寂しかっただけ、と言い聞かせていた半年間の記録

先月、半年続いた元カレとの関係を終わらせようとして、失敗しました。

忘れないうちに書いておこうと思います。私は27歳、地元の調剤薬局で医療事務をやってます。新卒からずっと同じ店舗で、変化のない毎日。恋愛経験は今回書く元カレ一人だけなので、自分では「サンプル数1の女」って呼んでます。データが少なすぎて、何が普通で何が異常なのか、いまだによくわからないままです。

彼とは大学のサークルで知り合って、2つ上の先輩。付き合って4年、別れて2年になります。別れた理由は、彼が転職活動で不安定になってた時期に私がうまく支えられなくて、お互い意地を張ったまま自然消滅みたいに終わったこと。今思えば、あれは喧嘩っていうより、ただの体力切れだったと思います。

そこから半年前まで、彼とは完全に接点がありませんでした。この記録は、その半年間、何を「寂しいだけ」って自分に言い聞かせてきたかの記録です。

きっかけは去年の12月中旬、会社の忘年会帰りの金曜、夜11時くらい。地元駅前のコンビニで、酔い覚ましに何か食べようとおでんコーナーの前に立ったら、隣にいたのが彼でした。

一瞬、お互い固まって。(うそでしょ)って思ったのが先か、彼が口を開いたのが先か覚えてないけど、出てきた第一声がこれでした。

「……牛すじ、まだ好きなの?」

2年ぶりに会って第一声がそれって、ちょっと笑いました。彼、私が牛すじだけ異常に好きなことをまだ覚えてたんです。会話のきっかけとしては最悪だけど、逆に緊張がほぐれた気もします。

寒かったので、そのまま駅前のラーメン屋に流れて、近況を話しました。彼は転職して、今の会社でジム通いを始めたらしく、昔のガリガリの猫背から肩まわりだけ厚くなってた。上着を脱いだ時、セーターの肩のあたりがちょっと張ってて、(え、なんか身体変わってる)って地味に驚きました。冬なのに薄手のコートを着てくる無頓着さだけは、昔と全然変わってなかったです。

「相変わらず薄着だね、それ寒くないの?」

「意外と平気なんだよね、昔から」

「風邪ひいても知らないよ」

そういう他愛もないやり取りが、なんかやけに懐かしかったです。私は変わらず同じ薬局で同じ仕事、同じ毎日。話しながら(私、この2年で何も変わってないな)って地味に凹みました。

LINEを再登録して、店を出る前に私からこう言いました。

「友達としてね」

先に予防線を張ったつもりでした。傷つく前に、自分で釘を刺しておく癖があるんです。彼の返事はこれだけ。

「わかってるよ」

その一言が、なぜか妙に引っかかったまま帰りました。わかってるよって、何がわかってるんだろう、って。

年末、通販で買った収納棚が説明書通りに組み立てられなくて、ネジ穴が一箇所どうしても合わなくて、腹が立って彼を呼びました。「友達として」棚を組んでもらうだけ、という建前で。自分でも言い訳がましいのはわかってました。

彼は本当に棚だけ組み立てて、お茶一杯飲んで帰っていきました。玄関で靴を履いてる時、3秒くらい変な間があって、(何か言うのかな)って思ったのに、結局何も起きなくて「じゃあ」って帰っていった。拍子抜けしたのと、ほっとしたのと、認めたくないけど地味にがっかりしたのと、全部が同時に来ました。

年が明けて1月、大雪の夜がありました。飲み会の帰り、彼が最寄り駅まで送ってくれることになったんですけど、その日に限って大雪で電車が全部止まって、タクシーも全然捕まらなくて。結局、うちに泊まってもらうしかなくなりました。

布団は一組しかなくて、私のワンルームは古い物件で暖房の効きが悪い。彼は最初「床で寝るから」って言い張ってたんですけど、実際に横になったら「無理、寒すぎる」ってすぐギブアップして、結局同じ布団に入ることになりました。

