親友のドタキャンで一人になった梅雨の柳川で、どんこ舟を操る明るい女船頭の舟唄に一日中連れ回され、夕凪の掘割を二人で歩いた夜に泊まり宿で結ばれた話

六月の、雨上がりの土曜日。僕、藤村慎一(ふじむら しんいち)、三十歳は、西鉄柳川駅の改札を、一人で抜けていた。

本当は、一人のはずじゃなかった。

大学時代からの腐れ縁、健司(けんじ)と二人で組んだ、一泊二日の九州旅行。半年前から計画して、宿も新幹線も押さえていた。それが、出発前日の夜。健司から電話がかかってきた。

川口親方「悪い。盲腸。今、病院。明日、手術」

絶句した。本人がいちばん間抜けな声を出していた。宿はキャンセル料が満額かかる二人部屋。新幹線も、変更の利かない早割。健司は電話の向こうで、麻酔の点滴を打たれながら、「お前一人で行ってこい。俺の分まで、うなぎ食え」と笑っていた。

それで——半ばやけくそで、僕は一人、博多から特急に乗り換えて、ここまで来た。

柳川。掘割(ほりわり)が町じゅうに張りめぐらされた、水郷の城下町。健司が「川下りがしたい」と、やたら推していた場所だった。正直、舟に一人で乗って何が楽しいんだ、と思っていた。

駅前から、案内板の矢印に従って歩く。十五分も行くと、柳並木の下に、小さな船着場があった。「お乗合(のりあい)、随時」と、墨で書いた木の看板。掘割の水は、梅雨の名残でたっぷりと満ちて、岸の柳をゆらゆらと映していた。

藤村慎一(……健司、お前がいたら、ここで絶対はしゃいでたんだろうな)

ため息をついて、僕は船着場の小屋を覗いた。

1. 女船頭

古賀ひなた「はーい、お乗りの方ぁ? お一人さま?」

明るい声が、掘割のほうから飛んできた。

舟着きの石段に、一艘の舟が横づけされていた。屋根のない、平たくて細長い、木の舟。「どんこ舟」というやつだ。その舳先に立って、長い竹竿を握っているのは——若い、女の人だった。

紺の作務衣に、白い手ぬぐいを姉さんかぶり。麦わら帽子を首の後ろに落として、日に焼けた頬で、にっと笑っている。竿を片手に、ひょい、と石段を駆け上がってきた。

古賀ひなた「すんません、待たせて。今、上の舟が出たばっかりで。——お一人さまやったら、すぐ出せますよ。どうします?」

藤村慎一「あ……はい。乗ります。一人、ですけど」

古賀ひなた「一人旅、よかですねぇ。さ、足元、気ぃつけて」

差し出された手を、思わず取った。土と水の匂いのする、節くれだった、けれど思いのほか小さな手だった。

古賀ひなた(こが ひなた)さん、と名乗った。二十六歳。この船着場で——どうやら、ただ一人の女船頭らしかった。

藤村慎一「船頭さんって……女の人も、いるんですね」

古賀ひなた「ここじゃ、わたし一人。あとは、ぜーんぶ、おじいちゃん船頭ばっかり」

ひなたさんが、舟の真ん中の艫(とも)に立って、竿を水に挿した。とん、と岸を突く。

舟が、すうっと、滑り出した。

2. 舟唄

櫂も使わない。長い竹竿一本だけで、ひなたさんは舟を進めていく。竿を水底に挿して、軽く押す。それだけで、重たいはずの木の舟が、水面を、なめらかに滑っていく。

掘割は、思っていたよりずっと狭かった。両岸から柳が枝を垂らして、トンネルみたいに頭上を覆う。水面すれすれに、低い石橋がいくつもかかっていて、そのたびにひなたさんは、ひょいと身をかがめる。

古賀ひなた「お客さん、頭ぁ下げて! ……はい、おっけー」

藤村慎一「これ、ぶつかりそうで、こわいですね」

古賀ひなた「ふふ、慣れますよ。わたしなんか、もう体が勝手に下がるもん」

橋の下をくぐると、水音が、きゅっと反響した。ひんやりした石の匂い。抜けると、また柳の緑が、目の前にひらける。

ひなたさんは、町の話を、よくしゃべった。あの白壁は造り酒屋、あの水門は江戸時代のまま、この掘割は元はお城の堀だったのだと。説明の合間に、観光客の僕にもわかるように、わざと声を張る。

