これ読んでる人で、盆と正月に実家帰るたびに「まだなの?」って聞かれる人、いると思うんですよ。
俺がまさにそれでした。27歳、東京の商社で営業やってる、まあ普通のやつです。顔面偏差値は50ちょい。よく言えば「清潔感はある」、悪く言えば「印象に残らない」タイプ。身長172で、大学のときに付き合ってた彼女に「顔だけならムロツヨシに似てるかも」って言われたのがハイライト。褒められてるのか微妙なラインだけど、本人がそう言うなら多分そう。
で、問題は実家。福島の郡山で酒屋やってるうちの親が、26超えたあたりからマジでうるさくなった。母親は毎週のように「この前お隣の息子さんがね、もう二人目で…」とLINEしてくるし、親父は正月に酔うと「跡継ぎの話、お前いつまで逃げるつもりだ」と説教を始める。
(俺が逃げてるんじゃなくて、単にモテないだけなんだけど…)
んで、この地獄から俺を救ってくれたのが、同期の涼花だった。
涼花は同じ営業部の別チーム。入社当時から仲は良くて、昼メシは週2くらいで一緒に食ってた。見た目は…橋本環奈を縦に5センチ伸ばして、大人っぽくした感じ。身長162、Cカップ(これは後で知った)、肌が異常に白くて、笑うと目がなくなるタイプのかわいさ。社内でも普通にモテてて、「営業3課の橋本環奈」って陰で呼ばれてた。
そんな涼花がある日の昼休み、丸の内の定食屋で唐突に言った。
「ねえ、私たち付き合ってることにしない?」
「…は?」
味噌汁むせた。マジでむせた。
「いや、本当に付き合うんじゃなくて。お互いの親に『恋人いるから』って言うための、こう…契約?」
「それ、ドラマでしか聞いたことないやつ」
「私もお母さんがもう限界なの。毎回『見合い相手見つけたから』って写真送ってきて。先月なんか勝手に相手と日程調整してた」
(そ、それはたしかにキツい…)
涼花の実家は名古屋で、お母さんが地元の名士の家柄らしく、娘の結婚にめちゃくちゃプレッシャーかけてくるらしい。27で独身は「ありえない」の一言で片付けられるとか。
「でもさ、俺たちが付き合ってるって言ったところで、いつかバレるじゃん」
「だから『婚約してる』まで言っちゃおうかなって。そしたら最低1年は静かになるでしょ」
「スケールでかくない?」
「半端にやると突っ込まれるから、いっそ大きく出たほうがいいの。…で、説得力出すために、同棲もしようかなって」
「……えっ」
ここで俺は完全にフリーズした。同期の、あの涼花と、同棲?
いや冷静に考えろ。これは契約だ。ビジネスだ。俺の部屋は田町の1LDK、家賃12万。涼花は中目黒のワンルームで家賃9万5千。二人で割れば一人6万。経済的にもメリットはある。
…いやそういう問題じゃねえだろ。
でも結局、俺はOKした。理由は3つ。親がうるさいのを止めたかった。家賃が浮く。あと、正直に言うと…涼花と暮らすのちょっと楽しそうだなって思った自分がいた。
(最後の理由は絶対口に出さないけど)
同棲が始まったのは10月の頭。涼花が俺の田町の部屋に越してきた形で、ベッドは俺がリビングのソファベッド、涼花が寝室。完全に分離。「同居人」のルールブックまで涼花が作ってきた。A4で3枚。第7条に「恋愛感情の発生は契約違反とする」って書いてあって笑った。
「第7条って、これマジで書いたの?」
「大事でしょ。ここブレたら全部崩れるから」
「はいはい」
最初の2週間は快適だった。朝は涼花が先にシャワー浴びて、俺がその間にコーヒー淹れる。帰りは別々だけど、先に帰ったほうが米を炊く。料理は交代制。涼花のカレーは具がでかすぎてほぼシチューだったけど、まあ美味かった。
問題は、3週目くらいから始まった。