背中越しに彼の体温が伝わってきて、なんか変な気まずさがありました。彼の指先って昔からずっと冷たくて、それが偶然、私の手の甲に触れた瞬間、私も彼も一瞬止まりました。

暗闇の中で、どっちからともなく向き合って、気づいたらキスしてました。私、そこで先にこう言いました。

「これ、寂しいだけだから。勘違いしないでね」

自分でもよくわからない言い訳でした。誰に向けての言い訳なのか。彼に対してなのか、自分に対してなのか。彼は返事をせず、セーターの上から背中をゆっくり撫でてきました。その手つきが昔とまったく同じで、(覚えてるんだ、この撫で方)って心の中で驚いてました。

彼が耳の後ろに口づけてきた時、思わず声が出ました。

「……覚えてるんだ、そこ」

私の耳の後ろが弱いのは、彼にしか教えたことがない場所です。2年経ってるのに、彼の指も唇もそこの位置を正確に覚えていて、それがなんか怖いくらいでした。指でそこをほぐされながら、気持ちいいっていう感覚より先に、(身体が覚えてる、私の身体が)っていう動揺の方が大きかったです。頭では終わった関係だってわかってるのに、身体は2年前の続きをやろうとしてる。その温度差に、自分でついていけなくなってました。

彼が財布からゴムを出そうとして、暗闇で焦ったのか、封を開ける時に指が滑って1個目を破いてしまいました。

「あ、やば……」

「大丈夫、まだあるんでしょ」

財布の中には2個しか入ってなくて、残り1個。実質もう後がない状況でした。

2個目でようやく準備できて、正常位で入ってきたんですけど、2年ぶりだったのできつくて、痛くて、思わず声が出ました。

「ちょっと待って……痛い」

「ごめん、無理しないで」

一度止めてもらって、しばらく時間をかけてまたやり直してもらいました。彼は焦らずゆっくり慣らしてくれて、最後は横向きで背中から抱きこまれる体位に変わりました。そのほうが痛みが少なくて、彼の腕が私のお腹に回って、その重みと体温が、なんかすごく安心する形をしていました。後ろから緩やかに揺すられるたびに、狭い部屋の中で息遣いだけがやけに大きく響いてました。

行為の間中、私は心の中でずっと「寂しいだけ、寂しいだけ」って唱えてました。でも、彼の腕の中の温度に触れれば触れるほど、その言葉がどんどん嘘くさく聞こえてくるんです。寂しいだけなら、こんなに彼じゃなきゃダメな理由が説明つかない。そこまで考えて、(いま考えることじゃない)って無理やり打ち切りました。

「……そろそろ、出る」

短くそれだけ言って、彼は最後に少し強く腰を押し付けてから、動きを止めました。ゴム越しに彼が果てたのがわかって、しばらく二人とも息を整えるだけで動けませんでした。(久しぶりすぎて、なんか実感が薄いな)って、変に冷めた自分もどこかにいました。

終わった後、暖房をつけっぱなしにしてたのに喉がカラカラで、汗をかいたせいで逆に肌寒くて。狭いユニットバスのシャワーの順番を「先どうぞ」「いや先に」って地味に譲り合いました。

翌朝、彼が雪の中コンビニまで行って、肉まんを2個買ってきてくれました。湯気の立つ肉まんを半分に割って渡してくれながら、彼は特に何も言いませんでした。私はシーツを洗濯機に放り込みながら、また念を押しました。

「付き合ってるわけじゃないからね」

「わかってるよ」

またこの返事。何回目だろうって思いました。

それから、月に2〜3回くらいのペースで同じことが続きました。彼から連絡が来る日もあれば、私が「暇?」って送る日もあって、大体そのまま流れで会って、なんとなく泊まって、なんとなくそういう感じになる。ご飯を一緒に食べて、他愛もない話をして、気づいたら電気を消してる。付き合ってはいない、でも会えば必ず身体を重ねる。名前のない関係でした。