そして——ふいに、歌い出した。

古賀ひなた「♪ 柳川名物 〽 どんこ舟ぁ……」

低い、けれどよく通る声だった。掘割の水面を、その声が、すうっと渡っていく。柳の葉が、それに合わせるみたいに、さわさわと鳴った。

藤村慎一(……うわ)

不覚にも、鳥肌が立った。観光のサービスだと、頭ではわかっている。なのに、その声には、ぞくっとするほど芯があった。一節歌い終えて、ひなたさんが、こっちを振り返る。

古賀ひなた「……どうしました? ぽかんとして」

藤村慎一「いや……うまいな、と思って。びっくりするくらい」

古賀ひなた「やだ、もう。お客さんみんなに言いよると?」

藤村慎一「いや、本当に。お世辞、言うの下手なんで、僕」

ひなたさんが、一瞬きょとんとして、それから、こらえきれない、というふうに笑った。日に焼けた頬に、ぱっとえくぼができた。

古賀ひなた「……変なお客さん」

3. 水の町

舟は、町の中心へと進んでいった。

平日の昼前、しかも梅雨どきとあって、すれ違う舟は、ほとんどなかった。たまに、向こうから来るおじいちゃん船頭の舟と行き合うと、ひなたさんは竿を立てて、ひょいと道を譲る。

