アラートに追われて空を見上げなくなった僕が、十年ぶりに登った真夏の北アルプスで、台風接近の停滞でただ一人の客になった稜線の山小屋を一人で守る同い年の小屋番に風と雲の読み方を教わるうちに惹かれ、ご来光の晴れ間の前夜に別棟の屋根裏で結ばれた話

七月の、下旬。標高二千八百メートルの稜線で、僕、久野透(くの とおる)、三十一歳は、十年ぶりの登山の重みを、肩と膝で思い知らされていた。

仕事は、都内のIT企業でサーバーの運用をしている。二十四時間、監視画面の前で、アラートが鳴らないことを祈る仕事だ。深夜に叩き起こされ、休日に呼び出され、気づけば、自分が最後に空を見上げたのがいつだったか、思い出せなくなっていた。

久野透(……天気予報なんて、傘がいるかどうかしか、見てなかったな)

学生のとき、ワンダーフォーゲル部にいた。あの頃は、空を読めた。雲のかたちで、午後の雨がわかった。風の匂いで、明日の天気が見えた。

それが、いつの間にか、ぜんぶ画面の向こうの数字に置き換わっていた。

先月、また深夜にアラートで叩き起こされて、原因を潰して、朝になって、ふと思った。このままだと、僕は次の十年も、同じ画面の前で、同じ顔でアラートを潰している。それが、どうしようもなく怖くなった。

衝動で、十年ぶりの登山靴を買った。有給を四日まとめて取って、北アルプスの稜線を歩く計画を立てた。一人で。

ガスの中、岩場をひとつ越えると、ふいに視界が開けた。

稜線の鞍部に、ひっそりと、木造の小屋が建っていた。緑色の屋根。煙突から、薄く煙が立っている。掲げられた古い看板に、「稜雲荘(りょううんそう)」とあった。

引き戸を開けると、土間に、薪ストーブの暖かさと、味噌汁の匂いが満ちていた。

美山澪「いらっしゃい。……今日、お客さん、あなたで最後かもしれません」

受付の小窓から、女性が顔を上げた。日に焼けた、健康そうな肌。後ろで束ねた髪。フリースの袖をまくった腕は、細いのに、芯のある筋肉がついていた。年は、たぶん、僕と同じくらい。

久野透「最後、っていうと……」

美山澪「台風、来てるの、知ってます?」

彼女は、壁に貼られた天気図を、顎で指した。等圧線が、南の海上で、ぐるりと渦を巻いている。

美山澪「直撃は逸れそうだけど、崩れた前線が、明日の昼から夜にかけて、この稜線を舐めていきます。風、たぶん二十メートル超える。……明日は、誰も登ってこないし、誰も、危なくて下ろせない」

淡々と、でも、確信のこもった声だった。彼女は、宿帳を僕の前に滑らせた。

美山澪「美山澪(みやま みお)。今、この小屋、私一人で番してます。オーナー夫婦、ふもとに荷出しで降りてて。……ようこそ、風待ちの小屋へ」

1. ただ一人の客

夕方になると、彼女の言ったとおりになった。

先に着いていた数組の宿泊客は、無線で届く悪化予報を聞いて、まだ明るいうちに、次々と下の小屋へ向けて発っていった。残ったのは、僕だけだった。

美山澪「ほんとに、貸し切りになっちゃいましたね。……怖いですか? こんな稜線で、女一人と、二人きり」

久野透「いや。……むしろ、申し訳ないくらいです。僕のために、店、開けてもらってるみたいで」

美山澪「ふふ。山小屋に、定休日はないので」

夕飯は、囲炉裏を切った板の間で出してくれた。湯気の立つ味噌汁。山で揚げたとは思えない、さくさくの天ぷら。炊きたての米。標高二千八百メートルで、こんな飯が食えるとは思わなかった。

久野透「……うまい。本当に、びっくりするくらい」

美山澪「水が違うんですよ。雪解けの、いちばんいい水だから」

澪さんは、向かいに座って、自分の分の茶を啜った。窓の外は、もう、ガスで真っ白だった。

美山澪「久野さん、一人で来たんですよね。……山、長いんですか」

久野透「いや、十年ぶりです。学生のとき以来で。……正直、足、笑ってます」

美山澪「十年。……なんで、また?」

僕は、少し迷ってから、正直に言った。

久野透「空を、見なくなってたんです。仕事で、ずっと画面ばっかり見てて。天気予報も、傘がいるかどうかしか、見てなくて。……このままじゃ、まずいなって、急に怖くなって」

