これは俺が26のときの話です。
都内の中堅メーカーで営業やってて、入社3年目。まあ成績は中の中、顔面偏差値も中の中。身長172で体型は普通。強いて言えば酒が強いのだけが取り柄みたいな、どこにでもいるサラリーマンでした。
4月の人事異動の時期に、課長から呼ばれたんですよ。
(何だろ…まさかクビとかじゃないよな)
会議室に入ると、課長がやたら申し訳なさそうな顔をしてて。
「お前さ、来月から新しく入る子のOJT担当やってくれない?」
OJTか。まあ3年目だし、そろそろそういう役回りも来るよなと思って。
「いいですけど、新卒ですか?」
「いや…中途。っていうか、コネ入社」
嫌な予感がした。
「誰のコネですか」
「……三島専務の、娘さん」
終わった。
うちの会社で三島専務といえば、創業家の長男で、次期社長候補。社内で逆らえる人間なんてほぼいない。その娘の教育係って、つまり何かあったら俺の首が飛ぶってことじゃん。
「なんで俺なんすか」
「いや、正直みんな断ってさ…お前が一番断らなさそうだったっていうか…」
(それ褒めてないよな…)
断れるわけもなく、翌週から三島楓の教育係になりました。
初日。受付のソファで待ってたら、エレベーターから出てきた女を見て固まった。
身長160くらい。黒髪のボブで、顔は橋本環奈を少しシャープにした感じ。肌が白くて、目がくりっとしてて、でも口元にちょっと生意気そうな笑みが浮かんでる。スーツの上からでもわかるくらい胸があって、たぶんEかFくらい。
(いや待て、聞いてた話と違くない?)
課長からは「まあ普通の子だよ」としか聞いてなかった。普通ってどこの基準だよ。
「あ、教育係の人ですか?三島です。よろしくお願いしま〜す」
ぺこっと頭を下げてくるんだけど、目が全然笑ってない。品定めされてる感じがした。
「よろしく。とりあえず今日は社内の案内からするから」
「はーい。あ、先輩って呼んでいいですか?」
「好きに呼んでくれ」
「じゃあ先輩で。先輩、彼女いるんですか?」
初日の開始3分で聞く?
「いないけど」
「へー、なんでですか?顔は……まあ悪くはないのに」
(「まあ」って何だよ)
これがね、毎日続くんですよ。
資料のコピー頼んだら「先輩って几帳面なのに机汚いですよね」とか、営業同行させたら「先輩のプレゼン、内容はいいのに声が地味ですよね」とか。褒めてるのかけなしてるのか微妙なラインを毎回攻めてくる。
しかも仕事はちゃんとやるんですよ。言われたことはきっちりこなすし、電話対応もハキハキしてるし、議事録のまとめ方とか俺より上手い。
「先輩、ここの数字なんですけど、前期比で出したほうがよくないですか?」
「……確かに」
「ふふ、先輩より先に気づいちゃった」
こういうのが毎日。正直むかつくんだけど、悔しいことに的確なんですよね。
1ヶ月くらい経った頃、ちょっとした事件がありました。
取引先との会食があって、楓も同席したんです。相手方の部長がまあまあ酔っ払って、楓に絡み始めた。
「三島さんかわいいね〜、今度二人で飲みに行こうよ〜」
楓は笑顔で流してたんだけど、肩に手を回されそうになった瞬間、俺が割って入りました。
「すみません部長、三島はまだ新人なんで、お酒弱いみたいで。俺が代わりに飲みますよ」
部長の前にあったハイボールをぐいっと空けて、場の空気を切り替えた。
会食が終わって、駅まで歩いてるとき。
「先輩、さっきはありがとうございました」
いつもの生意気な口調じゃなくて、ちょっと小さい声だった。
「別に。あのまま放っておいたら俺が専務に殺されるし」
「……そういうことにしとく」
「ん?」
「なんでもないです。おやすみなさい」
改札を抜ける前に振り返って、楓がちょっとだけ笑った。あれはからかいじゃない笑い方だった。
(……いや、気のせいだろ)
それからちょっとずつ、楓の態度が変わっていった。
相変わらずからかってくるんだけど、たまに差し入れを持ってくるようになった。コンビニのコーヒーとか、「先輩これ好きでしょ」って何も言ってないのに俺がブラック派なの知ってて。