川口親方「おーい、ひなた。今日も一人で気張りよるか」

古賀ひなた「親方こそ! 腰、だましだましでしょ!」

すれ違いざま、白髪のおじいちゃん船頭と、笑い合っている。あれが、ひなたさんに竿を仕込んだ、川口(かわぐち)の親方なのだと、あとで教えてくれた。

水面は、鏡みたいに静かだった。柳。白壁。赤い欄干の橋。それらが、ぜんぶ水に映って、上と下と、町が二つあるみたいだった。

古賀ひなた「お客さん、東京から?」

藤村慎一「ええ。藤村って言います。メーカーで、設計の仕事を」

古賀ひなた「設計! かっこよか。……でも、なんで一人で柳川? 普通、彼女とか、友達とか」

藤村慎一「……それが、友達と来るはずだったんですよ。昨日の夜、盲腸で入院して」

古賀ひなた「えええっ! 盲腸!」

ひなたさんが、竿を止めて、目をまんまるにした。それから、お腹を抱えて笑い出した。

古賀ひなた「ごめん、ごめんっ。笑っちゃいかんとに。——でも、お友達、災難やったねぇ」

藤村慎一「ええ。『俺の分まで、うなぎ食え』って」

古賀ひなた「いいお友達やん。……ね、藤村さん。それ、ほんとに食べていかな。柳川、うなぎのせいろ蒸し、名物やもん」

舟が、ゆっくり、また滑り出す。柳のトンネルの先に、川面が銀色に光っていた。

4. せいろ蒸し

下船場に着いたのは、昼を少し回った頃だった。

古賀ひなた「はい、お疲れさまでした。——藤村さん、このあと、予定は?」

藤村慎一「いや、特には。宿に入るまで、ぶらぶらしようかと」

古賀ひなた「じゃあさ」

ひなたさんが、ひょいと舟を岸に結びながら、ちょっと早口に言った。

古賀ひなた「わたし、ちょうどお昼休憩なんよ。午後の舟は二時から。——その、よかったら、うなぎ屋、案内しよか? 一人で入るより、おいしいよ、たぶん」

藤村慎一「……いいんですか?」

古賀ひなた「うん。お友達の分も、食べさせなね。約束やろ?」

作務衣の上に、麻のシャツを羽織って、麦わら帽子をかぶり直すと、ひなたさんは、急に、ただの可愛い女の子になった。

連れていかれたのは、観光客の列を横目に、路地を一本入った、古い構えのうなぎ屋だった。

古賀ひなた「ここ、地元のが来る店。並ばんでよかし、味は、いっちゃん(一番)」

せいろ蒸しは、生まれて初めて食べた。蒸籠の中で、たれのしみたご飯の上に、ふっくらと蒸し上げた鰻と、薄焼き卵。ひと口食べて、思わず声が出た。

藤村慎一「……うまい。なんだこれ。鰻、こんなにやわらかいんだ」

古賀ひなた「やろ? せいろで蒸すけん、ふわっふわになると。——うちのおじいちゃんが、これ大好きやったとよ」

ひなたさんは、自分の蒸籠を、おいしそうに頬張りながら、ぽつぽつと、自分のことを話し始めた。

5. 竿を継ぐ

古賀ひなた「わたしね、もともと、福岡市のほうで、美容師しよったと」

意外だった。竿一本で舟を操る姿と、結びつかなかった。

古賀ひなた「専門出て、三年くらい。……でも、二年前に、おじいちゃんが、亡くなって」

ひなたさんの祖父は、この船着場の、古い船頭だったのだという。

古賀ひなた「子供の頃から、おじいちゃんの舟に、よう乗せてもろてね。竿の挿し方、舟唄、ぜんぶ、舟の上で教わったと。——わたし、おじいちゃんの舟唄が、世界でいっちゃん好きやった」

蒸籠の蓋を、そっと閉じて、彼女は窓の外の掘割を見た。

古賀ひなた「亡くなったあと、誰も継がんって話になって。おじいちゃんの舟、廃船にするって。……それ聞いたら、なんか、だめやった。気づいたら、ハサミ置いて、こっち帰ってきとった」

藤村慎一「……それで、女船頭に」

古賀ひなた「うん。親方に頭下げて、一から仕込んでもろて。最初は、竿、まっすぐ挿すだけで、舟がくるくる回って、お客さんに笑われてね」

笑いながら言うけれど、たれのついた指先に、僕は、たくさんの細かいまめと、竿だこを見た。働く人の、手だった。

藤村慎一「すごいですよ、それ。……好きなものを、ちゃんと、自分で継いでる」

古賀ひなた「……そんな、たいそうなもんやなかよ」

ひなたさんが、ちょっと照れて、麦わら帽子のつばを下げた。その下で、耳が、うっすら赤くなっていた。

藤村慎一「さっきの舟唄。あれ……おじいさんの?」

古賀ひなた「……うん。おじいちゃんの、節。——わかると?」

藤村慎一「いや、わかんないですけど。……でも、誰かを思って歌ってる声だなって、思いました」

ひなたさんが、はっとした顔で、僕を見た。それから、何も言わずに、ふっと、目を伏せて笑った。

6. 午後の舟

古賀ひなた「……ねえ、藤村さん」

店を出て、船着場へ戻る道すがら、ひなたさんが、思いついたように言った。

古賀ひなた「午後の舟、まだお客さんの予約、入っとらんと。——もう一回、乗らん? 今度は、観光やなくて。わたしが、好きな場所、連れていくけん」

藤村慎一「いいんですか、そんな」

古賀ひなた「お友達の分も、乗らせなね」

二度目の舟は、午前とは、まるで違った。

ひなたさんは、観光案内の声を、もう張らなかった。竿の音だけが、とぷん、とぷん、と、掘割に響く。柳のトンネルの、いちばん奥まった、人気のない水路へ、舟は分け入っていった。