涼花が風呂上がりにTシャツ1枚でリビングうろうろするようになった。正確に言うと、前からそうだったんだろうけど、俺が気にするようになった。
濡れた髪からぽたぽた雫が落ちて、鎖骨のあたりを伝っていくのが目に入るたびに、(見るな見るな見るな)と自分に言い聞かせてた。
ある夜、ソファでNetflix見てたら涼花が隣に座ってきた。距離が近い。太ももが触れるくらい近い。
「ね、今日会社で田中さんに『彼氏と順調?』って聞かれた」
「なんて答えたの」
「『おかげさまで』って。…嘘つくのうまくなっちゃったな、私」
なんか、その言い方がちょっと寂しそうで。
「…嘘、なのかな」
「え?」
「いや、なんでもない。忘れて」
(何言ってんだ俺。第7条だろ第7条)
11月に入って、涼花のお母さんが東京に来ることになった。
「やばい。お母さん、あなたに会いたいって」
「マジで?」
「婚約者なんだから当然でしょって。…ごめん、練習しよ。呼び方とか、馴れ初めとか合わせなきゃ」
そこから一週間、毎晩リビングで「恋人設定」のリハーサルをした。出会いは「入社式で隣の席だった」(これは本当)。告白は「去年のクリスマス、丸の内のイルミネーションの前で俺から」(完全にフィクション)。
「じゃあ私のこと何て呼ぶ?普段は涼花って呼んでるけど、お母さんの前では…」
「りょうちゃん…とか?」
「…っ」
涼花が一瞬固まった。
「ダメだった?」
「ううん、いい。…いいと思う。ちょっとびっくりしただけ」
そう言って涼花は顔を背けたけど、耳が赤くなってるのは見えた。
(…第7条、大丈夫か?俺のほうが)
お母さんとの会食は銀座の和食屋で行われた。涼花のお母さんは上品な人で、でも目は鋭かった。最初の30分は俺の家族構成、年収、将来の展望について質問攻め。まるで面接。
「お母さん、そんなに聞かないでよ…」
涼花が困った顔で止めに入るのを見て、(ああ、この子はこのプレッシャーの中でずっとやってきたんだな)と思った。
会食の後半、お母さんがふと聞いた。
「涼花のこと、本当に好きなの?」
一瞬、空気が止まった。涼花が俺を見た。不安そうな目だった。
「…はい。毎日一緒にいて、どんどん好きになってます」
嘘のつもりで言った。でも、言葉が口から出た瞬間、(あれ、これ嘘か?)って自分で混乱した。
隣で涼花がちょっと泣きそうな顔をしていた。
会食の帰り道、銀座から田町まで歩いた。12月の風が冷たかった。
「…ありがとう。お母さん、すごく安心してた」
「よかったじゃん」
「ねえ、さっきの…『どんどん好きになってます』って」
「演技だよ。うまかったでしょ」
「……うん。うまかった」
涼花はそれ以上何も言わなかった。でも俺の袖を、指先でちょんとつまんでた。銀座四丁目の交差点から田町駅まで、ずっと。
同棲3ヶ月目の12月24日。クリスマスイブ。
設定上は俺たちが付き合い始めた記念日。でも、二人とも特に何も言わずに帰宅して、コンビニのチキンとケーキを買って、いつも通りソファでNetflix見てた。
「ねえ、1年経ったら…この生活どうする?」
「どうするって?」
「契約、終了でしょ。私が出ていくことになるよね」
「…まあ、そうだな」
「そっか」
涼花がケーキのイチゴだけフォークで刺して、ずっと見つめてた。
「涼花は…出ていきたいの?」
「聞いてるのは私のほう」
「……」
「ねえ、正直に答えて。私がいなくなっても、困らない?」
困る。
めちゃくちゃ困る。朝、コーヒー淹れる相手がいなくなる。帰って真っ暗な部屋に戻る生活。具がでかすぎるカレーが食えなくなる。風呂上がりのシャンプーの匂いがリビングに漂わなくなる。
