僕、結城拓実、29歳。 都内のIT企業で、スマホアプリのUIデザインを描いて食っている。
ボタンの角を何ピクセル丸めるか。背景を #F7F7F8 にするか #F5F6F8 にするか。
そういう、コンマ以下みたいな判断を、一日中くり返す仕事だ。
最初は好きだった。色で人の気持ちが動くのが、面白かった。 でも、いつからか、色が「数値」にしか見えなくなった。
青を見ても、青だと感じない。
頭のなかで勝手に #1E6FFF みたいなコードに変換されて、それで終わる。
夕焼けを見ても、「彩度高めのオレンジ、たぶん #FF7A3C 近辺」としか思えない。
そんな自分に、薄ら寒くなっていた頃だった。 家賃の更新を機に、僕は引っ越しを決めた。 ネットでたまたま見つけたのが、その物件だった。
「元・呉服屋を改装したシェアハウス。残り一室。土間あり」。
写真には、黒光りする太い梁と、ひんやりした土間が写っていた。 家賃は、都心の今の部屋の半分以下。 内見の連絡を入れると、管理人だという男性が出てきた。
「ここね、昔は反物を扱う呉服屋だったんですよ。だから一階に、染め物ができる土間が残ってる」
「染め物、ですか」
「ええ。今、その土間を使ってる住人がいてね。まあ、会えばわかります」
管理人の沢田さんは、人のよさそうな笑い方をして、それ以上は言わなかった。 土間も梁も気に入った僕は、その日のうちに申し込んだ。
色が数値にしか見えない男が、染め物のある家に越す。 そのことの皮肉に、僕はまだ気づいていなかった。
引っ越しの朝は、梅雨入り前の、湿った曇り空だった。
段ボールを抱えて格子戸を開けると、家の奥――土間のほうから、つんとした匂いがした。 発酵したような、土のような、嗅いだことのない匂い。
土間を覗くと、そこに女性がいた。
腰までの高さの、大きな甕がいくつも床に埋まっている。 その一つに、彼女は腕を肘まで突っ込んで、長い棒で中をゆっくりかき混ぜていた。
藍色の作務衣。手ぬぐいで無造作にまとめた髪。 指先も、爪も、手の甲も、濃い藍色に染まっている。 顔を上げた彼女は、僕と目が合うと、にっと笑った。
「あ、新しい人だ。沢田さんから聞いてる。今日からでしょ」
「はい、結城です。よろしくお願いします」
「青井美緒。染織やってる。……ねえ、いきなりで悪いんだけど」
「は、はい」
「そこの窓、開けてくれない? 手が藍で塞がってて。換気しないと、私が酔うの」
僕は慌てて窓を開けた。 湿った風が入って、つんとした匂いが少しやわらぐ。 彼女は「ありがと、助かった」と言って、また甕をかき混ぜ始めた。
「その甕、何が入ってるんですか」
「藍。生きてる藍だよ」
「……生きてる?」
「うん。発酵させて建ててる。菌が生きてるの。だから毎朝、機嫌うかがってかき混ぜて、餌やって。半分、ペットみたいなもん」
藍が、生きている。 ペットみたいなもの。 色を数値としか思えなくなった僕には、その言い方が、ひどく遠いものに聞こえた。
シェアハウスの生活は、思っていたより静かだった。
住人は、僕と美緒さんを入れて四人。 あとの二人は出張がちで、平日はほとんど顔を合わせない。
つまり、家にいるとき、たいてい一階の土間には美緒さんがいた。
彼女の朝は、僕より早い。 僕が寝ぼけ眼でキッチンに降りていく頃には、もう土間で甕をかき混ぜている。
「おはよ。今日、藍の機嫌いいよ」
「……機嫌、わかるんですか」
「わかるよ。泡の立ち方と、匂いと、色。今日は『藍の華』ってやつがきれいに立ってる。調子いい証拠」
甕の表面に、青紫の泡が、こんもりと盛り上がっていた。 彼女がそれを「華」と呼ぶのが、僕には不思議だった。