古賀ひなた「ここ、わたしの、ひみつの場所」

両岸の柳が、頭上で繋がって、緑の天井になっていた。葉の隙間から、午後の光が、水面にちらちらと落ちている。蛙の声と、どこか遠くの風鈴の音。

古賀ひなた「おじいちゃんが、お客さんのおらん日に、よう連れてきてくれたと。——『ひなた、舟頭はな、こういう、なんもなか時間を、いちばん大事にせえ』って」

舟を止めて、ひなたさんが、艫に腰を下ろした。竿を膝に抱えて、僕のすぐ近くに。舟が、ゆらゆらと、ひとりでに揺れる。

藤村慎一「……いい場所ですね。ほんとに」

古賀ひなた「やろ?」

水面に映った緑の天井を、二人で、しばらく黙って見ていた。肩が、すぐそこにあった。

古賀ひなた「……藤村さん。一人で来て、よかったやろ?」

藤村慎一「……はい。今は、そう思います。本当に」

ひなたさんが、こっちを見た。木漏れ日が、その頬に、ちらちらと揺れていた。

7. 夕凪

舟を上がる頃には、もう、夕方だった。

古賀ひなた「藤村さん、宿、この近く?」

藤村慎一「ええ。川沿いの、古い旅館です。……二人部屋なんですけどね。一人で泊まる、二人部屋」

古賀ひなた「ふふ。さみしかね」

ひなたさんは、作務衣のまま、片づけを終えると、ちょっと迷うように、竿を撫でた。

古賀ひなた「……あのね。わたし、もう、今日は上がりやと。よかったら、その。——夜の柳川、案内しよか? 昼と、ぜんぜん違うとよ」

日が落ちて、町は、夕凪に包まれていた。掘割の水は、風がやんで、ぴたりと止まり、空の茜色を、そっくりそのまま映していた。

並んで、水辺の小道を歩いた。柳のシルエットが、燃えるような空に、黒く揺れている。観光客は、もう、ほとんどいなかった。

古賀ひなた「この時間がね、わたし、いっちゃん好き。掘割が、いちばん静かになるけん」

藤村慎一「……きれいだ。こんな夕方、東京じゃ、何年も見てない」

橋の上で、ふと、足を止めた。茜色の水面に、二人の影が、並んで映っていた。

古賀ひなた「……藤村さん」

藤村慎一「はい」

古賀ひなた「明日、帰っちゃうとよね」

ひなたさんが、橋の欄干に手を置いて、うつむいた。風がやんで、彼女の手ぬぐいの、ほつれた後れ毛が、首筋に揺れている。

古賀ひなた「一日だけのお客さんに、こんなこと、思っちゃいけんとは、わかっとるけど。……今日、すごく、楽しかった。ずっと、一緒に舟に乗っとっても、よかな、って」

僕は、もう、我慢できなかった。彼女の頬に、そっと手を添える。日に焼けた、温かい頬だった。

藤村慎一「……帰りたく、ないです。今は」

ひなたさんが、ゆっくり、目を閉じた。茜色の橋の上で、僕は、その唇に、自分の唇を重ねた。

ちゅ……。

夕凪の静けさの中で、柔らかい唇が、かすかに震えていた。

古賀ひなた「……ん♡」

触れるだけのキスから、少しずつ深く。角度を変えて、もう一度。ひなたさんの手が、僕のシャツの裾を、ぎゅっと掴んだ。

古賀ひなた「……藤村さん♡」

藤村慎一「慎一、でいいです」

古賀ひなた「……慎一、さん♡」

潤んだ瞳で、彼女が見上げてきた。掘割の水面に、最初の星が、ひとつ、灯っていた。

古賀ひなた「……お部屋、二人部屋やったよね♡」

8. 障子の内

通されたのは、掘割に面した、古い和室だった。障子を細く開けると、夕凪の水の匂いと、まだ残る蛙の声が、流れ込んでくる。布団は、もう二組、並べて敷いてあった。

古賀ひなた「……二人部屋で、よかったね♡」

藤村慎一「……だな」

笑い合って、それから、また唇を重ねた。今度は、もっと深く。舌先で唇をなぞると、ひなたさんの口が、そっと開いた。

ちゅ……んちゅ……れろ……♡

古賀ひなた「ふ……ぁ……♡」

腰に腕を回して、引き寄せる。一日、竿を握っていた体は、思いのほか引き締まって、けれど、抱きしめると、驚くほど柔らかかった。

古賀ひなた「……慎一さんの心臓、すごい音♡」

藤村慎一「ひなたさんもだろ」

