1. 一グラム何円
その日も僕は、魚の写真を、一匹も見ていなかった。
三宅亮(みやけ りょう)、三十一歳。都内に本部を置く海鮮居酒屋チェーンの、商品開発をやっている。仕事は、数字だ。朝から晩まで、エクセルの原価表を睨んで、アワビが一グラム何円、サザエが一個いくら、歩留まりが何パーセント、と弾き続ける。新メニューの試食もする。けれど、口に入れる前から、僕の頭には、その一皿の原価が、円単位で浮かんでいた。
三宅亮(……これ、原価率三十二パーセント。あと二円下げないと、会議通らないな)
そんなふうにしか、もう、食べられなくなっていた。
先月の会議で、僕は、自分の作った資料の数字を読み上げながら、ふと、わからなくなった。アワビが、どんな海の、どんな岩に、どんなふうに貼りついているのか。それを、誰が、どうやって獲ってくるのか。僕は、一度も、見たことがなかった。仕入れ表のいちばん上の行、〈三重県産・天然あわび〉という文字の、向こう側を。
きっかけは、その晩、終電で見た一枚の写真だった。SNSのおすすめに流れてきた、海の写真。白い磯着を着た女の人が、真っ黒な海に、頭から飛び込もうとしている、その一瞬。キャプションには、ただ「海女(あま)」とだけ書いてあった。
僕は、その写真を、終電のあいだじゅう、見ていた。一グラム何円、でも、原価率何パーセント、でもない。ただ、冷たそうな海と、その海に飛び込もうとする、一人の人間の背中だった。
翌週、僕は三日の有休を取って、近鉄特急に飛び乗っていた。
行き先は、鳥羽。写真のタグに付いていた、小さな漁村の名前だけを頼りに。
2. 海女小屋の灯り
その村は、入り組んだ湾の、いちばん奥にあった。
バス停から坂を下ると、潮の匂いが、一気に濃くなった。狭い路地に、漁網と、浮き玉と、干された若布(わかめ)。軒先には、どこも、海の匂いが染みついている。予約した素泊まりの民宿〈浜野屋〉は、その路地のいちばん奥、浜にいちばん近い、古い木造の家だった。
戸を開けると、奥から、小柄なおばあさんが出てきた。七十は越えているだろう。日に焼けた、皺だらけの顔。けれど、背筋がぴんと伸びていて、目だけが、やけに若く、よく光っていた。
浜野トキ「はいはい、東京の三宅さんかね。よう来たなあ、こんな何もない村まで。わたしが、ここの婆で、トキっていうの」
三宅亮「三宅です。よろしくお願いします。あの……ここ、海女さんが、いるって聞いて」
浜野トキ「海女? ふふ、いるよ。たんといる。……わたしも、つい去年まで、潜っとった。六十年、潜った口でね」
六十年、と聞いて、僕は思わず、トキさんの顔を見直した。皺の一本一本が、潮と日差しで刻まれたものに見えた。
浜野トキ「あれ、見えるかね。浜の、あの小屋」
トキさんが、指さした先。浜辺に、トタン屋根の小さな小屋があって、煙突から、白い煙が、まっすぐ立ちのぼっていた。海女小屋、というやつだろう。
浜野トキ「あそこで、海女らが、潜ったあと、火に当たって、獲ったもん焼いて食うの。……ちょうど、孫が、今日のぶん、上がってくる頃だわ。見てくるかね。汐莉(しおり)っていう、うちの孫」
僕は、なぜか、心臓が、ひとつ鳴るのを感じた。あの写真の、海に飛び込もうとしていた背中が、ふいに、頭をよぎった。
3. 海から上がる
浜に下りると、ちょうど、海から一人の海女が、上がってくるところだった。
白い磯着が、濡れて、体に張りついている。腰には、獲物を入れる網袋。ウェットスーツの上から磯着を羽織ったその人は、波打ち際で立ち止まり、片手で、ゴーグルを、ぐいと額に押し上げた。
歳は、二十代の半ばくらいか。化粧っ気のない、潮焼けした頬。濡れた髪を、後ろで、きつく一つに結んでいる。すっと通った鼻筋。切れ長の目が、浜に立つ僕を、まっすぐ捉えた。笑っていない。見慣れない人間を、静かに値踏みするような、強い目だった。
浜野汐莉「……民宿の、お客さん?」
三宅亮「あ、はい。三宅、です。今日から、お世話に」
浜野汐莉「ふうん」
それだけ言って、彼女は、僕の横を、すっと通り抜けようとした。網袋の中で、黒々としたアワビが、ごとり、と重たい音を立てた。本物の、生きたアワビだった。僕が、いつも原価表の上でしか触れていなかったものが、たった今、冷たい海から、この人の手で、引き上げられてきた。
