エアコンが壊れた熱帯夜に逃げ込んだ深夜のコインランドリーで、八年前に俺を振った元カノと毎晩顔を合わせるようになった話

1. 壊れた夜

俺、瀬戸悠真(せとゆうま)、二十九歳。都内の小さなシステム会社で、地味にサーバーの面倒を見るエンジニアをやっている。

その夜は、梅雨明け間近の、ひどく蒸し暑い夜だった。 天気予報は連日「真夏日」を繰り返していて、まだ六月だというのに、夜になっても気温が下がらない。築二十年のおんぼろアパートの、もとから頼りなかったエアコンが、とうとう「ぶうん」と情けない音を立てて、温い風しか吐かなくなった。

(……マジか。よりによって、この熱帯夜に)

窓を全開にしても、入ってくるのは生ぬるい風ばかり。Tシャツが背中に張りついて、寝ようとしても、汗で目が冴えていく。スマホで時刻を見ると、もう深夜零時を回っていた。

このまま部屋にいたら、茹で上がる。 そう思って、俺は半分やけくそで立ち上がった。たまった洗濯物を引っ張り出して、ついでに溜まりに溜まったシーツも全部、大きな袋に詰め込む。

(どうせ眠れないなら、洗濯でもしてくるか。あそこ、たしかエアコン効いてたよな)

向かう先は、アパートから歩いて五分の、二十四時間営業のコインランドリーだった。

2. 乾燥機の前のベンチ

夜のコインランドリーは、青白い蛍光灯に照らされて、やけに明るかった。

ガラス張りの店内に入った瞬間、ひんやりした空気がふわっと頬を撫でて、思わず生き返った心地がした。 ずらりと並んだ業務用の洗濯機と乾燥機。回転する乾燥機のドラムが、ごうんごうんと低く唸っている。汗が、すうっと引いていく。

(……天国だ)

俺はいちばん手前の大きな洗濯機に洗濯物を放り込んで、小銭を入れた。ごぼ、と水の流れる音。さて、終わるまで小一時間。スマホでも見て待つか、と振り返って──店の奥のベンチに、先客がいるのに気づいた。

ひとり、女の人が座っていた。 膝の上に文庫本を伏せて、回る乾燥機をぼんやり眺めている。明るすぎる蛍光灯の下で、横顔の輪郭が、白く浮かんでいた。

その横顔に、俺は、見覚えがあった。

ゆるく結んだ髪。少し垂れた目尻。八年分、大人びてはいたけれど──間違えるはずがなかった。心臓が、嫌な感じに跳ねた。

(……嘘だろ。なんで、こんなところに)

見間違いであってくれ、と思った。でも、向こうも視線に気づいたのか、ゆっくりとこちらを向いて。 目が合った瞬間、その人の表情が、ぴしっと固まった。

「……悠真?」

少し低くて、それでいて柔らかいその声。八年経っても、忘れられるわけがなかった。

「……凪沙」

凪沙。長谷川凪沙(はせがわなぎさ)。俺と同い年の、二十九歳。 大学のサークルで出会って、二年付き合って──そして、ふらふらと将来を決めあぐねていた当時の俺に、静かに愛想を尽かして去っていった、元カノだった。

3. 八年ぶりの「久しぶり」

「うそでしょ……なんで、こんな夜中のコインランドリーに、悠真が」

「それは、こっちのセリフだろ。……エアコンが壊れて。涼みついでに、洗濯」

「ふっ……なにそれ。相変わらず、行き当たりばったり」

凪沙が、ふっと口元をほころばせた。 その笑い方が、八年前とまるで同じで、俺は不覚にも、胸の奥を掴まれた。

「凪沙こそ、なんで。確か、こっちに住んでなかっただろ」

「先月、引っ越してきたの。すぐそこのアパート。……うち、洗濯機ないから、いつもここ」

すぐそこ、と凪沙は窓の外を指さした。俺のアパートと、目と鼻の先のほうだった。

「マジか。……世間、狭すぎだろ」

「ほんとにね」

二人して、なんとなく、また回る乾燥機に視線を戻した。 沈黙が落ちる。でも、気まずいだけの沈黙、というわけでもなかった。八年分の言いたいことが、お互いの中で渋滞して、うまく言葉にならない、そういう沈黙だった。

