画面の中で部品を設計するだけで自分の手では何ひとつ形にできなくなっていた分析機器メーカーの若手技術者の僕が、社の地下のガラス工房でフラスコを一つずつ手で吹き続ける無口な年上のガラス職人に、炎の前でガラスに息を入れる手ほどきを受けるうちに惹かれ、試作品を吹き上げた梅雨明けの夜の工房で結ばれた話

1. 画面の中だけの僕

僕、安西涼(あんざい りょう)、二十八歳。

中堅の分析機器メーカーで、開発部の技術者をしている。

水や食品に、どんな物質が、どれだけ含まれているか。それを測る、研究室向けの装置を、設計するのが、僕の仕事だ。

入社して、六年。僕は、自分のことを、それなりに、優秀な技術者だと思っていた。

CADの画面の中でなら、どんな部品でも、設計できる。寸法を入れて、公差を決めて、3Dで組み上げる。シミュレーションで、流れも、熱も、確かめられる。

その日も、僕は、朝から晩まで、二台のモニターの前に、座っていた。

田所「安西。新しい水質計の試作、進捗どうだ」

声をかけてきたのは、開発課長の、田所さんだった。

安西涼「……設計自体は、ほぼ固まってます。あとは、心臓部のセルが、できれば」

田所「そのセルが、いちばんの問題なんだろう。来月の試作審査、通せるのか」

僕は、答えに、詰まった。

うちの社が、来期に賭けている、新型の水質分析計。その心臓部に、特殊な形をした、ガラスのセルが、要る。サンプルの水を、細い流路に通して、そこに光を当て、濁りや成分を、測る部品だ。

その流路の形が、どうしても、複雑になった。シミュレーションでは、完璧だった。なのに——どこに発注しても、その形のガラスは、上がってこなかった。

田所「外注、何社あたった」

安西涼「五社です。三社は、こんな形は無理だと。残りの二社も、試作に二ヶ月、見積もりは桁が違いました」

田所「二ヶ月じゃ、審査に間に合わん」

田所さんが、ため息をついた。

僕は、画面の中のセルを、ぐるりと、回した。完璧な設計のはずの、その部品が、現実には、どこにも、存在しなかった。


2. 地下の灯り

その夜、僕は、終電近くまで、会社に残っていた。

頭を冷やそうと、自販機を探して、ふだん降りない、地下の階へ、エレベーターで下りた。

地下には、古い倉庫や、もう使っていない、昔の実験室が、並んでいる。蛍光灯も、半分は切れていて、薄暗い。

その廊下の、いちばん奥。

一室だけ、ドアの曇りガラスから、ぼんやりと、橙色の灯りが、漏れていた。

そして——しゅうう、という、低い、ガスの燃える音。

僕は、ふらふらと、その音に、引き寄せられた。

ドアは、少しだけ、開いていた。隙間から、中を覗く。

安西涼(……なんだ、ここ)