古賀ひなた「……ばれた♡」

くすっと笑う唇を、もう一度ふさいだ。畳の上に、ゆっくり倒れ込む。作務衣の帯に、そっと手をかけた。

藤村慎一「脱がせて、いい?」

古賀ひなた「……うん♡」

帯をほどくと、白い肌が、夜気にこぼれ出た。日に焼けているのは腕と首元だけで、その下は、驚くほど白かった。淡い色の下着に包まれた胸が、息に合わせて、上下している。

藤村慎一「……きれいだ」

古賀ひなた「……やだ、見らんで♡ 毎日、舟ばっかりやけん、自信なかとよ♡」

背中に手を回して、ホックを外す。かちっ、と緩んで、形のいい胸が、ふるりとこぼれ出た。

腕で隠そうとする手を、そっとどける。右手で、胸を包むように触れた。

ふにっ。

古賀ひなた「あっ……♡」

手のひらに吸い付くような、柔らかさ。指を沈めると、むにっと形を変える。親指で、先端をくりっと転がした。

古賀ひなた「ひゃっ♡♡」

びくん、と肩が跳ねる。すぐに、小さく硬くなった先端が、指先に伝わった。

くりくり……くりくり……♡

古賀ひなた「あっ♡ あん♡♡ 慎一さんっ……♡♡」

唇を、先端に落とす。ちゅっ。

古賀ひなた「ひぅっ♡♡♡」

舌先で転がしながら、反対の胸を揉みしだく。

ちゅるっ……れろ……ちゅう……♡♡

古賀ひなた「やっ♡♡ 声、出ちゃう……♡♡ お隣に、聞こえちゃう♡♡」

藤村慎一「川沿いの角部屋だろ。それに、外、蛙がうるさい」

古賀ひなた「むりぃ♡♡ 慎一さんの舌、気持ちよすぎて♡♡」

交互に舌を這わせて、たっぷりと味わった。ひなたさんの肌が、うっすら汗ばんでくる。

藤村慎一「下も、脱がすよ」

古賀ひなた「……うん♡」

最後の一枚を、ゆっくり脱がせていく。膝を立てて閉じようとする太ももを、そっと開かせた。

藤村慎一「……もう、濡れてる」

古賀ひなた「やっ♡ 言わんで……♡ 橋の上で、キスしたときから、ずっと……♡♡」

指先で、そっとなぞる。

くちゅ……。

古賀ひなた「ひゃあっ♡♡ あっ♡♡」

びくん、と腰が跳ねた。小さな突起を見つけて、指の腹でくるくると円を描く。

くり……くり……♡

古賀ひなた「あぁっ♡♡♡ そこっ……だめぇっ♡♡♡」

藤村慎一「だめじゃないだろ。気持ちいいんだろ?」

古賀ひなた「だってっ♡ おかしくなっちゃう♡♡」

蜜をかき回しながら、中指を、ゆっくり沈めた。

ずぷ……♡

古賀ひなた「あああっ♡♡♡」

熱い。きつい。きゅうきゅうと、締め付けてくる。中をかき回しながら、親指で突起を同時に刺激した。

ぐちゅっ……ぐちゅっ……♡♡♡

古賀ひなた「あっあっあっ♡♡♡ 慎一さんっ……すごいっ♡♡♡」

指を曲げて、上側の壁をぐっと押す。ひなたさんの体が、びくびくと跳ね始めた。

古賀ひなた「やっ♡ 来るっ……来ちゃうっ♡♡♡」

指の動きを速める。

ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅっ♡♡♡♡

古賀ひなた「あああっ♡♡♡ イっ……イくぅっ♡♡♡♡」

びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡

ひなたさんの背中が、弓なりに反った。中が、ぎゅうっと指を締め付けて、蜜が溢れ出す。

古賀ひなた「はぁっ……♡♡ はぁっ……♡♡ ……指だけで、こんなの、初めて……♡♡」

9. ひとつになる

潤んだ瞳で、ひなたさんが身を起こした。まだ余韻で震えているのに、真っ赤な顔で、いたずらっぽく笑う。

古賀ひなた「……今度は、わたしの番♡」

僕の浴衣の帯に手を伸ばす。下着ごと引き下ろすと——ばちんっ、と限界まで張り詰めたものが跳ね上がった。ひなたさんが、息を呑む。

古賀ひなた「……おっきい♡♡」

顔を近づけて、先端を舌先で、ちろっと舐めた。

古賀ひなた「ん……♡」

ちゅっ、とキスをして、それから、ぱくりと口に含んだ。温かく濡れた口の中。舌が、裏筋をなぞる。