ちらっと、凪沙の膝の上の文庫本に目がいった。海外の小説の、翻訳もの。ページの端が、何度も読み返したみたいに、くたっと柔らかくなっている。

「……本、好きなのは、変わってないんだな」

「うん。……っていうか、それが仕事になっちゃった」

「仕事?」

「映像翻訳。海外ドラマとか、映画の、字幕つけてるの。フリーで」

字幕翻訳。 あいつは、あのとき口にしていた夢の、ちゃんとそばで生きていた。「いつか、自分の言葉で、海外の物語を届ける仕事がしたい」。そう言っていた凪沙は、その言葉どおりの場所に、立っていた。

4. 同じ時間に、また

ぴーっ、と、凪沙の乾燥機が鳴った。

「あ、終わった。……じゃあ、私、これたたんで帰るね」

凪沙が立ち上がって、てきぱきと洗濯物を取り込み始める。その手際を、俺はなんとなく見ていた。八年前より、ずっと所帯じみて、ずっと大人びた手つきだった。

「……おう。じゃあ、また」

「また」なんて、二度と来るはずもないと思って、口から滑り出た社交辞令だった。 なのに──翌日の夜も、エアコンの修理は間に合わなくて、俺はまた、汗だくでコインランドリーに逃げ込んだ。そして、奥のベンチには、また凪沙が座っていた。

「……ふふ。また、悠真だ」

「お前こそ。毎晩、こんな時間なのか」

「夜のほうが、集中できるの。昼間に翻訳して、夜に頭を冷やしながら、洗濯」

それから、毎晩だった。 俺のエアコンは結局、業者の予約が一週間先までいっぱいで、しばらく直らなかった。だから俺は、夜になると涼みがてら、洗濯物を抱えてあのランドリーに通った。すると決まって、奥のベンチに凪沙がいた。

最初は「よう」と「おつかれ」くらいだった会話が、夜を重ねるごとに、少しずつ増えていく。 回る乾燥機を二人で眺めながら、ぽつり、ぽつりと、八年分の話を埋めていった。

5. お節介な常連

その夜、ベンチで並んで缶のお茶を飲んでいると、からんとドアが鳴って、エコバッグを提げた小柄なおばあさんが入ってきた。この店の、常連さんらしい。

「あらあら、今夜もお揃いね。仲がいいこと」

「い、いえ、そういうのじゃ……」

「いいのいいの。最近、毎晩ここで顔合わせてるでしょう、あなたたち。あたしゃね、ずーっと見てたのよ」

おばあさんは、慣れた手つきで洗濯機を回しながら、にっこり笑った。

「夜中のコインランドリーでね、毎晩同じ顔に会うっていうのは、けっこうな縁よ。昔の人はね、こういうのを『袖振り合うも多生の縁』って言ったの。……ま、若い人にはピンとこないか」

「……いや。なんか、分かる気がします」

凪沙が、ちらっと俺を見た。 おばあさんは、自分の洗濯物を回し終えると、「ごゆっくり」と、にやっと笑って出ていった。気を利かせたのが、丸わかりだった。

静かになった店内で、凪沙が、ぽつりと言った。

「……縁、かな」

「……どうだろうな」

回る乾燥機の音だけが、ごうんごうんと、二人の間を埋めていた。

6. 八年前の答え

その夜は、なかなか乾燥機が空かなかった。

並んで順番を待ちながら、俺は、ずっと喉につかえていたことを、思い切って口にした。

「……なあ、凪沙。あのとき、なんで、俺と別れたんだ」

凪沙の手の中で、缶が、こつ、と鳴った。

「……今さら?」

「今さらだよ。でも、ずっと、聞けなかったから」

凪沙は、しばらく黙って、回る乾燥機を見ていた。それから、静かに口を開いた。

「……悠真のこと、嫌いになったわけじゃ、なかったよ。ただ、あの頃の悠真は、ずっと、自分の人生を、誰かに決めてもらうのを待ってる感じだったの。なんとなく就職して、なんとなく付き合って、なんとなく毎日が過ぎていく。……私、怖くなった」

「怖く?」

「このまま一緒にいたら、私も、夢を『なんとなく』諦めちゃう気がして。……だから、逃げたの。ひどいよね。自分の夢を、言い訳にして」

俺は、何も言い返せなかった。 あの頃の自分は、確かに、そうだった。レールに乗っかって、流されて、それを安定だと思い込んでいた。凪沙の背中を見送ったあの日から、俺は、ようやく自分の足で立つことを覚えたのだ。

