1. 二十四時間の船
竹芝桟橋から船が出るのは、週に一便だけだ。
おがさわら丸。東京から父島まで、片道二十四時間。飛行場はない。だから一度乗ったら、次の船が出るまで島で過ごすしかない。最短でも、滞在は六日間。
(……我ながら、よく決めたな)
僕、三宅悠斗、二十八歳。仕事は旅行会社の手配係。法人向けの出張から、家族旅行のパッケージまで、人の旅程を組むのが仕事だ。
ハネムーンの航空券を取って、温泉宿に電話して、レンタカーの保険まで確認する。何百人もの旅を、手のひらの上で動かしてきた。
なのに、自分は何年も旅に出ていなかった。
(他人の旅ばっかり詰めてたら、自分の有給、二十日も溜まってた)
上司に「いい加減、消化してくれ」と言われて、はっとした。そういえば、最後に泊まりがけで出かけたのは、いつだったか。思い出せなかった。
予約画面を眺めているうちに、ふと目に留まったのが小笠原だった。世界自然遺産。客に勧めたことは何度もある。でも、自分で行ったことは一度もなかった。
(行ってみるか。どうせ行くなら、いちばん遠いところに)
衝動だった。二十四時間の船というのが、逆によかった。スマホの電波も、途中で完全に切れる。仕事の連絡が、物理的に届かなくなる。
デッキに出ると、東京の灯りが、後ろへ後ろへ流れていった。やがて陸が見えなくなって、あたりは海と空だけになる。
(……静かだな)
夜のデッキで、僕はずっと海を見ていた。手配の仕事をしていると、旅は「予約番号」と「日程表」の集まりに見えてくる。でも、こうして自分が船に揺られていると、旅って本当は、こういう手応えのある時間なんだと思い出す。
翌朝、目を覚ましてデッキに上がると、海の色がまるで違っていた。
「……うわ」
ボニンブルー、と呼ばれる青。透き通っているのに、底が見えないくらい深い。インクを溶かしたような藍色の上を、トビウオが銀色に跳ねていく。
二十四時間かけて、僕は本当に遠くまで来たんだと、その青で初めて実感した。
*
2. ウミガメの調査ツアー
父島の二見港は、思っていたより小さかった。
桟橋に降りると、潮と、南国の木の匂いがした。民宿の名前を書いた紙を持った人たちが、船から降りる客を出迎えている。僕が予約した宿「波音」のおかみさんも、その中にいた。
「三宅さん? あらまあ、お一人で、よく来たねえ」
「はい。一人です」
「いいことよ。一人の島時間は、ぜいたくだから」
おかみさんの軽トラの助手席に乗せてもらって、宿へ向かう。窓の外を、見たことのない緑が流れていく。
宿に荷物を置いて、おかみさんに「何かおすすめのツアーは」と聞いたら、彼女は冷蔵庫に貼ってあるチラシを指さした。
「今の季節なら、ウミガメがいいよ。ちょうど産卵の時季でね」
「ウミガメ……」
「島の子がやってる調査ツアーがあってね。昼は海でカメと泳いで、夜は浜で産卵を見るの。真帆ちゃんっていう、しっかりした子がガイドだから」
ウミガメ。手配の仕事では、観光客に「アクティビティ」として紹介したことはある。でも、自分が実際に見るところは、想像したこともなかった。
「……予約、できますか」
「電話しといたげる。今日の昼の便、空いてるって」
*
集合は、港の近くの小さな浜だった。
ウェットスーツに着替えた何人かの客に混じって、僕はぎこちなく立っていた。やがて、軽トラから機材を下ろしながら、一人の女性が近づいてきた。
日焼けした肌。後ろで無造作に結んだ髪。Tシャツの胸に、ウミガメのシルエットがプリントされている。背は高くないのに、立ち姿に妙な芯があった。