三宅亮「あの……それ、アワビ、ですよね」
浜野汐莉「……そうだけど」
三宅亮「ひとつ、どのくらい潜って、獲るんですか」
浜野汐莉「……ひとつに、何分も潜らない。一回、三十秒くらい。岩の陰、覗いて、いたら、剥がして、上がる。それを、何十回も繰り返すだけ」
抑揚のない声だった。けれど、その「だけ」の重みが、僕には、ずしりと来た。三十秒の素潜りを、何十回。それを、僕は、一グラム何円、と弾いていたのだ。
浜野汐莉「……変な人。アワビなんか見て」
そうつぶやいて、彼女は——汐莉さんは、海女小屋のほうへ、歩いていった。濡れた磯着の背中が、夕日に、赤く照っていた。あの写真の、背中だった。
4. 火に当たる
その晩、トキさんが、僕を海女小屋に呼んでくれた。
浜野トキ「客に、海女の獲ったもん食わせんで、何が浜野屋かね。汐莉、ええだろ」
浜野汐莉「……婆ちゃんが、そう言うなら」
小屋の中は、真ん中に大きな囲炉裏が切ってあって、流木の火が、赤々と燃えていた。煤けた壁に、磯着や手拭いが、ずらりと吊るされている。汐莉さんは、磯着から、よれたパーカーに着替えて、火の前で、長い髪を、手拭いで拭いていた。素潜りの装備を解いた彼女は、思いのほか、ほっそりして見えた。
汐莉さんが、網から、さっき獲ったサザエとアワビを、無造作に網の上に並べた。じゅう、と、海の音がした。
浜野汐莉「……焼けたら、食べて。醤油、垂らして」
三宅亮「いただきます」
貝の蓋が、くつくつと泡を吹いて、香ばしい匂いが立った。串で身を抜いて、口に入れる。——その瞬間、僕は、箸を止めた。
三宅亮「……っ」
浜野汐莉「……どうかした?」
三宅亮「いや……すごい。なんだ、これ。……俺、こんな味の貝、食べたこと、ない」
磯の香りと、噛むほどに出てくる、濃い甘み。原価率も、歩留まりも、何も浮かんでこなかった。ただ、うまい、しか、なかった。気づいたら、僕は、目の奥が、少し熱くなっていた。
浜野汐莉「……大げさ」
浜野トキ「ふぉっふぉ。汐莉、この人、ええ食べっぷりだわ。……都会の人ほどな、初めてうちの貝食うと、みんな黙るんよ。そんで、たまに、泣く」
三宅亮「……俺、毎日、アワビの値段、計算してるんです。一グラム何円って。……でも、こんな味、知らなかった。値段の向こうに、これがあったなんて」
汐莉さんが、火の向こうから、ちらっと、僕を見た。さっきまでの、値踏みするような目が、ほんの少しだけ、やわらいでいた。
5. 海を読む
翌朝、まだ暗いうちに、僕は汐莉さんの漁に、ついていかせてもらった。
浜野汐莉「……船には乗せられない。漁の邪魔だから。浜から、見てるだけなら」
三宅亮「それで、十分です」
夜明け前の海は、鈍い銀色だった。汐莉さんは、磯着を着け、ゴーグルをはめ、腰に重りの分銅を巻いて、波打ち際に立った。そして、海面を、じっと見つめた。長いあいだ、動かなかった。
三宅亮「……何を、見てるんですか」
浜野汐莉「潮。今日は、二時間で、止まる。止まったら、上がる。無理は、しない」
三宅亮「潮って、見て、わかるんですか」
浜野汐莉「……わかる。色と、うねりと、岩に当たる波の、引き方で。……婆ちゃんに、子供の頃から、叩き込まれた」
汐莉さんは、海面から目を離さずに、淡々と続けた。
浜野汐莉「海女はね、欲をかいたら、死ぬの。深く潜りすぎても、長く潜りすぎても。……だから、いつも、引き際を読む。今日は、ここまで、って。海と、自分の体と、両方を」
そう言って、彼女は、すうっと、深く息を吸った。胸が、大きく膨らむ。そして——次の瞬間、音もなく、銀色の海に、頭から消えた。
しばらくして、遠くの海面に、ぽっと頭が浮かぶ。「ヒュウ……」と、長く尾を引く、笛のような呼吸の音が、静かな浜に響いた。磯笛、というやつだ。あの音は、海女が、潜って詰めた息を、いっぺんに吐き出す音なのだと、あとでトキさんに聞いた。
僕は、浜に立ち尽くして、その音を、聞いていた。「ヒュウ……」「ヒュウ……」。海の上に、点々と、汐莉さんの呼吸が、灯っていく。
監視するように、数字を睨んで生きてきた僕の毎日には、ただの一度も、なかった音だった。
6. 引き際
二時間きっかりで、汐莉さんは、海から上がってきた。