「……お前に振られてから、俺、ちょっとは、まともになったよ。今の会社も、自分で選んで、転職して入ったんだ。サーバーのことなら、誰にも負けない自信がある」

凪沙が、ふっと、目を細めた。

「……知ってる。今の悠真、ちゃんと、自分の言葉で喋るもん。八年前と、全然違う」

「お前のおかげだよ。……皮肉じゃなくて、本気で」

凪沙は、何も言わずに、缶のお茶を、こくんと飲んだ。 その横顔の睫毛が、わずかに、震えていた。

7. 涼みにおいでよ

ぴーっ、と、その夜も凪沙の乾燥機が鳴った。

「……あ。終わっちゃった」

なのに、凪沙は、すぐには立ち上がらなかった。 膝の上で、両手の指を、もじもじと組み替えている。何か言いたげに、口を開いては、閉じる。

「……どうした」

「ねえ、悠真。……エアコン、まだ直ってないんでしょ」

「ああ。あさってまで、業者来ない」

「……うち、来る?」

え、と俺は固まった。凪沙の頬が、蛍光灯の下でも分かるくらい、赤くなっていた。

「うちの、エアコンは、ちゃんと効くから。……こんな、明るいコインランドリーで話すの、もう、なんか、嫌になっちゃって」

「……いいのか」

「よくないなら、誘わないよ。……ばか」

俺は、自分の乾燥機を止めて、生乾きの洗濯物を、適当に袋に押し込んだ。 凪沙が、たたんだばかりのシーツの匂いをさせながら、先に立ち上がる。二人で、深夜の生ぬるい夜気の中へ出た。

「……こっち」

凪沙のアパートは、本当に、すぐそこだった。

8. 八年分の距離

凪沙の部屋は、彼女らしい部屋だった。

壁一面の本棚には、原書と翻訳本がぎっしり詰まって、机の上には、つけっぱなしのモニターと、台本らしき紙の束。生活感はあるのに、不思議と静かで、落ち着く部屋だった。 エアコンの効いた空気が、汗ばんだ肌を、すうっと冷やしていく。

「適当に、座って。麦茶、淹れるね」

ローテーブルを挟んで、向かい合って座る。冷たい麦茶のグラスが、二つ。窓の外では、夜の蝉が、気の早い声で鳴いていた。

「……あのね、悠真」

「ん」

「私、引っ越してきて、ここのコインランドリーで悠真に会ったとき……正直、運命かと思った」

「……運命」

「うん。八年も連絡取ってなかったのに、こんな偶然、ある? って。……毎晩、悠真が来るのを、待ってる自分がいて。我ながら、未練がましくて、嫌になった」

俺は、麦茶のグラスを置いた。

「……俺も、待ってた」

「え」

「エアコンなんて、本当は、家電量販店で安いの買えば、すぐ涼しくなるんだ。なのに俺、なんだかんだ理由つけて、毎晩あそこに行ってた。……お前に、会いたかったからだよ」

凪沙が、目を見開いた。その瞳が、みるみる潤んでいく。

「……ずるい。そういうの、ずるいよ、悠真」

「八年前、お前に振られて、言えなかったことがあるんだ」

俺は、テーブルを回り込んで、凪沙のすぐ隣に座った。

「ずっと、好きだった。別れてからも、ずっと。……お前以上に、本気になれる相手なんて、いなかった」

凪沙の頬を、つうっと、涙が伝った。

「……私も。ずっと、後悔してた。あのとき、突き放したこと」

俺は、そっと、凪沙の濡れた頬に手を添えた。 凪沙は、逃げなかった。むしろ、自分から、ほんの少しだけ、顔を寄せてきた。

「凪沙。……キス、していいか」

「……聞かないでよ、そういうの」

それが、答えだった。 俺はゆっくり顔を近づけて、八年ぶりに、凪沙の唇に触れた。

9. 夜風に溶けて

ちゅ……。 柔らかい唇は、麦茶の匂いと、涙の味がした。

「ん……っ」

凪沙の体が、びくっと震えて、それから、自分から、深く唇を重ねてきた。 ちゅ……ちゅぷ……。 唇の隙間から舌を差し入れると、凪沙も、おずおずと絡めてくる。最初は遠慮がちに、それから、八年分の飢えを埋めるみたいに、夢中になっていく。