ある朝、僕がいつものように通り過ぎようとすると、彼女が呼び止めた。
「ねえ、結城くん。手、空いてる? ちょっと持ってて」
差し出されたのは、白い木綿のハンカチだった。 言われるまま隅を持つと、彼女がもう片方を持って、二人でぴんと張る。
「あんた、色の仕事してるんだって? 沢田さんが言ってた」
「……まあ、一応。アプリの画面のデザインです。色も、選びますけど」
「ふうん。じゃあ、ちょうどいい。これ、染めてみる?」
「え、僕がですか」
「減るもんじゃなし。いいから」
有無を言わさず、僕は白いハンカチを甕の前に立たされた。
「いい? 藍はね、染めた瞬間は青くないの」
「青くない?」
「やってみればわかる。布、ぜんぶ濡らして。空気抜くように、優しく沈めて」
言われるまま、白い布を甕に沈める。 ぬるりとした、生あたたかい液体。手の甲まで、緑がかった黄土色に染まる。
「……これ、緑じゃないですか。青じゃなくて」
「そう。引き上げてみ。空気に触れさせて」
ゆっくり引き上げる。 布は、くすんだ黄緑色だった。失敗したのかと思った。
ところが。
空気に触れたそばから、布の色が、みるみる変わっていく。 黄緑が、緑になり、青緑になり、やがて――深い、澄んだ青に。
「……え」
「でしょ」
「変わった。色が、勝手に」
「酸化。空気と反応して青くなるの。藍が呼吸してるみたいでしょ」
僕は、息を呑んだまま、その布を見ていた。
#1E6FFF でも、#2A5CAA でもない。
名前のつけようがない、深い青。
数値に変換しようとして――できなかった。
こんな青、カラーピッカーのどこにもなかった。
「……これ、すごいですね」
「ふふ。いい顔するじゃん」
「いい顔?」
「色見て、ちゃんと驚いた顔。色の仕事してる人が、案外そういう顔しないんだよ」
図星だった。 僕はもう、ずっと、色を見て驚いたことなんてなかった。 ぽたぽたと藍の雫を落とす青い布が、なぜか、目に染みた。
それからの僕は、朝が少しだけ、楽しみになった。
出社前、土間に寄って、藍の華の立ち方を覗く。 美緒さんが「今日は寝ぼけてる」とか「今日は元気」とか言うのを聞く。 それだけのことが、灰色の通勤の前の、小さな儀式になった。
夜、残業で帰っても、土間にはたいてい明かりがついていた。
「まだ起きてるんですか」
「藍は待ってくれないからね。夜のうちに、ひと仕事」
「……大変ですね」
「好きでやってるから。座れば? お茶あるよ」
僕は缶ビールを持って、土間の上がり框に腰かけるようになった。 彼女は染めの手を動かしながら、よく喋った。
「結城くんさ、最初に会ったとき、死んだ魚みたいな目してたよ」
「ひどい言い方だな……」
「でも、ほんとだもん。色の仕事なのに、色に飽きた人の目」
「……わかります?」
「わかるよ。私も、一回そうなったから」
棒を回す手が、ふと止まった。
「染めの学校出て、就職して、毎日同じ色をマニュアル通りに染める仕事してた。色番号で管理されてさ。そのうち、藍が嫌いになった」
「藍が、嫌いに」
「うん。だから辞めて、ここで一から、自分で藍を建てるとこから始めたの。生きてる藍と、毎日喧嘩して。そしたら、また好きになれた」
藍色に染まった指で、彼女は甕のふちをなでた。 それは、機械の数値じゃなく、生き物に触れる手つきだった。
「結城くんも、たぶん、色が嫌いになったわけじゃないよ。数えるのに、疲れただけ」
数えるのに、疲れただけ。 その一言が、なぜか、ずっと胸に残った。
梅雨の晴れ間の、ある日曜日。
「結城くん、暇? 染めた布、川ですすぎに行くんだけど。荷物持ち、いない?」
「……それ、誘い方が雑すぎませんか」