古賀ひなた「ん……じゅるっ♡♡ れろれろ……♡♡」

ゆっくり頭を上下させる。姉さんかぶりの手ぬぐいがほどけて、長い髪が、さらりと太ももをくすぐった。上目遣いの、潤んだ瞳。

藤村慎一「ひなたさん……やばい、気持ちよすぎ」

古賀ひなた「んふ♡ もっと、してあげる♡♡」

ちゅぱっ……じゅるるっ……♡♡

頬をすぼめて、吸い上げる。深く咥えるたびに、全身に電流が走った。

藤村慎一「待って、それ以上は……イっちゃう」

ぷはっ、と口を離す。唇が、唾液でてらてらと光っていた。

古賀ひなた「……ねえ、慎一さん♡」

藤村慎一「ん?」

古賀ひなた「……もう、ひとつになりたい♡」

旅行鞄の内ポケットから、コンドームを取り出す。

古賀ひなた「……持っとったと?」

藤村慎一「いや、これは、その……二人で来る予定だったから、健司が、面白半分に鞄に……」

古賀ひなた「ふふっ♡ お友達、グッジョブやね♡ ……つけて♡」

手早く装着して、ひなたさんを布団に仰向けにした。障子から差し込む掘割の灯りに、白い裸体が、淡く揺れている。脚の間に体を滑り込ませて、先端を入り口にあてがった。

ぬちゅ……♡

藤村慎一「入れるよ、ひなたさん」

古賀ひなた「うん♡ 来て……♡♡」

ゆっくり、腰を進める。

ずぷ……ずぷぷ……♡♡

古賀ひなた「あぁっ♡♡♡ 入って、くるぅ♡♡♡」

きゅうきゅうと締め付けながら、奥へ引き込んでくる。

ずぷん♡♡

古賀ひなた「はぁっ♡♡ 全部、入った♡♡ 奥まで、来てる……♡♡♡」

藤村慎一「動くよ」

ゆっくり腰を引いて、また押し込む。

ずるっ……ずぷんっ♡♡

古賀ひなた「ああっ♡♡♡」

リズミカルに、打ちつけ始める。障子の外の蛙の声に、肌のぶつかる音が重なった。

パンッ……パンッ……♡♡

古賀ひなた「あっあっあっ♡♡♡ 慎一さんっ♡♡ 気持ちいいっ♡♡♡」

ひなたさんが、僕の背中にしがみついてくる。

古賀ひなた「奥っ♡♡♡ 奥に、当たっとるっ♡♡♡♡」

脚が、僕の腰に絡みついた。もっと奥を求めて。角度を変えて、突き上げる。

パンパンパンッ♡♡♡

ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡

古賀ひなた「そこぉっ♡♡♡♡ 声、出ちゃうっ♡♡♡」

藤村慎一「いいよ。聞かせて」

古賀ひなた「やだぁっ♡♡ でも、止まらんっ♡♡♡」

結合部から、卑猥な水音が溢れた。掘割の蛙の声が、それを優しく隠してくれる。

パンパンパンパンッ♡♡♡♡

古賀ひなた「やばっ♡♡ また、来るっ♡♡ イっちゃうっ♡♡♡♡」

藤村慎一「俺も、もう……っ」

古賀ひなた「一緒に……♡♡♡ 一緒にイこっ……♡♡♡♡」

ひなたさんが、背中に両腕を回してしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように——最後の一突き。

古賀ひなた「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」

藤村慎一「イく……っ!」

どくんっ、どくっ、どくっ……!

古賀ひなた「イっ……イくぅっ♡♡♡♡♡♡」

ひなたさんの全身が震えて、中が、痙攣するように搾り取っていく。

びくんっ、びくんっ、びくんっ♡♡♡

古賀ひなた「はぁっ♡♡ はぁっ♡♡ ……すごかった……♡♡♡」

抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。ちゅ、と軽くキスをする。障子の外で、蛙が、ずっとのどかに鳴き続けていた。

10. 朝の掘割

障子の隙間から差し込む光で、目が覚めた。

ひなたさんは、まだ僕の腕の中で眠っている。ほどけた髪が頬にかかって、寝顔が、とんでもなく無防備で可愛い。

すぅ……すぅ……。

藤村慎一(……夢じゃ、なかった)