ちゅる……れろ……ちゅぷっ……。

「ん……っ♡ 悠真……っ♡」

キスをほどくと、唾液の糸が、つうっと光って引いた。 凪沙の頬は上気して、瞳は、とろんと潤んでいる。

「……凪沙、きれいになったな」

「やだ……そういうの、ずるい……♡」

俺は、凪沙の体を、そっとベッドのほうへ導いた。 エアコンの低い音と、窓の外の蝉の声が、二人を包む。Tシャツの裾に手をかけると、凪沙が、恥ずかしそうに目を伏せた。

「……あんまり、見ないで。八年も経って、変わってるかもだし……」

「見るに決まってんだろ。八年ぶりなんだから」

Tシャツをめくり上げると、白い肌が現れた。 汗ばんだ素肌に、薄い色の下着。ホックを外すと、思っていたよりずっと豊かな胸が、ふるんと揺れて零れ出る。

「……きれいだ」

「もう……見すぎ……♡」

俺は、その胸に、そっと手を伸ばした。 むにゅっ……。

「あっ……♡」

手のひらに、柔らかい重みが沈み込む。指の間から溢れるくらいの量が、ふにふにと形を変えた。

「柔らかい……」

「んっ……♡ あんまり、揉まないで……恥ずかしい……♡」

ゆっくりと、両手で包み込むように揉む。 むにゅ……ふにふに……。 指の腹で、つんと立ち始めた先端を掠めると、凪沙が、ぴくっと跳ねた。

「ひゃっ♡ そこ……っ♡」

「ここ、弱いの、変わってないな」

「……覚えてないでよ、そういうのっ……♡」

口では強がるのに、片方の先端を口に含んで、舌先で、れろれろと舐め転がすと、もうだめだった。

ちゅっ♡ れろっ♡ ちゅうぅっ♡。

「あっあっ♡ やぁっ♡ 悠真っ♡ それ、だめぇ……っ♡」

胸を吸いながら、片手を、ショートパンツの中へと滑らせる。 内ももは、しっとりと汗ばんで、俺の手を受け入れるように、わずかに開いた。

10. 八年分、ぜんぶ

指を、その奥へと進める。 触れた瞬間、ぬるっとした感触が、指に絡んだ。

くちゅっ……。

「ひぁっ♡♡」

「もう、こんなに……」

「だって……キスから、ずっと……っ♡」

下着の中は、すでに、とろとろに濡れていた。 小さな突起を見つけて、指の腹で、くるくると円を描く。

くちゅくちゅ……くりくり……。

「あっ♡あっ♡♡ そこっ……♡ 弱いのっ……♡♡」

クリを刺激しながら、中指を、ゆっくりと中へ滑り込ませた。 ずぷっ……。

「あぁぁっ♡♡♡」

熱い内壁が、きゅうっと指を締めつけてくる。 八年経っても、覚えている。凪沙の、形だ。前壁のざらついた場所を、指の腹で、こりこりと擦り上げる。

くちゅくちゅくちゅっ……。

「そこっ♡♡ やばっ……そこ、やばいぃっ♡♡♡」

二本目を追加して、中をかき回しながら、親指で、クリを同時に攻める。 ぐちゅっ♡ ぐちゅっ♡ くりくりっ♡。

「あっ♡あっ♡あっ♡♡ だめっ♡ いっぺんは……っ♡♡」

凪沙の腰が、跳ねるように浮いて、内ももが、俺の手をぎゅうっと挟み込む。

「だめっ♡♡ それ続けたらっ……イっちゃうっ♡♡♡」

「イっていいよ」

「やっ♡♡ 恥ずかしいっ♡♡ 見ないでっ……っ♡♡」

親指でクリを潰しながら、中の弱い場所を、激しく擦り上げる。 ぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡。