その間も、私は毎回律儀に「付き合ってるわけじゃないから」って言い続けてました。彼も毎回「わかってるよ」って返す。それがもう二人の間の合言葉みたいになってて、言うたびに(私、何やってるんだろう)って頭の隅で思うのに、口では同じ台詞を繰り返してました。デートって呼べるようなことは一度もなくて、会う場所はいつも私の部屋か、彼の部屋でした。

3月に入ったある夜、彼がうちに泊まった時、充電中の彼のスマホの画面が光って、マッチングアプリの通知が表示されているのを見てしまいました。

一瞬、頭が止まりました。問い詰めたい気持ちはあったんですけど、よく考えたら私にそんな権利ないんですよね。付き合ってないんだから。友達として、って自分で最初に言ったんだから。何も言えないまま、通知だけ見なかったふりをしました。

その週末、友人にこの話をしたら、開口一番こう言われました。

「それ、ただのセフレじゃん」

一刀両断でした。頭では自分でもわかってたはずなのに、こうやって他人の口から名前をつけられると、急に重みが変わりました。半年間、私は何をしてたんだろう、って。

自己嫌悪と後悔が一気に押し寄せてきて、ちゃんと終わらせようって決めました。「もう会わない」って言うために、最後に一回だけ呼んだんです。皮肉なことに、それを言うために選んだのも彼の部屋じゃなくて私の部屋、いつもの布団でした。

でも結局、また流されました。彼が私を見る目とか、脱いだ服を畳む手つきとか、全部いつも通りで、気づいたら「終わりにしよう」の一言を言えないまま、また身体を重ねてました。

その日は正常位で始まったんですけど、途中で急に彼の顔がまともに見られなくなって、両手で彼の目を覆いました。

「ごめん、ちょっと待って。顔、見ないで」

自分でもわけがわからなかったです。ただ、彼にちゃんと顔を見られたら、何か決定的なことがバレる気がして怖かった。彼は言われた通り目を閉じて、動きを止めてくれました。ゆっくり中まで入ってきた感覚があったのに、それを気持ちいいと思う余裕すらなくて、ただ彼の重みだけを受け止めてました。

そのまま、涙が止まらなくなりました。声を出さずに、ただぼろぼろ泣いてる私を見て、彼は何も聞かずに、動くのをやめて、そのまま抱きしめてきました。繋がったままの状態で、二人ともほとんど動かず、彼の心臓の音だけが伝わってきました。

しばらく二人とも動かないまま、彼の腕の中で泣き続けました。ようやく落ち着いてきた時、私は言いました。

「寂しかっただけって、ずっと言い聞かせてた。でも違った」

半年分の本心が、ようやく言葉になった瞬間でした。寂しさを埋めるためだけの関係のはずが、いつのまにか彼自身が欲しくなってた。それを認めるのが怖くて、ずっと「寂しいだけ」でごまかしてました。

彼は長い間黙ってから、ぽつりと言いました。

「俺も、寂しいだけって思うようにしてた」

その一言で、こっちも同じように言い訳しながらここまで来てたんだってわかりました。お互い様だったんです。

「アプリの通知、見たよ」

「ああ……登録だけして、一回も会ってない。正直、始める気になれなかった」

嘘をついてる感じはしませんでした。じゃあなんで登録したのって聞きたい気持ちもあったけど、それより先に、彼の次の言葉のほうが重かったです。

「ちゃんと考えさせて。今度は雑に始めたくない」

即答を避けられました。がっかりする気持ちと、ちゃんと考えてくれるならそれでいいという気持ちが半々でした。少なくとも「わかってるよ」よりは、よっぽど誠実な返事だったと思います。

今、私は彼の返事を待っています。今週末、ちゃんと会って話すことになりました。この関係がどうなるのか、正直、私にもまだわかりません。

ただ、結果がどっちに転んでも、もう「寂しいだけ」とは書かないと決めています。

牛すじは、あれから一度も買ってません。


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