25歳、メーカー勤務のしがない営業マンです。
顔面偏差値は中の下ぐらいだと思ってる。身長170で体型は普通。阿部寛の若い頃に似てるとか言われたことあるけど、絶対お世辞だろって毎回思う。鼻がでかいだけだよ、たぶん。
で、この話は去年の11月、金曜日の夜に起きたやつ。
その日は取引先との会食があって、上司と一緒に新橋の居酒屋で飲んでた。上司が先に帰って、俺はなんとなくもう一軒行きたい気分で、烏森口のほうにある焼き鳥屋にふらっと入った。
カウンターだけの小さい店で、席は10席もない。金曜の23時すぎだから当然満席に近くて、一つだけ空いてた端っこの席に座った。
隣に女の子がいた。一人で焼き鳥食べてた。
(一人で焼き鳥屋って珍しいな)
髪は鎖骨ぐらいのミディアムで、ゆるく巻いてる感じ。横顔しか見えなかったけど、今田美桜をもう少しだけ大人っぽくした感じの子だった。身長は座ってるからわからんけど、あとで立ったとき160ちょいぐらいだった。
俺がハイボールとねぎまを頼んで、ぼーっとスマホ見てたら、その子がいきなり話しかけてきた。
「すみません、塩ダレってどれですか?」
メニューの場所を聞かれただけ。壁に貼ってある手書きのメニューが見づらかったらしい。
「あ、あっちの右上のやつです。つくね塩ダレ」
「あーほんとだ、ありがとうございます。一人なんですか?」
「はい、二軒目で」
「私もです。友達に帰られちゃって」
それだけの会話だったのに、なぜかそのあとも自然に話が続いた。
名前はユキっていうらしい。年齢は24歳で、IT企業でUIデザイナーをやってるとのこと。渋谷で働いてて、今日は新橋で友達と飲んでたけど、その友達が先に帰っちゃったから、一人でもう少し飲もうと思ってこの店に入ったんだと。
「焼き鳥屋って一人で入りやすいんですよね。カウンターだし」
「わかる。立ち飲みとかもそうだよね」
「あ、それもめっちゃ行きます。上野のガード下とか」
話してて気づいたけど、この子めちゃくちゃ話しやすい。テンポがいいっていうか、こっちが言いかけたことを拾うのがうまい。あとよく笑う。目が細くなるタイプの笑い方で、なんか見てるとこっちまで笑えてくる。
ハイボール3杯目ぐらいで、ユキが唐突に言った。
「あの、彼女いるんですか?」
「いないです。3年ぐらい」
「うそ、3年?」
「マジで。出会いがなさすぎて」
「えー、もったいない。私はいます、彼氏」
(あ、いるんだ)
正直ちょっとがっかりした自分に気づいて、いやいや何期待してんだよって思った。焼き鳥屋で隣になっただけだろうが。
「いいじゃん、何年目?」
「2年ぐらい……なんですけど」
言い方が微妙だった。「なんですけど」のあとに何か続きそうな間があった。
「なんか、あんまり楽しそうに言わないね」
「……あはは。わかります?」
「いや、なんとなく」
「最近、なんか合わないなって思うことが増えて。今日も本当は彼氏と会う予定だったんですけど、ドタキャンされて。それで友達呼んだんですよ」
「あー……」
「ドタキャンの理由が"会社の飲み会"なんですけど、それ先週も言ってたんですよね」
笑いながら言ってたけど、目は笑ってなかった。
(こういうとき、何て言えばいいんだろうな)
「まあ、会社の飲み会は断れないときもあるから……」
「フォローしてくれるの優しいですね。でも2週連続はさすがに嘘っぽくないですか」
「うん、ちょっと怪しいね」
「でしょ?」
ユキがハイボールの氷をストローでかき混ぜながら、ふうっと息を吐いた。その横顔が、さっきまでの明るい感じとは全然違ってて、なんか胸がざわついた。
そのあとは彼氏の話はしなくなって、お互いの仕事の話とか、最近見た映画の話とか、くだらない話をずっとしてた。ユキがNetflixで『サンクチュアリ』にハマってるって言うから、俺も見てたんで盛り上がった。
「猿桜が好きなんですよ私」
「わかる、猿桜いいよな。不器用な感じがいい」
「そう!不器用なんだけど、芯がある感じ!」
「それ俺じゃん」
「どこが(笑)」
「不器用なとこだけ一緒」
「芯がないんかい」
こういうテンポの会話、久しぶりだった。
気づいたら0時を回ってて、焼き鳥屋のラストオーダーの時間になった。
「もう終電ないですよね」
「ないね。俺、武蔵小杉だから」
「私、中目黒。……どうします?」
「どうしよ。漫喫でも行くかな」
「あの、よかったら……もうちょっと飲みません?」
断る理由がなかった。っていうか、断りたくなかった。
焼き鳥屋を出て、近くのバーに入った。カウンターの薄暗い店で、ジャズが小さく流れてる感じのやつ。新橋にこんな店あったんだって思った。
バーに移動してから、ユキの雰囲気が少し変わった。焼き鳥屋ではガハハって笑うタイプだったのが、ちょっと声が小さくなって、距離も近くなった。カウンターの椅子が近いのもあるけど、膝がたまに当たるぐらいの距離。
「なんか……初めて会った気がしないんですよね」
「それ、ナンパの常套句じゃん」
「違いますって(笑)。本当にそう思ったんです」
「俺もちょっと思ってた」
「……ほんとに?」
ユキが俺のほうを見た。バーの間接照明のせいか、目がすごくきれいに見えた。
(いや、待て。彼氏いるって言ってたよな)
頭ではわかってるのに、心臓がうるさい。
ジントニックを2杯ぐらい飲んだところで、ユキがスマホを確認して、ちょっと表情が曇った。
「……彼氏からLINE来てる」
「なんて?」
「"今日ごめんね、来週埋め合わせする"だって」
「いい彼氏じゃん、ちゃんと謝ってくるし」
「……そうですかね」
ユキがスマホをバッグにしまって、こっちを向いた。
「ねえ、正直に聞いていいですか」
「どうぞ」
「私のこと、どう思ってます?」
(え、急すぎない?)
