罪悪感は薄れるのではなく、甘くなるのだと知った夜

罪悪感って、時間が経てば薄れるもんだと思ってた。

違った。あれは薄れない。甘くなるんだ。

最初は砂糖を入れすぎたコーヒーみたいに、飲み込むだけで喉が焼けそうだったのに、今は普通に飲めてる。それどころか、ないと落ち着かない。

俺、27歳。新潟の長岡で水道設備会社の事務員をやってます。高卒で入って9年目、経理と電話番が主な仕事。彼女いない歴は4年、これはもう歴というより体質。「俺なんか」が口癖レベルで染みついてて、合コンに誘われても行かないタイプの、まあどこにでもいる量産型の独身男です。

その俺が今、関係を持ってる相手というのが――兄貴の嫁さんです。

兄貴は34歳、大手メーカー勤務で、去年の春から名古屋に単身赴任してます。義姉さんは31歳、長岡に残ってパートをしながら一人暮らし。俺と義姉さんが初めて会ったのは3年前、兄貴の結婚式でした。あのとき義姉さんに「弟くん、お兄さんと全然似てないね」って笑われたのを、今でもよく覚えてます。兄貴は昔から出来がよくて、俺は昔から比べられる側だったから、その一言もまあ慣れっこというか、いつもの流れって感じで受け流しました。

兄貴が名古屋に行ってから、実家の母親に「雪囲いやっといてあげて」って頼まれたのが、そもそもの始まりでした。長岡は雪国なので、冬場は誰かしら屋根の雪下ろしとか灯油の補充とかをやらないといけない。兄貴の家は義姉さん一人だし、母親としても心配だったんでしょう。俺は独身で暇だし、車もあるし、頼まれたら断れないタイプなので、二つ返事で引き受けました。

最初はほんとに用事だけ済ませてすぐ帰るつもりだったんですよ。雪かきして、灯油入れて、切れてた電球を交換して、「じゃあ」って帰る。それだけのはずだった。

それがいつの間にか、行くたびに夕飯をごちそうになる流れができてました。義姉さんの飯、普通に旨いんですよね。豚汁とか、ぶり大根とか、実家の母親より丁寧な味付けで、(こんなん食ったら来ちゃうだろ、そりゃ)って自分でも思ってました。

飯を食いながら缶ビールを開ける習慣もいつの間にかできてて、これがまた発見だったんですけど、義姉さんは1本目まではきっちり敬語なんです。「ありがとうございます、いつも」みたいな。でも2本目に入るとふっと素が出る。「弟くん」って呼び方はそのままなのに、語尾がタメ口に崩れてくる。「今日寒かったっしょ」みたいな。

そのギャップに、ちょっとドキッとしてる自分がいました。もちろん、兄貴の嫁さんに対してそんな気持ちを持つのはダメだってわかってたので、(いやいや、これは単に人として気安くなっただけだ)って自分に言い聞かせてたんですけど。

ある日の夕飯の席で、俺、何気なく聞いたんです。

兄貴、電話出ないんですよね最近

軽い世間話のつもりでした。でも義姉さんの箸が、その瞬間ぴたっと止まったんです。

……そうなんだ

それだけ言って、また食べ始めた義姉さんの表情に、何か引っかかるものがありました。でもそのときは深く聞けなくて、俺も「ですよね」とだけ返して話を変えました。

12月の中旬、こたつで年賀状の宛名書きを手伝う夜がありました。義姉さんが「字が汚いから」って俺に手伝ってほしいって言うので、二人でこたつに入って住所録とにらめっこしてたんですけど、そのとき義姉さんが着てた部屋着が、どう見ても兄貴のお下がりの灰色のスウェットだったんです。

袖が余ってて、たくし上げながら字を書いてる義姉さんを見て、なんか変な気持ちになりました。(これ、兄貴の匂いとかまだ残ってんのかな)とか、ちょっと踏み込んじゃいけない領域まで考えてしまって、慌てて頭を振りました。

宛名書きが一段落したところで、義姉さんがぽつっと言いました。

冬になるとさ、この家、音がなさすぎて怖いんだよね

雪が全部の音を吸い込むから、外も静かで、家の中も静かで、テレビ消したら本当に何も聞こえなくなる。そういう意味だと思ったんですけど、なんか声のトーンが、それだけじゃない気がしました。

その日、帰り際に玄関で言われた「また来てね」が、いつもよりちょっとだけ小さかった。

年末の27日、また用事で家に行ったとき、テーブルの上に置いてあった義姉さんのスマホの画面が一瞬光りました。兄貴からのLINEでした。

「正月は帰れない。仕事」

それだけ表示されて、すぐに画面が消えたんですけど、消える直前、一瞬だけ別のトーク画面が見えた気がしました。女の人が送ったっぽいスタンプの、既読がついた画面。

俺が固まってると、義姉さんが先に言いました。

知ってるよ。名古屋に人がいるの。半年前から

淡々とした声でした。俺が何か言おうとする前に、義姉さんは手の甲で口を隠して笑いました。

なんで弟くんの方が泣きそうな顔してるの

泣かずに笑ってる義姉さんの方が、俺よりよっぽど強い。なのにその笑い方が逆にきつくて、慰めるはずの俺が先に泣きそうになりました。

そして12月30日、記録的な大雪が降りました。国道も止まって、バスも運休。俺はその日も義姉さんの家の屋根の雪下ろしに行ってたんですけど、気づいたら日が暮れてて、帰れる状況じゃなくなってました。