澪さんは、湯呑みを両手で包んだまま、じっと僕を見ていた。それから、ふっと、目元をやわらげた。

美山澪「……わかる気がします。私も、似たような理由で、ここに来たので」

外で、風が、ひゅう、と稜線を鳴らした。

2. ランプの夜

消灯は八時。発電機が止まると、小屋は、本物の闇に沈んだ。

澪さんが、ランプに火を入れた。芯に灯った小さな炎が、板の間の壁に、ふたつの影を、ゆらゆらと揺らした。

美山澪「電気、贅沢に使えないんです。発電機の燃料も、ぜんぶヘリで荷揚げだから。……でも、私、このランプの時間が、いちばん好きで」

久野透「……いいですね。なんか、時間が、ゆっくり流れてる」

美山澪「下界の何倍も、ゆっくりですよ。ここ」

彼女は、ストーブに薪を一本くべて、それから、自分の話を始めた。

美山澪「私、東京で、看護師してたんです。救急の。……忙しいとか、そういうの通り越して、もう、人の生き死にに、心が動かなくなってきて。これは、まずいなって」

久野透「……それで、山に?」

美山澪「もともと、山が好きだったんです。休みのたびに登ってて。ある夏、この小屋に泊まって……オーナーに、人手が足りないって、半分冗談で言われて。気づいたら、白衣脱いで、こっちに来てました」

ランプの炎が、彼女の横顔を、橙色に縁取っていた。

美山澪「もう、五年目です。下界の人には、もったいないって言われるけど。……私、ここで、やっと息ができるようになったので」

僕は、味噌汁の最後の一口の温かさを、まだ手のひらに覚えていた。この人が、毎日、この稜線で、誰かのために火を焚いて、飯を炊いている。そのことが、なぜか、胸にしみた。

久野透「……僕、今日、この小屋に着いて、煙突の煙を見たとき。ちょっと、泣きそうになったんです」

美山澪「えっ」

久野透「こんな何もない稜線に、火を焚いて待っててくれる人がいるんだって。……それだけで」

澪さんが、息を呑んで、それから、照れたように笑った。

美山澪「……変な人。でも、そういうの、小屋番冥利に尽きます」

ランプの炎が、ぱち、と小さく爆ぜた。

3. 風待ちの一日

翌朝、目を覚ますと、世界は、灰色の中にあった。

ガスが、稜線を、ものすごい速さで流れていく。窓を打つ雨。風が、小屋全体を、ぎしぎしと揺らした。澪さんの言ったとおり、誰も登ってこなかったし、誰も、ここからは動けなかった。

美山澪「停滞、確定ですね。……退屈でしょう。ごめんなさい」

久野透「いや。……何か、手伝えること、ないですか。じっとしてるの、性に合わなくて」

澪さんは、ちょっと驚いた顔をして、それから、にっと笑った。

美山澪「……じゃあ、お言葉に甘えて。山小屋の仕事、舐めたら、後悔しますよ?」

その日、僕は、彼女に連れ回された。雨合羽を着て、小屋の裏手の水源から、ポリタンクで水を運んだ。風で飛ばされかけた物干しを直した。薪を割って、ストーブの脇に積み上げた。ヘリで上がった食材を、貯蔵庫に運び込んだ。