でもそれは「同居人」として困るのか、それとも——
「困る。すげえ困る」
「…それは、同居人として?」
「……」
「第7条、破棄していい?」
涼花がこっちを向いた。いつもの冗談っぽい顔じゃなくて、目が潤んでて、頬が赤くて。
「お前から言うのかよ…。俺のほうがずっと…」
「ずっと、なに?」
「ずっと、破りたかった」
涼花の目から涙がぽろって落ちた。
「ばか…なんでもっと早く言わないの…」
「お前が怖い契約書作るからだろ…」
「あんなの…自分に言い聞かせるために書いたに決まってるじゃん…っ」
涼花が俺のTシャツの胸元をぎゅっと掴んだ。
「りょうちゃん」
「…っ。お母さんの前以外で呼ばないでよそれ…ずるい…」
「りょうちゃん」
「もう…っ」
キスした。コンビニのクリスマスケーキの甘い味がした。ぎこちなくて、鼻がぶつかって、でも離れたくなくて。涼花が俺の首に腕を回してきた。
「…ベッド、行っていい?」
「いいの?」
「…もう3ヶ月も隣の部屋で寝てたんだよ。ばかみたい」
涼花の手を引いて寝室に入った。いつもは涼花の部屋だから、シャンプーの匂いがした。甘い、フローラル系の。ベッドの上でもう一回キスして、涼花のTシャツの裾に手をかけた。
「…待って。電気、消して」
「やだ。見たい」
「ッ…恥ずかしいんだけど…」
「3ヶ月一緒に住んでて今更何言ってんの」
「一緒に住んでるのと、見られるのは、ぜんぜん違うから…っ」
Tシャツを脱がすと、白い肌にグレーのブラ。華奢な鎖骨と、その下の柔らかそうな膨らみ。毎晩ソファ越しに見てたシルエットが、こんなに近くにある。
(これ本当に現実か?3ヶ月前には契約書交わしてた相手と今こうなってるのか?)
背中に手を回してブラを外した。
「…ちっちゃいとか言ったら蹴るから」
「言わねえよ…きれいだよ」
「…ほんとに?」
「うん」
胸に顔を埋めた。柔らかくて、あったかくて、心臓の音が聞こえた。涼花の心臓、すげえ速かった。俺のも同じくらい速いけど。
乳首に舌を当てると、涼花がびくって震えた。
「んっ…そこ、弱い…」
「ここ?」
「っ…意地悪しないでよ…」
片方を舐めながらもう片方を指で転がすと、涼花の呼吸がどんどん浅くなっていった。空いた手で下に触れると、もうショーツが濡れてた。
「やっ…触んないで、恥ずかしい…」
「ここまできて?」
「だって…こんなになってるの、バレたくない…」
ショーツをずらして直接触ると、指がぬるって滑った。クリに触れた瞬間、涼花の太ももがきゅっと閉じた。
「あっ…んん…っ」
ゆっくり、円を描くように刺激する。涼花が目を瞑って、シーツを握ってた。
「やばっ…気持ちいい…なんで…こんな…」
「なんで?」
「…自分でするより、全然…っ」
(お前もするんだ、って思ったけどさすがに空気読んで言わなかった)
指を中に入れると、きつかった。
「っ…ゆっくり…ね…」
「痛い?」
「痛くない…けど、緊張して…」
少しずつ動かしていくと、涼花が段々力を抜いてくれた。中がきゅうって締まったり緩んだりするのが指に伝わってきて、(こいつ、こんな反応するんだ)って変な感動があった。
「あっ…あっ…もう、だめ…っ」
「いっていいよ」
「ん…っ!…あ…ぁ…っ」
涼花の体がびくって弓なりになって、俺の手をぎゅっと握った。しばらく震えてた。
「はぁ…はぁ…」
「…大丈夫?」
「…うん。…ねえ、ゴムは?」
「あ、洗面台の引き出しに…」
立ち上がろうとしたら、涼花が腕を掴んだ。
「…私が取ってくる。待ってて」
涼花が裸のままぱたぱた洗面所に行って戻ってきた。その後ろ姿を見ながら、(ああ、この子と本当に付き合えるんだ)って、やっと実感が湧いてきた。