「こんにちは、ガイドの東です。今日はよろしくね」
きびきびした声だった。一人ずつ顔を見て、最後に僕のところで止まる。
「三宅さん? お一人だよね。泳ぐの、得意?」
「いえ、全然……むしろ苦手で」
「正直でよろしい。じゃあ、わたしの近くにいて。ちゃんと見てるから」
そう言って、にっと笑った。日焼けした顔の中で、歯が白い。化粧っ気はまるでないのに、目の力が強くて、つい見てしまう。
(……きれいな人だな)
シュノーケルを着けて、浅いところからゆっくり海に入る。冷たいかと思ったら、ぬるくて、体をやさしく包んでくる。
しばらく真帆さんの後をついて泳いでいると、彼女が水中で振り返って、まっすぐ前を指さした。
その指の先に——いた。
岩のあいだを、悠々と泳ぐアオウミガメ。甲羅は、僕の上半身がすっぽり隠れるくらい大きい。前脚を翼みたいに広げて、無音で水を切っていく。
(……でかい)
息を止めて見入っていると、真帆さんが僕の腕をぽんと叩いて、「あっち」というふうに目で示した。カメは僕らをまるで気にせず、海草を食べ、ゆっくり浮上して、水面で一息ついて、また沈んでいく。
浜に戻って、足のつくところで立ち上がると、隣で真帆さんがマスクを外した。
「どうだった、初ウミガメ」
「……なんか、すごかったです。言葉が出ない」
「あはは、その感想がいちばん正しいよ」
濡れた髪をかき上げて、彼女は笑った。
*
3. 夜の浜
午後のツアーが終わって、いったん宿に戻った。
夕飯のとき、おかみさんに「夜のツアーも申し込んだ」と話すと、彼女はうれしそうに頷いた。
「産卵を見られたら、運がいいよ。あれは、なかなか見られないからね」
集合は、午後八時。街灯のほとんどない夜道を、宿で借りた懐中電灯の灯りだけで歩いて、待ち合わせの浜へ向かう。
空を見上げて、僕は足を止めた。
「……うそだろ」
星が、降ってくるみたいだった。東京では数えるほどしか見えない星が、空一面に、砂をぶちまけたように散っている。天の川が、白い帯になって横切っていた。
「すごいでしょ。ここの夜は」
声に振り向くと、真帆さんが立っていた。昼間のウェットスーツじゃなく、薄手のパーカー姿。手にした懐中電灯には、赤いセロハンが貼ってある。
「その赤いの、なんですか」
「カメはね、白い光が苦手なの。産卵のじゃまになるから、夜の浜では赤い光しか使わないの。三宅さんのも、これ貼って」
慣れた手つきで、僕の懐中電灯に赤いフィルムを輪ゴムで留めてくれた。指先が、一瞬だけ触れる。
赤い光に照らされた浜辺を、真帆さんは小声で説明しながら歩いた。声を落として、足音も立てないように。
「メスがね、夜になると海から上がってくるの。砂を掘って、卵を産んで、また海に帰っていく。何千キロも旅して、自分が生まれた浜に、ちゃんと戻ってくるんだよ」
「生まれた浜に……? どうやって分かるんですか、そんなの」
「分かってないことだらけ。地磁気を覚えてるって説もあるけど、ほんとのところは、まだ謎なの。だから、おもしろい」
謎なのが、おもしろい。仕事で何でも「確定」させてきた僕には、ない感覚だった。
砂浜の奥のほうで、真帆さんがふいに片手を上げて、僕を制した。
「……いた。しゃがんで。静かにね」
赤い光の先。砂の上に、黒い影があった。
大きなメスのアオウミガメが、後ろ脚で器用に砂を掘っている。深い穴の底へ、白い卵が、ぽとり、ぽとりと落ちていく。ピンポン玉みたいな卵。
(……)