そこは、見たことのない、工房だった。

古い作業台が、並んでいる。壁には、太さの違うガラス管が、何百本も、立てかけてある。棚には、フラスコや、ビーカーや、見たこともない形の、ガラス器具が、ずらりと。

そして、部屋の真ん中。

青白い炎を吹く、大きなバーナーの前に、一人の人が、座っていた。

ゴーグルをかけ、両手で、細いガラス管を、くるくると、回している。炎の中で、ガラスの一点が、飴のように、とろりと、赤く溶けていく。

その手つきに、僕は、息を、呑んだ。

迷いが、まるで、なかった。


3. 手で作る人

しばらく、僕は、ドアの隙間から、その作業を、見つめていた。

回し続けたガラス管の先に、その人は、口でくわえたゴム管から、ふっと、息を、送り込んだ。

赤く溶けた部分が、風船のように、ぷうっと、膨らんでいく。

きれいな、丸い球が、生まれた。

安西涼「……すごい」

思わず、声が、漏れた。

その人の手が、止まった。ゴーグルを上げて、こちらを、見る。

紺色の作業着。前髪を、無造作にピンで留めた、化粧気のない顔。年は、僕より、少し上だろうか。涼しげな、けれど、どこか強い目をした、女の人だった。

結城透子「……どなた」

低くて、落ち着いた声だった。

安西涼「あ……すみません。開発部の、安西と言います。灯りが、ついてたので、つい」

結城透子「開発の人が、こんな地下に、何の用」

安西涼「いえ、用というか……。あの、ここ、何をする部屋なんですか」

その人は、少し、間を置いてから、答えた。

結城透子「ガラス工房。理化学ガラスを、作るところ。……もっとも、今は、私が、一人で守ってるだけだけど」

結城透子(ゆうき とうこ)さん、と、作業着の胸の名札に、あった。

聞けば、彼女は、社で唯一の、ガラス職人だった。

昔は、何人もいたらしい。装置に使う、特殊なガラス器具を、社内で、手作りしていた。けれど、今はほとんど外注になって、工房は、縮小に縮小を重ね、ついに、結城さん、一人になった。