どれも、重くて、地味で、終わりがなかった。だけど、不思議と、疲れが心地よかった。アラートに追われる疲れとは、まるで違う種類の疲れだった。

美山澪「久野さん、薪割り、うまいですね」

久野透「学生のとき、散々やらされたんで。体が、覚えてました」

美山澪「ふふ。……手のマメ、潰れてますよ。見せて」

雨宿りの軒下で、彼女が、僕の手を取った。冷たい指が、僕の手のひらの、潰れたマメに触れた。

美山澪「……これ、絆創膏、貼りましょう。救急、得意なので」

俯いて手当てをする彼女の、束ねた髪のうなじが、すぐ目の前にあった。雨と、薪の匂い。心臓が、少し速くなった。

久野透「……ありがとう、ございます」

美山澪「……どういたしまして」

顔を上げた彼女と、目が合った。一瞬、二人とも、何も言えなくなった。風の音だけが、軒下を吹き抜けていった。

4. 空を読む

午後、雨が小止みになった頃、澪さんは、僕を小屋の前の岩に座らせた。

美山澪「久野さん。空、見たくて来たんですよね。……じゃあ、読み方、教えます」

彼女は、流れていくガスの切れ間を、指差した。

美山澪「あの雲、見てください。今、西から東に、すごい速さで流れてるでしょう。上空の風が、強い証拠。……でも、ちょっとずつ、流れる向きが、北寄りに変わってきてる」

久野透「……ほんとだ。さっきまで、もっと真横だった」

美山澪「前線が、抜けかけてるんです。風向きが変われば、天気は変わる。……たぶん、今夜遅くには、ガスが切れます」

僕は、彼女の指の先の、灰色の空を、じっと見つめた。十年前、確かに僕も、こうやって空を読んでいた。その感覚が、指先から、ゆっくり戻ってくる気がした。

美山澪「ほら、風の匂い。さっきまで、雨の匂いだったでしょう。今、ちょっと、土っぽくなってきた。乾いた空気が、入ってきてる証拠」

久野透「……すごい。澪さん、ほんとに、空が読めるんだ」

美山澪「五年いれば、誰でも。……ここは、空と風しか、相手がいないので」

彼女は、稜線の彼方を見つめたまま、続けた。

美山澪「明日の朝。……たぶん、晴れます。前線が抜けて、移動性高気圧が、いったん張り出す。久野さんが来た甲斐があるくらい、いいご来光が、見られると思う」

久野透「……ほんとですか」

美山澪「私の予報、外したこと、あんまりないですよ」

いたずらっぽく笑う横顔を、ガスの切れ間の、淡い光が照らした。僕は、この人と、この稜線で、もっと長く空を読んでいたい、と思っている自分に気づいた。

5. 下りていく背中

夕方近く、風が少し収まった頃、下の小屋から、無線が入った。

ベテランらしい登山者が一人、強引に登ってきていて、稜雲荘で一晩やり過ごしたい、という連絡だった。やがて、ずぶ濡れの雨具を着た、白髪の男性が、土間に転がり込んできた。

坂本さん「いやあ、参った参った。……澪ちゃん、すまんね。この風で、登ってくる馬鹿は、わしくらいだ」

美山澪「坂本さん! もう。無理しすぎですよ」

常連の、坂本さんという人らしかった。年に何度も、この小屋に通っているのだという。彼は、僕を見て、それから、澪さんを見て、にやりと笑った。

坂本さん「ん? 客、あんた一人かい。……ほう。澪ちゃんと、二人きりで、一日?」

久野透「あ、いや、手伝いを、少し」

坂本さん「ふふ。……澪ちゃんがな、人に手伝いを頼むなんざ、珍しいんだよ。なあ?」

美山澪「坂本さん、よけいなこと、言わないでください」

赤くなった澪さんを見て、坂本さんは、からからと笑った。その夜、三人で囲炉裏を囲み、坂本さんの山の昔話を、たっぷり聞いた。

翌朝、まだ暗いうちに、坂本さんは発っていった。風はまだ残っていたが、彼は慣れた足取りで、稜線を下りはじめた。見送る僕たちに、彼は振り返って、片手を上げた。

坂本さん「久野さん、だったかね。……山の縁ってのは、馬鹿にできんよ。こんな何もない稜線で、二人きりになるなんざ、そうそうない。……大事にしな」

その言葉を残して、白髪の背中は、ガスの中に、すうっと消えていった。あとには、また、僕と澪さんの、二人きりが残された。

6. ガスの晴れる夜

坂本さんの予言どおり――いや、澪さんの予報どおり、夜になると、ガスが切れ始めた。

夕食のあと、澪さんが、そわそわと窓の外を見て、それから、僕の腕を引いた。

美山澪「久野さん、来て。……外、出ましょう。今のうち」

防寒着を着込んで、小屋の外に出た。その瞬間、僕は、声を失った。

雲が、足元にあった。

稜線の下、谷という谷を、雲海が埋め尽くしていた。そして、頭上には――降ってきそうなほどの、星。天の川が、稜線の端から端まで、くっきりと、銀の帯になって架かっていた。