声も出なかった。何千キロも旅をしてきた一匹が、僕らの目の前で、次の命を砂の中に託している。横で、真帆さんも、息を殺してそれを見守っていた。
産卵を終えたメスは、後ろ脚で丁寧に穴を埋め戻し、砂をならし、それからゆっくりと、海のほうへ向き直った。
寄せては返す波の音。月のない暗い海に、その影がだんだん溶けていって——やがて、見えなくなった。
「……行ったね」
ささやくような声だった。隣を見ると、真帆さんの横顔が、赤い光にぼんやり浮かんでいた。その目が、少しだけ、潤んでいるように見えた。
「……何回見ても、こうなんですか」
「うん。何回見ても、泣きそうになる。やだよね、ガイドが」
照れたように笑って、彼女は立ち上がった。
*
4. 島を案内してもらう
翌日の昼、宿でぼんやりしていると、外で軽トラのクラクションが鳴った。
出てみると、真帆さんが運転席から手を振っていた。
「三宅さん、今日ツアー入れてないでしょ。暇なら、島、案内したげる」
「え、いいんですか。仕事は」
「今日はオフ。一人で島にいる人、ほっとけないタチなの。乗って」
助手席に乗り込むと、車内はウェットスーツと潮の匂いがした。曲がりくねった山道を、真帆さんは慣れた手つきで登っていく。
着いたのは、島の高台にある展望台だった。眼下に、あのボニンブルーの海が、どこまでも広がっている。
「ね、すごいでしょ。ここの海、世界でもトップクラスに透明なんだから」
「……ほんとだ。底まで見えそう」
並んで手すりにもたれて、海を見た。風が、彼女の結んだ髪をほどけさせて、後れ毛を揺らしている。
「真帆さんは、ずっと島に?」
「ううん。生まれは横浜。こっちに来たのは、五年前」
「横浜から、小笠原……思いきりましたね」
「大学で海洋生物やってて、卒論でウミガメ調べに来たの。そしたら、もう、東京に帰れなくなっちゃって」
笑いながら、彼女は遠くの海を見た。
「カメの産卵を、初めてこの目で見たとき、決めたの。この島で、この子たちを見守る側になるって。今は調査の仕事しながら、ガイドもやってる」
「かっこいいです、それ」
「かっこよくないよ。給料は安いし、台風来たら船止まって物資来ないし。でも……後悔は、一回もしてない」
その横顔が、まぶしかった。「やりたいこと」を、迷いなく言える人。僕には、ずっとなかったものだ。
「三宅さんは? 旅行会社って言ってたよね」
「はい。人の旅程を組む仕事です。ハネムーンとか、出張とか」
「いいじゃない。人を旅に送り出す仕事」
「……それが、自分は何年も旅に出てなくて。気づいたら、有給が二十日も溜まってました」
真帆さんが、こっちを見た。
「他人の旅は、何百件も完璧に組めるんですよ。なのに、自分のことは、後回しでいいやって。ずっとそうやってきたんです」
言ってから、なんでこんな話をしてるんだろうと思った。会ったばかりの人に。でも、彼女は笑わずに、ちゃんと聞いていた。
「じゃあさ。この一週間が、三宅さんの番だね」
「僕の番?」
「うん。他人の旅じゃなくて、自分の旅。せっかくいちばん遠くまで来たんだから、ちゃんと、楽しんで帰りな」
風が吹いて、海が光った。なんでもないその一言が、なぜか、胸の奥に残った。
*
5. 浜のカメと、本音
それから僕は、毎日のように真帆さんのツアーに参加した。
昼は海でカメと泳ぎ、ときには別の客と一緒に、ときには僕一人だけのときもあった。夜は、浜で産卵を待った。真帆さんの調査の手伝いまでするようになった。
産み落とされた卵の数を数え、産卵巣の位置を記録する。砂の温度を測る。地味で、根気のいる作業。でも、不思議とちっとも退屈しなかった。