結城透子「古い装置の修理に、どうしても手吹きのガラスが要るときがある。それで、かろうじて、残してもらってるの。……来年には、たぶん、ここも畳む」

淡々と、彼女は言った。

僕は、壁いっぱいのガラス管と、その、迷いのない手を、見た。

画面の中で、僕が、いくら完璧に描いても、形にならなかったもの。それを、この人は、たった二本の手で、火の前で、作っていた。


4. 息を入れる

次の日、僕は、設計図を抱えて、また、地下に下りた。

安西涼「結城さん。……折り入って、お願いが、あるんです」

僕は、例の、水質計のセルの図面を、作業台に、広げた。

安西涼「この形の、ガラスのセルが、どうしても、要るんです。外注は、全滅でした。……結城さんなら、作れませんか」

結城さんは、図面を、じっと、見た。細い流路が、Sの字に折れ曲がり、途中で、薄い窓になる。我ながら、無茶な形だと、思う。

結城透子「……ずいぶん、意地の悪い形ね」

安西涼「……はい。自分でも、そう思います」

結城透子「この窓のところ、肉厚を、これだけ薄く保ったまま、流路を曲げる。……機械じゃ、無理でしょうね。ガラスは、熱で、必ず縮むから」

安西涼「……作れない、ですか」

結城さんは、図面から、目を上げた。

結城透子「作れないとは、言ってない。……ただ、一発じゃ、無理。何本も、失敗して、勘で、寸法を、つかむしかない。手で作るって、そういうこと」

そう言って、彼女は、立ち上がった。

結城透子「安西さん。あなた、ガラスを、触ったこと、ある?」

安西涼「……いえ。設計は、画面の中だけで」

結城透子「……だと思った。あなたの図面、きれいだけど、ガラスの気持ちが、ぜんぜん、入ってない」

ガラスの、気持ち。

その言葉に、僕は、不意を、突かれた。

結城透子「ちょっと、こっち来て。……自分の作る部品が、どうやって生まれるか、知らないままじゃ、いい設計なんて、できないでしょう」

そう言って、彼女は、僕を、バーナーの前に、座らせた。

短いガラス管を、僕の手に、握らせる。

結城透子「炎の中で、ゆっくり、回して。手を、止めないで。……ガラスは、止まると、垂れる」

おそるおそる、僕は、ガラス管を、青白い炎に、近づけた。

回す。回す。やがて、ガラスの一点が、じわりと、赤く、柔らかくなる。

結城透子「そう。……そこで、ゴム管を、くわえて。優しく、息を、入れて」

僕は、ゴム管を、口にくわえ、ふっと、息を、送った。

赤い部分が、ぷくっと、小さく、膨らんだ。

いびつな、けれど、確かに、丸い、球が、できた。

安西涼「……できた」

自分の息で、ガラスが、形を、変えた。画面の中の数字じゃない。手の中で、火と息で、生まれた、ひとつの、形。

僕は、その小さな球を、しばらく、見つめていた。

結城透子「……ふぅん。初めてにしては、悪くない」

ゴーグルの奥で、結城さんが、ほんの少し、目を、細めた。それが、たぶん、彼女の、笑い方だった。


5. 火と、梅雨

それから、僕は、毎晩のように、地下の工房に、通うようになった。

昼間は、自分の仕事をして、定時を過ぎると、地下に下りる。セルの試作を、結城さんに、お願いするためだ。

けれど、本当は、それだけじゃ、なかった。

火の前で、ガラスを回す、結城さんの手を、見ているのが。その隣で、自分も、下手なりに、ガラスを、いじっているのが。いつのまにか、一日で、いちばん、息のできる時間に、なっていた。

六月の、長い、梅雨だった。

外は、毎日、雨。じめじめと、肌にまとわりつく、湿った空気。けれど、工房の中だけは、バーナーの熱で、からりと、乾いて、暖かかった。

安西涼「結城さんは、どうして、ガラス職人に?」

ある夜、僕は、手を動かしながら、訊いた。

結城透子「……父が、これをやってた。町工場で、理化学ガラスを。子供の頃から、火を見て育ったの。……だから、画面の中の仕事は、向いてなかった」

安西涼「……うちで、唯一の職人なんですよね。寂しく、ないですか。一人で」

結城さんは、回していたガラス管を、一度、炎から、外した。

結城透子「寂しい、か。……どうかな。ガラスは、嘘をつかないから。火の温度と、回す速さと、息の強さ。そのとおりに、形になる。……人より、ずっと、正直」

そう言って、彼女は、ふっと、息を吐いた。

結城透子「……でも、それを、見ててくれる人が、いるのは。……まあ、悪くない」

ちらりと、僕を、見た。

その視線に、僕の心臓が、ことり、と、鳴った。

工房の窓を、雨が、伝っていた。けれど、火のそばの僕たちは、その雨の音さえ、心地よく、聞いていた。


6. 割れた、夜

試作は、簡単では、なかった。

結城さんの言ったとおり、ガラスは、何本も、割れた。

熱で、縮む。冷ますときに、ひずみが残って、ぴしりと、ひびが入る。あと一歩、というところまで、いっても、最後の最後で、薄い窓の部分が、割れてしまう。

その夜も、ほぼ完成形まで、来ていた。

結城さんが、息を詰めて、最後の流路を、曲げる。Sの字が、きれいに、決まりかけた、その瞬間。

ぴきっ。

小さな音とともに、窓の部分に、ひびが、走った。

結城透子「……あー。だめだ。今のは、惜しかった」

がくり、と、彼女の肩が、落ちた。

僕は、思わず、立ち上がっていた。

安西涼「……すみません。僕の、図面が、無茶なせいで。結城さんに、こんな、何度も」

結城さんが、ゴーグルを、上げた。額に、汗が、にじんでいた。

結城透子「……謝らないで。私が、まだ、ものにできてないだけ。……あと、少しなの。寸法の勘が、もうすぐ、つかめる」

安西涼「でも、毎晩、こんな遅くまで」

結城透子「安西さん」

彼女が、僕を、まっすぐ、見た。

結城透子「あなたこそ、どうして、こんなに、通ってくるの。試作なんて、私に、丸投げして、帰ってもいいのに」

僕は、言葉に、詰まった。

安西涼「……僕、ずっと、画面の中だけで、仕事してきたんです。完璧な図面を描けば、それで、ものづくりをした気に、なってた。……でも、違った。僕の描いた部品は、現実には、どこにも、なかった」