「……どうって」
「女として見てますか?」
酔ってるのもあるんだろうけど、目がまっすぐだった。ふざけてる感じじゃない。
「……見てるよ。めちゃくちゃかわいいと思ってる」
言っちゃった。言ってから後悔した。彼氏いるのに何言ってんだ俺は。
「……」
ユキが黙って、グラスに口をつけた。数秒間、やばい空気が流れた。
「……うれしい」
小さい声でそう言われて、もう理性とかそういうのが一気にぐらついた。
バーを出たのは2時ぐらいだった。11月の新橋は寒くて、ユキがコートの襟を立てながら隣を歩いてた。
「始発まであと3時間ぐらいありますよね」
「うん」
「……ホテル、行きたい」
ユキのほうから言った。
正直、俺からは絶対言えなかった。彼氏がいるってわかってるし、こんなの俺がやっちゃいけないことだってわかってた。でも。
「……いいの?」
「今日だけ。今日だけでいいから」
新橋のビジネスホテルに入った。一番安いシングルの部屋。ベッドが一つあるだけの狭い部屋で、入った瞬間にユキが俺の背中にぴったりくっついてきた。
振り向いたら、ユキが目を閉じてた。
キスした。
唇が触れた瞬間、ユキの手が俺のシャツの裾をぎゅって掴んだ。それがなんか、すごくきた。
「……ユキ」
「ん……」
最初のキスは軽く触れるだけだったのに、2回目は深くなって、3回目にはもう舌が絡んでた。ユキの舌がやわらかくて、ちょっと甘い味がした。ジントニックの残り香かもしれない。
コートを脱がせて、ニットの上から腰を抱いた。ユキの身体は思ったより細くて、でも腰のあたりにちゃんとやわらかさがあった。
「……脱がせて」
耳元で言われて、もう無理だった。
ニットを脱がせたら、黒いレースのブラだった。普段使いっぽいやつなのに、なんかそれがリアルで余計にドキドキした。
(これ本当に起きてるのか?さっきまで焼き鳥食べてた相手だぞ)
ブラを外した。Cカップぐらいで、形がすごくきれいだった。上向きで、肌が白くて、乳首がピンクで小さくて。
「……きれい」
「恥ずかしいんですけど……」
さっきまでタメ口だったのに、急に敬語に戻ったのがかわいかった。
胸に触れたら、ユキが小さく声を出した。乳首を指で触ると、すぐに硬くなって、ユキの呼吸が変わった。
「あ……そこ、弱い……」
舌で乳首を舐めたら、ユキが俺の頭を両手で抱えた。
ベッドに倒れ込んで、スカートを脱がせた。黒のショーツで、ブラとお揃いだった。
(こういう日を想定してたわけじゃないよな……?いや、考えるな)
ショーツの上から触ったら、もう濡れてた。
「……やだ、もうこんなに……」
「嫌ならやめるけど」
「やめないで」
ショーツをずらして直接触った。ぬるっとした感触が指に伝わって、ユキが腰をびくっとさせた。
クリを軽く触っただけで、ユキの身体が跳ねた。
「あっ……そこ……だめ……」
「だめ」って言いながら、腰が寄ってくる。指を中に入れたら、きゅっと締まって、ユキが目を閉じて唇を噛んだ。
「感じやすいんだな」
「……こんなの、初めて……」
「何が?」
「こんなに……濡れたの、初めて……」
それ聞いて、頭の中がぐわってなった。
指を動かしながら胸を舐めてたら、ユキがどんどん声を我慢できなくなってきて、枕に顔を埋めた。
「やばい……もう……いきそう……」
「いっていいよ」
「あっ……あっ……!」
ユキの身体がぶるっと震えて、中がきゅうっと指を締めつけた。太ももがぴたっと閉じて、しばらくそのまま動かなかった。
「……はぁ……はぁ……」
荒い息のまま、ユキが俺を見上げた。目が潤んでて、頬が赤くて、髪が乱れてて。
「……入れて」
財布からコンビニで買ったゴムを出した。いつ買ったかも覚えてないぐらい前からずっと入ってたやつ。
(使う日が来るとは思ってなかったな)
ゴムをつけて、ユキの脚の間に入った。先端を当てたら、ユキが息を止めた。
ゆっくり入れた。
「……っ……」
「大丈夫?」
「うん……動いて」
中があったかくて、きつくて、なんていうか……相性っていうのはこういうことなのかって初めて思った。元カノとのときとは全然違った。ユキの中が、俺の形にぴったりハマるみたいに吸いつてきた。