久野透「……うわ」

美山澪「ね。……これが、見せたかったんです。風待ちの、ごほうび」

二人で、冷たい岩に並んで腰を下ろした。吐く息が、白い。澪さんの肩が、すぐ隣にあった。

美山澪「私、下界にいた頃、星なんて、一回も見上げなかった。……今は、毎晩、見てます。同じ空なのに、ぜんぜん違う」

久野透「……僕も。今日、十年ぶりに、ちゃんと空を見た気がします。澪さんのおかげで」

彼女が、こっちを見た。星明かりが、その瞳に、小さく映っていた。

美山澪「……久野さん。明日、晴れたら。ご来光、見たら。……下りちゃうんですよね」

久野透「……一応、明後日には、仕事に戻らないと」

美山澪「……ですよね」

少し、沈黙。澪さんが、膝の上で、手をきゅっと握った。

美山澪「……山小屋の番をしてると、たくさんの人が、通り過ぎていくんです。一晩泊まって、朝には、いなくなる。……それに、慣れてたつもりだったのに」

彼女は、俯いて、小さな声で言った。

美山澪「……久野さんが下りるの、いやだなって、思っちゃって。困ってます」

僕は、もう、我慢できなかった。冷たくなった彼女の頬に、そっと手を添えた。

久野透「……僕も、同じです。澪さん」

澪さんが、ゆっくり、目を閉じた。僕は、その唇に、自分の唇を重ねた。

ちゅ……。

星の冷たい夜気の中で、唇だけが、温かかった。

美山澪「……ん♡」

触れるだけのキスから、少しずつ深く。澪さんの手が、僕の防寒着の胸を、きゅっと掴んだ。

美山澪「……久野さん♡」

久野透「透、でいいです」

美山澪「……透、さん♡」

潤んだ瞳で、彼女が見上げた。

美山澪「……寒い♡ ……中、入りましょう♡」

7. 屋根裏の灯り

小屋の本棟の裏手に、小さな別棟があった。小屋番が寝起きする、スタッフ用の小屋だという。

美山澪「ここ、私の部屋なんです。……お客さんを上げるの、初めて」

梯子を登った先は、三角屋根の、こぢんまりとした屋根裏だった。小さな天窓から、星が見える。澪さんが、ランプに火を入れると、橙色の灯りが、寝袋を敷いた板の間を、やわらかく照らした。

美山澪「……あんまり、見ないでくださいね。狭くて、恥ずかしいから♡」

久野透「……あったかい。いい部屋だ」

向き合って座ると、もう、距離はなかった。また、唇を重ねた。今度は、もっと深く。舌先で唇をなぞると、澪さんの口が、そっと開いた。

ちゅ……んちゅ……れろ……♡

美山澪「ふ……ぁ……♡」

腰に腕を回して、引き寄せる。フリース越しに、彼女の体温と、速い鼓動が伝わってきた。

美山澪「……透さんの心臓、すごい音♡」

久野透「澪さんもだろ」

美山澪「……ばれた♡」

くすっと笑う唇を、もう一度ふさいだ。寝袋の上にゆっくり倒れ込んで、フリースのジッパーを、ゆっくり下ろしていく。下に着た薄手のシャツのボタンを、ひとつずつ外した。

久野透「脱がせて、いい?」

美山澪「……うん♡」

シャツを開くと、日に焼けた肌と、白いスポーツブラの境目が現れた。ブラをずらすと、想像よりずっと白い、形のいい胸が、ふるりとこぼれ出た。先端は、淡い桜色。

久野透「……綺麗だ」

美山澪「……山焼けの跡、ありますよ♡ 恥ずかしい♡」

胸を隠そうとする手を、そっとどける。右手で、包むように触れた。

ふにっ。

美山澪「あっ……♡」

手のひらに吸い付くような、柔らかさ。指を沈めると、むにっと形を変える。親指で、先端をくりっと転がした。

美山澪「ひゃっ♡♡」

びくん、と肩が跳ねる。もう小さく硬くなった先端が、指先に伝わった。

くりくり……くりくり……♡

美山澪「あっ♡ あん♡♡ 透さんっ……♡♡」

唇を、先端に落とす。ちゅっ。

美山澪「ひぅっ♡♡♡」

舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。

ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡

美山澪「やっ♡♡ 声、出ちゃう……♡♡ 外まで、聞こえちゃう♡♡」

久野透「いいよ。ここ、風しか聞いてない」

美山澪「むりぃ♡♡ 透さんの舌、気持ちよすぎて♡♡」

交互に舌を這わせて、たっぷりと味わった。澪さんの肌が、うっすら汗ばんでくる。

8. 二人だけの稜線で

久野透「下も、脱がすよ」

美山澪「……うん♡」

登山用のパンツのボタンを外して、下着ごと、ゆっくり脱がせていく。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。

