1. 点になった船
その日も、僕の画面の中で、海は黒い余白でしかなかった。
笠原航(かさはら わたる)、三十歳。神戸に本社のある内航海運の会社で、運行管理をやっている。仕事は、画面だ。瀬戸内海の海図を映したモニターの上で、何隻もの貨物船が、緑色の三角形になって、ゆっくり動いている。僕の役目は、その三角形に、いつどこを通れと指示を出すこと。潮の流れ、他船との間隔、入港の順番。全部、数字で割り出して、最短の航路を引く。
笠原航(……この船、あと二時間で来島海峡。潮、今日は速いな。三十分早めるか)
そんなふうにしか、もう、船を見られなくなっていた。
先月の深夜、当直で海図を睨んでいたとき、ふと、画面の隅にある小さな印に、目が留まった。海図に散らばった、星みたいな記号。〈灯〉と添え書きのある、その点。灯台の位置を示す印だ。僕は何千回もその印の脇を、船の三角形を通してきた。けれど、その灯りが、本物に、今この瞬間も、どこかの岬で回っているなんて、考えたこともなかった。
誰かが、あれを灯しているのか。それとも、機械が、勝手に光っているだけなのか。僕には、わからなかった。
きっかけは、その晩、仮眠室のスマホに流れてきた一枚の写真だった。夜の海に向かって、白い光の帯が、まっすぐ一本、伸びている。回転する灯台の灯りを、長く露光して撮ったものらしい。キャプションには、ただ「島の灯台守」と、それだけ。
僕は、その光の帯を、ずいぶん長いこと、見ていた。緑色の三角形でも、潮位のグラフでもない。ただ、暗い海と、その海に向かって伸びる、一本の、灯りだった。
翌週、僕は三日の有休を取って、深夜のフェリー乗り場に立っていた。
2. 島の灯り
写真のタグに付いていた、瀬戸内の小さな島の名前だけが、頼りだった。
汐ノ瀬島(しおのせじま)。本土の港から、最終の連絡船で、一時間半。乗り込んだのは、僕を入れて、客が三人きりだった。船は、真っ暗な海を、エンジンの音だけを響かせて、ゆっくり進んでいく。
デッキに出ると、潮の匂いが、いっぺんに濃くなった。陸の灯りが、後ろへ遠ざかっていく。やがて、進む先の闇の中に、ひとつだけ、光が見えた。
点いて、消えて、また点く。一定の間隔で、こちらを撫でるように、回ってくる白い光。
灯台だ、と、すぐにわかった。海図の上で、何千回も脇を通り過ぎた、あの〈灯〉の印。それが、今、本物の光になって、僕の乗った船を、照らしていた。胸の奥が、わけもなく、ひとつ鳴った。
島の桟橋に降りると、迎えは、誰もいなかった。坂の途中に、ぽつんと一軒、灯りのついた店があった。〈しおや食堂〉。すりガラスの戸を開けると、煮魚の匂いと、テレビの音がした。
奥から、小柄なおばあさんが出てきた。七十は越えているだろう。日に焼けた、皺だらけの顔。けれど、目だけが、よく光っていた。
君枝「はいはい、こんな時間に船で来たんは、あんたかね。予約の、笠原さん。よう来たなあ、こんな何もない島まで。わたしが、ここの婆で、君枝(きみえ)っていうの」
笠原航「笠原です。よろしくお願いします。あの……船から、灯台の灯りが、見えて」
君枝「ああ、灯台な。この島の、いっとう先っぽ。あれがあるから、昔は船がようけ寄ったの。……あんた、灯台、見に来たんかね」
僕は、うなずいた。うまく説明できなかったけれど、たぶん、そうだった。
君枝「ふうん。物好きやねえ。……なら、明日、岬に行ってみな。今でも、ちゃあんと、人が守っとるよ。凪(なぎ)ちゃんいう、若い子がね」
人が守っている。その言葉に、僕は、顔を上げた。機械じゃ、なかったのだ。
3. 岬の人
翌朝、僕は、島の背骨みたいな一本道を、岬の先へ向かって歩いた。
梅雨の合間の、薄曇り。道の両脇は、みかんの段々畑と、夏草の繁った斜面。やがて道が尽きると、海に突き出した岬の上に、それは立っていた。
白い、円筒形の灯台。思っていたより、ずっと、大きかった。塗り直されたばかりらしい白壁が、曇り空の下で、ぼうっと明るい。根元に、小さな平屋がくっついている。灯台守の、住まいだろう。