割れたガラスの破片が、作業台で、橙色の灯りを、はじいていた。

安西涼「結城さんが、火の前で、何度も割って、それでも、形にしようとしてるのを見て。……僕、初めて、自分が、何も、作れてなかったって、気づいたんです」

しん、と、工房が、静まった。

結城さんは、しばらく、黙っていた。

それから、棚から、保温ポットを、取り出して、二つの紙コップに、温かいほうじ茶を、注いだ。

結城透子「……飲んで。今日は、もう、店じまい」

差し出された、紙コップは、彼女の手の温度で、ほんのり、温かかった。

結城透子「あなたみたいな人が、開発に、いてよかった。……ものが、どう生まれるか、知ろうとする技術者。今どき、珍しい」

その言葉が、割れた試作よりも、ずっと、僕の胸に、残った。


7. 二人だけの、工房

梅雨の終わりが、近づいていた。

試作審査の、締め切りも、すぐそこに、迫っていた。

その夜、僕と結城さんは、また、二人きりで、工房に、こもっていた。

何度目かの試作。結城さんの手が、いつもより、ずっと、慎重だった。

ガラス管を、回す。炎の中で、赤く溶かす。息を、入れる。Sの字を、曲げる。薄い窓を、形づくる。

僕は、息を、止めて、見守っていた。

結城透子「……安西さん。ゴム管、持って。私が合図したら、ほんの少しだけ、息を、入れて」

安西涼「……僕が、ですか」

結城透子「あなたの、装置でしょう。最後のひと息は、設計した人が、入れるべき」

僕は、震える手で、ゴム管を、握った。

結城さんが、ガラスを、最後の位置で、止める。

結城透子「……今。優しく」

僕は、そっと、息を、送った。

ふう、と。

赤く溶けた窓が、ほんの少し、ふくらんで、ぴたりと、形を、保った。

結城さんが、すぐに、それを、徐冷炉に、入れた。ゆっくり冷ませば、ひずみが、残らない。

結城透子「……あとは、明日まで、待つだけ。割れずに冷めたら、たぶん、完成」

長い、長い、息を、彼女が、吐いた。一週間、張りつめていたものが、ようやく、ほどけた、ような。

僕たちは、しばらく、徐冷炉の、小窓の灯りを、二人で、並んで、見つめていた。

安西涼「……結城さん」

結城透子「ん」

安西涼「……来年、この工房、本当に、畳むんですか」

結城さんが、小さく、笑った。

結城透子「……どうかな。最近、ちょっと、思い直してる。……ここに、毎晩、来る人が、できたから」

その横顔が、徐冷炉の灯りに、橙色に、染まっていた。

汗で、額に、貼りついた前髪。ピンが、ひとつ、外れかけている。

気づくと、僕は、その前髪に、手を、伸ばしていた。

そっと、よけてやる。

結城さんが、びくっと、肩を、震わせた。けれど、逃げなかった。

結城透子「……安西さん」

安西涼「……すみません。つい」

結城透子「……謝らないでって、言ってるでしょう」

潤んだ目で、彼女が、僕を、見上げた。いつも、火しか見ていなかったその目が、今は、まっすぐ、僕だけを、映していた。


8. 吹き上げた、夜

翌日。

僕は、仕事が、手につかなかった。

定時のチャイムが鳴るのを、待ちかねて、地下に、駆け下りた。

工房のドアを、開ける。結城さんは、もう、徐冷炉の前に、立っていた。

結城透子「……来た。ちょうど、今、開けるところ」

二人で、徐冷炉の扉を、開ける。

中から、結城さんが、そっと、それを、取り出した。

Sの字に、なめらかに折れ曲がった、流路。薄く、透きとおった、窓。割れも、ひびも、ない。

——完成した、セルだった。

安西涼「……できた。……できましたよ、結城さん!」

僕は、それを、灯りに、かざした。透明なガラスが、橙色の光を、きらりと、通した。画面の中にしか、なかった部品が、今、確かに、僕の手の中で、光っていた。