「来るの? 来ないの?」
「行きます。行けばいいんでしょう」
僕たちは、染め上がった布を抱えて、近所を流れる小さな川へ行った。
浅瀬に布を浸して、ゆらゆらと揺らす。 余分な藍が溶け出して、水のなかに、青い帯がたなびく。 それが日差しを受けて、きらきらと光った。
「……きれいだ」
「でしょ。川に晒すと、色が締まるの」
「青井さん、楽しそうですね。仕事してるとき」
「美緒でいいよ。青井さんって呼ばれると、染めの先生に戻った気分になる」
「……美緒さん」
「うん」
川風に、彼女の手ぬぐいがほどけて、髪が肩に落ちた。 作務衣の襟元から覗く首筋に、ひと筋、藍の染みがついている。 それを、なぜだか、ずっと見ていたくなった。
布を干す竿のあいだに、青い布が何枚も並んではためく。 そのうちの一枚――最初に僕が染めたハンカチを見つけて、美緒さんが笑った。
「これ、結城くんの初染め。ヘタクソだけど、悪くない青でしょ」
「……記念に、もらっていいですか」
「いいよ。一枚目は、自分で持っときな」
夕暮れの川辺で、僕は青いハンカチをポケットにしまった。 帰り道、二人分の濡れた布のかごを、僕が持った。 並んで歩く影が、長く伸びていた。
本格的な梅雨に入って、長雨が続いた、ある夜のことだった。
帰宅すると、土間の明かりはついているのに、いつもの彼女の声がしなかった。 覗くと、美緒さんが甕の前にしゃがみ込んで、じっと中を見つめていた。
「美緒さん、どうしたんですか」
「……藍が、弱ってる」
「弱ってる?」
「この長雨と、気温の下がりで、発酵が鈍っちゃった。華が立たない。色も、にごってる」
いつも明るい彼女の声が、めずらしく沈んでいた。
「来週、個展なの。半年がかりで準備した、初めての個展。そのための布を、あと何枚も染めなきゃいけないのに」
「藍が、戻らないと染められない、と」
「うん。……生きてるから。私の都合じゃ動いてくれない」
膝を抱えて、彼女は甕を見つめていた。 藍と毎日喧嘩して、また好きになった、と笑っていた人の、初めて見る背中だった。
僕は、隣にしゃがんだ。
「僕にできること、ありますか。素人だけど」
「……無理だよ。これは、私がなんとかするしかない」
「じゃあ、なんとかするのを、隣で見てます。一人より、二人のほうが、藍も寂しくないでしょう」
美緒さんが、ふっと顔を上げた。 泣きそうな、でも、少しほどけた顔をしていた。
「……変なこと言うね、結城くん」
「色のことしか取り柄がないんで。あと、夜更かしは得意です」
彼女が、小さく吹き出した。 それから、僕たちは夜通し、藍の世話をした。 甕を温めて、餌を足して、何度もかき混ぜて。彼女が手順を教え、僕が手を動かした。
明け方近く。
「……あ」
「どうしました」
「華、立ってきた。見て」
甕の表面に、ぽつ、ぽつと、青紫の泡が浮かび始めた。 それがゆっくり、こんもりと盛り上がっていく。
「戻った……。よかった。生き返った」
「……間に合いそうですか」
「うん。これなら、いける」
美緒さんが、心底ほっとした顔で、甕に向かって「ごめんね」とつぶやいた。 そして、藍に染まった手の甲で、目元をぐいと拭った。
「結城くん。ありがと。……ほんとに、助かった」
「僕は、ただ隣にいただけですよ」
「それが、よかったの」
そう言って、彼女が僕を見た。 明け方の薄明かりのなかで、その目が、潤んで光っていた。
藍の匂いと、彼女の体温が、すぐ隣にあった。 気づくと、僕たちは、ずいぶん近い距離で見つめ合っていた。
「……ねえ、結城くん」
「はい」
「私さ、たぶん、あんたが越してきた朝から……ちょっと、好きだったかも」
「……それ、今、言います?」