「べっつに、ついでに買っただけですけど」
「毎回ついでなんだ」
「そうです。毎回ついでです。文句あります?」
(わかりやすいな……いや、でもこれ絶対俺の自意識過剰だよな)
周りの同期には「あいつ絶対お前のこと好きだろ」って言われてたんだけど、俺は本気にしてなかった。だって専務の娘だよ? 俺みたいな平社員に何の用があるんだよ。
6月になって、名古屋の取引先への出張が入りました。本来なら俺一人で行くはずだったんだけど、課長が「三島も勉強になるから連れてけ」と。
新幹線の中で隣に座った楓がイヤホン片耳外して。
「先輩、名古屋って何がおいしいんですか?」
「味噌カツとか手羽先とか」
「じゃあ夜ごはん連れてってくださいよ」
「経費で落ちる範囲でな」
「けち」
名古屋駅に着いて、取引先での打ち合わせは順調に終わりました。
問題はそのあとです。
ホテルにチェックインしようとしたら、フロントの人が困った顔をして。
「申し訳ございません、こちらの予約ですと、ツインルーム1室でお取りしておりまして…」
「は?」
どうやら総務の予約ミスで、シングル2部屋のはずがツイン1部屋になってた。しかもこの日は名古屋で何かのイベントがあったらしく、周辺のホテルは全滅。
「まあ、ツインならベッド別だし、いいんじゃないですか?」
「いや、よくないだろ。万が一専務の耳に入ったら……」
「パパには言いませんよ。先輩が変なことしなければ」
(変なことって何だよ……)
仕方なくツインの部屋に入りました。まあ広めの部屋で、ベッドも離れてるし、大丈夫だろうと。
夕飯は栄の居酒屋で手羽先と味噌煮込みうどん。楓が「おいしい」ってはしゃいでるのが、会社にいるときと全然違って、ちょっと年相応に見えた。楓は23歳。
「先輩って意外と気が利きますよね、店選び」
「意外とって言うな」
「ふふ。褒めてるんですよ? 素直に受け取ってください」
2軒目は名駅近くのバーに入って、カクテル何杯か飲みました。楓は見た目によらず結構飲める。
ホテルに戻ったのは22時過ぎ。楓が先にシャワーを浴びて、俺はベッドに座ってスマホいじってた。
バスルームのドアが開いて、楓がホテルの白いバスローブ姿で出てきたとき。
(やばい)
髪が濡れてて、バスローブの胸元からうっすら谷間が見えてて。会社のスーツ姿とは全然違う。こういうの反則だろ。
「先輩、どうぞ。お湯張ってありますよ」
「お、おう。ありがとう」
急いでシャワー浴びて、頭から冷水かぶって冷静になろうとしたけど無理だった。
風呂から上がると、楓がベッドの上であぐらかいてテレビ見てた。バスローブの裾から太ももが見えてる。
「……もうちょっとちゃんと着ろよ」
「え、何がですか?」
「いや、バスローブ」
「あー……先輩、意識してます?」
にやっと笑われた。
「してねえよ」
「嘘。だって耳赤いですもん」
(この女ほんと……)
「ねえ先輩、ちょっと飲みません? コンビニでワイン買ってきたんですけど」
断ればよかったんだろうけど、断れなかった。
ベッドの間にあるテーブルにワインとホテルのグラスを置いて、テレビの再放送のバラエティを見ながら飲みました。
2杯目を注いだあたりで、楓が急に黙った。
「……先輩」
「ん?」
「私のこと、からかってくるうざい後輩だと思ってますよね」
「……まあ、うざいとは思ってる」
「ですよね」
「でもうざいだけじゃないよ。仕事は出来るし、気も利くし」
「……それ、教育係として言ってます? それとも」
「それとも」の先を、楓は言わなかった。
テレビの笑い声だけがやけにうるさかった。
「……俺にどう言ってほしいんだよ」
「そういうところですよ、先輩のダメなとこ」
楓がグラスをテーブルに置いて、俺のベッドに移ってきた。
近い。肩が触れるくらいの距離で、シャンプーの匂いがする。
「私、先輩のこと好きです。からかってたのは……気を引きたかったから」
心臓がやばかった。でも頭の中では「専務の娘」「仕事の関係」「絶対まずい」ってアラームが鳴ってた。