ある夜、産卵を待つあいだ、二人で砂浜に並んで座っていた。波の音と、頭上の満天の星。
「三宅さん、すっかり板についてきたね。卵の数え方」
「真帆さんの教え方がうまいんですよ」
「ふふ。お世辞、うまくなった」
「お世辞じゃないです」
赤い光を消すと、あたりは星明かりだけになった。彼女の横顔が、ぼんやりと白く浮かぶ。
「ねえ。ウミガメの子ガメって、孵化して砂から出てきたあと、一目散に海に向かって走るの」
「はい」
「でも、その何百匹のうち、大人になるまで生き残るのは、千匹に一匹くらいなんだって」
「……千匹に、一匹」
「それでもね、一匹も迷わずに、海に向かって走るんだよ。怖がりもしないで。わたし、それを見るたびに思うの。ああ、ちゃんと自分の行きたい方を向かなきゃなって」
星明かりの中で、彼女の声が静かに続いた。
「だから、三宅さんが言ってた『自分のことは後回し』っていうの、わたし、ちょっとだけ分かるけど……でも、もったいないよ。三宅さん、いい目してるもん」
「いい目?」
「カメ見てるときの目。子どもみたいになる。あれが本当の三宅さんでしょ」
胸を、まっすぐ突かれた気がした。
僕は、自分でも気づかないうちに、彼女の横顔をじっと見ていた。星明かりに濡れた頬。少し開いた唇。
真帆さんが、こっちを向いた。視線がぶつかって、一瞬、時間が止まる。
「……なに」
「いえ。……真帆さんも、いい目してるなって」
彼女が、ふっと目をそらした。星明かりでも分かるくらい、耳が、赤かった。
「……ばか。調査中でしょ」
そう言いながら、すぐには立ち上がらなかった。肩が、さっきより少しだけ近くなっていた。
*
6. 次の船
楽しい時間ほど、早く過ぎる。
気づけば、最初に乗ってきた船が、また東京へ折り返す日が近づいていた。次の船——つまり、僕が帰る船は、明後日に出る。
その日の夜も、二人で浜にいた。けれど、産卵はなかなか来なかった。
「……三宅さん、明後日の船で帰るんだよね」
「はい」
「あっという間だったね、一週間」
「……ほんとに」
波の音だけが、しばらく続いた。真帆さんは、膝を抱えて、海のほうを見ていた。
「わたしね、島でいろんな人を案内してきたの。みんな、何日かいて、楽しんで、船で帰っていく。それが普通。慣れてるはずなんだけど」
声が、少し小さくなった。
「……三宅さんが帰るの、なんか、やだな」
ぽつりと落ちた一言に、心臓が跳ねた。彼女は、こっちを見なかった。膝に顎を乗せたまま、暗い海を見ている。
僕は、立ち上がりかけた自分を、止めた。代わりに、ちゃんと言葉を選んだ。
「真帆さん」
「ん」
「僕、帰りたくないです」
彼女の肩が、ぴくっと動いた。
「この一週間で、たぶん、人生でいちばんちゃんと旅をしました。それは、真帆さんがいたからです」
ようやく、彼女がこっちを向いた。星明かりに、その目が揺れている。
「……ずるい。そういうの、最後の最後に言うの」
「最後にしたくないから、言ってるんです」
波が、ひとつ大きく寄せて、引いた。真帆さんが、ふっと笑った。泣きそうな、笑い方だった。
「……うち、来る? すぐそこなの」
心臓が、跳ねた。
「行きます」
「即答だ」
「迷う理由が、ないので」
真帆さんが、砂の上で、僕の手をきゅっと握った。冷えた指。でも、握り返すと、すぐに温かくなった。
*
7. 星明かりの部屋
真帆さんの家は、浜から歩いてすぐの、小さな平屋だった。
調査機材と、貝殻と、海の本でいっぱいの部屋。窓を開けると、波の音がそのまま入ってくる。電気をつけずに、窓から差す星明かりだけの中で、僕たちは向かい合った。