網袋は、アワビとサザエで、ずしりと膨らんでいた。けれど、彼女は、満足げでも、なんでもなかった。当たり前のことを、当たり前にやり終えた、という顔だった。
三宅亮「すごい。こんなに……」
浜野汐莉「……今日は、潮が良かっただけ。悪い日は、半分も獲れない。それでも、無理しない。……それが、長く潜るコツ」
僕たちは、浜に座って、汐莉さんが手拭いで体を拭くのを、待った。日が、すっかり昇って、海が、青く光りはじめていた。
三宅亮「汐莉さんは、ずっと、この村で?」
浜野汐莉「……うん。生まれてから、ずっと。高校出て、すぐ、潜りはじめた。婆ちゃんと、母さんと、三代、海女」
三宅亮「都会に、出ようとは、思わなかったんですか」
浜野汐莉「……一回だけ、思った」
汐莉さんは、海を見たまま、ぽつりと言った。
浜野汐莉「高校のとき、同級生に、笑われたことがあって。海女なんて、原始時代の仕事だろ、って。スマホで何でも買える時代に、なんで素潜りなんかして、って」
三宅亮「……」
浜野汐莉「……ちょっとだけ、悔しかった。自分の仕事が、古くさいもの、みたいに言われて。だから、東京の専門学校の資料、取り寄せたこと、ある。……でも、やめた」
三宅亮「どうして」
浜野汐莉「……ある朝、海から上がったら、婆ちゃんが、浜に立ってて。『お前の磯笛は、村でいちばんええ音だ』って。それ聞いたら、なんか……ここで、いいや、って」
汐莉さんが、初めて、ふっと笑った。潮焼けした頬に、やわらかい線が寄った。それは、海そのものより、ずっと、きれいだった。
浜野汐莉「……でも、たまに、思う。私の獲ったアワビ、東京の誰かが、食べてるのかなって。……その人、私のこと、一個いくら、としか、思ってないんだろうなって」
三宅亮「……」
僕は、何も、言えなかった。つい先週まで、その「誰か」が、まさに、僕だったから。
7. 石神さん
その日の午後、汐莉さんは、村のはずれの、小さな社(やしろ)へ、僕を連れていってくれた。
浜野汐莉「……石神さん。海女が、昔から、お参りしてきた神様。女の人の願いを、ひとつだけ、叶えてくれるって」
三宅亮「ひとつだけ?」
浜野汐莉「うん。欲張ったら、だめ。……海と、おんなじ」
汐莉さんは、社の前で、白い紙に、願い事を書いて、そっと納めた。何を書いたのかは、教えてくれなかった。ただ、書いたあと、彼女の頬が、ほんのり赤かった。
社の裏は、岬の突端で、海が、どこまでも広がっていた。梅雨の終わりの、重たい雲の切れ間から、光の帯が、海面に何本も差していた。
三宅亮「……汐莉さん。俺、明日で、帰らなきゃいけないんです」
浜野汐莉「……うん。知ってる。三泊、でしょ」
三宅亮「帰りたく、ないな。……変ですよね、たった三日で」
浜野汐莉「……変じゃ、ない」
汐莉さんが、海を見たまま、小さく言った。
浜野汐莉「……私も、変なの。お客さんに、こんなに喋ったの、初めて。……婆ちゃんに、言われた。『あんた、あの東京の人といるとき、よう笑うね』って」
三宅亮「……」
浜野汐莉「……自分でも、びっくりしてる」
風が、汐莉さんの結んだ髪を、ふわりと、ほどくように揺らした。潮の匂いの中に、ほんの少し、彼女自身の匂いが、混じった気がした。
8. 凪いだ夜
その晩、村の上の空から、雲が、すっかり取れた。
浜野トキ「ふぉっ、梅雨、明けたな。明日から、海が、ぴたっと凪ぐ。……汐莉、今夜は、小屋で、火、落としてきな。明日の漁の、支度もあるだろ」
トキさんが、そう言って、にやり、と笑った。なんだか、すべてを見透かしたような、笑い方だった。
浜野トキ「三宅さん。あんたも、行きな。……海女小屋の夜は、ええもんだよ。火と、波の音しか、ない」
そうして、僕と汐莉さんは、二人きりで、夜の海女小屋にいた。
囲炉裏の火だけが、赤く燃えていた。戸の外は、凪いだ海。さざ波の音が、規則正しく、寄せては返している。電波も、テレビも、ない。聞こえるのは、火の爆ぜる音と、波の音だけ。
浜野汐莉「……梅雨が明けると、海の色が、変わるの。明日、見せたかったな。いちばん、きれいな海」
三宅亮「……明日の朝、帰る前に、見られますか」
浜野汐莉「……うん。約束、する」
火を挟んで、汐莉さんが、僕を見た。火明かりが、潮焼けした頬を、やわらかく照らしている。さっきまでの、海の上の強い横顔とは、別の顔だった。