「楓、それは……」
「ダメって言うなら言ってください。そしたら明日から普通にします」
目が潤んでて、いつものからかい顔じゃなかった。
「……ダメって言えるわけないだろ」
気づいたら楓の頬に手を伸ばしてた。
「俺もたぶん……いや、たぶんじゃない。好きだよ、楓」
名前で呼んだの初めてだった。楓の目がちょっと見開かれて、すぐにくしゃって笑った。
「……やっと言った」
「え、やっとって」
「会食のときからずっと待ってたんですよ、ばか」
2ヶ月も待たせてたのかよ。
唇が重なったのは、どっちからだったかよく覚えてない。たぶん同時だった。
最初はぎこちなかった。上司と部下、教育係と新人、そういう壁が頭にちらついて。でも楓の唇が柔らかくて温かくて、そんなの全部どうでもよくなった。
舌が触れ合って、楓が小さく「ん……」って声を出した瞬間、理性とかそういうの全部飛んだ。
バスローブの紐をほどくとき、手が震えた。
「先輩、手震えてますよ」
「うるせえ」
「ふふ……かわいい」
こっちが年上なのにからかわれてる。でもバスローブがはだけて、楓の体が目に入った瞬間、もうそんなこと考える余裕なかった。
白くて柔らかそうな肌。ブラしてなくて、形のいい胸がそのまま出てきた。やっぱりEはあった。腰のくびれもえぐくて、こんな体が毎日オフィスでスーツ着てたのかと思うと頭がおかしくなりそうだった。
「……すげえ綺麗」
「……見すぎです」
顔を背けたけど、耳が真っ赤だった。いつも俺の耳が赤いって言ってくるくせに。
胸に顔を埋めると、楓の心臓がすごいスピードで鳴ってた。
「あ……そこ、感じる……」
乳首を舌で転がすと、楓が背中を反らした。いつもの冷静な口調がどんどん崩れていく。
「いつもからかってくるくせに、こういうときは素直なんだな」
「う、うるさい……っ、あ……」
手を下に滑らせると、もう濡れてた。
「やっ……そこ、いきなり触らないでっ……」
「嫌なら止めるけど」
「……嫌って言ってない」
指を動かすと、楓が太ももをきゅっと閉じて、でもすぐに力が抜けてまた開く。その繰り返しがたまらなかった。
「ん、あ……っ、先輩……もっと……」
(こいつ会社では絶対こんな声出さないよな)
そう思ったら余計に興奮した。
クリを親指で押しながら中に指を入れると、楓が俺のTシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
「あっ……だめ、そこ……っ」
「だめなの?」
「だめじゃ、ない、けど……あっ、やばい……っ!」
体がびくってなって、俺の指を締め付けてきた。目をぎゅっとつぶって、唇噛んで、必死に声を抑えてる。
「ホテルだから、声出しても大丈夫だよ」
「……恥ずかしい」
いつもあんなに堂々としてるのに。そのギャップにやられた。
「……先輩も脱いでください。私だけ裸なの、ずるい」
言われて自分のTシャツとズボンを脱いだ。もう完全に硬くなってて、隠しようがない。
楓がそれをちらっと見て。
「……大きい」
「やめろ、恥ずかしいだろ」
「ふふ、先輩も恥ずかしいことあるんですね」
からかいながらも、楓の手が伸びてきて、そっと握られた。
「こうすればいいんですか……?」
「っ……うん」
ゆっくり上下に動かされて、頭がぼーっとする。楓の手は細くて柔らかくて、慣れてない動きなのに、それがかえってやばかった。
「楓、もう……入れたい」
「……うん」
財布からゴムを出した。一応持ってきてたのは、まあ、男の習性というか。
「用意いいですね」
「うるさい」
楓が仰向けになって、脚を開いてくれた。顔を真っ赤にしながら、でも目はそらさなかった。
ゆっくり入れると、楓が息を止めた。
「……っ……ん……」
「痛い?」
「平気……ゆっくり……」
中があったかくて、きつくて、頭の中が真っ白になった。これが楓の中なんだって思ったら、もう何も考えられなかった。
ゆっくり動き始めると、楓が俺の背中に手を回してきた。爪が食い込むくらい強く。
「あ……っ、ん……先輩……」