その平屋の前で、一人の女性が、脚立に上って、窓を拭いていた。
歳は、僕と同じくらいか。化粧っ気のない、潮焼けした頬。長い髪を、後ろで、きつく一つに結んでいる。色の褪せた紺の作業着の袖を、まくっている。物音に気づいて、脚立の上から、こちらを見下ろした。笑っていない。見慣れない人間を、静かに値踏みするような、強い目だった。
宮原凪「……観光の人? 灯台、中は入れないよ」
笠原航「あ、いえ、その。笠原です。本土から来て。……あなたが、ここを、守ってる人ですか」
宮原凪「守ってる、っていうほどのことは。……宮原凪(みやはら なぎ)。一応、ここの、灯台守」
ぴしゃり、とした、低い声だった。にこりともしない。けれど、その「灯台守」という言葉の響きが、なぜか、僕の胸に、すとんと落ちた。
笠原航「あの、変なこと聞きますけど。……この灯台、機械で、勝手に光ってるんじゃ、ないんですね」
宮原凪「光るだけなら、機械でもできる。でも、レンズを磨く人がいないと、光は、濁る。霧の日に、霧笛を鳴らすかどうかも、機械には、決められない。……だから、人が、いる」
脚立を降りて、凪さんは、雑巾を絞った。手の甲に、細かい傷がいくつもあった。
宮原凪「あなた、灯台、何しに来たの。写真?」
笠原航「いえ。……海図の上で、ずっと、この灯りの脇を、船を通してたんです。仕事で。でも、本物を、一度も、見たことがなくて」
凪さんの目が、ほんの少し、揺れた。値踏みするような色が、一瞬だけ、やわらいだ気がした。
4. 灯りの番
その日の夕方、凪さんは、灯台の中に、僕を入れてくれた。
宮原凪「……特別。船を、通してた人、だから」
らせん階段を、二人で、上っていく。一段ごとに、ひんやりした石の匂いがした。てっぺんの灯室には、巨大な、ガラスの塊が据えられていた。何枚もの分厚いガラスが、段々に組み合わさって、ひとつの大きな目玉みたいに見える。
笠原航「……これが、レンズ?」
宮原凪「フレネルレンズ。百年前のやつ。これで、小さな光を、何十キロ先まで届く、一本の帯に変える。……指紋ひとつ、油膜ひとつで、光は鈍る。だから、毎日、磨く」
凪さんが、柔らかい布で、ガラスの一枚を、そっと撫でた。手つきに、迷いがなかった。
笠原航「毎日、ですか」
宮原凪「毎日。日が落ちる前に灯して、夜明けに消す。その間、ずっと、ちゃんと回ってるか、見てる。……たまに、止まるから」
日が、水平線に近づいていた。凪さんが、壁のスイッチを入れる。低い唸りとともに、レンズが、ゆっくりと、回り始めた。やがて、灯がともる。レンズを通った光が、一本の太い帯になって、暮れていく海へ、伸びていった。
僕が、何千回も、画面の上で脇を通り過ぎた、あの〈灯〉。それが、今、すぐ目の前で、生まれていた。
笠原航「……すごい。海図の点が、こんな……」
宮原凪「点?」
笠原航「画面の上だと、ただの、小さな印なんです。〈灯〉って書いてあるだけの。……僕、その向こうに、こんなものがあるなんて、考えたこともなかった」
凪さんは、回り続ける光を見上げたまま、ぽつりと言った。
宮原凪「……あなたの引いた航路を、走ってる船も、たぶん、これを見てる。霧の夜に、この光を見つけて、ああ、もう少しで陸だって、ほっとする。……あなたと、この灯りは、ずっと、同じ船を、見てた」
僕は、言葉を、なくした。神戸のモニターの前で、僕が点にしていた船は、この岬の光に、ちゃんと、照らされていたのだ。
5. 島をめぐる
次の日、凪さんは、島を案内してくれた。
君枝さんの食堂で握ってもらった握り飯を持って、岬の裏手の磯を、二人で歩いた。凪さんは、慣れた足取りで、岩から岩へ飛ぶ。時々立ち止まっては、空を見上げたり、海の色を確かめたり、風の向きに頬を向けたりする。
笠原航「さっきから、何を見てるんですか」
宮原凪「霧。……このへんは、梅雨どきになると、急に出る。海が、陸より温かい日。風が、南から、湿って吹いてくる日。……今日は、夕方、危ないかも」
笠原航「霧が出ると、どうするんですか」