久野透「……もう、濡れてる」

美山澪「やっ♡ 言わないで……♡ 星、見てたときから、ずっと……♡♡」

指先で、そっとなぞる。

くちゅ……。

美山澪「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」

びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹でくるくると円を描く。

くり……くり……♡

美山澪「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」

久野透「だめじゃないだろ。気持ちいいんだろ?」

美山澪「だってっ♡ おかしくなっちゃう♡♡」

蜜をかき回しながら、中指を、ゆっくり沈めた。

ずぷ……♡

美山澪「あああっ♡♡♡」

熱い。きつい。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、親指で突起を同時に刺激した。

ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡

美山澪「あっあっあっ♡♡♡ 透さんっ……すごいっ♡♡♡」

指を曲げて、上側の壁をぐっと押す。澪さんの体が、びくびくと跳ね始めた。

美山澪「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」

指の動きを速める。

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡

美山澪「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」

びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡

澪さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。

美山澪「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの……♡♡」

潤んだ瞳で、澪さんが身を起こした。まだ余韻で震えているのに、真っ赤な顔で、いたずらっぽく笑う。

美山澪「……今度は、私の番♡」

僕のベルトに手を伸ばす。下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。澪さんが、息を呑む。

美山澪「……おっきい♡♡」

顔を近づけて、先端を舌先で、ちろっと舐めた。

美山澪「ん……♡」

ちゅっ、とキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。温かく濡れた口の中。舌が、裏筋をなぞる。

美山澪「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」

ゆっくり頭を上下させる。束ねていた髪がほどけて、さらりと太ももをくすぐった。上目遣いの、潤んだ瞳。

久野透「澪さん……やばい、気持ちよすぎ」

美山澪「んふ♡ もっと、してあげる♡♡」

ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡

頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に電流が走った。

久野透「待って、それ以上は……イっちゃう」

ぷはっ、と口を離す。唇が、唾液でてらてらと光っていた。

美山澪「……ねえ、透さん♡」

久野透「ん?」

美山澪「……もう、ひとつになりたい♡」

9. ひとつになる

ザックの内ポケットから、コンドームを取り出す。

美山澪「……持ってきてたんだ?」

久野透「いや、これは、その……お守りみたいなもので」

美山澪「ふふ♡ いいよ、責めてない♡ ……つけて♡」

手早く装着して、澪さんを寝袋の上に仰向けにした。天窓から差し込む星明かりに、白い裸体が、淡く青く輝いている。脚の間に体を滑り込ませて、先端を入り口にあてがった。

ぬちゅ……♡

久野透「入れるよ、澪さん」

美山澪「うん♡ 来て……♡♡」

ゆっくり、腰を進める。

ずぷ……ずぷぷ……♡♡

美山澪「あぁっ♡♡♡ 入って、くるぅ♡♡♡」

きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。

ずぷん♡♡

美山澪「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ 奥まで、来てる……♡♡♡」

久野透「動くよ」

ゆっくり腰を引いて、また押し込む。

ずるっ……ずぷんっ♡♡

美山澪「ああっ♡♡♡」

リズミカルに、打ちつけ始める。屋根を叩く残りの風の音に、肌のぶつかる音が重なった。

パンッ……パンッ……♡♡

美山澪「あっあっあっ♡♡♡ 透さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」

澪さんが、僕の背中にしがみついてくる。

美山澪「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」

脚が、僕の腰に絡みついた。もっと奥を求めて。角度を変えて、突き上げる。

パンパンパンッ♡♡♡

ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡

美山澪「そこぉっ♡♡♡♡ 声、出ちゃうっ♡♡♡」

久野透「いいよ。聞かせて」

美山澪「やだぁっ♡♡ でも、止まんないっ♡♡♡」

結合部から、卑猥な水音が溢れた。稜線を渡る風が、それを優しく隠してくれる。

パンパンパンパンッ♡♡♡♡

美山澪「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」

久野透「俺も、もう……っ」

美山澪「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこっ……♡♡♡♡」

澪さんが、背中に両腕を回してしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。

美山澪「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」

久野透「イく……っ!」

どくんっ、どくっ、どくっ……!