浜野汐莉「……ねえ、三宅さん。さっき、石神さんで、私が書いた願い事」
三宅亮「……うん」
浜野汐莉「……『この人が、また来ますように』って、書いた」
火が、ぱちっと、爆ぜた。
三宅亮「……汐莉さん」
浜野汐莉「……欲張りすぎた、かな。神様、ひとつだけ、なのに。……でも、書いちゃった」
僕は、もう、自分を止められなかった。火を回り込んで、汐莉さんの隣に、座り直す。彼女は、逃げなかった。火明かりの中で、その目だけが、潤んで、はっきりと光っていた。
三宅亮「神様に頼まなくても、俺、また来ます。……ていうか、汐莉さんに、会いに来る」
浜野汐莉「……ずるい。そういうこと、言うの」
汐莉さんの潮焼けした頬が、火の色とは違う赤に染まった。長い睫毛が、ゆっくり伏せられる。僕は、そっと、顔を寄せた。
9. 火と波の音
唇が、触れた。
ちゅ……。
潮と、ほんの少し、火の匂いがした。汐莉さんの唇は、思いのほか熱くて、かすかに震えていた。一度離して、もう一度。今度は、少しだけ深く。汐莉さんが、僕のシャツの裾を、きゅっと握った。
浜野汐莉「ん……♡」
三宅亮「……心臓、すごい音」
浜野汐莉「……あなたのも、聞こえてる♡」
くすっと笑って、汐莉さんが、僕の首に腕を回してきた。舌先で、そっと唇をなぞると、彼女の口が、わずかに開いた。
ちゅ……れろ……ちゅるっ……♡
浜野汐莉「んむ……♡」
囲炉裏の前で、しばらく抱き合っていた。やがて、汐莉さんが、潤んだ目で、小屋の奥の、板の間を見た。海女が漁のあいだ、横になって休む、ござ敷きの一角だった。
浜野汐莉「……奥、ござ、敷いてあるから」
三宅亮「……いいの?」
浜野汐莉「……今夜、あなたを、一人で帰す気、もう、ないの♡」
手を引かれて、奥のござの上に移った。戸の隙間から、凪いだ海の、銀色の光が、細く差し込んでいた。火の赤と、海の銀の、あいだだった。横たえた汐莉さんに、もう一度、唇を重ねる。さっきより、ずっと深く。舌を絡めながら、彼女のパーカーの、ファスナーに手をかけた。
ちゅぷ……れろ……ちゅるっ……♡♡
浜野汐莉「ん……んぅ……♡」
ぷはっ、と離れると、唾液が、細く糸を引いた。
浜野汐莉「はぁ……♡ ……あんまり、見ないで。……潮の匂い、するから」
三宅亮「いい匂いだよ。……ずっと、嗅いでいたい」
浜野汐莉「……もう。そういうとこ♡」
パーカーを脱がせると、白い肌が現れた。日に焼けた首や腕と違って、磯着に隠れていた胸元は、抜けるように白かった。素潜りで鍛えた、しなやかな体に、その白さが、ひどく艶めかしかった。
三宅亮「……きれいだ」
浜野汐莉「……海女の体なんて、ごつごつしてるでしょ」
三宅亮「ううん。……強くて、きれいだ」
スポーツブラのホックを外すと、形のいい胸が、こぼれ出た。淡い色の先端が、白い肌に、ぽつんと色を添えている。腕で隠そうとする手を、そっとどけて、ござの上に横たえた。右手で、左の胸を、包むように触れる。
ふにっ。
浜野汐莉「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような、やわらかさだった。指を沈めると、むにっと形を変える。もう片方も、手のひらで包んだ。
浜野汐莉「ん……っ♡ 両方、なんて……♡♡」
親指で、先端を、くりっと転がした。
浜野汐莉「ひゃっ♡♡」
びくんと、汐莉さんの肩が跳ねた。小さく硬くなった先端が、指先に、コリコリと伝わってくる。
くりくり……くりくり……♡
浜野汐莉「あっ♡ あんっ♡♡ 亮さんっ……♡♡」
名前を、呼ばれた。それだけで、頭の芯が、痺れた。唇を、先端に落とす。ちゅっ。
浜野汐莉「ひぅっ♡♡♡」
舌先で転がしながら、反対の胸を、揉みしだく。
ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
浜野汐莉「あっあっ♡♡ 吸っちゃ、だめっ……声、出ちゃう♡♡」
波の音に紛れるように、汐莉さんの声が、小屋に響いた。交互に舌を這わせて、たっぷりと味わう。彼女の肌が、うっすら汗ばんで、潮と、火と、汗の匂いが、ひとつに混ざった。
三宅亮「汐莉さん、下も、いい?」
浜野汐莉「……うん♡」
ハーフパンツを、下着ごと、ゆっくり引き下ろす。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。海で鍛えた、しなやかで、張りのある腿だった。