「あっ♡あっ♡あっ♡♡──っっ♡♡♡」

びくびくびくっ♡♡♡。 凪沙の体が、弓なりに反り返って、じゅわっと、温かいものが俺の指に溢れ出した。

「……イったな」

「……っ、言わないでよ、ばか……♡♡」

息を切らせて、凪沙が、腕で顔を隠した。 その指の隙間から、潤んだ目が、こっちを見ている。しばらくして、凪沙が、のろのろと体を起こした。

「……次は、私が」

「無理しなくていい」

「無理してない。……悠真のことも、気持ちよくしたいの」

凪沙が、俺のハーフパンツに手をかけた。 下着の上から、もう、はち切れそうに張り詰めているのが分かる。ゴムに指をかけて、ゆっくりと下ろすと、ぶるんっと、それが弾け出た。

「……すご。こんなだったっけ……♡」

細い指が、そっと根元を包む。 ひんやりした感触に、ぞくっと背筋が震えた。

しゅっ……しゅっ……。

「……舐めても、いい?♡」

「……無理すんなよ」

「無理じゃないってば。……したいの」

凪沙が、ちゅっと、先端にキスをした。 ちゅっ♡ ちゅぷっ♡。 小さなキスを繰り返してから、舌を出して、裏筋を、つうっと舐め上げる。それから、ぱくっと、先端を咥え込んだ。

れろ……ちゅぷ……じゅぽっ……。

「っ……凪沙……」

温かい口の中に包まれる。 凪沙が、ゆっくりと頭を上下させながら、潤んだ瞳で、俺を見上げてくる。

じゅぷっ♡ ちゅぱっ♡ じゅるっ♡。

「ん……っ♡ ちゅぷ……♡ もっと、気持ちよくなって……♡」

頬を窄めて吸い上げながら、舌を、うねうねと絡めてくる。 じゅぼっ♡ じゅぼっ♡ じゅぷぷっ♡。

「くっ……凪沙、それ以上は……一回、止めてくれ」

「ん……ぷはっ♡」

凪沙が、ちゅぽんと口を離した。 唾液の糸が、つうっと光って引く。とろんとした目で、凪沙が、こちらを見上げた。

「……ねぇ、悠真。……このまま、口でじゃなくて」

「……いいのか」

「ちゃんと、ゴム、あるから。……私の中で、イってほしいの」

11. もう一度、繋がる

凪沙が、自分からベッドに横たわって、両膝を立てて、わずかに開いた。 さっき、俺の指で達したばかりのそこは、まだ、とろりと光っている。

避妊具をつける俺を、凪沙が、潤んだ目で見上げていた。準備を終えて、俺は、凪沙の脚の間に体を入れて、先端を、入り口に当てた。 とろっとした熱が、ぴたりと吸い付いてくる。