宮原凪「霧笛を鳴らす。光が、届かなくなるから。……音で、岬がここだぞって、知らせる」
凪さんは、磯の岩に腰を下ろして、握り飯を、ひとつ、頬張った。海を見たまま、ぽつぽつと、話した。
宮原凪「この灯台、もともとは、祖父が守ってた。わたしが小さい頃から、ずっと。……二年前に、亡くなって」
笠原航「……それで、あなたが」
宮原凪「うん。わたし、それまで、大阪にいたの。普通の会社員。毎日、満員電車で、パソコンの前に座って、画面の数字を、入れたり、直したり。……あなたと、たぶん、似たような」
ふっと、凪さんが、こちらを見た。
宮原凪「祖父が倒れたって聞いたとき、灯台が、消えるって思った。この島から、灯りが、消える。……そう思ったら、勝手に、体が動いてた。会社、辞めて、帰ってきた」
笠原航「後悔は」
宮原凪「ない。一度も。……ここで初めて、自分のしてることが、ちゃんと、誰かの役に立ってるって、思えたから。画面の数字じゃなくて、本物の、船の役に」
風が、凪さんの結んだ髪を、ふわりと揺らした。潮焼けした頬が、少しだけ、得意げに見えた。
僕は、神戸の自分のことを、思った。最短の航路を引いて、効率を一秒でも詰めて。けれど、その船の甲板に、人が立っていることを、僕は、いつから、忘れていたんだろう。
6. 霧が出る
夕方、凪さんの言ったとおりになった。
海の色が、ぼやけ始めた。水平線が、白く溶けて、見えなくなる。みるみるうちに、岬の先から、乳白色のものが、音もなく這い上がってきた。灯台の白壁が、にじんで、ぼうっとした影になる。
宮原凪「……来た。濃いやつ」
凪さんが、灯室へ駆け上がった。僕も、後を追った。回り続ける光が、霧に呑まれて、もう、すぐ先までしか届いていない。凪さんは、壁際の、古いレバーに、手をかけた。
宮原凪「……鳴らす。耳、塞いで」
低い、腹の底に響くような音が、岬じゅうに、轟いた。
ぼおおおぉ――。
一定の間隔をおいて、もう一度。ぼおおおぉ――。霧の中へ、その音が、長く、長く、染み込んでいく。
笠原航「……これが、霧笛」
宮原凪「うん。今、この海のどこかに、船がいる。レーダーには映ってても、光は見えてない。……だから、音で、教える。岬は、ここだぞって」
僕は、思わず、息を呑んだ。海図の上では、霧なんて、ただの〈視程不良〉という、四文字の警告でしかなかった。でも、その四文字の下で、一人の人間が、レバーを引いて、闇に向かって、音を、送り続けていたのだ。
霧のせいで、灯台の周りは、世界から切り離されたみたいに、静かだった。聞こえるのは、ときどき轟く霧笛と、レンズが回る、低い唸りだけ。
宮原凪「……あなた、来たとき、すごく、疲れた顔してた」
笠原航「……顔に、出てましたか」
宮原凪「うん。何かに、追われてる顔。間に合ってるか、ずっと確かめてる顔。……わたしも、大阪にいたとき、毎日、そんな顔してた」
霧の白い光が、灯室の中に、ほのかに差し込んでいた。その中で、凪さんの横顔が、いつもより、ずっと、やわらかく見えた。
7. 灯台の下で
霧笛を、何度目かに鳴らし終えて、凪さんが、ふっと、息をついた。
宮原凪「……船、抜けたみたい。レーダーの点、湾を出てった」
笠原航「あなたが、鳴らしたから、ですか」
宮原凪「わかんない。……でも、そう思うことにしてる。そう思わないと、こんな仕事、続けられないから」
灯室の窓の外は、一面の霧。乳白色の中を、灯りの帯が、ゆっくり、ゆっくり、撫でていく。僕と凪さんは、その回る光の真下に、並んで立っていた。
笠原航「凪さん」
宮原凪「……ん」
笠原航「僕、この三日のこと、たぶん、一生忘れないです。海図の点が、本物の灯りで、その灯りを、こうやって、誰かが守ってたって」
宮原凪「……ずるい。そういうこと、言うの」
凪さんの潮焼けした頬が、霧の光とは違う色に、染まった。長い睫毛が、ゆっくり、伏せられる。きっとこの人は、これまでも、灯台を見に来ては去っていく人を、何人も見送ってきたんだろう。光を送るのと同じくらい静かに、人を見送ることにも、慣れてきたんだろう。