美山澪「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」

澪さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。

びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡

美山澪「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」

抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。天窓の向こうで、星が、ずっと静かに瞬いていた。

10. ご来光

カーテンも何もない天窓が、うっすらと白んできて、目が覚めた。

澪さんは、まだ僕の腕の中で眠っている。ほどけた髪が頬にかかって、寝顔が、とんでもなく無防備で可愛い。

すぅ……すぅ……。

久野透(……夢じゃ、なかった)

そっと身を起こして、天窓の外を見上げる。空は、雲ひとつなく、東の端だけが、淡い橙色に染まり始めていた。澪さんの予報どおり、見事に晴れていた。

美山澪「ん……♡ 透さん……?」

澪さんが目を覚ました。寝起きの、少しかすれた声。それから、はっと、外の明るさに気づいて、飛び起きた。

美山澪「……来る! 透さん、ご来光! 早く!」

防寒着を引っかけて、二人で梯子を駆け降り、小屋の前の岩場に出た。

息が、止まった。

足元には、昨夜より深く、谷を埋め尽くす雲海。そのはるか向こう、雲の海の縁が、燃えるような金色に輝いている。やがて――その一点から、太陽が、ぬっと、顔を出した。

雲海ぜんたいが、いっせいに、薔薇色に染まった。稜線の岩が、僕たちの体が、金色の光に、縁取られていく。

久野透「……すごい」

美山澪「でしょう。……これが、見せたかったんです。風待ちの、ほんとうのごほうび」

二人で、肩を寄せて、登ってくる太陽を見つめた。澪さんの横顔が、朝日に染まって、赤いのか、照れているのか、わからなかった。僕は、昨夜からずっと考えていたことを、口にした。

久野透「澪さん。……旅先の出会いで、終わらせたくないんだ、僕」

美山澪「……え」

久野透「澪さんは、この稜線から、簡単には下りられない。それはわかってます。……でも、僕が、登ってくる。何度でも」

澪さんの目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、朝日を弾いて、ぽろっと一粒こぼれた。

美山澪「……いいん、ですか? 私、夏のあいだ、ほとんど、ここから動けないのに」

久野透「下りてこなくていい。僕が来る。……それに」

僕は、彼女の、薪と水で荒れた手を、両手で握った。

久野透「僕、空の読み方、まだ、ぜんぜん未熟なんで。……先生に、また、教わりに来ないと」

澪さんが、笑いながら、泣いていた。

美山澪「……もう。なにそれ♡」

久野透「……付き合ってくれますか。山の上の、僕の天気予報士さん」

美山澪「……はい♡ 今日から、恋人ですね♡」

澪さんが背伸びして、僕の唇に、ちゅっと軽くキスをした。雲海の向こうの太陽が、二人を、まぶしく照らしていた。

朝飯を食べて、装備を整えると、下山の時間になった。風は、すっかり凪いでいた。

美山澪「気をつけて、下りてくださいね。膝、笑ってるんだから」

久野透「はい、先生」

美山澪「もう♡」

小屋の前で、澪さんが見送ってくれた。緑色の屋根を背に、エプロン姿で、片手を振っている。

歩き出してから、僕は、何度も振り返った。何もない稜線に、ぽつんと建つ、煙突から煙を上げる小さな小屋。そこで、毎日、誰かのために火を焚いている人が――今、僕の恋人だ。

アラートに追われて、空を見上げる暇もなくして。十年ぶりに、衝動で飛び込んだ、台風接近の稜線。その風待ちの小屋で、ただ一人の客になった僕に、風と雲の読み方を教えてくれた人。

岩場をひとつ下って、最後にもう一度振り返ると、稜雲荘の緑の屋根が、抜けるような夏の青空の下で、小さく光っていた。

次に登ってくるときには、僕も、少しは空が読めるようになっていたい。そう思いながら、僕は、雲海の晴れていく谷へ向かって、一歩ずつ、下りていった。

― 終 ―


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