「藍が生き返って、気が緩んだの。文句ある?」
僕は、首を横に振った。 そして、藍に染まった彼女の手を、そっと両手で包んだ。
「僕もです。色が、また見えるようになったの、美緒さんのせいだ」
「せいって。ひどい言い方」
「おかげ、です。……ぜんぶ、あなたのおかげ」
どちらからともなく、顔を寄せた。
唇が、触れる。
ちゅ……
藍の匂いがする、やわらかいキス。 触れるだけで一度離れて、目を合わせて、もう一度。
ちゅっ……んっ……
「ん……♡」
二度目は、深く重ねた。 彼女の背中に手を回すと、作務衣ごしに、細い身体がふるりと震えた。 舌を絡めると、美緒さんの腕が、僕の首にそっと巻きついてくる。
れろ……ちゅるっ……
「はぁ……っ♡ 結城くん……」
「拓実、でいいです。先生に戻られると困るんで」
「……拓実♡」
名前を呼ばれただけで、頭の奥が痺れた。 明け方の土間で、藍甕のそばで、僕たちは何度も唇を重ねた。 やがて、美緒さんが、僕の胸に額を押しつけて、小さく囁いた。
「……ここ、寒い。私の部屋、来て?」
僕は黙って頷いた。 藍に染まった彼女の手が、僕の手を引いて、奥の作業部屋へと歩き出す。 その手が、ほんの少し、震えていた。
美緒さんの部屋は、作業場と続きの、畳の和室だった。 壁には染め上がった布が何枚も掛かって、ほのかに藍が香っている。 窓の外は、まだ薄青い、夜明け前の色だった。
襖を閉めた瞬間、僕は彼女を抱き寄せた。
「あっ……♡」
もう一度キスをして、ゆっくり畳に座らせる。 夜明けの光に浮かぶ美緒さんは、いつもの快活な人とは別人みたいに、無防備で色っぽかった。
「美緒さん、きれいだ」
「……手、藍だらけだよ。爪も染まってるし」
「その手が、いちばんきれいです」
「……もう♡ そういうこと、さらっと言うんだから」
作務衣の帯に、手をかける。 しゅるりとほどくと、合わせがはだけて、白い肌と、藍色の下着が覗いた。
「あんまり……見ないで♡ 恥ずかしい」
「無理です。きれいすぎて」
作務衣を肩から落とすと、彼女の身体が露わになった。 ほっそりとした肩。思っていたよりずっと豊かな胸が、藍色のブラに包まれて揺れている。
ホックを外す。ぷつん。 形のいい胸がこぼれて、先端が、もうつんと尖っていた。
「やっ……見つめないで♡」
「きれいだから、無理です」
そっと両手で包む。 ふにっ……
「んっ……♡」
手のひらに、やわらかい弾力が伝わる。 ゆっくり揉みながら、先端を指でつまんだ。 こりっ……こりこりっ……
「ひゃっ……♡♡ そこっ……♡」
びくんと、彼女の身体が跳ねる。 左を指で転がしながら、右に口を寄せた。 ちゅっ……れろ……ちゅぱっ……
「んあっ♡♡ だめっ……♡ 声、出ちゃう……♡♡」
藍を建てるときの凛とした声が、甘く裏返っていく。 左右交互に吸いながら、空いた手でもう片方を揉みしだいた。
「はぁっ♡ あっ♡ 拓実っ……♡♡」
僕の手が、下着の腰のラインに触れる。
「下も、いいですか」
「……うん♡」
藍色のショーツに指をかけて、ゆっくり引き下ろす。 内ももが、もうじっとりと濡れていた。
「濡れてますね」
「言わないで……♡ 恥ずかしいんだから……♡」
膝をそっと開かせると、薄い茂みの下で、花弁が蜜にてらてらと光っていた。 指をそっと這わせる。くちゅ……
「ひあっ♡♡」
すじに沿って上下になぞると、蜜があふれてくる。 くちゅ……くちゅ……
「あっ♡ んっ♡ そこ……♡♡」
小さな突起を探り当てて、指先で転がした。 くりっ……くりくりっ……
「んんっ♡♡♡ それっ……♡♡ だめっ……♡」
腰がびくびくと跳ねる。 クリを刺激しながら、中指をゆっくり沈めていく。 ずぷっ……