だったら、僕が、ちゃんと、近づかないと。
回る光が、ひと撫でして、過ぎていく。次に光が戻ってくるまでの、ほんの数秒の闇。その闇の中で、僕は、凪さんの頬に、そっと手を添えた。彼女は、逃げなかった。まっすぐ、僕を見上げていた。
笠原航「……いい?」
宮原凪「……灯りが、戻ってくる前に」
僕は、顔を、寄せた。
8. 螺旋の階下で
唇が、触れた。
ちゅ……。
潮の、かすかな匂いがした。凪さんの唇は、思いのほか熱くて、わずかに震えていた。一度離して、もう一度。回ってきた光が、僕らをひと撫でして、また闇に戻る。その明滅の中で、凪さんが、僕の作業着の胸を、きゅっと握った。
宮原凪「ん……♡」
笠原航「……心臓、すごい音」
宮原凪「……あなたのも、聞こえてる♡」
くすっと笑って、凪さんが、僕の首に腕を回してきた。舌先で、そっと唇をなぞると、彼女の口が、わずかに開いた。
ちゅ……れろ……ちゅるっ……♡
宮原凪「んむ……♡」
灯室の冷たい床の上で、しばらく抱き合っていた。やがて、凪さんが、潤んだ目で、らせん階段の下を見た。
宮原凪「……下に、わたしの部屋、あるから」
笠原航「……いいの?」
宮原凪「……今夜、あなたを、客間で一人で寝かせる気、もう、ないの♡」
手を引かれて、らせん階段を降りた。灯台に寄り添った、小さな住まい。窓の外は、一面の霧。世界から切り離されたみたいな、白い静けさの中だった。敷かれた布団に、凪さんを横たえる。
もう一度、唇を重ねた。さっきより、ずっと深く。舌を絡めながら、互いの作業着のボタンに、手をかけていく。
ちゅぷ……れろ……ちゅるっ……♡♡
宮原凪「ん……んぅ……♡」
ぷはっ、と離れると、唾液が、細く糸を引いた。
宮原凪「はぁ……♡ ……灯り、点いてるのに……恥ずかしい」
笠原航「霧の光だけだよ。誰も、見てない」
宮原凪「……もう。そういうとこ♡」
作業着の前を開くと、白い肌が現れた。日に焼けた腕や首と違って、その内側は、霧みたいに、抜けるように白かった。
笠原航「……きれいだ」
宮原凪「……あんまり、見ないで♡」
下着のホックを外すと、形のいい胸が、こぼれ出た。淡い色の先端が、白い肌に、ぽつんと色を添えている。腕で隠そうとする手を、そっとどけて、布団に横たえた。右手で、左の胸を、包むように触れる。
ふにっ。
宮原凪「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような、やわらかさだった。指を沈めると、むにっと形を変える。もう片方も、手のひらで包んだ。
宮原凪「ん……っ♡ 両方、なんて……♡♡」
親指で、先端を、くりっと転がした。
宮原凪「ひゃっ♡♡」
びくんと、凪さんの肩が跳ねた。小さく硬くなった先端が、指先に、コリコリと伝わってくる。
くりくり……くりくり……♡
宮原凪「あっ♡ あんっ♡♡ 航さんっ……♡♡」
名前を、呼ばれた。それだけで、頭の芯が、痺れた。
唇を、先端に落とす。ちゅっ。
宮原凪「ひぅっ♡♡♡」
舌先で転がしながら、反対の胸を、揉みしだく。
ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡
宮原凪「あっあっ♡♡ 吸っちゃ、だめっ……声、出ちゃう♡♡」
交互に舌を這わせて、たっぷりと味わう。凪さんの肌が、うっすら汗ばんで、潮と、霧と、汗の匂いが、ひとつに混ざった。
笠原航「凪さん、下も、いい?」
宮原凪「……うん♡」
作業着のズボンを、下着ごと、ゆっくり引き下ろす。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。岩場を歩き慣れた、しなやかな腿だった。
笠原航「……もう、濡れてる」
宮原凪「やっ♡ 言わないで……♡ キスの、ときから、ずっとなの♡♡」
桜色の花弁が、透明な蜜で、とろりと濡れていた。指先で、そっとなぞる。
くちゅ……。