三宅亮「……もう、濡れてる」
浜野汐莉「やっ♡ 言わないで……♡ キスの、ときから、ずっとなの♡♡」
透明な蜜が、とろりと、内ももを伝っていた。指先で、そっとなぞる。
くちゅ……。
浜野汐莉「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」
びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹で、くるくると円を描く。
くり……くり……♡
浜野汐莉「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」
三宅亮「だめじゃ、ないだろ。気持ちいいんだろ?」
浜野汐莉「だってっ♡ あなたの指っ……♡♡」
蜜をかき回しながら、中指を、入り口にあてがった。
三宅亮「指、入れるよ」
浜野汐莉「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」
ずぷ……♡
浜野汐莉「あああっ♡♡♡」
ゆっくり、指が沈んでいく。熱い。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、もう一本。
ずぷっ♡
浜野汐莉「ひぃっ♡♡♡ 二本っ……♡♡」
二本の指で出し入れしながら、親指で、突起を同時に刺激する。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡
浜野汐莉「あっあっあっ♡♡♡ すごいっ♡ おかしく、なるっ♡♡♡」
指を曲げて、上側の壁を、ぐっと押す。
浜野汐莉「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばいっ♡♡♡」
汐莉さんの体が、びくびくと跳ね始める。素潜りで鍛えた腹が、ひくひくと波打っていた。
浜野汐莉「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」
指の動きを、速める。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡
浜野汐莉「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
汐莉さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。やがて、力が抜けたように、ござの上に沈み込んだ。
浜野汐莉「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……息、止めるの、得意なのに……♡♡ 声、止められない……♡♡」
10. 凪の底で
潤んだ瞳で、汐莉さんが、ゆっくり身を起こした。まだ余韻に震えながら、僕のベルトに、手を伸ばす。
浜野汐莉「……今度は、私」
三宅亮「無理しなくて、いいよ」
浜野汐莉「……無理じゃない。私が、したいの♡」
ベルトを外して、下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と、限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。汐莉さんが、息を呑む。
浜野汐莉「……おっきい♡♡」
うつ伏せになって、顔を近づけてくる。
ぺろ……。
先端を、舌先で、ちろっと舐めた。
浜野汐莉「ん……♡」
ちゅっ、と先端にキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。ずぷ……。温かく濡れた、口の中。舌が、裏筋を、なぞる。
浜野汐莉「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させる汐莉さん。結んでいた髪を、いつのまにかほどいて、濡れた黒髪が、さらりと揺れている。上目遣いの瞳が、潤んで、こっちを見ていた。
三宅亮「汐莉さん……やば、気持ちいい」
浜野汐莉「んふ♡ ……もっと♡♡」
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に、電流が走った。さすが、息の長い海女だ、と、頭の隅で、ぼんやり思った。