「んああっ♡♡♡」
中は熱くて、ぬるぬるで、きゅうっと指を締めつけてきた。 ぐちゅ……ぐちゅぐちゅ……
「あっ♡ 指っ♡ 入ってる……♡♡」
指を曲げて、上の壁のざらついた場所をこする。 ぐりぐりっ……
「ひぃっ♡♡♡ そこっ♡♡ すごいっ……♡♡♡」
Gスポットをこすりながら、親指でクリも同時に弄った。
「両方はっ♡♡♡ おかしくなるっ……♡♡」
彼女の身体が、がくがくと震え始める。 お腹がぴくぴくと痙攣した。
「いくっ♡♡♡ 拓実っ♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡」
びくんっ♡♡♡♡
きゅうぅぅっと指を締めつけ、蜜がじゅわっと溢れて僕の手を濡らした。 美緒さんが、力が抜けたように畳に沈み込む。
「はぁ……♡ はぁ……♡♡」
「気持ちよかったですか」
「……うん♡♡ すごかった……♡」
息を整えた美緒さんが、ゆっくり身を起こした。 そして、潤んだ瞳で僕を見上げる。
「拓実も……気持ちよくして、あげる♡」
藍に染まった細い指が、僕のベルトに伸びた。 ズボンを下ろすと、限界まで張り詰めたものが飛び出す。
「わっ……♡♡ 大きい……♡」
藍色の指が、根元からそっと握る。きゅっ。
「すごく硬い……♡」
「美緒さんがエロすぎるんで」
「もう……♡」
ゆっくり上下に手を動かす。しゅっ……しゅっ…… 彼女が顔を近づけて、先端にちゅっとキスを落とした。
「ぴくって動いた♡ かわいい」
舌を出して、ぺろぺろと舐め始める。 れろ……ちゅるっ…… カリの部分を重点的に、裏筋を下から上へ。
「……やばい、気持ちいいです」
口を大きく開けて、ぱくっと咥え込んだ。 ずぷっ……ちゅぱっ……じゅるっ……
「んっ♡ んむっ♡ んぷっ……♡」
頭をゆっくり上下に動かす。 いつも凛と藍を建てている人が、僕のものを夢中で咥えている。 その光景だけで、頭が焼き切れそうだった。
「美緒さん、待って。このままだと出ちゃう」
口を離した美緒さんが、唾液の糸を引いて、上目遣いで見上げた。
「……拓実が、欲しい♡」
「僕もです」
美緒さんを畳に横たえて、脚のあいだに身を置く。 先端が、入り口にぬるりと触れた。たっぷりの蜜で、もうぬるぬるだ。
「ゴム、持ってきます?」
「……今日は、大丈夫な日だから♡ このまま、来て♡」
(こんなに誰かに、ぜんぶ委ねたくなるなんて)
僕はゆっくり、腰を進めた。
ずぷっ……
「ぁあああっ♡♡♡♡」
熱い。 きゅうぅっと、彼女の中が締めつけてくる。
「美緒さん、中、すごい……」
「おっきい……♡♡ 奥まで来てる……♡♡♡」
ずず……ずずずっ…… ゆっくり、最奥まで押し込んでいく。
「んんっ♡♡♡ いっぱい……♡♡♡ 届いてる……♡♡」
隙間なく、彼女に包み込まれた。 しばらくそのまま、二人で呼吸を整える。
「動きますね」
「うん……♡ ゆっくり……♡」
ずちゅっ♡ ずちゅっ♡♡
「あっ♡♡ あっ♡♡ んっ♡♡♡」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんぱんっ♡♡ リズムを作って、腰を打ちつける。
「拓実っ♡♡ 気持ちいいっ……♡♡♡」
「美緒さんの中も、めちゃくちゃ気持ちいいです」
ぱんぱんぱんっ♡♡♡ だんだん速くなっていく。 ぐちゅっ♡ ぬちゅっ♡ ぱんっ♡♡
「あんっ♡♡ 奥っ♡♡ 奥に当たるっ……♡♡♡」
いつも快活な美緒さんが、僕の下でどんどん乱れていく。 眉を寄せて、口を半開きにして、僕にしがみついてくる。
「やだっ……♡♡ 私、こんな……♡♡♡」
「かわいいです、美緒さん」