宮原凪「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」
びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹で、くるくると円を描く。
くり……くり……♡
宮原凪「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」
笠原航「だめじゃ、ないだろ。気持ちいいんだろ?」
宮原凪「だってっ♡ あなたの指っ……♡♡」
蜜をかき回しながら、中指を、入り口にあてがった。
笠原航「指、入れるよ」
宮原凪「……うんっ♡♡ 来て……♡♡」
ずぷ……♡
宮原凪「あああっ♡♡♡」
ゆっくり、指が沈んでいく。熱い。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、もう一本。
ずぷっ♡
宮原凪「ひぃっ♡♡♡ 二本っ……♡♡」
二本の指で出し入れしながら、親指で、突起を同時に刺激する。
ぐちゅっ……ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡
宮原凪「あっあっあっ♡♡♡ すごいっ♡ おかしく、なるっ♡♡♡」
指を曲げて、上側の壁を、ぐっと押す。
宮原凪「ひぅっ♡♡♡♡ そこ、やばいっ♡♡♡」
凪さんの体が、びくびくと跳ね始める。
宮原凪「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」
指の動きを、速める。
ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡
宮原凪「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
凪さんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。やがて、力が抜けたように、布団に沈み込んだ。
宮原凪「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの、初めて……♡♡」
9. 灯台の夜に
潤んだ瞳で、凪さんが、ゆっくり身を起こした。まだ余韻に震えながら、僕のベルトに、手を伸ばす。
宮原凪「……今度は、わたし」
笠原航「無理しなくて、いいよ」
宮原凪「……無理じゃない。わたしが、したいの♡」
ベルトを外して、下着ごと引き下ろすと――ばちんっ、と、限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。凪さんが、息を呑む。
宮原凪「……おっきい♡♡」
うつ伏せになって、顔を近づけてくる。
ぺろ……。
先端を、舌先で、ちろっと舐めた。
宮原凪「ん……♡」
ちゅっ、と先端にキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かく濡れた、口の中。舌が、裏筋を、なぞる。
宮原凪「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」
ゆっくり頭を上下させる凪さん。ほどいた黒髪が、さらりと揺れて、上目遣いの瞳が、潤んでこっちを見ている。
笠原航「凪さん……やば、気持ちいい」
宮原凪「んふ♡ ……もっと♡♡」
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡
頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に、電流が走った。
ずぷっ……ずぷっ……♡♡
笠原航「待って、それ以上は……イっちゃう」
ぷはっ、と口を離す凪さん。唇が、唾液で、てらてらと光っていた。
宮原凪「……まだ、だめ♡ 最後は、一緒がいい♡」
凪さんを、布団に引き上げた。鞄から、避妊具を取り出す。
宮原凪「……ちゃんと、持ってきてたんだ?」
笠原航「いや、これは、その……一応」