結城透子「……ほんとだ。……割れなかった」

結城さんの声が、少し、震えていた。

僕は、思わず、彼女のほうを、向いた。

安西涼「結城さんが、いてくれたから、です。あなたが、何度も、割って、それでも、形にしてくれたから」

結城透子「……違う。最後のひと息は、あなたが、入れたでしょう。……これは、二人で、作ったの」

長い梅雨が、その日、ようやく、明けていた。

工房の窓の外、雨上がりの夜空に、久しぶりの、月が、出ていた。

僕は、完成したセルを、そっと、作業台に、置いた。

そして、結城さんの、火で温まった、その手を、握った。

安西涼「……結城さん。僕、あなたに、会えて。……毎晩、ここに、来られて。よかったです」

結城透子「……安西さん」

安西涼「仕事だけじゃ、ない。……あなたに、惹かれてます。ずっと」

結城さんが、ゆっくりと、目を、伏せた。

それから、小さな声で、言った。

結城透子「……知ってた。火を見てるふりして、ずっと、私の手ばっかり、見てたでしょう」

安西涼「……ばれてましたか」

結城透子「……ふふ。職人を、なめないで」

そう言って、彼女は、僕の、すぐ前まで、来た。

ゴーグルを外した、その顔が、橙色の灯りの中で、無防備に、近かった。

僕は、ゆっくりと、唇を、重ねた。

ちゅっ。

結城透子「……ん」

火のそばの、その唇は、驚くほど、柔らかくて、少しだけ、震えていた。


9. 火のそばで

工房のドアの鍵を、結城さんが、内側から、そっと、かけた。

バーナーの火を、小さく、絞る。それでも、部屋は、ほんのり、暖かかった。

僕は、彼女を、作業椅子に、座らせて、もう一度、口づけた。

結城透子「……こんな場所で。……職人失格ね、私」

安西涼「……ここが、いいんです。二人で、ものを作った場所だから」

結城透子「……ずるい言い方」

ふっと、笑った彼女の、紺色の作業着の、ボタンに、僕は、手をかけた。

一つずつ、外していく。

下から、白い、なめらかな肌が、のぞいた。火の前で働く人とは思えないほど、それは、白かった。

結城透子「……あんまり、見ないで。火傷の痕とか、あるから」

腕に、小さな、古い火傷の痕が、いくつか、あった。職人の、勲章のような、痕。

僕は、その一つに、そっと、唇を、落とした。

安西涼「……綺麗です。この手が、あのセルを、作ったんですね」

結城透子「……っ、もう。そういうこと、言わないで」

耳まで、赤くして、彼女が、顔を、背けた。

作業着を、肩から、滑らせる。下着の白さが、橙色の灯りに、ほのかに、照らされた。

ずっと、きびきびと、火を操っていた人が、今は、僕の前で、無防備に、息を、震わせている。

そのギャップに、僕は、たまらなく、なった。

背中に手を回して、ホックを、外す。

かちり、と。

結城透子「……っ」

ふるん、と、白い胸が、こぼれた。

僕は、その柔らかさを、両手で、そっと、包んだ。

結城透子「ん……っ」

安西涼「……柔らかい」

結城透子「……いちいち、言わないで……っ」

口では、そう言うのに、彼女の息は、もう、上がっていた。

指の先で、つんと色づいた先端に、触れると、体が、びくっと、跳ねた。

結城透子「ひゃっ……そこ……っ」

安西涼「ここ、弱いんですか」

結城透子「……知らない……っ」

僕は、片方の先端を、口に、含んだ。

ちゅっ……れろっ……

結城透子「あっ……ん……っ」

いつも、迷いなく、ガラスを操っていた人が。今は、甘くて、頼りない声を、こぼしている。

舌で先端を転がしながら、もう片方の胸を、やわやわと、揉む。

結城透子「安西さん……っ、それ……だめ……っ」

彼女の太ももが、もじもじと、すり合わさっていた。