「…つけて」
涼花がゴムを渡してきた。手が震えてるのがわかった。
装着して、涼花の上に覆いかぶさった。
「入れるよ」
「…うん」
ゆっくり先を当てて、少しずつ押し入れた。涼花が俺の背中に爪を立てた。
「…っ…ん…」
「痛い?止める?」
「止めないで…。大丈夫だから…っ」
奥まで入ったとき、涼花が長い息を吐いた。中があったかくて、きつくて、脈打つみたいにぎゅうって締めてきて。頭が真っ白になりそうだった。
(やばい、これ本当にやばい。想像の100倍気持ちいい。いやそういうことじゃなくて、涼花と繋がってるっていう事実がもう…)
「動くよ」
「ん…っ」
ゆっくり腰を動かした。涼花が俺の首に両腕を回して、耳元で小さく声を漏らした。
「あっ…ん…気持ちいい…よ…」
「俺も…」
少しずつペースを上げた。ベッドが軋んだ。涼花の声が大きくなっていく。
「あっ…あっ…そこ…っ」
「ここ?」
「そこいい…やばい…っ」
涼花が俺の背中にしがみついて、耳元で「好き」って言った。何回も。呼吸の合間に、壊れたみたいに。
「涼花…っ、俺もう…」
「いいよ…出して…っ」
腰を深く押し込んで、中で果てた。ゴム越しでも涼花の中の熱が伝わってきて、全身の力が抜けた。
「ん…っ…」
「はぁ…はぁ…」
しばらくそのまま抱き合ってた。汗と、シャンプーの匂いと、二人の体温が混ざった空気。
「…ねえ」
「ん?」
「契約書、明日シュレッダーかけよう」
「…そうだな」
「で、新しい契約書作ろう。第1条、『お互いのことを好きでいること』」
「第2条は?」
「『期限なし』」
笑った。涼花も笑った。
少し休んだ後、涼花が起き上がって俺の上に跨った。
「…もう一回、したい」
「…お前から言うの珍しいな」
「3ヶ月も我慢してたんだから…これくらい許して」
(3ヶ月我慢してたって…マジか。俺だけじゃなかったのか)
2回目は涼花が上で、ゆっくり腰を動かした。1回目とは違って、涼花の顔がちゃんと見えた。頬が紅潮して、眉が寄って、唇を噛んで。この顔を3ヶ月間、壁一枚隔てた向こうで知らずにいたのかと思うと、自分の鈍感さに呆れた。
「ん…っ…あっ…」
「涼花…かわいい…」
「見ないで…っ、こっち見ないで…」
「見る」
「ッ…いじわる…」
2回目は少し余裕があって、涼花の体をちゃんと見れた。腰のくびれ、揺れる胸、汗で光る鎖骨。全部、もう「同居人」じゃなくて「俺の彼女」のものだと思うと、込み上げてくるものがあった。
涼花が先にイって、中がぎゅうって締まった反動で俺もイった。
終わった後、涼花が俺の胸に頭を乗せて、指で鎖骨をなぞってた。
「…ねえ、今日からここ、二人の部屋ね。リビングのソファベッドはもう解体して」
「了解」
「あと、お母さんに報告しないと。『ちゃんと付き合ってます』って」
「それ、お母さん的には何も変わってなくない?」
「こっちの気持ちが全然違うの。……好き」
「……俺も」
窓の外は東京タワーのライトが消えかけてた。田町の部屋から見える、小さい東京タワー。12月25日の午前2時。
偽物から始まった関係が本物になった日を、俺はたぶんずっと覚えてると思う。
ちなみに翌朝、涼花が俺のスマホで撮ったツーショットを母親にLINEで送ったら、5秒で既読がついて「きれいな子ね!!!!!」って返ってきた。ビックリマーク5個。郡山の酒屋のおばちゃん、テンション高すぎ。
涼花は隣でそれ見てケラケラ笑ってた。
あのA4の契約書は、結局シュレッダーにはかけなかった。「記念に取っとこう」って涼花が言うから、今もクローゼットの奥にある。第7条に赤ペンで大きくバツがついてる。涼花の字で。