宮原凪「ふ♡ 責めてない♡ ……えらい♡」
手早く着けて、凪さんを、仰向けにした。霧の白い光が、窓から差し込んで、白い肌を、ほのかに浮かび上がらせている。脚の間に体を滑り込ませて、先端を、入り口にあてがった。
ぬちゅ……♡
笠原航「入れるよ、凪さん」
宮原凪「うん♡ 来て……♡♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡♡
宮原凪「あぁっ♡♡♡ 入って、くるっ♡♡♡」
きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。
宮原凪「おっきい♡♡ 奥まで、いっぱい♡♡♡」
ずぷん♡♡
根元まで、収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
宮原凪「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ ……あったかい♡♡♡」
笠原航「動くよ」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
ずるっ……ずぷんっ♡♡
パンっ♡
宮原凪「ああっ♡♡♡」
パンッ……パンッ……♡♡
リズミカルに、打ちつけ始める。
宮原凪「あっあっあっ♡♡♡ 航さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」
凪さんが、僕の背中に、しがみついてくる。窓の外は、一面の霧。頭の上では、灯りが、変わらず、ゆっくり回っている。回ってくるたびに、白い光が、抱き合う僕らを、ひと撫でして、過ぎていく。肌と肌がぶつかる音が、白い静けさの中に、響いていく。
パンパンパンッ♡♡♡
宮原凪「奥っ♡♡♡ 奥に、当たってるっ♡♡♡♡」
凪さんの脚が、僕の腰に絡みついてくる。岩場を歩き慣れた腿が、ぎゅっと締まる。角度を変えて、さらに奥を突くと、結合部から、卑猥な水音が溢れた。
パンパンパンパンッ♡♡♡♡
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
宮原凪「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」
笠原航「俺も、もう……っ」
宮原凪「一緒に……♡♡♡ 一緒に、イこっ……♡♡♡♡」
凪さんが、背中に両腕を回して、しがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように――最後の一突き。
宮原凪「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
笠原航「イく……っ!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
宮原凪「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」
凪さんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。
びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡
宮原凪「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。窓の外では、霧が、いっそう深く、灯台を包み込んでいた。
宮原凪「……まだ、抜かないで♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を、聞いていた。やがて、凪さんが、僕の胸に頬を寄せて、くすっと笑った。
宮原凪「……無愛想で、ごめんね。昼間は」
笠原航「いや。あの凪さんも、よかったよ」
宮原凪「……変な人♡」
10. 霧が晴れる
――どのくらい眠ったろう。
宮原凪「……航さん。起きて。航さんっ」
