肌の温度は本物だった。
キスしながら胸を揉んだ。瑞希の乳首が硬くなっていくのが指で感じられて、その変化に自分でも信じられないくらい興奮した。
「あ…そこ、弱い…」
「ここ?」
「んっ…うん…」
乳首を指で転がすと、瑞希の背中がびくっと反った。いつもの天然で無防備な瑞希じゃなくて、感じてる女の顔がそこにあった。
(こいつはこういう顔もするのか)
ベッドに移動した。瑞希を仰向けに寝かせて、ショートパンツに手をかけた。
「…いいのか、本当に」
「…聞かないで。聞かれたら考えちゃうから」
ショートパンツを脱がせると、白いショーツだった。さっき見たレースのやつじゃなくて、シンプルな綿のやつ。それがなんかリアルで、余計にドキドキした。
ショーツの上から触ると、もう濡れてた。
「やだ…もうこんなに…」
「…俺もだ」
ショーツをずらして、直接触った。ぬるっとした感触。瑞希が腰を跳ねさせた。
「あっ…」
クリを指で擦ると、瑞希の声が大きくなった。
「翔太くん…上手い…」
「上手くはないだろ、たぶん」
「んっ…しゅーくんより…全然…」
その言葉は聞きたくなかった。柊真の名前を、この状況で出さないでくれ。
でも瑞希は構わず声を出し続けた。俺の指が瑞希の中に入って、温かくて柔らかい壁が指を締めつけてきた。
「あ…やば…指、気持ちいい…」
瑞希の手が俺のズボンの上を触ってきた。もうとっくに硬くなってるのがバレてるのはわかってた。
「翔太くんも…出して?」
ズボンとボクサーを下ろされた。瑞希が俺のそれを握った。冷たかった指が、もう温かくなってた。
「おっきい…しゅーくんより…」
「比べんなよ」
「ごめん…」
瑞希が俺のを握ったまま、上下に動かし始めた。ぎこちなかったけど、その分リアルだった。AVみたいな上手さじゃなくて、一生懸命やってる感じが伝わってきて。
「…あー、やばい」
「気持ちいい?」
「うん…」
しばらくお互いに触り合ってた。瑞希の声がだんだん切なくなってきて、腰の動きが激しくなってきた。
「翔太くん…入れて…」
「…ゴムは」
「持ってるの?」
「…ある」
ベッドの下の引き出しからコンドームを出した。使う予定なんてなかったのに買い置きしてた自分に笑えた。
ゴムを着けて、瑞希の間に体を入れた。
先端を当てた時、瑞希が息を呑んだ。
「…入れるぞ」
「うん…」
ゆっくり押し込んだ。中は熱くて、きつくて、瑞希の全身がこわばった。
「あ…ぁっ…」
「痛いか?」
「ううん…大丈夫…全部入れて…」
奥まで入れると、2人とも動けなくなった。繋がってるという事実が重すぎて。
「…ごめん」
「…謝らないでよ。私が望んだことだから」
ゆっくり動き始めた。ぬるぬると、瑞希の中を俺のが出入りする感覚。瑞希の手が俺の背中にまわって、爪が食い込んだ。
「あっ…ん…翔太くん…」
「…」
「名前呼んで…」
「…瑞希」
「もっかい…」
「瑞希…」
名前を呼ぶたびに、中がきゅっと締まった。瑞希の目から涙が流れてて、でも笑ってた。泣きながら笑ってる顔が、今まで見た中で一番きれいだった。
ペースを上げた。ベッドが軋む音と、肌がぶつかる音と、瑞希の声が混ざった。
「やば…奥に当たってる…っ」
「大丈夫か…」
「大丈夫…止めないで…」
瑞希の足が俺の腰に絡んできた。密着度が増して、瑞希の胸が俺の胸に押しつけられる。
「翔太くん…好き…」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
嬉しかった。嬉しいと思ってしまった。親友の彼女の「好き」を聞いて、嬉しいと感じてしまう自分が最低だと思った。
「…俺も」
言ってしまった。
取り返しのつかないことを言ってしまった。
瑞希が泣きながら俺にしがみついて、中がぎゅっと締まった。
「あっ…だめ…イきそう…」
「俺も…もう…」
「一緒にイこ…?」
腰を速く動かした。瑞希の声が途切れ途切れになって、背中に爪が深く食い込んで。
「あっあっ…イく…翔太くんっ…」
瑞希の体が大きく震えて、中が痙攣するように締まった。その感覚に引きずられるように、俺もイった。
「…っ」
ゴムの中に出しながら、瑞希を抱きしめた。汗だくの体が密着して、2人の心臓の音が重なって聞こえた。
しばらく、どちらも動けなかった。
瑞希が俺の胸に顔を埋めたまま、小さく言った。
「…どうしよう」
「…わからん」
「しゅーくんに…」
「…言えるわけないだろ」
「だよね…」
沈黙。外では雨がまだ激しく降ってた。
「翔太くん」
「ん」
「…もう一回、していい?」
ダメだって言うべきだった。一回だけって言ったのは瑞希だろ、って。
でも俺は何も言わずに、瑞希にキスした。
2回目は、瑞希が上になった。俺のゴムを替えてくれて、自分で腰を下ろしてきた。
「ん…あ…」
上から見下ろす瑞希は、さっきまで泣いてたのが嘘みたいに艶っぽかった。濡れた髪が頬に張り付いてて、揺れる胸から目が離せなかった。
「翔太くん…見てて…」
「…見てる」
「見てない」って嘘をつき続けた俺が、やっと本当のことを言えた。
瑞希がゆっくり腰を動かした。1回目の余韻で中がぬるぬるで、音が部屋に響いた。
「気持ちいい…翔太くんの…好き…」
さっきより声が甘かった。遠慮がなくなってた。
俺は下から瑞希の腰を掴んで、突き上げた。
「あっ…そこ…やば…」
「ここか…」
「うんっ…そこ当てないで…イっちゃう…」
当てないでと言いながら、腰を押しつけてくるのは反則だと思った。
瑞希の動きがだんだん速くなって、俺も下から合わせて突き上げた。
「だめっ…もう…っ」
「…俺も…」
瑞希が俺の上に倒れ込んできて、耳元で「好き」って囁いた。その声を聞きながら、2回目も一緒にイった。
3時過ぎまで、結局3回した。
2回目以降は最初の罪悪感が薄れていって、代わりに「この時間が終わってほしくない」っていう独占欲みたいなものが込み上げてきた。瑞希も同じだったのか、行為の合間にやたら俺の体に触ってきて、離れようとしなかった。
明け方、窓の外が白み始めた頃、瑞希が俺の腕の中で言った。
「翔太くん」
「ん」
「私、しゅーくんと別れる」
「…」
「ずるいことしたのは私だから。ちゃんと自分で終わらせる」
「…俺のせいで別れるのは」
「翔太くんのせいじゃないよ。翔太くんが何もしなくても、私はいつかこうなってた。それくらい、翔太くんのことが好きになってたから」
俺は何も言えなかった。言えることが何もなかった。
瑞希が寝息を立て始めて、俺は天井を見つめたまま、朝を迎えた。
柊真にどう顔を合わせればいいのか、まだわからない。たぶん、一生わからないままだと思う。
でも、あの雨の夜に瑞希が俺のTシャツを掴んだ時、振り払えなかった自分の気持ちだけは、嘘じゃなかった。
これが正しいことだなんて、口が裂けても言えない。
ただ、あの夜のことを、俺は忘れないと思う。