僕は、そっと、作業着のスカートの中へ、手を、滑らせた。

安西涼「……脱がせて、いいですか」

結城透子「……っ、うん」

スカートを下ろすと、白い下着だけに、なった。

その中心は、もう、しっとりと、湿っていた。

布越しに、そっと指でなぞると。

結城透子「んっ……」

彼女の腰が、ぴくんと、跳ねた。

安西涼「……もう、濡れてます」

結城透子「……言わないで……っ。だって、安西さんが……」

恥ずかしそうに、顔を背ける、その横顔が、たまらなく、可愛かった。

僕は、最後の一枚を、ゆっくりと、脱がせた。

火の灯りの中で、しっとりと濡れたそこが、ほのかに、光っていた。

指で、優しく、敏感な突起を、撫でる。

くちゅ、と、小さな水音がした。

結城透子「あっ……♡」

安西涼「気持ち、いいですか」

結城透子「……っ、うん……っ♡」

円を描くように撫でながら、指を、ゆっくり、中へ、滑らせた。

ずぷ、と。

結城透子「んあっ……♡」

熱くて、きつい中が、僕の指を、きゅっと、締めつける。

結城透子「安西さん……っ♡ だめ……それ……っ♡」

安西涼「いいですよ。……我慢、しないで」

結城透子「やっ♡ 見ないで……っ♡♡」

指の動きを速めると、彼女の体が、ぐっと、反った。

結城透子「あっ♡ あっ♡ ——っ♡♡♡」

びくびく、と腰が震えて、中が、きゅうっと、締まる。

息を切らせる結城さんの額に、汗で張りついた前髪を、僕は、そっと、よけてやった。


10. 重なる、二人

結城透子「……はぁ……っ。安西さんも……」

結城さんが、潤んだ目で、僕を、見上げた。

結城透子「……私だけ、なんて。ずるい」

僕は、避妊具をつけて、彼女の脚の間に、体を、進めた。

熱く張りつめたものを、濡れた入り口に、あてがう。

安西涼「……いきます」

結城透子「……うん。来て」

ゆっくりと、腰を、進めた。

ずぷ……っ♡

結城透子「んっ……あぁ……っ♡♡」

先端が入った瞬間、結城さんが、僕の背中に、しがみついた。

きつい。でも、とろとろに濡れているから、彼女の中は、僕を、奥まで、ゆっくりと、受け入れていく。

ずず……っ

結城透子「あ……っ♡ 奥……来てる……っ♡」

安西涼「……結城さんの中、すごく、熱い」

根元まで収まって、僕は、一度、深く、息を、吐いた。

火と息で、ガラスを形づくってきた人と、今、こんなにも、近いところで、繋がっている。

安西涼「……動いて、平気ですか」

結城透子「……うん。来て……っ」

ゆっくりと、動きはじめた。

ずちゅ……ぱちゅ……

結城透子「あっ♡ ん……っ♡」

誰もいない、夜の工房。たくさんのガラス器具が、橙色の灯りを、静かに、はじいている。

その静けさに、彼女の甘い声と、肌の触れ合う音が、混ざっていく。

安西涼「結城さん、気持ち、いいですか」

結城透子「……っ♡ うん……っ♡ すごく……っ♡」

安西涼「僕も。……ずっと、こうしてたい」

結城さんが、僕の首に腕を回して、自分から、唇を、求めてきた。

キスをしながら、奥を突くたびに、彼女の体が、跳ねる。

ぱちゅ……ぱちゅ……ぱちゅっ♡

結城透子「あっ♡ あっ♡ そこ……っ♡ 奥、当たるの……っ♡♡」

安西涼「ここ、好きですか」

結城透子「っ♡♡ 好き……っ♡ 安西さんの……好き……っ♡♡」

それが、体のことなのか、僕自身のことなのか。たぶん、どっちも、だった。

結城透子「……名前で、呼んで……っ♡」

安西涼「……透子さん」

結城透子「……っ♡♡」

名前を呼ぶと、彼女の中が、きゅうっと、締まった。

安西涼「透子さん。……あなたに、会えて、よかった」

結城透子「……私も……っ♡ 涼くん……っ♡」