「……電気、つけないの?」
「カメが嫌がるんでしょう、白い光」
「ふふ。ここ、カメいないけど」
「……星のほうが、きれいだから」
真帆さんが、笑った。その頬に、そっと手を添える。彼女が、目を閉じた。長いまつげが、影を落とす。
唇を、重ねた。
ちゅ……。
潮の味がした。軽く触れて、離して、もう一度。角度を変えて、深く。舌先で唇をなぞると、真帆さんの口が、ふっとほどけた。
ちゅる……んちゅ……。
「ん……♡」
腰に手を回して引き寄せる。パーカー越しに、思っていたよりずっと細い体の輪郭が伝わってきた。
「真帆」
「……呼び捨て、いいね♡」
くすっと笑った口を、また塞ぐ。今度は舌を絡めて。
ちゅぷ……れろ……ちゅる……♡
「ん……ふっ……♡」
真帆の手が、僕のシャツの胸元をきゅっと掴む。ぷはっ、と離れると、二人の間に細い糸が引いて、星明かりに光って切れた。
「……シャワー、浴びてないのに」
「海の匂い、好きです」
「……ばか♡」
*
8. ほどけていく
パーカーの裾に手をかけて、ゆっくり頭から抜いた。結んでいた髪が、ばさっとほどけて肩に広がる。
日焼けした肌。でも、水着の跡だけが、白く残っている。シンプルな白いブラに包まれた胸が、星の光に淡く照らされていた。
「……きれいだ」
「やだ、そんなに見ないで♡」
「無理です。ずっと見てたい」
「……もう♡」
首筋に唇を落とす。鎖骨をなぞって、肩へ。背中に手を回して、ホックを外した。カチッ。
腕で隠そうとする真帆の手を、そっとどかす。ふくらみは大きすぎず、でも形がよくて、白く残った肌の上で、先端がほんのり色づいていた。
包むように触れる。ふにっ。
「あっ……♡」
手のひらに吸い付くような柔らかさ。指を沈めると、わずかに汗ばんだ肌が吸い付いてくる。
親指で先端を転がすと、真帆の体がびくっと跳ねた。
「んっ……♡♡」
唇を寄せて、先端をちゅっと吸う。
「やっ……!♡ それっ……♡♡」
舌先で硬くなった先端をころころ転がしながら、もう片方を手で揉む。
ちゅう……れろ……ちゅっ♡
「あぁっ……♡♡ 吸われると……変な声、出ちゃう♡♡」
真帆の手が、僕の髪をくしゃっと掴んだ。
僕は、真帆をそのまま布団に横たえた。窓からの星明かりが、白く残った肌の上をすべる。短パンを脱がせて、最後の一枚に手をかける。布越しに、そっと指で触れた。
すり……。
「ひゃっ……!♡」
——じわり、と。布越しでも、熱と湿り気がはっきり伝わった。
「もう、こんなに」
「だって……浜にいた時から、ずっと……♡」
ショーツを引き下ろすと、とろりと、透明な蜜が糸を引いた。
脚の間に体を滑り込ませて、太ももの内側に唇を落としながら、ゆっくり中心へ近づく。舌先で、そっと触れた。
ちろ……。
「んあっ……!♡」
真帆の腰が、びくんと跳ねた。
ちゅる……れろ……ちゅっ……♡
「あぁっ……♡♡ やっ……そんなとこ……♡♡」
真帆の指が、僕の髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す。小さな突起を見つけて、舌先を集中させた。
こりこり……ちゅっ……れろ♡
「そこっ……!♡♡ あっ、あっ、あっ……♡♡」
太ももを押さえて開かせながら、突起を唇で挟んで、ちゅうっと吸い上げる。
「——っ♡♡♡!! イっ……♡♡♡ んんんっ……♡♡♡」
真帆の背中が弓なりに反って、全身がびくびく震えた。しばらくして、力が抜けたように布団に沈む。