しかも夜になって、ブレーカーごと停電しました。近所一帯が真っ暗で、義姉さんの家も居間の灯油ストーブの灯りだけが頼りでした。

今日はもう泊まってきなよ、この雪じゃ無理でしょ

正直、そう言われてホッとしてる自分もいました。義姉さんと二人きりで一晩、というのは意識しないわけがなかったんですけど、(雪のせいだから仕方ない)って自分に言い訳してました。俺が悪いわけじゃない、雪が悪い。そういうことにしておきたかった。

一枚の毛布を二人で分け合ってストーブの前に座ってたとき、義姉さんの肩が俺の肩に触れました。細くて、思ったより華奢な肩でした。

手、貸して

義姉さんの手は氷みたいに冷たくて、俺は思わずその手を両手で包んで、こすって温めました。

弟くんの手、あったかいね。……ずるいよ、そういうの

何がずるいのか、ちゃんとはわからなかったんですけど、その一言のあと、義姉さんの顔がすっと近づいてきて、そのままキスされました。俺からじゃなくて、義姉さんから。

(マジかよ……いや、待て、これ兄貴の……)

頭の中で兄貴の顔がチラついたんですけど、義姉さんの唇が離れなくて、俺もいつの間にか応えてました。

寒くて服を全部脱ぐなんて無理だったので、毛布の中で義姉さんのスウェットをたくし上げただけの、半分脱いだ状態で胸に触れました。ブラのホックがどうしても外せなくて、指がかじかんでるのもあってもたもたしてたら、

貸して

義姉さんが自分で手を回して、あっさり外しました。ストーブの橙色の灯りの中で見えた義姉さんの胸は、思ってたより大きくて(後で聞いたらDカップだそうです)、白くて柔らかくて、細い体からは想像できないぐらいでした。

「お世辞はいいから」って言われそうな気がしたので、何も言わずに触りました。柔らかい膨らみを両手で包んで、先端に軽く触れると、義姉さんが小さく息を漏らしました。

(兄貴の……嫁さんの……)

行為の間中ずっと、兄貴の顔がチラつきました。結婚式で見た笑顔とか、実家で酒飲んでる姿とか。でも同時に、「兄貴は名古屋で他に女がいるんだから、俺がここで何しても文句言えないだろ」っていう自己正当化も湧いてきて、その二つが頭の中でぐるぐる交互に来ました。信じられないけど、止められない。そんな感じでした。

財布の中に、古いコンドームが1個だけ入ってました。いつ買ったかも覚えてないぐらい前のやつで、使用期限が微妙に心配だったんですけど、今それを言い出す空気でもなく、黙って着けました。

毛布の中、正常位で義姉さんの中に入ろうとしたんですけど、寒さで手も体もかじかんでて、緊張もあって、最初うまく入りませんでした。

大丈夫、ゆっくりでいいよ

義姉さんが優しく言ってくれたおかげで、なんとか腰を進められました。中に入った瞬間、義姉さんが小さく声を上げました。

あっ……

声、出したことなかったかも。この家で

その一言に、何か複雑なものを感じました。兄貴といたときはこうじゃなかったのかもしれない、なんて考えながら腰を動かしてたんですけど、緊張と興奮のせいで、情けないことに3分も持たずに終わってしまいました。

すみません……

謝る俺に、義姉さんは笑いませんでした。

いいよ。あったかいから、このままでいて

しばらく抱き合って休んでから、2回目は毛布の中で横向きになって、後ろから抱く体位でやりました。1回目より少し余裕ができて、義姉さんの背中に体を密着させながら動いてたんですけど、途中で急にパッと部屋が明るくなりました。電気が復旧したんです。

わっ、ちょっと

慌てて二人で毛布を頭までかぶりました。急に照明の下に晒された気まずさに、二人で少し笑ってしまいました。こういうところは、義姉さんも俺と同じ人間なんだなと妙に安心しました。

行為が終わったあと、汗が冷えて急に寒くなりました。ストーブの灯油が切れかけてたので、俺は全裸にダウンジャケットだけ羽織って、給油タンクを持って外まで行きました。義姉さんはタオルを探すとき、兄貴が使ってたらしいタオルを一瞬手に取って、それを棚に戻して、代わりに新品のバスタオルを出してくれました。そういう細かいところに、義姉さんの中にある何かを感じて、何も言えませんでした。

翌朝は二人とも無言で雪かきをしました。スコップが雪に刺さる音だけが、しんとした空気の中に響いてました。

昨日のは、雪のせいってことでいいですか

……うん。雪のせい

その言葉で、俺たちは一旦それで終わらせるつもりでした。少なくとも俺はそう思ってました。

でも年が明けて、初詣の帰りにまた義姉さんの家に寄って、結局同じことになりました。「今回で最後にしよう」って毎回思うのに、義姉さんの家の窓に灯りが見えると、気づいたら足がそっちに向いてるんです。

1回目のときは、行為の最中も終わったあとも、兄貴に申し訳なくて吐きそうでした。でも回数を重ねるごとに、その気持ちがだんだん薄まるんじゃなくて、なんというか、飲みやすい味に変わっていくのがわかりました。最初は苦くて仕方なかったコーヒーに、砂糖を足していくみたいに。罪悪感がなくなるわけじゃないんです。ただ、飲み込めるようになる。俺は最低なやつだっていう自覚は消えないまま、その自覚ごと甘くなっていく。

兄貴は正月も帰ってきませんでした。2月にあった義姉さんの誕生日にも帰ってきませんでした。俺は今週も、灯油を届けに義姉さんの家に行きます。

二人が離婚するのか、このままずるずる続けるのか、正直、俺にも義姉さんにもまだ答えは出てません。ただひとつ変わったことがあるとすれば、玄関を開けたときに義姉さんが言う言葉です。前は「いらっしゃい」でした。今は「おかえり」って言われます。

罪悪感は、時間が経っても消えない。ただ、甘くなる。今日もその甘さに、俺は雪道を車で走っていきます。


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