「言わないでっ♡♡♡ 恥ずかしいっ……♡♡♡♡」
「ここでは、先生じゃなくていいです」
「……っ♡♡♡ うれしいっ……♡♡♡」
美緒さんの脚が、僕の腰に巻きついた。 もっと奥へ、と求めるように。
「もっとっ♡♡ もっと強くしてっ……♡♡♡」
ぱんっぱんっぱんっぱんっ♡♡♡♡ 夜明けの和室に、肌のぶつかる音と、彼女の甘い声が満ちていく。
「声っ♡♡♡ 出ちゃうっ……♡♡♡♡」
「誰も起きてないから、大丈夫です」
「やだっ♡♡♡ でも止まらないっ……♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡
「いくっ♡♡♡♡ もうっ♡♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡♡」
「僕も……っ、美緒さん、中に出していいですか」
「出してっ♡♡♡♡ 中にっ♡♡♡♡ 全部っ……♡♡♡♡♡」
ずんっずんっずんっ♡♡♡
「イクッ♡♡♡♡♡」
「出ます……っ!」
びゅるっ♡♡ びゅるるっ♡♡♡ どくどくっ♡♡♡♡
「んんんっ♡♡♡♡♡♡」
彼女の最奥に、熱いものがどくどくと注ぎ込まれる。 美緒さんの身体がびくびくと痙攣して、きゅうぅぅっと締めつけてきた。
「はぁ……♡♡ あったかい……♡♡♡♡」
とろけた目で、美緒さんが幸せそうに微笑む。 僕はそっと、その唇にキスを落とした。
ちゅっ♡
「美緒さん、最高でした」
「……私も♡♡ すごく、よかった……♡♡♡」
繋がったまま、しばらくキスを交わす。 だけど僕の熱は、まだ収まっていなかった。 彼女の中で、もう一度硬くなっていく。
「……え♡ まだ、元気なの?♡」
「美緒さんがかわいすぎるんで」
「……もう♡♡♡」
美緒さんが、いたずらっぽく笑った。 さっきまで乱れていた人とは思えない、余裕のある笑みだ。
「じゃあ……今度は私が、上ね♡」
僕を押し倒して、繋がったまま馬乗りになる。 ずるっ……ずぷっ♡♡
「んっ♡♡♡ この体勢……奥まで入る……♡♡♡♡」
背筋を伸ばして、美緒さんが僕を見下ろした。 ほどけた髪が揺れて、夜明けの光にシルエットが浮かぶ。 作業着を脱いだ素肌のあちこちに、藍の染みが、まるで模様みたいに散っていた。
(きれいすぎる……)
腰を、ゆっくり上下に動かし始める。 ずちゅっ♡♡ ずちゅっ♡♡
「あっ♡♡ 自分で動くと……♡♡ すごいっ……♡♡♡」
動きに合わせて、胸がたゆんたゆんと揺れた。 僕は手を伸ばして、揺れる胸を下から掴む。 もにゅっ♡♡
「ひゃっ♡♡♡ 揉みながらっ♡♡♡ ずるいっ……♡♡♡♡」
美緒さんの腰の動きが、だんだん激しくなる。 気持ちいいポイントを探すように、ぐりぐりと腰を回した。
「あっ♡♡♡ ここっ♡♡♡ ここ当たるっ……♡♡♡♡」
見つけたらしい。 そこを擦りつけるように、前後に腰を振る。 ずちゅっずちゅっずちゅっ♡♡♡♡
「気持ちいいっ♡♡♡♡ 拓実のっ♡♡♡♡ 奥に届くのっ……♡♡♡♡♡」
僕の胸に両手をついて、激しく腰を打ちつける。 ぱんっぱんっぱんっ♡♡♡♡♡
「また来るっ♡♡♡♡ いっちゃうっ……♡♡♡♡♡」
「僕ももう……っ」
「一緒にっ♡♡♡♡♡ 一緒にいこっ……♡♡♡♡♡♡」
ぱんぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡♡♡
「いくっ♡♡♡♡♡♡ いくいくいくっ……♡♡♡♡♡♡♡」
「美緒さん……っ、また中に出します……!」
僕は彼女の腰をがっしり掴んで、下から深く突き上げた。 ずんっ♡♡♡♡
びゅるるっ♡♡♡♡ どくどくどくっ♡♡♡♡♡♡
「んんんんっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
二回目を、さっきよりもっと奥に注ぎ込む。 美緒さんがぶるぶる震えて、がくんと僕の上に倒れ込んできた。
「はぁ……♡♡♡ すごかった……♡♡♡♡♡」
汗ばんだ肌が触れ合って、心臓の鼓動が伝わってくる。 美緒さんが、僕の胸に顔を埋めた。
「拓実……♡」
「はい」
「……あんた、もう、私の藍のこと、ぜんぶ知っちゃったね♡」
ぎゅっと抱きついてくる美緒さんを、僕も強く抱きしめ返した。 襖の隙間から、夜明けの白い光が、少しずつ差し込んでくる。 気がつくと、長かった雨が、いつの間にか上がっていた。
その日の昼すぎ。 僕たちは、土間に並んで、染めの続きをしていた。
藍はすっかり元気を取り戻して、甕の表面には、青紫の華がこんもりと立っている。 美緒さんが布を沈め、僕が引き上げる。 黄緑から青へ、色が呼吸するように変わっていく。
「拓実、引き上げるの上手くなったね」
「先生がいいんで」
「……だから、先生って呼ぶなって♡」
二人で笑った。 干し場に並んだ青い布が、梅雨明けの風に、ぱたぱたとはためく。
「ねえ。来週の個展、来てくれる?」
「もちろん。荷物持ち、いるんでしょう」
「ふふ。それもあるけど。……あんたに、見てほしいの。あんたが手伝ってくれた藍で染めた布、ぜんぶ」
「……はい。絶対、行きます」
そう答えてから、僕は思いきって、言った。
「美緒さん。荷物持ちでも、染めの助手でもなくて。……ちゃんと、恋人として、隣にいていいですか」
「……っ」
美緒さんが、藍に染まった手で、ぱっと顔を覆った。 指の隙間から覗く耳が、藍より濃いくらい、真っ赤だった。
「……いいよ。ていうか、もう、そのつもりだったし」
「よかった」
「でも、ひとつ条件。これからも、毎朝、藍の機嫌うかがいに付き合うこと」
「了解です。生きてる藍と、生きてる美緒さん。両方、毎朝ご機嫌うかがいします」
「……それ、私のことも世話の焼ける生き物扱いしてない?♡」
そこへ、ちょうど管理人の沢田さんが、家賃の集金にやってきた。 土間で並んで布を染める僕たちを見て、目を丸くする。
「おや。結城くん、いつの間にか染め物デビューしたのかい」
「……まあ、いろいろ、教わってまして」
「ははあ。なるほどね。会えばわかる、って言ったでしょう」
「沢田さん、余計なこと言わないの」
沢田さんは「お幸せに」とだけ言って、楽しそうに帰っていった。
会社に戻った月曜。 僕は、いつものようにアプリの画面を開いて、色を選んでいた。
ボタンの色を、カラーピッカーで探す。 青の数値を、いくつも並べて見比べる。
#1E6FFF。#2A5CAA。#3366CC。
以前なら、ただの数字の羅列だった。 でも、今は違った。
その数字の向こうに、僕は、あの色を思い出していた。 黄緑から、息を吹き返すように変わっていった、深い藍。 川に晒したときに、きらきらと光った、青い帯。 そして、藍に染まった、彼女の指。
色は、数値だ。仕事では、それでいい。 でも、数値の向こうには、ちゃんと、生きている色がある。 それを思い出させてくれたのは、土間で毎朝、藍と喧嘩している、一人の女性だった。
ポケットには、いつも、あの青いハンカチが入っている。 僕が初めて染めた、ヘタクソだけど、悪くない青。
スマホが鳴った。美緒さんからのメッセージだった。
「今日の藍、すこぶる機嫌いいよ。早く帰っておいで」
僕は、ふっと笑って、返信を打った。
「了解。今日は早く帰ります。藍と、あなたの、ご機嫌うかがいに」
色を数えるだけだった僕の毎日は、いつの間にか、色の匂いがするようになっていた。
― 終 ―