「はぁ……はぁ……♡♡ ……なに、これ……♡」
潤んだ瞳で、こっちを見上げてくる。
「……三宅さんにも、させて♡」
*
9. ふたりだけの島時間
体を起こした真帆が、僕の前で膝立ちになった。
カチャ……ジー……。ベルトを外して、ズボンを下ろす。布越しでも、限界まで張りつめたものが、はっきり形を主張している。真帆がそっと布越しに手を添えて、息を呑んだ。
「……すごい♡ どくどく言ってる♡」
下着のウエストに指をかけて、ゆっくり引き下ろす。ぼるん、と勢いよく飛び出した。
「わ……♡♡ おっきい……♡」
細い指が幹に絡んで、ゆっくり上下に動く。しゅっ……しゅっ……。
「口でも、していい?♡」
上目遣いで聞いてくる。星明かりに濡れたその表情が、艶っぽすぎて言葉にならなかった。ちゅ、と先端にキス。ぺろ、と舐めて——ぱくりと口に含んだ。
ずぷ……。温かい口の中に、先端が包まれる。
「ん……じゅる……♡ んちゅ……♡」
ゆっくり頭を上下させながら、頬をすぼめて吸い上げる。ほどけた髪が、揺れる。
ちゅぱっ……じゅるるっ……♡
「真帆、それ、やばい……」
「んふ♡ もっと?♡」
ずぷっ……ずぷっ……。深く咥えるたびに、喉の奥に触れて、全身に痺れが走った。
「待って……それ以上は、イく……」
ぷはっ、と真帆が口を離す。唾液が、つうっと糸を引いた。
「だめだよ♡ まだ、これからなのに♡」
いたずらっぽく笑う真帆を、布団に引き上げた。財布からコンドームを取り出すと、真帆が目を細めた。
「……用意、いいんだ♡」
「一応、旅の準備は得意なので」
「ふふ♡ さすが手配係♡ ……早く、来て♡」
手早く装着して、真帆を仰向けにする。ほどけた髪が、布団に広がる。紅潮した頬、潤んだ瞳。脚の間に体を進めて、先端をあてがった。
ぬちゅ……♡
「入れるよ、真帆」
「うん……♡ 来て♡」
ゆっくり、腰を進める。
ずぷ……ずぷぷ……♡
「んんっ……♡♡! 入って……くる……♡♡」
温かい。きつい。きゅうきゅうと締め付けながら、奥に引き込んでくる。
「おっきい……♡♡ 中、いっぱいになってく……♡♡♡」
ずぷん、と根元まで収まった。下腹部が、ぴたりと密着する。
「はぁっ……♡♡ ぜんぶ、入った……♡♡」
ゆっくり腰を引いて、また押し込む。
パン……パン……パン……♡
「あっ、あっ、あっ……♡♡♡ 気持ちいい……♡♡」
ぐちゅ……ぐちゅ……。結合部から、水音が響く。窓の外では、波の音が、ずっと続いている。
「真帆、すごい、締まってる」
「だって、三宅さんのが……おっきいからっ……♡♡♡」
腰を掴んで、少しずつペースを上げた。
パンパンパン……!
「あっあっあっ♡♡♡! そこっ……当たって……♡♡♡」
角度を変えて突き上げると——
「そこぉっ♡♡♡!!」
真帆の脚が、僕の腰に絡みついた。爪が背中に食い込む。少し痛い。でも、それがまた興奮する。
「三宅さんっ……♡♡ 顔、見せて……♡♡」
正常位だと、真帆の表情が全部見える。眉が寄って、口が開いて、瞳が潤んで——いつも凛としている彼女が、今は、僕の下で乱れている。キスを落としながら、腰を動かし続けた。
「んっ……んぅっ……♡♡♡」
真帆の中が、きゅうきゅうとリズミカルに締め付けてくる。
パンパンパン……!
「あっ♡♡ ダメっ……♡♡♡ そこばっかり……♡♡♡」
「真帆、いいよ。すごくいい」
「わたしもっ……♡♡ もっと……♡♡♡」
体を起こして、真帆の腰を抱え直す。さらに奥を突くと、真帆が顔をのけぞらせた。
パンパンパンパン……!!