ずぷっ……ずぷっ……♡♡
三宅亮「待って、それ以上は……イっちゃう」
ぷはっ、と口を離す汐莉さん。唇が、唾液で、てらてらと光っていた。
浜野汐莉「……まだ、だめ♡ 最後は、一緒がいい♡」
汐莉さんを、ござの上に引き上げた。財布から、避妊具を取り出す。
浜野汐莉「……ちゃんと、持ってきてたんだ?」
三宅亮「いや、これは、その……一応」
浜野汐莉「ふ♡ 責めてない♡ ……えらい♡」
手早く着けて、汐莉さんを、仰向けにした。火の赤と、海の銀の光に、白い肌が、ほのかに浮かんで見える。脚の間に体を滑り込ませて、先端を、入り口にあてがった。
ぬちゅ……♡
三宅亮「入れるよ、汐莉さん」
浜野汐莉「うん♡ 来て……♡♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡♡
浜野汐莉「あぁっ♡♡♡ 入って、くるっ♡♡♡」
きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。
浜野汐莉「おっきい♡♡ 奥まで、いっぱい♡♡♡」
ずぷん♡♡
根元まで、収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
浜野汐莉「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ ……あったかい♡♡♡」
三宅亮「動くよ」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずるっ……ずぷんっ♡♡
パンっ♡
浜野汐莉「ああっ♡♡♡」
パンッ……パンッ……♡♡
リズミカルに、打ちつけ始める。
浜野汐莉「あっあっあっ♡♡♡ 亮さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
汐莉さんが、僕の背中に、しがみついてくる。戸の外は、凪いだ夜の海。波の音と、肌のぶつかる音が、混じり合って、小屋に響いていく。
パンパンパンッ♡♡♡
浜野汐莉「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」
汐莉さんの脚が、僕の腰に絡みついてくる。海を蹴り続けてきた、しなやかな腿が、ぎゅっと締まる。角度を変えて、さらに奥を突くと、結合部から、卑猥な水音が溢れた。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
浜野汐莉「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」
三宅亮「俺も、もう……っ」
浜野汐莉「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イこっ……♡♡♡♡」
汐莉さんが、背中に両腕を回して、しがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。
浜野汐莉「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
三宅亮「イく……っ!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
浜野汐莉「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」
汐莉さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
浜野汐莉「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。戸の外では、凪いだ海が、変わらず、静かに、寄せては返していた。
浜野汐莉「……まだ、抜かないで♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を、聞いていた。やがて、汐莉さんが、僕の胸に頬を寄せて、くすっと笑った。
浜野汐莉「……無愛想で、ごめんね。浜で、会ったとき」
三宅亮「いや。あの汐莉さんも、かっこよかったよ」