障子を開けると、雨上がりの朝が見えた。掘割の水が、朝日を浴びて、きらきらと光っている。柳の葉から、しずくが、ぽたり、ぽたりと落ちて、波紋を広げていた。早起きの船頭の舟が、一艘、ゆっくりと、水面を渡っていく。

古賀ひなた「ん……♡ 慎一さん……?」

ひなたさんが目を覚ました。寝起きの、少しかすれた声。僕の腕の中で、目を細めて笑う。

古賀ひなた「……おはようございます」

藤村慎一「おはよう。……今日は、さすがに、帰らないと。新幹線、夕方なんだ」

古賀ひなた「……ですよね」

ちょっと寂しそうに、ひなたさんが目を伏せた。僕は、ゆうべからずっと考えていたことを、言葉にした。

藤村慎一「ひなたさん。……一日だけの、旅の出会いで、終わらせたくないんだ、僕」

古賀ひなた「……え」

藤村慎一「また、舟、乗りに来ていいですか。客としてでも、なんでもいい。……あなたの舟唄を、もう一回、聞きたい」

ひなたさんの目が、まんまるになった。それから、じわっと潤んで、ぽろっと一粒こぼれた。

古賀ひなた「……ええと? わたし、この掘割から、離れられんとよ。竿、置けんもん」

藤村慎一「離れなくていい。僕が来る。……東京と柳川、遠いですけど。新幹線、二時間ちょっとだ。月に一回でも、二回でも」

古賀ひなた「……ほんとに?」

僕は、彼女の手を握った。竿だこの、まめだらけの、温かい手を。

藤村慎一「ほんとに。……それに、正直に言うと。設計の仕事、リモートでもできる日があるんです。なんなら、ここで、舟、覚えたっていい。いきなりすぎ?」

古賀ひなた「……いきなりすぎるっ♡」

笑いながら、ひなたさんが泣いていた。

古賀ひなた「でも……うれしい。わたしも、慎一さんと、もっと一緒に、舟に乗りたか」

藤村慎一「……付き合ってくれる?」

古賀ひなた「……はい。今日から、恋人ですね♡」

ひなたさんが背伸びして、僕の唇に、ちゅっと軽くキスをした。

宿を出て、船着場まで送ってもらった。

朝の掘割は、もう、観光客でにぎわい始めていた。作務衣に着替えたひなたさんは、川口の親方に、にやにやしながら何か言われて、真っ赤になって怒っていた。

川口親方「ひなた、お前、東京の兄ちゃんに、いっちょ舟唄、聞かせちゃったとや?」

古賀ひなた「親方っ! もう、知らんっ!」

別れ際、ひなたさんが、舟の上から、竿を立てて、こっちを見た。

古賀ひなた「慎一さーん! 次、来たら、いっちゃん奥の、ひみつの場所、連れてくけんね!」

藤村慎一「楽しみにしてます!」

舟が、すうっと、滑り出す。柳のトンネルへ消えていく寸前、ひなたさんが、こっちを向いて、歌い出した。

♪ 柳川名物 〽 どんこ舟ぁ……

低い、けれどよく通る声が、朝の掘割の水面を、すうっと渡ってくる。

親友が盲腸で寝込んで、半分やけくそで来た、梅雨の柳川。一人で乗るはずだった、どんこ舟。その舟の上で、亡くなった祖父の竿を継いでいた人が——今、僕の恋人だ。

一人で来て、よかったやろ? ——あの、掘割の上で聞いた言葉を、思い出す。たぶん、そのとおりだった。そして、見つけたのは、名物のうなぎだけじゃなかった。

健司には、土産のうなぎと一緒に、たっぷり礼を言わないといけない。お前の盲腸が、僕の人生を、ひとつ、変えたんだ、と。

西鉄柳川駅へ続く道で振り返ると、柳並木の向こう、朝日に光る掘割の上を、紺の作務衣の彼女が、竿一本で、すいすいと滑っていくのが見えた。

― 終 ―


編集部プロフィール画像

編集部が運営。「あの夜」で読める恋の体験談を厳選して公開しています。