「やっ♡♡♡ 奥っ……奥に当たってるっ……♡♡♡♡」
ぐちゅぐちゅと、卑猥な音が部屋に響く。波の音と、混ざり合う。
「イっちゃ……♡♡♡ また、イっちゃうっ……♡♡♡♡」
「いいよ、一緒に」
「うんっ……♡♡ 一緒に……♡♡♡ 来てっ……♡♡♡♡」
真帆が、両腕を伸ばして僕の背中にしがみつく。脚も、がっちり腰に絡む。奥に押し付けるように——最後の一突き。
「あぁぁっ♡♡♡♡♡!!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
真帆の全身が震えて、中が痙攣するように搾り取っていく。
「はぁっ……♡♡♡ すご……かった……♡♡」
抱き合ったまま、荒い呼吸を繰り返す。ちゅ、と軽くキスをした。
「……もう少し、このまま♡」
繋がったまま、お互いの心臓の音を聞いた。窓の外で、波が、寄せては返している。
「……ねえ、三宅さん」
「ん?」
「明日、まだ帰らないよね」
「明後日です。明日は、まだ、ここにいます」
「……よかった♡」
真帆が、横向きになって、僕の胸に頬を寄せた。日焼けした肩を抱き寄せると、彼女がくすぐったそうに笑った。
「……ねえ、もう一回、いい?♡」
「……明日も早いんじゃ」
「いいの。今夜は、調査、お休み♡」
真帆が、いたずらっぽく笑って、僕の上にまたがってきた。
新しいコンドームを着けて、真帆が腰を落とす。
ずぷん……♡♡
「あっ♡♡♡ この体勢、奥まで入るっ……♡♡♡」
星明かりに照らされて、白く残った肌が淡く光る。ほどけた髪が、肩から胸に流れ落ちる。真帆が、ゆっくり腰を上下させ始めた。
ずぷ♡ ずちゅ♡ ずぷっ♡♡
「ん♡♡ 自分で動くと……あたるとこ、わかるっ……♡♡♡」
目の前で、胸が揺れる。手を伸ばして、両方を包んだ。
むにゅっ♡
「ひゃんっ♡♡♡ 揉まないで……動けなくなるっ……♡♡♡」
「いいから。続けて」
ぱんっ♡ ぱんっ♡ ぱんっ♡♡
「あっあっあっ♡♡♡ ここっ……いいとこ、当たってるっ……♡♡♡♡」
真帆が腰を回すように動かす。ぐりんと、中をかき回される感覚。
「島の人と、こんなふうになったの……初めてだよっ……♡♡」
「僕、島の人じゃないですけど」
「もう……そういうとこ♡♡」
下から、突き上げた。
ずぷんっ♡♡♡
「ひぁっ♡♡♡♡ 下からっ……ずるいっ……♡♡♡」
真帆の動きと、僕の突き上げが、一番奥でぶつかる。
パンパンパンパン……!!
ぐちゅぐちゅぐちゅ♡♡♡
「だめっ♡♡♡ また来るっ……イくイくイくっ……♡♡♡♡」
「僕も、もう……っ」
「一緒にっ……♡♡♡ 一緒がいいっ……♡♡♡♡」
真帆が、僕の上に倒れ込んでしがみついてくる。
最後に、奥へ深く——突き上げた。
「イくぅぅっ♡♡♡♡♡!!」
どくんっ、どくっ、どくっ……!