「名前……名前で呼んで」
「……裕太さん……」
初めて名前で呼ばれた。それだけで腰の奥がぞくっとした。
「楓……っ……」
額をくっつけて、目を合わせながら腰を動かす。楓の瞳が潤んでて、息が荒くて、いつもの余裕なんてどこにもなかった。
「もっと……奥……っ」
角度を変えて深く突くと、楓が声を上げた。
「あっ、そこ……っ! やば……っ」
「ここ?」
「うん……そこ……やめないで……っ」
同じところを何度も突く。楓の声がどんどん大きくなって、ベッドが軋む音と混ざった。
「あっ、あっ、いく……先輩、いっちゃう……っ!」
楓の中がぎゅうって締まって、全身が震えた。その締め付けで俺も限界だった。
「俺も……っ」
最後に深く押し込んで、中で果てた。ゴム越しでも、出してる感覚がはっきりわかった。頭の中が真っ白になって、しばらく動けなかった。
「はぁ……はぁ……」
二人とも息が上がって、しばらくそのままくっついてた。
「……ねえ」
「ん」
「私のこと……もう一回好きって言ってください」
「好きだよ」
「……もう一回」
「好き」
「えへへ……」
いつものからかい顔じゃなくて、本当に嬉しそうな顔だった。
そのまま抱き合ってたら、楓が俺の胸に顔を埋めて。
「……ねえ、もう一回したい」
「……マジで?」
「マジで」
2回目は楓が上に乗った。
さっきは受け身だったのに、急に攻めてくるあたりがいかにも楓って感じで。バランス取りながら腰を動かすのがぎこちなくて、でもそれが良かった。
「ん……っ、これ、難しい……」
「無理しなくていいよ」
「無理してない……っ、あ……」
腰を掴んで動きを手伝うと、楓が甘い声を出した。上から見下ろす楓の顔は、会社で見るどの表情とも違ってて。
「楓、やばい……こっちもう持たない」
「一緒に……っ」
2回目は1回目より早かった。お互い余裕がなくて、ぐちゃぐちゃで、でも気持ちよかった。
終わったあと、楓が俺の隣に倒れ込んで。
「……会社では今まで通りにしてください」
「え?」
「急に態度変わったらバレるでしょ。……パパの耳に入ったら先輩クビになっちゃう」
「お前が言ったんだろ、言わないって」
「言わないですよ。でも社内恋愛ってバレるときはバレるし」
ちゃんとそういうこと考えてるんだな、こいつ。
「じゃあ会社ではいつも通り、からかわれ続けるってこと?」
「はい。でも……からかうのは好きだからやってるって、もう知ってるでしょ?」
にやって笑った。あの生意気な笑い方。でもその奥にある照れが、今なら見えた。
翌朝、名古屋駅のホームで新幹線を待ってるとき、楓がぼそっと言った。
「先輩、今度の週末暇ですか」
「まあ、暇だけど」
「じゃあデートしましょう。表参道がいいです」
「お前が決めるのかよ」
「当然でしょ? 先輩に任せたら牛丼屋になりそうだし」
(否定できない……)
新幹線が来て、並んで座って。楓がイヤホンの片方を差し出してきた。
「聴きます?」
受け取って耳に入れると、ちょっと古めのJ-POPが流れてた。aiko。
「渋いの聴くな」
「ママの影響です」
品川が近づいたとき、楓が俺の肩に頭を預けてきた。寝てるのかと思ったら、小さい声で。
「……教育係でよかった」
「……俺も」
誰にも押し付けられたくなかった役回りが、今は誰にも譲りたくなくなってた。
東京駅で新幹線を降りて、改札を出たら、いつもの距離感に戻る。
「じゃあ先輩、週明けもよろしくお願いしますね」
ぺこっと頭を下げて、何事もなかったみたいにスタスタ歩いていく。
でもその背中を見ながら、俺はにやけるのを止められなかった。
あれから3年経って、楓はもう立派に一人で営業を回してます。俺たちのことは未だに社内にはバレてない。たぶん。楓が上手くやってくれてるから。
ただ一個だけ困ってることがあって。
楓のからかいが、3年経っても全然収まらない。むしろエスカレートしてる。
昨日も「先輩、そろそろうちのパパに挨拶する勇気出ましたか?」ってLINEが来た。
専務への挨拶。それだけは、まだ無理です。