凪さんの、押し殺した、けれど弾んだ声で、目が覚めた。部屋は、まだ薄暗い。けれど、窓の外の白さが、消えていた。
宮原凪「来て。上。……霧、晴れた」
毛布を巻いたまま、らせん階段を、灯室まで駆け上がった。窓に張りついて、僕は、息を呑んだ。
霧が、すっかり、引いていた。
黒々とした海の上に、満天の星が、こぼれ落ちそうに広がっている。そして、その海と星の境を、灯台の光が、一本の太い帯になって、まっすぐ、撫でていた。点いて、回って、消えて、また点く。何十キロも先の、暗い海まで。
笠原航「……うわ……」
宮原凪「……でしょ」
声が、出なかった。あの夜、仮眠室のスマホで見た一枚の写真。海に向かって伸びる、一本の光の帯。あれが、今、本物になって、僕の目の前から、夜の海へと、伸びていた。
宮原凪「……あの光の先に、今も、船がいる。あなたが、神戸で航路を引いた、どこかの船が」
笠原航「……うん」
宮原凪「あなたが点を動かして、わたしが灯りを磨いて。……二人で、ずっと、同じ船を、ここまで連れてきたんだね」
凪さんが、白い息を吐いて、はにかんだ。星明かりと、回る灯りが、彼女の頬を、交互に照らしている。海に伸びる光の帯より、僕は、その横顔から、目を離せなかった。
11. また、この岬で
二人で、毛布にくるまったまま、灯りの帯と、星の海を見ていた。
東の空が、やがて、藍色から、淡い水色へと変わり始める。星が、ひとつ、またひとつ、消えていく。夜明けが、近い。
宮原凪「ねえ、航さん。神戸、遠いよね」
笠原航「……まあ、船と電車で、半日は」
宮原凪「……わたし、ここ、離れられないの。この灯りを、消すわけには、いかないから」
笠原航「……うん。知ってる」
凪さんが、僕を見上げた。その目が、また、少し不安そうに揺れている。光を送るのと同じくらい静かに、人を見送ることに、慣れてきたんだろう、この人は。だったら、僕が、ちゃんと言葉にしないと。
笠原航「凪さん。俺、また来る。来月も、その次も」
宮原凪「……お客さん、として?」
笠原航「いや。……恋人として。灯台を見に、じゃなくて、凪さんに会いに」
凪さんの目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、ぽろっと、一粒こぼれた。回ってきた灯りが、その雫を、きらりと光らせた。
宮原凪「……ずるい。灯台の真下で、泣かせる気?」
笠原航「泣くなって。返事は?」
宮原凪「……うん。わたしも、航さんのことが、好き♡ ……今日から、恋人ね♡」
そう言って、凪さんが背伸びして、僕の唇に、ちゅっと軽くキスをした。回る灯りが、ちょうど僕らをひと撫でして、海の彼方へ、過ぎていった。
宮原凪「ふふ♡ 決まり♡ ……あ、でもね、航さん」
笠原航「ん?」
宮原凪「次、来たら。今度は、あなたに、レンズの磨き方、教えるから。覚悟して」
笠原航「えっ、俺、ガラスなんて、磨いたことないけど」
宮原凪「ふふっ♡ 大丈夫。一晩で、いっこは覚えられる。……わたしと、一緒にね♡」
岬を下りると、坂の途中で、君枝さんが、箒を手に、店先を掃いていた。毛布にくるまって並んで歩く僕らを見て、すべてを察したみたいに、皺だらけの顔で、にっこり笑った。
君枝「ほう。ゆうべの霧も晴れて、ついでに、凪ちゃんの不機嫌まで晴れたかね。……あの子が、あんな顔して笑うん、おじいさんが亡くなってから、初めて見たわ」
宮原凪「……もう。君枝さん、余計なこと言わないで」
海図の上で、貨物船をただの緑の点に変えて、本物の海も灯りも一度も見たことがなかった僕は、一枚の写真に呼ばれるように、この島まで来た。
そこで出会ったのは、機械任せにできるはずの灯りを、毎日その手で磨いて、霧の夜には闇に向かって音を送り続ける――そんなふうに、誰にも見えないところで、ずっと光を守り続けてきた、一人の女性だった。
これは、たまたまの三日なんかじゃない。きっと、何度でもこの岬に通って、二人で並んで、回る灯りの下で夜を数えていく、その始まりの朝だ。
― 終 ―