僕の名前を、彼女が、初めて、呼んでくれた。いつも、ガラスとしか、向き合ってこなかった、その口で。

それだけで、胸の奥が、いっぱいに、なった。

作業椅子が、小さく、軋む。

火を絞った工房の中、二人の声が、満ちていく。

結城透子「涼くん……っ♡ もう……っ♡」

安西涼「僕も……っ。一緒に」

結城透子「うん……っ♡ 一緒が、いい……っ♡」

僕は、透子さんを、ぎゅっと抱きしめて、最後の律動を、速めた。

ぱちゅぱちゅぱちゅっ♡♡♡

結城透子「あっ♡ あっ♡ イクっ……♡ 涼くん、一緒に……っ♡♡」

安西涼「……っ、透子さんっ」

ぱちゅんっ——♡♡♡

結城透子「あぁぁ……っ♡♡♡」

奥で、僕が震えるのを、透子さんの体が、ぎゅうっと締めつけながら、受け止める。

二人で、同じ波に、さらわれた。

汗ばんだ体が、ぴったり重なったまま、しばらく、動けなかった。

結城透子「……はぁ……っ。……こんなの、初めて」

安西涼「……透子さん」

結城透子「ん……?」

安西涼「明日からも、ここに、来ていいですか。……試作が、終わっても」

透子さんが、ふっと、笑った。

結城透子「……当たり前でしょう。……勝手に、来なくなったら、許さないから」

そう言って、僕の胸に、頬を、すり寄せた。


11. 透きとおる、手

数日後。

試作審査は、無事に、通った。

結城さんの吹いた、あのセルは、シミュレーションどおりの、いや、それ以上の、きれいなデータを、出してくれた。

田所「安西。よくやった。あのセル、どこで、作らせたんだ」

田所さんに、訊かれて、僕は、答えた。

安西涼「……うちの、地下です。社の、ガラス職人が、手で、吹いてくれました」

田所「地下……? まだ、あの工房、生きてたのか」

安西涼「生きてます。……これから、いちばん、大事な部署に、なりますよ」

僕は、そう言って、笑った。

その夜も、僕は、地下の工房に、下りた。

ドアの曇りガラスから、いつもの、橙色の灯りが、漏れている。しゅうう、という、ガスの燃える音。

ドアを開けると、火の前で、透子さんが、ガラスを、回していた。

結城透子「……来た。今日は、何を作りに?」

安西涼「いえ。……透子さんの、顔を見に」

結城透子「……ふふ。なにそれ」

笑いながら、彼女は、回していたガラス管を、炎から、外した。

そして、棚から、小さな、透明なものを、取り出して、僕に、差し出した。

結城透子「……これ、あげる。昨日の夜、こっそり、作った」

それは、小さな、ガラスの、雫だった。中に、ほんの少し、青い色が、閉じ込められている。

安西涼「……これ、僕に?」

結城透子「あなたが、初めて、吹いた球。覚えてる? いびつだったやつ。……あれを、思い出して、作ったの。きれいに、磨いて」

火で温まった、その雫を、僕は、手のひらで、握った。

結城透子「……ものは、画面の中じゃ、生まれない。火と、手と、息で、生まれる。……あなたに、それを、覚えていてほしくて」

安西涼「……一生、忘れません。透子さんが、教えてくれたこと、ぜんぶ」

僕は、その手を、握った。

何度も火傷をして、何万もの器具を、火の前で、形にしてきた、その手は、ガラスのように、正直で、けれど、とても、あたたかかった。

安西涼「透子さん。……これからも、よろしくお願いします。仕事も、それ以外も」

結城透子「……こちらこそ。涼くん」

工房の窓の外、梅雨明けの夜空に、星が、出ていた。

火のそばで、透きとおったガラスを挟んで、僕たちは、もう、画面の向こうの他人じゃ、なかった。

― 終 ―


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