浜野汐莉「……変な人♡」
11. いちばんきれいな海
――どのくらい、まどろんだろう。
浜野汐莉「……亮さん。起きて。亮さんっ」
汐莉さんの、弾んだ声で、目が覚めた。小屋の戸が、開け放たれていた。その向こうが、白み始めている。
浜野汐莉「来て。早く。……約束したでしょ。いちばんきれいな海」
手を引かれて、まだ薄暗い浜に出た。梅雨明けの、最初の朝だった。空が、藍から、桃へ、桃から、淡い金へと、刻一刻と変わっていく。やがて、最初の光が、水平線から差し込んだ。
その瞬間――凪いだ海が、一面、きらきらと、金色に、染まった。
三宅亮「……うわ……」
浜野汐莉「……でしょ」
声が、出なかった。梅雨で濁っていた海が、嘘みたいに、透き通っていた。足元の波打ち際は、底の小石まで見えるほど青く、沖は、金色に燃えている。風がないから、水面が、鏡みたいに、空を映していた。
これが、汐莉さんの、海だった。彼女が、毎日、頭から飛び込んでいく、その世界の、いちばんきれいな顔だった。
浜野汐莉「……私の獲ったアワビ、東京の誰かが、一個いくら、としか思ってないんだろうなって。……前に、言ったでしょ」
三宅亮「……うん」
浜野汐莉「……でも、もう、いい。一人だけ、ちゃんと、この海ごと、知ってくれた人が、いるから」
汐莉さんが、潮焼けした頬で、はにかんだ。金色の光が、その横顔を、海の側から照らしている。僕は、海そのものより、その横顔から、目を離せなかった。
12. また、この浜で
二人で、波打ち際に並んで、金色の海を見ていた。
金色は、やがて、澄んだ青へと変わっていく。梅雨明けの、最初の朝が、目の前で、ゆっくりと、明けきっていく。
浜野汐莉「ねえ、亮さん。東京、遠いよね」
三宅亮「……まあ、特急乗り継いで、三時間半は」
浜野汐莉「……私、ここ、離れられないの。婆ちゃんと、この海が、あるから」
三宅亮「……うん。知ってる」
汐莉さんが、僕を見上げた。その目が、また、少し不安そうに揺れている。きっとこの人は、これまでも、海を見に来ては去っていく客を、何人も見送ってきたんだろう。引き際を読むのと同じくらい静かに、諦めることにも、慣れてきたんだろう。
だったら、僕が、ちゃんと言葉にしないと。
三宅亮「汐莉さん。俺、また来る。来月も、その次も」
浜野汐莉「……お客さん、として?」
三宅亮「いや。……恋人として。アワビを仕入れに、じゃなくて、汐莉さんに会いに」
浜野汐莉「……仕入れ?」
三宅亮「あ、いや、それは……職業病で」
汐莉さんが、ぷっと、噴き出した。それから、じわっと目が潤んで、ぽろっと、一粒こぼれた。金色の名残の光が、その雫を、きらりと光らせた。
浜野汐莉「……ずるい。海の前で、泣かせる気?」
三宅亮「泣くなって。返事は?」
浜野汐莉「……うん。私も、亮さんのことが、好き♡ ……今日から、恋人ね♡」
そう言って、汐莉さんが背伸びして、僕の唇に、ちゅっと軽くキスをした。凪いだ海の上で、太陽が、もうすっかり高くのぼっていた。
浜野汐莉「ふふ♡ 決まり♡ ……あ、でもね、亮さん」
三宅亮「ん?」
浜野汐莉「次、来たら。今度は、素潜り、教えてあげる。海の底、見せたげる」
三宅亮「えっ、俺、三十秒も、息、止められないけど」
浜野汐莉「ふふっ♡ 大丈夫。私が、教えるから。……一緒に、ね♡」
ちょうどそのとき、浜の上の路地から、トキさんの声が、降ってきた。
浜野トキ「汐莉ーっ。三宅さーん。朝飯、できとるよーっ。……ふぉっふぉ、なんだ、二人して、海なんか眺めて。……石神さん、ずいぶん、気の利いた願い、叶えなさったなあ」
浜野汐莉「……もう。婆ちゃん、聞いてたの?」
浜野トキ「浜は、声が、よう通るからな。……ふぉっふぉっ」
原価表の数字でしか魚を見られず、一グラム何円、としか食べられなくなっていた僕は、一枚の写真に呼ばれるように、この小さな漁村まで来た。
そこで出会ったのは、毎朝、冷たい海に頭から飛び込んで、自分の息と引き際を読みながら、海の底から命を引き上げてくる――そんなふうに、誰も見ていない海の底を、ずっと一人で見つめ続けてきた、一人の海女だった。
これは、たまたまの三日なんかじゃない。きっと、何度でもこの浜に通って、二人で並んで、梅雨明けの金色の海を数えていく、その始まりの朝だ。
― 終 ―