「いくぞ」

「うん……♡ 優しく、して……八年ぶり、だから……♡」

ずぷっ……♡。

「んあぁっ♡♡♡」

先端が入った瞬間、凪沙が、甲高い声を上げた。 きつい。なのに、とろとろに濡れているから、吸い込まれるように、奥へ進んでいく。

ずず……ずぷぷっ……♡。

「あぁっ……♡ おっきい……♡ 奥まで、来てる……♡」

「くっ……凪沙の中、めちゃくちゃ熱い……」

根元まで入りきった。 凪沙の中が、八年分の隙間を埋めるみたいに、ぎゅうぎゅうと、俺を締めつけてくる。

「……ねぇ、繋がってる……♡ 私たち、また、繋がってる……っ♡」

「ああ」

「夢、みたい……♡」

「動くぞ」

ずちゅっ♡ ぱんっ♡。

「ひぁっ♡」

ずちゅっ♡ ずちゅっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡。

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ 悠真っ♡」

ゆっくりと、腰を動かす。 引くときに、きゅっと締まって、入れるときに、とろっと受け入れてくれる。その繰り返しが、信じられないくらい、気持ちいい。

ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡。

「あぁっ♡ やっ♡ そこっ♡ そこ、当たるのっ♡♡」

「ここか」

ぐちゅっ♡♡。

「ひあぁっ♡♡♡ そこぉっ♡♡」

奥の方を突くと、凪沙が、大きく体を跳ねさせた。

「そこっ♡♡ 昔より……感じるっ♡♡♡」

「じゃあ、ここ集中で」

ぱんっ♡ ぱんっ♡ ずちゅっ♡ ぱんっ♡。

「あっ♡あっ♡あっ♡♡ だめっ♡ そこばっかりっ♡♡ おかしくなるっ♡♡」

凪沙の胸が、突くたびに、ぶるんぶるんと揺れる。 その光景がエロすぎて、腰の動きが、どんどん速くなる。

ぱんぱんぱんっ♡♡♡。

「ああっ♡♡ 悠真っ♡ きもちいいっ♡♡ すごいのっ♡♡」

「俺も……凪沙の中、よすぎる……っ」

凪沙の両脚が、俺の腰に絡みついて、ぐっと引き寄せられ、結合が、さらに深くなる。

「もっと……っ♡ もっと、奥まで来てっ♡♡」

俺は、凪沙の体を抱き起こして、背中を抱き寄せた。 対面座位の形で、二人の体がぴったり密着して、凪沙の胸が、俺の胸板に押し付けられて、ぷにゅっと潰れる。

「あっ♡♡ 密着してるっ♡ 悠真の、心臓の音、聞こえる……♡」

「凪沙」

「ん……っ♡」

「好きだ。あのときも、今も、ずっと、好きだった」

凪沙が、目を見開いて、それから、潤んだ瞳から、ぽろっと、涙がこぼれた。

「……っ♡♡ 私もっ♡♡ ずっと、ずっと、好きだったよっ♡♡♡」

ずちゅっ♡ ぱんっ♡ ぐちゅっ♡。

「あっ♡あっ♡あっ♡♡ イクっ♡ 悠真っ♡ 一緒に、イこっ♡♡」

「ああ……俺も……もう……っ!」

ぱんぱんぱんぱんっ♡♡♡♡。

「あぁぁぁぁっ♡♡♡♡ イクっ♡ イクイクイクっ♡♡♡♡」

「っ……!! 凪沙っ……!!」

いちばん奥で、びくびくっと弾けた。 凪沙の全身が、痙攣して、ぎゅうっと、俺にしがみついてくる。

「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡」

「はぁ……はぁ……ああ……最高だった……」

抱き合ったまま、しばらく、動けなかった。 エアコンの低い音と、窓の外の蝉の声が、二人の荒い息に、静かに溶けていく。

12. 夜明けの約束

どれくらい、そうしていただろう。 ふと気づくと、窓の外が、白み始めていた。短い夏の夜が、もう明けようとしている。

凪沙が、俺の腕の中で、くるりとこちらを向いた。 汗で額に張り付いた前髪。とろんとした目。上気した頬。

「……ねぇ、悠真」

「ん」

「これって……復縁、ってことで、いいんだよね」

「……聞くなよ、そういうの」

「だめ。今度は、ちゃんと、悠真の言葉で言って」

凪沙が、まっすぐ、俺を見上げた。 冗談に紛れさせない、本気の目だ。 俺は、八年前に言えなかった言葉を、今度こそ、ちゃんと口にした。

「……付き合おう。今度こそ、ちゃんと。もう、二度と、なんとなくで生きたりしない。お前のこと、自分で選ぶ」

「……うん♡」

「もう、離さないよ」

凪沙が、くしゃっと笑って、俺の胸に、顔を埋めた。

「……八年分、取り返してよね」

「ああ。一生かけて」

「うわ、重っ……ふふ」

「お前が言わせたんだろ」

二人で笑って、もう一度、唇を重ねた。

それから、俺たちは、また付き合い始めた。

驚いたのは、あの翌週、ようやく業者が来て俺のアパートのエアコンが直ったのに、俺がほとんど自分の部屋に帰らなくなったことだ。気づけば、洗濯物を抱えて凪沙の部屋に転がり込んでいる。

「ねぇ悠真、この字幕、『また会おう』と『きっと会える』、どっちがいいと思う?」

「俺に聞くなよ。サーバーのことしか分かんねえぞ」

「いいから。隣にいてくれると、言葉が決まるの」

モニターに向かう凪沙の横顔は、八年前と、何ひとつ変わっていなかった。 ただひとつ違うのは──もう、その隣の席が、空いていないことだ。

「ねぇ、悠真」

「ん」

「あのとき、エアコンが壊れてなかったら、私たち、再会してなかったね」

「……だな。おんぼろエアコンに、感謝だよ」

「ふふ、なにそれ」

窓の外には、すっかり明けきった、夏の朝の青空が広がっていた。 止まっていた八年分の時間が、あの熱帯夜のコインランドリーから、もう一度、ごうんごうんと、静かに回り始めていた。

― 終 ―


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