真帆の中が、痙攣するように搾り取っていく。
「はぁっ……♡♡♡ すごかった……♡♡」
汗ばんだ体を、そのまま抱きしめた。星明かりの中、二人の呼吸と、波の音だけが、部屋に満ちている。
「……三宅さん」
「ん?」
「帰っちゃうの、やっぱりやだ」
ちゅ、と、真帆が僕の胸に唇を落とした。そのまま、抱き合って眠りに落ちた。
*
10. 船を見送る側、見送られる側
——出航の日。
二見港の桟橋に、おがさわら丸が停まっていた。帰る客と、見送る島の人たちで、桟橋はにぎわっている。
僕の隣には、真帆がいた。ウミガメのTシャツに、日焼けした顔。けれど、いつもの凛とした表情が、今日は少しだけ崩れている。
「……ほんとに、行っちゃうんだね」
「はい。次の船まで、また一週間ありますから。仕事、戻らないと」
「ふふ。手配係さんだもんね」
笑おうとして、うまく笑えていなかった。僕は、彼女の手を取った。
「真帆。僕、ちゃんと言わせてください」
「……うん」
「この一週間で、決めたんです。僕、また来ます。次の有給も、その次も、ぜんぶ小笠原に使う」
真帆の目が、揺れた。
「いや、それだけじゃない。僕、東京で人の旅ばっかり組んできたけど……今度は、自分の行きたい場所を、ちゃんと決めます。その場所は、ここです。真帆のいる、この島です」
波の音。汽笛が、長く鳴った。出航が近い。
「……ずるいって、言ったじゃん。最後に、そういうの」
「最後じゃないからです。何回でも、戻ってきます」
真帆が、くしゃっと笑った。今度は、ちゃんと笑えていた。目尻に、涙が光っていたけれど。
「カメはね、何千キロ旅しても、生まれた浜に必ず帰ってくるの。覚えてる?」
「覚えてます」
「三宅さんも、ちゃんと帰ってきてよ。この浜に。……わたしのとこに」
「帰ってきます。絶対に」
真帆が、背伸びをして、僕の頬に、ちゅっとキスをした。見送りの人たちの前で。日焼けした頬が、真っ赤になっていた。
「……いってらっしゃい」
「いってきます」
船に乗り込んで、デッキの手すりにもたれた。やがて、船がゆっくりと桟橋を離れる。
小笠原の見送りは、特別だ。船が港を出ると、漁船やダイビングボートが、何隻も追いかけてきて、一緒に併走する。乗っている人たちが、手を振る。海に飛び込んで、いつまでも手を振る人もいる。
その中に——一隻、小さなボートがいた。
真帆だった。操舵しながら、片手を大きく振っている。ウミガメのTシャツが、遠ざかってもよく見えた。
「……真帆」
僕は、手すりから身を乗り出して、力いっぱい手を振り返した。
彼女のボートは、湾の出口ぎりぎりまで併走して、そこで止まった。決められた地点。それより先には、行けない。それでも、僕の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
ボニンブルーの海の上で、彼女の影が、だんだん小さくなっていく。
でも、見えなくなったわけじゃない。次の船で、僕はまた、ここに戻ってくる。生まれた浜に帰るカメみたいに。
*
——それから、三ヶ月。
東京に戻った僕は、有給を計画的に貯め直しながら、仕事を続けている。手配係の腕は、相変わらず確かだ。ただ、ひとつ変わったことがある。自分の旅程を、初めて自分のために組むようになった。
スマホに、真帆からのメッセージが届いた。写真が一枚。砂から這い出した、小さな子ガメの群れ。みんな、迷わず海のほうを向いている。
『今年の子たち、無事に巣立ったよ。海に向かって、一目散だった。三宅さんに見せたかったな』
僕は、すぐに返信した。
『次の船、予約しました。来月、戻ります』
既読が、すぐについた。少しして、返事が来る。
『ほんとに?♡ 浜で待ってる。赤いライト、持っていくね』
窓の外、東京の空には、星がほとんど見えなかった。でも、目を閉じれば、あの満天の星と、波の音と、隣にいる彼女の横顔が、はっきり浮かんだ。
僕は、何年も他人の旅ばかり組んできた。自分のことは、いつも後回しだった。
でも、もう違う。行きたい場所は、決まっている。会いたい人も、決まっている。
二十四時間の船は、遠い。それでも、その遠さの先に、必ず帰る浜がある。
「おかえり、って言わせてね♡」
「ただいま、って言いに行きます。何回でも」
来月、僕はまた、いちばん遠い島へ向かう。今度は、帰るために。
― 終 ―