「あっ……すごい……なにこれ……」
「……やばい、気持ちいい……」
「私も……こんなの……」
ゆっくり動いてたのに、だんだんお互いに我慢できなくなってきて、ユキが自分から腰を動かし始めた。
「もっと……奥まで……」
奥に当たるたびに、ユキが声を出す。壁の薄いビジネスホテルだから、小さい声で我慢してるのがわかるんだけど、それが逆にたまらなかった。
「ユキ……」
「名前……呼んで……もっと……」
「ユキ、ユキ……」
名前を呼ぶたびに、中がきゅっと締まった。
「あ……だめ……またいく……っ」
ユキの腕が俺の背中に回って、爪が食い込んだ。痛いのに、それがすごく興奮した。
「いく……いくっ……!」
2回目のとき、ユキが俺の肩に顔を埋めて、声を殺してた。身体の震え方が1回目より激しくて、中がぎゅうぎゅう締まって、俺もそろそろ限界だった。
「俺も……もう……」
「うん……いいよ……」
最後に深く入れて、ユキを抱きしめたまま出した。ゴムの中だけど、出してる間ずっとユキが俺の背中をさすってて、なんかそれが優しくて、終わったあとしばらく離れられなかった。
ユキの上から降りて、並んで仰向けになった。天井を見ながら、二人とも息が荒いまま、何も言わなかった。
「……ねえ」
「ん?」
「もう一回……したい」
2回目はユキが上に乗った。
さっきとは全然違って、ユキが自分から動くぶん、中の感触がダイレクトに伝わってきた。1回目で慣れたのか、ユキの動きが大胆になってて、手を俺の胸に置いて、腰をぐりぐり回すように動かした。
「ここ……当たる……すごい……」
自分で角度を調整してるのがなんかエロくて、下から腰を持って合わせた。
「あっ……そう、そこ……!」
2回目は1回目より長く続いて、お互い何回もいきそうになっては止めて、を繰り返した。ユキが「もう無理……」って言ったタイミングで、俺も一緒にいった。
そのあとユキが俺の胸に頭を乗せて、しばらくそのままでいた。
「……ごめんね」
「何が?」
「彼氏いるのに、こんなことして」
「……俺もだよ。わかってたのに」
「後悔してる?」
「……してない。ユキは?」
「……してない」
窓の外がうっすら明るくなってきてた。時計を見たら5時前だった。
シャワーを浴びて、服を着て、ホテルを出た。
新橋の駅に向かって歩いてるとき、ユキが俺の腕にしがみつくように歩いてた。11月の朝は寒くて、ユキの吐く息が白かった。
「ねえ、連絡先交換しない?」
「……いいの?」
「今のままだと、これっきりになっちゃうでしょ」
LINEを交換した。
改札の前で立ち止まった。ユキは日比谷線で中目黒、俺は東横線で武蔵小杉。途中まで同じ方向だけど、なぜかここで別れたほうがいい気がした。
「じゃあ……また、連絡するね」
「うん」
ユキが改札を通って、振り返って小さく手を振った。
その笑顔が、焼き鳥屋で最初に話しかけてきたときと同じ顔で。
(……俺、やばいかもしれない)
家に帰って、ベッドに倒れ込んだけど、全然眠れなかった。
ユキのことをずっと考えてた。声とか、笑い方とか、名前を呼んだときの中の感触とか。
彼氏がいる。それはわかってる。俺が割り込んでいい関係じゃない。
でも、あの「してない」って言ったときのユキの顔が、ずっと頭から離れなかった。
日曜の夜、ユキからLINEが来た。
「今日、彼氏と別れました」
心臓が止まるかと思った。
「来週、また焼き鳥食べに行きませんか?」
その一行を見て、俺は初めて、金曜の夜の自分を許せた気がした。
いま、ユキと付き合って8ヶ月になる。
あの新橋の焼き鳥屋には月一で通ってて、いつも同じカウンターの端っこに二人で座る。
店のおっちゃんが「またお二人さんか」って笑うたびに、ユキが俺の腕をつねる。
相性がいいって、こういうことなんだと思う。身体だけじゃなくて、笑うタイミングとか、黙ってても気まずくないところとか、焼き鳥の塩加減の好みが一緒なところとか。
全部ひっくるめて、あの夜に出会えてよかったと思ってる。